説明

弦楽器演奏用のロボットハンドおよび弦楽器演奏用のロボット

【課題】大出力のアクチュエータを用いることなく、大きなビブラートストローク量を確保することが可能な弦楽器演奏用のロボットハンドを提供すること。
【解決手段】指部本体と、該指部本体に取り付けられ、弦を押さえるための接触子を先端に有した揺動リンク機構と、を備える指部を含む、弦楽器演奏用のロボットハンドにおいて、接触子を弦に押し付けるように指部本体を移動させた際に、揺動リンクが弦に対して相対的に位置を変化しながら揺動するように指部を構成するとともに、揺動リンクの揺動を妨げる向きに力を付与する力付与手段が設けられており、接触子が弦と接触を保った状態で、接触子を弦に押し付ける方向に指部本体を移動させることで、揺動リンクが揺動し、接触子が弦を押さえたまま弦の長手方向に移動可能となるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弦楽器を演奏するためのロボットハンド、および弦楽器を演奏するためのロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、人間の手の形を模したロボットハンドが開発されている。このようなロボットハンドは、複数または単数の関節を含む指部を備え、これらの指部の関節を駆動し、指部の姿勢を変形することで物体を把持する動作を行うことが可能であり、工場内での物体の搬送などといった作業に用いられている。(例えば特許文献1)
【0003】
しかしながら、人間の手はそのような物体把持のみではなく、様々な作業を行うことが可能に構成されている。例えば、人間の手は、その指部を動かすことで、楽器の演奏に必要な複雑な動作を行うことができる。そこで、本出願人は、楽器演奏を行うことを可能とするロボットハンドとして、例えば特許文献2に示すようなロボットハンドを開発している。
【0004】
前述のロボットハンドは、隣接する2以上のピストンを有するような管楽器を演奏するためのものであり、管楽器のピストン毎に設けられた指を、アクチュエータにより駆動するものである。このようなロボットハンドは、指部を駆動して楽器演奏を行う際に、その演奏動作に必要な楽器(ピストン)のストローク量に相当する指部の駆動量を確保するためのアクチュエータを、例えば、ロボットハンドを平面視した際に、一つのアクチュエータを他のアクチュエータと段違いに配置するなどの構成とすることによって、各指部を平行に配置可能としたものである。このようなロボットハンドによると、その外観が人間の手に近いものとなるため、ロボットによる楽器演奏をより人間の演奏に近い動作とすることができる。
【特許文献1】特開2005−022001号公報
【特許文献2】特開2004−314187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、演奏する対象がヴァイオリンやビオラ、ギターなどの弦楽器である場合、演奏をより好適に行うためには、音色を変化させるために弦を押さえつける際に、弦の押さえつけ箇所を微妙に変化させる動作、例えばビブラート演奏を行うための動作を行う必要がある。このビブラート演奏は、弦に接触した指部の先端と、運指板との垂直距離を微小に変化させることで、水平方向(運指板に並行な方向)について、指部の先端と弦との接触位置を変化させるものである。
【0006】
このような、ビブラート演奏のために指部の先端と弦との水平方向に関する接触位置を変化させ、ビブラートストローク量を確保するための構成の一つとして、指部の先端を弦に押し付けた際に、指部の先端の一部分が揺動することで、弦と指部先端との接触位置を変化させるものが考えられる(図10参照)。しかしながら、このように指部を構成した場合、指部の先端と弦との水平方向に関する接触位置を大きく変化させ、ビブラートストローク量を大きく確保しようとした場合、指部の先端を運指板に押し付ける量を増加させる必要がある。
【0007】
このように指部のセンタを運指板に押し付ける量を増加させると、指部の先端が弦を運指板に押し付ける力を大きく付与しなければならず、そのために、指部を弦に押し付けるための指部の駆動手段として、大出力のアクチュエータを用いる必要が生じる。しかしながら、このよう大出力のアクチュエータは、その大きさや重量のために、指部またはロボットハンドの内部に組み込んだ形で搭載することは、ロボットハンドを構成するための設計上の制約から困難であることが多い。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、弦楽器演奏用のロボットまたはロボットハンドにおいて、大出力のアクチュエータを用いることなく、大きなビブラートストローク量を確保することを可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る弦楽器演奏用のロボットハンドは、指部本体と、該指部本体に取り付けられ、弦を押さえるための接触子を先端に有した揺動部を含む揺動リンク機構と、を備える指部を含むとともに、前記指部が、前記接触子を弦に押し付けるように前記指部本体を移動させた際に、前記揺動部が弦に対して相対的に位置を変化しながら揺動するように構成され、さらに、前記揺動部の揺動を妨げる向きに力を付与する力付与手段を備えており、前記接触子が弦と接触を保った状態で、前記接触子を弦に押し付ける方向に指部本体を移動させることで、前記揺動部が揺動し、前記接触子が弦を押さえたまま弦の長手方向に移動可能となるように構成したことを特徴としている。
【0010】
このように構成されたロボットハンドでは、指部の先端に取り付けられた接触子が、弦の長手方向に移動する際(ビブラート演奏を行う際)に、接触子の移動に伴った押し込み力の増加が生じることがない。そのため、弦を押し付けるために必要な最低限の押し込み力を大きく超えることなく、接触子が弦に接触した状態を継続させることができ、その結果、指部を駆動して接触子を弦に接触させるために押し込み力を大きくする必要がなくなる。これによって、指部を駆動するためのアクチュエータとして、大出力のものを用いる必要がなくなるという効果が得られる。
【0011】
また、前記力付与手段としては、特に構成が限定されるものではないが、指部本体に固定されたバネ部材を用いると、指部の構造と駆動制御を簡単に構成できるため、指部の重量を軽量に維持できるといった効果が得られるため、好適である。
【0012】
また、前記接触子の構成としては、前記揺動部に対して回転自在に取り付けられており、揺動部が揺動する際に、接触子が弦に接触した状態で弦の長手方向を回転しつつ移動可能に構成されていることが好ましい。このように構成すると、接触子と弦との接触により生じる摩擦力を低減させることができるため、このようなロボットハンドを用いて弦楽器を演奏する際に、より好適な演奏が可能となる。
【0013】
なお、このような接触子の例としては、前記揺動リンクにベアリングを介して軸結合された構成であってもよい。このような接触子は、簡単な構造であるにも関わらず、弦の長手方向に沿って弦に接触した接触子を移動させる際に、大きな摩擦を生じさせることなく、円滑な動作を行うことが可能であるため、より好適である。
【0014】
また、このようなロボットハンドを、単体で用いることも可能であるが、このようなロボットハンドをヒューマノイド型ロボットのアーム部先端に取り付け、弦楽器を演奏するロボットとして動作させてもよい。このようなロボットは、人間による楽器の演奏により近いレベルの演奏を行うことができるため、楽器演奏用のロボットとしての利用価値が高まる。
【発明の効果】
【0015】
以上、説明したように、本発明によると、弦楽器を演奏するロボットおよびロボットハンドにおいて、大出力のアクチュエータを用いることなく、大きなビブラートストローク量を確保することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
発明の実施形態1.
以下に、図1から図9を参照しつつ本発明の実施形態の一つである弦楽器演奏用のロボットハンドについて説明する。
【0017】
図1は、本発明にかかるロボットハンド1の外観を概略的に表す図であり、その掌部10および指部11、12、13、14、15により、部分的に図示された弦楽器(本実施形態においてはヴァイオリン)100のネック部分102を把持するとともに、指部12〜15を駆動させることにより、弦楽器100に張られた弦Sをネック部分に押し付ける機構を備えている。これらの指部11〜15は、単数または複数の関節部を備え、これらの関節部を図示しないモータ等の駆動手段で駆動することでその姿勢を変形し、物体把持や弦の押し付けといった動作を行うことができるものとし、指部11は把持動作を行うのみで弦を押し付ける動作を行わないため、一般的な関節駆動する指部の構成を備えているものとする。
【0018】
図2は、図1に示すロボットハンド1の指部のうち、指部12の先端部分を拡大して示すとともに、その内部構成を示すために、指部12の先端を構成する各構成部分を展開して示したものである。なお、指部11を除くその他の指部(指部13、14、15)については、指部12と同様の構成を有しており、その各々が弦楽器Pの弦Sを押し付けることができる機能を有している。また、図3および図4は、指部12の先端部分のみを拡大して示したものであり、図3は指部12を正面から見た様子を概略的に示しており、図4は指部12を側面から見た様子を概略的に示している。なお、図3および図4においては、弦楽器100は運指板101がネック部分102と略一体に構成された様子を示しており、弦楽器100を演奏するためのロボットハンド1は、このネック部分を把持することで弦楽器100を保持する。さらに図3および図4においては、指部の先端部分についての内部構造を、主要部分に限定して表示し、詳細については一部省略して表示しているものとする。
【0019】
指部12は、指部本体120と、この指部本体120の先端に向けてその一部が突出するように取り付けられた揺動リンク機構220と、を備え、図示しない関節部分をモータ等の駆動部により駆動し、その姿勢を変化させることできる。なお、図3および図4では、指部本体120の先端部分のみを限定して示している。
【0020】
指部本体120は、その先端部分が略対称形状をなす1対の部材からなるアウターケース121(121a,121b)により構成されており、このアウターケースを組み合わせた際に、前述した揺動リンク機構220を揺動可能に収納するための空間がその内部に形成される。また、その内部の空間において、前記部材を連結するように円筒状の固定軸122が設けられており、揺動リンク機構220は、この固定軸122を中心に揺動可能に取り付けられる。なお、固定軸122と揺動リンク機構220(インナーケース221)との間にはベアリングが介されており、揺動リンク機構のインナーケース221が揺動する際に摩擦力が極力生じないように構成されている。
【0021】
揺動リンク機構220は、その内部に所定の空間を形成するように設けられた揺動部としてのインナーケース221(221a、221b)と、このインナーケース221の先端に設けられた回転軸222を中心に回転自在に取り付けられた接触子223と、アウターケース121の固定軸122に一端が固定された力付与手段としてのバネ部材(ねじりバネ)224と、を備えている。
【0022】
インナーケース221は、アウターケースと同じく一対の略対称形状の部材を対向して固定することでその内部に空間が形成されるとともに、その先端部分において、形成した空間を横断するように回転軸222が固定されている。この回転軸222は、断面略円形の円筒形状の軸部材であり、接触子223との間にベアリング225を介することで、接触子223が回転軸222を中心に回転する際に生じる摩擦力が低減されるように構成されている。
【0023】
接触子223は、回転軸222の周囲についてベアリングを介して回転自在に取り付けられた略円筒形状の回転体であり、その回転軸が弦Sと略平行となる状態で弦に対して接触すると、その表面が弦に対して線接触する。この接触子223は、所定の硬度を備えた材質からなり、例えば強化プラスチックや金属などが好適に用いられる。なお、接触子223の材質等は、演奏する弦楽器の備える弦の材質等によって適宜変更するものであってもよい。
【0024】
バネ部材224は、ある程度の硬度および弾力性を有する金属線を複数束ね、所定の形状に変形させたものであり、その初期状態の形状から外力により変形させると、変形度合いに応じて、その変形を妨げる向きに反力を生じさせるものである。このバネ部材の形状等については、ロボットハンドや指部の内部に組み込まれる形であれば、特に制約を有するものではない。
【0025】
また、インナーケース221は、図3に示すように、正面視において指部の長さ方向(図3に示す破線Gの方向)から傾斜角θ0だけ傾斜した状態で指部本体120に対して取り付けられている。このように構成されることで、指部を弦楽器100の運指板101に対して傾斜した状態で押し当てても、接触子222を固定したインナーケース221が、その揺動する方向以外の方向に力が付与されにくくなっている。
【0026】
さらに、図4に示すように、側面視において、指部が運指板101に垂直な方向(図4でいう破線G'方向)から傾斜した状態で、インナーケース221は運指板101に対して略垂直をなすように、インナーケース221と指部本体120の相対位置関係が定められている。
【0027】
このように構成された指部により弦楽器を演奏する動作を行った場合に、指部の各構成がどのように作動するかを、図5および図6を用いて説明する。図5は、指部12がその先端により弦楽器100に張られた弦Sを運指板101の表面に押し付けた直後の様子を示し、図6は指部12がその先端を弦Sに接触させた後、指部12が駆動し、弦楽器100の運指板101にさらに押し付けた様子を示している。なお、図5および図6においても、指部の先端部分についての内部構造を、主要部分に限定して表示し、詳細については一部省略して表示しているものとする。
【0028】
図5に示すように、指部12を関節駆動により動作させ、弦Sを運指板101の表面に接触させた状態では、接触子223が運指板101から大きな反力を受けていない。そのため、揺動リンク機構220のインナーケース221はバネ部材224からの力を受けて当初の姿勢が維持され、揺動動作は行われていない。このとき、弦Sは運指板101の表面にある程度の力で押し付けられており、弦楽器100を演奏した際に、特定の音色を生じさせることができる。
【0029】
この状態から、図6に示すように、さらに指部12の関節を駆動させて指部の先端を下方に移動させ、弦Sを運指板101に押し付けると、接触子223が運指板101からの反力を受け、揺動リンク機構220のインナーケース221がその先端を指部12の内部に押し込める方向に揺動する。このとき、インナーケース221はその揺動する動きを妨げる方向について、バネ部材224から若干の反力を受ける。
【0030】
このようにインナーケース221が揺動すると、接触子223は弦Sとの接触を保ったまま回転し、弦Sとの接触箇所を変化させつつ図6中の矢印Rの方向へ移動する。これにより、接触子223と弦との水平方向に関する接触位置が変化する。この接触子と弦との水平方向に関する接触位置の変化量がビブラートストローク量に相当する。
【0031】
なお、この際に、指部先端(接触子223)が弦を押し込むために必要な力は、単に指部を駆動させて弦を押し付けた場合に比して、バネ部材からの反力(トルク)により、低減している。以下、図7を用いて詳細に説明する。
【0032】
図7は、指部12の先端に設けられた接触子223が、弦Sを押し込んでいる状態を一つのモデルで表現した概念図である。図7において、揺動リンク機構220の揺動する支点となる固定軸122と、接触子223の回転する支点となる回転軸222との距離をL、同じく固定軸122と回転軸222との水平方向(図7に示す左右方向)の距離をx、固定軸122と回転軸222との鉛直方向(図7に示す上下方向)の距離をy、弦Sが押し込まれた状態で揺動リンク機構220が揺動した揺動角度(固定軸122と回転軸222とを結ぶ直線が鉛直方向に対してなす角度)をθ、揺動リンク機構220(インナーケース221)の当初の傾斜角度(インナーケース221が取り付けられた際に、当初より傾斜している角度)をθとする。また、接触子223が運指板101に付与する力の大きさをFとしている。
【0033】
このように記載されたモデルにおいて、バネ部材224からのトルクτは、揺動リンク機構の揺動角度の変化に比例した大きさで表されるため、適切な定数をkとすると、以下の式で表される:
【数1】


また、接触子223が運指板101を押し込むことにより、接触子223が運指板101から受ける反力Tは、以下の(2)により表される:
【数2】


ここで、バネ部材224からのトルクτと反力Tとはつりあっている(τ=T)ことにより、以下の(3)が成立する:
【数3】

【0034】
また、図7から明らかなように、固定軸122と回転軸222との水平方向の距離をxと、固定軸122と回転軸222との距離Lとの関係は、x=Lsinθで表されることから、以下の(4)の関係が得られる。
【数4】

【0035】
したがって、上記の(1)および(4)から、以下の(5)の関係が導かれることとなる:
【数5】

【0036】
すなわち、弦Sを押し込むために必要な力Fは、固定軸122と回転軸222との水平方向の距離xの関数で表される。このとき、定数kおよびL、θの各パラメータの大きさを適切に選択しつつ、上記(5)の関係に基づいて、力Fと指部12の位置との関係をグラフに表すと、図8に示すようなグラフが得られる。
【0037】
図8は、指部の先端が弦に近づき、弦Sを押し込むにつれて指部を押し込むための力が変化する様子を示すグラフである。図8から明らかなように、弦が運指板に接触し、押し込みが開始されると、その後に弦を押し込む動作が行われると、徐々に押し込み力Fが小さくなった後、揺動リンク機構(インナーケース)が所定の揺動角度まで揺動した後は、徐々に押し込み力が増大することとなる。図8において明らかなように、前述の(5)で表される押し込み力において、定数kおよびL、θの各パラメータの大きさを適切に選択しているため、弦が運指板に接触し、押し込みが開始された際の押し込み力の大きさが最大となるように調節されている。
【0038】
図9は、このように、ロボットハンドが弦楽器の演奏においてビブラート演奏を行う際に指部の先端で弦を押し込むために必要な押し込み力Fと、固定軸−回転軸間の距離をLとの関係を測定した結果を示すグラフである。図9に示すグラフから明らかなように、接触子が弦Sを押し付ける動作を開始したとき(L=3.0[mm])の押し込み力が最も大きく、押し込み動作がさらに行われるにつれて押し込み力は減少する。その後、L=6.0あたりの位置で押し込み力は最小となり、その後徐々に押し込み力は増大するが、押し込み動作完了時(L=8.0[mm])における押し込み力は、押し込み動作開始時の押し込み力を下回っている。なお、当然のことながら、弦楽器を適切に演奏するためには、この弦楽器を操作する際に得られる最小の押し込み力が、弦を押さえるために必要な最低限の力を上回るように、前述の定数kおよびL、θの各パラメータの大きさを適切に選択する必要がある。
【0039】
このように、上述のロボットハンドの一部を構成する指部においては、バネ部材の反力によって指部の先端により弦を押し込む力を一部補っているため、弦を押し込むために必要な駆動力(指部を駆動するために必要な力)を抑制することができる。したがって、指部を駆動するためのアクチュエータとして、大出力のものを用いることなく、弦楽器を演奏する際に、ビブラートストローク量を大きく確保することができる。
【0040】
なお、本実施形態においては、指部による弦の押し込み動作を指部の関節駆動により行っているが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、ロボットハンドの手首部分など、他の関節部分を駆動させることによって指部を弦に押し当てるように移動させてもよい。
【0041】
また、力付与手段の形態としては、ロボットハンドに組み込むための設計上の制約を考慮して、適宜その大きさや材質、形状等を選択することが好ましい。例えば、前述の実施形態においては、力付与手段としてバネ部材を用いているが、ゴムなどの弾性体を用いることもできる。また、このような弾性力により反力を付与するものに代えて、電動アクチュエータ等の電気駆動により力を付与する手段であってもよい。この場合、駆動により付与する力の大きさを、ロボットハンドの制御を行うコントローラなどで適切な力を付与するように制御する必要がある。
【0042】
また、前述の実施形態においては、ロボットハンドとして、人間の手と同じように、5本の指を備えるものを例示しているが、これに限られず、必要に応じて指の本数や形状、構成を変化させてもよい。
【0043】
また、前述の実施形態においては、接触子として略円筒形状の回転体の形状を有するものを例に挙げているが、弦との接触により演奏が可能で、弦との接触時における摩擦がある程度抑制される形状および材質であれば、特にその構成は限定されるものではない。
【0044】
さらに、このようなロボットハンドは、ヒューマノイド型ロボットのアーム部先端に取り付けられ、弦楽器を演奏するロボットとして動作させるように用いられることが好ましい。このようなロボットは、人間による楽器の演奏により近いレベルの演奏を行うことができるため、楽器演奏用のロボットとしての利用価値が高まる。
このように用いると、ロボットが人間の楽器演奏動作と同様の動作をとることができ、楽器演奏用のロボットとして利用することができる。
【0045】
また、前述の実施形態においては、弦楽器を演奏するための指部の構成を説明しているが、該指部は、物体の把持を行うために適切な形状を備えていることが好ましい。そのため、把持動作に必要な先端形状や表面の摩擦力等を適宜備えるとより好適である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るロボットハンドの外観を概略的に表す図である。
【図2】図1に示すロボットハンドの指部のうち、指部12の先端部分を拡大して示すとともに、指部12の先端を構成する各構成部分を展開して示した分解図である。
【図3】図1に示す指部12の先端部分を正面から見た様子を示す概略図である。
【図4】図1に示す指部12の先端部分を側面から見た様子を示す概略図である。
【図5】図1に示す指部12が、その先端により弦楽器100に張られた弦Sを運指板101の表面に押し付けた直後の様子を概略的に示す概略図である。
【図6】図5に示す指部12が、その先端を弦Sに接触させた後、さらに駆動し、弦楽器100の運指板101にさらに押し付けた様子を概略的に示す概略図である。
【図7】指部の先端に設けられた接触子が弦を押し込んでいる状態を一つのモデルで表現した概念図である。
【図8】指部の先端が弦に近づき、弦Sを押し込むにつれて指部を押し込むための力が変化する様子を示すグラフである。
【図9】弦楽器の演奏においてビブラート演奏を行う際に指部の先端で弦を押し込むために必要な押し込み力Fと、固定軸−回転軸間の距離をLとの関係を測定した結果を示すグラフである。
【図10】従来において、弦を押さえつけた後に、弦と指部先端との接触位置を変化させるための指部の構成を概略的に示した概略図である。
【符号の説明】
【0047】
1・・・ロボットハンド
11〜15・・・指部
120・・・指部本体
121・・・アウターケース
122・・・固定軸
220・・・揺動リンク機構
221・・・インナーケース(揺動部)
222・・・回転軸
223・・・接触子
224・・・バネ部材(力付与手段)
225・・・ベアリング
100・・・弦楽器
101・・・運指板
S・・・弦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指部本体と、該指部本体に取り付けられ、弦を押さえるための接触子を先端に有した揺動部を含む揺動リンク機構と、を備える指部を含む、弦楽器演奏用のロボットハンドであって、
前記指部が、前記接触子を弦に押し付けるように前記指部本体を移動させた際に、前記揺動部が弦に対して相対的に位置を変化しながら揺動するように構成されるとともに、前記揺動部の揺動を妨げる向きに力を付与する力付与手段を備えており、
前記接触子が弦と接触を保った状態で、前記接触子を弦に押し付ける方向に指部本体を移動させることで、前記揺動部が揺動し、前記接触子が弦を押さえたまま弦の長手方向に移動可能となるように構成したことを特徴とする弦楽器演奏用のロボットハンド。
【請求項2】
前記力付与手段が、指部本体に固定されたバネ部材であることを特徴とする請求項1に記載の弦楽器演奏用のロボットハンド。
【請求項3】
前記接触子が前記揺動部に対して回転自在に取り付けられており、揺動部が揺動する際に、接触子が弦に接触した状態で弦の長手方向を回転しつつ移動可能に構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の弦楽器演奏用のロボットハンド。
【請求項4】
前記接触子が前記揺動部に軸結合されるとともに、ベアリングを介して回転自在に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の弦楽器演奏用のロボットハンド。
【請求項5】
前記請求項1から4のいずれかに記載のロボットハンドを備えた弦楽器演奏用のロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−90424(P2009−90424A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264362(P2007−264362)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】