説明

導電体および導電体の製造方法

【課題】透明性に優れた新規な導電体および導電体の製造方法を提供する。
【解決手段】ニオブ酸化物またはニオブ金属をターゲットとしてスパッタリングすることにより、基板の表面にニオブ酸化物膜(NbO膜)を形成し、そのニオブ酸化物膜に対してアニール処理を行う。スパッタリングは、ニオブ金属ターゲットの場合、アルゴンガスに対する酸素ガス流量比(酸素ガス流量/アルゴンガス流量)が5.0%乃至7.0%の雰囲気下で、室温で行う。アニール処理は、真空中で900℃以上の温度で行う。アニール後のニオブ酸化物膜は、60%以上の可視光線透過率を有し、10−2Ωcm以下の電気抵抗率を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電体および導電体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイや太陽電池、青色/白色発光ダイオード等では、透明電極として透明導電体の薄膜が用いられている。透明導電体は、可視光透明性と電気伝導性という相反する二つの性質を満たさなければならないため、実用化されている材料は、ITO系、SnO2系、ZnO系、IZO系に限られていた。特に、SnドープIn2O3(ITO)は、透明導電性やデバイス作製プロセスへの適合性という面で、他の材料に比べて優位であり、多く用いられている。しかし、ITO系の透明導電体は、Inが稀少金属であるため、資源の枯渇や、それに伴う原料コストの上昇といった問題があった。また、透明導電体の種類が少ないため、個々の光デバイスの特性に合った透明導電体を選ぶことができないという問題もあった。
【0003】
これらの問題を解決するために、本発明者等は、全く新しい材料カテゴリーである遷移金属酸化物をベースとした透明導電体(d電子系透明導電体)として、ガラス基板上に作製した多結晶ニオブ添加二酸化チタン(Nb:TiO)薄膜の開発に成功した(例えば、特許文献1および2参照)。このようなd電子系透明導電体を利用することにより、d電子ならではの物性を活用することができる。例えば、d電子は強磁性や強相関効果を示すことから、それらの機能をとりこんだ強磁性透明導電体や多彩な電気伝導特性(温度や磁場での抵抗スイッチング)を有する透明導電体の開発につながり、新規光磁気デバイス創出への道を開くことができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−50677号公報
【特許文献2】特開2008−84824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
新規な光磁気デバイスの創出や特性の向上を果たすためには、特許文献1および2に記載の多結晶ニオブ添加二酸化チタン(Nb:TiO)薄膜のような新規な透明導電体を、さらに開発する必要がある。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、透明性に優れた新規な導電体および導電体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者らは、新たなd電子系透明導電体がNb:TiO周辺において存在すると考え、その周辺物質の探索を行ったところ、ニオブ酸化物(NbO)が透明導電性を示すことを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る導電体は、アニール処理が行われたニオブ酸化物膜から成ることを、特徴とする。また、本発明に係る導電体は、NbO膜から成り、60%以上の可視光線透過率を有し、10−2Ωcm以下の電気抵抗率を有することを、特徴とする。本発明に係る導電体の製造方法は、基板の表面にニオブ酸化物膜を形成し、前記ニオブ酸化物膜に対してアニール処理を行うことを、特徴とする。
【0009】
本発明に係る導電体の製造方法によれば、本発明に係る導電体を製造することができる。本発明に係る導電体の製造方法は、ニオブ酸化物(NbO)膜に対してアニール処理を行うことにより、抵抗率を減少させることができ、透明性に優れた導電体を製造することができる。本発明に係る導電体は、ニオブ酸化物膜から成り、新規である。また、化学的な耐性が期待できるため、一般的な透明導電体の用途であるフラットパネルディスプレイや太陽電池、発光ダイオードに限らず、酸、アルカリや還元性の強い雰囲気で使用される燃料電池等の電極材料としての使用が期待できる。
【0010】
本発明に係る導電体および導電体の製造方法で、ニオブ酸化物は、NbO、NbO2、Nb2O5、Nb25O62、Nb47O116、Nb22O54、Nb12O29など、NbOで表されるものであれば、いかなるものであってもよい。
【0011】
本発明に係る導電体で、前記ニオブ酸化物膜は、ニオブ酸化物またはニオブ金属をターゲットとしてスパッタリングすることにより形成されていることが好ましい。また、本発明に係る導電体で、前記スパッタリングは、ニオブ金属ターゲットの場合、アルゴンガスに対する酸素ガス流量比(酸素ガス流量/アルゴンガス流量)が5.0%乃至7.0%の雰囲気下で、室温で行われることが好ましい。本発明に係る導電体の製造方法で、前記ニオブ酸化物膜は、ニオブ酸化物またはニオブ金属をターゲットとしてスパッタリングすることにより、前記基板の表面に形成されることが好ましい。また、本発明に係る導電体の製造方法で、前記スパッタリングは、ニオブ金属ターゲットの場合、アルゴンガスに対する酸素ガス流量比(酸素ガス流量/アルゴンガス流量)が5.0%乃至7.0%の雰囲気下で、室温で行われることが好ましい。この場合、特に、透明性に優れ、抵抗率を小さくすることができる。
【0012】
本発明に係る導電体で、前記アニール処理は、真空中で900℃以上の温度で行われることが好ましい。本発明に係る導電体の製造方法で、前記アニール処理は、真空中で900℃以上の温度で行うことが好ましい。この場合、特に、抵抗率を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、透明性に優れた新規な導電体および導電体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態の導電体の製造方法により製造された第1の実施例の導電体の、電気抵抗率(Resistivity;図中の四角印)および成膜レート(Deposition rate;図中の丸印)の、アルゴンガスに対する酸素ガス流量比f(O)依存性を示すグラフである。
【図2】図1に示す第1の実施例の導電体の、アニール前後でのX線回折測定結果を示すグラフ(Grazingincidence X-ray diffraction pattern)である。
【図3】本発明の実施の形態の導電体の製造方法により製造された第2の実施例の導電体の、アニール前後での透過率(Transmittance)の波長(Wavelength)依存性を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態の導電体の製造方法により製造された第3の実施例の導電体の、電気抵抗率(Resistivity)の温度(Temperature)依存性を示すグラフ、および、電気抵抗率(Resistivity)の厚み(Thickness)依存性を示すグラフ(挿入図)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図4は、本発明の実施の形態の導電体および導電体の製造方法を示している。
本発明の実施の形態の導電体は、以下に示す本発明の実施の形態の導電体の製造方法により製造される。
【0016】
まず、ニオブ酸化物またはニオブ金属をターゲットとして用い、スパッタリングにより基板の表面にニオブ酸化物の薄膜(NbO膜)を作製した。このとき、ターゲットとしては、例えば、NbO2.432およびNb2O5を主成分とするものや、NbO2.4を主成分とするもの、ニオブ酸化物よりも容易に入手可能なニオブメタル等を用いることができる。また、スパッタリングは、RFマグネトロンスパッタリング法またはDCマグネトロンスパッタリング法を用い、アルゴンガス雰囲気中またはアルゴンガスに酸素を加えた雰囲気中で、室温で成膜を行った。基板は、耐熱性に優れた石英ガラス基板を用いた。
【0017】
スパッタリングによる成膜後、形成されたニオブ酸化物膜に対して、1000℃で真空アニール処理を行った。このアニール処理を行うことにより、アニール処理を行う前のものに比べて、抵抗率を大幅に減少させることができ、透明性に優れた導電体を製造することができる。こうして製造された導電体は、ニオブ酸化物膜から成り、新規である。また、化学的な耐性が期待できるため、一般的な透明導電体の用途であるフラットパネルディスプレイや太陽電池、発光ダイオードに限らず、酸、アルカリや還元性の強い雰囲気で使用される燃料電池等の電極材料としての使用が期待できる。
【実施例1】
【0018】
2インチのニオブメタルターゲットを使用し、DCマグネトロンスパッタリング法により成膜を行った。スパッタリングは、アルゴンガスを10sccm成膜チャンバーに導入し、それに酸素を加え、アルゴンガスに対する酸素ガス流量比f(O)=酸素ガス流量/アルゴンガス流量を成膜パラメータとして、f(O)を様々に変化させて成膜を行った。また、全圧を1Paとし、基板を加熱せずに成膜を行った。ターゲットへ投入するパワーは、50Wとした。ニオブ酸化物膜を成膜後、その薄膜に対して1000℃で真空アニールを行った。
【0019】
様々なf(O)に対する、アニール後のニオブ酸化物膜の電気抵抗率(Resistivity)および成膜レート(Deposition rate)を測定し、その結果を図1に示す。図1に示すように、酸素流量を0sccm[f(O)=0%]とした場合は、金属光沢を有するNb金属薄膜が生成された。この薄膜の電気抵抗率は、2×10-4 Ωcm程度であった。酸素分圧0.05Pa[f(O)=5.0%]で成膜すると、成膜直後では薄茶色を示すものの、真空アニール後では薄青色を示し、アニール後の電気抵抗率は10-2 Ωcmであった。さらに酸素分圧を増やすと、アニール後の薄膜は青みがかった透明色になるとともに、電気抵抗率が徐々に低下し、酸素分圧0.07Pa[f(O)=7.0%]で、電気抵抗率5×10-3 Ωcmとなった。この薄膜が、透明性と電気伝導性とを併せ持つニオブ酸化物(NbOx)透明導電膜である。
【0020】
酸素分圧が0.07Pa[f(O)=7.0%]を越えると、電気抵抗率が10-1 Ωcm程度まで急激に増加している。この変化は非常に急激であり、酸素流量では0.01sccmの差である。
【0021】
図1に示すように、アニール後の電気抵抗率は、成膜レートと強い相関がある。酸素分圧が小さい場合、成膜レートは大きい。しかし、電気抵抗率が極小となる酸素分圧0.07Pa[f(O)=7.0%]を境に、急激に成膜レートが減少すると同時に、透明性が高くなる。電気抵抗率が低い透明導電膜は、この成膜レートが急激に落ちる途中で発現している。
【0022】
次に、異なるf(O)の、アニール前後のニオブ酸化物膜のX線回折測定を行い、その結果を図2に示す。なお、図2中には、比較のために、ニオブ金属ガラス(Glass)のパターンも示す。図2に示すように、酸素分圧が0.069Pa[f(O)=6.9%]のアニール前(as-depo.)およびアニール後(annealed)、並びに、酸素分圧が0.1Pa[f(O)=10%]のアニール後(annealed)の薄膜では、ニオブ金属ガラス(Glass)のパターンのピークと異なる位置には、ピークは認められないことが確認できる。このことから、ニオブ酸化物透明導電膜である、f(O)=6.9%のアニール後(annealed)のものは、金属ガラスに近い構造を有していると考えられる。
【実施例2】
【0023】
2インチのニオブメタルターゲットを使用し、DCマグネトロンスパッタリング法により成膜を行った。スパッタリングは、アルゴンガスを10sccm成膜チャンバーに導入し、それに酸素を加え、酸素分圧が0.069Pa[f(O)=6.9%]にて、ガラス基板上に成膜を行った。また、全圧を1Paとし、基板を加熱せずに成膜を行った。ターゲットへ投入するパワーは、50Wとした。ニオブ酸化物膜を成膜後、その薄膜に対して1000℃で真空アニールを行った。
【0024】
真空アニール前のニオブ酸化物膜では、電気抵抗が10GΩ程度であったが、真空アニールを行うことにより、抵抗率が3×10-3 Ωcm程度まで大幅に減少することが確認された。この真空アニール前後のニオブ酸化物膜の透過率(Transmittance)を測定し、その結果を図3に示す。図3に示すように、アニール後(Annealed)であっても、アニール前(As-depo.)と同様に、可視光領域(波長範囲:360〜830nm)で60〜70%以上の透過率を示し、真空アニール後のニオブ酸化物膜が高い可視光透明性を有していることが確認された。なお、図3には、比較のためにガラス基板(Glass)の透過率も示している。
【実施例3】
【0025】
NbO2.432およびNb2O5を主成分とする2インチのターゲットを使用し、RFマグネトロンスパッタリング法により成膜を行った。スパッタリングは、アルゴンガス雰囲気中で、全圧を1Pa、基板を加熱せずに成膜を行った。ターゲットへ投入するパワーは、300Wとした。ニオブ酸化物膜を成膜後、その薄膜に対して1000℃で10分間、真空アニールを行った。
【0026】
得られたニオブ酸化物膜の電気伝導機構を探るため、電気抵抗率(Resistivity)の温度(Temperature)依存性の測定を行い、その結果を図4に示す。図4に示すように、電気抵抗率は、0〜300Kの温度範囲で、4〜6×10-3 Ωcmと小さいことが確認された。また、0〜300Kの温度範囲で、温度依存性が極めて小さく、金属的であることも確認された。
【0027】
また、ニオブ酸化物膜の厚み(Thickness)に対する電気抵抗率の変化を調べ、その結果を図4中に挿入されたグラフに示す。図4中に挿入されたグラフに示すように、ZnO等の他の透明導電膜に比べて、厚み依存性が小さいことが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニール処理が行われたニオブ酸化物膜から成ることを、特徴とする導電体。
【請求項2】
前記ニオブ酸化物膜は、ニオブ酸化物またはニオブ金属をターゲットとしてスパッタリングすることにより形成されていることを、特徴とする請求項1記載の導電体。
【請求項3】
前記スパッタリングは、ニオブ金属ターゲットの場合、アルゴンガスに対する酸素ガス流量比(酸素ガス流量/アルゴンガス流量)が5.0%乃至7.0%の雰囲気下で、室温で行われることを、特徴とする請求項2記載の導電体。
【請求項4】
前記アニール処理は、真空中で900℃以上の温度で行われることを、特徴とする請求項1、2または3記載の導電体。
【請求項5】
基板の表面にニオブ酸化物膜を形成し、前記ニオブ酸化物膜に対してアニール処理を行うことを、特徴とする導電体の製造方法。
【請求項6】
前記ニオブ酸化物膜は、ニオブ酸化物またはニオブ金属をターゲットとしてスパッタリングすることにより、前記基板の表面に形成されることを、特徴とする請求項5記載の導電体の製造方法。
【請求項7】
前記スパッタリングは、ニオブ金属ターゲットの場合、アルゴンガスに対する酸素ガス流量比(酸素ガス流量/アルゴンガス流量)が5.0%乃至7.0%の雰囲気下で、室温で行われることを、特徴とする請求項6記載の導電体の製造方法。
【請求項8】
前記アニール処理は、真空中で900℃以上の温度で行うことを、特徴とする請求項5、6または7記載の導電体の製造方法。
【請求項9】
NbO膜から成り、60%以上の可視光線透過率を有し、10−2Ωcm以下の電気抵抗率を有することを、特徴とする導電体。


【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−179021(P2011−179021A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41260(P2010−41260)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】