説明

完全性監視付きハイブリッドINS/GNSSシステムおよび完全性監視方法

本発明は、慣性装置と衛星測位受信機とのハイブリッド化システムから得られる位置および速度情報の完全性の監視に関する。本発明は、より詳細には、閉ループにおいてハイブリッド化したINS/GNSSシステム(「慣性航法システム」および「全地球的航法衛星システム」を表す)として当業者に知られる航法装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慣性装置と衛星測位受信機とのハイブリッド化システムから得られる位置および速度情報の完全性の監視に関する。本発明は、より詳細には、閉ループにおいてハイブリッド化したINS/GNSSシステム(「慣性航法システム」および「全地球的航法衛星システム」を表す)として当該技術分野で公知の航法装置に関する。
【背景技術】
【0002】
慣性装置は、演算用電子装置に関連する慣性センサ(ジャイロセンサおよび加速度センサ)のセットで構成される。仮想プラットフォームPFVと呼ばれる計算プラットフォームにより、正確な参照フレーム(LGT(Local Geographic Trihedron)と表記されることが多い)におけるキャリアの位置および速度情報が供給される。仮想プラットフォームPFVは、各慣性センサから得たデータの予測および統合を可能にする。慣性装置が提供する情報は、短期的には正確だが、長期的には(センサの欠陥の影響により)ずれていく。慣性装置のコストのかなりの割合が、センサの欠陥の制御に注ぎ込まれている。
【0003】
衛星測位受信機は、キャリアから可視の非静止衛星により送信された信号に基づく三角測量によりキャリアの速度および位置情報を提供する。フィックスを得るためには測位システムの最低でも4つの衛星が受信機から直接見えなければならないため、提供される情報は一時的に途絶えることがある。前記情報は、さらに、三角測量の基となる衛星群のジオメトリによって精度が変動し、また、送信パワーが低い距離を隔てた衛星から発せられる低レベルの信号の受信に依存するためノイズが多い。しかし、非静止衛星の軌道における位置が長期にわたって正確に分かっているため、長期的なずれが生じることはない。ノイズおよび誤差は、衛星システム、受信機、または衛星トランスミッタとGNSS信号受信機との間の信号伝播にリンクし得る。さらに、衛星に影響を与える故障の結果、衛星からのデータは誤っている可能性がある。GNSS受信機から得られる位置を誤ったものにしないため、これらの変化が生じたデータには、タグ付けを行わなければならない。
【0004】
衛星の故障を未然に防ぎGNSS測定の完全性を確保するため、衛星測位受信機にRAIM(「受信機自律型完全性監視」を意味する)と称される精度および可用性推定システムを装備することが知られている。RAIMは、三角測量中に使用される衛星群のジオメトリおよび冗長性、ならびに既知の衛星の軌跡から推測されるこのジオメトリの短期間における予測可能な発展に基づく。しかし、RAIMのアルゴリズムは、純粋に衛星位置決めシステムにリンクしており、ハイブリッド(INS/GNSS)システムから得られる位置フィックスの監視には適用できず、所与の時間において特定種類の故障を検出できるのみである。
【0005】
ハイブリッド化には、慣性装置により提供された位置および速度情報と衛星測位受信機により提供された測定値とを数学的に組み合わせることにより、両システムを利用した位置および速度情報を得ることが含まれる。このため、GNSSシステムにより提供される測定値の精度により慣性装置のずれを制御可能であり、慣性装置による測定値にノイズが少ないためGNSS受信機の測定値におけるノイズを除去可能である。この組み合わせには、多くの場合、カルマンフィルタ法が用いられる。
【0006】
カルマンフィルタ法は、「発展方程式」と称される方程式により物理システムの状態の発展をその環境内でモデル化(事前推定)し、「観測方程式」と称される方程式により当該物理システムの状態と外部センサの測定値との間の依存関係をモデル化する可能性に基づき、フィルタの状態を再調整(事後推定)する。カルマンフィルタにおいては、有効な測定すなわち「測定ベクトル」により、システムの状態の事後推定が可能となり、この推定値は、この推定において生じた誤差の共分散を最小化するという意味において最適なものである。フィルタの推定部は、有効な測定ベクトルとその事前予測との間の偏差を用いてシステムの状態ベクトルの事後推定値を生成することにより、観測残差と呼ばれる修正項を生成する。カルマンフィルタの利得ベクトルにより乗算後、この観測残差をシステム状態ベクトルの事前推定に適用することにより、最適な事後推定が得られる。
【0007】
ハイブリッド化INS/GNSSシステムの場合においては、カルマンフィルタは、慣性装置により提供される位置および速度フィックスと衛星測位受信機により提供される位置測定値とを受信し、慣性装置の誤差の発展をモデル化し、これらの誤差の事後推定を供給し、これを慣性装置の位置および速度フィックスの修正に供する。
【0008】
慣性装置の仮想プラットフォームPFVの出力に出現する慣性センサの欠陥に起因する位置および速度の誤差の推定は、カルマンフィルタにより行われる。カルマンフィルタによる推定による誤差の修正は、仮想プラットフォームPFVの入力(閉ループアーキテクチャ)または出力(開ループアーキテクチャ)において行われる。
【0009】
慣性装置のセンサ、ジャイロ計、加速度計および気圧計モジュール(気圧−慣性装置の場合)の欠陥がさほど重大でないときは、仮想プラットフォームPFVの入力において修正を適用する必要はない。システムのモデル化(システムの発展を支配する方程式の線形化)は、フィルタにおいて依然有効である。カルマンフィルタにおいて計算された慣性装置の誤差の事後推定は、慣性装置により提供された位置および速度情報からカルマンフィルタにより計算されたそれぞれの推定値を推測することにより、キャリアの位置および速度の最適な推定値を規定することにのみ使用される。開ループと称されるこのようなハイブリッド化では、仮想プラットフォームPFVにより行われる計算に影響はない。
【0010】
慣性装置の欠陥が重大であるか、または航行時間が長いときは、カルマンフィルタにおいて統合された慣性モデルの発展を支配する方程式の線形化は、もはや無効である。従って、線形領域にとどまるため、仮想プラットフォームPFVに修正を施さなければならない。カルマンフィルタにおいて計算された気圧−慣性装置の誤差の事後推定は、キャリアの位置および速度の最適な推定値の規定だけでなく、仮想プラットフォームPFVにおける慣性装置の再調整にも供せられる。「閉ループ」と称されるこのようなハイブリッド化では、ハイブリッド化フィルタの結果が、仮想プラットフォームが自らの計算を行う際に用いられる。
【0011】
ハイブリッド化は、異なる種類のGNSS情報を観測することによっても行うことができる。GNSS受信機により決定されたキャリアの位置および速度については、ルースハイブリッド化(loose hybridization)、すなわち地上軸におけるハイブリッド化を行い、または、GNSS受信機により上流で抽出された情報、すなわち疑似距離および疑似速度(伝播時間の測定および衛星により受信機に向けて送信された信号のドップラー効果から直接得られる数値)については、タイトハイブリッド化(tight hybridization)、すなわち衛星軸におけるハイブリッド化を行う。
【0012】
GNSS受信機に決定されたフィックスを用いて慣性装置から得られた情報を再調整する閉ループINS/GNSSシステムでは、衛星により提供される情報に影響を与える欠陥に特に注意を払う必要がある。というのも、そのような欠陥を受信する受信機がそれらを慣性装置に伝播し、前記装置の再調整が不正確になるためである。この問題の発生は、INS/GPSハイブリッドフィックスの完全性の確保に当たり、特に決定的な要素である。以下では、閉ループにおいてタイトハイブリッド化したシステムを対象とする。
【0013】
航空アプリケーションなどの完全性が不可欠なアプリケーションにおいて位置測定の完全性を定量化するには、位置測定の「保護半径」と呼ばれるパラメータが使用される。保護半径は、所与の誤差発生確率についての最大の位置誤差に対応する。すなわち、航法システムに警報が発せられることなく位置誤差が提示された保護半径を超える確率は、この所与の確率値未満となる。計算は、2種類の誤差、すなわち通常の測定誤差と、衛星群の動作異常、例えば衛星の故障により引き起こされる誤差とに基づいて行われる。
【0014】
測位システムの保護半径の値は、測位システムの購入を望む購入者により指定される重要な値である。保護半径の値の評価は、一般に、GNSS測定値の精度および慣性センサの挙動の統計的特性を用いる確率計算から得られる。これらの計算は公開され、GNSS衛星群のすべての場合、地球上で測位システムが取り得るすべての位置、そして測位システムがたどり得るすべての軌跡についてシミュレーションを可能にしている。これらのシミュレーションの結果、提案されている測位システムにより保証される保護半径特性を購入者に提供することが可能になる。通常、これらの特性は、利用可能性100%の保護半径の値、または要求される保護半径値についての利用不能期間の形式で表わされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述の既知のソリューションの欠点を軽減するものである。本発明の目的は、すべての被追跡可視衛星から信号を受信するカルマンフィルタにより供給されるハイブリッド修正を用いて位置測定の精度を向上させることである。
【0016】
また、本発明の目的は、どこでも、いずれの軌跡についても、いずれの瞬間においても、保護半径値の計算を可能にする公式を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的のため、本発明の主題は、ハイブリッドシステムであって:
−気圧高度MBAの測定値を供給する気圧計モジュールBARO,30と;
−角度増分Δθおよび速度増分ΔVを供給する慣性測定ユニットUMI,20と;
−角度増分Δθおよび速度増分ΔVを受信するとともに、ハイブリッド位置およびハイブリッド速度をそれぞれ構成する慣性位置および速度フィックスPPVIを生成する仮想プラットフォームPFV,60と;
−N個の被追跡可視衛星群に基づいて動作するとともに、これらの衛星により送信された信号の生の測定値MB(iは衛星の指標を示し、1〜Nの値である)を生成する衛星測位受信機GNSS,10と;
−慣性位置および速度フィックスPPVI、気圧高度MBAの測定値、ならびにN個の衛星により送信された信号の生の測定値MBを受信するカルマンハイブリッド化フィルタMKF,40であって、前記フィルタは:
−慣性位置および速度フィックスPPVIと生の測定値MBとの間の偏差を観測することにより得られる、ハイブリッドシステムの誤差に対応する状態ベクトルVEの推定を含むハイブリッド修正HYC、および
−状態ベクトルVEの推定において生じた誤差の分散/共分散マトリクスMHYP
を供給するカルマンハイブリッド化フィルタMKF,40と;
−慣性位置および速度フィックスPPVI、気圧高度MBAの測定値、ならびに指標iの衛星を除く被追跡衛星により送信された信号の生の測定値MBを各々受信するN個の二次フィルタKSF,50を含むバンクであって、二次フィルタKSFは:
−慣性位置および速度フィックスPPVIと衛星iを除く被追跡衛星により送信された信号の生の測定値(SPP)との間の偏差を観測することにより計算される、ハイブリッドシステムの誤差に対応する状態ベクトルEVEの推定、および
−状態ベクトルEVEの推定において生じた誤差の二次分散/共分散マトリクスP
を含むハイブリッドパラメータSHYPを供給するバンクと;
−ハイブリッドパラメータSHYPおよび分散/共分散マトリクスMHYPを受信し、ハイブリッド位置に関連する水平保護半径Rを決定し、位置に関する状態ベクトルEVEの推定の成分が検出閾値THよりも大きいときは、二次フィルタKSFの故障について警報を発し、オプションでN個の被追跡可視衛星から故障した衛星を識別する計算モジュールCAL,70と;を備えるハイブリッドシステムにおいて、
二次フィルタKSFおよび仮想プラットフォームPFVがさらに、ハイブリッド修正HYCを受信することを特徴とする、ハイブリッドシステムである。
【0018】
また、本発明は、請求項1または2に記載のハイブリッドシステムの仮想プラットフォームPFV,60により供給されるハイブリッド位置の完全性を監視する方法に関し、本方法は水平保護半径RPを決定し、本方法はハイブリッドシステムの計算モジュールCAL,70により実施され、水平保護半径RPを決定するステップが:
−生の測定値MBのうちの1つが誤っているという仮定Hの下で補助水平保護半径RPH1を決定するステップと;
−生の測定値MBiのうちのいずれも誤っていないという仮定Hの下で補助水平保護半径RPH0を決定するステップと;
−水平補助保護半径RPH0およびRPH1のうちの最大のものとして水平保護半径RPを決定するステップと;を含む計算ステップを含む方法において、
補助水平保護半径RPH0およびRPH1を決定するステップが、水平平面において信頼楕円を内包する円の半径を決定するステップに基づいており、信頼楕円が、分散/共分散マトリクスおよび求める確率値に基づいて決定されることを特徴とする。
【0019】
本発明の他の特徴および利点は、非限定的な例示により下記の添付図面を参照してなされる後続の詳細な説明を読むことにより明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来技術による閉ループおよびタイトハイブリッド化に基づくハイブリッドシステムを概略的に示す。
【図2】本発明による閉ループおよびタイトハイブリッド化に基づくハイブリッドシステムを概略的に示す。
【図3】信頼楕円および楕円を内包する円を示し、本発明による情報の完全性を監視する方法がこの円の半径を用いる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
各図面を通じて、同一の要素には同一の参照符号を付す。
【0022】
図1は、従来技術によるハイブリッドシステムを示す。このハイブリッドシステムは、以下を備える。すなわち:
−N個の被追跡可視衛星群から信号を受信する衛星測位受信機GNSS,10と;
−角度増分Δθおよび速度増分ΔVを供給する慣性測定ユニットUMI,20と;
−気圧高度MBAの測定値を供給する気圧計モジュールBARO,30と;
−カルマンハイブリッド化フィルタMKF,40と;
−N個の二次フィルタKSF,50を含むバンクと;
−角度増分Δθおよび速度増分ΔVを受信する仮想プラットフォームPFV,60と;
−計算モジュールCAL,70と;を備える。
【0023】
慣性測定ユニットUMIは、ジャイロ計および加速度計(図示せず)を備える。ジャイロ計が角度増分Δθを供給し、加速度計が速度増分ΔVを供給する。
【0024】
仮想プラットフォームPFVは、気圧高度MBAの測定値を受信する。仮想プラットフォームPFVは、ハイブリッド位置およびハイブリッド速度をそれぞれ構成する慣性位置および速度フィックスPPVIを生成する。プラットフォームPFVは、気圧高度の測定値を用いて、垂直軸に沿ったハイブリッド位置のずれを回避する。
【0025】
衛星測位受信機GNSSは、衛星により送信される信号の生の測定値MB(iは衛星の指標を示し、1〜Nの値である)を供給する。
【0026】
カルマンハイブリッド化フィルタMKFは、N個の生の測定値MBのセットを受信する。このN個の生の測定値のセットをMPPVと示す。
【0027】
二次カルマンフィルタKSFは、N−1個の信号の生の測定値MBを受信する。N−1個の信号は、指標iの衛星を除く被追跡衛星により生成されたものである。このN−1個の信号の生の測定値MBのセットをSPPと示す。
【0028】
ハイブリッド化フィルタMKFおよび二次フィルタKSFは、慣性位置および速度フィックスPPVIを受信する。
【0029】
ハイブリッド化フィルタMKFは、慣性位置PPVIにおいて生じた誤差を推定し、以下を生成する。すなわち:
−慣性位置および速度フィックスPPVIと対応する生の測定値MBとの間の偏差を観測することにより得られる、ハイブリッドシステムの誤差に対応する状態ベクトルVEと;
−状態ベクトルVEの推定において生じた誤差の分散/共分散マトリクスMHYPと;を生成する。
【0030】
二次フィルタKSFは、以下を含むハイブリッドパラメータSHYPを生成する。すなわち:
−慣性位置および速度フィックスPPVIと生の測定値SPPのセットとの間の偏差を観測するハイブリッドシステムの誤差に対応する状態ベクトルEVEの推定値と;
−状態ベクトルEVEの推定において生じた誤差の二次分散/共分散マトリクスPと;を含むものである。
【0031】
ハイブリッドシステムは、慣性位置PPVIと状態ベクトルVEとの間の差異で構成されるハイブリッド出力SHを供給する。
【0032】
計算モジュールCALは、ハイブリッドパラメータSHYPおよび分散/共分散マトリクスMHYPを受信し、保護半径値RPを決定する。
【0033】
既に述べたように、保護半径は、データの完全性の確保が不可欠な特定のアプリケーションにおいては重要な測定値である。所定の不完全確率Pniについて、測定値の保護半径RPは、航法システムに警報が発せられない範囲において、計算値と実際の測定数値との間の偏差の上限であり、実際の値の計算値からの差違がRPを超える確率がPni未満である、ということを思い出されたい。従って、別の言い方をすれば、実際の値が測定値を中心とする半径RPの円の外側にある確率は最大でPniである、または、保護半径の決定において誤りがある確率は最大でPniである。
【0034】
この保護半径は、該当する変数の標準偏差に基づいて計算する。保護半径は、状態ベクトルの各成分に適用されるが、実際には、位置変数を対象とする。より具体的には、高度については垂直保護半径、経度および緯度に関する位置については水平保護半径を計算し、これらの半径は、必ずしも同じ半径を有さず、同じ方法で使用しなくてもよい。
【0035】
水平保護半径の計算原理を以下で説明する。
【0036】
保護半径は、一般に、計算後、アプリケーションの関数として定められた閾値HALと比較され、閾値を超えた場合は、位置測定が十分に信頼できるものと考えられないか、またはアプリケーションの文脈においては利用できないことを示す警告が発せられる。
【0037】
指標iの衛星が故障したことを計算モジュールCALが識別する場合、二次フィルタKSFをハイブリッド化フィルタMKFの代替に用いるのが有益である。
【0038】
保護半径RPH0は、いずれの衛星にも故障がない状態で評価したもので、この仮定を共通してHと示す。「故障」という用語は、通常の信号の様相を呈するが異常で位置誤差を招く信号を衛星が送信する異常な状況を意味するものと理解されたい。
【0039】
保護半径RPH0は、測定された数値の分散と、この誤差が保護半径を超える確率Pniとに直接リンクしている。分散は、測定された数値にリンクした標準偏差σの平方である。従って、測定された位置の分散は、測定された数値に対応する分散/共分散マトリクスPの対角線の係数である。標準偏差σは、この分散の平方根であるため、ハイブリッド化フィルタのマトリクスPから推測される。
【0040】
従来技術によるハイブリッドシステムでは、測定の瞬間における分散/共分散マトリクスPの係数に基づいて保護半径RPH0が計算される。衛星の構成が発展すると、保護半径RPH0の値が同時に更新される。可視衛星群から衛星が消えると、保護半径RPH0は漸次品質低下するのみである。逆に新たな衛星が出現すると、保護半径は即座に減少し、非常に有益である。
【0041】
また、衛星の故障のリスクを考慮した保護半径RPH1を計算することも可能で、この仮定を共通してHと示す。この目的のため、受信機は「最大分離」として周知の手続を使用する。この場合、受信機は、既に説明したように動作するカルマンハイブリッド化フィルタMKFとN個の二次フィルタとを備え、Nは同時に見え得る衛星数である。N個の二次フィルタは、カルマンハイブリッド化フィルタMKFと並列に、同じ原理により動作する。ただし、ランクiの二次フィルタは、すべての衛星の信号を受信するが、ランクiの衛星から生じたものを除く。
【0042】
図2は、本発明による閉ループおよびタイトハイブリッド化に基づくハイブリッドシステムを示す。
【0043】
従来技術のハイブリッドシステムとの第1の相違点は、本ハイブリッドシステムが気圧測定値MBAを考慮しており、本システムのハイブリッド出力が仮想プラットフォームPFVにより供給される慣性位置PPVIに等しいという点である。
【0044】
本発明によれば、気圧測定値MBAは、ハイブリッド化フィルタおよび二次フィルタKSFにより受信される。
【0045】
これにより、垂直方向に沿った位置のスレービング(slaving)がカルマンフィルタにより直接行われるため、従来技術の場合のように、カルマンフィルタから独立したスレービングを展開する必要はない。
【0046】
従来技術のハイブリッドシステムとの第2の相違点は、ハイブリッド化フィルタMKFが状態ベクトルVEの推定を含むハイブリッド修正HYCを生成することである。ハイブリッド修正HYCは、仮想プラットフォームおよび二次フィルタSKFに供給される。ゆえに、プラットフォームPFVにより生成された慣性位置および速度フィックスPPVIが、直接、ハイブリッド位置およびハイブリッド速度を構成し、このため状態ベクトルEVおよびEVEの各成分の値はゼロに近くなる。
【0047】
第3の相違点は、計算モジュールCALによる保護半径の計算方法である。計算原理は、信頼楕円の評価に基づく。
【0048】
平均値がゼロ、標準偏差がそれぞれσおよびσ、相関係数がρである2つのガウス変数X1およびX2について検討する。例えば、X1およびX2は、緯度および経度として表される位置誤差に対応する。X1およびX2の同時確率密度の一定値に対応し、R0に等しい平面X1,X2の定義域は、次の方程式の楕円となる。
【数1】

【0049】
楕円の面積が確率Pbに対応することが所望される、すなわち位置誤差が楕円内である確率Pbを得ることが所望される場合は、次の関係式を満たす必要がある。
【数2】

【0050】
X1およびX2が、例えば衛星群により生成された信号の測定値と慣性装置のデータとのハイブリッド化により、決定された水平位置誤差に対応する場合は、求める確率値Pbが定められ、そしてX1およびX2に関連するディメンション2*2の分散/共分散マトリクスが得られると即座に、信頼楕円が十分に定義される。実際、Pがこれらの2つの変数をリンクする分散/共分散マトリクスであれば、σおよびσはマトリクスPの対角係数であり、ρは非対角係数に等しくなる。
【0051】
図3は、保護半径を計算する方法に用いる信頼楕円を示す。
【0052】
=A+Bであるような半径Rの円は、次の条件が満たされる場合、信頼楕円を内包する。
【数3】

【0053】
従って、求める確率値Pbおよびこれらの変数に対応するディメンション2×2の分散/共分散マトリクスが得られると即座に、上記の決定論的数式に基づいて2つの変数、例えばハイブリッド位置についての保護半径が決定可能となる。
【0054】
補助水平保護半径RPH1の決定は、所望の誤警報確率値τおよび所望の検出ミス確率値τに基づいて行うのが有益である。
【0055】
補助水平保護半径RPH0の決定は、所望の検出ミス確率値τおよび検出されない衛星欠陥の発生確率値τに基づいて行うのが有益である。
【0056】
補助マトリクスPS=P−MHYPからディメンション2×2の分散/共分散マトリクスPEiが抽出され、水平位置に対応するマトリクスPSから軸が抽出され、仮定Hの下で補助水平保護半径RPH1を決定するステップが、以下のステップを含むことを特徴とするのが有益である。すなわち:
−P01=1−τ/Nを決定するステップと;
−値P01およびマトリクスPEiに基づいてテスト閾値THを決定するステップと;
−P02=1−τを決定するステップと;
−マトリクスPEおよび確率P02に基づいて決定された楕円を内包する円の半径に等しいものとして補助保護半径dの値を決定するステップと;
−iが1〜Nのすべての値である場合の(TH+d)の最大値として半径値RPH1を決定するステップと;を含むことを特徴とするのが有益である。
【0057】
分散/共分散マトリクスMHYPからディメンション2×2の分散/共分散マトリクスPが抽出され、水平位置に対応するマトリクスMHYPから軸が抽出され、仮定Hの下で補助水平保護半径RPH0を決定するステップが、以下のステップを含むことを特徴とするのが有益である。すなわち:
−P03=1−τ.τを決定するステップと;
−マトリクスPおよび確率P03に基づいて決定された楕円を内包する円の半径に等しいものとして半径値RPH0を決定するステップと;を含むことを特徴とするのが有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッドシステムであって:
−気圧高度MBAの測定値を供給する気圧計モジュールBARO(30)と;
−角度増分Δθおよび速度増分ΔVを供給する慣性測定ユニットUMI(20)と;
−前記角度増分Δθおよび前記速度増分ΔVを受信するとともに、ハイブリッド位置およびハイブリッド速度をそれぞれ構成する慣性位置および速度フィックスPPVIを生成する仮想プラットフォームPFV(60)と;
−N個の被追跡可視衛星群に基づいて動作するとともに、これらの衛星により送信された信号の生の測定値MB(iは衛星の指標を示し、1〜Nの値である)を生成する衛星測位受信機GNSS(10)と;
−前記慣性位置および速度フィックスPPVI、前記気圧高度MBAの測定値、ならびに前記N個の衛星により送信された前記信号の前記生の測定値MBを受信するカルマンハイブリッド化フィルタMKF(40)であって、前記フィルタは:
−前記慣性位置および速度フィックスPPVIと前記生の測定値MBとの間の偏差を観測することにより得られる、前記ハイブリッドシステムの誤差に対応する状態ベクトルVEの推定を含むハイブリッド修正HYC、および
−前記状態ベクトルVEの前記推定において生じた誤差の分散/共分散マトリクスMHYP
を供給するカルマンハイブリッド化フィルタMKF(40)と;
−前記慣性位置および速度フィックスPPVI、前記気圧高度MBAの測定値、ならびに指標iの衛星を除く前記被追跡衛星により送信された前記信号の前記生の測定値MBを各々受信するN個の二次フィルタKSF(50)を含むバンクであって、前記二次フィルタKSFは:
−前記慣性位置および速度フィックスPPVIと衛星iを除く前記被追跡衛星により送信された前記信号の前記生の測定値SPPとの間の偏差を観測することにより計算される、前記ハイブリッドシステムの誤差に対応する状態ベクトルEVEの推定、および
−前記状態ベクトルEVEの前記推定において生じた誤差の二次分散/共分散マトリクスP
を含むハイブリッドパラメータSHYPを供給するバンクと;
−前記ハイブリッドパラメータSHYPおよび前記分散/共分散マトリクスMHYPを受信し、前記ハイブリッド位置に関連する水平保護半径Rを決定し、前記位置に関する前記状態ベクトルEVEの前記推定の成分が検出閾値THよりも大きいときは、二次フィルタKSFの故障について警報を発し、オプションで前記N個の被追跡可視衛星から故障した衛星を識別する計算モジュールCAL(70)と;を備えるハイブリッドシステムにおいて、
前記二次フィルタKSFおよび前記仮想プラットフォームPFVがさらに、前記ハイブリッド修正HYCを受信することを特徴とする、ハイブリッドシステム。
【請求項2】
指標iの衛星が故障したことを前記計算モジュールCAL(70)が識別する場合、前記二次フィルタKSF(50)を前記カルマンフィルタMKF(40)の代替に用いることを特徴とする、請求項1,0に記載のシステム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のハイブリッドシステムの仮想プラットフォームPFV(60)により供給されるハイブリッド位置の完全性を監視する方法であって、前記方法は水平保護半径RPを決定し、前記方法は前記ハイブリッドシステムの前記計算モジュールCAL(70)により実施され、前記水平保護半径RPを決定するステップが:
−前記生の測定値MBのうちの1つが誤っているという仮定Hの下で補助水平保護半径RPH1を決定するステップと;
−前記生の測定値MBのうちのいずれも誤っていないという仮定Hの下で補助水平保護半径RPH0を決定するステップと;
−前記水平補助保護半径RPH0およびRPH1のうちの最大値として前記水平保護半径RPを決定するステップと;を含む計算ステップを含む方法において、
前記補助水平保護半径RPH0およびRPH1を決定するステップが、水平平面において信頼楕円を内包する円の半径を決定するステップに基づいており、前記信頼楕円が、分散/共分散マトリクスおよび求める確率値に基づいて決定されることを特徴とする、方法。
【請求項4】
前記補助水平保護半径RPH1を決定するステップが、所望の誤警報確率値τおよび所望の検出ミス確率値τに基づいて行われることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記補助水平保護半径RPH0を決定するステップが、所望の検出ミス確率値τおよび検出されない衛星欠陥の発生確率値τに基づいて行われることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
補助マトリクスPS=P−MHYPからディメンション2×2の分散/共分散マトリクスPEが抽出され、水平位置に対応する前記マトリクスPSから軸が抽出される方法であって、
前記仮定Hの下で前記補助水平保護半径RPH1を決定するステップが:
−P01=1−τ/Nを決定するステップと;
−前記値P01および前記マトリクスPEiに基づいてテスト閾値THを決定するステップと;
−P02=1−τを決定するステップと;
−前記マトリクスPEおよび前記確率P02に基づいて決定された楕円を内包する円の半径に等しいものとして補助保護半径dの値を決定するステップと;
−iが1〜Nのすべての値である場合の(TH+d)のうちの最大値として前記半径値RPH0を決定するステップと;を含むことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記分散/共分散マトリクスMHYPからディメンション2×2の分散/共分散マトリクスPが抽出される方法であって、
水平位置に対応する前記マトリクスMHYPから軸が抽出され、前記仮定H0の下で前記補助水平保護半径RPH0を決定するステップが:
−P03=1−τ.τを決定するステップと;
−前記マトリクスPおよび前記確率P03に基づいて決定された楕円を内包する円の半径に等しいものとして前記半径値RPH0を決定するステップと;を含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−506156(P2010−506156A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530847(P2009−530847)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【国際出願番号】PCT/EP2007/060139
【国際公開番号】WO2008/040658
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(505157485)テールズ (231)
【Fターム(参考)】