説明

強化多孔質皮膜

本発明は、以下の工程、すなわち、表面を有する支持体を用意する工程、該表面上に一時的粒子の一つの単層を被着させる工程、該一時的粒子上に厚さが粒子径未満であるようにして皮膜を被着させる工程、該一時的粒子を除去して、それにより、多孔質皮膜であって、該皮膜の細孔は先に一時的粒子により占められていた空間に相当し該細孔の少なくとも一部は外部環境に連絡する多孔質皮膜を得る工程、皮膜の固定を行う工程、を特徴とするミクロ又はナノサイズ領域における構造を有する多孔質皮膜を製造するための方法であって、前記細孔に液体又は固体物質を少なくとも部分的に充填する充填工程を更に含むことを特徴とする、ミクロ又はナノサイズ領域における構造を有する多孔質皮膜の製造方法に関する。本発明はまた、この方法により得ることができる皮膜及び物体にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロ及びナノサイズ領域における制御された構造を有する多孔質皮膜に関する。それは特に、しかし限定されずに、こうした表面を製作するための方法、及びこうした方法により得られる物体に関する。
【背景技術】
【0002】
コロイド粒子を用いて多孔質皮膜を製作するために種々の技術が用いられてきた。それらは、レーザー技術[Hua1、Li1]、伝統的なコロイド、又はナノ球体、リソグラフィー[Ko1、Jia3、Den2、Ryb1]、ソフトリソグラフィー[Cho2]、3次元粒子テンプレート被着及び浸潤技術[Jia1、Par、Sch、Hyo1、Bar]又は一工程被着技術[Kan1、Xu1]に分類することができる。角かっこ間の参考文献は以下にコピーされる。
【0003】
[Jia1] P. Jiang, “Surface−templated nanostructured films with two−dimensional ordered arrays of voids”, Ange. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 5625−5628.
【0004】
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【0005】
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【0006】
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【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、ミクロ又はナノサイズ領域における多孔質皮膜を製造するための別のアプローチを提供する。
【0019】
この趣旨で、それは以下の工程、すなわち、
・表面を有する支持体を用意する工程、
・該表面上に一時的粒子の一つの単層を被着させる工程、
・該一時的粒子上に厚さが粒子径未満であるようにして皮膜を被着させる工程、
・該一時的粒子を除去して、それにより、多孔質皮膜であって、該皮膜の細孔は先に一時的粒子により占められていた空間に相当し該細孔の少なくとも一部は外部環境に連絡する多孔質皮膜を得る工程、
・皮膜の固定を行う工程、
を特徴とするミクロ又はナノサイズ領域における構造を有する多孔質皮膜を製造するための方法であって、前記細孔に液体又は固体物質を少なくとも部分的に充填する充填工程を更に含むことを特徴とする、ミクロ又はナノサイズ領域における構造を有する多孔質皮膜を製造するための方法に関する。
【0020】
本発明による好ましい方法は、従属請求項に規定される。
【0021】
本発明はまた、上記の方法により得られるミクロ又はナノサイズ領域における構造を有する多孔質皮膜に関し、該多孔質皮膜は、液体又は固体物質を少なくとも部分的に充填される、細孔を有する。
【0022】
本発明による好ましい多孔質皮膜は従属請求項に規定される。
【0023】
最後に、本発明はまた、上に規定された皮膜を含む物体にも関する。
【0024】
本発明による好ましい物体は、従属請求項に規定される。
【0025】
本発明を用いることは、皮膜の気孔率、化学組成及び厚さの正確な制御を可能とする。それはまた、相対的に重要な気孔率及び厚さを有する皮膜を製造する利点を提供する。大きさが数十分の一ナノメートルと数十分の一ミクロンの間で気孔率が60%の空洞を実現することができる。200nmを超える厚さを得ることができ、それによって、有意な量の所定の物質を貯蔵する能力、又は組織の内部増殖を可能とする有意な気孔率を有する特定物体の製造を可能とする。これらは、薬物溶出ステント、生物活性又は薬物溶出整形外科インプラント、生物活性又は薬物溶出歯科インプラントなどの、とは言えそれらだけではない、種々の用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本文において、「除去する」という用語は、広い意味で用いられる。それは、例えば、分解、解体又は移動などの、粒子形態上の重要な変化に関するあらゆる一般的に用いられる用語を包含する。例えば、限定はされないが、一時的粒子の除去は、熱的工程、化学的工程、機械的工程、電気機械的又は照射工程を含むことが可能である。熱的、化学的又は照射工程の場合には、一時的粒子は完全に破壊されるか又は部分的に破壊されるかであり、例えば、粒子を中空にすることができる。機械工程の場合には、一時的粒子は機械的に移動させることができる。電気機械的工程(例えば、音波処理又は超音波震動)の場合には、粒子を膨潤させ(例えば、PLGAなどの高分子粒子の使用により)、又は分解することができる。
【0027】
「一時的」という用語は、「処理中の限定された時間の間だけ存在する」として理解されなければならない。一時的粒子は、皮膜の3次元構造及び多孔性を作り出すテンプレートとして見ることができる。
【0028】
「粒子の単層」という表現は、粒子が支持体表面に対して相対的に同じ高さにあることを意味する。各単層あたりに、どの粒子も他のものの上には位置しない。
【0029】
〔基材〕
基材は、任意のタイプの材料、すなわち、金属、セラミック又はポリマー、で製作することができる。ステンレス鋼、ニチノール、チタン、チタン合金、又はアルミニウムなどの金属、及びジルコニア、アルミナ、又はリン酸カルシウムなどのセラミックは、特に関心の寄せられるものである。更に、基材はまた、一時的粒子の層で製作することもできる。
【0030】
〔皮膜組成〕
同じように、皮膜は、種々のタイプの材料、すなわち、金属、セラミック、ポリマー、ヒドロゲル又はこれら材料のいずれかのものの組合せ、から製作することができる。例えば、皮膜は有機結合剤を含むセラミックで製作することができる。こうした組合せは表面で割れが生じる危険性を減じる。
【0031】
多孔質皮膜は生体と接触することがあるので、それは好ましくは生体適合性材料で製作される。用途に応じて、これは、それらに限らないが、酸化物、リン酸塩、窒化物又は炭窒化物であることができる。酸化物の中では、以下のもの、すなわち、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム又は酸化チタン、が好ましい。アルミニウムを用いる場合、本方法は、生体適合性を増大させるとともに更に超微孔性の(nanoporous)追加構造を作り出す更なる陽極酸化工程を有利に含むことが可能である。
【0032】
〔粒子〕
一時的粒子の径及び形状は、任意に選択することができる。しかし、好ましいのは形状及び大きさの均質な粒子である。粒子の化学組成もまた自由であるが、しかしそれは好ましくは、ポリマー、でんぷん、シリカ、金属、又は細胞などの生体物質の群において選択される。好ましいのは、球形状で均一の径を有するポリマー材料、すなわち単分散ポリマービーズ、である。例えば、ポリスチレンビーズを有利に用いることが可能である。それらは数々の大きさで容易に入手可能であり、大きさが非常にそろっている。あるいは、生体適合性ポリマー(例えば、PLGA、すなわちポリラクチドグリコール酸タイプ)も用いることができる。
【0033】
支持体上に被着させるとき、一時的粒子は互いに接触することができ、あるいは何らかの空間により分離することができる。接触する場合は、接触表面の大きさを、粒子の表面の化学的性質と表面の親和性を変化させることにより変更することができる。それは、湿潤性の粒子を使って増大させることができ、あるいはテフロン(登録商標)などの非湿潤性粒子を使用する場合、点状接触に至るまで減少させることができる。
【0034】
親水性及び/又は疎水性の一時的粒子を用いることは、皮膜中に種々の構造を作り出すのを可能とする。一時的粒子の被着の前に、基材は、それぞれ親水性、疎水性層により局所的に覆われる。このようにして、特定領域を同様の表面親和性を持つ一時的粒子を固定するために適合させる一方で、他の領域への付着が防止される。ステントの場合には、変形を受けにくい領域のみを被覆することが有利なことがあり、あるいは、増殖又は炎症を防止するため、脈管内膜に接触し薬物放出の標的とする領域のみを被覆することが有利なことがある。骨又は歯科インプラントの場合には、骨の内部増殖が有利に働く領域及びそれを妨げるべき領域を選択することが有利であることがある。
【0035】
〔皮膜の被着〕
各種の手順を皮膜被着用に考えることができる。それらは、皮膜の望ましい特性に従って、そしてまた用いられる皮膜前駆体に従って、選択される。いくつかの実施例を以下に示す。
【0036】
基材上に皮膜を被着するための第一の手順は、皮膜前駆体として、例えば水などの溶媒中のナノ粒子の混合物を用いる。基材を前駆体混合物中に浸漬し、そして制御された速度で引き出す。皮膜の厚さは混合物の粘度及び引き出し速度により変わる。
【0037】
別の手順は、皮膜前駆体としての金属アルコキシドのヒドロキシル化及び部分縮合により得られるゾルを用いる。この場合も、前駆体は浸漬又はスピンコートのいずれかを用いて基材上に被覆することができる。
【0038】
他の手順では、例えば水に溶解した、一時的粒子及び皮膜前駆体の両方を含有するスラリーを基材上に塗布する。
【0039】
すべての場合において、皮膜はいくつかの工程で又は副層でもって被着させることができる。各副層の被着の間に、皮膜前駆体の溶媒を、例えば熱処理により、部分的に又は完全に除去することができる。このアプローチは、より厚く、割れのない皮膜の形成を可能とする。皮膜前駆体の組成を各工程の間で変更することもできる。これは化学組成が変化する皮膜を作るのを可能とする。例えば、皮膜の化学組成は、皮膜/基材界面で基材のそれによく似たものであることができ、また、界面で身体と極めて適合性であることができる。
【0040】
皮膜を製造するためにナノ粉末又はゾル−ゲルアプローチを用いることは、結晶性皮膜を得るのに必要な温度を下げる利点をもたらす。これは、熱処理時に相転移を受け、従ってそれらの機械的又は形状記憶特性の一部を失う可能性のある金属基材に対して、特に有利である。
【0041】
こうした方法の一例は、標準のジルコン(Zircon)粉末の場合の1,400℃と1,500℃の間の代わりに、1,100℃と1,200℃の間で焼結を可能とするジルコンナノ粉末(スイス国ウッツウィル(Uzwil)のブーラー(Buhler)社から入手される)を使用することである。
【0042】
同様の結果が、水と無水エタノール中の硝酸との混合物で加水分解されたオルトチタン酸テトラブチルから製造されるチタンゾルにより得られる。600℃と850℃の間の空気中で数分の熱処理後に、アナタース相の結晶性TiO2が得られる。
【0043】
〔粒子除去〕
一時的粒子の除去は、例えば、熱的、化学的、機械的、電気機械的、光化学的又は照射工程などの、但しこれらに限定されない各種方法により、行うことができる。それはまた、皮膜の要件に応じて、固定工程の前及び/又は間及び/又は後に、処理のいろいろな段階で行うことができる。
【0044】
〔固定〕
任意の適切な方法を固定工程用に用いることができる。有利には、乾燥工程が用いられる。
【0045】
セラミックの場合、これは結晶相が形成される焼結であることができる。ポリマーの場合、これは光化学的に(紫外線の可視部による)、熱的に又は化学的に誘起される重合であることができる。金属又はある種のセラミックの場合、これは、制御された(中性又は還元性)雰囲気下での熱処理であることができる。
【0046】
〔皮膜の充填〕
作られると、細孔は、例えば浸漬被覆により、所定の薬物を充填することが可能である。薬物を含有する溶液のpHを、皮膜表面に存在する電荷を変化させるために調整することもでき、こうして細孔中への薬物の浸入を容易にすることができる。充填を容易にするための別のやり方は、それぞれ疎水性、親水性材料から細孔を作製し、それらにそれぞれ親油性、親水性溶液を充填することである。
【0047】
インプラントに各種薬物を充填するのは、いろいろな大きさの空洞を作り出すことにより行うことができる。空洞には、その後、いろいろな大きさの薬物充填用小胞を充填して、それにより、より大きな空洞に最初により大きな小胞を充填し(すなわち、大きな小胞はより小さな空洞を充填するには大きすぎる)、より小さな空洞には後に、利用可能な残りの場所を(すなわち、空のまま残っている小さな空洞において)充填するより小さな小胞を充填する。こうした技術は、例えば、小胞の選択された放出特性(疎水性又は親水性の特性、あるいはポリマー分解特性など)に応じて決まる可能性のある時間内での各種送出プロフィールを有することが可能である皮膜中に、各種薬物を貯蔵することを可能とする。
【0048】
更に、空洞(細孔)は、任意の他の適切な液体又は固体物質、例えば、増殖因子、骨細胞、他の細胞、などにより充填することが可能である。
【0049】
〔二重D&d皮膜〕
本発明に包含される皮膜の特定タイプは、異なる径D及びdの2種の一時的粒子を被着することにより製造される。この方法は上述のものと同様であり、任意の順序で又は並列に行うことができる一連の工程、すなわち、
1)表面を有する支持体又は基材を用意する、
2)径がDの一時的粒子の第一の単層を支持体又は基材上に被着させる、
3)この単層の上に、径dがDより小さく、第一の単層と一緒にされると一時的粒子の構造を形成する粒子の第二の層を被着させる、
3)支持体又は基材の上に被膜前駆体を、一時的粒子の構造の上部はそれにより覆われないが下方の単層のより大きな粒子は完全に覆われるようにして、被着させる、
4)一時的粒子を除去して制御された形状及び大きさの空洞を解放し、多孔質皮膜を構成する、
5)次にこの皮膜を固定工程により強固にする、
により説明することができる。
【0050】
この方法では、Dの大きさの粒子に取って代わって得られる空洞(又は細孔)は、D粒子とd粒子との以前の接触箇所でdの大きさの粒子に取って代わって得られる空洞(又は細孔)と仕切りなしに接触し、それによって、以前のd粒子層を通り抜けてのDの空洞の出口の大きさを、以前のD粒子とd粒子との接触箇所で得られる開口部の大きさにより規定される制限された大きさか、又は以前のd粒子層の外側で得られる最大の細孔の大きさのいずれかに制限する。
【0051】
粒子の湿潤性を変えることにより、細孔の接触箇所の大きさを変更することができる。それは親水性粒子を用いることにより減少させることができ、疎水性のものを用いることにより増大させることができる。
【0052】
この技術は、大きな粒子により作られる大きな空洞中への重要な薬物の充填を可能とする一方で、こうした薬物が以前のより小さな粒子から生じるより小さな孔を通して経時的に放出されるのを制限するのに、特に興味のあるものである。
【0053】
〔物体〕
先に検討した方法は、特定のそして独自の特徴を有する物体の製造を可能とする。これらの物体は、用いられる特定の方法のために、従来技術の物体とは構造的に異なる。
【0054】
これらの物体の主要用途は、医療インプラント分野にある。格別関心あるものは、ステント、整形外科用及び歯科用インプラントである。細孔は、長期にわたり制御されたやり方でその内容物を放出する薬物リザーバとして用いることができ、あるいはそれは組織内増殖を助け、従ってインプラントと生体組織間の機械的連結を増大させるために用いることができる。
【0055】
ステントの場合、皮膜は1又は数種の薬物を充填することができる。それは、非限定の例として示す次の薬物、すなわち、抗増殖剤、抗凝固物質、抗感染剤、静菌物質、の組合せであることができる。
【0056】
物体はまた、細孔を上述のステントの場合と同じようにして適合させることが可能である整形外科又は歯科インプラントであることもできる。こうした場合において、得られる細孔は、骨増殖因子などの増殖因子を蓄えるか、生体適合性を増大させるか、又は骨又は軟骨組織が増殖し固体様式でインプラントに結合することができる領域を作り出すのに、興味をいだかれるものであることができる。これはまた、リン酸カルシウムなどの吸収性生体活性セラミックで空洞を充填することにより達成することができる。
【0057】
細孔径はまた、緩やかに放出することができる活性物質を含有する拡散性ビーズ、粒子又はポリマー用に適合させることも可能である。
【0058】
あるいはまた、ビーズ又は粒子は放射線を放出することができる。有利には、こうした場合、ビーズ又は粒子は空洞内にとどまるべきである。
【0059】
〔図及び表〕
本発明は、以下の図及び表から更に十分に理解される。
【0060】
図1は、細孔の1層を有する皮膜を製造するための本発明による方法の模式説明図である。
図2は、細孔の2層を有する皮膜を製造するための本発明による方法の模式説明図である。
図3は、本発明の実施形態の各種の写真を示しており、それは本発明の第一の例で説明される。
図4は、本発明による多孔質表面の例を示しており、それは第二の例で説明される。
図5は、小さい細孔と大きい細孔を有する別の例を示す図である。
図6は、本発明による二つの別の方法を示す図である。
図7は、本発明による一つの細孔の例を示す図である。
図8は、本発明によるいくつかの細孔の例を示す図である。
【0061】
下記の表1は、本発明により多孔質表面を製造するための様々な可能性を要約するものである。
【0062】
【表1】

【0063】
〔説明用の実施形態〕
(例1)
4、20及び40μmのポリスチレン粒子(PS)を使用する。基材は、結合剤を含有しているジルコンの未焼結体である。PS懸濁液の小滴を基材上で乾燥させることにより、ジルコン片上にPS粒子を被着させる。溶媒は、低表面張力溶媒のエタノールと界面活性剤n−オクタノールとの混合物である。これを使って、除去可能な粒子のぎっしり詰まった整然とした配列の形成を回避する。この第一の工程の後に、ジルコン未焼結体を、結合剤としての5wt%の濃度のポリビニルアルコール(PVA)又はポリエチレングリコール(PEG)とともの高粒子濃度(30wt%)のZrO2を含有する水性懸濁液で浸漬塗布する。これらの粒子の代表的な径は約50nmである。浸漬塗布は0.03mm/分と10.0mm/分の間の取り出し速度で行う。結果として得られたZrO2層を図3に示す。浸漬塗布工程後に、焼結を次のように、すなわち、脱結合工程のために20℃から500℃まで1℃/分、次に1400℃まで10℃/分、そして最後に1400℃から20℃まで7℃/分、行うことができる。
【0064】
(例2)
結合剤を含有しているジルコンの未焼結体を、結合剤(ポリエチレングリコール、5wt%)を含有しているZrO2粒子(30wt%)溶液で浸漬塗布する。100μmの皮膜を基材の上に被着させる。まだ粘りけのある表面に乾燥したテフロン(登録商標)の粒子を振りかけ、次いで圧縮空気で皮膜中へ押し込む。その後、皮膜を、例1で説明したのと同じ手順に従って焼結する。その結果得られた皮膜を図4に示す。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】細孔の1層を有する皮膜を製造するための本発明による方法の模式説明図である。
【図2】細孔の2層を有する皮膜を製造するための本発明による方法の模式説明図である。
【図3】本発明の実施形態の各種写真を示しており、それは本発明の第一の例で説明される。
【図4】本発明による多孔質表面の例を示しており、それは第二の例で説明される。
【図5】小さい細孔と大きい細孔を有する別の例を示す図である。
【図6】本発明による二つの別の方法を示す図である。
【図7】本発明による一つの細孔の例を示す図である。
【図8】本発明によるいくつかの細孔の例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程、すなわち、
・表面を有する支持体を用意する工程、
・該表面上に一時的粒子の一つの単層を被着させる工程、
・該一時的粒子上に厚さが粒子径未満であるようにして皮膜を被着させる工程、
・該一時的粒子を除去して、それにより、多孔質皮膜であって、該皮膜の細孔は先に一時的粒子により占められていた空間に相当し該細孔の少なくとも一部は外部環境に連絡する多孔質皮膜を得る工程、
・皮膜の固定を行う工程、
を特徴とするミクロ又はナノサイズ領域における構造を有する多孔質皮膜を製造するための方法であって、前記細孔に液体又は固体物質を少なくとも部分的に充填する充填工程を更に含むことを特徴とする、ミクロ又はナノサイズ領域における構造を有する多孔質皮膜の製造方法。
【請求項2】
多孔質皮膜を経時的に溶解する生体分解性物質により覆う被覆工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生体分解性物質が医療目的のため放出しようとする物質を含有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記一時的粒子が少なくとも二つの異なる径を有する、請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記支持体が一時的粒子で製作されている、請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記支持体を構成する一時的粒子が該支持体上に被着される粒子よりも大きな径を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記支持体中に形成された細孔のみに、液体又は固体物質が少なくとも部分的に充填される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
一時的粒子及び皮膜をスラリーとして一緒に被着させる、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
基材を最初に、それぞれ疎水性、親水性層により部分的に又は完全に被覆し、基材上にそれぞれ疎水性、親水性領域を作り出す、請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
それぞれ疎水性、親水性粒子を使用して、基材のそれぞれ疎水性、親水性領域上に単独に一時的粒子の単層を形成する、請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
皮膜固定工程を粒子除去工程前に行う、請求項1〜10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
皮膜固定工程を粒子除去工程と同時に行う、請求項1〜10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
皮膜固定工程を粒子除去工程後に行う、請求項1〜10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一つに記載の方法により得られたミクロ又はナノサイズ領域における構造を有する多孔質皮膜であって、該多孔質皮膜が液体又は固体物質を少なくとも部分的に充填される細孔を有する多孔質皮膜。
【請求項15】
皮膜の厚さが200nmより厚い、請求項14に記載の多孔質皮膜。
【請求項16】
皮膜の化学組成が自由表面に向かって底から上部まで変化している、請求項14に記載の多孔質皮膜。
【請求項17】
前記支持体が金属、セラミック又は高分子物質製である、請求項14〜16のいずれか一つに記載の多孔質皮膜。
【請求項18】
前記皮膜が金属、セラミック又はポリマー製である、請求項14〜17のいずれか一つに記載の多孔質皮膜。
【請求項19】
緩やかに水性媒体中に放出することができる親油性溶液を充填するために、細孔が疎水性にされている、請求項14〜18のいずれか一つに記載の多孔質皮膜。
【請求項20】
親水性溶液を充填するために、細孔が親水性にされている、請求項14〜18のいずれか一つに記載の多孔質皮膜。
【請求項21】
請求項14〜20のいずれか一つに記載された皮膜を含む物体。
【請求項22】
医療インプラントからなる、請求項21に記載の物体。
【請求項23】
細孔径が、薬物、抗凝固物質、抗増殖性物質、抗生物質、静菌性物質又は増殖因子などの活性物質を拡散するのに適合している、請求項22に記載の物体。
【請求項24】
細孔径が、緩やかに放出することができる活性物質を含有するビーズ又は粒子を拡散するのに適合している、請求項21又は22に記載の物体。
【請求項25】
細孔径が、放射線を放出することができるビーズを含有するのに適合している、請求項21又は22に記載の物体。
【請求項26】
細孔が、薬物リザーバとして働くのに適合している、請求項21又は22に記載の物体。
【請求項27】
細孔が、細胞を受け取るのに適合している、請求項21又は22に記載の物体。
【請求項28】
前記細胞が骨細胞である、請求項27に記載の物体。
【請求項29】
細孔に増殖因子が充填されている、請求項21又は22に記載の物体。
【請求項30】
細孔に組織又は骨の内部増殖を助ける物質が充填されている、請求項21又は22に記載の物体。
【請求項31】
ステントからなる、請求項21又は22に記載の物体。
【請求項32】
細孔を有する選択された領域を表面に含む、請求項31に記載の物体。
【請求項33】
前記領域がステントの変形が弱い範囲に対応している、請求項32に記載の物体。
【請求項34】
歯科インプラントからなる、請求項21又は22に記載の物体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−508794(P2009−508794A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530724(P2008−530724)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【国際出願番号】PCT/IB2006/053323
【国際公開番号】WO2007/031968
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(508079681)デビオテック ソシエテ アノニム (14)
【出願人】(508080850)アクシス バイオデンタル ソシエテ アノニム (2)
【Fターム(参考)】