説明

導波路型波長ドメイン光スイッチ

【課題】従来の波長ドメイン光スイッチと導波路型波長選択スイッチの短所を解消した導波路型波長ドメイン光スイッチを提供する。
【解決手段】導波路型合分波素子が3枚以上積層された導波路型合分波素子積層体101と、上記導波路型合分波素子積層体の分波側に位置するレンズシステム202と、該レンズシステムに対して上記導波路型合分波素子積層体とは反対側に位置する反射型の光位相変調セル109とを備え、レンズシステム202は、レンズアレイ102と、像倍率変換光学システム203と、f−fレンズ(Y)107と、f−fレンズ(X)106とを備える

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の波長ドメイン光スイッチと導波路型波長選択スイッチの短所を解消した導波路型波長ドメイン光スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
図14に、従来の波長ドメイン光スイッチ600を示す。入出力光ファイバ601〜606と、コリメートレンズアレイ610と、水平偏波(y偏波)と垂直偏波(x偏波)間の特性を無依存化するために2つの3角形状からなるプリズム616,617から構成されているWollastonプリズム(以下、ウオラストンプリズム)615と、水平偏波と垂直偏波間の位相差を零にするための複屈折率板620と、1/2波長板626と板627とから構成され、1/2波長板626のみが1/2波長板であり、板627は偏波に影響を与えない半波長板ユニット625と、凹面鏡630と、シリンドリカルレンズ635と、エッジプリズム641付グレーティング642と、光を垂直に曲げるためのプリズム646と、LCOS SLM(Liquid Crystal On Si Spatial Light Modulator)と呼ばれる光位相変調セル645とから構成されている。
【0003】
図15に、MEMS(Micro Electro Mechanical System)マイクロミラーを用いた従来の導波路型波長選択スイッチを示す。ここでは、1枚の基板上に5個の導波路型合分波素子が配置されており、この基板が5枚の重ねられた構造となっている。MEMSのマイクロミラーを用いると反射角度が大きくとれるため、このような構造が可能であるが、これを波長ドメイン光スイッチに適用すると、光位相変調セルの反射角度が小さいため性能が著しく劣化する。
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0067611号明細書
【特許文献2】米国特許第7,088,882号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図14の従来技術には次の問題点がある。
【0006】
(1)バルク形のグレーティングを使用しているため、1つで分光することができる点はメリットがあるが、バルク形のグレーティングは寸法が大きくなり小型化が困難である。
【0007】
(2)複雑な光学系であるため、各光学部品の価格および組立コストが大きくなり低価格化が困難となる。
【0008】
(3)光位相変調セルは一つの偏光にのみ対し動作する。このため、従来技術においては、ウオラストンプリズム615、複屈折率板620、半波長板ユニット625を用いた、いわゆる偏波ダイバーシティにより偏波依存性を解消している。このとき、2つの偏波間の光路長差を等しくするため、複屈折率板620を用いている。しかし、複屈折率板620は寸法が大きいため、温度による屈折率変化、熱膨張変化の影響を受けやすく、一般的な光通信装置内の環境温度である0℃〜65℃においては、性能が著しく劣化する。これらの光学系全体を温度コントロールすることで性能劣化を低減できるが、新たに温度安定化のための装置が必要となり、寸法の増大、消費電力の増加を招き、実用性が著しく悪化する。
【0009】
(4)コリメートレンズアレイなどの大きさを考慮すると、光位相変調セルの反射角度が小さいため実現できる入出力ポートに限りがあり、多ポート化が困難となる。
【0010】
図15の従来技術には、次の問題点がある。
【0011】
(1)基本的に1枚の基板上に導波路型合分波素子を複数個配置している。MEMSのマイクロミラーを用いる場合は反射角度が大きくとれるため、このような構造が可能であるが、これを本発明である波長ドメイン光スイッチに適用すると、光位相変調セルの反射角度が小さいため性能が著しく劣化する。
【0012】
(2)導波路型合分波素子は斜めに配置されず、水平に配置されているため、各光学部品端面からの反射が生じ、特性が劣化する。
【0013】
(3)出力ポートの数を増加させるため縦方向に積み重ねているが、個々にマイクロレンズや導波路型合分波素子の基板の厚さにより、大きさに限界があり、高密度に積み重ねることができない。このため、光通信で必要となる多ポートを実現しようとすると、小型化、高性能化が極めて困難となる。
【0014】
(4)導波路型合分波素子は温度変化により分波する波長が変化するため、このままでは光通信に使用できない致命的な欠点となる。
【0015】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、従来の波長ドメイン光スイッチと導波路型波長選択スイッチの短所を解消した導波路型波長ドメイン光スイッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために本発明は、導波路型合分波素子が3枚以上積層された導波路型合分波素子積層体と、上記導波路型合分波素子積層体の分波側に位置するレンズシステムと、該レンズシステムに対して上記導波路型合分波素子積層体とは反対側に位置する反射型の光位相変調セルとを備え、上記レンズシステムは、上記導波路型合分波素子と1対1に対応する複数のレンズを有しレンズ並び方向に集光機能あるいはコリメート機能を持つレンズアレイと、該レンズアレイの上記光位相変調セル側に配置されたN:1(N>1)の像倍率変換機能を持つ像倍率変換光学システムと、該像倍率変換光学システムの上記光位相変調セル側に配置され上記レンズアレイと同方向(後述する図1〜3、5〜10、12におけるY軸方向)に集光機能あるいはコリメート機能を持つf−fレンズ(Y)と、上記レンズアレイと垂直な方向(後述する図1〜3、5〜10、12におけるX軸方向)に集光機能あるいはコリメート機能を持つf−fレンズ(X)とを備えるものである。
【0017】
上記導波路型合分波素子積層体の合波側に位置する偏波ダイバーシティ光学系を備え、該偏波ダイバーシティ光学系は、光軸方向に並ぶ2つのレンズからなり像倍率変換機能を持つレンズペアと、該レンズペアを構成する2つのレンズ間に配置され偏波方向が互いに直交する2つの偏波ビームを分離させる偏波分離素子と、上記レンズペアより上記導波路型合分波素子積層体側の上記分離された一方の偏波ビームの通過位置に配置され該一方の偏波ビームの偏波方向を90°回転させる半波長板とを備え、
上記導波路型合分波素子は、上記2つの同偏波方向の偏波ビーム間において、上記偏波ダイバーシティ光学系から上記導波路型合分波素子内のスラブ導波路までの光路長が一致するように、1本が他の合波側導波路より長いかあるいは短い2本以上の合波側導波路を備えてもよい。
【0018】
上記偏波ダイバーシティ光学系は、上記レンズペアより上記導波路型合分波素子積層体側の上記分離された他方の偏波ビームの通過位置に配置され上記半波長板とほぼ同じ厚さを有する石英ガラス基板を備えてもよい。
【0019】
上記導波路型合分波素子は、上記2本以上の合波側導波路のうち他より長い合波側導波路の途中に形成された所定幅のスリットと、該スリット内に挿入され上記合波側導波路を構成する材料の屈折率温度係数と逆符号の屈折率温度係数を持つことにより温度変化により生じる上記合波側導波路間の光路長差を補償する樹脂とを備えてもよい。
【0020】
上記レンズシステムの上記像倍率変換光学システムは、1個以上の凸レンズと1個以上の凹レンズとを備えるか又は、焦点距離が互いに異なる2個以上の凸レンズを備えるか又は、1個以上の凸レンズと配置角度が互いに異なる2個以上のプリズムとを備えてもよい。
【0021】
上記光位相変調セルに直交配置された第2光位相変調セルと、これら光位相変調セル及び第2光位相変調セルと上記レンズシステムとの間に配置された偏光分離素子と、該偏光分離素子の一方の光出力側に配置され偏波方向を90°回転させる偏光分離素子用半波長板と、上記光位相変調セル及び第2光位相変調セルを同一の制御信号で駆動する駆動源とを備えてもよい。
【0022】
上記レンズシステムのf−fレンズ(Y)と上記光位相変調セルとの間に、入射光と折り返し光とが互いに平行となる三角形状のコーナーキューブを備えてもよい。
【0023】
上記f−fレンズ(Y)は、上記コーナーキューブに張り合わせられていてもよい。
【0024】
上記f−fレンズ(Y)は、1個の凸レンズと1個の凹レンズからなる複合レンズであってもよい。
【0025】
上記複合レンズを構成している1個の凸レンズと1個の凹レンズは、一方が上記コーナーキューブの片側反射面に貼り付けられ、他方が上記コーナーキューブの反対側反射面に貼り付けられていてもよい。
【0026】
上記コーナーキューブと上記光位相変調セルとの間に、光軸を90度曲げる三角形ミラーを備えてもよい。
【0027】
上記導波路型合分波素子の端面に無反射コーティングが形成されているか又は上記導波路型合分波素子の端面が上記導波路型合分波素子の表面に直交する仮想面に対して6度以上の角度で斜め研磨され、上記導波路型合分波素子が入出射光軸に対して所定の角度で斜めに配置され、上記コーナーキューブ及び上記光位相変調セルに無反射コーティングが形成されているか又は上記コーナーキューブ及び上記光位相変調セルが上記導波路型合分波素子の表面に対して所定の角度以上で斜めに配置されていてもよい。
【0028】
上記導波路型合分波素子と上記光位相変調セルとの間に、上記導波路型合分波素子を構成する材料の屈折率温度係数と逆符号の屈折率温度係数を持つ樹脂からなり上記導波路型合分波素子の分波波長温度依存性を補償する楔型の分波波長温度依存性補償セルを備えてもよい。
【0029】
上記導波路型合分波素子積層体の上層に、スラブ導波路と該スラブ導波路に接続された多数の導波路からなるモニタ分波側導波路とを有する光カップラが形成された光回路素子を備えてもよい。
【0030】
上記モニタ分波側導波路に接続された受光素子を備えてもよい。
【0031】
温度センサと、該温度センサを用いてあらかじめ測定した温度変化に伴う上記導波路型合分波素子の分波特性のデータが書き込まれたメモリと、上記データに基づいて付加的な位相分布を上記光位相変調セルに持たせることにより温度変化による上記導波路型合分波素子の分波波長ずれを補正する補正手段とを備えてもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、従来の波長ドメイン光スイッチの短所が解消され、かつ、従来の導波路型波長選択スイッチの短所が解消される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0034】
図1(a)及び図1(b)に、本発明の一実施形態に係る導波路型波長ドメイン光スイッチ201を示す。図1(a)はY軸延長上からXY平面を見た上面図、図1(b)はX軸延長上からYZ平面を見た側面図である。
【0035】
図1(a)及び図1(b)に示されるように、導波路型波長ドメイン光スイッチ201は、複数の光ファイバからなる光ファイバ群110に偏波ダイバーシティ光学系100が接続され、偏波ダイバーシティ光学系100に導波路型合分波素子積層体101が接続されている。偏波ダイバーシティ光学系100の詳細構造は、後に図5で説明する。導波路型合分波素子積層体101は、図4の導波路型合分波素子101−*(*はA,B,・・・を表す)が図2の導波路型合分波素子101−E,101−D,101−A,101−C,101−Bのように多段に重ねられたものである。
【0036】
光ファイバ群110は、入力光ファイバ110−Aと、出力光ファイバ110−B,110−C,110−D,110−Eとで構成される。このように本実施形態の導波路型波長ドメイン光スイッチ201は、1入力、4出力である。なお、本発明では、光の入力と出力に互換性があることから、入力光ファイバと出力光ファイバ、合波側導波路と分波側導波路など、入力と出力に関する部材は役割を置き換えて考えることができる。
【0037】
導波路型波長ドメイン光スイッチ201は、導波路型合分波素子101−*が3枚以上積層された導波路型合分波素子積層体101と、導波路型合分波素子積層体101の分波側に位置するレンズシステム202と、レンズシステム202に対して導波路型合分波素子積層体101とは反対側に位置する反射型の光位相変調セル109とを備える。光位相変調セル109の詳細構造は、後に図3で説明する。
【0038】
レンズシステム202は、導波路型合分波素子積層体101の各導波路型合分波素子と1対1に対応する複数のレンズを有しレンズの並び方向に集光機能あるいはコリメート機能を持つレンズアレイ102と、レンズアレイ102の光位相変調セル109側に配置されたN:1(N>1)の像倍率変換機能を持つ像倍率変換光学システム203と、像倍率変換光学システム203の光位相変調セル109側に配置されレンズアレイ102と同方向に集光機能あるいはコリメート機能を持つf−fレンズ(Y)107と、レンズアレイ102とは垂直な方向に集光機能あるいはコリメート機能を持つf−fレンズ(X)106とを備える。
【0039】
レンズアレイ102、像倍率変換光学システム203、f−fレンズ(X)106、f−fレンズ(Y)107は、Z軸に沿ってほぼ一直線上に配置される。
【0040】
本実施形態のレンズシステム202は、レンズシステム202のf−fレンズ(Y)106と光位相変調セル109との間に、入射光と折り返し光とが互いに平行となる三角形状のコーナーキューブ108を備える。コーナーキューブ108は、レンズシステム202から入射してきた光を収差無く入射方向と平行となるように折り返して光位相変調セル109に入射させることができる。
【0041】
コーナーキューブ108は、Z軸に平行に入射する光をいったんX軸方向に反射し、そのX軸方向の反射光をZ軸に平行に反射することで、折り返しを行うようになっている。f−fレンズ(Y)107はコーナーキューブ108のX軸方向下半分に臨んでおり、コーナーキューブ108のX軸方向上半分が折り返し光の光路になっている。
【0042】
本実施形態のレンズシステム202には、コーナーキューブ108で折り返された光をさらに90度に曲げて光位相変調セル109に入射させる三角形ミラー105が設けられている。三角形ミラー105は、レンズシステム202のレンズアレイ102からf−fレンズ(Y)107までが占める空間のX軸方向上部に設けられる。三角形ミラー105は、XZ平面に置かれた光位相変調セル109に光が入射するよう、反射面をY軸に対して傾斜させて設けられる。
【0043】
本実施形態のレンズシステム202には、導波路型合分波素子積層体101の各導波路型合分波素子と光位相変調セル109との間に、導波路型合分波素子を構成する材料の屈折率温度係数と逆符号の屈折率温度係数を持つ樹脂からなり導波路型合分波素子の分波波長温度依存性を補償する楔型の分波波長温度依存性補償セル111が設けられている。
【0044】
図2に示されるように、レンズシステム202は、導波路型合分波素子積層体101から光位相変調セル109までの間に、レンズアレイ102と、像倍率変換光学システム203と、f−fレンズ(X)106と、f−fレンズ(Y)107とを、この記載順に並べたものである。コーナーキューブ108と三角形ミラー105は、図を簡素化するために省略してある。像倍率変換光学システム203は、前段レンズ103と次段レンズ104とにより構成される。
【0045】
レンズアレイ102は、透明板の片面に所定間隔で整列する複数本の凸状のシリンドリカルレンズを形成したものである。各々のシリンドリカルレンズは導波路型合分波素子101−E,101−D,101−A,101−C,101−Bの分波側の端面(図1の実施形態では、導波路型合分波素子101−Aに関しては出力端であり、導波路型合分波素子101−E,101−D,101−C,101−Bに関しては入力端である)に対向して臨んでいる。前段レンズ103と次段レンズ104は、それぞれレンズアレイ102のレンズ並び方向であるY軸方向に集光機能あるいはコリメート機能を持つシリンドリカルレンズで構成されている。f−fレンズ(X)106は、X軸方向に集光機能あるいはコリメート機能を持つシリンドリカルレンズで構成されている。f−fレンズ(Y)107は、Y軸方向に集光機能あるいはコリメート機能を持つシリンドリカルレンズで構成されている。
【0046】
各導波路型合分波素子101−*から出射した光は、Y軸方向の光分布においてスポットサイズが5μmと小さいため、伝搬するにつれスポットサイズが急激に拡大する。このため、Y軸方向に集光機能あるいはコリメート機能を持つレンズアレイ102により各々のスポットサイズを50μmと約10倍に拡大している。
【0047】
導波路型合分波素子積層体101は、複数の導波路型合分波素子101−*がY軸に対してやや傾斜した方向にスタックされた構造を有する。各導波路型合分波素子101−*の基板の厚さが0.5mmの場合は、トータルで2.5mmの厚さとなる。各導波路型合分波素子101−E,101−D,101−A,101−C,101−Bから出射する光(図1の実施形態では、導波路型合分波素子101−E,101−D,101−C,101−Bに関しては、光は入射する)はY軸方向に約0.5mm間隔で分布した5つのビームとなる。5つのビームは、トータルでY軸方向に約2.5mmの間に分布する。
【0048】
これに対して光位相変調セル109の偏向角度はあまり大きくとれない。そこで、本発明では、像倍率変換光学システム203を用い、前記した約0.5mm間隔のビームを1/5に縮小し約0.1mm間隔としている。
【0049】
以上により、導波路型合分波素子積層体101の導波路型合分波素子から出射直後のスポットサイズが5μmで0.5mm間隔に散在していた光分布を約0.1mm間隔でスポットサイズが約10μmの光分布に変換でき、偏向角度の小さな光位相変調セル109でも十分スイッチできる。
【0050】
図3(b)に示されるように、光位相変調セル109は、多数の5〜10μm程度の小さなPixel(ピクセル)を有する。各ピクセルは、印加する電圧により液晶の向きが変化し実質的に屈折率が変化するようになっている。
【0051】
図3(a)に示されるように、光位相変調セル109は、薄いガラス基板31と、共通電極32と、SiO2膜33と、液晶34と、配向膜35と、反射用の多層膜36と、ピクセル電極(図示せず)と、SiO2膜33と、共通電極32と、グランド電極38と、電子回路が形成されたSi基板37とを備える。
【0052】
図3(c)に示されるように、各ピクセルに対してZ軸に沿って鋸状の分布となる電圧を印加した場合、屈折率分布は電圧に従う。これにより光位相変調セル109は、入射した光の波面を制御でき、反射光を偏向させることができる。
【0053】
図1の導波路型波長ドメイン光スイッチ201において、導波路型合分波素子101−Aから出射してレンズシステム202を通過した光は、光位相変調セル109に入射し、光位相変調セル109で反射してレンズシステム202を通過し、導波路型合分波素子101−E,101−D,101−C,101−Bに入射し、導波路型合分波素子101−E,101−D,101−C,101−Bで合波された後、光ファイバ110−B,110−C,110−D,110−Eより出射する。このとき、図3(c)に示すように光位相変調セル109への印加電圧を種々制御することで反射光ビームの偏向角度を制御し、出力光ファイバ110−B,110−C,110−D,110−Eを選択できる。光位相変調セル109は一つの偏光にのみ動作し、これと垂直に振動する偏光については動作しない。このため、後述するが本実施形態では新規な偏波ダイバーシティ光学系を用いている。
【0054】
図5に示されるように、偏波ダイバーシティ光学系100は、入力光ファイバ110−Aの出力側に臨むコリメートレンズ51と、方解石を互いに張り合わせたウオラストンプリズムからなる偏光分離素子53と、集光レンズアレイ52と、集光レンズアレイ52の片面に張り付けられた半波長板55及び石英ガラス54とを備える。半波長板55は、導波路型合分波素子101−*の合波側導波路41に臨む。石英ガラス54は、導波路型合分波素子101−*の合波側導波路42に臨む。コリメートレンズ51と集光レンズアレイ52とがレンズペアを構成している。
【0055】
偏波ダイバーシティ光学系100は、入力ポートと出力ポートを有するが、入力ポートと出力ポートは伝搬方向が逆である以外は同じ動作をするので、ここでは入力ポートの動作を説明する。入力ポートには、入力光ファイバ110−Aが接続されており、入力光ファイバ110−Aに入射された光は、コリメートレンズ51によりコリメートされた後、偏光分離素子53に入射する。偏光分離素子53を通過した光は、紙面に垂直方向(Y軸)に振動するY偏波と紙面に平行方向(X軸)に振動するX偏波とに分離される。Y偏波とX偏波は、それぞれ20°の角度でX軸平面内を異なった方向へ伝搬し、集光レンズアレイ52に入射する。
【0056】
集光レンズアレイ52の片面には半波長板55と石英ガラス54が張り付けてある。これにより半波長板55を通過したX偏波は90°空間的に振動方向を変えY偏波となる。一方、石英ガラス54を通過したY偏波は、そのまま偏光方向を保存したまま通過する。このように同じ向きになったY偏波は、集光レンズアレイ52により、それぞれ集光しながら平行にZ軸方向に伝搬し、導波形分光器101の2本の合波側導波路41,42に入射される。
【0057】
このときコリメートレンズ51の焦点距離f1と集光レンズアレイ52の焦点距離f2を(2)式に基づいて設計することで、導波形分光器101の2本の合波側導波路41,42と入力光ファイバ110−Aとのスポットサイズを等しくでき、低損失で接続できる。
【0058】
M=f2/f1 ・・・・・・(2)
なお、ここでMは、M=ω1/ω2から求まる値である(ω1:導波路型合分波素子101−*の合波側導波路41,42におけるスポット径、ω2:入力光ファイバ110−*のスポット径)。
【0059】
図4に示されるように、任意の導波路型合分波素子101−*は、屈折率の高いコア48がそれよりも屈折率の低いクラッド49で埋め込まれた構造の導波路を有する。本実施形態では、コア48、クラッド49の材料は石英ガラスとしている。
【0060】
導波路型合分波素子101−*は、2本以上の合波側導波路41,42と、該合波側導波路41,42に接続されコア48の厚さ方向のみに閉じ込め構造のあるスラブ導波路43と、該スラブ導波路43に接続され一定長だけ長さが順次異なる多数の導波路を有するアレイ導波路からなる分波側導波路44とを備える。導波路型合分波素子101−*は、平らな板状の基板47上に、合波側導波路41,42、スラブ導波路43、分波側導波路44がそれぞれ1つ配置される。
【0061】
基板47は、石英基板あるいはシリコン基板である。一般に石英ガラスは他の材料と比較して小さいながらも温度によりその屈折率が変化する。このため、温度により導波路型合分波素子101−*の分波波長が温度に対して変動することになる。本発明では、後述するが、石英ガラスの屈折率温度依存係数と逆符号の係数を持つ樹脂を楔型のセルに挿入したものを、レンズシステム中に配置することで温度無依存化を図っている。
【0062】
合波側導波路41,42には、前述した偏波ダイバーシティ光学系100が接続されている。偏波ダイバーシティ光学系100を通過してきた2つの偏光ビームは、偏光分離素子53や半波長板55と石英ガラス54など偏光によって異なった媒体を通過してきたため、互いに異なった光路長となっている。これを等しくするため、本発明においては、導波路型合分波素子101−*の2本の合波側導波路41,42のうち一方に光路長補正部45を設けることで、2つの偏波の光路長を厳密に合わせこんでいる。
【0063】
入力導波路41,42に入射したY軸方向に振動する光は、前記した光路長補正部45を経由し、スラブ導波路43に入射すると回折によりX軸方向に広がり、分波側導波路44に入射し、種々の前記した光学系を経由し光位相変調セル109に照射する。
【0064】
本発明に用いる導波路型合分波素子積層体101は、導波路型合分波素子101−*を、あわせて5素子Y軸方向にスタックした構造としている。このため、正確に位置合わせを行うことができるように合わせマーク46を施している。
【0065】
図4のA−A’断面に示されたように、導波路型合分波素子101−*の両端面は、境界面での反射が直接戻らないように斜めに研磨されている。一方の端面の研磨角度θ’と他方の端面の研磨角度θ1は、それぞれ必要に応じて決定され、互いに等しくても等しくなくてもよい。
【0066】
合わせマーク46は、導波路と同時に露光装置などによるパターニングで作成されるため、極めて高精度に実現できる。このため、各素子の合わせマーク46を上下で一致するように重ね合わせることで、各素子の相対的な位置精度を向上できる。なお、導波路素子が石英ガラスの場合は、可視光で観察することで上下に存在する各素子の合わせマーク46を観察できる。また、Si基板の場合は、近赤外光を透過させるため、0.8ミクロン〜数ミクロンの波長の光で観察することで上下に存在する各素子の合わせマーク46を観察できる。
【0067】
各素子101−*の表面に垂直な方向から各素子の合わせマーク46を観察すると、当然、各素子の合わせマーク46は微妙にずれるが、各素子の合わせマーク46を上下で一致するように重ね合わせる際には、Y軸方向から各素子の合わせマーク46を観察するので、各素子の合わせマーク46はずれることはない。
【0068】
図6に示されるように、本実施形態では、導波路型合分波素子101−E,101−D,101−A,101−C,101−Bを積層して導波路型合分波素子積層体101とする。導波路型合分波素子101−*を隙間無く積層させ、光学接着剤を用いて接合する。導波路型合分波素子101−*は、3枚以上あればよく、その枚数は光システム構成の要求に応じて変化する。
【0069】
各導波路型合分波素子101−*の端面および入力光ファイバ110−Aと出力光ファイバ110−B,110−C,110−D,110−Eの端面は、界面でのフレネル反射戻り光を低減するため、約8°に斜め研磨され、更に光がX軸方向に伝搬するよう(1)式に基づいた角度で斜めに傾けて配置されている。
【0070】
Ng・sinθ1=No・sinθ2 ・・・・・・(1)
ここで、Ngは導波路の群屈折率、Noは空気の屈折率である。θ1,θ2は、図中に定義する角度であり、θ1は図4に示した研磨角度である。一例として、θ1が上記の光ファイバと同じ8°の場合、θ2は11.6°となる。
【0071】
以上説明した構成に基づき、本発明の導波路型波長ドメイン光スイッチ201の動作を説明する。
【0072】
図1の導波路型波長ドメイン光スイッチ201は、多くの波長が多重化された入力光信号を入力光ファイバ110−Aから入力すると、その入力光信号が導波路型合分波素子101−Aにおいて、例えば、赤い光線Rと青い光線Bに分波され、これらの光線がレンズシステム202を経由して光位相変調セル109に入射されるようになっている。
【0073】
導波路型合分波素子101−A,101−B,101−C,101−D,101−Eから出射(実際は導波路型合分波素子101−Aから出射、導波路型合分波素子101−B,101−C,101−D,101−Eへ入射)した光は、ビーム幅が5μm(Y軸)×5000μm(X軸)と大きく扁平した光分布となる。一般的にスポットサイズの小さな光は回折により伝搬するにつれ大きく広がる。一方、スポットサイズの大きな光は広がりにくい性質を持つことが知られている。このため、図1(a)の上面図に示したようにX軸方向においては、光分布は、ほとんど回折により広がらずに、ほほ平行光として伝搬し、X軸方向に集光機能があるf−fレンズ(X)106に入射し、光位相変調セル109上に集光される。Y軸方向に集光するf−fレンズ(Y)からは波面形状の変化は受けず、素通りするだけである。
【0074】
ここで、本実施形態においては、f−fレンズ(Y)107と光位相変調セル109の間にコーナーキューブ108を設け、光を折り返すように構成している。これにより、導波路型波長ドメイン光スイッチ201の長手方向の寸法を低減することができる。
【0075】
また、本実施形態においては、コーナーキューブ108からZ軸方向に伝搬する光を、三角形ミラー105によりて90°曲げてY軸方向に反射させ、底面(XZ平面)に配置された光位相変調セル109に入射させている。
【0076】
また、本実施形態においては、f−fレンズ(Y)107はコーナーキューブ108に直接張り付ける。これにより、組み立てが簡便化されている。
【0077】
また、本実施形態においては、石英ガラスの屈折率温度依存係数と逆符号の係数を持つ樹脂を挿入した楔型の分波波長温度依存性補償セル111がレンズアレイ102の後に設けられている。これにより、分波波長の温度無依存化が図られている。
【0078】
以上の動作は、導波路型合分波素子で分光された全ての光線で同じである(例えば、赤い光線Rと青い光線B)。実際のシステムでは、40波以上の異なった波長の光が用いられる。
【0079】
次に、本発明の導波路型波長ドメイン光スイッチにおける主な特徴とその作用効果について説明する。
【0080】
(1)本発明では、合分波機能を有する光回路を同一基板上にただ一つだけ配置した導波路型合分波素子101−*を形成し、この導波路型合分波素子101−*を3枚以上用い、従来は基本的に横方向に集積化していたものを厚さ方向に高密度に積層させて導波路型合分波素子積層体101を形成した。
【0081】
(2)本発明では、光位相変調セル109の小さい反射角度の欠点を解消するため、N:1(N>1)の像倍率変換機能を持つ光学系からなる像倍率変換光学システム203を用いた。
【0082】
これにより、光通信で必要となる10ポート以上の出力ポートについても極めて小型、薄型な波長ドメイン光スイッチを提供できる。
【0083】
(3)本発明では、楔型の分波波長温度依存性補償セル111を備えた。これにより、従来のMEMS型の導波路型合分波素子で問題であった温度変化により分波する波長の変化を実用上全く問題のない程度まで変化を抑えることができる。
【0084】
(4)光位相変調セルを用いた図14の従来技術における問題を解消するため、本発明では下記の構成を設けた。
【0085】
光ファイバ群110と導波路型合分波素子101−*の合波側導波路41,42との間に、像倍率変換機能を有するレンズペアを配置した。このレンズペアを用い、光ファイバ群110の光分布を導波路型合分波素子101−*の合波側導波路41,42の光分布に一致させることで損失を極めて小さくできる。
【0086】
レンズペアの間のコリメートされた光線の部分に偏波分離機能を持つプリズム(ウオラストンプリズムからなる偏光分離素子53)を配置させ、半波長板55をレンズペアと導波路型合分波素子の合波側導波路との間に配置させた。
【0087】
分離した2つの偏波間の光路長差を等しくするため、導波路型合分波素子の合波側導波路の一方を他方より長めあるいは短めに設定した。
【0088】
導波路型合分波素子101−*の合波側導波路41,42の一方を他方より長めあるいは短めに設定したとき、温度変化により生じる2本の導波路の光路長差を補償するため、長い側の導波路パスの途中に予め設定された幅のスリットを設け、そのスリット中に、導波路を構成する材料の屈折率温度係数と逆符号の屈折率温度係数を持つ樹脂を挿入した。
【0089】
以上により、本発明の導波路型波長ドメイン光スイッチは、温度コントロールなどの装置が不要となり、小型化、低消費電力化が可能となった。
【0090】
(5)本発明では、コーナーキューブ108で光を折り返すことで大幅な小型化を実現した。
【0091】
(6)本発明では、反射による特性劣化をおさえるため、導波路型合分波素子(導波路型合分波素子101−*)の端面は、無反射コーティングが形成されているか、あるいは6度以上の角度で斜め研磨されている。組み立てを容易にするため、積層された導波路型合分波素子101−*が予め決まった角度で斜めに配置されている。コーナーキューブ108や光位相変調セル109は、無反射コーティングが形成されているか、あるいはコーナーキューブ108や光位相変調セル109が一定の角度以上で斜めに配置されている。
【0092】
(7)本発明では、導波路型合分波素子101−*の温度変化による分波波長の変化を抑えるため、導波路型合分波素子101−*と光位相変調セル109との間に導波路型合分波素子を構成する材料の屈折率温度係数と逆符号の屈折率温度係数を持つ樹脂が挿入された楔型の分波波長温度依存性補償セル111が配置されている。
【0093】
図14の従来技術では、バルクの分光器をただ1つだけ用いて構成されていたが、本発明では、一基板上に合分波機能を持つ光回路をただ一つだけ配置した導波路型合分波素子101−*を3枚以上用い、N:1(N>1)の像倍率変換機能を持つ光学系からなる像倍率変換光学システム203を用いた。
【0094】
なお、厚さ方向に高密度に積層させるため各導波路型合分波素子101−*の基板厚さを約1mm以下とし、各基板間の間隙をほぼ零とし光学接着剤で固定させた。このとき、各導波路型合分波素子101−*を高精度に位置合わせを行うため、アライメントマーク46を施した。積層させた導波路型合分波素子101−*のトータルの厚さは高々約数mmであり(例えば、各基板の厚さが0.5mmで10枚のときは5mm)、さらに、10:1の像倍率変換機能を用いると、高々約数百μm(例えば、各基板の厚さが0.5mmで10枚のときは5mmが500μm)となる。
【0095】
図15の従来の技術では数個の導波路型波長分光器が一枚の基板上に配置されている。この場合、導波路型波長分光器の間隔は100mm程度であるため、本発明は約1/200に大幅に短縮化されている。このため、偏向角度を大きくできない光位相変調セルでも十分に動作可能となる。この効果により、従来技術では困難であった100ポート程度の大規模な波長ドメイン光スイッチも実現できる。
【0096】
積層される導波路型合分波素子を別の機能を持つ導波路基板で置き合えることで、波長ドメイン光スイッチのフィレキシビリティが大幅に拡張される。例えば、光ネットワークにおいては、各ノードでどの波長およびどの程度のパワーが伝送されているかなどをモニタする機能が必要である。積層された1枚の基板を導波路型合分波素子ではなく、スラブ導波路と分波する波長数以上の合波側導波路が互いに接続された光回路の基板を積層させることで、波長とパワーをモニタできる導波路型波長ドメイン光スイッチを実現できる。
【0097】
この他にも、光分配など種々の自由度のある機能を持たせることができる。
【0098】
次に、他の実施形態について説明する。
【0099】
図7に示した導波路型波長ドメイン光スイッチ201aは、像倍率変換光学システム203aが、1個の凸レンズ103と1個の凹レンズ90とから構成されている。
【0100】
図8に示した導波路型波長ドメイン光スイッチ201bは、像倍率変換光学システム203bが、1個の凸レンズ103と2個の凹レンズ91とから構成されている。
【0101】
図9に示した導波路型波長ドメイン光スイッチ201cは、像倍率変換光学システム203cが、1個の凸レンズ103と配置角度が互いに異なる姿勢に配置された複数のプリズムでなるプリズムペア92とから構成されている。
【0102】
図10に示した導波路型波長ドメイン光スイッチ201dは、f−fレンズ(Y)107が1個の凸レンズ94と1個の凹レンズ93との複合レンズ95により構成されている。また、複合レンズ95を構成している1個の凸レンズ94と1個の凹レンズ93はそれぞれ、コーナーキューブ108の入射面と出射面に直接張り付けられている。これにより、光学系の収差を大幅に低減できる。
【0103】
図11に示した導波路型合分波素子積層体96は、これまで説明した導波路型合分波素子積層体101の上層に、スラブ導波路1と該スラブ導波路1に接続された多数の導波路からなるモニタ分波側導波路2とを有する光カップラが基板に形成された光回路素子3を備えたものである。モニタ分波側導波路2は、スラブ導波路1が分波する波長数以上の光を出力する。モニタ分波側導波路2の出力側にモニタ用集光レンズ4を配置し、そのモニタ用集光レンズ4の出力側に受光素子アレイ5を配置している。図中に示した光位相変調セルの一部の光を光カプラに向けて反射させることで、光カプラから出力される光は各波長ごとに分光され、受光素子アレイで電気信号に変換される。これにより、分波された光について、波長ごとのパワーをモニタすることができる。
【0104】
図11の導波路型合分波素子積層体96を本発明の導波路型波長ドメイン光スイッチ201に組み込むことで、光信号のマネージメント(例えば、所望の信号対雑音比(SN比)が確保されているか)をモジュール内でモニタでき、インテリジェントな装置を実現できる。
【0105】
図12に示した導波路型波長ドメイン光スイッチ201eは、これまで説明した光偏波ダイバーシティ光学系100の代わりに、2つの光位相変調セル109,109eと、偏光ビームスプリッタ(偏光分離素子)500と、偏光分離素子用半波長板501とを用いて偏波無依存化を図るものである。すなわち、図1の導波路型波長ドメイン光スイッチ201との比較で言うと、複数の光ファイバからなる光ファイバ群110の光出力側には、光偏波ダイバーシティ光学系100を介することなく、直接、導波路型合分波素子積層体101が接続されている。また、レンズシステム202eには、コーナーキューブ108から三角形ミラー105までの間に偏光分離素子500が設けられ、偏光分離素子500の反射光出力側に光位相変調セル109に直交配置された第2光位相変調セル109eが配置される。偏光分離素子500の透過光出力側には偏光分離素子用半波長板501が設けられ、その偏光分離素子用半波長板501の光出力側に三角形ミラー105が臨んでいる。
【0106】
図12(d)に示されるように、光位相変調セル109では矢印の方向に振動する偏光のみ動作する。一方、光位相変調セル109eでは振動する方向が上記矢印の方向と空間的に直交する。このような、振動する方向が空間的に直交する光位相変調セル109と光位相変調セル109eの配置関係を直交配置と呼ぶ。
【0107】
導波路型波長ドメイン光スイッチ201eにおいては、コーナーキューブ108で折り返された光のうち、偏光分離素子500に入射したX偏光は偏光分離素子500を透過し、偏光分離素子用半波長板501によりY偏光に変換され、三角形ミラー105により反射し、底面(XZ平面)にマウントされている光位相変調セル109に入射する。
【0108】
一方、偏光分離素子500に入射したY偏光は偏光分離素子500で反射し、偏光方向を変えることなく、そのまま三角形ミラー105eにより反射し、底面(XZ平面)にマウントされている第2光位相変調セル109eに入射する。三角形ミラー105eは第2光位相変調セル109eの正のY軸方向に配置されている。
【0109】
この2つの偏光はほぼ同じ光路長を持っていることが望ましく、偏光分離素子500および偏光分離素子用半波長板501の光路長差を考慮し、偏光分離素子500で反射したY偏光に対して、適切な厚さの石英ガラス板を偏光分離素子500の後に挿入する場合もある。
【0110】
図12(a)に示されるように、導波路型波長ドメイン光スイッチ201eは、駆動源として、駆動回路/電源を備える。
【0111】
図13に示されるように、本発明の導波路型波長ドメイン光スイッチは、通信ネットワークの各ノードにおいて使用される。1つのノードについて詳しく見ると、外部からの複数の光信号入力がWSS(導波路型波長ドメイン光スイッチ201)に入力されている。WSSからノード内部の複数の受信機に対して信号が出力される。各受信機にはルータが接続される。また、WSSからは、外部へ複数の光信号出力が出力される。WSSに対して、レベル調整、スイッチングなどを行う光信号診断装置が接続される。
【0112】
本発明の導波路型波長ドメイン光スイッチは、通常の光信号の分岐・挿入(光Add/Drop)システムのほか光クロスコネクトシステムへの応用も可能である。なお、現在では、幹線系あるいはメトロコアのような比較的大規模システムに用いられているが、本発明により大幅なコスト低減が可能になると、メトロエッジ、アクセス系への広範囲なシステムへ導入され、光ネットワークの革新的な発展に繋がる。
【0113】
本発明の導波路型波長ドメイン光スイッチは、低価格、小型、高性能、フレキシビリティのある波長ドメイン光スイッチが実現できるため、今後の光システム、光ネットワークを大幅にレベルアップできる。
【0114】
図16に示されるように、導波路型波長ドメイン光スイッチは、温度センサと、該温度センサを用いてあらかじめ測定した温度変化に伴う上記導波路型合分波素子の分波特性のデータが書き込まれたメモリと、上記データに基づいて付加的な位相分布上記光位相変調セルに持たせることにより温度変化による上記導波路型合分波素子の分波波長ずれを補正する補正手段とを備える。
【0115】
一般に、光位相変調セルは温度依存性を有する。ペルチェ素子などを用いて光位相変調セルを一定温度に保っても、その影響を零にすることは難しい。そこで、光位相変調セルがマウントされている光学系(図1、図9、図10参照)に温度センサを配置し、その温度をモニタする。一方、あらかじめこの温度センサによる測定を基に、測定された温度に対する分波特性のデータをメモリ内に格納し、これをlook−up tableとしてコントローラを介して補正することで、極めて高精度なスイッチング性能(低損失など)を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の一実施形態を示す導波路型波長ドメイン光スイッチの図であり、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)はビームの照射面イメージを示す平面図である。
【図2】本発明に用いるレンズシステムの構造とビーム拡縮のイメージを示した立体図である。
【図3】本発明に用いる光位相変調セルの図であり、(a)は積層断面図、(b)はピクセル面(XZ平面)の正面図、(c)はXZ平面における屈折率分布図である。
【図4】本発明に用いる導波路型合分波素子の図であり、平面図とA−A’断面図とその部分拡大図を含む。
【図5】本発明に用いる偏波ダイバーシティ光学系の上面図である。
【図6】本発明に用いる導波路型合分波素子積層体と偏波ダイバーシティ光学系の側面図である。
【図7】本発明の他の実施形態を示す導波路型波長ドメイン光スイッチの図であり、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)はビームの照射面イメージを示す平面図である。
【図8】本発明の他の実施形態を示す導波路型波長ドメイン光スイッチの図であり、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)はビームの照射面イメージを示す平面図である。
【図9】本発明の他の実施形態を示す導波路型波長ドメイン光スイッチの図であり、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)はビームの照射面イメージを示す平面図である。
【図10】本発明の他の実施形態を示す導波路型波長ドメイン光スイッチの図であり、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)はビームの照射面イメージを示す平面図である。
【図11】本発明の他の実施形態を示す導波路型波長ドメイン光スイッチの一部を示す導波路型合分波素子積層体の上面斜視図である。
【図12】本発明の他の実施形態を示す導波路型波長ドメイン光スイッチの図であり、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)はビームの照射面イメージを示す平面図、(d)は偏光方向を示す平面図である。
【図13】本発明の導波路型波長ドメイン光スイッチが利用される通信ネットワークの構成図である。
【図14】従来の波長ドメイン光スイッチを示す図である。
【図15】従来の導波路型波長選択スイッチを示す図である。
【図16】本発明の他の実施形態を示す導波路型波長ドメイン光スイッチのブロック図である。
【符号の説明】
【0117】
1 スラブ導波路
2 モニタ分波側導波路
3 光回路素子
4 モニタ用集光レンズ
5 受光素子アレイ
31 ガラス基板
32 共通電極
33 SiO2膜
34 液晶
35 配向膜
36 多層膜
37 Si基板
38 グランド電極
41,42 合波側導波路
43 スラブ導波路
44 分波側導波路
45 光路長補正部
46 合わせマーク
47 基板
48 コア
49 クラッド
51 コリメートレンズ
52 集光レンズアレイ
53 偏光分離素子
54 石英ガラス
55 半波長板
92 プリズムペア
100 偏波ダイバーシティ光学系
101 導波路型合分波素子積層体
101−A,B,C,D,E 導波路型合分波素子
102 レンズアレイ
103 前段レンズ
104 後段レンズ
105 三角形ミラー
106 f−fレンズ(X)
107 f−fレンズ(Y)
108 コーナーキューブ
109 光位相変調セル
110 光ファイバ群
110−A 入力光ファイバ
110−B,C,D,E 出力光ファイバ
201 導波路型波長ドメイン光スイッチ
202 レンズシステム
203 像倍率変換光学システム
500 偏光分離素子
501 半波長板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波路型合分波素子が3枚以上積層された導波路型合分波素子積層体と、
上記導波路型合分波素子積層体の分波側に位置するレンズシステムと、
該レンズシステムに対して上記導波路型合分波素子積層体とは反対側に位置する反射型の光位相変調セルとを備え、
上記レンズシステムは、上記導波路型合分波素子と1対1に対応する複数のレンズを有しレンズ並び方向に集光機能あるいはコリメート機能を持つレンズアレイと、該レンズアレイの上記光位相変調セル側に配置されたN:1(N>1)の像倍率変換機能を持つ像倍率変換光学システム、該像倍率変換光学システムの上記光位相変調セル側に配置され上記レンズアレイと同方向に集光機能あるいはコリメート機能を持つf−fレンズ(Y)と、上記レンズアレイと垂直な方向に集光機能あるいはコリメート機能を持つf−fレンズ(X)とを備えることを特徴とする導波路型波長ドメイン光スイッチ。
【請求項2】
上記導波路型合分波素子積層体の合波側に位置する偏波ダイバーシティ光学系を備え、 該偏波ダイバーシティ光学系は、光軸方向に並ぶ2つのレンズからなり像倍率変換機能を持つレンズペアと、該レンズペアを構成する2つのレンズ間に配置され偏波方向が互いに直交する2つの偏波ビームを分離させる偏波分離素子と、上記レンズペアより上記導波路型合分波素子積層体側の上記分離された一方の偏波ビームの通過位置に配置され該一方の偏波ビームの偏波方向を90°回転させる半波長板とを備え、
上記導波路型合分波素子は、上記2つの同偏波方向の偏波ビーム間において、上記偏波ダイバーシティ光学系から上記導波路型合分波素子内のスラブ導波路までの光路長が一致するように、1本が他より長いかあるいは短い2本以上の合波側導波路を備えることを特徴とする請求項1記載の導波路型波長ドメイン光スイッチ。
【請求項3】
上記偏波ダイバーシティ光学系は、上記レンズペアより上記導波路型合分波素子積層体側の上記分離された他方の偏波ビームの通過位置に配置され上記半波長板とほぼ同じ厚さを有する石英ガラス基板を備えることを特徴とする請求項2記載の導波路型波長ドメイン光スイッチ。
【請求項4】
上記導波路型合分波素子は、上記2本以上の合波側導波路のうち他より長い合波側導波路の途中に形成された所定幅のスリットと、該スリット内に挿入され上記合波側導波路を構成する材料の屈折率温度係数と逆符号の屈折率温度係数を持つことにより温度変化により生じる上記合波側導波路間の光路長差を補償する樹脂とを備えることを特徴とする請求項2又は3記載の導波路型波長ドメイン光スイッチ。
【請求項5】
上記レンズシステムの上記像倍率変換光学システムは、1個以上の凸レンズと1個以上の凹レンズとを備えるか又は、焦点距離が互いに異なる2個以上の凸レンズを備えるか又は、1個以上の凸レンズと配置角度が互いに異なる2個以上のプリズムとを備えることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の導波路型波長ドメイン光スイッチ。
【請求項6】
上記光位相変調セルに直交配置された第2光位相変調セルと、これら光位相変調セル及び第2光位相変調セルと上記レンズシステムとの間に配置された偏光分離素子と、該偏光分離素子の一方の光出力側に配置され偏波方向を90°回転させる偏光分離素子用半波長板と、上記光位相変調セル及び第2光位相変調セルを同一の制御信号で駆動する駆動源とを備えることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の導波路型波長ドメイン光スイッチ。
【請求項7】
上記レンズシステムのf−fレンズ(Y)と上記光位相変調セルとの間に、入射光と折り返し光とが互いに平行となる三角形状のコーナーキューブを備えることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の導波路型波長ドメイン光スイッチ。
【請求項8】
上記f−fレンズ(Y)は、上記コーナーキューブに張り合わせられていることを特徴とする請求項7記載の導波路型波長ドメイン光スイッチ。
【請求項9】
上記f−fレンズ(Y)は、1個の凸レンズと1個の凹レンズからなる複合レンズであることを特徴とする請求項7記載の導波路型波長ドメイン光スイッチ。
【請求項10】
上記複合レンズを構成している1個の凸レンズと1個の凹レンズは、一方が上記コーナーキューブの片側反射面に貼り付けられ、他方が上記コーナーキューブの反対側反射面に貼り付けられていることを特徴とする請求項9記載の導波路型波長ドメイン光スイッチ。
【請求項11】
上記コーナーキューブと上記光位相変調セルとの間に、光軸を90度曲げる三角形ミラーを備えることを特徴とする請求項7記載の導波路型波長ドメイン光スイッチ。
【請求項12】
上記導波路型合分波素子の端面に無反射コーティングが形成されているか又は上記導波路型合分波素子の端面が上記導波路型合分波素子の表面に直交する仮想面に対して6度以上の角度で斜め研磨され、
上記導波路型合分波素子が入出射光軸に対して所定の角度で斜めに配置され、
上記コーナーキューブ及び上記光位相変調セルに無反射コーティングが形成されているか又は上記コーナーキューブ及び上記光位相変調セルが上記導波路型合分波素子の表面に対して所定の角度以上で斜めに配置されていることを特徴とする請求項7〜11いずれか記載の導波路型波長ドメイン光スイッチ。
【請求項13】
上記導波路型合分波素子と上記光位相変調セルとの間に、上記導波路型合分波素子を構成する材料の屈折率温度係数と逆符号の屈折率温度係数を持つ樹脂からなり上記導波路型合分波素子の分波波長温度依存性を補償する楔型の分波波長温度依存性補償セルを備えることを特徴とする請求項1〜12いずれか記載の導波路型波長ドメイン光スイッチ。
【請求項14】
上記導波路型合分波素子積層体の上層に、スラブ導波路と該スラブ導波路に接続された多数の導波路からなるモニタ分波側導波路とを有する光カップラが形成された光回路素子を備えることを特徴とする請求項1〜13いずれか記載の導波路型波長ドメイン光スイッチ。
【請求項15】
上記モニタ分波側導波路に接続された受光素子を備えることを特徴とする請求項14記載の導波路型波長ドメイン光スイッチ。
【請求項16】
温度センサと、該温度センサを用いてあらかじめ測定した温度変化に伴う上記導波路型合分波素子の分波特性のデータが書き込まれたメモリと、上記データに基づいて付加的な位相分布を上記光位相変調セルに持たせることにより温度変化による上記導波路型合分波素子の分波波長ずれを補正する補正手段とを備えることを特徴とする請求項1〜15いずれか記載の導波路型波長ドメイン光スイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−72339(P2010−72339A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239650(P2008−239650)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】