説明

形状測定プローブ

【課題】接触子の押し付け力を原子間力に相当する微小力(例えば30mgf以下)に設定でき、被測定物の傷を防止し、面粗さ等の微細な形状測定ができ、測定面のうねりに追従でき、プローブのオーバーランによる接触子等の損傷を防止できる形状測定プローブを提供する。
【解決手段】被測定物の上面に沿って移動可能なプローブ本体10と、下端に設けられた接触子12aと接触子から上方に鉛直に延びる円筒形中間軸12bとその上端に設けられ中間軸より最大径が大きい鍔部12cとを有するスタイラス12と、プローブ本体の下端に取り付けられスタイラス12を鉛直にのみ移動可能にガイドするスタイラスホルダ14と、スタイラスホルダの上面と鍔部の下面の間に挟持され鍔部を上方に付勢する円板状の自重軽減バネ16と、プローブ本体に取り付けられ鍔部上面の変位を検出する位置検出センサ18(レーザーセンサ)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触子の変位により被測定物の形状を測定する形状測定プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
形状測定プローブは、被測定物に接触する接触子を有し、接触子の変位により被測定物の形状を測定する装置である。
かかる形状測定プローブとして、従来から種々の構造のものが提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
特許文献1は、被測定物および接触検知部の損傷を従来に比べて非常に小さくすることを目的とする。
そのため、このタッチ信号プローブは、図9に示すように、保持部材51に相対移動可能に保持された可動部材52をスタイラス50側に付勢するコイルばね53と、反付勢方向に移動させる励磁コイル54、固定ヨーク55、アーマチャ56とを設ける。スタイラス50が被測定物に接触すると信号処理部57、駆動制御部58により励磁コイル55に電流が供給され、その磁気吸引力で可動部材52は被測定物から離れる反付勢方向に移動して逃げ動作が行われる。これにより、接触検知部と被測定物とが接触している時間は非常に短くなり、接触による損傷が軽減されるものである。
なおこの図で、59は制御装置、60は駆動装置である。
【0004】
特許文献2は、電気信号の減衰を防止すると共に、安定した電気信号を取り出し、さらに小形化することを目的とする。
そのため、この測定用プローブ61は、図10に示すように、導電性を有する金属であって、探針部66とV溝(螺旋溝)63により形成した螺旋バネ65とを有するブロック62からなり、V溝63は、V溝の頂点64が内側面67上に存し、螺旋バネ65は、探針部66を中心としてV溝の頂点64を介し螺旋状に接触している。探針部66が被測定物に接触・加圧して被測定物の電気信号を取り出す際、加圧方向と平行な垂直面68は、傾斜端部69と離れることなく傾斜端部69上を摺動し、垂直面68のF方向の長さを螺旋バネ65のストロークとしてその接触を維持する。また、取り出された被測定物の電気信号は、螺旋バネ65を螺旋状に流れることなく、互いに接触する螺旋バネ65を通って加圧方向に直接流れるものである。
【0005】
特許文献3は、被測定物表面に対する負荷を小さくすることを目的とする。
そのため、この接触プローブは、図11に示すように、被測定物表面に当接する接触部71を先端に有する測定子70と、測定子70の変位を検出する検出センサと、測定子70の軸方向とは略直交して配置された弾性体のプレートであって測定子70の基端側を支持する支持プレート72と、測定子70を変位させるスタイラス変位手段73とを備える。スタイラス変位手段73は、支持プレート72に応力を付与してそれぞれの点における支持プレート72の弾性変形量を変化させるアクチュエータ73〜76を備えている。
なおこの図で、77は反射ミラー、78は照明光学系、79は光センサである。
【0006】
また、形状測定プローブと同様に、試料表面の形状を得る装置として、探針と試料に作用する原子間力を検出する原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)が知られている。原子間力顕微鏡は、図12に示すように、探針81が片持ちバネ82(カンチレバー)の先端に取り付けられており、カンチレバー82のたわみは、半導体レーザー83をカンチレバー背面に照射し、反射したレーザー光を位置センサ84で検出するようになっている。また、カンチレバー82および試料85の位置変更は、圧電アクチュエータ86の圧電効果による変形を利用して制御している。
なおこの図で、87はXY駆動回路、88はフィードバック回路、89は制御装置である。
【0007】
【特許文献1】特開2001−336921号公報、「タッチ信号プローブ」
【特許文献2】特開2003−248018号公報、「測定用プローブ、及び該測定用プローブの製造方法」
【特許文献3】特開2007−205998号公報、「接触プローブおよび形状測定装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のタッチ信号プローブは、スタイラス50が被測定物に接触すると磁気吸引力で可動部材52が被測定物から離れる反付勢方向に移動して逃げ動作が行われるので、接触子の変位により被測定物の形状を測定する形状測定プローブとして用いることはできない。
【0009】
特許文献2の測定用プローブは、探針部66が被測定物に接触・加圧して被測定物の電気信号を取り出すことはできるが、探針部の変位を検出できないため、形状測定プローブとして用いることはできない。
【0010】
特許文献3の接触プローブは、測定子70の基端側が支持プレート72に固定されているので測定子70の変位抵抗が大きく、かつ測定子が3次元的に変位するので軸方向成分の検出が困難であり、測定子の許容変位量が小さいのでプローブのオーバーランにより測定子や支持プレートが損傷しやすい問題点があった。
また、一般的に従来の形状測定プローブは、最小検出力が大きく(例えば50mgf以上)、測定子先端を鋭くすると面圧が高すぎて被測定物に傷を付けるため、面粗さ等の微細な形状測定はできなかった。
【0011】
一方、原子間力顕微鏡は、カンチレバー82の押し付け力が原子間力に相当する微小力(例えば30mgf以下)であり、測定子81の先端を鋭くしても面圧が低いため、被測定物85に傷を付けず、面粗さ等の微細な形状測定はできる特徴がある。
しかし、原子間力顕微鏡は、カンチレバー82の許容ストロークが小さい(例えば20μm以下)ため、被測定物85の表面の起伏(うねり)が大きいと測定できない問題点があった。
【0012】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、(1)接触子の押し付け力を原子間力に相当する微小力(例えば30mgf以下)に設定でき、これにより被測定物の傷を防止し、面粗さ等の微細な形状測定ができ、(2)接触子の許容ストロークが大きく、測定面のうねりに追従でき、(3)プローブのオーバーランによる接触子等の損傷を防止でき、(4)接触子等の可動部分の重量が微小であり高速測定に対する追従性が高い形状測定プローブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、被測定物の上面に沿って移動可能なプローブ本体と、
下端が被測定物の上面に接触する接触子と、該接触子から上方に鉛直に延びる円筒形の中間軸と、該中間軸の上端に設けられ中間軸より最大径が大きい鍔部とを有するスタイラスと、
前記プローブ本体の下端に取り付けられ、前記スタイラスを鉛直方向に移動可能に案内するスタイラスホルダと、
該スタイラスホルダの上面と前記鍔部の下面の間に挟持され、前記鍔部を上方に付勢する円板状の自重軽減バネと、
前記プローブ本体に取り付けられ、前記鍔部上面の変位を検出する位置検出センサと、を備えたことを特徴とする形状測定プローブが提供される。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記自重軽減バネは、前記スタイラスホルダの上面に接触する外周部と、前記スタイラスの中間軸を通す中心穴を有し前記鍔部の下面に接触する内周部と、内端が内周部に一体的に連結され螺旋状に外方に延び外端が外周部に一体的に連結された同心かつ周方向に等間隔の3条以上の螺旋形バネ部とからなる。
【0015】
また前記自重軽減バネは、前記内周部と外周部の間に設けられ、その間を螺旋状に外方に延びる3条以上の同心の螺旋形貫通溝を有する。
【0016】
また前記自重軽減バネは、内周部が外周部と同一高さに位置するときに接触子に作用する下向きの力がスタイラスの自重より小さい所定の力となるように、内周部が外周部に対し、スタイラスの軸方向上方にオフセットしてフォーミングされている。
【0017】
また、前記プローブ本体に取り付けられ、前記鍔部の上方に所定の間隔を隔てて位置するスタイラスストッパを有する。
【0018】
また本発明の好ましい別の実施形態によれば、さらに、前記プローブ本体と前記鍔部の上面の間に挟持され、前記鍔部を下方に付勢する円板状の位置復帰バネを備え、
該位置復帰バネは前記プローブ本体に固定された外周部と、前記鍔部上面の中心部に相当する中心穴を有し前記鍔部上面の外周部に接触する内周部と、内端が内周部に一体的に連結され螺旋状に外方に延び外端が外周部に一体的に連結された同心かつ周方向に等間隔の3条以上の螺旋形バネ部とからなる。
【発明の効果】
【0019】
上記本発明の構成によれば、プローブ本体の下端に取り付けられたスタイラスホルダにより、スタイラスを鉛直方向に移動可能に案内するので、位置検出センサ(例えばレーザーセンサ)により鍔部上面の変位からスタイラスの軸方向変位を精密に測定することができる。
【0020】
また、スタイラスホルダの上面とスタイラスの鍔部下面の間に挟持された円板状の自重軽減バネにより、スタイラスの鍔部を上方に付勢するので、接触子の押し付け力を原子間力に相当する微小力(例えば30mgf以下)に設定でき、これにより被測定物の傷を防止し、面粗さ等の微細な形状測定ができる。
特に、本発明の好ましい実施形態によれば、前記鍔部の下面に接触する内周部は、同心かつ周方向に等間隔の3条以上の螺旋形バネ部で上方に付勢されているので、スタイラスを鉛直方向にスムースに移動することができる。
【0021】
また、スタイラスはスタイラスホルダにより鉛直方向に移動可能に案内されており、スタイラスストッパに上面が接触するまで1mm(1000μm)以上自由に上昇でき、かつスタイラスに作用する軸力は自重以上にはならないので、接触子の許容ストロークが大きく、測定面のうねりに追従でき、プローブのオーバーランによる接触子等の損傷を防止できる。
【0022】
また、可動部分は、スタイラスと自重軽減バネのみであり、スタイラスの自重は任意に小さくでき(例えば100mgf以下)、自重軽減バネの可動部分は細い螺旋形バネ部(例えば幅0.2mm、厚さ0.05mm)からなるので、可動部分の重量が微小であり高速測定に対する追従性を高くできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0024】
図1は、本発明による第1実施形態の形状測定プローブの正面図(A)と側面図(B)である。なお、図1(A)(B)は、一部を断面で示している。
【0025】
この図において、本発明の形状測定プローブは、プローブ本体10、スタイラス12、スタイラスホルダ14、自重軽減バネ16および位置検出センサ18を備える。
【0026】
プローブ本体10は、例えば3次元的に移動可能な移動ヘッド(図示せず)に固定され、スタイラス12の軸線Z−Zを鉛直に保持しながら被測定物(図示せず)の上面に沿って移動可能に構成されている。プローブ本体10の3次元座標上の位置は、面粗さ等の微細な形状測定の精度より十分高い精度(例えば、分解能:0.1μm以下)で検出できるようになっている。
位置検出センサ18は、この例では反射式のレーザーセンサであり、プローブ本体10に取り付けられ、スタイラス12の上面の変位を非接触で検出するようになっている。
なお位置検出センサ18はレーザーセンサに限定されず、スタイラス12の上面の変位を高精度(例えば、分解能:0.1μm以下)で検出できる限りで、その他の位置検出センサであってもよい。
【0027】
図2は、図1(A)のA部拡大図(A)とその要部拡大図(B)である。
この図に示すように、スタイラス12は、接触子12a、中間軸12bおよび鍔部12cを有する。
接触子12aは、スタイラス12の下端に設けられ、先端(下端)がテーパー状に細く形成され、下端が被測定物の上面に接触するようになっている。さらにこの例では、先端(下端)に直径0.25mmのルビー球(図示せず)が取り付けられている。
なお本発明はこの構成に限定されず、面粗さ等の微細な形状測定の場合には、先端(下端)の形状を直径2〜4μm以下に設定するのがよい。
【0028】
中間軸12bは、円筒形の棒状部材であり、接触子12aの上端から上方に鉛直に延びる。
鍔部12cは、中間軸12bの上端に設けられ、中間軸より最大径が大きく形成されている。鍔部12cは、この例では円柱形状であり、その上面13aとその下面13bはスタイラス12の軸線Z−Zに直交する平面に形成されている。
【0029】
さらにこの例において、鍔部12cの上面13aは、鏡面に仕上げられ、或いはDLC,金、銀等が蒸着され、位置検出センサ18(この例では反射式のレーザーセンサ)からのレーザーの反射率を高めている。
【0030】
図2において、スタイラスホルダ14は、中心に貫通ガイド穴14aを有する接頭円錐形部材であり、プローブ本体10の下端にボルト15a等で取り付けられ、貫通ガイド穴14aの内面でスタイラス12の中間軸12bを鉛直方向に移動可能に案内している。
貫通ガイド穴14aと中間軸12bの隙間は、スタイラス12がスムースに上下動できる限りで、小さく設定するのがよい。また、貫通ガイド穴14aと中間軸12bの摺動抵抗を低減するために、一方又は両方の表面に潤滑性のあるコーティングをするのがよい。
【0031】
また、この例において、本発明の形状測定プローブは、さらにスタイラスストッパ20を有する。スタイラスストッパ20は、プローブ本体10のスタイラスホルダ14より上部に取り付けられ、その下面20aが、鍔部12cの上面13aから上方に所定の間隔を隔てて位置する。この所定の間隔は、プローブのオーバーラン(例えば0.1〜0.2mmよりも十分大きく、例えば1mm以上に、設定するのがよい。
スタイラスストッパ20は、この例では、位置検出センサ18(反射式のレーザーセンサ)のレーザー光が通過する接頭円錐形の開口20bと、スタイラスストッパ20をボルト15bでプローブ本体10に固定するためのボルト穴20cとを有する。
【0032】
図3は、図2(B)の分解図である。この図において、自重軽減バネ16は円板状のバネであり、スタイラスホルダ14の上面とスタイラス12の鍔部下面13bの間に挟持され、鍔部12cを上方に付勢する。
【0033】
図4は、図3のA−A矢視図(A)とその要部拡大図(B)である。
図4(A)に示すように、自重軽減バネ16は、外周部16a、内周部16bおよび螺旋形バネ部16cからなる一体の平板である。
【0034】
外周部16aは、リング状平板であり、この例ではスタイラスホルダ14の上面とプローブ本体10の下端との間に挟持されて、スタイラスホルダ14の上面に常時接触する。この外周部16aには、ボルト15aが貫通する貫通穴17aと図示しない位置決めピンが貫通する貫通穴17bが設けられている。
内周部16bは、外周部16aの内側に位置するリング状平板であり、スタイラス12の中間軸12bを通す中心穴16dを有し、スタイラス12の鍔部下面13bに内縁部が接触する。
螺旋形バネ部16cは、3条以上(この例では3条)の同心かつ周方向に等間隔の螺旋形部材からなり、それぞれの内端が内周部16bに一体的に連結され、中間部分が螺旋状に外方に延び、それぞれの外端が外周部16aに一体的に連結されている。
【0035】
図4(B)の例において、3条の同心の螺旋形バネ部16cは、互いに120°ずつ周方向にずらされている。また、この図において、太い螺旋部分19は、3条の同心の螺旋形バネ部16cの間に設けられた貫通溝である。すなわち、自重軽減バネ16は、内周部16bと外周部16aの間にその間を螺旋状に外方に延びる3条以上の同心かつ周方向に等間隔の螺旋形貫通溝19を有し、その溝の間が螺旋形バネ部16cとなっている。
【0036】
上述した自重軽減バネ16は、平滑な金属板の表面にフォトレジストを塗布し、3条以上の同心の螺旋形貫通溝17に相当するフォトマスクを重ねて露光し現像して螺旋形貫通溝17に相当する箇所のみにフォトレジストを残し、金属板の表面にNi,Au等の金属をメッキし、これを金属板の表面から分離することにより、精密に製造することができる。以下、この製法を「メッキ製法」と呼ぶ。
なお、本発明はこの製法に限定されず、所定の厚さの金属板に、フォトエッチング等により3条以上の同心かつ周方向に等間隔の螺旋形貫通溝17を形成してもよい。
【0037】
さらにこの例において、自重軽減バネ16は、内周部16cが外周部16aに対し、スタイラス12の軸方向上方にオフセットしてフォーミングされている。このフォーミングは、内周部16cが外周部16aと同一高さに位置するときに、接触子12aに作用する下向きの力がスタイラス12の自重より小さい所定の力となるように設定されている。なお、このフォーミングの際に、焼きなまし、焼入れを実施するのが好ましい。
【0038】
例えば、スタイラス12の自重が170mgfである場合、内周部16cを外周部16aに対し、スタイラス12の軸方向上方にオフセットさせて熱処理し、内周部16cが外周部16aと同一高さに位置するときに、接触子12aに作用する上向きの力が140mgfとなるように設定する。
この設定により、内周部16cが外周部16aと同一高さに位置するときに、接触子12aに作用する下向きの力は、自重とバネ力の差の30mgfとなる。
【実施例1】
【0039】
図5は、実際に製作した第1実施形態の自重軽減バネの特性図である。この図において横軸は変位、縦軸は軸方向力であり、(A)は最大変位約70μmまで、(B)は最大変位約3.5mmまでを示している。また、各図において、図中の○は実験データである。
なお、変位は、図1の装置に組み込んだ状態で、接触子12aが被測定物と接触していない位置を0(原点)としている。また、軸方向力とは、接触子12aに作用する軸方向上向きの力である。
この自重軽減バネ16は、上述したメッキ製法により、厚さ0.049mmのNiで製作したものである。またこの例において、螺旋形バネ部16cの外径は10mm、螺旋形バネ部16cの幅は0.2mm、螺旋形貫通溝17の幅は0.2mmであった。
【0040】
図5(A)(B)から、軸方向力y[gf]は変位x[mm]に対し、変位が0から約3.5mmまでの範囲において正確に比例しており、式(1)の関係がある。すなわち、この範囲で自重軽減バネのバネ定数kは正確に一定値0.2762であった。
y=0.2762x+0.0304・・・(1)
【0041】
また図5(A)において、接触子12aが被測定物と接触しない自由位置において、自重軽減バネ16の内周部16cが外周部16aと同一高さに位置するとき(図1の装置に組み込んだ状態)において、接触子12aに作用する下向きの力は、自重とバネ力の差の30mgfである。
次いで、被測定物の上面に接触子12aが接触し、自由位置からスタイラス12が上方に変位すると、位置検出センサ18により鍔部上面13aの変位が検出される。このとき接触子12aに作用する下向きの力は、30mgfから変位量に比例して増加し、例えば所望の最大変位が50μmの場合、軸方向力は約44mgfとなる。
さらに、所望の最大変位(例えば50μm)を超えても、位置検出センサ18により鍔部上面13aの変位を検出することができる。
【0042】
なお、図5(B)から、約500μmに変位において、軸方向力が自重(例えば170mgf)を超えるため、それ以上の変位では、接触子12aに作用する下向きの力は自重のみとなる。従って、約500μmの変位を超えても、変位検出はできるが接触子12aには自重以上の力が作用しないことがわかる。
【0043】
上述した本発明の構成によれば、プローブ本体10の下端に取り付けられたスタイラスホルダ14により、スタイラス12を鉛直方向に移動可能に案内するので、位置検出センサ18(例えばレーザーセンサ)により鍔部上面13aの変位からスタイラス12の軸方向変位を精密に測定することができる。
【0044】
また、スタイラスホルダ14の上面とスタイラス12の鍔部下面13bの間に挟持された円板状の自重軽減バネ16により、スタイラス12の鍔部12cを上方に付勢するので、接触子12aの押し付け力を原子間力に相当する微小力(例えば30mgf以下)に設定でき、これにより被測定物の傷を防止し、面粗さ等の微細な形状測定ができる。
特に、上記実施形態によれば、鍔部12cの下面13bに接触する内周部16bは、同心かつ周方向に等間隔の3条以上の螺旋形バネ部16cで上方に付勢されているので、スタイラス12を鉛直方向にスムースに移動することができる。
【0045】
また、スタイラス12はスタイラスホルダ14により鉛直方向に移動可能に案内されており、スタイラスストッパ20に上面が接触するまで1mm(1000μm)以上自由に上昇でき、かつスタイラス12に作用する軸力は自重以上にはならないので、接触子12aの許容ストロークが大きく、測定面のうねりに追従でき、プローブのオーバーランによる接触子等の損傷を防止できる。
【0046】
また、可動部分は、スタイラス12と自重軽減バネ16のみであり、スタイラス12の自重は任意に小さくでき(例えば100mgf以下)、自重軽減バネ16の可動部分は細い螺旋形バネ部16c(例えば幅0.2mm、厚さ0.05mm)からなるので、可動部分の重量が微小であり高速測定に対する追従性を高くできる。
【0047】
図6は、本発明による第2実施形態の形状測定プローブの要部拡大図である。
この例において、本発明の形状測定プローブは、さらに、プローブ本体10と鍔部上面13aの間に挟持され、鍔部12cを下方に付勢する円板状の位置復帰バネ22を備える。
この位置復帰バネ22は、上述した自重軽減バネ16と実質的に同一形状であり、外周部、内周部、および螺旋形バネ部からなる。
位置復帰バネ22の外周部は、自重軽減バネ16の外周部と実質的に同一形状であるが、この例では、スタイラスストッパ20とプローブ本体10の間に挟持されてプローブ本体10に固定される。
位置復帰バネ22の内周部は、自重軽減バネ16の内周部と実質的に同一形状であるが、この例では、位置検出センサ18による検出面に相当する中心穴を有し、鍔部上面13aに接触する。
位置復帰バネ22の螺旋形バネ部は、自重軽減バネ16の螺旋形バネ部と実質的に同一形状であるが、この例では、内周部が外周部に対し、スタイラス12の軸方向下方にオフセットしてフォーミングされている。
また、この例において、自重軽減バネ16の内周部16cの軸方向上方へのオフセット量は、第1実施形態より大きく、スタイラス12の自重を支持した状態で、鍔部12cは自重軽減バネ16と位置復帰バネ22の間に挟持された状態となる。
なお、自重軽減バネ16と位置復帰バネ22のバネ定数とオフセット量は、同一でも異なっていてもよい。
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0048】
上述した構成により、図6において、接触子12aが被測定物と接触しない自由位置において、鍔部12cが自重軽減バネ16と位置復帰バネ22の間に挟持されて釣り合っているので、接触子12aに作用する下向きの力は、皆無(ゼロ)である。
次いで、被測定物の上面に接触子12aが接触し、自由位置からスタイラス12が上方に変位すると、位置検出センサ18により鍔部上面の変位が検出される。このとき接触子12aに作用する下向きの力は、自重軽減バネ16の伸びと位置復帰バネ22の縮みで決まる軸方向力となる。従って、自重軽減バネ16と位置復帰バネ22のバネ定数とオフセット量の設定により、所望の測定範囲(例えば、最大変位50μm)において、軸方向力の最大値を30mgf以下に設定することができる。
さらに、所望の最大変位を超えても、位置検出センサ18により鍔部上面の変位を検出することができる。
【0049】
図6の第2実施形態の形状測定プローブは、接触子12aが被測定物と接触しない自由位置において、鍔部12cが自重軽減バネ16と位置復帰バネ22の間に挟持されているので、スタイラス12の軸線Z−Zを鉛直以外の向き(水平または斜め)にしても同様に使用することができる。
なお、第2実施形態の形状測定プローブでは、変位が大きくなると位置復帰バネ22の復帰力が大きくなるが、その分、応答特性も高めることができる。
その他の効果は、第1実施形態と同様である。
【実施例2】
【0050】
図7は、第2実施形態の自重軽減バネの平面図(A)とその要部拡大図(B)である。
この自重軽減バネ16は、上述したメッキ製法により、厚さ0.048mmのNiで製作したものである。またこの例において、螺旋形バネ部16cの外径は10mm、螺旋形バネ部16cの幅は0.3mm、螺旋形貫通溝17の幅は0.05mmであった。
その他の構成は、第1実施形態の自重軽減バネと同様である。
【0051】
図8は、第2実施形態の自重軽減バネの特性図である。この図において横軸は変位、縦軸は軸方向力であり、(A)は最大変位約55μmまで、(B)は最大変位約5.5mmまでを示している。また、各図において、図中の○は実験データである。
なお、変位は、図1の装置に組み込んだ状態で、接触子12aが被測定物と接触していない位置を0(原点)としている。また、軸方向力とは、接触子12aに作用する軸方向上向きの力である。
図8(A)(B)から、軸方向力y[gf]は変位x[mm]に対し、変位が0から約5.5mmまでの範囲において正確に比例しており、式(1)の関係がある。すなわち、この範囲で自重軽減バネのバネ定数kは正確に一定値0.2149であった。
y=0.2149x+0.0343・・・(1)
その他の構成および効果は、第1実施形態と同様である。
【0052】
なお、自重軽減バネ16の構成は、上述した実施形態に限定されず、螺旋形バネ部の条数が3以上である限りで、螺旋形バネ部16cの外径、螺旋形バネ部16cの幅、および螺旋形貫通溝17の幅を自由に設定することができる。
従って、この設定により自重軽減バネのバネ定数kを上述した実施形態より小さい値(例えば、0.1以下)に設定することができる。
また、変位x[mm]が0のときの軸方向力y[gf]は、上述した実施形態では、図1の装置に組み込んだ状態で、30mgfを目標として製作したが、上述したフォーミングによりこの値を任意の値(例えば、0mgf)に設定することもできる。
【0053】
上述したように、本発明の形状測定プローブは、(1)接触子の押し付け力を原子間力に相当する微小力(例えば30mgf以下)に設定でき、これにより被測定物の傷を防止し、面粗さ等の微細な形状測定ができ、(2)接触子の許容ストロークが大きく、測定面のうねりに追従でき、(3)プローブのオーバーランによる接触子等の損傷を防止でき、(4)接触子等の可動部分の重量が微小であり高速測定に対する追従性が高い、等の優れた効果が得られる。
【0054】
なお、本発明は上述した実施例及び実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明による第1実施形態の形状測定プローブの正面図(A)と側面図(B)である。
【図2】図1(A)のA部拡大図(A)とその要部拡大図(B)である。
【図3】図2(B)の分解図である。
【図4】図3のA−A矢視図(A)とその要部拡大図(B)である。
【図5】第1実施形態の自重軽減バネの特性図である。
【図6】本発明による第2実施形態の形状測定プローブの要部拡大図である。
【図7】第2実施形態の自重軽減バネの平面図(A)とその要部拡大図(B)である。
【図8】第2実施形態の自重軽減バネの特性図である。
【図9】特許文献1のタッチ信号プローブの模式図である。
【図10】特許文献2の測定用プローブの模式図である。
【図11】特許文献3の接触プローブの模式図である。
【図12】原子間力顕微鏡の模式図である。
【符号の説明】
【0056】
10 プローブ本体、12 スタイラス、
12a 接触子、12b 中間軸、12c 鍔部、
13a 上面、13b 下面、
14 スタイラスホルダ、14a 貫通ガイド穴、
15a、15b ボルト、
16 自重軽減バネ、
16a 外周部、16b 内周部、16c 螺旋形バネ部、
17a,17b 貫通穴、
18 位置検出センサ(レーザーセンサ)、
19 螺旋形貫通溝、20 スタイラスストッパ、
20a 下面、20b 開口、20c ボルト穴、
22 位置復帰バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の上面に沿って移動可能なプローブ本体と、
下端が被測定物の上面に接触する接触子と、該接触子から上方に鉛直に延びる円筒形の中間軸と、該中間軸の上端に設けられ中間軸より最大径が大きい鍔部とを有するスタイラスと、
前記プローブ本体の下端に取り付けられ、前記スタイラスを鉛直方向に移動可能に案内するスタイラスホルダと、
該スタイラスホルダの上面と前記鍔部の下面の間に挟持され、前記鍔部を上方に付勢する円板状の自重軽減バネと、
前記プローブ本体に取り付けられ、前記鍔部上面の変位を検出する位置検出センサと、を備えたことを特徴とする形状測定プローブ。
【請求項2】
前記自重軽減バネは、前記スタイラスホルダの上面に接触する外周部と、前記スタイラスの中間軸を通す中心穴を有し前記鍔部の下面に接触する内周部と、内端が内周部に一体的に連結され螺旋状に外方に延び外端が外周部に一体的に連結された同心かつ周方向に等間隔の3条以上の螺旋形バネ部とからなる、ことを特徴とする請求項1に記載の形状測定プローブ。
【請求項3】
前記自重軽減バネは、前記内周部と外周部の間に設けられ、その間を螺旋状に外方に延びる3条以上の同心の螺旋形貫通溝を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の形状測定プローブ。
【請求項4】
前記自重軽減バネは、内周部が外周部と同一高さに位置するときに接触子に作用する下向きの力がスタイラスの自重より小さい所定の力となるように、内周部が外周部に対し、スタイラスの軸方向上方にオフセットしてフォーミングされている、ことを特徴とする請求項1に記載の形状測定プローブ。
【請求項5】
前記プローブ本体に取り付けられ、前記鍔部の上方に所定の間隔を隔てて位置するスタイラスストッパを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の形状測定プローブ。
【請求項6】
さらに、前記プローブ本体と前記鍔部の上面の間に挟持され、前記鍔部を下方に付勢する円板状の位置復帰バネを備え、
該位置復帰バネは前記プローブ本体に固定された外周部と、前記鍔部上面の中心部に相当する中心穴を有し前記鍔部上面の外周部に接触する内周部と、内端が内周部に一体的に連結され螺旋状に外方に延び外端が外周部に一体的に連結された同心かつ周方向に等間隔の3条以上の螺旋形バネ部とからなる、ことを特徴とする請求項1に記載の形状測定プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−107346(P2010−107346A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279397(P2008−279397)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(501348955)株式会社アドバンストシステムズジャパン (56)
【Fターム(参考)】