説明

建設機械の走行制御装置

【課題】低速モード及び高速モードの切換えによる多様な速度操作性を確保しつつ、急発進を防止することができる建設機械の走行制御装置を提供する。
【解決手段】走行用操作レバー21L,21Rの操作に応じて油圧ポンプ29a,29bから走行用油圧モータ10L,10Rへの圧油の流れを制御する走行用方向切換弁31L,31Rと、低速モード及び高速モードの切換えを指示可能な切換スイッチ25とを備えた建設機械の走行制御装置において、走行用操作レバー21L,21Rの操作量が予め最大操作量の5〜30%の範囲内で設定された設定量に達していないと判定された場合は、切換スイッチ25の切換え指示を無効として低速モードを設定し、走行用操作レバー21L又は21Rの操作量が設定量に達したと判定された場合は、切換スイッチ25の切換え指示を有効とし、高速モード及び低速モードのうちのいずれかを選択設定する制御装置43とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械に係わり、特に、低速モード及び高速モードの切換えを運転者が指示可能な建設機械の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ショベル等の建設機械に設けられた走行制御装置において、低速モード及び高速モードの切換えを運転者が指示可能なものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の走行制御装置は、エンジン(原動機)によって駆動する油圧ポンプ及び補助ポンプと、可変容量型の走行用油圧モータと、運転者が操作可能とし、その操作量に応じて走行速度を指示可能な走行用操作レバーと、この走行用操作レバーの操作方向及び操作量に応じて油圧ポンプから走行用油圧モータへの圧油の流れ方向及び流量を制御する方向切換弁と、低速モード及び高速モードの切換えを運転者が指示可能な切換スイッチと、走行用油圧モータの容量可変部(例えば斜板等)を傾転駆動する傾転アクチュエータと、切換スイッチの操作に応じて補助ポンプから傾転アクチュエータへの圧油の流れを制御する容量制御弁とを備えている。
【0003】
そして、例えば切換スイッチをON状態にすると、容量制御弁が大容量切換位置に切換えられ傾転アクチュエータが縮短して、走行用油圧モータの容量可変部が大容量側に傾転駆動する。これにより、走行用油圧モータを高トルクで低速回転させることが可能となる。一方、例えば切換スイッチをOFF状態にすると、容量制御弁が小容量切換位置に切換えられ傾転アクチュエータが伸長して、走行用油圧モータの容量可変部が小容量側に傾転駆動する。これにより、走行用油圧モータを小トルクで高速回転させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−136436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術には以下のような改善の余地があった。すなわち、上記従来技術では、走行用操作レバーの操作位置に関係なく、低速モード及び高速モードの切換えを可能としている。すなわち、例えば走行用操作レバーが中立位置であっても、高速モードに設定することが可能である。そのため、例えば高速モードに設定されたまま運転者が交替した場合に、高速モードであることに気づかないまま走行用操作レバーを操作して、急発進する恐れがある。
【0006】
本発明の目的は、低速モード及び高速モードの切換えによる多様な速度操作性を確保しつつ、急発進を防止することができる建設機械の走行制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、原動機によって駆動する油圧ポンプと、可変容量型の走行用油圧モータと、運転者が操作可能とし、その操作量に応じて走行速度を指示可能な走行用操作手段と、前記走行用操作手段の操作に応じて前記油圧ポンプから前記走行用油圧モータへの圧油の流れを制御する方向切換弁と、低速モード及び高速モードの切換えを運転者が指示可能な走行モード指示手段とを備えた建設機械の走行制御装置において、前記走行用操作手段の操作量が、予め最大操作量の5〜30%の範囲内で設定された設定量に達したか否かを判定する操作量判定手段と、前記操作量判定手段で前記走行用操作手段の操作量が前記設定量に達していないと判定された場合は、前記走行モード指示手段の切換え指示を無効として低速モードを設定し、前記判定手段で前記走行用操作手段の操作量が前記設定量に達したと判定された場合は、前記走行モード指示手段の切換え指示を有効とし、その切換え指示に応じて高速モード及び低速モードのうちのいずれかを選択設定する走行モード設定手段と、前記走行モード設定手段で低速モードが設定されたときに、前記走行用油圧モータの容量を予め設定された大容量Q1に設定し、前記走行モード設定手段で高速モードが設定されたときに、前記走行用油圧モータの容量を、前記大容量Q1より小さくなるように予め設定された小容量Q2に設定するモータ容量制御手段とを備える。
【0008】
このような本発明においては、例えば走行用操作手段の操作量が設定量(詳細には、最大操作量の5〜30%の範囲内で設定された設定量)に達していない場合は、走行モード指示手段の切換え指示を無効として低速モードを設定する。これにより、急発進を防止することができる。一方、例えば走行用操作手段の操作量が設定量に達した場合は、走行モード指示手段の切換え指示を有効とし、その切換え指示に応じて高速モード及び低速モードのうちのいずれかを選択設定する。これにより、高速モード及び低速モードの切換えによる多様な速度操作性を確保することができる。
【0009】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記走行用操作手段の操作量が前記設定量に達していないと判定された場合に前記走行モード指示手段の切換え指示を無効として低速モードを設定する機能の解除を運転者が指示可能な機能解除指示手段を備え、前記走行モード設定手段は、前記機能解除指示手段で前記機能の解除が指示されたときには、前記走行用操作手段の操作量が前記設定量に達していないと判定された場合でも、前記走行モード指示手段の切換え指示を有効とし、その切換え指示に応じて高速モード及び低速モードのうちのいずれかを選択設定する。
【0010】
(3)上記(1)又は(2)において、好ましくは、前記操作量判定手段は、前記走行用操作手段の操作量に対応して生成されて前記方向切換弁に出力される操作パイロット圧が予め設定された所定の設定圧力に達したか否かを検出する圧力スイッチを有する。
【0011】
(4)上記(1)又は(2)において、好ましくは、前記操作量判定手段は、前記走行用操作手段の操作量が前記設定量に達したか否かを検出するリミットスイッチを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高速モード及び低速モードの切換えによる多様な速度操作性を確保しつつ、急発進を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態における小型の油圧ショベルの全体構造を表す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態における油圧ショベルの運転室の詳細構造を表す俯瞰図である。
【図3】本発明の一実施形態における走行系に係わる油圧駆動装置の構成を表す油圧回路図である。
【図4】本発明の一実施形態における制御装置の構成を関連機器と共に表す電気回路図である。
【図5】本発明の一実施形態におけるマイコンの制御処理内容を表すフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態における切換スイッチ及び走行用操作レバーの操作状態と走行速度との関係を表す特性図である。
【図7】本発明の第1の変形例における制御装置の構成を関連機器とともに表す電気回路図である。
【図8】本発明の第2の変形例における制御装置の構成を関連機器とともに表す電気回路図である。
【図9】本発明の第2の変形例におけるマイコンの制御処理内容を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
図1は、本実施形態における小型の油圧ショベルの全体構造を表す斜視図である。図2は、油圧ショベルの運転室の詳細構造を表す俯瞰図である。なお、以降、油圧ショベルが図1に示す状態にて運転者が運転席に着座した場合における運転者の前側(図1中右側)、後側(図1中左側)、左側(図1中紙面に向かって奥側)、右側(図1中紙面に向かって手前側)を、単に前側、後側、左側、右側と称する。
【0016】
これら図1及び図2において、油圧ショベルは、左右の履帯(クローラ)1L,1Rを備えた下部走行体2と、この下部走行体2の上部に旋回可能に搭載された上部旋回体3と、この上部旋回体3の基礎下部構造をなす旋回フレーム4と、この旋回フレーム4の前部に水平方向に回動可能に取り付けられたスイングポスト5と、このスイングポスト5に上下方向に回動可能に(俯仰可能に)取り付けられた多関節型のフロント作業機6と、旋回フレーム4上に設けられたキャノピータイプの運転室7と、旋回フレーム4上の運転室7以外の大部分を覆う複数のカバー8とを備えている。上部旋回体3のカバー8内には、後述するエンジン等の機器が搭載されている。
【0017】
下部走行体2は、略H字形状のトラックフレーム9と、このトラックフレーム9の左右両側の後端近傍に回転可能に支持された左右の駆動輪(図示せず)と、これら左右の駆動輪をそれぞれ駆動する左右の走行用油圧モータ10L,10Rと、トラックフレーム9の左右両側の前端近傍に回転可能に支持され、履帯1L,1Rを介し駆動輪の駆動力でそれぞれ回転される左右の従動輪(図示せず)とを備えている。
【0018】
トラックフレーム9の前側には、排土用のブレード11が上下動可能に設けられており、ブレード11は、ブレード用油圧シリンダ12により上下動するようになっている。また、トラックフレーム9の中央部と旋回フレーム4との間には、旋回輪(図示せず)が設けられており、この旋回輪の径方向内側には、トラックフレーム9に対し旋回フレーム4を旋回させる旋回用油圧モータ(図示せず)が設けられている。
【0019】
スイングポスト5は、垂直ピン(図示せず)を介して旋回フレーム4に対し水平方向に回動可能となっている。そして、スイング用油圧シリンダ13によりスイングポスト5が水平方向に回動し、これによってフロント作業機6が左右にスイングするようになっている。
【0020】
フロント作業機6は、スイングポスト5に回動可能に連結されたブーム14と、このブーム14の先端部に回動可能に結合されたアーム15と、このアーム15の先端部に回動可能に結合されたバケット16とを備えている。そして、ブーム14、アーム15、及びバケット16は、ブーム用油圧シリンダ17、アーム用油圧シリンダ18、及びバケット用油圧シリンダ19により動作するようになっている。
【0021】
運転室7には、運転者が着座する運転席(座席)20が設けられている。運転席20の前方には、左右の走行用油圧モータ10をそれぞれ駆動させるための手でも足でも操作可能な左右の走行用操作レバー21L,21Rが設けられている。左の走行用操作レバー21Lのさらに左側の足元部分には、オプション用油圧アクチュエータ(図示せず)を駆動させるためのオプション用操作ペダル22Lが設けられ、右の走行用操作レバー21Rのさらに右側の足元部分には、スイング用油圧シリンダ13を駆動させるためのスイング用操作ペダル22Rが設けられている。
【0022】
運転席20の左側には、左右方向に操作することで旋回用油圧モータを駆動させるとともに前後方向に操作することでアーム用油圧シリンダ18を駆動させる十字操作式の旋回・アーム用操作レバー23Lが設けられている。運転席20の右側には、左右方向に操作することでバケット用油圧シリンダ19を駆動させるとともに前後方向に操作することでブーム用油圧シリンダ17を駆動させる十字操作式のバケット・ブーム用操作レバー23Rと、ブレード用油圧シリンダ12を駆動させるためのブレード用操作レバー24とが設けられている。
【0023】
また、ブレード用操作レバー24の把持部には、低速モード及び高速モードの切換え指示が可能な切換スイッチ25(後述の図4参照)が設けられている。切換スイッチ25は、例えばオルタネイト式の押しボタンスイッチであり、押す力を取り除いてもON状態(高速モード指示位置)を保持し、再度押すことによってOFF状態(低速モード指示位置)に復帰するようになっている。また、バケット・ブーム用操作レバー23Rの後方側には、高速モード表示ランプ26(後述の図4参照)等を有するコンソールパネル27が設けられている。
【0024】
図3は、本実施形態における走行系に係わる油圧駆動装置の構成を表す油圧回路図である。
【0025】
この図3において、エンジン(原動機)28と、このエンジン28によって駆動する可変容量型の油圧ポンプ29a,29b及び固定容量型のパイロットポンプ(補助ポンプ)30と、上述した左右の可変容量型の走行用油圧モータ10L,10Rと、油圧ポンプ29aから左走行用油圧モータ10Lへの圧油の流れを制御する油圧パイロット式の左走行用方向切換弁31Lと、油圧ポンプ29bから右走行用油圧モータ10Rへの圧油の流れを制御する油圧パイロット式の右走行用方向切換弁31Rと、左右の走行用操作レバー装置32L,32Rとが設けられている。
【0026】
油圧ポンプ29a,29bにはポンプレギュレータ33a,33bが付設されている。ポンプレギュレータ33a,33bは、油圧ポンプ29a,29bのトルクを制限するように、すなわち油圧ポンプ29a,29b吐出圧力の上昇に応じて容量吐出流量を減じるように、油圧ポンプ29a,29bの容量(押しのけ容積)を制御するようになっている。
【0027】
左走行用操作レバー装置32Lは、左走行用操作レバー21Lの中立位置から前側の操作量に応じて、パイロットポンプ30からの1次パイロット圧を減圧した操作パイロット圧(二次パイロット圧)を生成する減圧弁34aと、左走行用操作レバー21Lの中立位置から後側の操作量に応じて、パイロットポンプ30からの1次パイロット圧を減圧した操作パイロット圧(二次パイロット圧)を生成する減圧弁34bとを有している。そして、例えば左走行用操作レバー21Lを前側に操作すると、その操作量に応じて減圧弁34aで生成された操作パイロット圧が左走行用方向切換弁31Lのパイロット操作部35aへ出力され、これによって左走行用方向切換弁31Lが図中左側の切換位置に切換えられる。一方、左走行用操作レバー21Lを後側に操作すると、その操作量に応じて減圧弁34bで生成された操作パイロット圧が左走行用方向切換弁31Lのパイロット操作部35bへ出力され、これによって左走行用方向切換弁31Lが図中右側の切換位置に切換えられる。
【0028】
同様に、右走行用操作レバー装置31Lは、右走行用操作レバー21Rの中立位置から前側の操作量に応じて、パイロットポンプ30からの1次パイロット圧を減圧した操作パイロット圧(二次パイロット圧)を生成する減圧弁34cと、右走行用操作レバー21Rの中立位置から後側の操作量に応じて、パイロットポンプ30からの1次パイロット圧を減圧した操作パイロット圧(二次パイロット圧)を生成する減圧弁34dとを有している。そして、例えば右走行用操作レバー21Rを前側に操作すると、その操作量に応じて減圧弁34cで生成された操作パイロット圧が右走行用方向切換弁31Rのパイロット操作部35cへ出力され、これによって右走行用方向切換弁31Rが図中左側の切換位置に切換えられる。一方、右走行用操作レバー21Rを後側に操作すると、その操作量に応じて減圧弁34dで生成された操作パイロット圧が右走行用方向切換弁31Rのパイロット操作部35dへ出力され、これによって右走行用方向切換弁31Rが図中右側の切換位置に切換えられる。
【0029】
また、左走行用操作レバー装置31Lの減圧弁34aの出力側と右走行用操作レバー装置31Rの減圧弁34dの出力側とを接続する管路にはシャトル弁36aが設けられ、左走行用操作レバー装置31Lの減圧弁34bの出力側と右走行用操作レバー装置31Rの減圧弁34cの出力側とを接続する管路にはシャトル弁36bが設けられ、これらシャトル弁36a,36bを接続する管路にはシャトル弁36cが設けられ、このシャトル弁36cには圧力スイッチ37が接続されている。これにより、操作パイロット圧の最大値が圧力スイッチ37に導入されるようになっている。圧力スイッチ37は、操作パイロット圧の最大値が予め設定された所定の設定圧力に達したか否か(言い換えれば、走行用操作レバー31L又は31Rの操作量が予め設定された設定量に達したか否か)を検出し、所定の設定圧力に達した場合に検出信号を出力するようになっている。
【0030】
左走行用方向切換弁31Lと左走行用油圧モータ10Lとの間には、カウンタバランス弁38Lが設けられている。そして、例えば左走行用方向切換弁31Lが図中左側(又は右側、以降、かっこ内対応同じ)の切換位置に切換えられた場合、カウンタバランス弁38Lは、油圧ポンプ29aからの圧油がパイロット管路及び絞りを介して作用することにより図中右側(又は左側)の切換位置に切換えられて、油圧ポンプ29aからの圧油を左走行用油圧モータ10Lへ供給し、左走行用油圧モータ10Lを前進方向(又は後進方向)に回転させる。また、このとき、カウンタバランス弁38Lを介し油圧ポンプ29aからの圧油の一部をメカブレーキ39Lへ供給して、メカブレーキ39Lを解除するようになっている。一方、例えば左走行用方向切換弁31Lが中立位置に戻された場合、カウンタバランス弁38Lは、バネの付勢力により中立位置に切換えられてブレーキ圧が生じ、左走行用油圧モータ10Lに制動力を生じさせる。また、このとき、メカブレーキ39Lの圧油をタンクに戻し、バネの付勢力によりメカブレーキ39Lを作動させるようになっている。
【0031】
同様に、右走行用方向切換弁31Rと右走行用油圧モータ10Rとの間には、カウンタバランス弁38Rが設けられている。そして、例えば右走行用方向切換弁31Rが図中左側(又は右側、以降、かっこ内対応同じ)の切換位置に切換えられた場合、カウンタバランス弁38Rは、油圧ポンプ29bからの圧油がパイロット管路及び絞りを介して作用することにより図中右側(又は左側)の切換位置に切換えられて、油圧ポンプ29bからの圧油を右走行用油圧モータ10Rへ供給し、右走行用油圧モータ10Rを前進方向(又は後進方向)に回転させる。また、このとき、カウンタバランス弁38Rを介し油圧ポンプ29bからの圧油の一部をメカブレーキ39Rへ供給して、メカブレーキ39Rを解除するようになっている。一方、例えば右走行用方向切換弁31Rが中立位置に戻された場合、カウンタバランス弁38Rは、バネの付勢力により中立位置に切換えられてブレーキ圧が生じ、右走行用油圧モータ10Rに制動力を生じさせる。また、このとき、メカブレーキ39Rの圧油をタンクに戻し、バネの付勢力によりメカブレーキ39Rを作動させるようになっている。
【0032】
左走行用油圧モータ10Lにはモータレギュレータ40Lが付設されており、このモータレギュレータ40Lへの圧油の流れを制御する油圧パイロット式の容量制御弁41Lが設けられている。同様に、右走行用油圧モータ10Rにはモータレギュレータ40Rが付設されており、このモータレギュレータ40Rへの圧油の流れを制御する油圧パイロット式の容量制御弁41Rが設けられている。また、パイロットポンプ30と容量制御弁41L,41Rのパイロット操作部とを接続するパイロット管路には電磁弁42が設けられており、この電磁弁42は後述する制御装置43によって駆動制御される。
【0033】
そして、例えば電磁弁42が図中右側の切換位置にある場合は、パイロットポンプ30から容量制御弁41L,41Rへのパイロット圧が遮断されるので、容量制御弁41Lが図中左側の切換位置に切換えられ、容量制御弁41Rが図中右側の切換位置に切換えられる。これにより、モータレギュレータ40L,40R内の圧油がタンクに戻されて縮短し、走行用油圧モータ10L,10Rの容量可変部(例えば斜板等)が大容量側に傾転駆動する。一方、例えば電磁弁42が図中左側の切換位置にある場合は、パイロットポンプ30から容量制御弁41L,41Rへパイロット圧が導入されて、容量制御弁41Lが図中右側の切換位置に切換えられ、容量制御弁41Rが図中左側の切換位置に切換えられる。これにより、モータレギュレータ40L,40Rに圧油が供給されて伸長し、走行用油圧モータ10L,10Rの容量可変部が小容量側に傾転駆動する。
【0034】
次に、本実施形態の要部である制御装置43について説明する。図4は、制御装置43の構成を関連機器とともに表す電気回路図である。
【0035】
この図4において、制御装置43は、切換スイッチ25からの指示信号及び圧力スイッチ37からの検出信号を入力し、これらの信号に対し所定の演算・制御処理を行うマイコン44と、このマイコン44によって制御されるリレー45とを有している。電磁弁42のソレノイド部及び高速モード表示灯26は、リレー45の接点を介しバッテリ46に接続されている。そして、例えばマイコン44の出力によってリレー45のコイルが励磁されてリレー45の接点が閉じ状態に切換えられると、電磁弁42が駆動するとともに、高速モード表示灯26が点灯するようになっている。マイコン44の制御処理内容を図5により説明する。
【0036】
この図5において、まずステップ100において、マイコン44は、圧力スイッチ37からの検出信号が入力されたか否かを判定することにより、走行用操作レバー21L又は21Rが予め設定された設定量(詳細には、最大操作量の5〜30%の範囲内で設定された設定量)に達したか否かを判断する。例えば圧力スイッチ37からの検出信号が入力されない場合(言い換えれば、走行用操作レバー21L,21Rが設定量に達していない場合)は、ステップ100の判定が満たされず、ステップ110に移る。ステップ110では、切換スイッチ25からの指示信号を無効とし、ステップ120に進んで、低速モードを設定して、リレー45の接点を開き状態とする。これにより、高速モード表示灯26が消灯するとともに、電磁弁42が前述の図3中右側の切換位置に切換えられる。その結果、走行用油圧モータ10L,10Rの容量可変部が大容量側に傾転駆動し、走行用油圧モータ10L,10Rの容量を予め設定された大容量Q1にそれぞれ設定するので、走行用油圧モータ10L,10Rを高トルクで低速回転させることが可能となる。ステップ120の終了後は、前述のステップ100に戻って上記同様の手順を繰り返す。
【0037】
例えばステップ100にて圧力スイッチ37からの検出信号が入力された場合(言い換えれば、走行用操作レバー21L又は21Rが設定量に達した場合)は、その判定が満たされ、ステップ130に移る。ステップ130では、切換スイッチ25からの指示信号を有効とし、ステップ140に進んで、切換スイッチ25からの指示信号が入力されたか否かを判定することにより、高速モードの指示であるか否かを判断する。例えば切換スイッチ25からの指示信号が入力されない場合(言い換えれば、低速モードの指示である場合)は、ステップ140の判定が満たされず、前述のステップ120に移って上記同様の手順を繰り返す。一方、例えば切換スイッチ25からの指示信号が入力された場合(言い換えれば、高速モードの指示である場合)は、ステップ150に移る。ステップ150では、高速モードを設定して、リレー45の接点を閉じ状態とする。これにより、高速モード表示灯26が点灯するとともに、電磁弁42が前述の図3中左側の切換位置に切換えられる。その結果、走行用油圧モータ10L,10Rの容量可変部が小容量側に傾転駆動し、走行用油圧モータ10L,10Rの容量を予め設定された小容量Q2(但し、Q2<Q1)にそれぞれ設定するので、走行用油圧モータ10L,10Rを低トルクで高速回転させることが可能となる。ステップ150の終了後は、前述のステップ100に戻って上記同様の手順を繰り返す。
【0038】
本実施形態の動作及び作用効果を説明する。
【0039】
例えばブレード11による整地作業を行う場合、まず、運転者はブレード用操作レバー24を操作して、ブレード11の位置を下げる。その後、切換スイッチ25をON操作するとともに、走行用操作レバー21L,21Rを操作して前進させる。このとき、走行用操作レバー21L,21Rの操作量が設定量(詳細には、最大操作量の5〜30%の範囲内で設定された設定量)に達していない間は、制御装置43は、切換スイッチ25からの指示信号を無効とし、低速モードを設定する。これにより、急発進を防止することができる。そして、走行用操作レバー21L,21Rの操作量が設定量に達すると、制御装置43は、切換スイッチ25からの指示信号を有効とし、その指示信号に応じて高速モード及び低速モードのうちのいずれかを選択設定する。したがって、図6に示すように、低速モード及び高速モードの切換えと走行用操作レバー21L,21Rの操作量との組合せによる多様な速度操作性を確保することができる。また、本発明の一実施形態を適用させるために既存の油圧ショベルを改造することも容易である。
【0040】
なお、上記一実施形態においては、切換スイッチ25は、ブレード用操作レバー24の把持部に設けた場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、例えば走行用操作レバー21L又は21Rの把持部などに設けてもよい。また、上記一実施形態においては、切換スイッチ25は、オルタネイト式の押しボタンスイッチである場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、例えばモーメンタリ式の押しボタンスイッチとしてもよいし、若しくはトグルスイッチ等としてもよい。これらの場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0041】
また、上記一実施形態においては、走行用操作レバー装置32L,32Rから走行用方向切換弁32L,32Rに出力される操作パイロット圧が予め設定された所定の設定圧力に達したか否かを検出する圧力スイッチ37を設け、この圧力スイッチ37の検出信号に基づいて走行用操作レバー21L又は21Rの操作量が設定量に達したか否かを制御装置43が判定する場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、例えば図7で示す第1の変形例のように、走行用操作レバー21L,21Rの操作量が設定量に達したか否かをそれぞれ検出するリミットスイッチ47a,47bを設け、これらリミットスイッチ47a,47bの検出信号に基づいて走行用操作レバー21L又は21Rの操作量が設定量に達したか否かを制御装置43が判定してもよい。このような変形例においても、上記一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0042】
また、上記一実施形態(及び上記第1の変形例)においては、特に説明しなかったが、例えば図8で示す第2の変形例のように、走行用操作レバー21L,21Rの操作量が設定量に達していない場合の切換スイッチ25の指示信号を無効化する機能を解除可能な解除スイッチ48を設けてもよい。このような変形例におけるマイコン44の制御処理内容を図9により説明する。なお、この図9において、上述した一実施形態と同等の部分は同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0043】
この図9において、まずステップ160において、マイコン44は、解除スイッチ48からの信号が入力されたか否かを判定することにより、機能解除の指示が入力されたか否かを判断する。例えば解除スイッチ48からの信号が入力されない場合(言い換えれば、機能解除の指示が入力されない場合)は、ステップ160の判定が満たされず、ステップ100に移って、上記一実施形態と同様の手順を行う。一方、例えば解除スイッチ48からの信号が入力された場合(言い換えれば、機能解除の指示が入力された場合)は、ステップ160の判定が満たされ、ステップ130に進んで、切換スイッチ25からの指示信号を有効とする。その後、ステップ140に進んで、上記一実施形態と同様の手順を行う。
【0044】
このような変形例においても、上記一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0045】
10L,10R 走行用油圧モータ
22L,22R 走行用操作レバー(走行用操作手段)
25 切換スイッチ(走行モード指示手段)
28 エンジン(原動機)
29a,29b 油圧ポンプ
31L,31R 走行用方向切換弁
37 圧力スイッチ(操作量判定手段)
40L,40R モータレギュレータ(モータ容量制御手段)
41L,41R 容量制御弁(モータ容量制御手段)
42 電磁弁(モータ容量制御手段)
43 制御装置(操作量判定手段、走行モード設定手段)
47a,47b リミットスイッチ(操作量判定手段)
48 解除スイッチ(機能解除指示手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機によって駆動する油圧ポンプと、可変容量型の走行用油圧モータと、運転者が操作可能とし、その操作量に応じて走行速度を指示可能な走行用操作手段と、前記走行用操作手段の操作に応じて前記油圧ポンプから前記走行用油圧モータへの圧油の流れを制御する方向切換弁と、低速モード及び高速モードの切換えを運転者が指示可能な走行モード指示手段とを備えた建設機械の走行制御装置において、
前記走行用操作手段の操作量が、予め最大操作量の5〜30%の範囲内で設定された設定量に達したか否かを判定する操作量判定手段と、
前記操作量判定手段で前記走行用操作手段の操作量が前記設定量に達していないと判定された場合は、前記走行モード指示手段の切換え指示を無効として低速モードを設定し、前記判定手段で前記走行用操作手段の操作量が前記設定量に達したと判定された場合は、前記走行モード指示手段の切換え指示を有効とし、その切換え指示に応じて高速モード及び低速モードのうちのいずれかを選択設定する走行モード設定手段と、
前記走行モード設定手段で低速モードが設定されたときに、前記走行用油圧モータの容量を予め設定された大容量Q1に設定し、前記走行モード設定手段で高速モードが設定されたときに、前記走行用油圧モータの容量を、前記大容量Q1より小さくなるように予め設定された小容量Q2に設定するモータ容量制御手段とを備えたことを特徴とする建設機械の走行制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の建設機械の走行制御装置において、前記走行用操作手段の操作量が前記設定量に達していないと判定された場合に前記走行モード指示手段の切換え指示を無効として低速モードを設定する機能の解除を運転者が指示可能な機能解除指示手段を備え、前記走行モード設定手段は、前記機能解除指示手段で前記機能の解除が指示されたときには、前記走行用操作手段の操作量が前記設定量に達していないと判定された場合でも、前記走行モード指示手段の切換え指示を有効とし、その切換え指示に応じて高速モード及び低速モードのうちのいずれかを選択設定することを特徴とする建設機械の走行制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の建設機械の走行制御装置において、前記操作量判定手段は、前記走行用操作手段の操作量に対応して生成されて前記方向切換弁に出力される操作パイロット圧が予め設定された所定の設定圧力に達したか否かを検出する圧力スイッチを有することを特徴とする建設機械の走行制御装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の建設機械の走行制御装置において、前記操作量判定手段は、前記走行用操作手段の操作量が前記設定量に達したか否かを検出するリミットスイッチを有することを特徴とする建設機械の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−1970(P2011−1970A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143311(P2009−143311)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】