説明

小型直動案内ユニット

【課題】 トラックレールに追加工を施す必要をなくして、トラックレールの精度を向上させるとともに、製造コストを低減した小型直動案内ユニットを提供する。
【解決手段】
軌道溝4,5を有するトラックレールRを固定部材Aによって被取付面に固定するとともに、このトラックレールRにスライダSを跨がせて摺動させる小型直動案内ユニットにおいて、上記固定部材Aは、被取付面に対向する取付対向面6にトラックレールRを跨ぐ凹溝7を備えるとともに、トラックレールRに凹溝7を跨がせたとき、上記凹溝7の一部がトラックレールRに接触し、しかも、上記固定部材Aには、凹溝内7のトラックレールRから外れた位置に取付孔11を設け、ボルト等の止め部材10を上記取付孔11を介して被取付面に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラックレールに沿ってスライダを摺動させる直動案内ユニットを小型化した技術に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックレールにスライダを摺動させる直動案内ユニットは、トラックレールを被取付面に固定して用いられるが、トラックレールを被取付面に固定する場合、トラックレールの両端部にネジ穴を貫通させて設けるとともに、このネジ穴にボルトを締め付けて固定するのが一般的である。
そして、上記のような直動案内ユニットは、大型の工作機械に用いるようなものから、小型の工業製品に用いられるものまで種々開発されており、近年においては、トラックレールが5mm以下という超小型の直動案内ユニットが開発されている。
【0003】
このように、直動案内ユニットが小型化すると、トラックレールを被取付面に固定するための孔の加工が困難となり、特にトラックレールが5mm以下となる超小型の直動案内ユニットにおいては、この孔を加工することが不可能に近くなってしまう。
そこで、小型の直動案内ユニットにおいては、例えば、特許文献1,2に示すようにして、トラックレールを被取付面に固定すればよい。このようにすれば、トラックレールに孔を加工することなく、トラックレールを被取付面に固定することができる。
【0004】
具体的には、特許文献1に示すように、トラックレールの両端に嵌合溝を形成するとともに、この嵌合溝に固定部材を嵌合させて、固定部材を被取付面に固定する。また、特許文献2に示すように、トラックレールの両端に雄ねじを突設させるとともに、この突設した雄ねじを支持体に貫通させて、支持体を被取付面に固定する。このようにすれば、トラックレールにネジ穴を加工する必要がないので、超小型の直動案内ユニットであっても、トラックレールを被取付面に固定することができる。
【特許文献1】特許第3281157号
【特許文献2】特開2005−249113
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにしてトラックレールを被取付面に固定する際には、トラックレールの両端に雄ねじを突設させたり、嵌合溝を形成したりして、結局トラックレールの両端に追加工を施さなければならない。
このように、超小型のトラックレールの両端部に、雄ねじや嵌合溝を追加工すると、この追加工の影響によって、トラックレールに歪みやがたつきが生じて真直度を低下させるなど、トラックレールの精度を低下させてしまうという問題があった。
また、トラックレールに追加工を施す分だけ、加工費用がかかってしまい、その分製造コストが上昇するという問題があった。
【0006】
この発明の目的は、トラックレールに追加工を施す必要をなくして、トラックレールの精度を向上させるとともに、製造コストを低減した小型直動案内ユニットのトラックレール固着技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、軌道溝を有するトラックレールを固定部材によって被取付面に固定するとともに、このトラックレールにスライダを跨がせて摺動させる小型直動案内ユニットにおいて、上記固定部材は、被取付面に対向する取付対向面にトラックレールを跨ぐ凹溝を備えるとともに、トラックレールに凹溝を跨がせたとき、上記凹溝の一部がトラックレールに接触し、しかも、上記固定部材には、凹溝内のトラックレールから外れた位置に取付孔を設け、ボルト等の止め部材を上記取付孔を介して被取付面に固定する点に特徴を有する。
【0008】
第2の発明は、トラックレールに凹溝を跨がせたとき、上記凹溝がトラックレールの軌道溝と接触しない寸法関係を維持した点に特徴を有する。
第3の発明は、固定部材には、上記取付対向面から突出する突出部を設け、上記凹溝内にトラックレールを接触させた状態で、突出部の下面が被取付面に接触するとともに、この突出部と凹溝との間に上記取付孔を設けた点に特徴を有する。
第4の発明は、凹溝底面の両側に側壁を設け、これら両側壁は上記底面に向かって幅狭になるテーパ面にするとともに、このテーパ面をトラックレールに接触させた点に特徴を有する。
【0009】
第5の発明は、トラックレールに凹溝を跨がせたとき、固定部材が、トラックレールの軸線に沿う点に特徴を有する。
第6の発明は、トラックレールに凹溝を跨がせたとき、固定部材が、トラックレールの軸線に直交する点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、固定部材に設けた凹溝がトラックレールを跨ぐとともに、凹溝がトラックレールに接触するようにしたので、被取付面に固定するための追加工をトラックレールに施す必要がない。
したがって、追加工を原因とするトラックレールの精度低下を生じるおそれがなく、トラックレールを高精度に維持することができる。
また、追加工を施す必要がないため、その分製造コストを低減することができる。
第2の発明によれば、トラックレールに凹溝を跨がせたとき、上記凹溝がトラックレールの軌道溝と接触しないので、固定部材によってトラックレールを被取付面に固定しても、軌道溝が歪んだり変形したりしない。このように軌道溝が歪んだり変形したりしないので、トラックレールに対するスライダの着脱を常にスムーズにすることができる。
【0011】
第3の発明によれば、凹溝内にトラックレールを接触させた状態で、突出部の下面が被取付面に接触するので、止め部材によって固定部材を締め付けたとき、トラックレールが凹溝内に圧接する。したがって、被取付面に対してトラックレールをより強く固定することができる。
第4の発明によれば、凹溝の両側壁を底面に向かって幅狭になるテーパ面にするとともに、このテーパ面をトラックレールに接触させたので、トラックレールが幅方向にずれるのを確実に防ぐことができる。
また、テーパ面を底面に向かって幅狭になるように形成したので、トラックレールを跨ぐ凹溝の寸法管理をラフにすることができる。
【0012】
第5の発明によれば、トラックレールに凹溝を跨がせたとき、固定部材が、トラックレールの軸線に沿う関係にしたので、トラックレールを並列して配置した際に固定部材が邪魔にならない。
第6の発明によれば、トラックレールに凹溝を跨がせたとき、固定部材が、トラックレールの軸線に直交する関係にしたので、トラックレールの軸線方向にスペースがない場合にも、固定部材を確実に被取付面に固定することができる。
また、固定部材に複数の凹溝を設ければ、並列する複数のトラックレールを1つの固定部材で固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1〜4を用いて、この発明の第1実施形態について説明する。なお、この発明の直動案内ユニットは小型のものを前提としているため、各構成要素自体が全て小型化されている。
トラックレールR上を走行するスライダSは、ケーシングcと、このケーシングcの両側に設けた一対のエンドキャップ1,1と、このエンドキャップ1,1の外側に設けた一対のエンドシール2,2とを備えている。
上記スライダSには、エンドキャップ1,1を経由するガイド溝をエンドレスに構成するとともに、このエンドレスにしたガイド溝に、ボールや円筒ころ等の転動体3を組み込んでいる。
そして、トラックレールRには、その幅方向両側面に上側軌道面4,4および下側軌道面5,5からなる軌道溝を形成するとともに、この軌道溝上を上記転動体3が転動しながら、スライダSがトラックレールRに沿ってスムーズに走行する。
【0014】
そして、上記の直動案内ユニットを用いる際には、トラックレールRを被取付面に固定しなければならないが、このトラックレールRを被取付面に固定するのが固定部材Aである。
図2,3に示すように、固定部材Aは、トラックレールRを固定する被取付面に対向する取付対向面6に、凹溝7を形成するとともに、この凹溝7の一端をレール側開口面8に開口させて、凹溝7がトラックレールRを跨ぐようにしている。
この凹溝7は、その底面7aの両側に側壁7b,7bを設け、この両側壁7b,7bを、取付対向面6から底面7aに向かって幅狭になるテーパ面としている。
【0015】
そして、上記底面7aの幅L2は、トラックレールRの幅L1よりも僅かに小さくしている。したがって、凹溝7がトラックレールRを跨いだとき、トラックレールRの両側面上端が、凹溝7における両側壁7b,7b(テーパ面)に当接して、それ以上進入しないことになる。
なお、このとき、凹溝7の両側壁7b,7bが、トラックレールRに形成した軌道溝と接触しないような寸法関係を維持している。
また、固定部材Aは、トラックレールRに凹溝7を跨がせたとき、トラックレールRの軸線に沿う関係にしており、このとき凹溝7は、レール側開口面8から、トラックレールRの軸線方向に固定部材Aの1/3程度まで形成するようにしている。
【0016】
また、固定部材Aには、取付対向面6から突出する突出部9を設けているが、この突出部9は、レール側開口面8とは反対側端部において突出するようにしている。そして、上記凹溝7内にトラックレールRを接触させた状態で、突出部9の下面が被取付面にちょうど接触する寸法関係を維持している。
さらに、図4に示すように、固定部材Aには、ボルト等の止め部材10を貫通させる取付孔11を、凹溝7と突出部9とのほぼ中間に設けている。したがって、凹溝7をトラックレールRに跨がせた状態では、取付孔11が凹溝7内のトラックレールRから外れて位置することとなる。
【0017】
上記のように、凹溝7をトラックレールRに跨がせた状態では、トラックレールRの両側面上端が、凹溝7における両側壁7b,7b(テーパ面)に当接するとともに、突出部9の下面が被取付面に接触する。そして、この状態で取付孔11にボルト等の止め部材10を貫通させるとともに、止め部材10を締め付ければ、止め部材10による締め付け力によって、固定部材Aを被取付面に、凹溝7の側壁7b,7b(テーパ面)をトラックレールRに圧接させることができる。言い換えれば、止め部材10の締め付け力を、凹溝7がトラックレールRに圧接する圧接力と、突出部9が被取付面に圧接する圧接力とに分配して作用させることができる。
【0018】
このように、上記第1実施形態によれば、凹溝7をトラックレールRに接触させることによって、トラックレールRを被取付面に固定するので、被取付面に固定するための追加工をトラックレールRに施さずに、確実にトラックレールRを固定することができる。
また、凹溝7の両側壁7b,7bをテーパ面にするとともに、このテーパ面をトラックレールRに接触させたので、トラックレールRが幅方向にずれるのを確実に防ぐことができ、しかも、凹溝7の寸法管理をラフにすることができる。
さらに、取付孔11を突出部9と凹溝7との間に設けたので、止め部材10による締め付け力を、凹溝7がトラックレールRに圧接する圧接力と、突出部9が被取付面に圧接する圧接力とに分配して作用させることができる。
したがって、凹溝7をトラックレールRに、突出部9を被取付面に確実に圧接させることができる。
【0019】
また、トラックレールRに凹溝7を跨がせたとき、上記凹溝7がトラックレールRの軌道溝と接触しないので、固定部材AによってトラックレールRを被取付面に固定しても、軌道溝が歪んだり変形したりしない。このように軌道溝が歪んだり変形したりしないので、トラックレールRに対するスライダSの着脱を常にスムーズにすることができる。
しかも、トラックレールRに凹溝7を跨がせたとき、固定部材Aが、トラックレールRの軸線に沿う関係にしたので、トラックレールRを並列して配置した際に固定部材Aが邪魔にならない。
【0020】
図5を用いて、この発明の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態では、固定部材に設ける凹溝の向きのみ上記第1実施形態と異なり、その他の構造および作用は上記第1実施形態と同じである。
したがって、上記第1実施形態と同様の構成要素については同様の符号を付するとともに、ここでは、上記第1実施形態と異なる点について説明する。
図5に示す固定部材Bは、その取付対向面6に、トラックレールRを跨ぐとともに側壁をテーパ面にした凹溝7を設けている。この凹溝7は、その一端をレール側開口面12に開口するとともに、その他端を、上記レール側開口面12とは反対側の面に開口させている。
【0021】
そして、トラックレールRに凹溝7を跨がせたとき、トラックレールRと平行になるように、突出部9を取付対向面6から突出させている。したがって、トラックレールRに凹溝7を跨がせると、固定部材BがトラックレールRの軸線に直交することとなる。
なお、この第2実施形態においても、凹溝7と突出部9との間に取付孔11を設けている。
したがって、取付孔11に止め部材10を締め付ければ、上記第1実施形態と同様、凹溝7内にトラックレールRを、被取付面に突出部9を圧接して固定することができる。
【0022】
また、トラックレールRに凹溝7を跨がせたとき、固定部材Bが、トラックレールRの軸線に直交する関係にしたので、トラックレールRの軸線方向にスペースがない場合にも、固定部材Bを確実に被取付面に固定することができる。
しかも、この第2実施形態においては、凹溝7の両端を開口させたので、固定部材Bは、必ずしもトラックレールRの端部に固定する必要はない。したがって、被取付面やトラックレールR等の構造に応じて、最適な位置に固定部材Bを設けることができる。
さらに、固定部材Bに複数の凹溝7を設ければ、並列する複数のトラックレールRを1つの固定部材Bで固定することができる。なお、1つの固定部材Bによって、複数のトラックレールRを固定する場合には、並列する各トラックレールR間、すなわち、各凹溝7間に取付孔11を設けることが望ましい。なぜなら、各トラックレールR間において止め部材10を締め付ければ、全てのトラックレールRを確実に被取付面に圧接させることができるからである。
【0023】
なお、上記第1,2実施形態においては、凹溝7の側壁をテーパ面にしたが、凹溝7の側壁は、必ずしもテーパ面にする必要はない。例えば、他の実施形態として、図6に示すように、凹溝7の側壁7b,7bを、取付対向面6から直角に設けるとともに、凹溝7の底面7aにトラックレールRの上面を当接するようにしても構わない。
この場合でも止め部材10を締め付けることによって、トラックレールRを被取付面に圧接して固定することができる。ただし、側壁7b,7bをテーパ面にするとともに、このテーパ面にトラックレールRの側面上端を当接するようにすれば、トラックレールRが幅方向にずれるのを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態における直動案内ユニットを示す斜視図である。
【図2】固定部材によってトラックレールを固定した状態を示す部分拡大図である。
【図3】図2におけるIII−III線断面図である。
【図4】固定部材によってトラックレールを固定した状態を示す側面図である。
【図5】第2実施形態における直動案内ユニットを示す斜視図である。
【図6】他の実施形態における凹溝を示す断面図である。
【符号の説明】
【0025】
6 取付対向面
7 凹溝
7a 底面
7b 側壁
9 突出部
10 止め部材
11 取付孔
A,B 固定部材
R トラックレール
S スライダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道溝を有するトラックレールを固定部材によって被取付面に固定するとともに、このトラックレールにスライダを跨がせて摺動させる小型直動案内ユニットにおいて、上記固定部材は、被取付面に対向する取付対向面にトラックレールを跨ぐ凹溝を備えるとともに、トラックレールに凹溝を跨がせたとき、上記凹溝の一部がトラックレールに接触し、しかも、上記固定部材には、凹溝内のトラックレールから外れた位置に取付孔を設け、ボルト等の止め部材を上記取付孔を介して被取付面に固定する構成にした小型直動案内ユニット。
【請求項2】
上記トラックレールに凹溝を跨がせたとき、上記凹溝がトラックレールの軌道溝と接触しない寸法関係を維持した請求項1記載の小型直動案内ユニット。
【請求項3】
固定部材には、上記取付対向面から突出する突出部を設け、上記凹溝内にトラックレールを接触させた状態で、突出部の下面が被取付面に接触するとともに、この突出部と凹溝との間に上記取付孔を設けた請求項2または3記載の小型直動案内ユニット。
【請求項4】
上記凹溝は、底面の両側に側壁を設け、これら両側壁は上記底面に向かって幅狭になるテーパ面にするとともに、このテーパ面をトラックレールに接触させた請求項1〜3記載の小型直動案内ユニット。
【請求項5】
トラックレールに凹溝を跨がせたとき、固定部材が、トラックレールの軸線に沿う関係にした請求項1〜4記載の小型直動案内ユニット。
【請求項6】
トラックレールに凹溝を跨がせたとき、固定部材が、トラックレールの軸線に直交する関係にした請求項1〜4記載の小型直動案内ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−14446(P2008−14446A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−187804(P2006−187804)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】