説明

形状可変性能を有する合成樹脂成形体の製造方法および成型体

【課題】 形状可変性能を有する合成樹脂成形体の製造方法およびそれによる成型体を提供する。
【解決手段】 ポリアミド系熱可塑性樹脂粉にTi粉または酸化Ti粉の粉末を混入してなる原料により成形ペレットを作成する工程と、該成形ペレットをポリアミド系熱可塑性樹脂成形母材に10〜20vol%混入して成形原料とする工程と、該成形原料を80℃、4〜12hrs加熱乾燥する工程と、該加熱乾燥後直ちに成形温度260〜290℃、金型温度80〜120℃にて成形体の成形をする工程とを備えたことを特徴とする形状可変性能を有する合成樹脂成形体の製造方法、およびそれによる眼鏡フレーム、身体障害者用スプーンまたは製靴用型。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、形状可変性能を有する合成樹脂成形体の製造方法並びにその成型体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、合成樹脂による成形方法はインジェクション方式などいずれも金型を用いることを必須条件としている。従って、この金型に要する費用は合成樹脂成形対のコストに大きく影響する。また、一寸した形状の変化でも型を新規にすることが必要となるし、また眼鏡のフレームのごとくファッション性の高いものでは多くのモデルのために多くの金型を用意することが求められる。
【0003】例えば、眼鏡においては、レンズの形状、即ち球面レンズを非球面レンズに変更するだけでも、眼鏡フレームのレンズとの取り付け角度が変わり、球面角度の種類に応じてフレームの金型をある程度用意しなければならない。図3a、bは各眼鏡レンズによりフレームが変わることを示した図である。
【0004】また、身体障害者のための色々な機器、用具は、各個人により適用サイズが異なることが多く、自分に合ったサイズのものを求めればその価格が高くなり、それを避けるためには、ある程度のサイズ違いのものを我慢して使用することにもなる。例えば、手先が十分使用できない人の食事用のスプーンは、手の甲に保持部をはめ込む形のものが用意されているが、手の甲の大きさに必ずしもその個人に合ったものが用意されているわけではない。また例えば、製靴用型材は通常木型で作成されているが、若干の甲高や幅広の靴の要求に対してもそれぞれの木型を用意しなければならない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記の如く、従来金型や木型により成形されるものであって、その形状が若干変化するものに対して、それに適用する型そのものを用意するのでなく、成形された成形品そのものの形状をその変化に適用し得る範囲に修正できるものとすることが可能であれば、金型または木型の費用を削減でき、また一寸した形状の異なる成形品の在庫量を大きく削減することが可能となる。従って、成形品に若干の形状変化をあたえ得る合成樹脂成形品が強く求められている。
【0006】また、身体障害者の人たちへの利便性を高めることは、これからの福祉社会を充実させるためにも極めて重要な課題であり、一寸した使い勝手のよさを備えた機器、用具が提供されることが強く求められている。特に、三度三度の食事に使用する食事用スプーンなどにはこの要求が強い。
【0007】本発明は、これらの要求に鑑み、形状可変性能を有する合成樹脂成形体の製造方法および成型体を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の合成樹脂成形体の製造方法は、1)ポリアミド系熱可塑性樹脂粉にTi粉または酸化Ti粉の粉末を混入してなる原料により成形ペレットを作成する工程と、該成形ペレットをポリアミド系熱可塑性樹脂成形母材に10〜20vol%混入して成形原料とする工程と、該成形原料を80℃、4〜12hrs加熱乾燥する工程と、該加熱乾燥後直ちに成形温度260〜290℃、金型温度80〜120℃にて成形体の成形をする工程とを備えたことを特徴としている。
【0009】また、2)ポリアミド系熱可塑性樹脂粉にTi粉または酸化Ti粉、および、Ag粉、Cu粉の少なくとも1種の粉末を混入してなる原料により成形ペレットを作成する工程と、該成形ペレットをポリアミド系熱可塑性樹脂成形母材に10〜20vol%混入して成形原料とする工程と、該成形原料を80℃、4〜12hrs加熱乾燥する工程と、該加熱乾燥後直ちに成形温度260〜290℃、金型温度80〜120℃にて成形体の成形をする工程とを備えたことを特徴としている。
【0010】また、3)上記1)において、成形ペレットをポリアミド系熱可塑性樹脂100volに対して、平均粒度0.5〜5μmのTi粉または酸化Ti粉10〜35volを混入した原料を成形してなるものである。
【0011】また、4)上記2)において、前記成形ペレットをポリアミド系熱可塑性樹脂100volに対して、平均粒度0.5〜5μmのTi粉または酸化Ti粉10〜17vol、およびAg粉または/およびCu粉7〜15volを混入した原料を成形してなるものである。
【0012】さらに、本発明の成形体は、5)上記1)乃至4)のいずれかに記載の製造方法にて成形された、形状可変性能を有する合成樹脂成形体であり、また、6)上記5)の形状可変性能を有する合成樹脂成形体が眼鏡フレームであり、また、7)上記5)の形状可変性能を有する合成樹脂成形体が身体障害者用スプーンであり、さらにまた、8)上記5)の形状可変性能を有する合成樹脂成形体が、製靴用型材であることを特徴とする成形体である。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明は、Ti粉または酸化Ti粉、好ましくは粒度の比較的均一な粒状体である粉末をポリアミド系熱可塑性樹脂に均一に分散成形することにより、或る限度以上の変形荷重をあたえることにより所定の変形を得るものである。変形荷重の限度は、少なくとも通常その成形体に与えられる荷重の1.5倍以上を必要とする。
【0014】基本的に、本発明は、合成樹脂の機械的特性の塑性流動を利用し、所定の変形を上記のごとく通常その成形体に与えられる荷重の1.5倍以上の荷重により生じせしめ使用条件に対応した形状を得るものである。本発明の場合は、合成樹脂自身の塑性流動特性ばかりでなく合成樹脂と均一な粒状体粉末との境界分子間のスベリにより所定の塑性変形が得られるものであると考えられる。
【0015】従って、通常強化充填材(Reinforcement)として用いられる、繊維状のものでは、本発明が目的とする安定した塑性変形を期待することはできない。粒状体の形状が均一な球状であることが好ましいことは言うまでもない。
【0016】図1は、酸化Ti粉末の充填量と永久歪み10%を生じる応力の関係を示す線図の一例を示したものである。平均粒度は3μmであり、2mm×2mm断面の長さ15mmのTPにより両端自由梁として計測した。充填量2、5、10、15、20、30および50vol%とした。母材は6,12−ナイロンを使用した。
【0017】充填量は10乃至以上20%vol当たりに作業性の良好な範囲が存在する。10%以下では塑性変形し易く、また、30%を超えると硬さおよび耐力が急激に増し、実質的に必要変形を得るのに使用時の作用荷重の1.5倍を大きくオーバーし作業性が極端に低下することがわかった。
【0018】また、Ti粉に加えるFe粉、Cu粉の量は、変形効果に対してはTi粉と殆ど変わらないが、導電性は5vol以下では殆ど効果が認められず、また、20vol以上では作業性が落ちる。従って、Fe粉、Cu粉の量としては、7〜15vol程度が好ましい。
【0019】図2は、酸化Ti粉末の平均粒度と永久歪み10%を生じる応力の関係を示す線図の一例を示したものである。平均粒度を0.3、0.5、1.0、3.0、5.0および10μmを準備し、各充填量を15vol%と固定して成形した。TP寸法および母材は図2のものと同一である。
【0020】平均粒度は強度に対して敏感であり、平均粒径が大きくなると或るところから急激に低下する。これは粒子表面積の低下により粒子表面における合成樹脂との分子結合の絶対値が低下するためと考えられる。従って、10%永久歪みを与える応力の適正な値を考慮すると5μm程度を上限とすることが望ましい。また、平均粒度が0.3μmでは成形圧が増大し、作業性も急激に悪くなる。従って、0.5μm程度を下限とすることが好ましい。
【0021】[実施例1]本発明の実施例1として、各種レンズに適用する眼鏡フレームを試作した。図3は本実施例1における、各種レンズとの適用関係を示したものである。
成形体: 縁なし眼鏡用フレーム(標準非球面レンズ用鼻掛け部材1および耳掛け部材2)
成形原料:合成樹脂 6,12−ナイロン充填材 酸化Ti粉(平均粒度3μm、最終充填量15wt%)
成型条件:成型温度320℃、金型温度90℃、成型時間30秒成型前に成形原料ペレットを80℃、5時間にて加熱乾燥した。
成形個数:10組
【0022】部材1、2共、製品として表面欠陥等全くなく、非球面レンズ3への取り付けについてもいずれも支障ないものであった。
【0023】部材1、2を、球面レンズ4(画面曲率半径R=70mm、レンズ幅60mm)に取り付けるために、荷重約2Kgにて部材取り付け部角度θを90°を120°に塑性変形させた。全数変形後に10時間放置後角度を計測した結果、スプリングバックは殆ど認められなかった。
【0024】[実施例2]
成形体:障害者用スプーン(図4参照)
成形原料:合成樹脂 6,12−ナイロン充填材 Ti粉(平均粒度3μm、最終充填量20wt%)
成型条件:成型温度320℃、金型温度90℃、成型時間30秒成型前に成形原料ペレットを80℃、5時間にて加熱乾燥した。
成形個数:10組
【0025】成形後前記スプーンの保持部6A を破線6B に変形した。変形前後の変形スプーン対面角θは10°、グリップ開度は変形前LA 9mmより変形後LB 27mmに拡張した。変形荷重は約5Kg、超過歪み量は約30%であった。変形後10時間放置して対面角θおよびグリップ開度を計測した結果いずれも約2%のスプリングバック量が認められたが、実用上は全く問題にならない許容範囲であった。
【0026】[実施例3]
成形体:製靴用甲部型(図5参照)
成形原料:合成樹脂 6,12−ナイロン充填材 Ti粉+Fe粉(平均粒度0.5μmおよび3μm、最終充填量30wt%充填比率50/50)
成型条件:成型温度320℃、金型温度90℃、成型時間30秒成型前に成形原料ペレットを80℃、5時間にて加熱乾燥した。
成形個数:各4個変形量:靴幅STD+10%増
【0027】靴幅STDの型2個(A)については、型の上に裁断皮革を被せハンマーにより標準成形品に成形作業をし、その成形作業を10回行い、10回成形作業前後における幅寸法の変化を計測した。また、他の靴幅STDの型2個(B)については、変形量10%をプレスによる強制拡張により与えて試料とした。この試料により前記と同様の皮革の標準成形作業をし、10回成形作業前後における幅寸法の変化を計測した。
【0028】平均粒度0.5μmを使用した型は、靴幅9A 、9B 共皮革成型作業前後の幅寸法変化は2%以内であり十分実用に耐える範囲と判断された。しかし、平均粒度3μmのものは、皮革成型作業前後の幅寸法変化が大きくなり実用的に好ましくないことがわかった。特に変形量:靴幅STD+10%増を与えたBについては、皮革成型作業3回にして既に5%以上の寸法戻りが生じており、変形を付与する実用には適さないことがわかった。
【0029】本発明は、Ti粉または酸化Ti粉、および、Ag粉、Cu粉を使用することにより、主たる要旨とする形状可変性能を有する合成樹脂成形体を提供できるものであるが、その他の付帯的性能として、Ag粉、Cu粉による導電性およびそれによる電磁波の遮断効果も期待し得、また、酸化Ti粉による光触媒効果も期待し得るものである。
【0030】
【発明の効果】本発明は、1)ポリアミド系熱可塑性樹脂粉にTi粉または酸化Ti粉の粉末を混入してなる原料により成形ペレットを作成する工程と、該成形ペレットをポリアミド系熱可塑性樹脂成形母材に10〜20vol%混入して成形原料とする工程と、該成形原料を80℃、4〜12hrs加熱乾燥する工程と、該加熱乾燥後直ちに成形温度260〜290℃、金型温度80〜120℃にて成形体の成形をする工程とを備えたことにより、合成樹脂成形体に形状可変性能を付与することを可能とし、使用に適した形状変化を容易に与えることができる。
【0031】また、2)ポリアミド系熱可塑性樹脂粉にTi粉または酸化Ti粉、および、Ag粉、Cu粉の少なくとも1種の粉末を混入してなる原料により成形ペレットを作成する工程と、該成形ペレットをポリアミド系熱可塑性樹脂成形母材に10〜20vol%混入して成形原料とする工程と、該成形原料を80℃、4〜12hrs加熱乾燥する工程と、該加熱乾燥後直ちに成形温度260〜290℃、金型温度80〜120℃にて成形体の成形をする工程とを備えたことにより、合成樹脂成形体に形状可変性能を付与するばかりでなく、光触媒性能および電磁波遮断性能を与えることを可能とした。
【0032】さらに、3)上記1)における成形ペレットをポリアミド系熱可塑性樹脂100volに対して、平均粒度0.5〜5μmのTi粉または酸化Ti粉10〜35volを混入した原料を成形してなるものとすることにより、合成樹脂成形体に安定した形状可変性能を付与することを可能とし、使用に十分適した形状変化を容易に与えることができる。
【0033】4)上記2)における成形ペレットをポリアミド系熱可塑性樹脂100volに対して、平均粒度0.5〜5μmのTi粉または酸化Ti粉10〜17vol、およびAg粉または/およびCu粉7〜15volを混入した原料を成形してなるものとすることにより、合成樹脂成形体に安定した形状可変性能と電磁波遮断性能および光触媒性能を与えることを可能とした。
【0034】また本発明は、5)上記1)乃至4)のいずれかに記載の製造方法にて成形された、合成樹脂成形体により若干形状の異なる各種金型費用を削減し、形状の若干の差を有する多種の製品在庫をセーブすることができる。
【0035】6)上記5)における合成樹脂成形体を眼鏡フレームとすることにより、各種レンズに即応可能とし、フレーム成形金型数を削減し、形状の若干の差を有する多種の眼鏡フレームの在庫量を大幅に削減することができる。
【0036】7) 上記5)における合成樹脂成形体を身体障害者用スプーンとすることにより、個人の使用条件に合ったスプーンを提供することができ、快適な食事を期待することができる。
【0037】さらに、8)上記5)における合成樹脂成形体を製靴用型とするこにより、個人の仕様に合った靴の製作納期を大幅に短縮することができ、コストも削減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の酸化Ti粉末の充填量と永久歪み10%を生じる応力の関係の1例を示す線図である。
【図2】 本発明の酸化Ti粉末の平均粒度と永久歪み10%を生じる応力の関係の1例を示す線図である。
【図3】 本発明の実施の形態1における眼鏡フレームの変態形状をを示す略図である。
【図4】 本発明の実施の形態2の身障者用スプーンを示す略図である。
【図5】 本発明の実施の形態3の製靴用型を示す略図である。
【符号の説明】
A 変形前形状、B 変形後形状、θ 部材取り付け部角度、1 眼鏡フレーム鼻掛け部材、2眼鏡フレーム耳掛け部材、3 非球面レンズ、4 球面レンズ、5 障害者用スプーン、6 スプーン把止部、7 グリップ開度、8 製靴用甲部型、9 靴幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリアミド系熱可塑性樹脂粉にTi粉または酸化Ti粉の粉末を混入してなる原料により成形ペレットを作成する工程と、該成形ペレットをポリアミド系熱可塑性樹脂成形母材に10〜20vol%混入して成形原料とする工程と、該成形原料を80℃、4〜12hrs加熱乾燥する工程と、該加熱乾燥後直ちに成形温度260〜290℃、金型温度80〜120℃にて成形体の成形をする工程とを備えたことを特徴とする形状可変性能を有する合成樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】 ポリアミド系熱可塑性樹脂粉にTi粉または酸化Ti粉、および、Ag粉、Cu粉の少なくとも1種の粉末を混入してなる原料により成形ペレットを作成する工程と、該成形ペレットをポリアミド系熱可塑性樹脂成形母材に10〜20vol%混入して成形原料とする工程と、該成形原料を80℃、4〜12hrs加熱乾燥する工程と、該加熱乾燥後直ちに成形温度260〜290℃、金型温度80〜120℃にて成形体の成形をする工程とを備えたことを特徴とする形状可変性能を有する合成樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】 前記成形ペレットが、ポリアミド系熱可塑性樹脂100volに対して、平均粒度0.5〜5μmのTi粉または酸化Ti粉10〜35volを混入した原料を成形してなるものであることを特徴とする請求項1に記載の形状可変性能を有する合成樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】 前記成形ペレットが、ポリアミド系熱可塑性樹脂100volに対して、平均粒度0.5〜5μmのTi粉または酸化Ti粉10〜17vol、およびAg粉または/およびCu粉7〜15volを混入した原料を成形してなるものであることを特徴とする請求項2に記載の形状可変性能を有する合成樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】 請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法にて成形された、形状可変性能を有する合成樹脂成形体である成形体。
【請求項6】 前記形状可変性能を有する合成樹脂成形体が、眼鏡フレームであることを特徴とする請求項5に記載の成形体。
【請求項7】 前記形状可変性能を有する合成樹脂成形体が、身体障害者用スプーンであることを特徴とする請求項5に記載の成形体。
【請求項8】 前記形状可変性能を有する合成樹脂成形体が、製靴用型材であることを特徴とする請求項5に記載の成形体。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2003−211482(P2003−211482A)
【公開日】平成15年7月29日(2003.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−18223(P2002−18223)
【出願日】平成14年1月28日(2002.1.28)
【出願人】(390013985)長谷川眼鏡株式会社 (9)
【Fターム(参考)】