説明

安全制御装置、ロボット、システム、プログラム、及び、記録媒体

【課題】安全制御手段を内蔵したロボットと併用することによって、該安全制御手段を2重化することができ、また、該ロボットと別個に使用することができる安全制御装置を実現する。
【解決手段】安全制御装置2は、センサにより検出された外界の状態に応じて内部状態を遷移させるか、または、安全制御手段11bにより発行されたコマンドに応じて内部状態を安全制御手段11bと同期させるFPGA基板21であって、内部状態を安全制御手段11bと同期させるときに、センサにより検出された外界の状態が予め設定された特定の条件を満たしているか否かを判定し、満たしていないと判定した場合にはサーボ機構12への電力供給を断つFPGA基板21を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット、及び、ロボットと併用する安全制御装置に関する。また、それらの装置を含むシステム、コンピュータをそれらの装置として動作させるためのプログラム、及び、それらのプログラムを記録した記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
稼動領域を人間の存在領域と共有する次世代ロボットの開発が進められている。次世代ロボットの用途は多岐に渡り、産業用ロボットのみならず、掃除ロボット、警備ロボット、チャイルドケアロボット、インテリジェント車椅子などの実用化が期待されている。
【0003】
次世代ロボットが人間に危害を及ぼすリスクを軽減するために、安全制御装置が併用される。安全制御装置とは、危険状態(ロボットが人間に危害を及ぼし得る状態)にあることを検知したときに危険を回避するようロボットを制御する装置を指す。
【0004】
このような安全制御装置としては、例えば、特許文献1に記載のセーフティーコントローラが挙げられる。このセーフティーコントローラは、ロボットと作業者との間に設けられた侵入禁止領域にロボットまたは作業者が侵入したことを検知すると、作業者との衝突を回避するようロボットを停止または減速させる。
【0005】
また、次世代ロボットが人間に危害を及ぼすリスクを更に軽減するために、多重化された安全制御装置が併用される。多重化された安全制御装置とは、2以上の安全制御手段(危険状態にあることを検知したときに危険を回避するよう制御する手段)を備えた安全制御装置を指す。
【0006】
このような多重化された安全制御装置としては、例えば、ELAN社製のESALAN Safety Controllerが挙げられる。なお、2以上の安全制御手段を、ロボットに内蔵してもよい。このようなロボットとしては、例えば、KUKA社製の協調ロボットが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−283450(公開日:2007年11月 1日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来の構成には、以下のような問題があった。
【0009】
安全制御手段を安全制御装置に内蔵した場合、安全制御手段とロボットとの間の通信速度が、通信インタフェースの上限速度以下に制限されてしまう。また、安全制御手段とロボットとの間で同時に送受信可能な情報の種類が、通信インタフェースのチャンネル数以下に制限されてしまう。このため、上述したESALAN Safety Controllerのように、2つの安全制御手段を安全制御装置に内蔵する従来の構成においては、きめ細かな安全制御を行なうことが困難であるという問題があった。
【0010】
この問題は、上述した協調ロボットのように2つの安全制御手段をロボットに内蔵する構成を採用することによって解決することができる。しかしながら、このような構成を採用すると、2つの安全性制御手段をロボットと別個に使用することができず、安全性を確保する必要がなくなったときにこれら2つの安全制御手段が無駄になるという新たな問題が生じる。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、安全制御手段を内蔵したロボットと併用することによって、該安全制御手段を2重化することができ、また、該ロボットと別個に使用することができる安全制御装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る安全制御装置は、センサにより検出された外界の状態に応じて内部状態を遷移させ、内部状態が予め設定された特定の状態にあるときにサーボ機構への電力供給を絶つ第1の安全制御手段を備えたロボットと併用される安全制御装置において、上記センサにより検出された外界の状態に応じて内部状態を遷移させ、内部状態が予め設定された特定の状態にあるとき、及び、内部状態が上記第1の安全制御手段の内部状態と同期していないときに、上記サーボ機構への電力供給を絶つ第2の安全制御手段を備えている、ことを特徴としている。
【0013】
上記ロボットが備えている上記第1の安全制御手段は、上記センサにより検出された外界の状態に応じて内部状態を遷移させ、内部状態が予め設定された特定の状態(ロボットが人間に危害を及ぼし得る状態に対応する内部状態)にあるときにサーボ機構への電力供給を絶つ。したがって、上記第1の安全制御手段の不具合によって、外界の状態がロボットが人間に危害を及ぼし得る状態にあるにも関わらず、上記第1の安全制御手段の内部状態を上記特定の状態以外の状態に遷移させてしまうと、上記サーボ機構に電力が供給され続け、上記サーボ機構により引き起こされる上記ロボットの動作が人間に危害を及ぼすリスクが生じる。
【0014】
しかしながら、上記安全制御装置が備えている上記第2の安全制御手段は、内部状態上記第1の安全制御手段の内部状態と同期していないときに、サーボ機構への電力供給を断つ。このため、上記第1の安全制御手段の不具合によって、外界の状態がロボットが人間に危害を及ぼし得る状態にあるにも関わらず、上記第1の安全制御手段の内部状態を予め設定された特定の状態以外の状態に遷移させてしまっても、上記安全制御装置が備えている上記第2の安全制御手段が正常に動作していれば、上記サーボ機構により引き起こされるロボットの動作が人間に危害を及ぼすリスクを回避することができる。
【0015】
すなわち、上記安全制御装置を上記ロボットと併用することによって、上記ロボットが備えている上記第1の安全制御手段を2重化し、その耐性を向上させることができる。
【0016】
しかも、上記安全制御装置は、上記ロボットと別個に使用することができる。したがって、あるロボットが備えている安全制御手段を2重化する必要がなくなったら、他のロボットが備えている安全制御手段を2重化するために上記安全制御装置を使用することができる。
【0017】
本発明に係る安全制御装置においては、上記特定の条件として、上記第1の安全制御手段が内部状態を遷移させるための条件とは異なる条件が設定されている、ことが好ましい。
【0018】
例えば、上記特定の条件(上記第2の安全制御手段が上記サーボ機構への電力供給を遮断させるための条件)として、上記第1の安全制御手段が内部状態を遷移させるための条件より簡単または大まかな条件が設定されている場合、上記ロボットに内蔵された上記第1の安全制御性手段によって、より複雑またはきめ細かな安全制御を行い、上記ロボットに接続された上記第2の安全制御手段によって、より簡単または大まかな安全制御を行なうという、最適な機能分担を実現することができる。
【0019】
本発明に係る安全制御装置において、上記第2の安全制御手段は、当該第2の安全制御手段の内部状態を上記第1の安全制御手段の内部状態と同期させるときに加え、上記第1の安全制御手段から供給されるウォッチドッグ信号が一定期間検出されなかったときに、上記サーボ機構への電力供給を絶つ、ことが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、上記第1の安全制御手段が正常に動作しなくなったときに、上記ロボットが備えているサーボ機構への電力供給を絶つことができる。したがって、上記第1の安全制御手段が正常に動作していないことに起因して生じる、上記ロボットの動作が人間に危害を及ぼすリスクを回避することができる。
【0021】
上記課題を解決するために、本発明に係るロボットは、センサにより検出された外界の状態に応じて内部状態を遷移させ、内部状態が予め設定された特定の状態にあるときにサーボ機構への電力供給を絶つ第2の安全制御手段を備えた安全制御装置と併用される、上記サーボ機構を備えたロボットにおいて、上記センサにより検出された外界の状態に応じて内部状態を遷移させ、内部状態が予め設定された特定の状態にあるとき、及び、内部状態が上記第2の安全制御手段の内部状態と同期していないときに、サーボ機構への電力供給を絶つ第1の安全制御手段を備えている、ことを特徴としている。
【0022】
上記構成によれば、上記ロボットを上記安全制御装置とを併用することによって、上記ロボットが備えている上記第1の安全制御手段を2重化し、その耐性を向上させるという効果を奏する。しかも、上記安全制御装置は、上記ロボットと別個に使用することができる。
【0023】
上記課題を解決するために、本発明に係るシステムは、第1の安全制御手段を備えたロボットと、第2の安全制御手段を備えた安全制御装置とを含むシステムにおいて、上記第1の安全制御手段は、センサにより検出された外界の状態に応じて内部状態を遷移させ、内部状態が予め設定された特定の状態にあるとき、及び、内部状態が上記第2の安全制御手段の内部状態と同期していないときに、上記ロボットのサーボ機構への電力供給を絶つものであり、上記第2の安全制御手段は、上記センサにより検出された外界の状態に応じて内部状態を遷移させ、内部状態が予め設定された特定の状態にあるとき、及び、内部状態が上記第1の安全制御手段の内部状態と同期していないときに、上記サーボ機構への電力供給を断つものである、ことを特徴としている。
【0024】
上記構成によれば、上記ロボットを上記安全制御装置とを併用することによって、上記ロボットが備えている上記第1の安全制御手段を2重化し、その耐性を向上させるという効果を奏する。しかも、上記安全制御装置は、上記ロボットと別個に使用することができる。
【0025】
また、本発明に係る安全制御装置は、コンピュータによって実現してもよい。この場合、コンピュータを上記各手段として動作させることにより、上記安全制御装置をコンピュータにおいて実現するプログラム、および、そのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【0026】
また、本発明に係るロボットも、コンピュータによって実現してもよい。この場合、コンピュータを上記各手段として動作させることにより、上記ロボットをコンピュータにおいて実現するプログラム、および、そのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る安全制御装置は、センサにより検出された外界の状態に応じて内部状態を遷移させ、内部状態が予め設定された特定の状態にあるとき、及び、内部状態がロボットが備えている第1の安全制御手段の内部状態と同期していないときに、上記サーボ機構への電力供給を絶つ第2の安全制御手段を備えている。また、本発明に係るロボットは、センサにより検出された外界の状態に応じて内部状態を遷移させ、内部状態が予め設定された特定の状態にあるとき、及び、内部状態が安全制御装置が備えている第2の安全制御手段の内部状態と同期していないときに、サーボ機構への電力供給を絶つ第1の安全制御手段を備えている。
【0028】
このため、上記ロボットを上記安全制御装置とを併用することによって、上記ロボットが備えている上記第1の安全制御手段を2重化し、その耐性を向上させるという効果を奏する。しかも、上記安全制御装置は、上記ロボットと別個に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態を示すものであり、ロボットおよび安全制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態を示すものであり、ロボットおよび安全制御装置の動作を示す状態遷移図である。
【図3】本発明の実施形態を示すものであり、ロボットおよび安全制御装置をシステムの概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本実施形態に係るロボットおよび安全制御装置について、図面に基づいて説明すれば以下のとおりである。
【0031】
(システムの構成)
まず、本実施形態に係るロボット1および安全制御装置2を含むシステムの概要について、図3を参照して説明する。図3は、本実施形態に係るロボット1および安全制御装置2を含むシステムの概要を示す図である。
【0032】
本システムに含まれるロボット1は、必要なときに必要な部品を作業者5に供給することによって、組み立て作業を支援する産業用ロボットである。本システムにおいては、ロボット1の作業空間と作業者5の作業空間とが重複するため、共有空間6(ロボット1の作業空間と作業者5の作業空間との重複部分)においてロボット1と作業者5とが接触するリスクがある。
【0033】
そこで、本システムにおいては、ロボット1と作業者5とが同時に共有空間6に侵入したときにロボット1を停止させるという保護方策を採る。このような保護方策を採るために、本システムにおいては、共有空間6の作業者側およびロボット側の境界に設けられたライトカーテン7およびライトカーテン8を用いる。
【0034】
ライトカーテン7は、光源7aと、光源7aから発せられた光線を受光するセンサ7bとからなり、センサ7bの出力信号は、ロボット1および安全制御装置2に供給される。同様に、ロボット側のライトカーテン8は、光源8aと、光源8aから発せられた光線を受光するセンサ8bとからなり、センサ8bの出力信号はロボット1の制御部11および安全制御装置2に供給される。
【0035】
もう少し具体的に言うと、センサ7bは、作業者5が共有空間6内に侵入しているか否かを示す出力信号(例えば、作業者5が共有空間6内に侵入しているときに値1、そうでないときに値0をとる出力信号)を、ロボット1の制御部11および安全制御装置2に供給する。一方、センサ8bは、ロボット1が共有空間6内に侵入しているか否かを示す出力信号(例えば、ロボット1が共有空間6内に侵入しているときに値1、そうでないときに値0をとる出力信号)を、ロボット1の制御部11および安全制御装置2に供給する。
【0036】
後述するように、ロボット1の制御部11および安全制御装置2は、センサ7bおよび8bからの出力信号を参照して危険状態(ロボット1が共有空間6に侵入しており、かつ、作業者5が共有空間6内に侵入している状態)にあることを検知すると、ロボット1のサーボ機構12への電力供給を絶つように構成されている。これにより、共有空間6においてロボット1と作業者5とが接触するリスクを回避することができる。
【0037】
なお、本システムにおいては、ロボット1の状態を、ライトカーテン8によって検知しているが、ロボット1の状態を、ロボット1内に設けられた関節センサによって検知するようにしてもよい。また、本システムにおいては、作業者5の状態を、ライトカーテン7によって検知するようにしているが、作業者5が押すボタンにより検知するようにしてもよい。
【0038】
(ロボット1および安全制御装置2の構成)
次に、本実施形態に係るロボット1および安全制御装置2の構成について、図1を参照して説明する。図1は、ロボット1および安全制御装置2の構成を示すブロック図である。
【0039】
ロボット1は、図1に示したように、制御部11と、サーボ機構12と、電源部13と、通信インタフェース14および15とを備えている。また、制御部11は、通信インタフェース14を介して安全制御装置2と接続されており、また、通信インタフェース15を介してセンサ7bおよび8bと接続されている。
【0040】
ロボット1の制御部11は、記憶部(不図示)とCPU(不図示)とを備えており、記憶部から読み出した主制御プログラムの命令をCPUにて実行することによって、ロボット1のサーボ機構12を制御する主制御手段11aとして機能する。また、制御部11は、記憶部から読み出した安全制御プログラムの命令をCPUにて実行することによって、第1の安全制御手段11bとして機能する。なお、安全制御プログラムは、主制御プログラムに対するプラグインとなっている。安全制御手段11bの動作については、参照する図面を代えて後述する。
【0041】
一方、安全制御装置2は、図1に示したように、第2の安全制御手段として機能するFPGA基板(Field Programmable Gate Array)21と、電源部13からサーボ機構12へ電力を供給するか否かを切り替えるリレー基板(リレースイッチ)22と、通信インタフェース23および24とを備えている。また、FPGA基板21は、通信インターフェース23を介してロボット1の制御部11と接続されており、通信インタフェース24を介してセンサ7bおよび8bと接続されている。FPGA基板21の動作については、参照する図面を代えて後述する。
【0042】
(安全制御手段11bおよびFPGA基板21の動作)
次に、ロボット1の安全制御手段11b、および、安全制御装置2のFPGA基板21の動作について、図2を参照して説明する。図2は、ロボット1の安全制御手段11bの動作を示す状態遷移図である。
【0043】
安全制御手段11bは、起動処理手段11cと、状態監視手段11cとを含んでおり、内部状態を遷移させながら、そのときの内部状態に応じた動作を行なう。安全制御手段11bが取り得る内部状態は、図2に示したように、サーボ機構12に電力を供給しないサーボOFF状態S10と、サーボ機構12に電力を供給するサーボON状態S20とに大別される。そして、サーボOFF状態S10は、起動準備状態S11と、危険状態S12と、異常検知状態S13とを含み、サーボON状態20は、通常稼働状態S21と、ロボット侵入状態S22とを含む。なお、FPGA基板21も、内部状態を遷移させながら、そのときの内部状態に応じた動作を行なう。FPGA基板21が取り得る内部状態は、安全制御手段11bが取り得る内部状態と同一である。
【0044】
ロボット1の主制御手段11aは、サーボ機構12の動作を開始させる前に安全制御手段11bに起動許可を求める。主制御手段11aは、起動許可要求に対する応答として、起動処理手段11cから起動許可を得ると、サーボ機構12の動作を開始させる。
【0045】
安全制御手段11bの起動処理手段11cは、主制御手段11aから起動許可を求められると、センサ7bおよび8bの出力信号を参照し、ロボット1および作業者5が共有空間6に侵入しているか否かを判定する。そして、ロボット1も作業者5も共有空間6に侵入していないと判定した場合、(1)リレースイッチ22を導通状態に切り替え、(2)内部状態を起動準備状態S11から通常稼動状態S21へと遷移させ、(3)状態監視手段11cに状態監視の開始を指示し、(4)安全制御装置2に対して起動コマンドを発行する。
【0046】
一方、FPGA基板21の起動処理手段22aは、安全制御手段11bから起動コマンドが発行されると、センサ7bおよび8bの出力信号を参照し、ロボット1および作業者5が共有空間6に侵入しているか否かを判定する。そして、ロボット1も作業者5も共有空間6に侵入していないと判定した場合、(1)リレースイッチ22を導通状態に切り替え、(2)内部状態を起動準備状態S11から通常稼動状態S21へと遷移させ、(3)FPGA基板21の状態監視手段22bに状態監視の開始を指示し、(4)起動コマンドに対する応答として、内部状態を通常稼動状態S21に遷移させたことを安全制御手段11bに通知する。一方、ロボット1または作業者5が共有空間6に侵入していると判定した場合、上記の処理を行うことなく、(4’)起動コマンドに対する応答として、内部状態を通常稼動状態S21に遷移させなかったことを安全制御手段11bに通知する。
【0047】
安全制御手段11bの起動処理手段11cは、起動コマンドに対する応答として、FPGA基板21の内部状態を通常稼動状態S21に遷移させたことが通知されると、主制御手段11aに対して起動許可を与える。逆に、起動コマンドに対する応答として、FPGA基板21の内部状態を通常稼動状態S21に遷移させなかったことが通知されると、主制御手段11aに対して起動許可を与えずに、リレースイッチ22を遮断状態に切り替え、内部状態を異常検知状態S13に遷移させる。
【0048】
このような手順を踏むことにより、安全制御手段11bおよびFPGA基板21の少なくとも何れか一方が正常に動作している限り、ロボット1または作業者5が共有空間6に侵入しているにもかかわらずロボット1が動作を開始することはない。
【0049】
安全制御手段11bの状態監視手段11cは、起動処理手段11cから状態監視の開始を指示されると、センサ8bの出力信号の監視を開始する。そして、通常可能状態S21において、ロボット1が共有空間6に侵入したことを検知すると、内部状態を通常稼動状態S21からロボット侵入状態S22へと遷移させ、センサ7bおよびセンサ8bの出力信号の監視を開始する。ロボット侵入状態S22において、ロボット1が共有空間6から退去したことを検知すると、内部状態をロボット侵入状態S22から通常稼動状態S21へと遷移させ、センサ8bの出力信号の監視を再開する。一方、ロボット侵入状態S22において、作業者5が共有空間6に侵入したことを検知すると、リレースイッチ22を遮断状態に切り替え、内部状態をロボット侵入状態S22から危険状態S12へと遷移させる。
【0050】
FPGA基板21の状態監視手段22bも、安全制御手段11bの状態監視手段11cと同様に動作する。したがって、安全制御手段11bまたはFPGA基板21の何れか一方に不具合があっても、ロボット1と作業者5との両方が共有空間6に侵入すれば、リレースイッチ22が遮断状態となりロボット1のサーボ機構12が停止する。
【0051】
さらに、安全制御手段11bの状態監視手段11cは、内部状態をある状態(例えば、危険状態S22)に遷移させたときに、内部状態をその状態(例えば、危険状態S22)に遷移させたことを、FPGA基板21に通知する。また、FPGA基板21の状態監視手段22bは、内部状態をある状態(例えば、危険状態S22)に遷移させたときに、内部状態をその状態(例えば、危険状態S22)に遷移させたことを、安全制御手段11bに通知する。
【0052】
そして、安全制御手段11bの状態監視手段11cは、(自らの)内部状態をある状態(例えば、危険状態S22)に遷移させたときに、FPGA基板21からの通知に基づいてFPGA基板21の内部状態がその状態(例えば、危険状態S22)に遷移しているかを判定し、遷移していないと判定した場合には、リレースイッチ22を遮断状態に制御したうえ、内部状態を異常検知状態S13に遷移させる。また、FPGA基板21の状態監視手段22bは、(自らの)内部状態をある状態(例えば、危険状態S22)に遷移させたときに、FPGA基板21からの通知に基づいて、FPGA基板21の内部状態がその状態(例えば、危険状態S22)に遷移しているかを判定し、遷移していないと判定した場合には、リレースイッチ22を遮断状態に制御したうえ、内部状態を異常検知状態S13に遷移させる。このように、内部状態の遷移(例えば、危険状態S22への遷移)が安全制御手段11bとFPGA基板21との間で同期しているか否かを確認する構成を採用することによって、一方に不具合が生じた不具合を他方において検知することができる。
【0053】
なお、安全制御手段11bを、FPGA基板21にウォッチドッグ信号を送信するように構成し、FPGA基板21を、ウォッチドッグ信号を正常に受信できなかった(ウォッチドッグ信号を一定期間検出できなかった)ときに、リレースイッチ22を遮断状態に切り替え、内部状態を異常検知状態S13に遷移させるように構成してもよい。同様に、FPGA基板21を、安全制御装置11bにウォッチドッグ信号を送信するように構成し、安全制御手段11bを、ウォッチドッグ信号を正常に受信できなかったときに、リレースイッチ22を遮断状態に切り替え、内部状態を異常検知状態S13に遷移させるように構成してもよい。
【0054】
また、緊急停止ボタンを設け、安全制御手段11bおよびFPGA基板21を、通常稼動状態S21において緊急停止ボタンが押下されたときに、リレースイッチ22を遮断状態に切り替え、内部状態を起動準備状態S11に遷移させるように構成してもよい。
【0055】
また、FPGA基板21が、センサ7bおよび8bによって検出された状態が危険状態であるか否かを判定する判定基準は、安全制御手段11bが、外部センサ3aによって検出された状態が危険状態であるか否かを判定する判定基準と同一であってもよいし、異なっていてもよい。たとえば、FPGA基板21においては、より簡単なアルゴリズムで、より大まかな判定をし、安全制御手段11bにおいては、より複雑なアルゴリズムで、よりきめ細かな判定をすることなどが考えられる。また、FPGA基板21が、センサ7bおよび8bによって検出された状態が危険状態であるか否かを判定する時間間隔を、安全制御手段11bが、センサ7bおよび8bによって検出された状態が危険状態であるか否かを判定する時間間隔よりも長くすることによって、FPGA基板21においては、より大まかな判定をし、安全制御手段11bにおいては、よりきめ細かな判定をすることなども考えられる。
【0056】
また、本実施形態において取り得る内部状態は、図3に示したシステムに即して定めたものであり、これに限定されるわけではない。すなわち、取り得る内部状態をシステムに即して適宜変更したものも本発明の範疇に含まれる。
【0057】
(プログラムおよび記録媒体)
最後に、制御部11に含まれている主制御手段11aおよび安全制御手段11bは、上述したとおり、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよいし、そうではなくて、ハードウェアロジックによって構成してもよい。また、安全制御装置2の安全制御機能は、上述したとおり、FPGA基板21に書き込んだハードウェアロジックとして構成してもよいし、そうではなくて、CPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0058】
すなわち、主制御手段11aおよび安全制御手段11bは、各機能を実現するプログラムの命令を実行するMPUなどのCPU、このプログラムを格納したROM(Read Only Memory)、上記プログラムを実行可能な形式に展開するRAM(Random Access Memory)、および、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)を備えている。
【0059】
そして、本発明の目的は、主制御手段11aおよび安全制御手段11bのプログラムメモリに固定的に担持されている場合に限らず、上記プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、または、ソースプログラム)を記録した記録媒体を光ディスクドライブ100に供給し、光ディスクドライブ100が上記記録媒体に記録されている上記プログラムコードを読み出して実行することによっても、達成可能である。
【0060】
上記記録媒体は、特定の構造または種類のものに限定されない。すなわちこの記録媒体は、たとえば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などとすることができる。
【0061】
また、主制御手段11aおよび安全制御手段11b(または光ディスクドライブ100)を通信ネットワークと接続可能に構成しても、本発明の目的を達成できる。この場合、上記のプログラムコードを、通信ネットワークを介して主制御手段11aおよび安全制御手段11bに供給する。この通信ネットワークは主制御手段11aおよび安全制御手段11bにプログラムコードを供給できるものであればよく、特定の種類または形態に限定されない。たとえばインターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(Virtual Private Network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等であればよい。
【0062】
この通信ネットワークを構成する伝送媒体も、プログラムコードを伝送可能な任意の媒体であればよく、特定の構成または種類のものに限定されない。たとえばIEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【0063】
安全制御装置2が有している安全制御機能についても同様である。
【0064】
(付記事項)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、ロボット、および、ロボットと併用される安全制御装置一般に適用することができる。とくに、稼動領域を人間の存在領域と共有する次世代ロボット、および、次世代ロボットと併用される安全制御装置に取り分け好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 ロボット
11 PC(第1の安全制御手段)
12 サーボ機構
13 電源部
14、15 通信インタフェース
2 安全制御装置
21 FPGA基板(第2の安全制御手段)
22 リレー基板
23、24 通信インタフェース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサにより検出された外界の状態に応じて内部状態を遷移させ、内部状態が予め設定された特定の状態にあるときにサーボ機構への電力供給を絶つ第1の安全制御手段を備えたロボットと併用される安全制御装置において、
上記センサにより検出された外界の状態に応じて内部状態を遷移させ、内部状態が予め設定された特定の状態にあるとき、及び、内部状態が上記第1の安全制御手段の内部状態と同期していないときに、上記サーボ機構への電力供給を絶つ第2の安全制御手段を備えている、ことを特徴とする安全制御装置。
【請求項2】
上記特定の条件として、上記第1の安全制御手段が内部状態を遷移させるための条件とは異なる条件が設定されている、ことを特徴とする請求項1に記載の安全制御装置。
【請求項3】
上記第2の安全制御手段は、上記第1の安全制御手段から供給されるウォッチドッグ信号が一定期間検出されなかったときにも、上記サーボ機構への電力供給を絶つことを特徴とする請求項1または2に記載の安全制御装置。
【請求項4】
センサにより検出された外界の状態に応じて内部状態を遷移させ、内部状態が予め設定された特定の状態にあるときにサーボ機構への電力供給を絶つ第2の安全制御手段を備えた安全制御装置と併用される、上記サーボ機構を備えたロボットにおいて、
上記センサにより検出された外界の状態に応じて内部状態を遷移させ、内部状態が予め設定された特定の状態にあるとき、及び、内部状態が上記第2の安全制御手段の内部状態と同期していないときに、上記サーボ機構への電力供給を絶つ第1の安全制御手段を備えている、ことを特徴とするロボット。
【請求項5】
第1の安全制御手段を備えたロボットと、第2の安全制御手段を備えた安全制御装置とを含むシステムにおいて、
上記第1の安全制御手段は、センサにより検出された外界の状態に応じて内部状態を遷移させ、内部状態が予め設定された特定の状態にあるとき、及び、内部状態が上記第2の安全制御手段の内部状態と同期していないときに、上記ロボットのサーボ機構への電力供給を絶つものであり、
上記第2の安全制御手段は、上記センサにより検出された外界の状態に応じて内部状態を遷移させ、内部状態が予め設定された特定の状態にあるとき、及び、内部状態が上記第1の安全制御手段の内部状態と同期していないときに、上記サーボ機構への電力供給を断つものである、ことを特徴とするシステム。
【請求項6】
コンピュータを請求項1から3までの何れか1項に記載の安全制御装置が備えている上記第2の安全制御手段として機能させるプログラム。
【請求項7】
コンピュータを請求項4に記載のロボットが備えている上記第1の安全制御手段として機能させるためのプログラム。
【請求項8】
請求項6または7に記載のプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−234495(P2010−234495A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86707(P2009−86707)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(506186994)ゼネラルロボティックス株式会社 (1)
【Fターム(参考)】