説明

導電膜または配線の形成法

【課題】 高分子フイルムなどの熱に弱い基板上で導電性粉末の分散液またはペーストを焼結して導体膜を形成する。
【解決手段】 液状媒体に導電性粒子を分散させた分散液またはペーストを基板上に塗布し、この基板上に塗布された分散液またはペーストに振動磁界を照射して基板上に導電性焼結体を形成する導電膜または配線の形成法である。導電性粒子は平均粒径が10μm以下の金属粒子および/または導電性金属酸化物粒子であるのがよく、振動磁界の周波数は2〜20万ヘルツである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物微粒子による透明導電膜の形成や、銀等の金属微粒子を用いた配線や電極等の形成を有利に行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Sn含有In酸化物(ITO) やSnO2などは可視光に対する透光性と高い導電性を示すことから各種表示デバイスや太陽電池等の透明酸化物導電膜として用いられている。ITO用いた透明導電膜の形成には、スパッタ法等の物理的方法や、粒子分散液または有機化合物を塗布する塗布法が知られているが、塗布法はスパッタ法等の物理的方法に比べて高価な装置を用いることなく大面積や複雑形状の成膜が可能でコスト的に有利である。このためブラウン管の電磁波シールド膜として広く用いられているが、近年ではタッチパネル、液晶ディスプレイ(LCD) 、プラズマディスプレイ(PDP)、エレクトロルミネセンス(EL)等の表示デバイス、太陽電池用透明電極への適用も検討されている。
【0003】
しかし塗布法による膜は、スパッタ膜などに比べてまだ導電性が低く、特に有機高分子フイルム上に塗布する場合は、フイルムの耐久性上から高温処理することができず、粒子間接触が不十分となって導電性が低下するという問題があった。事実、例えば特許文献1に見られるように、焼成温度が低いITOの成膜では表面抵抗が高くなる結果が示されている。
【0004】
最近この問題を解決するために、特許文献2や特許文献3において、導電性金属酸化物微粒子の塗膜や、半導体微粒子分散液の塗膜にマイクロ波を照射して粒子間の焼結を行なわせる成膜法が提案されている。マイクロ波は誘電体損失の大きいもの以外は加熱しないで被加熱物自体が直接的に同時に発熱するので比較的均一に被加熱物を加熱でき、また通常の外部加熱方式に対して基材の熱変質が無いためにフイルムに損失を与えずに対象物質を焼結できるという特徴がある。
【0005】
【特許文献1】特開平4-26768 号公報
【特許文献2】特開2000-123658 号公報
【特許文献3】特開2004-342319 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
導電体膜(電極)としては当然ながら金属も多く使われているが、固体粒子の大きさがnmオーダー(ナノメートルオーダー)になると比表面積が非常に大きくなるので気体や液体との界面が極端に大きくなる。したがって、その表面の特性が固体物質の性質を大きく左右するようになるが、nmオーダーの金属粒子粉末の場合は、融点がバルク状態のものに比べ劇的に低下することが知られている。このためμmオーダーの粒子に比べて微細な配線の描画が可能になり、しかも低温焼結できる等の利点を具備するようになる。特に銀は低抵抗でかつ高い耐候性を持ち、金属の価格も他の貴金属と比較して安価であることから、微細な配線幅を持つ次世代の配線材料として期待されている。しかし、マイクロ波は金属表面で反射するために金属粒子の加熱ができず、銀粒子のような導電膜を上記酸化物と同様にマイクロ波で焼結させることはできない。このようにマイクロ波では被加熱材料に制限を受けるという問題がある。
【0007】
また、マイクロ波による焼結処理には、キャビティの密閉性に加えて、導波管やスターラーファンの位置、形状、条件等を適正に規制することが必要となり、量産レベルの生産においてはコスト増の問題が依然残っている。
【0008】
したがって、安価で汎用性があり、有機高分子フイルムような基材に損失を与えずに十分な導電性を持った導電膜、配線を形成する方法が求められている。本発明はこの要求を満たすことを課題としたものであり、耐熱性に劣る有機高分子フイルム等の基板上に塗布された導電性分散液やペーストを、基板を劣化させることなく十分に焼結させて、低抵抗の導体とする方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、液状媒体に導電性粒子を分散させた分散液またはペーストに、該粒子同士が焼結するに十分な振動磁界を照射して導電性焼結体を形成する導電膜または配線の形成法を提供する。より具体的には、液状媒体に導電性粒子を分散させた分散液またはペーストを基板上に塗布し、この基板上に塗布された分散液またはペーストに振動磁界を照射して基板上に導電性焼結体を形成する導電膜または配線の形成法を提供する。ここで、導電性粒子は平均粒径が10μm以下の金属粒子および/または導電性金属酸化物粒子を対象とすることができ、液状媒体としては有機化合物を主とする流体を使用することができる。振動磁界の周波数が2〜20万ヘルツであるのがよい。基板としては高分子フイルムであることができる。本発明によれば、このようにして導電性粒子の分散液またはペーストに振動磁界を照射して形成した導電膜または配線を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、耐熱性に劣る有機高分子フイルム等の基板上に塗布された銀粒子のような高導電性粒子の分散液またはペーストを、その基板を劣化させることなく、十分に焼結させて低抵抗の導電膜や配線を安価に形成できる。しかも、分散液またはペースト中の酸化物粒子と金属粒子との組み合わせにより、形成される焼結体の透明性と導電性が調整可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者は、液状媒体に導電性粒子を分散させた分散液またはペースト(以下単に分散液またはペーストと言うことがある)の塗膜から該粒子の焼結体の導体を形成する方法として、周波数2〜20万ヘルツの振動磁界を該塗膜に印加すると、前記のような問題なく低抵抗の導線膜や配線が得られることを見い出した。
【0012】
該分散液またはペーストの塗膜に印加する振動磁界は、磁力発生コイル(加熱コイル)に高周波電流を通電することによって発生させることができ、振動磁界が分散液またはペーストの塗膜に印加されると塗膜内に渦電流が発生して発熱し、その発熱により粒子同士が焼結する。基板として有機高分子フイルムを使用する場合には、導電体ではないので誘導電流による発熱は起こらない。このため、適用する導電性粒子同士が焼結するに十分な渦電流を発生させることにより、高分子フイルムを劣化させることなく粒子同士を焼結させることができる。
【0013】
より具体的には、高周波インバーターから所定の交流電流を加熱コイルに流して高周波磁界を発生させ、この高周波時間を該塗膜に照射すると、電磁誘導によりこの高周波磁界を打ち消す方向に塗膜中にうず電流が流れてジュール熱が発生し、これより塗膜が発熱する。したがって、電気炉のような外部加熱方式と異なって基板の有機高分子フイルムは加熱されないので、塗膜の温度がそれほど高くならない場合には、耐熱性に劣る有機性高分子フイルムを基板に使用しても焼結時に劣化することはない。ナノ粒子のような微粒子の導電性物質の分散液またはペーストの場合には、該微粒子の表面活性によって焼結温度が低くなるのが通常であるから、振動時間による低温焼結が有利に行い得る。
【0014】
以下に本発明で特定する事項を個別に説明する。
本発明では液状媒体に導電性粒子を分散させた分散液またはペーストに振動磁界を照射して該粒子同士を焼結するものであるが、その導電性粒子としては、酸化物粒子および/または金属粒子が適用できる。
【0015】
〔酸化物粒子について〕
透明導電膜として使用される酸化物粒子としては、Sn含有In23(ITO)、Zn含有In23(IZO)、F含有In23(FZO)、Sb含有SnO2(ATO)、ZnO、Al含有ZnO(AZO)、Ga含有ZnO(GZO)、CdSnO3、Cd2SnO4、TiO2、CdOなどが挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。この中で特にInもしくはSnを主体とした金属酸化物が導電性、透明性、安全性を両立する上で好ましい。
【0016】
酸化物粒子の粒経は、10μm以下、好ましくは1μm 以下、さらに好ましくは0.1μm以下が好ましい。粒径が10μmを超えると導電膜の平滑性が悪化するので好ましくない。比表面積は5m2/g以上50m2/g以下、好ましくは8m2/g以上40m2/g以下、さらに好ましくは10m2/g以上35m2/g以下であるのがよい。比表面積が5m2/g未満であると微粒子化が不十分で十分な透明性が得られず、50m2/gを超えると塗料化する際の分散が困難となるので好ましくない。
【0017】
このような酸化物粒子は公知の方法で製造することができ、例えば特開2000-3618 号公報に記述されているようなスパッタリング法や真空蒸着法を採用してもよく、あるいは四塩化スズ添加した三塩化インジウムの溶液を用いて気相反応を行う方法、アンモニウム炭酸塩の溶液に三塩化インジウムと四塩化スズとの混合溶液を滴下してインジウムとスズの共沈水酸化物を生成させ、これを水洗、乾燥し、さらにこの乾燥物を水素雰囲気または真空雰囲気内で加熱還元した後、粉砕する還元焼成方法等を採用することができる。また上記製法において四塩化スズに代えて二塩化スズを用いてもよく、この場合低抵抗化がより有利となる。
【0018】
〔酸化物粒子の分散液またはペーストについて〕
上記酸化物粒子を液状媒体中に分散させて分散液またはペースト状に塗料化する。塗料化の方法は従来の方法を使用することができる。液状媒体としてはアルコール、ケトン、エーテル、エステル等の有機溶媒や水を使用でき、分散剤としての界面活性剤やカップリング剤等を添加してビーズミル等の分散装置を用いて分散させるのが好ましい。バインダーを用いても用いなくてもよいが、バインダーを用いる場合はエポキシ樹脂、アクリル樹脂、塩ビ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニールアルコール樹脂等が使用できるが、これに限られない。
【0019】
〔金属粒子について〕
焼結して導電膜や配線を形成するための金属粒子にはAu、Ag、Cu、Ni等が挙げられる。抵抗率、耐候性、コストの面からはAgの粒子が好ましい。金属粒子の粒径は10μm以下、好ましくは1μm、さらに好ましくは0.1μmである。10μmを超えると導電膜の平滑性が悪化するので好ましくない。金属粒子の製法には気相法や液相法があるが、工業的観点からは液相法の方が好ましく、とくに液相法では有機溶媒中で銀化合物を還元し、有機溶媒として還元剤として機能するアルコールまたはポリオールを使用し、その還元反応を有機保護剤の存在化で進行させる製法によると、単分散したナノ粒子を形成することができる。
【0020】
〔金属粒子の分散液またはペーストについて〕
上記金属粒子を液状媒体中に分散させて塗料化するが、塗料化の方法は従来の方法を使用することができる。液状媒体としてはアルコール、ケトン、エーテル、エステル等の有機溶媒や水を使用でき、分散剤としての界面活性剤やカップリング剤等を添加してビーズミル等の分散装置を用いて分散させるのが好ましい。バインダーを用いても用いなくてもよいが、バインダーを用いる場合はエポキシ樹脂、アクリル樹脂、塩ビ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニールアルコール樹脂等が使用できるが、これに限られない。
【0021】
前記の酸化物粒子と金属粒子とを組み合わせて分散液またはペーストとすることにより形成される焼結体の透明性や導電性等の特性を調整することもできる。
【0022】
〔塗布方法および塗膜化について〕
導電性粒子の分散液またはペーストの塗布方法または塗膜化については、スクリーン印刷、スピンコート、ディップコート、ロールコート、刷毛コート、スプレーコート等の公知の方法を用いることができる。基板上に塗布する場合には、その基板材料としては、有機高分子、プラスチック、ガラス等を挙げることができ、形状としてはフイルム状のものが一般的である。タッチパネル等のようにフレキシビリティを要求される基板には高分子フイルムが好ましく、この場合にはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンタフタレート(PEN)、ポリイミド、アラミド、ポリカーボネート等のフイルムを用いることができる。
【実施例】
【0023】
〔実施例1〕( 酸化物粒子系)
平均粒経が30nmでBET法にて測定した比表面積が32m2/gの、SnO215%含有のITO粉末5gと、混合溶剤20g(エタノール:プロパノール=7:3)と、分散剤としてのアニオン系界面活性剤0.45gとを、遊星ボールミル(フリッチェ製P−5型、容器容量80mL、PSZ0.3mmボール)に入れ、回転数300rpmで30分間回転させた。次いで、得られた分散液にコロイダルシリカとエタノールを加えて、ITO粉末含有量:2%、シリカ含有量:2%、残部:エタノールおよびプロパノールの塗料を作成した。
【0024】
この塗料をポリエチレンナフタレートからなるフィルム基板上にアプリケータを用いて塗布して塗膜を作成し、この塗膜に周波数18万ヘルツの振動磁界を30分照射し、膜厚0.3μmの透明導電膜を作成した。得られた膜の抵抗値を三菱化学株式会社製のLoresta HPで四探針方式を用いて測定したところ500Ω/ □であり、また日本電色工業株式会社製のNDH2000で全光線透過率をJISK7361-1の規格に準拠して測定したところその透過率は85%であり、良好な透明導電膜が得られた。
【0025】
〔実施例2〕
溶媒兼還元剤としてのイソブタノール(和光純薬株式会社製の特級)140mLに、有機保護剤としてオレイルアミン(和光純薬株式会社製Mw267) 185.83mLと、銀化合物として硝酸銀結晶(関東化学株式会社製) 19.212gを添加し、マグネットスラーラーで攪拌して硝酸銀を溶解させ、この溶液を還流器のついた容器に移してオイルバスに載せ、容器内に不活性ガスとしてN2を吹き込みながら100℃の温度で還流を行った。その後、108℃温度を上げて還流して反応を終了した。反応後の銀微粒子のスラリーを遠心分離機で3000rpmで30分間固液分離を実施したあと上澄みを廃棄し、沈殿物にエタノールを加えて超音波分散機で分散させた。このスラリーに対して前記同様に遠心分離と上澄み廃棄および超音波分散を行う操作を3回繰り返して沈殿物を得た。
【0026】
この沈殿物にケロシン40mLを添加し超音波分散機にかけた。この銀粒子とケロシンの混濁液を遠心分離機を用いて3000rpm30分固液分離を実施し、上澄み液を回収し、平均粒経12nmの銀粒子粉末分散液を得た。
【0027】
この分散液をポリエチレンナフタレートからなるフィルム基板にアプリケータを用いて塗布して塗膜を作成した。この塗膜に周波数18万ヘルツの振動磁界を30分照射し、膜厚0.3μmの導電膜を作成した。作成した膜の抵抗値を実施例1と同様にして測定したところ、抵抗値が0.07Ω/ □であり良好な導電膜が得られた。
【0028】
〔実施例3〕
実施例2の方法で得られた銀粒子粉末分散液に、実施例1で用いたのと同じITO粉末を、Ag量が10wt%になるように添加して銀粒子とITO粒子の複合分散液を作成し、この複合分散液について実施例1と同様の操作を行って導電膜を作成した。得られた導電膜の抵抗値を測定したところ100Ω/ □で、透明率は75%であった。
【0029】
〔比較例1〕
実施例1を繰り返して得たITO塗膜を250℃の温度で電気炉で焼成することを試みたが、基板フイルムが燃焼して導電膜を作成することはできなかった。
【0030】
〔比較例2〕
実施例2を繰り返して得たAg粒子塗膜を250℃の温度で電気炉で焼成することを試みたが、基板フイルムが燃焼して導電膜を作成することはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状媒体に導電性粒子を分散させた分散液またはペーストに、該粒子同士が焼結するに十分な振動磁界を照射して導電性焼結体を形成する導電膜または配線の形成法。
【請求項2】
導電性粒子は平均粒径が10μm以下の金属粒子および/または導電性金属酸化物粒子であり、液状媒体が有機化合物を主とする流体である請求項1または2に記載の導電膜または配線の形成法。
【請求項3】
振動磁界の周波数が2〜20万ヘルツである請求項1または2に記載の導電膜または配線の形成法。
【請求項4】
液状媒体に導電性粒子を分散させた分散液またはペーストを基板上に塗布し、この基板上に塗布された分散液またはペーストに振動磁界を照射して基板上に導電性焼結体を形成する導電膜または配線の形成法。
【請求項5】
導電性粒子は平均粒径が10μm以下の金属粒子および/または導電性金属酸化物粒子であり、液状媒体が有機化合物を主とする流体であり、振動磁界の周波数が2〜20万ヘルツである請求項4に記載の導電膜または配線の形成法。
【請求項6】
基板が高分子フイルムである請求項4または5に記載の導電膜または配線の形成法。
【請求項7】
導電性粒子の分散液またはペーストに振動磁界を照射して形成した導電膜または配線。
【請求項8】
液状媒体に導電性粒子を分散させた分散液またはペーストにおいて、導電性粒子が平均粒径が10μm以下の金属粒子および/または導電性金属酸化物粒子であり、液状媒体が有機化合物を主とする流体であることを特徴とする分散液またはペースト。

【公開番号】特開2007−27487(P2007−27487A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208730(P2005−208730)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】