説明

廃棄物溶融炉の操業方法

【課題】廃棄物をシャフト炉型の廃棄物溶融炉で直接溶融処理する廃棄物溶融処理方法において、安定操業を実現し、化石燃料起因のCO発生量を抑制しかつバイオマス炭化物の使用量増加を招かないバイオマス炭化物を用いた廃棄物溶融炉の操業方法を提供する。
【解決手段】本発明の廃棄物溶融炉の操業方法は、シャフト炉式廃棄物溶融炉に廃棄物とバイオマス炭化物を装入し、廃棄物を乾燥、熱分解、燃焼、溶融処理する廃棄物溶融処理炉において、炉底部に設けられている送風口から吹込む酸素富化空気の酸素濃度を30〜40容積%とする。また、送風口から吹込む酸素富化空気の吐出流速は30〜80m/s、送風口から吹込む酸素富化空気の温度が10〜100℃とする。バイオマス炭化物は中空筒状の炭化物を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般廃棄物・産業廃棄物などの廃棄物を溶融処理する廃棄物溶融炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般廃棄物・産業廃棄物、あるいはそれらを乾燥、焼却、破砕処理等によって得られた処理物、これらを一度埋め立て処理後、再度掘り起こした土砂分を含む埋め立てごみ等の廃棄物を処理する方法として、これらの廃棄物をシャフト炉式廃棄物溶融炉で溶融処理してスラグ、メタルとして再資源化する方法が実施されている。
【0003】
廃棄物を溶融処理する方法にシャフト炉式廃棄物溶融炉が使用される(特許文献1参照)。これは図4に示すように、炉本体1は、シャフト部1aと下部の朝顔部5とからなり、朝顔部5の下端の炉底部10には燃焼溶融帯用の下段送風口3を設けると共に、その上方には熱分解帯用の複数段の上段送風口2を有している。下段送風口3からは酸素または酸素富化空気を供給し、上段送風口2からは燃焼支持ガスとして空気を供給している。
【0004】
炉本体の上部には処理対象となる廃棄物や助燃剤としてのコークス、塩基度調整剤としての石灰石等を炉内に装入する、シール弁を備えた装入装置11が設けられ、炉底部10には廃棄物を溶融処理した後のスラグ、メタルの出滓口13が設けられている。
【0005】
上記構成にあって、装入された廃棄物1bは、溶融炉本体1の上層から乾燥・予熱帯6(約300〜400℃)、熱分解帯7(約300〜1000℃)、燃焼・溶融帯8(約1700〜1800℃)を通過して溶融処理される。
【0006】
下段送風口3から供給した酸素又は酸素富化空気によってコークス4や熱分解残渣14を高温で燃焼し、溶融熱源とし、一方、上段送風口2からは空気を供給して主に廃棄物の熱分解残渣14を燃焼し、発生したガスで廃棄物の乾燥・予熱及び熱分解を行う。溶融した廃棄物はスラグ、メタルを溶融物として出滓口13より排出される。
【0007】
高温の燃焼排ガスは、シャフト炉内の廃棄物の充填層を対向流として上昇し、溶融炉本体上部の排ガス管12から可燃ガスとして燃焼室へ導入されて燃焼され、燃焼排ガスは、排ガス管を通ってボイラーへ導入され、廃熱が回収された後、減温塔で温度を調整して集塵機に通し、更には、触媒反応塔で公害物質を除去した後、煙突から排出される。
【0008】
このように、シャフト炉式廃棄物溶融炉ではコークスを使用するが、地球温暖化防止の観点から石炭などの化石燃料に由来するCO削減のための開発が推進されている。直接溶融炉設備においても、石炭を原料とするコークスを、バイオマスなどの原料を用いた塊状燃料に代替し、化石燃料由来のCO発生量を削減しようとする開発も進められており、バイオマス原料を用いたコークスの製造方法(特許文献2)や、バイオマス原料をシャフト炉式廃棄物溶融炉で使用する方法(特許文献3)が開示されている。
【特許文献1】特開2001−90923号公報
【特許文献2】特開2004−250590号公報
【特許文献3】特開2004−347257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2,3では、非常に幅広い原料を用いて、シャフト炉式溶融炉のコークス代替燃料となるバイオマスコークスの製造及び使用法について記述されているが、発明者らの実験結果によれば、その操業方法によっては、シャフト炉式廃棄物溶融炉下部の高温領域にてバイオマスコークスが崩壊・粉化し、操業継続が困難になったり、使用量が増加したりすることがわかった。
【0010】
そこで本発明では、廃棄物をシャフト炉型の廃棄物溶融炉で直接溶融処理する廃棄物溶融処理方法において、化石燃料起因のCO発生量をなくし、安定操業を実現するとともに、バイオマス炭化物の使用量増加を招かないバイオマス炭化物を用いた廃棄物溶融炉の操業方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の廃棄物溶融炉の操業方法は、シャフト炉式廃棄物溶融炉に廃棄物とバイオマス炭化物を装入し、廃棄物を乾燥、熱分解、燃焼、溶融処理する廃棄物溶融処理炉において、炉底部に設けられている送風口から吹込む酸素富化空気の酸素濃度を30〜40容積%とすることを特徴とする。
【0012】
また、送風口から吹込む酸素富化空気の吐出流速は30〜80m/sであることを特徴とし、さらに、送風口から吹込む酸素富化空気の温度が10〜100℃であることを特徴とする。
【0013】
バイオマス炭化物として、平均粒径1mm以下の木材粉を乾燥し水分10質量%以下とした原料を、50〜400℃の範囲で加熱したダイスを持つ乾式のスクリュー型押出成型機により中空筒状の固形物に加圧加熱成型し、さらに750〜1200℃の範囲で乾留した炭化物、もしくは、有機系防腐剤を含浸させた枕木、電柱、建築廃材等の塊木材の炭化物、もしくは、建築廃材、間伐材などの廃木材にタール、ピッチ、リグニン、セルロース、フェノール類化合物を含浸させ、炭化した炭化物、もしくは、加熱圧縮した木材の炭化物、もしくは、それらの混合物を使用することができる。
【0014】
ここで、廃棄物溶融炉にてバイオマス炭化物を燃料とし、種々の操業条件の比較試験を行った。結果の一例を表1に示す。
【表1】

【0015】
表1では条件1以外は炭化物の使用量が増加する等の問題が発生した。試験の結果、バイオマス炭化物に適した操業条件の範囲が以下のようになることがわかった。
【0016】
・送風口から吹込む酸素富化空気の酸素濃度が30%〜40容積%
・吐出流速が40〜80m/s
・酸素富化空気の温度が10〜100℃
これは、バイオマス炭化物と高炉用コークスの性状の違いに起因していると考えられる。
【0017】
表2に、バイオマス炭化物と高炉用コークスの性状の比較を示す。
【表2】

【0018】
ここで、DI15015とは、JISK 2151に示すドラム強度で、試料をドラム中で150回転させた後の15mm篩上の質量比を示す。また、CRIとは、1100℃のCO雰囲気で2時間試料を曝露した時の質量減量分を表す。この表2から、高炉用コークスと比較して、バイオマス炭化物は、機械強度が弱く、高温下での反応性に富むことがわかる。
【0019】
従来の高炉コークスでは、送風口からの酸素濃度は高くし、またその温度を上げると、送風口先の燃焼温度が高くなり、排出される溶融物の温度維持に有効であったが、バイオマス炭化物の場合は、図2の酸素濃度とソリューション反応率との関係を示すグラフから、送風口からの酸素濃度を必要以上に高く、また、その温度を高くしすぎてしまうと、高炉用コークスと比較してより早く反応して100℃以上で急激にソリューション反応率が上昇し、炉下部での消耗が激しく高温火格子を形成できないためだと考えられる。そのため、酸素富化空気の酸素濃度とその温度は上記範囲で運転するのが望ましい。
【0020】
また、送風口からの吐出流速については、30m/s未満だと溶解したスラグが送風口先に付着し、閉塞するトラブルが発生し、また、80m/sを超えると、図3のガス流速と運動エネルギーとの関係を示すグラフから、送風の運動エネルギーによりバイオマス炭化物が送風口前で振動し、炭化物どうしで摩擦しあうため、粉化し、高温火格子が形成できていないと思われる。これは、先ほどの試験中において、送風口から炉内を覗いた場合も、炭化物が送風の影響で振動し、粉化していく様子が観察できた。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、シャフト炉式廃棄物溶融炉では、バイオマス起源の燃料の有効利用を行うことが可能となり、化石燃料起因のCO発生量をなくすことが可能となる。また、溶融炉後段でボイラーによる蒸気回収発電を行えば、電気エネルギーへの変換も可能であり、その結果、発電のために使用される化石燃料起源のCO発生を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施例を図面を用いて説明する。
【実施例】
【0023】
図1は本発明による廃棄物溶融処理設備を示す図で、図4に示す従来の廃棄物溶融処理設備と実質的に同一であり、同一構成に同一符号を付して、その説明は省略する。本発明による操業は従来と比較して、化石燃料に由来するコークスをバイオマス炭化物9で代替する点で大きく異なる。
【0024】
ここで使用する表2に示すバイオマス炭化物(1)は、原料として製材工場で排出した粒径1mm以下のオガクズをロータリーキルンで水分3質量%に乾燥し、電気ヒーターでダイスを200℃に加熱したスクリュー押し出し式の成型機にて中空筒状の成型物としたものを、乾留炉にて、800℃で20時間乾留したものを使用した。ここで、成型物の断面形状は、断面六角形で、外形D=58mm、中心の円の直径d=18mm、d/D=0.31とした。なお、この例では、乾燥にロータリーキルンを用いたが、乾燥機には、流動床式、気流乾燥式など各種乾燥炉が使用可能であり、また、乾留炉においても、流動床式、シャフト炉式、バッチ炉など各種乾留炉が使用可能であり、この例により何ら制限を加えるものではない。表2に示すバイオマス炭化物(2)として原料は150mm×150mm×120mmの廃木材塊を使用して、タールから製造したクレオソートを20%真空加圧含浸機で含浸させた。
【0025】
そして乾燥炉で100℃〜120℃で2時間乾燥し、乾留炉で還元雰囲気下で、かつ、昇温速度10℃/H〜100℃/Hの条件で800℃まで昇温したものを使用した。
【0026】
この試験では、図1に示すシャフト炉式廃棄物溶融炉1に廃棄物、石灰石、バイオマス炭化物を装入し、上段送風口3から空気を、下段送風口2から酸素富化空気を吹込んで廃棄物を溶融処理した。操業条件は、上段送風量(空気)350Nm/h、下段送風量(空気)250Nm/h、酸素を富化するために、下段送酸量(純酸素)60Nm/hとし、下段送風口での送風は酸素濃度36.3容積%、吐出流速41.8m/s、また、高炉コークス及び中空筒状炭化物の使用量を40kg/廃棄物tとした。なお、廃棄物は、K市で排出される一般都市ごみを使用した。
【0027】
試験の結果、バイオマス炭化物は、従来熱源として使用していた高炉コークスに比べ溶融能力としては何ら変わりなく操業可能であることが確認できた。そして、化石燃料起因のCO発生量を抑制することができた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の廃棄物溶融処理設備を示す図である。
【図2】酸素濃度とソリューション反応率との関係を示すグラフである。
【図3】ガス流速と運動エネルギーとの関係を示すグラフである。
【図4】従来の廃棄物溶融処理設備を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1:炉本体
1a:シャフト部
2:上段送風口
3:下段送風口
4: コークス
5:朝顔部
6:予熱帯
7:熱分解帯
8:燃焼・溶融帯
9:バイオマス炭化物
10:炉底部
11:装入装置
12:排ガス管
13:出滓口
14:熱分解残渣

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内に廃棄物をバイオマス炭化物とともに装入し、炉底部に設けられている送風口から酸素富化空気を吹込み、廃棄物を乾燥、熱分解、燃焼、溶融して廃棄物を処理する廃棄物溶融炉において、前記送風口から吹込む酸素富化空気の酸素濃度を30〜40容積%とすることを特徴とする廃棄物溶融炉の操業方法。
【請求項2】
送風口から吹込む酸素富化空気の吐出流速が30〜80m/sであることを特徴とする請求項1記載の廃棄物溶融炉の操業方法。
【請求項3】
送風口から吹込む酸素富化空気の温度が10〜100℃であることを特徴とする請求項1または2に記載の廃棄物溶融炉の操業方法。
【請求項4】
前記送風口が炉の上下方向に複数段あり、少なくとも1段の送風口から酸素富化空気を吹き込むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の廃棄物溶融炉の操業方法。
【請求項5】
バイオマス炭化物が、平均粒径1mm以下の木材粉を乾燥し水分10質量%以下とした原料を、50〜400℃の範囲で加熱したダイスを持つ乾式のスクリュー型押出成型機により中空筒状の固形物に加圧加熱成型し、さらに750〜1200℃の範囲で乾留した炭化物、もしくは、有機系防腐剤を含浸させた枕木、電柱、建築廃材等の塊木材の炭化物、もしくは、建築廃材、間伐材などの廃木材にタール、ピッチ、リグニン、セルロース、フェノール類化合物を含浸させ、炭化した炭化物、もしくは、加熱圧縮した木材の炭化物、もしくは、それらの混合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の廃棄物溶融炉の操業方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−93069(P2007−93069A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281269(P2005−281269)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】