説明

導電性セラミックス層を使用した加熱方法とエンジン

【課題】シリンダライナやオイルパンを加熱することによってエンジンのスタートを容易にできるエンジンなどの加熱方法を提供する。
【解決手段】金属製物品の表面にプラズマ溶射によって、電気絶縁性セラミックス層からなる第一セラミックス層と、この第一セラミックス層C1 の上面に導電性セラミックス層からなる第二セラミックス層C2 を形成し、更に前記第二セラミックス層C2 の両端に給電4を配置し、この両給電線4の間に通電して前記第二セラミックス層C2 を発熱体とし、前記第一セラミックス層C1 を、熱誘導層として前記シリンダライナ2やオイルパン3など)を加熱するセラミックス層を発熱体とする加熱方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属物品の被加熱物の表面に電気絶縁性のセラミックス層と、導電性セラミックス層の二層構造の積層セラミックス層に形成して超薄型の発熱体を構成し、前記導電性セラミックス層に通電発熱させるようにした加熱方法及びこれを利用したエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般のエンジンは、シリンダブロックの長手方向に複数のシリンダライナを嵌入固定し、前記シリンダライナを囲んで設けられたジャケットに冷却水を供給してエンジンの作動中に燃焼ガスから受けた熱量の一部を冷却水を通じて除去してピストンなどの運動部材にエンジンオイル(潤滑油)を円滑に供給し、運動部材の摺動部にオイルフイルムを適切に形成してこれらの部材の摩擦力の低下を図っている。
【0003】
前記エンジンの各部を潤滑したエンジンオイルは、シリンダブロックの下部の開口部に設けてあるオイルパンに導かれて溜められ、これをオイルポンプで加圧して前記シリンダライナとピストンとの摺動面や他の可動部材の摩擦面に供給するようにオイルの循環路が形成されている。
【0004】
エンジンオイルは、エンジンの出力に応じて所定の温度(例えば80〜95℃)で適正な粘度になる特性を持ったものが使用されている。しかし、低温、特に0℃を下回る寒冷地で使用される時には粘度が高くなってエンジンオイルとして不適当な粘性となる。そしてエンジンが作動して温度が上昇するにしたがってその粘度が次第に低下し、前記所定の温度で適正な粘度を保持する特性を持っている。
【0005】
従って、エンジンが停止して冷却状態にある時には、このエンジンの構成部材の摩擦部分に存在しているエンジンオイルのフイルムが形成されていない上に粘度が高くなっていることから、特に寒冷地ではエンジンのスタート時には大きな摩擦力が作用するので、スターターを長く回転させたり、繰り返して操作することになる。また、エンジンが作動しても、走行状態に適したエンジン回転となって安定するまで暖機運転に十分な時間をかけなければならなかった。
【0006】
この暖機運転は運転者によって相違するが、約30分程度は行うのが普通であり、その間に燃料を無駄に消費し、また、その際にエンジンから大量の排気ガスを放出して燃費を悪化する。
【0007】
前記のようにエンジンが低温になるとエンジンオイルの粘度が高くなり、短時間内にエンジンを正常な状態に安定させることが困難である点を改善することを目的として、オイルクーラーに加熱された冷却水(ラジエター水)を流通してエンジンオイルを間接加熱できるように、通常の冷却水の循環路とは別に、加熱された冷却水の循環路を設けた装置が提案されている(特許文献1)。また、この特許文献1にはオイルパンの下面に温水管路を設け、これに加熱された冷却水を供給して加熱する装置も図示されている。
【0008】
一般に、エンジンに供給される燃料は、走行に使用されるものが20〜30%程度であり、残りの80〜70%が無駄な熱量となっている。つまり、ラジエターからの放熱やオイルパン等から放熱される熱の合計が35〜45%であり、機械損失が10%程度であり、残りが排気ガスで放棄されるものであるといわれている。
【0009】
つまり、シリンダ内の燃焼で発生した熱量は、冷却水を経由してラジエターによって空気中に放出され、また、高温の熱量を有する排気ガスはそのまま利用されることなく空気中に放出される。更に、あまり論議されていないが、エンジンの表面積におけるオイルパンを占める割合はかなりあり、その上、オイルパンは外気に直接触れる裸の状態のものであり、しかもその内部には約80℃前後のオイルが溜まっているから、このオイルパンも一種の放熱器として作用することになる。
【0010】
エンジンの燃焼室内の温度は運転状態に関係するが、700℃〜1000℃の高温であり、排気ガスは600℃程度であるといわれている。しかし、エンジン本体は冷却水により約80℃に保持されており、この意味においてエンジンは「一種の保温部材」として作動することが必要である。従って、特に冬季には冷たい空気に直接に触れるオイルパンが必要以上に熱を放出する放熱器を形成することは必然であるから、燃費の向上にはかなり問題であることは間違いない。
【特許文献1】特開平9−79020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記特許文献1に記載された発明は、寒冷時にエンジンの温度が低下している時に、冷却水の管路を切り替えて冷却水の温度を高めた状態でオイルクーラーに供給し、このオイルクーラーを通過するエンジンオイルを温めて粘度を低下させようとするものである。
【0012】
しかし、エンジンをスタートさせた時は、未だ冷却水が加熱されて温水とならず、暫くエンジンを駆動させた後でなければエンジンオイルを加熱できる温度にはならないから、その温度が適正になるまで暖機運転を必要とし、これに必要な時間とその間に消費される燃料が必要となり、燃料費の節減にはならない。
【0013】
前記のように冬季や寒冷地においてエンジンが停止状態ではシリンダやピストンが冷却状態である上にエンジンオイルの粘度が高くなっている。従って、エンジンのスタート時に前記シリンダやオイルパンを加熱できれば、エンジンスタートが容易となる上に暖機運転に要する時間を短縮することができる。
【0014】
また、自動車が走行する際に空気によってオイルパンなどが必要以上に冷却される状態になるが、このような時に、このオイルパンが断熱状態となって放熱量を減少させ、あたかも「エンジン内に熱を籠もらせた」状態で運転できれば、燃費を向上させる上に好ましいことは間違いない。
【0015】
一方、シリンダライナとシリンダボデイとの間には、電熱式加熱装置などを設置できる空間はなく、また、オイルパンに加熱装置を設けたり、断熱材からなる層を設けることも提案されていない。更に、現実にシリンダライナ等にヒーターを設けようとしても、これを設置する空間などがなく、ましてや1mm以下の超薄の耐久性のあるヒーターは提案されていない。
【0016】
本発明者は、以前から(1)セラミックス層と熱伝導性、(2)種類の異なるセラミックス層を二層あるいは三層に積層構造とした場合における、熱伝達性、積層するセラミックスの種類によるする熱伝達に差が発生することなどを多数の実験より確認している。
【0017】
本発明は、この実験結果をエンジンの部材の表面処理材料として適用することを検討した結果得られたものである。
【0018】
即ち、金属表面に二種類のセラミックス層による積層セラミックス層を適用する際、下側の、金属表面に直接に形成されるセラミックス層を電気絶縁層(第一セラミックス層)とし、その上に導電性セラミックス層(第二セラミックス層)を溶射し、この第二セラミックス層を電気抵抗発熱体として通電・発熱させて加熱方法を提供することを目的とするものである。
【0019】
また、本発明は、金属表面に二種類のセラミックス層を積層して上側のセラミックス層を抵抗発熱体として通電・発熱させるように構成することによって極く薄い発熱体を形成でき、しかも、金属表面と実質的に一体化させることによって振動や衝撃にも強い電熱式発熱体を提供するものである。
【0020】
更に本発明は、積層構造のセラミックス層が持つ特殊な性質、即ち、断熱性ないし遮熱性を有する点を利用してオイルパンなどからの不要な放熱を防止する手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記目的を達成するための本発明に係る加熱方法とこれを利用する装置は次のように構成されている。
【0022】
1)金属製物品の表面にプラズマ溶射によって電気絶縁性セラミックス層からなる第一セラミックス層と、この第一セラミックス層の上面に導電性セラミックス層からなる第二セラミックス層を溶射して積層し、更に前記第二セラミックス層の両端に給電線を配置し、この電極線の間に通電して前記第二セラミックス層を抵抗発熱体とし、前記第一セラミックス層を熱誘導層として前記金属製物品を加熱することを特徴としている。
【0023】
2)第2の加熱方法は、前記第一セラミックス層と第二セラミックス層とは、同温度に加熱した際の「分光放射エネルギー密度/セラミックス層より放射される波長」との関係で描かれた特性曲線において、それらの曲線の示すピーク値の位置の波長を比較し、長波長のセラミックス層を第一のセラミックス層として金属表面に直接溶射し、短波長のセラミックス層を第二のセラミックス層として前記第一のセラミックス層の上に溶射積層したことを特徴としている。
【0024】
3)第3の加熱方法は、前記第一セラミックス層は酸化アルミ、あるいは酸化アルミを主体とするセラミックス層であり、前記第二セラミックス層は酸化チタン、あるいは酸化チタンを主体とするセラミックス層で構成したとを特徴としている。
【0025】
4)また、第4の発明は、エンジンのシリンダブロックに支持されたシリンダライナあるいは前記シリンダブロックの下部に配置されているオイルパンの何れか一方、あるいは双方に、電気絶縁性の第一セラミックス層を溶射して形成し、更に前記第一セラミック層の表面に導電性の第二セラミック層を溶射積層し、前記シリンダライナあるいはオイルパンの何れか一方、あるいは双方に、エンジンの始動初期に必要とする短時間、前記第二セラミックス層に通電・発熱させて前記シリンダライナ及びオイルパンの一方、あるいは双方を加熱するように構成したエンジンである。
【0026】
5)第5の発明に係るエンジンは、前記第一セラミックス層は酸化アルミを主体とするセラミックス層であり、第二セラミックス層は酸化チタンであることを特徴としている。
【0027】
6)第6の発明に係るエンジンの放熱防止装置は、エンジンのシリンダブロックの下方に設けたオイルパンの外表面に、酸化アルミ層と酸化チタン層の二層構造のセラミックス層を設けたことを特徴としている。
【0028】
なお、二種類のセラミックス層を積層する順序については、「分光放射エネルギー密度(縦軸)と、放射線の波長(横軸)」グラフ化した曲線、即ち、セラミックス層からの放射エネルギーの大きさが「温度」と「波長」または「波数」だけで決まる「プランクの放射式」から得られる「分光放射発散度曲線」で示されるセラミックスの特性を判定基準としたものである。
【0029】
例えば、金属製物品の表面に二樹類のセラミックス層を積層し、このセラミックス層の表面を熱源に対面して受熱する場合は、高温側に酸化チタンを、金属製物品側に酸化アルミを積層して熱流に方向性を与えることを意味する。
【0030】
また、金属製物品の内面から外表面側に伝熱する場合は、前記順序で積層したセラミックス層が「断熱効果ないし遮熱効果」を発揮する特性を有する。熱源側(上側の層)に酸化チタン層を、また、金属製物品側(下側の層)に酸化アルミ層を配置したものは、積極的に熱エネルギーを受入れる作用を有している反面、金属製物品側からの放熱に対して抵抗して断熱性ないし遮熱性を発揮する作用を持っている。
【0031】
本発明は、金属製物品の表面にプラズマ溶射によって電気絶縁性セラミックス層からなる第一セラミックス層と、この第一セラミックス層の上面に導電性セラミックス層からなる第二セラミックス層を積層し、更に前記第二セラミックス層の両端に給電を配置し、これらの両給電線の間に通電し、前記第二セラミックス層を発熱体とし、前記第一セラミックス層を熱誘導層として前記金属製物品を加熱することを特徴としている。
【0032】
本発明に係る第一セラミックス層である電気絶縁性セラミックス層として酸化アルミ、あるいは酸化アルミを主体とするセラミックス層を使用する。そして第二セラミックス層である導電性セラミックス層として酸化チタン、あるいは酸化チタンを主体とするセラミックス層を使用した二層構造のセラミックス層を適用し、しかも、第二セラミックス層を電気抵抗発熱体、あるいは導電材料として作用させることによって、金属製物品と一体化した、好ましくは1mm以下の厚さの発熱装置を提供することができるものである。
【0033】
特に、本発明を金属製物品として、自動車用エンジンのシリンダライナやオイルパンに適用することによって、エンジンのスタートと共にこれらを同時に、あるいは別々に加熱することによってエンジンオイルの温度を上昇させることができる。従って、寒冷時においてもエンジンの暖機運転を短縮し、エンジンの始動時における燃料の無駄を排除し、排気ガスの放出を削減することができる。
【0034】
また、前記二層構造のセラミックス層は、「遮熱材ないし断熱材」としての効果を有しており、エンジンの冷却され易い部材であるオイルパンに前記二層構造のセラミックス層を適用することによってエンジンからの無用な放熱を防止することによって燃費の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
(セラミックス層に関する基礎実験)
この基礎実験の目的は、「分光放射エネルギー密度/放射線の波長」との関係を示すグラフにおいて、同一温度で加熱された時に描かれるグラフのピーク値が異なる二種類のセラミックス層、例えば酸化アルミ層と酸化チタン層などを積層構造とする。
【0036】
そしてこのセラミックス層側を受熱面として被加熱物を加熱した際におけるセラミックス層の有無、セラミックス層の組合せによる熱伝達(受熱面より放熱面側への熱の移動量あるいは熱出力)の大小を確認するためのものである。
【0037】
また、付随的に、この二層構造のセラミックス層の有する遮熱性ないし保温性を確認するためのものである。
イ)被加熱体として焼きソバや野菜炒めなどを調理するホットプレート(30×40cm、厚さ5mmのアルミ板製、以下「トレー」と称する。)を準備した。
ロ)トレーの下面、即ち熱源側に設けるセラミックス層として下記4種類の試料を準備した。
【0038】
「試料1」セラミックス層(A):前記トレーの裏面(受熱面)に酸化アルミ(Al23)をプラズマ溶射して厚さ約100μmのセラミックス層を形成した。
【0039】
「試料2」セラミックス層(B):前記トレーの裏面に酸化チタン(Ti O2 )をプラズマ溶射して厚さ約100μmのセラミックス層を形成した。
【0040】
「試料3」セラミックス層(C):前記トレーの裏面に酸化アルミ(Al 23)を約100μm、更にその上面に酸化チタン(Ti O2 )をプラズマ溶射して厚さ約100μmに形成して二層構造のセラミックス層とした。
【0041】
「試料4」セラミックス層(D):前記トレーの裏面に酸化チタン(Ti O2)をプラズマ溶射して厚さ約100μmに形成し、その上面に酸化アルミ(Al 23)を約100μm溶射して二層構造のセラミックス層とした。なお、この試料4のセラミックス層は前記試料3とセラミックス層と逆転して形成されている。
【0042】
「試料5」前記トレーの裏面にセラミックス層を設けない、「ブランク」のもの。
ハ)実験方法
一定に安定して燃焼するようにガスバーナーの火加減を調節し、260℃〜390℃程度に加熱された状態における前記「試料1〜5」に記載された各トレーの熱出力特性を確認するために、以下の測定を行なった。この時、ガスバーナーの強さはできるだけ一定になるようにガスの供給量を一定にした。
・トレーの上面の温度測定には、非接触放射温度計(横河社製、PMシリーズ)を使用して前記試料1〜5のトレーについて同じ点の温度を測定し、比較する。
・一定温度に達したガスバーナーの上方15cmの位置に、前記トレーを支持してその表面の温度を前記温度計を利用して測定する。
【0043】
この実験の詳細を「表1」に示している。
【0044】
【表1】

【0045】
前記表1の結果より、下記のことが分かった。
【0046】
A)蒸発が早い順番: 3>2>4>1≫5
B)表面最高温度が高い順番:3>2>4>1≫5
〔実験結果の評価〕
1)トレーの表面温度は、この温度領域では明らかに「試料1」(酸化アルミ層)より「試料2」(酸化チタン層)の方が優れていることが分かる。
2)前記温度領域では、セラミックス層が単層である時は、「試料1」(酸化アルミ)より「試料2」(酸化チタン)が優れている。
3)複数のセラミックス層を形成したものは、「試料4」〔酸化チタン(下側)/酸化アルミ(上側)〕よりも、「試料3」〔酸化アルミ(下側)/酸化チタン(上側)〕が最も優れていることが理解できる。
【0047】
また、受熱面が金属面の場合(トレー5)の表面温度は「310℃」であるのに対して「試料3」は「393℃」であり、両者の間には「80℃」もの大きな温度差が形成されることを分かった。
4)「試料5」の全くセラミックス層を有しない「無処理」のものに比較すると、酸化アルミあるいは酸化チタンの単層であれ、前記「試料3」あるいは「試料4」のような複合層であれ、セラミックス層を施したトレーの方が熱伝達性(例えば、ビーカーに入れた水の蒸発速度を比較する)が30〜40%も早いこともわかった。
5)金属製物品被加熱体)の受熱面がそのままの無処理のものは、酸化アルミあるいは酸化チタンのセラミックス層を溶射したものより熱源より受熱する効率、つまりトレー上面の熱出力が低い。
【0048】
また、セラミックス層の種類は、低温では酸化アルミが有効であるが、高温では酸化チタンが有効である。
【0049】
また、金属製の被加熱体の表面にセラミックス層を設ける順序としては、下層に酸化アルミ層を、上層に酸化チタン層(導電材料)を配置した組合わせが、前記順序とは逆の順序に形成したものに比較して受熱効率(受熱した熱の伝達性)が優れている。
【0050】
詳細は記載していないが、セラミックス層は1種類のものをプラズマ溶射したものが良く、混合体となると熱伝達性などが劣る傾向がある。
(遮熱・断熱効果実験)
直径200mm,深さ60mm,厚さ3mmのアルミ製の鍋を2個使用した。1個はその底部と側面に前記「試料3」と同様な「酸化アルミ層/酸化チタン層」の積層セラミックス層をプラズマ溶射したもの(処理鍋)と、何も処理しないブランク状のもの(無処理鍋)を準備した。
【0051】
そして前記2個の鍋に入れた水を90℃に加熱し、その直後に加熱を遮断して両者の自然冷却時間を比較した。その結果、積層セラミックス処理した鍋の方が、無処理の鍋より温水の温度低下が遅いことが判明した。これは積層構造のセラミックス層の断熱性ないし遮熱性を示すものである。
【0052】
この実験において注目すべき現象は、セラミックスの種類と積層する順序によって熱を積極的に取り込む性質があることが判明している。更に、この熱を積極的に取り込む性質は、熱が放出されるのを阻止する「遮熱効果あるいは断熱効果」を有することであり、前記のようにセラミックス層の積層構造を使用し、表面側のセラミックス層を導電材性のものを使用することにより、この積層セラミックス層を超薄型(例えば、1mm以下)のセラミックスヒーターとして有効に利用することができるのである。
(実 施 例)
図1は自動車用エンジン1のシリンダライナ2とオイルパン3の表面に、本発明に係るセラミックス層を使用した抵抗発熱体を形成した要部を示す斜視図である。図2はオイルパンの側面図であり、更に図3は、シリンダライナ2の表面にプラズマ溶射で形成したセラミックス層を示す断面図とセラミックス層を分解して示す正面図である。
【0053】
シリンダライナ2の表面に電気絶縁性のセラミックスを溶射して第一セラミックス層C1 (絶縁性の下地層:酸化アルミ)を形成し、次いで、この第一セラミックス層C1 の上に電気伝導性(電気抵抗体)のセラミックスを溶射して第二セラミックス層C2 (酸化チタン)を形成して二層構造の積層セラミックス層C3 を形成する。
【0054】
次に、前記第二セラミックス層C2 の端縁部にそれぞれ給電線4を配置する。この給電線4は、例えばタングステンからなる導体ペーストを用いて前記第二セラミックス槽C2 の表面に電気的に接続することができる。また、10mm程度の銅板などの金属バンドを使用することもできる。
【0055】
そしてこの複合セラミックス層C3 の外周面に耐熱性樹脂(例えば、ポリイミドやシリコン樹脂など)で被覆して耐水性と絶縁性とを与えている。
【0056】
この給電線4には配線5、5を接続して図示しないバッテリを電源とする給電装置(インバータ)が接続しており、この給電装置を介して直流を交流100Vに変換して給電するようになっており、この給電装置からの通電によって第二セラミックス層C2 が発熱する。その結果、複合セラミックス層C3 が発熱してシリンダライナ2が外周面より加熱される。
【0057】
図2に示すように、オイルパン3の長手方向の両側面と底面の3面にわたって前記構成の複合セラミックス層C3 が側面視U形に被覆状に形成している。そしてこの複合セラミックス層C3 の両縁に前記のようにして給電線4を配置し、この給電線に配線5を接続し、この配線5を通じて給電装置より給電することによってオイルパン3を外周面よりエンジンスタートの短時間(約10分〜20分以内)に加熱するようになっている。なお、図1及び図2の電極線4〜4の間の電気抵抗値は約100Ω程度のものである。
【0058】
なお、詳細は図示されていないが、前記複合セラミックス層C3 の表面は、図3と同様に耐熱性樹脂などによって熱的・電気的に絶縁され、更に損傷から保護されている。更に必要に応じて前記セラミックス層C3 の外表面全体を金属製カバーで覆って外部からの衝撃に耐えるように強度を持たせることもできる。
【0059】
図4は、前記シリンダライナ2の外周面及びオイルパン3の外周面に設ける複合セラミックス層C3 を形成している第二セラミックス層C2 に接続した給電線4との状態を示す正面図であり、図1に示したものはこのような状態になっている。
(セラミックス層の変形パターン)
第一セラミックス層C1 と、第二セラミックス層C2 及び複合セラミックス層C3 は図1及び図3に図示したようにシリンダライナ2の外周面を覆って鉢巻きをするように設けるのが最も好ましいが、必要に応じてシリンダライナ2の外周面に、平行する縦縞状、斜め縞状、更に斜め2方向にクロスさせた縞模様の形状など、各種のパターンのものを採用することもできる。
【0060】
図5は、電気絶縁性の第一セラミックス層C1 として使用するアルミナ(Al 2 O3)と、電気伝導性を持って発熱性電気抵抗体として機能する第二セラミックス層C2 として使用する酸化チタン(Ti O2 )からなるセラミックスを、一定の温度に加熱したときの「分光エネルギー密度」(縦軸)と「波長」(横軸)との概略の関係を示すグラフである。
【0061】
第二セラミックス層C2 (発熱層)は点Xでピーク値を持ち、第一セラミックス層C1 は線Yでピーク値を持っており、第二セラミックス層C2 の方が第一セラミックス層C1 より周波数が短い所に分布曲線のピーク値を持っている。
【0062】
この二つのピーク値の位置X、Yにおける波長a、bの間の間隔が、熱エネルギーの移動方向を指向させる性質に関係しており、この間隔が広いと、狭いものよりも熱エネルギーの移動(熱伝達性)が良好であるようである。
【0063】
本発明によれば、シリンダライナ2やオイルパン3等の被加熱物の表面(外面)に第一セラミックス層C1 と第二セラミックス層C2 とからなる複合セラミックス層C3 を直接にプラズマ溶射して形成する。そして第二セラミックス層C2 を電気抵抗式発熱体としてこれに通電してシリンダライナ2などを直接に加熱できる効果がある。
【0064】
また、電気抵抗発熱体(導電材料)としてプラズマ溶射して形成された第二セラミックス層C2 に、給電装置より通電することで発熱させてシリンダライナ2やオイルパン3を加熱できるので、特に、寒冷地でエンジンが冷却された状態にあっても、スターターの始動と共に前記シリンダライナなどの部材を加熱する。その結果、エンジンオイルが接触する部材が加熱されて間接的にエンジンオイルが加熱されることになるので、暖機運転に要する時間を、通常のエンジンに比較して短縮できる。その結果、暖機運転に要する燃料費を節減し、排気ガスの無駄な排出を抑制できる。
【0065】
本発明は、オイルパンのような金属製物品(被加熱物)の表面に電気絶縁性の第一セラミックス層C1 を、その上に導電性セラミックス層C2 を積層した積層セラミックス層C3 を形成しているので、積層セラミックス層C3 自体を発熱体とすることができ、極く薄い電熱装置を付加したことになる。
【0066】
従って、積層セラミックス層C3 の「受熱性、熱伝導性、あるいは熱を一方向に案内する性質」などの特性と、電熱発熱器としての特性との両作用効果を有しており、熱効率の優れた電熱式加熱装置を提供することができる。
【0067】
更に、金属製物品(被加熱物)と前記発熱体とは一体化されているので、コンパクトな発熱装置(ヒーター)とすることができ、例えば、自動車用エンジンの冬季における始動性を大幅に改善することができる。
【0068】
本発明においては、積層セラミックス層C3 を構成する第一セラミックス層C1 に酸化アルミを、また、第二セラミックス層C2 に酸化チタンを使用するのが最も良いが、他のセラミックスでも同様な特性を持つものであれば、これを使用することができる。
【0069】
また、本発明は、自動車用エンジンのみではなく、焼き調理器などの調理装置にも適用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明を適用したエンジンの主要部材を示す概略図である。
【図2】本発明を適用したオイルパンの側面である。
【図3】本発明を適用したシリンダライナの一部を断面し、一部を展開した図面である。
【図4】複合セラミックス層の全体を示す概念図である。
【図5】セラミックス層を加熱した状態における分光エネルギー密度と波長との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
1 エンジン
2 シリンダライナ
3 オイルパン
4 給電線
5 配線
C1 第一セラミックス層(電気絶縁層)
C2 第二セラミックス層(導電層)
C3 複合セラミックス層(ヒータないし遮熱層として作用する)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製物品の表面にプラズマ溶射によって、電気絶縁性セラミックス層からなる第一セラミックス層と、この第一セラミックス層の上面に導電性セラミックス層からなる第二セラミックス層を形成し、更に前記第二セラミックス層の両端に給電線を配置し、この両給電線の間に通電して前記第二セラミックス層を発熱体とし、前記第一セラミックス層を熱誘導層として前記金属製物品を加熱することを特徴とするセラミックス層を発熱体とする加熱方法。
【請求項2】
前記第一セラミックス層と第二セラミックス層とは同温度に加熱した際における、分光放射エネルギー密度/セラミックス層より放射される波長との関係で描かれた特性曲線において、それらの曲線の示すピーク値の位置の波長を比較し、長波長のセラミックス層を第一のセラミックス層として金属表面に直接溶射し、短波長のセラミックス層を第二のセラミックス層として前記第一のセラミックス層の上に積層したことを特徴とする請求項1に記載のセラミックス層を利用した加熱方法。
【請求項3】
前記第一セラミックス層は、酸化アルミあるいは酸化アルミを主体とするセラミックス層であり、前記第二セラミックス層は酸化チタンあるいは酸化チタンを主体とするセラミックス層であることを特徴とする請求項1記載のセラミックス層を利用した加熱方法。
【請求項4】
エンジンのシリンダブロックに支持されたシリンダライナあるいは前記シリンダブロックの下部に配置されているオイルパンの何れか一方あるいは双方に、電気絶縁性セラミックス層からなる第一セラミックス層を溶射して形成し、更に前記第一セラミック層の表面に導電性セラミックス層からなる第二セラミック層を溶射して積層し、前記シリンダライナあるいはオイルパンの何れか一方あるいは双方に、エンジンの始動初期に前記第二セラミックス層に通電発熱させて、前記シリンダライナ及びオイルパンの一方あるいは双方を加熱し、エンジンオイルの粘度を低下させるように構成したエンジン。
【請求項5】
前記第一セラミックス層は酸化アルミを主体とするセラミックス層であり、第二セラミックス層は酸化チタンであることを特徴とする請求項4に記載のエンジン。
【請求項6】
エンジンのシリンダブロックの下方に設けたオイルパンの外表面に、酸化アルミ層と酸化チタン層の二層構造のセラミックス層を設け、このセラミックス層を遮熱層としたことを特徴とするエンジンの放熱防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−113803(P2010−113803A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44773(P2007−44773)
【出願日】平成19年2月24日(2007.2.24)
【出願人】(508189441)ナサコア株式会社 (11)
【Fターム(参考)】