説明

常圧プラズマによる成膜等の表面処理方法及び装置

【課題】 常圧プロセスのプラズマ通路での流れ方向のプロファイルを利用し、より良好な膜を作成する。
【解決手段】 高圧電極11,12と接地電極21により助走用プラズマ通路部51a,51bを形成し、高圧電極11,12とステージ状接地電極22により選択領域用プラズマ通路部52a,52bを形成する。これら通路部にプラズマ電界を印加するとともに、これら通路部のうち選択領域用プラズマ通路部にのみ基材Wを配置する。プロセスガスを、助走用プラズマ通路部を経て選択領域用プラズマ通路部へ流す。助走用プラズマ通路部が、プロセスガスの流れ方向の処理プロファイルが所定の範囲になるまでの路長を有し、前記選択領域用プラズマ通路部が、前記所定部分(選択領域)に対応する路長を有するように、電極11,21,12を寸法設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、略常圧下でプロセスガスをプラズマ化し基材に当て、成膜等の表面処理を行なう方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、成膜等のプラズマ表面処理は、1Pa以下の減圧下で行なっていた。プロセスガスとしては、例えばSi系薄膜の成膜の場合、一般にHおよびSiHを用いる。このプロセスガスを、例えば上部電極に数mm〜数cmピッチで設けた複数のガス導入口から上部電極と下部電極の間のプラズマ空間に導入してラジカル等を発生(プラズマ化)させる。このプラズマ化したプロセスガスを下部電極の上面に配置した基材に当て、成膜する。減圧下の為、プロセスガスの平均自由行程はガス導入口のピッチより十分長い。このため、プラズマ空間内のラジカル密度やガス密度が、ほぼ均一になる。ひいては、膜質がほぼ均一になる。
しかし、減圧環境を作るための真空チャンバーや排気系等の設備を必要とし、被処理基板が大面積になればなるほど大掛かりなものにせざるを得ず、コスト面でも不利である。また、所定の真空度に達するまでの時間も必要で、時間的な無駄も大きい。
【0003】
上記のような減圧プロセスに対し、常圧近傍でプロセスを実行するものが種々提案されている。すなわち、略常圧下でグロー放電プラズマを形成し、成膜等のプラズマ表面処理を行う。用いるガスは、減圧プラズマと同様であり、例えばSi系成膜の場合、HおよびSiH等である。
この常圧プロセスによれば、真空排気時間の短縮、大型チャンバーのスペース削減、排気系のコスト削減等を図ることができる。
【特許文献1】特開2004−128346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、常圧成膜プロセスについて鋭意研究した結果、常圧プラズマ空間における膜質や成膜速度等の成膜プロファイルは、プロセスガスの流れ方向に一様でなく変動することを発見した。
すなわち、図2に模式的に示す装置を用い、常圧下における微結晶Siの成膜を行なった。プロセスガスとしてHおよびSiHを用い、これを高圧電極1に形成したガス吹き出し口2からプラズマ通路3に導入した。これにより、プラズマ通路3内に、ガス吹き出し口2を上流端としそこから離れる方向へ向かうプロセスガス流を形成した。そして、基板W上の数ポイントで成膜速度と結晶性を測定した。
【0005】
その結果、図3に示すように、プラズマ通路3の上流端からの距離に応じた膜厚・膜質の分布が存在することが明らかとなった。すなわち、膜厚に対応する成膜速度は、上流端から離れるにしたがって逓増した後(以下、この部分を「初期変動領域R1」という)、しばらくピークあたりの略一様な大きさになり(以下、この部分を「中間領域R2」という)、その後、逓減した(以下、この部分を「後期変動領域R3」という)。一方、膜質に対応する結晶性は、成膜速度が逓増する初期変動領域R1では逓減し、成膜速度がピークあたりに安定する中間領域R2では略ゼロになり、成膜速度が逓減する後期変動領域R3では逓増した。したがって、基板を走査して高圧電極に対し相対移動させた場合、基板上に形成される膜は結晶性の良好な部分と悪い部分が積層された状態になる。
一方、このようなプロファイルの空間分布をうまく利用すれば、より良好な膜を作成できる等、常圧プロセスの充実を図ることができると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、
略常圧下でプロセスガスを電界印加にてプラズマ化(分解、励起、ラジカル化、イオン化を含む。以下同様)し基材を表面処理する方法において、
前記電界が印加される略常圧のプラズマ通路にプロセスガスを通すとともに、このプラズマ通路の一部を選択領域とし、前記プラズマ通路を通るプロセスガスが前記選択領域においてのみ基材に当たるようにすることを特徴とする。
これによって、プロセスガスの流れ方向に沿う処理プロファイルのうち所望の処理に適した部分のみを使って基材のプラズマ表面処理を行なうことができ、常圧プロセスを充実化できる。
ここで、略常圧(大気圧近傍の圧力)とは、1.013×104〜50.663×104Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、1.333×104〜10.664×104Paが好ましく、9.331×104〜10.397×104Paがより好ましい。
【0007】
前記プラズマ通路の中途部を前記選択領域の始端とする場合、プロセスガスを、前記中途部で基材に吹付けるのが望ましい。そして、前記選択領域の終端にあたる位置で基材から離す方向に吸い込むのが望ましい。これによって、プロセスガスを確実に選択領域でのみ基材に当てるようにすることができる。
【0008】
本発明は、流れ方向にラジカル等の分布が生じるプロセスであれば、成膜に限らず、洗浄、表面改質、エッチング等の種々の常圧プラズマ表面処理に適用できる。特に、成膜プロセスでは、流れ方向に原料が消費され濃度が変化していくため、全般的に適用可能であり、微結晶Si成膜に限定されるものではない。
【0009】
成膜プロセスの場合、具体的には、図3に示すように、プロセスガスの流れ方向の成膜プロファイルが初期変動する初期変動領域R1と、相対的に安定な中間領域R2と、前記初期変動とは逆向きに変動する後期変動領域R3との中から選択された一部の領域を選択領域とし、前記プラズマ通路を通るプロセスガスが前記選択領域においてのみ基材に当たるようにするのが望ましい。これによって、膜厚・膜質を一定にしたり、成膜初期の界面制御を行なったり、傾斜機能薄膜を形成したりする等、多様な成膜処理を行なうことができる。特に、後期変動領域R3を選択領域とすれば、良好な結晶性の膜を厚さ方向に均一に、しかも成膜速度をある程度確保しつつ成膜でき、成膜性能を高めることができる。プロセスガスの流れ方向に沿う成膜速度又は結晶性のプロファイルを、前記成膜プロファイルとするのが望ましい。
初期変動領域R1、中間領域R2、又は後期変動領域R3の何れか1つの全体を選択してもよく、その領域の一部分を選択してもよい。何れか1つの領域だけでなく、隣り合う2つの領域に跨って選択してもよい。初期変動領域R1と後期変動領域R3の2つを選択する等、選択領域が複数に分離していてもよい。
選択領域は、常時固定でもよく、時間的に変動させるようにしてもよい。
【0010】
また、プラズマ通路の上流端から成膜プロファイルが所定の範囲になるまでを助走用プラズマ通路部とし、この助走用プラズマ通路部の下流端でプロセスガスを基材に吹付け、
この助走用プラズマ通路部より下流側のプラズマ通路における成膜プロファイルが前記所定範囲である部分を選択領域用プラズマ通路部とし、この選択領域用プラズマ通路部を基材に沿わせ、
この選択領域用プラズマ通路部の下流端でプロセスガスを基材から離すように吸込むことにしてもよい。
ここで、助走用プラズマ通路部を、初期変動領域R1と中間領域R2に対応する路長にすれば、選択領域用プラズマ通路部を後期変動領域R3にすることができる。
【0011】
更に、前記助走用プラズマ通路部と選択領域用プラズマ通路部を含むプラズマ通路を2つ設け、
これらプラズマ通路に対し基材を相対移動させるようにし、
一方(第1)のプラズマ通路の選択領域用プラズマ通路部と他方(第2)のプラズマ通路の選択領域用プラズマ通路部とを前記相対移動方向に離して処理を行なうことにしてもよい。これらプラズマ通路の各通路部の路長をそれぞれ調節することにより、成膜初期の界面制御や傾斜機能薄膜の形成を容易に行なうことができる。例えば、前記相対移動方向の上流側のプラズマ通路の選択領域用プラズマ通路部を下流側のものより長くし、上流側のものについては選択領域を後期変動領域R3の後半部へ拡張することにすれば、成膜初期の界面での結晶性を確保することが可能となる。また、前記相対移動方向の上流側のプラズマ通路の選択領域用プラズマ通路部を中間領域R2の側にシフトさせることにすれば、基材との界面にはアモルファスを成膜して接合を確保でき、次いで、前記相対移動方向の下流側のプラズマ通路の選択領域用プラズマ通路部を後期変動領域R3に含まれるように設定しておくことにより、前記界面のアモルファス上に結晶膜を積層できる。
【0012】
ところで、CMOSデバイスのサイズは、2〜30nm程度にまで小径化が進んでいる。CMOSデバイスを2〜30nmないし10nm以下のサイズにするには、イオン注入プロセスにおける損傷や異方性が重要な意味を持って来る。そうしたことからSiホモエピタキシが再び注目されるようになって来ている。一方、現状のエピタキシャル成長方法では1000℃ないしそれ以上の高温にしないと高い成膜効率を得られない。しかし、このような高温度下では膜中のドーパントの再分布を惹き起こしやすい。次世代ULSIの実現のためには、低温かつ高速でエピタキシャル成長可能な技術が求められている。
本発明のPECVD(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)方法は、かかるエピタキシャル成長技術に好適である。
すなわち、本発明は、
基材にエピタキシャル層を成長させる方法であって、
前記エピタキシャル層の原料成分を含むプロセスガスをプラズマ通路に通すとともにこのプラズマ通路に電界を印加して略常圧下でプラズマを生成し、
かつ、前記基材を、前記プラズマ通路における上流側の助走領域と下流側の選択領域のうち選択領域にのみ配置することをも特徴とする。
これによって、良質のエピタキシャル層を成長させることができる。
【0013】
さらに、本発明は、pタイプSi等のシリコン基材にホモエピタキシャル層を成長させる方法であって、
前記ホモエピタキシャル層の原料となるシリコン化合物を水素にて希釈したプロセスガスを用い、
このプロセスガスをプラズマ通路に通すとともにこのプラズマ通路に電界を印加して略常圧下でプラズマを生成し、
かつ、前記シリコン基材を、前記プラズマ通路における上流側の助走領域と下流側の選択領域のうち選択領域にのみ配置することをも特徴とする。
これによって、シリコンのホモエピタキシャル層を比較的低温下(例えば100℃〜400℃)で成長させることができる。
【0014】
プロセスガスはプラズマ通路の下流側へ流れるにしたがって水素等の希釈成分に対するシラン等の原料成分の割合が小さくなり希釈度が大きくなる。エピタキシャル層の出来具合にはプロセスガスの希釈度が関わっていると考えられ、希釈度によってエキタキシャル層の質が変化する。そこで、プラズマ通路における上流側のどこまでを助走領域とするか、どこから下流側を選択領域とするかの目安となるプロファイルとしては、例えば上記プロセスガスの希釈度を用いるのが好ましい。すなわち、プロセスガスの希釈度が所定未満までを助走領域とし、所定以上(例えば希釈度:約500倍以上、好ましくは約100倍以上、より好ましくは約2000倍以上)になる領域を選択領域として設定するとよい。
上記プロファイルとしてアモルファスの生成率を用いることにしてもよい。アモルファスの生成率はプラズマ通路の下流側に向かうにしたがって減少する。アモルファスの生成率が所定以下(好ましくは膜全体の50%(ラマン強度比1)以下、より好ましくは33%(ラマン強度比2)以下)になる範囲を選択領域として設定するとよい。
ここで言うラマン強度比とは、次式で求められる値である。
ラマン強度比=(520cm−1近傍の結晶Siに起因するラマン散乱ピーク強度)÷(480cm−1近傍のアモルファスSiに起因するピーク強度)
また、上記プロファイルとして成膜速度をも考慮するのが好ましい。プラズマ通路の下流側になるにしたがってシラン等の原料成分の割合が小さくなり大希釈状態になるため成膜速度が遅くなる。アモルファスの生成率が小さく、かつ適度な成膜速度が得られるプロファイル領域を前記選択領域とし、この領域でだけプラズマ流が基材に当たるようにするのが好ましい。この選択領域における成膜速度は、5nm/min以上であるのが好ましく、10nm/min以上であるのがより好ましい。
プラズマ通路の路長の上流側の約3分の1を助走領域とし、その下流の残り約3分の2を選択領域とするとよく、プラズマ通路の路長の上流側の約2分の1を助走領域とし、下流側の残り約2分の1を選択領域とするのがより好ましい。
助走領域の路長及びその下流に続く選択領域の路長は、上記のプロファイル、電極のサイズ、ガス流量等々を考慮して適宜設定するとよい。
プロセスガスの膜原料成分には、モノシラン(SiH4)、ジシラン(Si2)、ジクロルシラン(SiHCl)、三塩化シラン(SiHCl)、四塩化ケイ素(SiCl)、四フッ化ケイ素(SiF)等のシリコン化合物を用いることができ、モノシラン(SiH)、ジシラン(Si2)等が好ましく、モノシランがより好ましい。
モノシランの流量比は、水素に対し約0.01vol%〜5vol%であるのが好ましい。
プロセスガスには水素以外の希釈ガス成分を含ませないのが好ましい。
基材の温度は、100℃〜400℃とするのが望ましい。
【0015】
本発明の成膜用の装置は、
プロセスガスを通す助走用プラズマ通路部を画成するとともにこの助走用プラズマ通路部に前記プラズマ化のための電界を形成する助走用電極対と、
選択領域用プラズマ通路部を前記助走用プラズマ通路部に連なるようにして画成すると
ともにこの選択領域用プラズマ通路部に前記プラズマ化のための電界を形成する選択領域用電極対と、
基材を前記2つのプラズマ通路部のうち選択領域用プラズマ通路部にのみ配置する基材配置機構と、
を備え、
前記助走用プラズマ通路部が、プロセスガスの流れ方向の成膜プロファイルが所定の範囲(選択領域)になるまでの路長を有し、
前記選択領域用プラズマ通路部が、前記所定の範囲(すなわち選択領域)に対応する路長を有していることが望ましい。
これによって、プロセスガスを助走用プラズマ通路部で所定のプロファイル状態になるまで助走させて選択領域用プラズマ通路部で基材に当て、所望の処理を行なうことができる。
【0016】
前記助走用電極対にて画成された助走用プラズマ通路部の下流端が、基材へのプロセスガスの吹付け口となり、 前記選択領域用電極対における前記吹付け口の側とは反対側には、前記選択領域用プラズマ通路部からのプロセスガスを基材から離すように吸い込む吸込み部が設けられていることが望ましい。これによって、プロセスガスを確実に所望の処理に適した流れ方向位置でのみ基材に当てることができる。
【0017】
互いに角度をなして交わる第1面及び第2面を有して、前記電界印加のための電源に接続された高圧電極を備え、
この高圧電極の第1面に助走用接地電極が対向配置されて前記助走用電極対が構成され、第2面に選択領域用接地電極が対向配置されて前記選択領域用電極対が構成されていることが望ましい。
これによって、1つの高圧電極で助走用プラズマ通路部と選択領域用プラズマ通路部の両方を形成することができる。
【0018】
前記高圧電極が2つ設けられ、前記助走用電極対と選択領域用電極対の組みが2つ設けられていてもよい。基材を前記2つの高圧電極に対してこれら高圧電極の並び方向へ相対移動させる移動機構を含むことが、より望ましい。更に、前記2つの高圧電極の寸法構成を互いに異ならせ、2つの選択領域用電極対の選択領域用プラズマ通路部の路長が互いに異なるようにしたり、2つの助走用電極対の助走用プラズマ通路部の路長が互いに異なるようにしたりしてもよい。これによって、成膜初期の界面制御や傾斜機構薄膜の形成等を行なうことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、プロセスガスの流れ方向に沿う成膜プロファイルのうち所望の処理に適した部分のみを使って基材のプラズマ表面処理を行なうことができ、常圧プロセスを充実化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって詳述する。
図1は、常圧プラズマ表面処理として成膜処理を実施する装置Mの一例を模式的に示したものである。この成膜装置Mは、例えばSi系の薄膜を成膜するものである。プロセスガスとしてはH、SiH等を用いる。このプロセスガスが、プロセスガス源50に成分ごとに貯えられている。
【0021】
装置Mには、電極構造が組み込まれている。電極構造は、上側の3つの電極11,21,12と、下側の電極22とから構成されている。上側の3つの電極11,21,12は、左右に並べられている。左端部の電極11と右端部の電極12は、給電線31を介して電源30にそれぞれ接続されている。これにより、これら電極11,12は、高圧電極となっている。これら高圧電極11,12の間に挟まれた電極21は、電気的に接地され、助走用接地電極となっている。
【0022】
左側の高圧電極11と助走用接地電極21とによって、第1の助走用電極対が構成されている。この高圧電極11の右側面(第1面)と接地電極21との間に、垂直をなす第1の助走用プラズマ通路部51aが画成されている。
右側の高圧電極12と助走用接地電極21とによって、第2の助走用電極対が構成されている。この高圧電極12の左側面(第1面)と接地電極21との間に、垂直をなす第2の助走用プラズマ通路部51bが画成されている。
前記プロセスガス源50からのプロセスガス供給管50aが、2つに分岐し、左右の助走用プラズマ通路部51a,51bの上端部にそれぞれ接続されている。
【0023】
電極構造の下側部の電極22は、電気的に接地されることにより選択領域用接地電極となっている。この選択領域用接地電極22は、上側の3つの電極11,21,12に跨るステージ状をなし、その上面には、処理すべき基材Wが配置されるようになっている。これによって、選択領域用接地電極22は、基材配置機構を兼ねている。基材配置機構としての選択領域用接地電極22は、移動機構40に接続され、上側の3つの電極11,21,12に対し左右に相対移動可能になっている。
【0024】
高圧電極11の真下に選択領域用接地電極22があるとき、この高圧電極11の下面(第2面)と接地電極21との間に第1の選択領域用プラズマ通路部52aが画成されるようになっている。これら高圧電極11と接地電極21によって、第1の選択領域用電極対が構成されている。選択領域用プラズマ通路部52aは、水平をなし、その右端部が助走用プラズマ通路部51aの下端開口に連なるようになっている。これらプラズマ通路部51a,52aによって第1のプラズマ通路が構成されている。
【0025】
同様に、高圧電極12の真下に選択領域用接地電極22があるとき、この高圧電極12の下面(第2面)と接地電極21との間に第2の選択領域用プラズマ通路部52bが画成されるようになっている。これら高圧電極12と接地電極21によって、第2の選択領域用電極対が構成されている。選択領域用プラズマ通路部52bは、水平をなし、その左端部が助走用プラズマ通路部51bの下端開口に連なるようになっている。これらプラズマ通路部51b,52bによって、第2のプラズマ通路が構成されている。
【0026】
したがって、装置Mの電極構造は、助走用電極対と選択領域用電極対の組みを2つ有し、2つのプラズマ通路を画成するようになっている。
基材Wは、各プラズマ通路のうち選択領域用プラズマ通路部52a,52bにのみ配されることになり、助走用プラズマ通路部51a,51bには配されることがない。
各助走用プラズマ通路部51a,51bの下端開口(下流端)は、プロセスガスを基材Wに吹付ける吹付け口となっている。別言すれば、吹付け口は、プラズマ通路の中途部に設けられている。
【0027】
高圧電極11の左外側(接地電極21とは逆側)には、吸込み管等からなる吸込み部61が設けられている。吸込み部61は、選択領域用プラズマ通路部52aの左端部(下流端)に連なるようにして下方に開口されるとともに、吸引路63を介して吸引ポンプ60に接続されている。同様に、高圧電極12の右外側(接地電極21とは逆側)には、他の吸込み部62が設けられている。吸込み部62は、選択領域用プラズマ通路部52bの右端部(下流端)に連なるようにして下方に開口されるとともに、吸引路63を介して吸引ポンプ60に接続されている。
【0028】
本成膜装置Mにおいて重要な点は、助走用プラズマ通路部51a,51bが、図3に示す成膜プロファイルの初期変動領域R1と中間領域R2を合わせた分に対応する路長を有し、選択領域用プラズマ通路部52a,52bが、図3の斜線に示す後期変動領域R3の前半の所定範囲R0に対応する路長を有するように、電極11,21,12の寸法が設定されていることである。所定範囲R0は、結晶性と成膜速度の両方がある程度の大きさになる領域として選択されたものであり、以下「選択領域R0」という。
【0029】
上記構成の常圧プラズマ成膜装置Mによれば、ガス源50のプロセスガスが、供給管50aを経て2つの助走用プラズマ通路51a,51bの上端部にそれぞれ導入され、助走用プラズマ通路51a,51b内を下方へ向けて流れる。併行して、電源30から高圧電極11,12に電圧が供給され、助走用プラズマ通路部51a,51bに電界が印加され常圧グロー放電が形成される。これによって、助走用プラズマ通路部51a,51b内を流れるプロセスガスがプラズマ化されていく。このとき、プロセスガスのプロファイル状態は、流れて行くにしたがって先ず初期変動領域R1になり、次いで中間領域R2になる。そして、中間領域R2から後期変動領域R3への移行部あたりのプロファイル状態、すなわち選択領域R0の始端あたりのプロファイル状態で、助走用プラズマ通路部51a,51bの下端の吹付け口から吹き出される。
【0030】
一方、基材Wを載せたステージ状の選択領域用接地電極22が、移動機構40によって左右方向へ移動される。この選択領域用接地電極22上の基材Wに、前記助走用プラズマ通路部51a,51bからのプロセスガスが吹付けられる。
【0031】
左側の助走用プラズマ通路部51aから出たプロセスガスは、その後、高圧電極11と基材Wとの間の選択領域用プラズマ通路部52a内を左方向へ流れる。右側の助走用プラズマ通路部51bから出たプロセスガスは、高圧電極12と基材Wとの間の選択領域用プラズマ通路部52b内を右方向へ流れる。この時、上記電源30から高圧電極11,12への電圧供給により、選択領域用プラズマ通路部52a,52b内にも電界が印加され、常圧グロー放電が形成されている。これによって、プロセスガスのプロファイル状態が進行し、後期変動領域R3の前半部分、すなわち結晶性が逓増するとともに成膜速度が逓減する選択領域R0となる。この選択領域R0のプロセスガスが基材Wに当たる。これによって、良好な結晶性のSi膜を成膜できる。プロセスガスは、選択領域R0のときしか基材Wに触れることがないので、一定かつ良好な結晶性を有するSi膜だけを積層でき、厚さ方向に膜質が不均一になることはない。しかも、成膜速度もある程度の大きさを維持でき、処理効率を確保できる。
【0032】
左側の選択領域用プラズマ通路部52aのプロセスガスは、後期変動領域R3の中途部の、選択領域R0の終端のプロファイル状態になったとき、選択領域用プラズマ通路部52aの左端部から出される。そして、吸込み部61に吸い込まれる。同様に、右側の選択領域用プラズマ通路部52bのプロセスガスは、選択領域R0の終端のプロファイル状態になったとき、選択領域用プラズマ通路部52bから出され、吸込み部62に吸い込まれる。これによって、選択領域R0を過ぎたプロセスガスを基材Wから離すことができる。ひいては、基材Wに当たるプロセスガスを確実に選択領域R0のものだけにすることができる。
【0033】
選択領域R0は、図3の斜線部に限られず、処理内容に応じて適宜変更してもよい。この選択領域R0の変更は、電極11,21,12の寸法を調節することによって行なうことができる。
【0034】
例えば、高圧電極11,12を幅広にし、選択領域用プラズマ通路部52a,52bの路長を延ばすことにすれば、選択領域R0を後期変動領域R3の後半部へ広げることができる。或いは、電極11,21,12の高さ寸法を大きくし、助走用プラズマ通路部51a,51bの路長を延ばすことにすれば、選択領域R0を後期変動領域R3の後半側へずらすことができる。後期変動領域R3の後半部では成膜速度は遅くなるが、結晶成長が極めて良好となるため、成膜初期に結晶成長しにくい基板を用いて結晶Siを成膜する場合等に有効である。
【0035】
また、2つの高圧電極11,12のうち左側の高圧電極11だけを幅広にし、選択領域用プラズマ通路部52aを長くして後期変動領域R3の後半部へ拡張させるとともに、基板Wを左側から右側へのみ相対移動させることにしてもよい。そうすると、基板Wの表面(界面)には最初に後期変動領域R3の後半部のプロセスガスが当たることになり、これにより、界面での結晶性を確保でき、成膜初期の界面制御が可能となる。
【0036】
或いは、左側の高圧電極11だけ高さ寸法を短くし、助走用プラズマ通路部51aを短くすることにより、選択領域用プラズマ通路部52aを中間領域R2に近い側にシフトさせるとともに、基板Wを左側から右側へのみ相対移動させることにしてもよい。これにより、成膜初期は膜質より成膜速度を優先するような界面制御を行なうことができる。また、界面近傍ではアモルファスにして基材との接合を確保する一方、それより上側の層では結晶性を高くした傾斜機能薄膜を形成することができる。
【0037】
後期変動領域R3以外の、例えば中間領域R2を選択領域R0とするように電極11,21,12の寸法設定を行なってもよい。窒化膜成膜等の場合には、後期変動領域R3のカットによりパーティクル等の副生成物の発生を抑えることができ、有効である。
【0038】
本発明の常圧プラズマ成膜装置Mは、pタイプSiの基板にホモエピタキシャル層を成膜するのに好適である。
この場合、プラズマ通路の上流側部分を助走用(助走領域用)プラズマ通路部51a,51bとし、下流側部分を選択領域用プラズマ通路部52a,52bとする。助走用プラズマ通路部51a,51bは、アモルファス(a−Si)が生成され得る範囲をカバーするように設定し、選択領域用プラズマ通路部52a,52bは、アモルファスが殆ど生成されない範囲に設定するとよい。アモルファス(a−Si)の生成度合いは、ラマン分光によるピークの低波数側の肩部の大きさによって検知することができる(図6及び図7参照)。
好ましくは、助走用プラズマ通路部51a,51bと選択領域用プラズマ通路部52a,52bを合わせたプラズマ通路の全路長に対し、助走用プラズマ通路部51a,51bが上流側の約3分の1〜2分の1を占め、選択領域用プラズマ通路部52a,52bが下流側の残り約3分の2〜2分の1を占めるように構成する。
【0039】
pタイプSiからなる基材Wの温度は250℃以下に設定する。例えば180℃に設定する。
【0040】
プロセスガスは、例えばモノシラン(SiH)と水素(H)の混合ガスを用いる。モノシランをシリコン層の原料ガス成分とし、これを水素にて希釈する。希釈率は、例えば1000倍程度にする。希釈成分は水素のみとし、ヘリウム等の水素以外の希釈成分は含まないようにする。
【0041】
そして、上記のプロセスガス(SiH+H)を、助走用プラズマ通路部51a,51bを経て選択領域用プラズマ通路部52a,52bへ流すとともに、これらプラズマ通路部51a,51b,52a,52b内に大気圧グロープラズマを生成し、プロセスガスをプラズマ化する。このプラズマガス流は、助走用プラズマ通路部51a,51bにおいてSi系成分が消費され、相対的にH系成分が増え、大希釈状態で選択領域用プラズマ通路部52a,52bに導入され、pタイプSi基材Wに接触する。これによって、pタイプSi基材Wの表面に良質なホモエピタキシャル層を成膜することができる。
【実施例1】
【0042】
実施例を説明する。本発明が、当該実施例に限定されるものでないことは当然である。
図1と同様の装置を用いた。寸法構成及び処理条件は、以下の通り。
電極11,21,12の奥行き(図1の紙面と直交する方向):20cm
電極11,21,12の高さすなわち助走用プラズマ通路部51a,51bの路長:1cm
高圧電極11,12の左右方向の長さすなわち選択領域用プラズマ通路部52a,52bの路長:1cm
高圧電極11,12と接地電極21間の距離すなわち助走用プラズマ通路部51a,51bの厚さ:1mm
高圧電極11,12と基材Wとの間の距離:1mm
プロセスガス:H=10slm、SiH=10sccm
高圧電極11,12への供給電圧:19kHz、Vpp=5kV、パルス幅10μsのパルス電圧
基材Wのスキャン速度:10cm/min
その結果、厚さ1000Å、ラマン強度比5の微結晶Siが得られた。
なお、ラマン強度比は、以下のようにして求めた。
ラマン強度比=(520cm−1近傍の結晶Siに起因するラマン散乱ピーク強度)÷(480cm−1近傍のa−Siに起因するピーク強度)
【実施例2】
【0043】
図4及び図5に示す装置を用いて、エピタキシャル成長の実験を行った。
装置構成は、上記図2の常圧PECVD装置と概略同様であり、チャンバ5の内部に接地電極を兼ねた金属製の基板設置台4を設置し、この基板設置台4の上方に、高圧電極1,1を2つ配置した。高圧電極1,1は、それぞれ前後に延びる直方体とし、これらを左右に並べることによって、間にスリット状のガス吹出し口2を形成した。
【0044】
基板Wは、面方位(100)のpタイプSiにて構成し、この基板Wの表面にこれと同じ面方位のシリコン膜を低温下(基板温度250℃以下)で堆積成長させることを目標とした。シリコン基板Wの大きさは、例えば30mm角の正方形の板状とした。
このシリコン基板Wをチャンバ5の外で化学処理した後、チャンバ5内に入れ、基板設置台4上にセットした。セット状態のシリコン基板Wの左右中央部の真上にガス吹出し口2が位置されるようにし、左右の高圧電極1,1とシリコン基板Wとの間にそれぞれプラズマ通路3,3が形成されるようにした。各プラズマ通路3は、ガス吹出し口2を上流端として左右外側へ延びることになり、その路長は、シリコン基板Wの左右幅の半分の15mmであった。
高圧電極1とシリコン基板Wとの間のギャップ(プラズマ通路3の厚さ)は、1mmとした。
【0045】
前処理として、水素プラズマによるエッチングを5分間行い、シリコン基板Wの表面(上面)の自然酸化物を除去した。
【0046】
その後、本処理すなわちホモエピタキシャル成膜処理を行なった。
処理圧力(チャンバ5内の圧力)は、略大気圧とした。具体的には500Torrと700Torrの二通りの圧力下でそれぞれ処理を行なった。
処理圧力は、水素(H)の供給流量と排気の流量とのバランスで制御した。
シリコン基板Wの温度は180℃(<250℃)に設定した。
【0047】
膜原料となるシリコン化合物としてモノシラン(SiH)を用い、これを水素にて希釈したものをプロセスガスとして用いた。モノシラン流量は、1.5ml/minとし、水素流量はその1000倍の1500ml/minとした。ヘリウム等の水素以外の希釈ガスは含まないようにした。
モノシランのガス流(1.5ml/min)を1500ml/minの水素ガスの供給流に添加することにより成膜を開始した。
【0048】
電源6から電極1への印加電圧は、パルス電圧とし、その大きさはVpp=5.5〜9kVとし、周波数は30kHzとし、パルス幅は5μsとした。このパルス電圧によって、プラズマ通路3,3内に略常圧のグロープラズマが生成された。
この電圧印加と併行して、上記プロセスガスをガス吹出し口2からプラズマ通路3,3に導入しプラズマ化した。
すると、高圧電極1の下方部分の基板Wの表面にヘイズが出来、成膜が進んでいることが確認された。
【0049】
成膜操作の終了後、走査型電子顕微鏡で膜厚を測定した。その結果、500Torr、5分間の場合の膜厚は約50nmであった。
【0050】
また、ラマン分光器を用いて、膜のラマン光分析を行った。図5に示すように、サンプリング地点は、プラズマ通路3の上流(Upstream)と中流(Middlestream)と下流(Downstream)のそれぞれに対応する基板W上の三箇所P1,P2,P3とした。上流側地点P1は、ガス吹出し口2の直下すなわちシリコン基板Wの中央部から2mmだけ右(又は左)にずれた位置に設定し、中流側地点P2は、シリコン基板Wの中央部から10mmだけ右(又は左)へずれた地点に設定し、下流側地点P3は、シリコン基板Wの中央部から18mmだけ右(又は左)へずれた地点に設定した。
【0051】
結果は図6〜図8に示す通りである。図6は、処理圧力500Torrにて15分間、成膜を行った場合のラマン散乱スペクトルであり、図7は、処理圧力700Torrにて30分間、成膜を行った場合のラマン散乱スペクトルである。また、図8は、図7の場合における下流側部P3(実験を通じて最も良好な結果を得られた箇所)でのスペクトル(破線)をSi基板のスペクトル(実線)と比較したものである。
何れの処理圧力及びサンプリング地点でも、スペクトルのピークは520cm−1の1つのみであった。これは、Si結晶のSi−Si TOモードと一致しており、ホモエピタキシャル成長がなされたことが確認された。
上流側地点P1ではピークの低波数側に肩部が見られた。これは、プラズマ通路3の上流側の助走領域で形成した膜部分にはアモルファス成分が含まれていることを示唆している。アモルファスは480cm−1周辺に幅広ピークを有しているからである。
上記低波数側の肩部は、プラズマ通路3の下流側へ向かうにしたがって次第に弱まった。これに伴い、メインピーク強度が高くなった。これにより、プラズマ通路3の下流側部分を選択領域とし、この選択領域のみを用いて成膜すれば良質なホモエピタキシャル成長層が得られることが判明した。
メインピーク強度の増大傾向は、処理圧力700Torrの場合(図7)において特に顕著であった。これにより、処理圧力が大気圧に近ければ近いほど、プラズマ通路3の上流側の助走領域と下流側の選択領域との膜質の差が大きくなり、本発明構成による効果が顕著になることが判明した。
プラズマ通路3の下流側へ向かうにしたがってメインピーク強度が増大するのは、プラズマ中のガス流に含まれるモノシラン系成分(例えば、SiHラジカル等)が消費され、これに伴い水素原子が生成され、この結果、プラズマが大希釈状態になり、下流側部での結晶が良質化されるためと推察される。
【0052】
図9は、500Torrで成膜した膜の中流側部(上記地点P2の近傍)における断面透過型電子顕微鏡(X−TEM)の像である。断面透過型電子顕微鏡としてJEOL JEM−2010を用い、200kVで加速を行なった。図中の矢印線の基端は、基板と膜との界面を示し、先端は膜の表面を示している。同図の像は斜めに撮られている。膜は矢印線の方向に成長しており、エピタキシャル成長膜であることがわかる。膜厚は、およそ1μmと推定される。膜成長レートは、3.4nm/sとなる。同図の左下の挿入図は、成長膜の電子回折パターンである。この電子回折パターンの採取箇所は、X−TEM像において一点鎖線で示す円内の一箇所である。スポット状の回折パターンが現れており、これからもエピタキシャル成長膜であることがわかる。
【実施例3】
【0053】
下記の条件下でSi(001)基板上に成長膜を形成し、成長膜のラマン強度比の場所依存性を測定した。
処理圧力: 700Torr及び500Torr
プロセスガス:
シラン 1.5ml/min
水素 1500ml/min
基板温度: 180℃
投入電圧: Vpp=5.5kV
周波数: 30kHz
パルス幅: 5μs
結果を図10に示す。横軸の場所P1は、ガス吹出し口の直下すなわちSi基板の中央部から2mmだけずれた位置であり、場所P2は、Si基板の中央部から10mmだけずれた位置であり、場所P3は、Si基板の中央部から18mmだけずれた位置である。同図よりラマン強度比10以上の部分がエピタキシャル膜であると認められる。
【0054】
同様に、下記の条件下でガラス基板上にポリSi薄膜を堆積させ、堆積膜のラマン強度比の場所依存性を測定した。
処理圧力: 700Torr、500Torr、300Torr
プロセスガス:
シラン 1.5ml/min
水素 1500ml/min(700Torr、500Torrのとき)
水素 499ml/min(300Torrのとき)
基板温度: 180℃
投入電圧: Vpp=9kV
周波数: 30kHz
パルス幅: 5μs
ガラス基板は、Si基板より大きな電力投入が可能なため、電圧Vppは、結晶化しやすい9kVに設定したものである。
結果を図11に示す。横軸の場所P1〜P3は、図10と同様であり、P1は、ガス吹出し口の直下すなわちガラス基板の中央部から2mmだけずれた位置であり、P2は、ガラス基板の中央部から10mmだけずれた位置であり、P3は、ガラス基板の中央部から18mmだけずれた位置である。
【0055】
図10及び図11の測定結果より、Si基板上でSiエピタキシャル成長を実現する必要条件は、ガラス基板上におけるポリSi薄膜においてラマン強度比5.5以上を実現する堆積条件とほぼ同等と認められる。
【0056】
図12は、ガラス基板上に堆積させたポリSi膜のラマン強度比が5.5以上となる基板温度及び水素流量の上限と下限の条件を、処理圧力700/500Torr、シラン流量1.5ml/min、投入電圧Vpp=9kVの場合について示したものである。水素流量が増大するにつれて、ラマン強度比が5.5以上となる温度範囲が、500Torr、700Torr共に増大することが分かる。
【0057】
以上より、Si基板上にエピタキシャル成長膜が形成される条件(必要条件)として下記が導かれる。
シラン・水素希釈比 1.5/499すなわち0.3%以下
基板温度 140〜240℃
処理圧力 300〜700Torr
【産業上の利用可能性】
【0058】
この発明は、例えば半導体基板の製造において基板に結晶Siを成膜する工程等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態に係る常圧プラズマ成膜装置の模式図である。
【図2】本発明をなすに至る実験研究に用いた常圧プラズマ成膜装置の模式図である。
【図3】プラズマ通路におけるプロセスガスの流れ方向の成膜プロファイルを示し、プラズマ通路の上流端からの距離に対する成膜速度及びSi結晶性のプロファイルのグラフである。
【図4】実施例2のホモエピタキシャル成長実験に用いたエピタキシャル成長装置の電極構造の斜視図である。
【図5】上記エピタキシャル成長装置の概略を示す正面図である。
【図6】実施例2における処理圧力500Torrでの結果を示すグラフである。
【図7】実施例2における処理圧力700Torrでの結果を示すグラフである。
【図8】実施例2における処理圧力700Torrでの結果を示すグラフである。
【図9】実施例2における500Torrで成膜した膜の中流側部でのX−TEM像を示す写真であり、左下の挿入図は、同写真の一点鎖線の円で囲んだ部分における成長膜の電子回折パターンを示す。
【図10】Si(001)基板上の成長膜のラマン強度比の場所依存性の測定結果を示すグラフである。
【図11】ガラス基板上の成長膜のラマン強度比の場所依存性の測定結果を示すグラフである。
【図12】ポリSi堆積においてラマン強度比5.5以上が出現する成長条件(水素流量と基板温度の関係)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
M 常圧プラズマ成膜装置(常圧プラズマ表面処理装置)
W 基材(シリコン基板)
11,12 高圧電極
21 助走用接地電極
22 ステージ状選択領域用接地電極(基材配置機構の要素)
30 電源
40 移動機構
50 プロセスガス源
51a,51b 助走用プラズマ通路部
52a,52b 選択領域用プラズマ通路部
60 吸引ポンプ
61,62 吸込み部
R0 選択領域
R1 初期変動領域
R2 中間領域
R3 後期変動領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略常圧下でプロセスガスを電界印加にてプラズマ化し基材を表面処理する方法において、
前記電界が印加される略常圧のプラズマ通路にプロセスガスを通すとともに、このプラズマ通路の一部を選択領域とし、前記プラズマ通路を通るプロセスガスが前記選択領域においてのみ基材に当たるようにすることを特徴とする常圧プラズマ表面処理方法。
【請求項2】
前記プラズマ通路の中途部を前記選択領域の始端とし、プロセスガスを、前記中途部で基材に吹付けることを特徴とする請求項1に記載の常圧プラズマ表面処理方法。
【請求項3】
前記選択領域の終端に当たる位置で、プロセスガスを基材から離す方向に吸い込むことを特徴とする請求項1又は2に記載の常圧プラズマ表面処理方法。
【請求項4】
略常圧下でプロセスガスを電界印加にてプラズマ化し基材に成膜する方法において、
前記電界が印加される略常圧のプラズマ通路にプロセスガスを通すとともに、
プロセスガスの流れ方向に成膜プロファイルが初期変動する初期変動領域と、相対的に安定な中間領域と、前記初期変動とは逆向きに変動する後期変動領域との中から選択された一部の領域を選択領域とし、
前記プラズマ通路を通るプロセスガスが前記選択領域においてのみ基材に当たるようにすることを特徴とする常圧プラズマ成膜方法。
【請求項5】
前記後期変動領域を前記選択領域とすることを特徴とする請求項4に記載の常圧プラズマ成膜方法。
【請求項6】
略常圧下でプロセスガスを電界印加にてプラズマ化し基材を成膜する方法において、
前記電界が印加される略常圧のプラズマ通路にプロセスガスを通すとともに、
このプラズマ通路の上流端から成膜プロファイルが所定の範囲になるまでを助走用プラズマ通路部とし、この助走用プラズマ通路部の下流端でプロセスガスを基材に吹付け、
この助走用プラズマ通路部より下流側のプラズマ通路における成膜プロファイルが前記所定範囲である部分を選択領域用プラズマ通路部とし、この選択領域用プラズマ通路部を基材に沿わせ、
この選択領域用プラズマ通路部の下流端でプロセスガスを基材から離すように吸込むことを特徴とする常圧プラズマ成膜方法。
【請求項7】
前記助走用プラズマ通路部と選択領域用プラズマ通路部を含むプラズマ通路を2つ設け、
これらプラズマ通路に対し基材を相対移動させるようにし、
一方のプラズマ通路の選択領域用プラズマ通路部と他方のプラズマ通路の選択領域用プラズマ通路部とを前記相対移動方向に離して成膜処理を行なうことを特徴とする請求項6に記載の常圧プラズマ成膜方法。
【請求項8】
プロセスガスの流れ方向に沿う成膜速度又は結晶性のプロファイルを、前記成膜プロファイルとすることを特徴とする請求項4〜7の何れかに記載の常圧プラズマ成膜方法。
【請求項9】
基材にエピタキシャル層を成長させる方法であって、
前記エピタキシャル層の原料成分を含むプロセスガスをプラズマ通路に通すとともにこのプラズマ通路に電界を印加して略常圧下でプラズマを生成し、
かつ、前記基材を、前記プラズマ通路における上流側の助走領域と下流側の選択領域のうち選択領域にのみ配置することを特徴とするエピタキシャル成長方法。
【請求項10】
シリコン基材にホモエピタキシャル層を成長させる方法であって、
前記ホモエピタキシャル層の原料となるシリコン化合物を水素にて希釈したプロセスガスを用い、
このプロセスガスをプラズマ通路に通すとともにこのプラズマ通路に電界を印加して略常圧下でプラズマを生成し、
かつ、前記シリコン基材を、前記プラズマ通路における上流側の助走領域と下流側の選択領域のうち選択領域にのみ配置することを特徴とするエピタキシャル成長方法。
【請求項11】
略常圧下でプロセスガスをプラズマ化し基材を成膜する装置において、
プロセスガスを通す助走用プラズマ通路部を画成するとともにこの助走用プラズマ通路部に前記プラズマ化のための電界を形成する助走用電極対と、
前記助走用プラズマ通路部に連なるようにして選択領域用プラズマ通路部を画成するとともにこの選択領域用プラズマ通路部に前記プラズマ化のための電界を形成する選択領域用電極対と、
基材を前記2つのプラズマ通路部のうち選択領域用プラズマ通路部にのみ配置する基材配置機構と、
を備え、
前記助走用プラズマ通路部が、プロセスガスの流れ方向の成膜プロファイルが所定の範囲になるまでの路長を有し、
前記選択領域用プラズマ通路部が、前記所定の範囲に対応する路長を有していることを特徴とする常圧プラズマ成膜装置。
【請求項12】
前記助走用電極対にて画成された助走用プラズマ通路部の下流端が、基材へのプロセスガスの吹付け口となり、
前記選択領域用電極対における前記吹付け口の側とは反対側には、前記選択領域用プラズマ通路部からのプロセスガスを基材から離すように吸い込む吸込み部が設けられていることを特徴とする請求項11に記載の常圧プラズマ成膜装置。
【請求項13】
互いに角度をなして交わる第1面及び第2面を有して、前記電界印加のための電源に接続された高圧電極を備え、
この高圧電極の第1面に助走用接地電極が対向配置されて前記助走用電極対が構成され、第2面に選択領域用接地電極が対向配置されて前記選択領域用電極対が構成されていることを特徴とする請求項11又は12に記載の常圧プラズマ成膜装置。
【請求項14】
前記高圧電極が2つ設けられ、前記助走用電極対と選択領域用電極対の組みが2つ設けられており、
基材を、前記2つの高圧電極に対してこれら高圧電極の並び方向へ相対移動させる移動機構を、更に含むことを特徴とする請求項13に記載の常圧プラズマ成膜装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−295096(P2006−295096A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148639(P2005−148639)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】