説明

導電性高分子用エッチング液及び導電性高分子をパターニングする方法

【課題】導電性高分子に対し優れたエッチング処理能力を有する導電性高分子用エッチング液を提供すること。
【解決手段】(1)塩酸を5重量%以上含有し、硝酸を20重量%以上含有し、(塩酸濃度+0.51×硝酸濃度)の値が35重量%以下であり、かつ(塩酸濃度+0.5×硝酸濃度)の値が30重量%以上であるエッチング液、(2)臭素酸化合物を3重量%以上40重量%以下含有し、かつ無機酸を4重量%以上含有するエッチング液、(3)塩素酸化合物を6重量%以上40重量%以下含有し、かつハロゲン化水素を7重量%以上含有するエッチング液、(4)過マンガン酸化合物を0.001重量%以上20重量%以下含有するエッチング液、又は、(5)6価クロム化合物を3重量%以上30重量%以下含有するエッチング液、よりなる導電性高分子用エッチング液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子用エッチング液及び導電性高分子をパターニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、透明導電膜としては、インジウムを含むITO(酸化インジウムスズ)が主に使われているが、Inは可採埋蔵量が3千トンという希少元素で早ければ2011年〜2013年頃には可採埋蔵量を使い切ってしまう、といった予測もあり、Inを使わないITOの代替材料の開発が急務である。導電性高分子の導電率は目覚しく向上しており、ITOの代替材料として導電性高分子は有望である。
この導電性高分子は、導電性、光の透過性、発光性、製膜後もフレキシブルであるという特徴をもっており、透明導電膜、電解コンデンサー、帯電防止剤、電池、および有機EL素子等への応用が研究され、一部では実用化されている。
【0003】
電解コンデンサーの電解液よりも導電性が高く安定性も高い導電性高分子を使うことで、周波数特性が改善でき耐熱性にも優れた電解コンデンサーを作ることができる。
導電性高分子をポリマーフィルムの表面に薄く製膜することで透明性を保ったまま静電気を防止することができるため、このような導電性高分子は使い勝手の良い帯電防止フィルムや帯電防止容器として使用されている。
【0004】
導電性高分子は2次電池の正極として用いることができ、リチウムポリアニリン電池やリチウムイオンポリマー電池等に使われている。
発光層に導電性高分子を用いた高分子有機ELディスプレイがあり、基板にガラスではなくプラスチックを用いることで、フレキシブルなディスプレイを製作することができる。また、正孔輸送層にも導電性高分子を用いることができる。高分子有機ELディスプレイを含む有機ELディスプレイは、自発光のディスプレイなので視野角が広く、薄型化しやすく、色の再現性に優れる。また、正孔と電子の再結合による発光なので応答速度が速い。有機ELディスプレイはこのような優れた特徴を持っているために、将来有望なディスプレイである。
このように導電性高分子は将来のエレクトロニクス産業にとって有益な材料で、導電性高分子のパターニング方法は導電性高分子を使用するにあたって重要な技術である。
【0005】
導電性高分子をパターニングする方法には幾つかの種類がある。まず、インクジェット等の印刷法を使ったパターニングがある(例えば、特許文献1参照)。印刷法はパターニングと同時に製膜も行うため生産工程は簡便だが、導電性高分子をインク化する必要がある。しかし、導電性高分子は凝集しやすくインク化は難しい。また、印刷後の広がり防止や、インク乾燥後に液滴周辺部が中心部より厚くなる問題も存在する。これに対し、パターニングに広く用いられているフォトエッチング方法は均一な膜を製膜後にパターニングを行うので簡単な製膜方法を採用できる利点がある。
【0006】
導電性高分子をエッチングによってパターニングする方法は、例えば、特許文献2及び特許文献3に開示されている。
しかしながら、特許文献2には、導電性高分子のエッチングに使用するエッチング液については述べられていない。
特許文献3には、導電性高分子としてpolypyrrole(PPy)に対して、次亜塩素酸塩又は(NH42Ce(SO43を用いたエッチングが述べられている。ここで用いている次亜塩素酸塩は、市販の漂白剤(Clorox(商品名) bleach)で、その水溶液はアルカリ性であり、エッチングに欠かせないフォトレジストにダメージを与えてしまう問題がある。また(NH42Ce(SO43を用いた実施例が記載されている。
また、特許文献3は、エッチングせずにフォトレジストで覆われなかった部分に薬液(例えばtetramethylammonium hydroxide(TMAH)、又はNH4OH)を接触させ電気抵抗を増加させたり、別の薬液(例えばHCl、HNO3、HClO4、及びH2SO4)を接触させ電気抵抗を減少させたりすることでパターニングする方法を述べている。特に有機ELディスプレイ等のディスプレイ用途には素子間の絶縁性が重要である。
【0007】
【特許文献1】特開2005−109435号公報
【特許文献2】特開平5−335718号公報
【特許文献3】国際公開第1997/18944号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、導電性高分子に対し優れたエッチング処理能力を有する導電性高分子用エッチング液を提示すること、及び、前記導電性高分子用エッチング液を用いたパターニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の前記課題は、以下の達成手段1)〜5)、7)及び10)により解決された。好ましい実際態様である6)、8)及び9)と共に列記する。
1)(1)塩酸を5重量%以上含有し、硝酸を20重量%以上含有し、(塩酸濃度+0.51×硝酸濃度)の値が35重量%以下であり、かつ(塩酸濃度+0.5×硝酸濃度)の値が30重量%以上である、塩化ニトロシルを含有するエッチング液、
(2)臭素酸化合物を3重量%以上40重量%以下含有し、かつ無機酸を4重量%以上含有するエッチング液、
(3)塩素酸化合物を6重量%以上40重量%以下含有し、かつハロゲン化水素を7重量%以上含有するエッチング液、
(4)過マンガン酸化合物を0.001重量%以上20重量%以下含有するエッチング液、又は、
(5)6価クロム化合物を3重量%以上30重量%以下含有するエッチング液、
よりなる導電性高分子用エッチング液、
2)塩酸を5重量%以上含有し、硝酸を20重量%以上含有し、(塩酸濃度+0.51×硝酸濃度)の値が35重量%以下であり、かつ(塩酸濃度+0.5×硝酸濃度)の値が30重量%以上である、塩化ニトロシルを含有する導電性高分子用エッチング液、
3)臭素酸化合物を3重量%以上40重量%以下含有し、無機酸を4重量%以上含有する導電性高分子用エッチング液、
4)塩素酸化合物を6重量%以上40重量%以下含有し、かつハロゲン化水素を7重量%以上含有する導電性高分子用エッチング液、
5)過マンガン酸化合物を0.001重量%以上20重量%以下含有する導電性高分子用エッチング液、
6)酸を1〜50重量%含有する5)に記載の導電性高分子用エッチング液、
7)6価クロム化合物を3重量%以上30重量%以下含有する導電性高分子用エッチング液、
8)導電性高分子がポリアニリン類、ポリピロール類、又はポリチオフェン類である1)〜7)いずれか1つに記載の導電性高分子用エッチング液、
9)導電性高分子がポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)である1)〜7)いずれか1つに記載の導電性高分子用エッチング液、
10)1)〜9)のいずれか1つに記載の導電性高分子用エッチング液を用いる導電性高分子をパターニングする方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、導電性高分子に対し優れたエッチング処理能力を有する導電性高分子用エッチング液、及び、前記導電性高分子用エッチング液を用いたパターニング方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、導電性高分子用エッチング液は、塩化ニトロシル、臭素酸化合物、塩素酸化合物、過マンガン酸化合物、及び6価クロム化合物よりなる群から選ばれた酸化剤を含有することを特徴とし、導電性高分子をエッチングするために酸化剤により異なる最低の必要濃度を有し、また、酸化力を高めるための酸を共存させることができる。
本発明において、導電性高分子をパターニングする方法は、上記の酸化剤のいずれか1種を用いることを特徴とし、より詳しくは以下の通りである。
具体的には、本発明のエッチング液は、(1)塩酸を5重量%以上含有し、硝酸を20重量%以上含有し、(塩酸濃度+0.51×硝酸濃度)の値が35重量%以下であり、かつ(塩酸濃度+0.5×硝酸濃度)の値が30重量%以上である、塩化ニトロシルを含有するエッチング液、
(2)臭素酸化合物を3重量%以上40重量%以下含有し、かつ無機酸を4重量%以上含有するエッチング液、
(3)塩素酸化合物を6重量%以上40重量%以下含有し、かつハロゲン化水素を7重量%以上含有するエッチング液、
(4)過マンガン酸化合物を0.001重量%以上20重量%以下含有するエッチング液、又は、
(5)6価クロム化合物を3重量%以上30重量%以下含有するエッチング液、いずれか1つからなる導電性高分子用エッチング液である。
【0012】
以下に本発明の導電性高分子用エッチング液について順次説明する。なお、「%」は特に明記しない限り「重量%」を示す。
塩化ニトロシルは下式のように塩酸と硝酸を混合することで活性塩素と共に発生する。
HNO3 + 3HCl → NOCl + Cl2 + 2H2
本発明の塩化ニトロシルを含有するエッチング液は、塩酸を5%以上含有し、硝酸を20%以上含有し、(塩酸濃度+0.51×硝酸濃度)の値が35%以下であり、かつ(塩酸濃度+0.5×硝酸濃度)の値が30%以上である、塩酸と硝酸の混合物である。
【0013】
上記の塩化ニトロシル含有エッチング液において、硝酸の濃度は20%以上であるが、25〜50%が好ましく、30〜40%がより好ましい。また、前記エッチング液において、塩酸の濃度は5%以上であり、(塩酸濃度+0.51×硝酸濃度)で示す式の値が35%以下であり、(塩酸濃度+0.5×硝酸濃度)で示す式の値が30%以上となる関係を満たすものである。
【0014】
臭素酸化合物と塩素酸化合物は、単独ではエッチング能力が低いが、酸と組み合わせることによってエッチング能力を高めることができる。
臭素酸化合物含有エッチング液において、臭素酸化合物は臭素酸のアルカリ金属塩であり、ナトリウム塩又はカリウム塩が好ましい。臭素酸化合物の濃度は3〜40%であり、5〜35%が好ましく、10〜30%がより好ましい。
併用する無機酸としては、燐酸、硝酸及び硫酸が例示でき、硝酸及び硫酸が好ましい。
併用する無機酸の濃度は、4〜30%が好ましく、10〜25%がより好ましい。
【0015】
塩素酸化合物含有エッチング液において、塩素酸化合物は塩素酸のアルカリ金属塩であり、ナトリウム塩又はカリウム塩が好ましい。塩素酸化合物の濃度は、6〜40%であり、10〜35%が好ましい。
併用する無機酸としては、ハロゲン化水素が好ましく、塩酸及び臭化水素酸が例示でき、塩酸が好ましい。併用する無機酸の濃度は、7〜30%が好ましく、10〜25%がより好ましい。
【0016】
前述のような塩化ニトロシル、臭素酸化合物及び塩素酸化合物に共通するのは酸化性を有する化合物であるということであり、その他の酸化性を有する化合物としては、後に詳しく記載する過マンガン酸化合物と6価クロム化合物が好ましい。
【0017】
過マンガン酸化合物含有エッチング液において、過マンガン酸化合物はアルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩又はカリウム塩がより好ましい。過マンガン酸酸化合物の濃度は、0.001〜20%であり、0.01〜10%が好ましく、0.1〜5%がより好ましい。
【0018】
過マンガン酸化合物は対イオンの影響で水溶液がアルカリ性になることがある。アルカリ性のエッチング液はレジストに悪影響を与えることがあるので、酸を加えて酸性にすることが好ましい。
過マンガン酸化合物に併用する酸としては、有機酸または無機酸があり、本発明においては無機酸が好ましい。本発明において、有機酸としては、ギ酸、酢酸及びプロピオン酸などが例示でき、好ましくは酢酸である。無機酸としては、燐酸、硝酸及び硫酸が例示でき、硝酸及び硫酸が好ましく、硫酸がより好ましい。併用する酸の濃度は、1〜50%が好ましく、5〜25%がより好ましい。
【0019】
本発明において6価クロム化合物を3%以上30%以下含有するエッチング液も導電性高分子用エッチング液として使用できる。
6価クロム化合物には、酸化クロム、クロム酸化合物とニクロム酸化合物があり、クロム酸化合物としてはアルカリ金属塩のものが例示でき、二クロム酸化合物としてもアルカリ金属塩のものが例示でき、これらのアルカリ金属塩としてはナトリウム塩またはカリウム塩が好ましい。本発明において6価クロム化合物を用いたエッチング液としては、クロム酸化合物より酸化クロムまたはニクロム酸化合物が好ましく、酸化クロムがより好ましい。6価クロム化合物の使用濃度は3〜30重量%であり、5〜25%が好ましく、10〜20%がより好ましい。
6価クロム化合物に無機酸を併用することが好ましく、この無機酸としては、燐酸、硝酸及び硫酸が例示でき、硝酸及び硫酸が好ましく、硫酸がより好ましい。併用する無機酸の濃度は、1〜50%が好ましく、5〜25%がより好ましい。
【0020】
本発明のエッチング液の溶媒としては、エッチング処理に影響のない媒体であれば、特に制限はないが、水であることが好ましい。また、前述のように、水溶媒に適宜有機酸又は無機酸を併用ことも好ましく、無機酸を併用することがより好ましい。
【0021】
本発明のエッチング液は、導電性高分子のエッチング処理能力に優れたものであることから実用的な導電性高分子のエッチングを行うことができる。よって、高分子有機ELディスプレイに代表されるディスプレイの表示画素部分の導電性高分子及び周辺回路と導電性高分子の接続部分のパターニング、タッチパネルの検出部分の導電性高分子及び周辺回路と導電性高分子の接続部分のパターニング、コンデンサー製造時に不要部分に付着した導電性高分子の除去といったエッチングの必要な用途において既存材料よりも優れた特性を示す導電性高分子の利用を促進することができる。
【0022】
本発明のエッチング液の使用例として、透明基板1(図1A)上に導電性高分子2(図1B)をコーティングし、この透明基板1(図1B)上にレジスト3(図1C)を塗布し(図1C)、回路マスク(不図示)を通して露光する(図1D)。そして露光したレジストをパターン状に除去し導電性高分子膜を露出させる(図1E)。露光した基板に本発明のエッチング液を用いてエッチングし(図1F)、導電性高分子膜をパターニングする。その後、洗浄し、露光したレジスト部を除去して導電性高分子膜がパターニングされた基板を得ることができる(図1G)。導電性高分子層は、10〜100nmの膜厚が好ましい。
【0023】
導電性高分子はπ電子が移動して導電性を示す。このような導電性高分子は多数報告されている。
本発明に用いることができる導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリフェニレン、ポリフルオレン、ポリビチオフェン、ポリイソチオフェン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリイソチアナフテン、ポリイソナフトチオフェン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリチアジル、ポリエチレンビニレン、ポリパラフェニレン、ポリドデシルチオフェン、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリフェニレンスルフィド等やその誘導体が例示できる。これらのうち、ポリアニリン類およびポリチオフェン類が好ましく、ポリチオフェン類がより好ましく、電気伝導度、空気中での安定性および耐熱性に優れたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェンが)最も好ましい。
また、導電性高分子を用いる際により高い電気伝導度を発現する目的で、ドーパントと呼ばれるドーピング剤を併用することができる。前記導電性高分子に用いることができるドーパントとしては、公知のドーパントを用いることができ、導電性高分子の種類に応じ、ハロゲン類(臭素、ヨウ素、塩素等)、ルイス酸(BF3、PF5等)、プロトン酸(HNO3、H2SO4等)、遷移金属ハライド(FeCl3、MoCl5等)、アルカリ金属(Li、Na等)、有機物質(アミノ酸、核酸、界面活性剤、色素、アルキルアンモニウムイオン、クロラニル、テトラシアノエチレン(TCNE)、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)等)等が例示できる。導電性高分子自体にドーピング効果を持つ自己ドープ型の導電性高分子であってもよい。また、導電性高分子としてポリチオフェン類を用いる場合、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を用いることが好ましい。
【0024】
本発明に用いることができる導電性高分子の導電率は、導電性を示す値の範囲であれば特に制限はないが、10-6〜104S/cmであることが好ましく、10-5.5〜103S/cmであることがより好ましく、10-5〜5×102S/cmであることが更に好ましい。本発明において用いる導電性高分子の導電率が上記範囲内であると、接続部分のパターニング等において好適であるので好ましい。
【0025】
また、本発明において、製膜後の導電性高分子は、使用時において、可視光域における透過率が高いものが好ましい。なお、透過率は、波長550nmにおいて60〜98%であることが好ましく、70〜95%であることがより好ましく、80〜93%であることが更に好ましい。導電性高分子自体の透過率が上記範囲内であると、ディスプレイ等に好適に使用できる。
ここで、本発明において、可視光域とは波長400〜700nmである。なお、透過率は、分光光度計により測定することができる。
【0026】
各種の導電性高分子が市販されている。Panipol社により製造され「Panipol」の商品名で市販されているポリアニリンは、機能性スルホン酸でドープした有機溶媒可溶型ポリアニリンである。Ormecon社により製造され「Ormecon」の商品名で市販されたポリアニリンは、有機酸をドーパントに用いた溶媒分散型ポリアニリンである。Bayer社により製造され「Baytron」の商品名で市販されているポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)はポリスチレンスルホン酸をドーパントとしている。その他に、アキレス(株)から商品名「STポリ」で市販されるポリピロール、東洋紡績(株)から商品名「PETMAX」で市販されるスルホン化ポリアニリン、マルアイ(株)から商品名「SCS−NEO」で市販されるポリアニリンも本発明に使用できる。
【0027】
特許流通促進事業として特許流通支援チャートの平成13年度 化学6「有機導電性ポリマー」に記載されている導電性高分子も本発明に使用できる。
【0028】
本発明のエッチング液を使用する際のエッチング時の液温は、10〜70℃であることが好ましく、20〜60℃がより好ましい。本発明のエッチング液において、上記範囲の液温であるとエッチングの処理能力が優れるので好ましい。
本発明のエッチング液を使用する際のエッチング時間は、0.2〜30分間が好ましく、0.3〜25分間がより好ましく、0.4〜15分間が更に好ましい。本発明のエッチング液において、上記範囲のエッチング時間であるとエッチング処理において基板等に与えるダメージが少ないので好ましい。
本発明のエッチング液を用いるエッチング方法は浸漬法とスプレー法どちらでも使用可能である。
【0029】
本発明のエッチング液においてエッチングでのパターニングには、エッチング液で導電性高分子が溶解しない部分を保護する、フォトレジストが必要になる。当該フォトレジストは紫外線を照射した部分が現像液に溶解するポジ型と紫外線を照射した部分が現像液に不溶化するネガ型がある。ポジ型は液体のレジストが多くディスプレイではLCD等の線幅が数μmオーダーのエッチングに用いられる。ネガ型はドライフィルムレジストが多くディスプレイではPDP等の線幅が数十μmオーダーのエッチングに用いられる。ポジ型とネガ型どちらのレジストも本発明において使用可能なので、目的とするパターンの精細度によってポジ型とネガ型を選べばよい。
【0030】
基板としては、ガラス、石英、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリオレフィン(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)、ポリイミド、ポリアクリレート、メタクリレート等が挙げられる。
【0031】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、これらの実施例で本発明が限定されるものではない。
【0032】
(実施例1〜5)
ポリエチレンテレフタレート(PET)シートの表面に導電性高分子としてBAYTRON P(商品名、スタルク株式会社製、ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン含有)を用いて、乾燥膜厚50μmの薄膜を作製したものをテスト基板(B)とした。ドライフィルムレジスト製品名ORDYL LF525(東京応化工業株式会社製)を、ラミネーターを用いてテスト基板(B)に貼り付けた(C)。ドライフィルムレジストを貼り付けた前述のテスト基板(C)に、型枠式真空露光機を用いてマスターパターンを密着させながら紫外線を照射して露光した(D)。1%Na2CO3水溶液を現像液として、30℃に調節しながら露光済みのテスト基板(D)にスプレー圧力1MPaで噴霧し、現像した(E)。実施例1として、現像済みのテスト基板(E)を水洗後、HClが16.1%でHNO3が32.3%の水溶液(濃塩酸、濃硝酸とイオン交換水を混合したもの)に液温30℃で浸漬してエッチングを行った(F)。なお、このエッチングは、最長30分間行った。
3%NaOH水溶液を液温30℃に調節しながらエッチング済みのテスト基板(F)を2分間浸漬しドライフィルムレジストを剥離した(G)。
ドライフィルムレジストを剥離したテスト基板(G)を水洗し、乾燥吸気を吹き付けてテスト基板を乾燥した。
実施例2〜5として、HCl及びHNO3の濃度を表1に示したように変化させた他は実施例1と同様に実施した。
【0033】
乾燥後のテスト基板を走査型電子顕微鏡で観察し、現像液でドライフィルムレジストを除去した部分の導電性高分子のエッチング残りが無く、基板のPETが露出しているかどうかを確認した。この評価は、基板上の導電性高分子が無くなるのに必要なエッチング液への浸漬時間をエッチング所要時間とした。この結果を表1に記載した。
エッチング所要時間の判定基準は下記の通りとした。
×:30分より長時間
△:5〜30分以内
〇:1〜5分以内
【0034】
(比較例1〜7)
エッチング液の組成を表中の成分とした以外は実施例1と同じ方法を用い、エッチング所要時間を求めた、この結果を表1に実施例と一緒に記載した。
【0035】
【表1】

【0036】
エッチング所要時間の判定基準は下記の通りとした。
×:30分より長時間
△:5〜30分以内
〇:1〜5分以内
◎:1分以内
【0037】
(実施例6〜16)
臭素酸化合物を3〜40重量%含有するエッチング液の組成を表2に示す配合とした以外は実施例1と同じ方法を用いて、エッチング所要時間を求めた、この結果を表2に配合と共に記載した。
【0038】
(比較例8〜15)
エッチング液の組成を表中の成分とした以外は実施例1と同じ方法を用い、エッチング(所要)時間を求めた、この結果を表2に記載した。
【0039】
【表2】

【0040】
表中の「−」はその成分を含まないことを表している。
エッチング所要時間の判定基準は、実施例1と同じである。
【0041】
(実施例17〜19)
塩素酸化合物を6〜40重量%含有するエッチング液の組成を表3に示す配合とした以外は実施例1と同じ方法を用いて、エッチング所要時間を求めた、この結果を表3に配合と共に記載した。
【0042】
(比較例16〜21)
エッチング液の組成を表3中の成分とした以外は実施例1と同じ方法を用い、エッチング所要時間を求めた、この結果も表3に記載した。
【0043】
【表3】

【0044】
(実施例20〜26及び比較例22)
過マンガン酸化合物を0.01〜20重量%含有するエッチング液の組成を表4に示す配合とした以外は実施例1と同じ方法を用いて、エッチング所要時間を求めた、この結果を表4に配合と共に記載した。
【0045】
【表4】

【0046】
(実施例27〜29及び比較例23)
無水クロム酸を3.6〜20重量%含有するエッチング液の組成を表6に示す配合とした以外は実施例1と同じ方法を用いて、エッチング所要時間を求めた、この結果を表6に配合と共に記載した。
【0047】
【表5】

【0048】
(実施例30〜37)
実施例1で使用した導電性高分子の替わりにスルホ化ポリアニリン又はポリピロールを使用し、又、エッチング剤を表6に記載した各種の酸化剤を使用してエッチング所要時間を試験した。得られた結果も同じく表6に示す。%は重量%を意味する。
塩化ニトロシル、臭素酸化合物、塩素酸化合物、過マンガン酸化合物及び6価クロム化合物が、ポリアニリンスルホン酸及びポリピロールに対して良好なエッチング剤であることが確認できた。
なお、エッチング所要時間の判定基準は、実施例1と同じである。
【0049】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のエッチング液を用いることで、高分子有機ELディスプレイに代表されるパターニングが必要なディスプレイ用途等に導電性高分子を容易に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明のエッチング剤を用いて導電性高分子をエッチングして導電性高分子の回路パターンを得る概略工程図の一例である。
【符号の説明】
【0052】
A 透明基板のみの概念図
B 透明基板に導電性高分子膜を取付けた概念図
C 導電性高分子膜の上にレジストを設けた概念図
D 回路パターンを通してレジストを露光した概念図
E 露光後にレジストの回路パターンを形成した一例の概念図
F 本発明のエッチング剤を用いて導電性高分子膜をエッチングした後の概念図
G レジストを除去して導電性高分子を用いた回路パターンが完成した概念図
1 透明絶縁基板
2 導電性高分子膜
3 レジスト
4 露光したレジスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)塩酸を5重量%以上含有し、硝酸を20重量%以上含有し、(塩酸濃度+0.51×硝酸濃度)の値が35重量%以下であり、かつ(塩酸濃度+0.5×硝酸濃度)の値が30重量%以上である、塩化ニトロシルを含有するエッチング液、
(2)臭素酸化合物を3重量%以上40重量%以下含有し、かつ無機酸を4重量%以上含有するエッチング液、
(3)塩素酸化合物を6重量%以上40重量%以下含有し、かつハロゲン化水素を7重量%以上含有するエッチング液、
(4)過マンガン酸化合物を0.001重量%以上20重量%以下含有するエッチング液、又は、
(5)6価クロム化合物を3重量%以上30重量%以下含有するエッチング液、
よりなる導電性高分子用エッチング液。
【請求項2】
塩酸を5重量%以上含有し、硝酸を20重量%以上含有し、(塩酸濃度+0.51×硝酸濃度)の値が35重量%以下であり、かつ(塩酸濃度+0.5×硝酸濃度)の値が30重量%以上である、塩化ニトロシルを含有する導電性高分子用エッチング液。
【請求項3】
臭素酸化合物を3重量%以上40重量%以下含有し、かつ無機酸を4重量%以上含有する導電性高分子用エッチング液。
【請求項4】
塩素酸化合物を6重量%以上40重量%以下含有し、かつハロゲン化水素を7重量%以上含有する導電性高分子用エッチング液。
【請求項5】
過マンガン酸化合物を0.001重量%以上20重量%以下含有する導電性高分子用エッチング液。
【請求項6】
酸を1〜50重量%含有する請求項5に記載の導電性高分子用エッチング液。
【請求項7】
6価クロム化合物を3重量%以上30重量%以下含有する請求項1に記載の導電性高分子用エッチング液。
【請求項8】
導電性高分子がポリアニリン類、ポリピロール類、又はポリチオフェン類である請求項1〜7いずれか1つに記載の導電性高分子用エッチング液。
【請求項9】
導電性高分子がポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)である請求項1〜7いずれか1つに記載の導電性高分子用エッチング液。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の導電性高分子用エッチング液を用いる導電性高分子をパターニングする方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−115310(P2008−115310A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301212(P2006−301212)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(000215615)鶴見曹達株式会社 (49)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】