弾性表面波デバイスおよび弾性表面波発振器
【課題】電極指の線幅が変動した場合における周波数変動量の差を少なくし、量産化に適した弾性表面波デバイスを提供する。
【解決手段】少なくともRayleigh型弾性表面波を励振させるための電極パターン14としてのIDT16を備え、前記弾性表面波のストップバンドの上限モードを励振させる弾性表面波デバイス10であって、IDT16を形成するための圧電基板12として、(φ,θ,ψ)で示すオイラー角表示で(0°,95°≦θ≦155°,33°≦|ψ|≦46°)のカット角で切り出された水晶基板を採用し、IDT16を構成する櫛歯状電極18(18a,18b)の電極指間に電極指間溝(溝28)を形成することで、溝28で挟まれた水晶部分を電極指台座30とし、電極指台座30の上面に電極指22が位置する構成としたことを特徴とする。
【解決手段】少なくともRayleigh型弾性表面波を励振させるための電極パターン14としてのIDT16を備え、前記弾性表面波のストップバンドの上限モードを励振させる弾性表面波デバイス10であって、IDT16を形成するための圧電基板12として、(φ,θ,ψ)で示すオイラー角表示で(0°,95°≦θ≦155°,33°≦|ψ|≦46°)のカット角で切り出された水晶基板を採用し、IDT16を構成する櫛歯状電極18(18a,18b)の電極指間に電極指間溝(溝28)を形成することで、溝28で挟まれた水晶部分を電極指台座30とし、電極指台座30の上面に電極指22が位置する構成としたことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Rayleigh型弾性表面波のストップバンドにおける上限モードを利用した弾性表面波デバイス、およびこのデバイスを搭載した弾性表面波発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波素子片を構成するIDTや反射器は、複数の導体ストリップを有しており、導体ストリップの周期構造により、特定の周波数領域のSAWを高い反射係数で反射する周波数帯域、即ちストップバンドを形成している。
【0003】
所定の面内回転角度ψを持ったSTカット水晶基板を用いた弾性表面波デバイスであって、Rayleigh型弾性表面波のストップバンドにおける上限モードを励振させることのできるものは、周波数温度特性に優れていることが知られている。また、弾性表面波の1波長中に2本の電極指を設ければ良いシングル型のIDTを採用することができることより、従来、ストップバンドの上限を励振する際に必要とされていた反射反転型のIDT(弾性表面波の1波長中に3本の電極指を設けるもの)を採用する場合に比べて、高周波化する際の電極の微細化難易度を低くすることができ、高周波化も容易となることが知られている。さらに、ストップバンドの上限モードの励振は、IDTの抵抗値を小さくするために電極膜の膜厚を厚くした場合における周波数の変化量、即ち電極膜厚の変動による周波数変化量が下限モードの励振に比べて小さいということも知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
ここで、特許文献1には、弾性表面波の伝播方向を水晶のX軸からずらすことで、ストップバンドの上限モードのSAWが励振可能となる旨の記載がある。特許文献2には、電極指を多数並べた周期構造にて生じるSAWの周期的な反射によってストップバンドが形成されることが記載されており、反射反転型IDTについても詳細に開示されている。また、ストップバンド内の下端(下限)及び上端(上限)のそれぞれの周波数において共振状態となり、定在波が形成され、下限モードと上限モードのそれぞれの定在波の腹(または節)の位置が互いにずれる旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−148622号公報
【特許文献2】特開平11−214958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されているような構成の弾性表面波デバイスであれば確かに、周波数温度特性が良好で、高周波化に適し、膜厚の変化による周波数の変化量も小さくすることができる。しかし、特許文献1の発明では、量産時における製造誤差が考慮されていない。例えば、SAWデバイスの製造工程において、レジストパターンを形成し、ウエットエッチングにより電極パターンを形成する際などには、レジストパターンの厚みや幅の違いや、電極パターンの側面からエッチングが進行するサイドエッチングの影響を受け、IDTを構成する電極指の線幅に誤差が生じることがある。電極パターンをドライエッチングにて形成する場合は、サイドエッチングによる電極指線幅ばらつきは軽減されるが、レジストパターンの厚みや幅のばらつきによる電極指の線幅ばらつきについては、ウエットエッチングの場合と同様に生じてしまう。
【0007】
また、特許文献1に開示されたような面内回転角を持つ水晶基板を用いた弾性表面波デバイスでは、製造誤差等により個体間でのライン占有率ηが変動した場合、温度変化時における周波数の変動量が大きく変化することとなる。すなわち、周波数温度特性のバラつきが大きくなるのである。このような問題は、少なからず線幅の変動が生じる量産化において、製品の信頼性、品質という点で大きな課題となる。
【0008】
そこで本発明では、電極指の線幅が変動した場合におけるSAWデバイス個体間の温度変化に起因する周波数変動量の差、すなわち周波数温度特性のバラつきを少なくし、量産化に適した弾性表面波デバイス、およびこのデバイスを搭載した弾性表面波発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
[適用例1]少なくともRayleigh型弾性表面波を励振させるための電極パターンとしてのIDTを備え、前記弾性表面波のストップバンドの上限モードを励振させる弾性表面波デバイスであって、前記IDTを形成するための圧電基板として、(φ,θ,ψ)で示すオイラー角表示で(0°,95°≦θ≦155°,33°≦|ψ|≦46°)のカット角で切り出された水晶基板を採用し、前記IDTを構成する櫛歯状電極の電極指間に電極指間溝を形成することで、前記電極指間溝で挟まれた水晶部分を電極指台座とし、該電極指台座の上面に前記電極指が位置する構成としたことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【0010】
このような構成とすることにより、製造工程においてIDTを構成する電極指の線幅に誤差が生じた場合であっても、周波数温度特性における個体間の頂点温度の乖離を小さくすることができる。このため、動作温度範囲内における周波数変動量の差も少なくすることができ、弾性表面波デバイスの量産化に適応することができる。すなわち、SAWデバイス個体間での周波数温度特性のバラつきを少なくすることができる。
【0011】
[適用例2]適用例1に記載の弾性表面波デバイスであって、前記水晶基板の表面に、前記IDTを前記弾性表面波の伝播方向に挟み込むように反射器を配設し、導体ストリップ間溝を前記反射器を構成する導体ストリップ間に形成し、前記導体ストリップ間溝で挟まれた導体ストリップ台座と、この上面に形成された前記導体ストリップとを有することを特徴とする弾性表面波デバイス。
このような特徴を有することにより、反射器における弾性表面波の反射効率を向上させることができる。
【0012】
[適用例3]適用例2に記載の弾性表面波デバイスであって、前記IDTのストップバンド上端周波数をft2、前記反射器のストップバンド下端周波数をfr1、前記反射器のストップバンド上端周波数をfr2としたとき、fr1<ft2<fr2を満たすことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【0013】
このような特徴を有することにより、IDTのストップバンド上端周波数ft2において、反射器の反射係数|Γ|が大きくなり、IDTから励振されたストップバンド上限モードのSAWが、反射器にて高い反射係数でIDT側に反射されるようになる。そしてストップバンド上限モードのSAWのエネルギー閉じ込めが強くなり、低損失な共振子を実現することができる。
【0014】
[適用例4]適用例3に記載の弾性表面波デバイスであって、前記IDTの前記電極指間溝の深さよりも、前記反射器の前記導体ストリップ間溝の深さの方が浅いことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【0015】
このような特徴を有することで反射器のストップバンドをIDTのストップバンドより高域側へ周波数シフトさせることができる。このため、fr1<ft2<fr2の関係を実現させることが可能となる。
【0016】
[適用例5]適用例1乃至適用例4のいずれかに記載の弾性表面波デバイスであって、前記IDTを構成する前記電極指のライン占有率ηを0.8±yとし、前記電極指台座の厚みHdを、前記電極指の膜厚と前記電極指台座の厚みを足した厚みHで除した値をHd/Hとしたとき、前記yと前記Hd/Hとの関係が、y=0.1825×(Hd/H)4−0.1753×(Hd/H)3+0.0726×(Hd/H)2−0.0058×(Hd/H)+0.0085を満たすことを特徴とする弾性表面波デバイス。
このような特徴を有することにより、Hd/Hの値に基づいて、周波数温度特性を良好に保つことのできるライン占有率の許容交差yを求めることができる。
【0017】
[適用例6]適用例5に記載の弾性表面波デバイスであって、前記Hd/Hが0.167以上であることを特徴とする弾性表面波デバイス。このような構成とすることにより、0℃から80℃の温度範囲において、周波数温度特性の変動を15ppm以内に抑えることができる。
【0018】
[適用例7]適用例6に記載の弾性表面波デバイスであって、前記Hd/Hが0.3以上0.833以下であることを特徴とする弾性表面波デバイス。このような構成とすることにより、0℃から80℃の温度範囲における周波数変動量を20ppm以下にすることができる。
【0019】
[適用例8]適用例1乃至適用例7のいずれかに記載の弾性表面波デバイスと、前記IDTを駆動するためのICを備えたことを特徴とする弾性表面波発振器。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態に係るSAWデバイスの構成を示す図である。
【図2】実施形態に係るSAWデバイスを構成する水晶基板のカット角を示す図である。
【図3】従来のSAWデバイスと実施形態に係るSAWデバイスのライン占有率ηを±0.1だけ振った場合の周波数変動量の差を示すグラフである。
【図4】実施形態に係るSAWデバイスのライン占有率を±0.01だけ振った場合の周波数変動量の差を示すグラフである。
【図5】ライン占有率ηを振った場合に、当該振り幅の中で周波数変動量が最大となるライン占有率ηを有するSAWデバイスの周波数温度特性を示すグラフである。
【図6】ライン占有率ηを振った場合に、当該振り幅の中で周波数変動量が最小となるライン占有率ηを有するSAWデバイスの周波数温度特性を示すグラフである。
【図7】溝深さを変化させた場合における周波数変動量の最大値と最小値の移り変わりを示す図である。
【図8】SAWデバイス個体間の周波数変動量を20ppm以内とすることができる溝深さとライン占有率ηの誤差範囲との関係を示すグラフである。
【図9】図8に示すグラフのライン占有率ηに関する軸を、実際のIDTにおける電極指幅の誤差として変換したグラフである。
【図10】溝を設けたSAWデバイスのライン占有率を変化させた場合における頂点温度のズレ量を示す図である。
【図11】溝を設けないSAWデバイスのライン占有率を変化させた場合における頂点温度のズレ量を示す図である。
【図12】IDTと反射器のSAW反射特性を示す図である。
【図13】実施形態に係るSAW発振器の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明の弾性表面波デバイス、および弾性表面波発振器に係る実施の形態について詳細に説明する。
本実施形態に係る弾性表面波(SAW:surface acoustic wave)デバイス10は、図1に示すように、圧電基板12と、IDT(interdigital transducer)16、および反射器24とを基本として構成される共振子型のものである。圧電基板12としては、図2に示すように、結晶軸をX軸(電気軸)、Y軸(機械軸)、およびZ軸(光軸)で示す水晶基板を用いる。
【0022】
ここで、オイラー角について説明する。オイラー角(0°,0°,0°)で表される基板は、Z軸に垂直な主面を有するZカット基板となる。ここで、オイラー角(φ,θ,ψ)のφはZカット基板の第1の回転に関するものであり、Z軸を回転軸とし、+X軸から+Y軸側へ回転する方向を正の回転角度とした第1回転角度である。オイラー角のθはZカット基板の第1の回転後に行う第2の回転に関するものであり、第1の回転後のX軸を回転軸とし、第1の回転後の+Y軸から+Z軸へ回転する方向を正の回転角度とした第2の回転角度である。圧電基板のカット面は、第1回転角度φと第2回転角度θとで決定される。オイラー角のψはZカット基板の第2の回転後に行う第3の回転に関するものであり、第2の回転後のZ軸を回転軸とし、第2の回転後の+X軸から第2の回転後の+Y軸側へ回転する方向を正の回転角度とした第3回転角度である。SAWの伝搬方向は、第2の回転後のX軸に対する第3回転角度ψで表される。
【0023】
本実施形態では、オイラー角(0°,95°≦θ≦155°,33°≦|ψ|≦46°)で表される面内回転STカット水晶基板を採用した。当該面内回転STカット水晶基板を採用することにより、温度変化に対する周波数の変化が小さく、周波数温度特性が良好なSAWデバイスを構成することが可能となる。
【0024】
IDT16は、複数の電極指22(22a,22b)の基端部をバスバー20(20a,20b)で接続した櫛歯状電極18(18a,18b)を一対有し、一方の櫛歯状電極18aを構成する電極指22aと他方の櫛歯状電極18bを構成する電極指22bとを所定の間隔をあけて交互に配置している。ここで、電極指22は、弾性表面波の伝播方向であるX′軸と直交する方向に配置される。このようにして構成される弾性表面波デバイス10によって励起される弾性表面波は、Rayleigh型の弾性表面波である。そしてこのように、弾性表面波の伝播方向を水晶の結晶軸であるX軸からずらすことで、ストップバンドの上限モードの弾性表面波を励起することが可能となるのである。
【0025】
また、反射器24は、前記IDT16を弾性表面波の伝播方向に挟み込むように一対設けられる。具体的構成としては、IDT16を構成する電極指22と平行に設けられる複数の導体ストリップ26の両端をそれぞれ接続したものである。
【0026】
このようにして構成されるIDT16や反射器24を構成する電極材料としては、アルミニウム(Al)、Al合金、銀(Ag)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、もしくは銅(Cu)、またはそれらの何れか1つを主成分とした合金等を用いることができる。なお、電極材料として合金を用いる場合、主成分となる金属以外の金属は重量比で10%以下にすればよい。
【0027】
上記のような基本構成を有する本実施形態に係るSAWデバイス10は上述したように、弾性表面波の伝播方向を水晶の結晶軸であるX軸からずらしているので、ストップバンドの上限モードでの励振が可能となる。また、本実施形態に係るSAWデバイス10では、IDT16における電極指22間にグルーブ(電極指間溝)28を形成するために、電極パターン14の形成部分を除く水晶基板表面を所定量掘り込んで、電極指台座を構成している。このような構成とすることで、IDT16を構成する電極指22のライン占有率ηが変動した場合における周波数温度特性の変化を小さくすることができる。なお、ライン占有率ηとは、電極指22の線幅dを電極指22間のピッチpで除した値である。したがって、ライン占有率ηは、数式1で示すことができる。
【数1】
【0028】
次に、電極指22間に溝28を設けない場合と、電極指22間に溝28を設ける場合とについての一例を挙げ、その構成における周波数変動量の差を示すこととする。
共振周波数を322MHzとするSAW共振子の場合を例に挙げると、設計値の一例として、電極膜厚を0.6μmとするものを挙げることができる。これに対し、本実施形態に係るSAWデバイス10(共振子)の場合、例えば電極膜厚の半分、すなわち0.3μm程度を溝28(ここで、電極指22間の溝を電極指間溝、導体ストリップ間の溝を導体ストリップ間溝と定義し、以下合わせて溝と称する)の堀量により補い、水晶による台座(電極指台座30、導体ストリップ台座32)を構成することで、実際の電極膜厚を0.3μmとしてIDT16、および反射器24を構成する。
【0029】
なお、反射器24における導体ストリップ間溝は設けずに、IDT16の電極指間溝のみを設けるという形態でもよい。ただし、本実施形態のように、IDT16の電極指間溝だけでなく反射器24の導体ストリップ間溝をも設ける方が、反射器24におけるSAWの反射係数を大きくすることができるので好ましい。
【0030】
IDT16等の電極指間に溝28を形成しない場合と、溝28を形成した場合とにおける周波数温度特性の変化について図3に示す。図3は、電極指間に溝28を形成しない場合(図3(A))と、溝28を形成した場合(図3(B))とを示す。図3に示すグラフにおいて縦軸は周波数の変動量、横軸は温度を示している。
【0031】
図3には、溝28が無い場合、有る場合共に、ライン占有率ηの目標値を0.8としており、ηを±に0.1ずつ振った場合の例を示している。図3から読み取れるように、溝28が無い場合には、η=0.9の時、動作温度範囲内における周波数変動量が最大で170ppm程度となる(図3(A))。これに対して、溝28を設けた場合には、図3(B)に示すように、η=0.9の場合であっても、最大で100ppm程度とすることができる。また、ライン占有率ηの変化による周波数温度特性の変動も溝28を形成した方が小さい。このように、溝28を形成することで、ライン占有率ηのばらつきによる周波数温度特性の変動を小さくすることができる上、最大の周波数変動量も小さくすることができる。
【0032】
ここで、図3に示した例では、説明を解り易くするために、ライン占有率ηの振り幅を±0.1としたが、実際の生産工程におけるライン占有率ηのばらつきは、0.01程度である。そして、このような精度で生産されるSAWデバイス10(例えばSAW共振子)における周波数変動量は、0°から80°までの間で、基準温度(例えば25℃)における共振周波数(例えば322MHz)から±50ppm(動作範囲内(−40℃から85℃までは100ppm)程度に抑えることが好ましく、さらには0°から80°までの間で±10ppm以内(幅で20ppm以下)に抑えることが望ましい。
【0033】
このような関係・条件の下、溝深さとライン占有率ηの許容範囲、および最適な溝深さの関係を導き出すための1つの手段として、次のようなものがある。すなわち、水晶により構成された圧電基板12の表面に、所定深さの溝28を設けた場合における目標のライン占有率ηと、当該ライン占有率ηの振り幅、例えばη±0.01における所定温度レンジ(例えば0℃から80℃)の周波数変動量をそれぞれ求め、ライン占有率ηの振り幅に基づく周波数変動量の最大値、最小値を導き出す。その後、前記最大値と最小値との差が許容される周波数変動量の範囲内(例えば15ppm以内)となる溝深さを導き出すというものである。
【0034】
ここで、図4に示すグラフは、溝28の深さを0.3μm、ライン占有率ηの振り幅を±0.01、電極指台座30の厚みとIDT16の電極膜厚を合わせた厚み、導体ストリップ台座32の厚みと反射器24の電極膜厚とを合わせた厚みをそれぞれ0.6μm(電極膜厚0.3μm)とした場合における周波数変動量の変移を示すものである。図4に示す0℃から80℃までの温度レンジにおいて、周波数変動量が最大値を示すものは、ライン占有率ηをプラス側に振ったもの、すなわちライン占有率η=0.81とした場合のSAW共振子である。具体的には、上述した温度レンジにおいて、周波数変動量は、17ppmであった(図5参照)。そして、周波数変動量が最小となるのは、ライン占有率ηが目標値のとき、すなわちライン占有率η=0.8とした場合のSAW共振子である。この場合における0℃から80℃までの周波数変動量は、10ppmであった(図6参照)。
【0035】
このような結果について、電極指台座30の厚みとIDT16の電極膜厚を合わせた厚み、導体ストリップ台座32の厚みと反射器24の電極膜厚とを合わせた厚みをそれぞれ0.6μmに固定した上で、溝28の堀量を0から0.4μm(即ち、台座の厚みHdを、電極膜厚と台座の厚みを足した厚みHで除した値で表される基準化台座厚みHd/Hを0〜0.667)としてそれぞれ算出し、最大変動(量)、最小変動(量)、平均としてその値をそれぞれグラフにプロットしたものが、図7に示すグラフである。なおこの場合、溝28の深さの変更は、電極指台座30、導体ストリップ台座32の厚み(高さ)と電極膜厚の割合(比率)の変化を示すものである。
【0036】
図7に示すグラフによれば、ライン占有率ηを±0.01振った場合では、0℃から80℃の温度範囲における周波数変動量を20ppm以内に収めるには、溝28の深さを0.18μm以上とする必要がある。これを、電極膜厚との関係で示すと、電極指台座30と電極膜を合わせた厚み、または導体ストリップ台座32と電極膜を合わせた厚みを0.6μmとした場合、溝28の深さはそれぞれの厚みの3割以上、即ち、基準化台座厚みHd/Hが0.3以上ということができる。また、ライン占有率ηの変動量±0.01における周波数温度特性の変動(即ち、周波数変動量の最大値と最小値の差)を15ppm以内に抑えるためには、溝28の深さを0.1μm以上(即ち、基準化台座厚みHd/Hを0.167以上)にし、少なくとも0.5μm以下(即ち、基準化台座厚みHd/Hが0.833以下)にすればよい。
【0037】
なお図7には、基準化台座厚みHd/Hが0.3以上0.667以下の範囲において、0℃から80℃における周波数変動量が20ppm以下になる旨のデータが記載されており、基準化台座厚みHd/Hが大きくなるほど温度による周波数変動量が小さくなる傾向が顕著に見られる。よって、基準化台座厚みHd/Hを0.667より大きくし、少なくとも0.833以下(0.5μm以下)にすれば、0℃から80℃の温度範囲における周波数変動量を15ppm以下にすることができる。
【0038】
0℃から80℃の温度範囲における周波数変動量を20ppm以内に収めるためのライン占有率ηの許容公差(±y)は、溝28の深さが変更されることで変化する。図8は、基準化台座厚みHd/Hと、0℃から80℃における周波数変動量を20ppm以内に収めるためのライン占有率ηの許容公差(±y)との関係について表したものである。図8からは、0℃から80℃における周波数変動量を20ppm以内に収めることのできるライン占有率ηの許容公差(±y)を読み取ることができる。また、図8によれば、溝28の深さが増すに従って、ライン占有率ηの許容公差(±y)が指数関数的に大きくなることを読み取ることができる。つまり、0℃から80℃の温度範囲における周波数変動量を20ppm以内に収めるためのライン占有率η±yと表した場合、η=0.8、且つy=0.1825×(Hd/H)4−0.1753×(Hd/H)3+0.0726×(Hd/H)2−0.0058(Hd/H)+0.0085とすればよいことが図8から分かる。
【0039】
なお、図8に示すライン占有率ηと溝28の深さとの関係を実際の電極指22の幅寸法(μm)と溝28の深さとの関係に変換すると、図9のように示すことができる。例えば図9に示す関係から、電極指22の幅寸法の誤差を±0.1μmとした場合、溝28の深さは0.4μm以上必要であるということができる。
【0040】
ところで、実験によると、ライン占有率ηの誤差によって動作範囲内における周波数温度特性に変動が生じた場合であっても、当該周波数温度特性を示す二次温度係数には大きな違いは生じないことが判った。このことより、周波数変動量の多寡は、周波数温度特性を示すグラフにおける頂点温度のズレによって生ずるものとすることができ、頂点温度を近似させること、すなわち基準温度に対する頂点温度のズレ量を少なくすることで、所定温度レンジにおける周波数変動量を示すグラフの傾きも近似するということができる。そして、このような構成によりSAWデバイスにおける個体間の周波数変動量の差が少なくなれば、生産されるSAWデバイス全体の品質も向上することとなるということもできる。
【0041】
ここで、図10、図11は、圧電基板12に溝28を設けたSAWデバイス10(図10)と、溝を設けないSAWデバイス(図11)とにおいて、ライン占有率ηを変化させた場合に頂点温度の変移量に差が生じるのか否かを示したグラフである。図10や図11に示す例も共振周波数を322MHzとしたSAW共振子の例であり、ライン占有率ηを0.8から0.775へと変化させた場合における頂点温度のズレを示している。上述したように、図10、図11のグラフからは、ライン占有率ηが変化した場合であっても、周波数温度特性を示す二次温度係数に大きな違いが無いことを読み取ることができる。なお、図10、図11における周波数温度特性の計測温度範囲は、0℃から80℃の間である。
【0042】
上記のような例において、溝28を設けたSAWデバイス10の頂点温度は、ライン占有率ηを0.8とした場合に35℃の位置に存在する(図10(A)参照)。そして、溝28を設けたSAWデバイス10では、ライン占有率ηを0.775へと変化させた場合、その頂点温度は64℃の位置に変移することとなった(図10(B)参照)。
【0043】
一方、溝を設けていないSAWデバイスでは、ライン占有率ηを0.8とすると、頂点温度が37℃の位置にくる(図11(A)参照)。そして、溝を設けていないSAWデバイスでは、ライン占有率ηを0.775へと変化させた場合、その頂点温度は130℃の位置(計測温度範囲外)へと変移することとなった(図11(B)参照)。
【0044】
これらのことより、SAWデバイス10の製造工程におけるライン占有率ηの誤差によって生じるSAWデバイス個体間の周波数変動量の差は、水晶によって構成される圧電基板12に、励振電極14の膜厚に応じた深さの溝28を形成することにより減少させることができるということが解る。また、このようなSAWデバイス個体間における周波数変動量の差の減少は、SAWデバイス個体間の頂点温度を近似させることによっても実現させることができるということも解る。
【0045】
上記のような構成のSAWデバイス10の製造工程ではまず、ウエハの一主面に対して励振電極14の材料となる金属を蒸着やスパッタ等の手段を用いて成膜する。次に、ウエットエッチング等によりIDT16や反射器24の形状形成を行う。次に、ドライエッチング等の手段により、励振電極14が形成された部分以外の圧電基板12の表面を所定量掘り込むことで、溝28を形成する。このとき、励振電極14を形成した金属膜は、ドライエッチングを行う際のマスクとして利用しても良い。
【0046】
上記の工程を終了し、圧電基板12の一主面にIDT16や反射器24を形成した後、ダイシング等の手段を用いてウエハを個片単位のSAWデバイス10へと分割する。
上記のような構成の本実施形態に係るSAWデバイス10によれば、溝28の深さの調整によって、製造工程における電極指22の幅の誤差範囲内に存在するSAWデバイス10の周波数温度特性の頂点温度のズレ量を少なくすることができる。このため、製造されたSAWデバイス個体間における周波数変動量の差を少なくし、個々のSAWデバイスそれぞれにおいて周波数変動量を許容範囲内に収めることが可能となる。よって、SAWデバイス10を製造する上での歩留りを向上させることが可能となる。
【0047】
なお、上記実施形態では、電極膜厚と台座の厚みを足した厚みHを0.6μmとしたが、本発明はこれに限定するものではない。電極膜厚と台座の厚みを足した厚みHが0.6μm以外の場合でも、オイラー角(0°,95°≦θ≦155°,33°≦|ψ|≦46°)の水晶基板であり、且つストップバンド上限モードを用いたRayleigh型のSAWデバイスであれば、上記実施形態と同様の効果を奏する。
また、必要に応じて、電極指と導体ストリップの少なくとも何れか一方を覆う保護膜を設けてもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、溝28の掘り込みは、励振電極形成部14以外の圧電基板12の表面全体を対象として行う旨記載したが、実際には励振に寄与する部分、例えばIDT16における電極指22の間のみや、IDT16における電極指22の間と反射器24における導体ストリップ26の間のみといった場合であっても、本発明の一部とみなすことができる。
【0049】
また、ストップバンドの上限モードで励振したSAWを効率よくエネルギー閉じ込めするためには、図12のように、IDT16のストップバンド上端の周波数ft2を、反射器24のストップバンド下端の周波数fr1と反射器24のストップバンド上端の周波数fr2との間に設定すればよい。即ち、fr1<ft2<fr2の関係をみたすように設定すればよい。これにより、IDT16のストップバンド上端周波数ft2において、反射器24の反射係数|Γ|が大きくなり、IDT16から励振されたストップバンド上限モードのSAWが、反射器24にて高い反射係数でIDT16側に反射されるようになる。そしてストップバンド上限モードのSAWのエネルギー閉じ込めが強くなり、低損失な共振子を実現することができる。ここで、ft2<fr1の状態やfr2<ft2の状態に設定してしまうと、IDT16のストップバンド上端周波数ft2において、反射器24の反射係数|Γ|が小さくなってしまい、強いエネルギー閉じ込め状態を実現することが困難になってしまう。
【0050】
fr1<ft2<fr2の状態にするためには、反射器24のストップバンドをIDT16のストップバンドより高域側へ周波数シフトする必要があるが、これは、IDT16の電極指配列周期よりも反射器24の導体ストリップ配列周期を小さくすることで実現できる。他にも、IDT16の電極指膜厚よりも反射器24の導体ストリップ膜厚を薄くしたり、IDT16の電極指間溝の深さよりも反射器24の導体ストリップ間溝の深さを浅くすることで実現できる。また、これらの手法を複数組み合わせて適用してもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、SAWデバイス10の一例としてSAW共振子のみを挙げているが、本発明のSAWデバイスには、SAWフィルタ等も含まれる。
また、上記実施形態で示したSAWデバイス10は、反射器24を有する共振子であったが、本実施形態に係るSAWデバイス10には、反射器を備えない端面反射型のSAW共振子も含まれる。
【0052】
また、本発明に係るSAW発振器は図13に示すように、上述したSAWデバイスと、このSAWデバイスのIDTに電圧を印加して駆動制御するICと、これらを収容するパッケージとから成る。なお、図13において、図13(A)はリッドを除いた平面図であり、図13(B)は、同図(A)におけるA−A断面を示す図である。
【0053】
実施形態に係るSAW発振器100では、SAWデバイス10とIC50とを同一のパッケージ56に収容し、パッケージ56の底板56aに形成された電極パターン54a〜54gとSAWデバイス10の櫛歯状電極18a,18b、およびIC50のパッド52a〜52fとを金属ワイヤ60により接続している。そして、SAWデバイス10とICとを収容したパッケージ56のキャビティは、リッド58により気密に封止している。このような構成とすることで、IDT16(図1参照)とIC50、及びパッケージ56の底面に形成された図示しない外部実装電極とを電気的に接続することができる。
【符号の説明】
【0054】
10………SAWデバイス、12………圧電基板、14………励振電極、16………IDT、18(18a,18b)………櫛歯状電極、20(20a,20b)………バスバー、22(22a,22b)………電極指、24………反射器、26………導体ストリップ、28………溝、30………電極指台座、32………導体ストリップ台座。
【技術分野】
【0001】
本発明は、Rayleigh型弾性表面波のストップバンドにおける上限モードを利用した弾性表面波デバイス、およびこのデバイスを搭載した弾性表面波発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波素子片を構成するIDTや反射器は、複数の導体ストリップを有しており、導体ストリップの周期構造により、特定の周波数領域のSAWを高い反射係数で反射する周波数帯域、即ちストップバンドを形成している。
【0003】
所定の面内回転角度ψを持ったSTカット水晶基板を用いた弾性表面波デバイスであって、Rayleigh型弾性表面波のストップバンドにおける上限モードを励振させることのできるものは、周波数温度特性に優れていることが知られている。また、弾性表面波の1波長中に2本の電極指を設ければ良いシングル型のIDTを採用することができることより、従来、ストップバンドの上限を励振する際に必要とされていた反射反転型のIDT(弾性表面波の1波長中に3本の電極指を設けるもの)を採用する場合に比べて、高周波化する際の電極の微細化難易度を低くすることができ、高周波化も容易となることが知られている。さらに、ストップバンドの上限モードの励振は、IDTの抵抗値を小さくするために電極膜の膜厚を厚くした場合における周波数の変化量、即ち電極膜厚の変動による周波数変化量が下限モードの励振に比べて小さいということも知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
ここで、特許文献1には、弾性表面波の伝播方向を水晶のX軸からずらすことで、ストップバンドの上限モードのSAWが励振可能となる旨の記載がある。特許文献2には、電極指を多数並べた周期構造にて生じるSAWの周期的な反射によってストップバンドが形成されることが記載されており、反射反転型IDTについても詳細に開示されている。また、ストップバンド内の下端(下限)及び上端(上限)のそれぞれの周波数において共振状態となり、定在波が形成され、下限モードと上限モードのそれぞれの定在波の腹(または節)の位置が互いにずれる旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−148622号公報
【特許文献2】特開平11−214958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されているような構成の弾性表面波デバイスであれば確かに、周波数温度特性が良好で、高周波化に適し、膜厚の変化による周波数の変化量も小さくすることができる。しかし、特許文献1の発明では、量産時における製造誤差が考慮されていない。例えば、SAWデバイスの製造工程において、レジストパターンを形成し、ウエットエッチングにより電極パターンを形成する際などには、レジストパターンの厚みや幅の違いや、電極パターンの側面からエッチングが進行するサイドエッチングの影響を受け、IDTを構成する電極指の線幅に誤差が生じることがある。電極パターンをドライエッチングにて形成する場合は、サイドエッチングによる電極指線幅ばらつきは軽減されるが、レジストパターンの厚みや幅のばらつきによる電極指の線幅ばらつきについては、ウエットエッチングの場合と同様に生じてしまう。
【0007】
また、特許文献1に開示されたような面内回転角を持つ水晶基板を用いた弾性表面波デバイスでは、製造誤差等により個体間でのライン占有率ηが変動した場合、温度変化時における周波数の変動量が大きく変化することとなる。すなわち、周波数温度特性のバラつきが大きくなるのである。このような問題は、少なからず線幅の変動が生じる量産化において、製品の信頼性、品質という点で大きな課題となる。
【0008】
そこで本発明では、電極指の線幅が変動した場合におけるSAWデバイス個体間の温度変化に起因する周波数変動量の差、すなわち周波数温度特性のバラつきを少なくし、量産化に適した弾性表面波デバイス、およびこのデバイスを搭載した弾性表面波発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
[適用例1]少なくともRayleigh型弾性表面波を励振させるための電極パターンとしてのIDTを備え、前記弾性表面波のストップバンドの上限モードを励振させる弾性表面波デバイスであって、前記IDTを形成するための圧電基板として、(φ,θ,ψ)で示すオイラー角表示で(0°,95°≦θ≦155°,33°≦|ψ|≦46°)のカット角で切り出された水晶基板を採用し、前記IDTを構成する櫛歯状電極の電極指間に電極指間溝を形成することで、前記電極指間溝で挟まれた水晶部分を電極指台座とし、該電極指台座の上面に前記電極指が位置する構成としたことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【0010】
このような構成とすることにより、製造工程においてIDTを構成する電極指の線幅に誤差が生じた場合であっても、周波数温度特性における個体間の頂点温度の乖離を小さくすることができる。このため、動作温度範囲内における周波数変動量の差も少なくすることができ、弾性表面波デバイスの量産化に適応することができる。すなわち、SAWデバイス個体間での周波数温度特性のバラつきを少なくすることができる。
【0011】
[適用例2]適用例1に記載の弾性表面波デバイスであって、前記水晶基板の表面に、前記IDTを前記弾性表面波の伝播方向に挟み込むように反射器を配設し、導体ストリップ間溝を前記反射器を構成する導体ストリップ間に形成し、前記導体ストリップ間溝で挟まれた導体ストリップ台座と、この上面に形成された前記導体ストリップとを有することを特徴とする弾性表面波デバイス。
このような特徴を有することにより、反射器における弾性表面波の反射効率を向上させることができる。
【0012】
[適用例3]適用例2に記載の弾性表面波デバイスであって、前記IDTのストップバンド上端周波数をft2、前記反射器のストップバンド下端周波数をfr1、前記反射器のストップバンド上端周波数をfr2としたとき、fr1<ft2<fr2を満たすことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【0013】
このような特徴を有することにより、IDTのストップバンド上端周波数ft2において、反射器の反射係数|Γ|が大きくなり、IDTから励振されたストップバンド上限モードのSAWが、反射器にて高い反射係数でIDT側に反射されるようになる。そしてストップバンド上限モードのSAWのエネルギー閉じ込めが強くなり、低損失な共振子を実現することができる。
【0014】
[適用例4]適用例3に記載の弾性表面波デバイスであって、前記IDTの前記電極指間溝の深さよりも、前記反射器の前記導体ストリップ間溝の深さの方が浅いことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【0015】
このような特徴を有することで反射器のストップバンドをIDTのストップバンドより高域側へ周波数シフトさせることができる。このため、fr1<ft2<fr2の関係を実現させることが可能となる。
【0016】
[適用例5]適用例1乃至適用例4のいずれかに記載の弾性表面波デバイスであって、前記IDTを構成する前記電極指のライン占有率ηを0.8±yとし、前記電極指台座の厚みHdを、前記電極指の膜厚と前記電極指台座の厚みを足した厚みHで除した値をHd/Hとしたとき、前記yと前記Hd/Hとの関係が、y=0.1825×(Hd/H)4−0.1753×(Hd/H)3+0.0726×(Hd/H)2−0.0058×(Hd/H)+0.0085を満たすことを特徴とする弾性表面波デバイス。
このような特徴を有することにより、Hd/Hの値に基づいて、周波数温度特性を良好に保つことのできるライン占有率の許容交差yを求めることができる。
【0017】
[適用例6]適用例5に記載の弾性表面波デバイスであって、前記Hd/Hが0.167以上であることを特徴とする弾性表面波デバイス。このような構成とすることにより、0℃から80℃の温度範囲において、周波数温度特性の変動を15ppm以内に抑えることができる。
【0018】
[適用例7]適用例6に記載の弾性表面波デバイスであって、前記Hd/Hが0.3以上0.833以下であることを特徴とする弾性表面波デバイス。このような構成とすることにより、0℃から80℃の温度範囲における周波数変動量を20ppm以下にすることができる。
【0019】
[適用例8]適用例1乃至適用例7のいずれかに記載の弾性表面波デバイスと、前記IDTを駆動するためのICを備えたことを特徴とする弾性表面波発振器。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態に係るSAWデバイスの構成を示す図である。
【図2】実施形態に係るSAWデバイスを構成する水晶基板のカット角を示す図である。
【図3】従来のSAWデバイスと実施形態に係るSAWデバイスのライン占有率ηを±0.1だけ振った場合の周波数変動量の差を示すグラフである。
【図4】実施形態に係るSAWデバイスのライン占有率を±0.01だけ振った場合の周波数変動量の差を示すグラフである。
【図5】ライン占有率ηを振った場合に、当該振り幅の中で周波数変動量が最大となるライン占有率ηを有するSAWデバイスの周波数温度特性を示すグラフである。
【図6】ライン占有率ηを振った場合に、当該振り幅の中で周波数変動量が最小となるライン占有率ηを有するSAWデバイスの周波数温度特性を示すグラフである。
【図7】溝深さを変化させた場合における周波数変動量の最大値と最小値の移り変わりを示す図である。
【図8】SAWデバイス個体間の周波数変動量を20ppm以内とすることができる溝深さとライン占有率ηの誤差範囲との関係を示すグラフである。
【図9】図8に示すグラフのライン占有率ηに関する軸を、実際のIDTにおける電極指幅の誤差として変換したグラフである。
【図10】溝を設けたSAWデバイスのライン占有率を変化させた場合における頂点温度のズレ量を示す図である。
【図11】溝を設けないSAWデバイスのライン占有率を変化させた場合における頂点温度のズレ量を示す図である。
【図12】IDTと反射器のSAW反射特性を示す図である。
【図13】実施形態に係るSAW発振器の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明の弾性表面波デバイス、および弾性表面波発振器に係る実施の形態について詳細に説明する。
本実施形態に係る弾性表面波(SAW:surface acoustic wave)デバイス10は、図1に示すように、圧電基板12と、IDT(interdigital transducer)16、および反射器24とを基本として構成される共振子型のものである。圧電基板12としては、図2に示すように、結晶軸をX軸(電気軸)、Y軸(機械軸)、およびZ軸(光軸)で示す水晶基板を用いる。
【0022】
ここで、オイラー角について説明する。オイラー角(0°,0°,0°)で表される基板は、Z軸に垂直な主面を有するZカット基板となる。ここで、オイラー角(φ,θ,ψ)のφはZカット基板の第1の回転に関するものであり、Z軸を回転軸とし、+X軸から+Y軸側へ回転する方向を正の回転角度とした第1回転角度である。オイラー角のθはZカット基板の第1の回転後に行う第2の回転に関するものであり、第1の回転後のX軸を回転軸とし、第1の回転後の+Y軸から+Z軸へ回転する方向を正の回転角度とした第2の回転角度である。圧電基板のカット面は、第1回転角度φと第2回転角度θとで決定される。オイラー角のψはZカット基板の第2の回転後に行う第3の回転に関するものであり、第2の回転後のZ軸を回転軸とし、第2の回転後の+X軸から第2の回転後の+Y軸側へ回転する方向を正の回転角度とした第3回転角度である。SAWの伝搬方向は、第2の回転後のX軸に対する第3回転角度ψで表される。
【0023】
本実施形態では、オイラー角(0°,95°≦θ≦155°,33°≦|ψ|≦46°)で表される面内回転STカット水晶基板を採用した。当該面内回転STカット水晶基板を採用することにより、温度変化に対する周波数の変化が小さく、周波数温度特性が良好なSAWデバイスを構成することが可能となる。
【0024】
IDT16は、複数の電極指22(22a,22b)の基端部をバスバー20(20a,20b)で接続した櫛歯状電極18(18a,18b)を一対有し、一方の櫛歯状電極18aを構成する電極指22aと他方の櫛歯状電極18bを構成する電極指22bとを所定の間隔をあけて交互に配置している。ここで、電極指22は、弾性表面波の伝播方向であるX′軸と直交する方向に配置される。このようにして構成される弾性表面波デバイス10によって励起される弾性表面波は、Rayleigh型の弾性表面波である。そしてこのように、弾性表面波の伝播方向を水晶の結晶軸であるX軸からずらすことで、ストップバンドの上限モードの弾性表面波を励起することが可能となるのである。
【0025】
また、反射器24は、前記IDT16を弾性表面波の伝播方向に挟み込むように一対設けられる。具体的構成としては、IDT16を構成する電極指22と平行に設けられる複数の導体ストリップ26の両端をそれぞれ接続したものである。
【0026】
このようにして構成されるIDT16や反射器24を構成する電極材料としては、アルミニウム(Al)、Al合金、銀(Ag)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、もしくは銅(Cu)、またはそれらの何れか1つを主成分とした合金等を用いることができる。なお、電極材料として合金を用いる場合、主成分となる金属以外の金属は重量比で10%以下にすればよい。
【0027】
上記のような基本構成を有する本実施形態に係るSAWデバイス10は上述したように、弾性表面波の伝播方向を水晶の結晶軸であるX軸からずらしているので、ストップバンドの上限モードでの励振が可能となる。また、本実施形態に係るSAWデバイス10では、IDT16における電極指22間にグルーブ(電極指間溝)28を形成するために、電極パターン14の形成部分を除く水晶基板表面を所定量掘り込んで、電極指台座を構成している。このような構成とすることで、IDT16を構成する電極指22のライン占有率ηが変動した場合における周波数温度特性の変化を小さくすることができる。なお、ライン占有率ηとは、電極指22の線幅dを電極指22間のピッチpで除した値である。したがって、ライン占有率ηは、数式1で示すことができる。
【数1】
【0028】
次に、電極指22間に溝28を設けない場合と、電極指22間に溝28を設ける場合とについての一例を挙げ、その構成における周波数変動量の差を示すこととする。
共振周波数を322MHzとするSAW共振子の場合を例に挙げると、設計値の一例として、電極膜厚を0.6μmとするものを挙げることができる。これに対し、本実施形態に係るSAWデバイス10(共振子)の場合、例えば電極膜厚の半分、すなわち0.3μm程度を溝28(ここで、電極指22間の溝を電極指間溝、導体ストリップ間の溝を導体ストリップ間溝と定義し、以下合わせて溝と称する)の堀量により補い、水晶による台座(電極指台座30、導体ストリップ台座32)を構成することで、実際の電極膜厚を0.3μmとしてIDT16、および反射器24を構成する。
【0029】
なお、反射器24における導体ストリップ間溝は設けずに、IDT16の電極指間溝のみを設けるという形態でもよい。ただし、本実施形態のように、IDT16の電極指間溝だけでなく反射器24の導体ストリップ間溝をも設ける方が、反射器24におけるSAWの反射係数を大きくすることができるので好ましい。
【0030】
IDT16等の電極指間に溝28を形成しない場合と、溝28を形成した場合とにおける周波数温度特性の変化について図3に示す。図3は、電極指間に溝28を形成しない場合(図3(A))と、溝28を形成した場合(図3(B))とを示す。図3に示すグラフにおいて縦軸は周波数の変動量、横軸は温度を示している。
【0031】
図3には、溝28が無い場合、有る場合共に、ライン占有率ηの目標値を0.8としており、ηを±に0.1ずつ振った場合の例を示している。図3から読み取れるように、溝28が無い場合には、η=0.9の時、動作温度範囲内における周波数変動量が最大で170ppm程度となる(図3(A))。これに対して、溝28を設けた場合には、図3(B)に示すように、η=0.9の場合であっても、最大で100ppm程度とすることができる。また、ライン占有率ηの変化による周波数温度特性の変動も溝28を形成した方が小さい。このように、溝28を形成することで、ライン占有率ηのばらつきによる周波数温度特性の変動を小さくすることができる上、最大の周波数変動量も小さくすることができる。
【0032】
ここで、図3に示した例では、説明を解り易くするために、ライン占有率ηの振り幅を±0.1としたが、実際の生産工程におけるライン占有率ηのばらつきは、0.01程度である。そして、このような精度で生産されるSAWデバイス10(例えばSAW共振子)における周波数変動量は、0°から80°までの間で、基準温度(例えば25℃)における共振周波数(例えば322MHz)から±50ppm(動作範囲内(−40℃から85℃までは100ppm)程度に抑えることが好ましく、さらには0°から80°までの間で±10ppm以内(幅で20ppm以下)に抑えることが望ましい。
【0033】
このような関係・条件の下、溝深さとライン占有率ηの許容範囲、および最適な溝深さの関係を導き出すための1つの手段として、次のようなものがある。すなわち、水晶により構成された圧電基板12の表面に、所定深さの溝28を設けた場合における目標のライン占有率ηと、当該ライン占有率ηの振り幅、例えばη±0.01における所定温度レンジ(例えば0℃から80℃)の周波数変動量をそれぞれ求め、ライン占有率ηの振り幅に基づく周波数変動量の最大値、最小値を導き出す。その後、前記最大値と最小値との差が許容される周波数変動量の範囲内(例えば15ppm以内)となる溝深さを導き出すというものである。
【0034】
ここで、図4に示すグラフは、溝28の深さを0.3μm、ライン占有率ηの振り幅を±0.01、電極指台座30の厚みとIDT16の電極膜厚を合わせた厚み、導体ストリップ台座32の厚みと反射器24の電極膜厚とを合わせた厚みをそれぞれ0.6μm(電極膜厚0.3μm)とした場合における周波数変動量の変移を示すものである。図4に示す0℃から80℃までの温度レンジにおいて、周波数変動量が最大値を示すものは、ライン占有率ηをプラス側に振ったもの、すなわちライン占有率η=0.81とした場合のSAW共振子である。具体的には、上述した温度レンジにおいて、周波数変動量は、17ppmであった(図5参照)。そして、周波数変動量が最小となるのは、ライン占有率ηが目標値のとき、すなわちライン占有率η=0.8とした場合のSAW共振子である。この場合における0℃から80℃までの周波数変動量は、10ppmであった(図6参照)。
【0035】
このような結果について、電極指台座30の厚みとIDT16の電極膜厚を合わせた厚み、導体ストリップ台座32の厚みと反射器24の電極膜厚とを合わせた厚みをそれぞれ0.6μmに固定した上で、溝28の堀量を0から0.4μm(即ち、台座の厚みHdを、電極膜厚と台座の厚みを足した厚みHで除した値で表される基準化台座厚みHd/Hを0〜0.667)としてそれぞれ算出し、最大変動(量)、最小変動(量)、平均としてその値をそれぞれグラフにプロットしたものが、図7に示すグラフである。なおこの場合、溝28の深さの変更は、電極指台座30、導体ストリップ台座32の厚み(高さ)と電極膜厚の割合(比率)の変化を示すものである。
【0036】
図7に示すグラフによれば、ライン占有率ηを±0.01振った場合では、0℃から80℃の温度範囲における周波数変動量を20ppm以内に収めるには、溝28の深さを0.18μm以上とする必要がある。これを、電極膜厚との関係で示すと、電極指台座30と電極膜を合わせた厚み、または導体ストリップ台座32と電極膜を合わせた厚みを0.6μmとした場合、溝28の深さはそれぞれの厚みの3割以上、即ち、基準化台座厚みHd/Hが0.3以上ということができる。また、ライン占有率ηの変動量±0.01における周波数温度特性の変動(即ち、周波数変動量の最大値と最小値の差)を15ppm以内に抑えるためには、溝28の深さを0.1μm以上(即ち、基準化台座厚みHd/Hを0.167以上)にし、少なくとも0.5μm以下(即ち、基準化台座厚みHd/Hが0.833以下)にすればよい。
【0037】
なお図7には、基準化台座厚みHd/Hが0.3以上0.667以下の範囲において、0℃から80℃における周波数変動量が20ppm以下になる旨のデータが記載されており、基準化台座厚みHd/Hが大きくなるほど温度による周波数変動量が小さくなる傾向が顕著に見られる。よって、基準化台座厚みHd/Hを0.667より大きくし、少なくとも0.833以下(0.5μm以下)にすれば、0℃から80℃の温度範囲における周波数変動量を15ppm以下にすることができる。
【0038】
0℃から80℃の温度範囲における周波数変動量を20ppm以内に収めるためのライン占有率ηの許容公差(±y)は、溝28の深さが変更されることで変化する。図8は、基準化台座厚みHd/Hと、0℃から80℃における周波数変動量を20ppm以内に収めるためのライン占有率ηの許容公差(±y)との関係について表したものである。図8からは、0℃から80℃における周波数変動量を20ppm以内に収めることのできるライン占有率ηの許容公差(±y)を読み取ることができる。また、図8によれば、溝28の深さが増すに従って、ライン占有率ηの許容公差(±y)が指数関数的に大きくなることを読み取ることができる。つまり、0℃から80℃の温度範囲における周波数変動量を20ppm以内に収めるためのライン占有率η±yと表した場合、η=0.8、且つy=0.1825×(Hd/H)4−0.1753×(Hd/H)3+0.0726×(Hd/H)2−0.0058(Hd/H)+0.0085とすればよいことが図8から分かる。
【0039】
なお、図8に示すライン占有率ηと溝28の深さとの関係を実際の電極指22の幅寸法(μm)と溝28の深さとの関係に変換すると、図9のように示すことができる。例えば図9に示す関係から、電極指22の幅寸法の誤差を±0.1μmとした場合、溝28の深さは0.4μm以上必要であるということができる。
【0040】
ところで、実験によると、ライン占有率ηの誤差によって動作範囲内における周波数温度特性に変動が生じた場合であっても、当該周波数温度特性を示す二次温度係数には大きな違いは生じないことが判った。このことより、周波数変動量の多寡は、周波数温度特性を示すグラフにおける頂点温度のズレによって生ずるものとすることができ、頂点温度を近似させること、すなわち基準温度に対する頂点温度のズレ量を少なくすることで、所定温度レンジにおける周波数変動量を示すグラフの傾きも近似するということができる。そして、このような構成によりSAWデバイスにおける個体間の周波数変動量の差が少なくなれば、生産されるSAWデバイス全体の品質も向上することとなるということもできる。
【0041】
ここで、図10、図11は、圧電基板12に溝28を設けたSAWデバイス10(図10)と、溝を設けないSAWデバイス(図11)とにおいて、ライン占有率ηを変化させた場合に頂点温度の変移量に差が生じるのか否かを示したグラフである。図10や図11に示す例も共振周波数を322MHzとしたSAW共振子の例であり、ライン占有率ηを0.8から0.775へと変化させた場合における頂点温度のズレを示している。上述したように、図10、図11のグラフからは、ライン占有率ηが変化した場合であっても、周波数温度特性を示す二次温度係数に大きな違いが無いことを読み取ることができる。なお、図10、図11における周波数温度特性の計測温度範囲は、0℃から80℃の間である。
【0042】
上記のような例において、溝28を設けたSAWデバイス10の頂点温度は、ライン占有率ηを0.8とした場合に35℃の位置に存在する(図10(A)参照)。そして、溝28を設けたSAWデバイス10では、ライン占有率ηを0.775へと変化させた場合、その頂点温度は64℃の位置に変移することとなった(図10(B)参照)。
【0043】
一方、溝を設けていないSAWデバイスでは、ライン占有率ηを0.8とすると、頂点温度が37℃の位置にくる(図11(A)参照)。そして、溝を設けていないSAWデバイスでは、ライン占有率ηを0.775へと変化させた場合、その頂点温度は130℃の位置(計測温度範囲外)へと変移することとなった(図11(B)参照)。
【0044】
これらのことより、SAWデバイス10の製造工程におけるライン占有率ηの誤差によって生じるSAWデバイス個体間の周波数変動量の差は、水晶によって構成される圧電基板12に、励振電極14の膜厚に応じた深さの溝28を形成することにより減少させることができるということが解る。また、このようなSAWデバイス個体間における周波数変動量の差の減少は、SAWデバイス個体間の頂点温度を近似させることによっても実現させることができるということも解る。
【0045】
上記のような構成のSAWデバイス10の製造工程ではまず、ウエハの一主面に対して励振電極14の材料となる金属を蒸着やスパッタ等の手段を用いて成膜する。次に、ウエットエッチング等によりIDT16や反射器24の形状形成を行う。次に、ドライエッチング等の手段により、励振電極14が形成された部分以外の圧電基板12の表面を所定量掘り込むことで、溝28を形成する。このとき、励振電極14を形成した金属膜は、ドライエッチングを行う際のマスクとして利用しても良い。
【0046】
上記の工程を終了し、圧電基板12の一主面にIDT16や反射器24を形成した後、ダイシング等の手段を用いてウエハを個片単位のSAWデバイス10へと分割する。
上記のような構成の本実施形態に係るSAWデバイス10によれば、溝28の深さの調整によって、製造工程における電極指22の幅の誤差範囲内に存在するSAWデバイス10の周波数温度特性の頂点温度のズレ量を少なくすることができる。このため、製造されたSAWデバイス個体間における周波数変動量の差を少なくし、個々のSAWデバイスそれぞれにおいて周波数変動量を許容範囲内に収めることが可能となる。よって、SAWデバイス10を製造する上での歩留りを向上させることが可能となる。
【0047】
なお、上記実施形態では、電極膜厚と台座の厚みを足した厚みHを0.6μmとしたが、本発明はこれに限定するものではない。電極膜厚と台座の厚みを足した厚みHが0.6μm以外の場合でも、オイラー角(0°,95°≦θ≦155°,33°≦|ψ|≦46°)の水晶基板であり、且つストップバンド上限モードを用いたRayleigh型のSAWデバイスであれば、上記実施形態と同様の効果を奏する。
また、必要に応じて、電極指と導体ストリップの少なくとも何れか一方を覆う保護膜を設けてもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、溝28の掘り込みは、励振電極形成部14以外の圧電基板12の表面全体を対象として行う旨記載したが、実際には励振に寄与する部分、例えばIDT16における電極指22の間のみや、IDT16における電極指22の間と反射器24における導体ストリップ26の間のみといった場合であっても、本発明の一部とみなすことができる。
【0049】
また、ストップバンドの上限モードで励振したSAWを効率よくエネルギー閉じ込めするためには、図12のように、IDT16のストップバンド上端の周波数ft2を、反射器24のストップバンド下端の周波数fr1と反射器24のストップバンド上端の周波数fr2との間に設定すればよい。即ち、fr1<ft2<fr2の関係をみたすように設定すればよい。これにより、IDT16のストップバンド上端周波数ft2において、反射器24の反射係数|Γ|が大きくなり、IDT16から励振されたストップバンド上限モードのSAWが、反射器24にて高い反射係数でIDT16側に反射されるようになる。そしてストップバンド上限モードのSAWのエネルギー閉じ込めが強くなり、低損失な共振子を実現することができる。ここで、ft2<fr1の状態やfr2<ft2の状態に設定してしまうと、IDT16のストップバンド上端周波数ft2において、反射器24の反射係数|Γ|が小さくなってしまい、強いエネルギー閉じ込め状態を実現することが困難になってしまう。
【0050】
fr1<ft2<fr2の状態にするためには、反射器24のストップバンドをIDT16のストップバンドより高域側へ周波数シフトする必要があるが、これは、IDT16の電極指配列周期よりも反射器24の導体ストリップ配列周期を小さくすることで実現できる。他にも、IDT16の電極指膜厚よりも反射器24の導体ストリップ膜厚を薄くしたり、IDT16の電極指間溝の深さよりも反射器24の導体ストリップ間溝の深さを浅くすることで実現できる。また、これらの手法を複数組み合わせて適用してもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、SAWデバイス10の一例としてSAW共振子のみを挙げているが、本発明のSAWデバイスには、SAWフィルタ等も含まれる。
また、上記実施形態で示したSAWデバイス10は、反射器24を有する共振子であったが、本実施形態に係るSAWデバイス10には、反射器を備えない端面反射型のSAW共振子も含まれる。
【0052】
また、本発明に係るSAW発振器は図13に示すように、上述したSAWデバイスと、このSAWデバイスのIDTに電圧を印加して駆動制御するICと、これらを収容するパッケージとから成る。なお、図13において、図13(A)はリッドを除いた平面図であり、図13(B)は、同図(A)におけるA−A断面を示す図である。
【0053】
実施形態に係るSAW発振器100では、SAWデバイス10とIC50とを同一のパッケージ56に収容し、パッケージ56の底板56aに形成された電極パターン54a〜54gとSAWデバイス10の櫛歯状電極18a,18b、およびIC50のパッド52a〜52fとを金属ワイヤ60により接続している。そして、SAWデバイス10とICとを収容したパッケージ56のキャビティは、リッド58により気密に封止している。このような構成とすることで、IDT16(図1参照)とIC50、及びパッケージ56の底面に形成された図示しない外部実装電極とを電気的に接続することができる。
【符号の説明】
【0054】
10………SAWデバイス、12………圧電基板、14………励振電極、16………IDT、18(18a,18b)………櫛歯状電極、20(20a,20b)………バスバー、22(22a,22b)………電極指、24………反射器、26………導体ストリップ、28………溝、30………電極指台座、32………導体ストリップ台座。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともRayleigh型弾性表面波を励振させるための電極パターンとしてのIDTを備え、前記弾性表面波のストップバンドの上限モードを励振させる弾性表面波デバイスであって、
前記IDTを形成するための圧電基板として、(φ,θ,ψ)で示すオイラー角表示で(0°,95°≦θ≦155°,33°≦|ψ|≦46°)のカット角で切り出された水晶基板を採用し、
前記IDTを構成する櫛歯状電極の電極指間に電極指間溝を形成することで、前記電極指間溝で挟まれた水晶部分を電極指台座とし、該電極指台座の上面に前記電極指が位置する構成としたことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波デバイスであって、
前記水晶基板の表面に、前記IDTを前記弾性表面波の伝播方向に挟み込むように反射器を配設し、
導体ストリップ間溝を前記反射器を構成する導体ストリップ間に形成し、前記導体ストリップ間溝で挟まれた導体ストリップ台座と、この上面に形成された前記導体ストリップとを有することを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載の弾性表面波デバイスであって、
前記IDTのストップバンド上端周波数をft2、前記反射器のストップバンド下端周波数をfr1、前記反射器のストップバンド上端周波数をfr2としたとき、fr1<ft2<fr2を満たすことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の弾性表面波デバイスであって、
前記IDTの前記電極指間溝の深さよりも、前記反射器の前記導体ストリップ間溝の深さの方が浅いことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の弾性表面波デバイスであって、
前記IDTを構成する前記電極指のライン占有率ηを0.8±yとし、
前記電極指台座の厚みHdを、前記電極指の膜厚と前記電極指台座の厚みを足した厚みHで除した値をHd/Hとしたとき、前記yと前記Hd/Hとの関係が、
y=0.1825×(Hd/H)4−0.1753×(Hd/H)3+0.0726×(Hd/H)2−0.0058×(Hd/H)+0.0085
を満たすことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項6】
請求項5に記載の弾性表面波デバイスであって、
前記Hd/Hが0.167以上であることを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項7】
請求項6に記載の弾性表面波デバイスであって、
前記Hd/Hが0.3以上0.833以下であることを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の弾性表面波デバイスと、前記IDTを駆動するためのICを備えたことを特徴とする弾性表面波発振器。
【請求項1】
少なくともRayleigh型弾性表面波を励振させるための電極パターンとしてのIDTを備え、前記弾性表面波のストップバンドの上限モードを励振させる弾性表面波デバイスであって、
前記IDTを形成するための圧電基板として、(φ,θ,ψ)で示すオイラー角表示で(0°,95°≦θ≦155°,33°≦|ψ|≦46°)のカット角で切り出された水晶基板を採用し、
前記IDTを構成する櫛歯状電極の電極指間に電極指間溝を形成することで、前記電極指間溝で挟まれた水晶部分を電極指台座とし、該電極指台座の上面に前記電極指が位置する構成としたことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波デバイスであって、
前記水晶基板の表面に、前記IDTを前記弾性表面波の伝播方向に挟み込むように反射器を配設し、
導体ストリップ間溝を前記反射器を構成する導体ストリップ間に形成し、前記導体ストリップ間溝で挟まれた導体ストリップ台座と、この上面に形成された前記導体ストリップとを有することを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載の弾性表面波デバイスであって、
前記IDTのストップバンド上端周波数をft2、前記反射器のストップバンド下端周波数をfr1、前記反射器のストップバンド上端周波数をfr2としたとき、fr1<ft2<fr2を満たすことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の弾性表面波デバイスであって、
前記IDTの前記電極指間溝の深さよりも、前記反射器の前記導体ストリップ間溝の深さの方が浅いことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の弾性表面波デバイスであって、
前記IDTを構成する前記電極指のライン占有率ηを0.8±yとし、
前記電極指台座の厚みHdを、前記電極指の膜厚と前記電極指台座の厚みを足した厚みHで除した値をHd/Hとしたとき、前記yと前記Hd/Hとの関係が、
y=0.1825×(Hd/H)4−0.1753×(Hd/H)3+0.0726×(Hd/H)2−0.0058×(Hd/H)+0.0085
を満たすことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項6】
請求項5に記載の弾性表面波デバイスであって、
前記Hd/Hが0.167以上であることを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項7】
請求項6に記載の弾性表面波デバイスであって、
前記Hd/Hが0.3以上0.833以下であることを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の弾性表面波デバイスと、前記IDTを駆動するためのICを備えたことを特徴とする弾性表面波発振器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−88141(P2010−88141A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12062(P2010−12062)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【分割の表示】特願2008−287745(P2008−287745)の分割
【原出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【分割の表示】特願2008−287745(P2008−287745)の分割
【原出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】
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