説明

感光性ポリエーテルアミド組成物、それを用いたインクンクジェット記録ヘッド及びその製造方法

【課題】インク吐出圧力発生素子が形成された基板と液路形成部材との密着力を高め、信頼性の高いインクジェット記録ヘッドを安価に提供する。
【解決手段】少なくとも、(a)下記一般式I(Yは感光基を示す。)で示される繰り返し単位を有するポリマーと、(b)光重合開始剤、光架橋剤及び増感剤の少なくとも1つとを含むことを特徴とする感光性ポリエーテルアミド組成物をからなる密着層を介して、液路形成部材を基板に接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐薬品性が良好な感光性ポリエーテルアミド、及びインクを吐出して画像を形成するインクジェット記録ヘッドに関する。詳しくは、インク吐出圧力発生素子が形成された基板と、液路形成部材との密着力向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクジェット記録ヘッドの製造方法、及びインク吐出圧力発生素子が形成された基板と接合して液路を形成する液路形成部材については、さまざまな提案がなされている。
【0003】
特許文献1及び2は、インク吐出圧力発生素子が形成された基板上に感光性樹脂にて液路パターンを形成し、ガラス等の天板を接合、切断する方法を開示している。また、非特許文献1は、インク吐出圧力発生素子が形成された基板上に感光性樹脂にて液路パターンを形成し、Ni電鋳により作製したオリフィスプレートを貼り合わせる方法を開示している。また、特許文献3は、インク吐出圧力発生素子が形成された基板のインク吐出圧力発生素子上に溶解可能な樹脂にて液路パターンを形成し、該パターンをエポキシ樹脂等で被覆、硬化し、基板切断後に溶解可能な樹脂を溶出する方法を開示している。さらに、特許文献4は、特許文献3に記載のインクジェット記録ヘッドの製造で用いる被覆樹脂組成物として、芳香族エポキシ化合物のカチオン重合硬化物が有用であることを開示している。
【0004】
上記いずれの方法において、インク吐出圧力発生素子が形成された基板と液路形成部材との接合は、基本的に液路形成部材となる樹脂(感光性樹脂層又は被覆樹脂層)の密着力に依存している。
【特許文献1】特開昭57−208255号公報
【特許文献2】特開昭57−208256号公報
【特許文献3】特開昭61−154947号公報
【特許文献4】特開平3−184868号公報
【特許文献5】特開平11−348290号公報
【非特許文献1】Hewllett Packard Journal 36,5(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、インク吐出圧力発生素子として電気熱変換素子を用い、インクの膜沸騰によるバブル形成を行いインクを吐出させるいわゆるバブルジェットヘッドの場合、電気熱変換素子上には無機絶縁層と耐キャビテーション層とが設けられていることが一般的である。これは、インクによる電蝕やバブル消泡の際のキャビテーションによるダメージを低減するためである。無機絶縁層はSiNやSiO2等で形成され、耐キャビテーション層はTa等で形成される。ところが、Ta膜は前述の液路形成部材となる樹脂との密着力が極めて低いために、液路形成部材のTa膜からの剥離が見受けられることがあった。
【0006】
インク吐出圧力発生素子が形成された基板と液路形成部材との密着力を向上させるため、液路形成部材が設けられる部分のTa膜を除去することも考えられる。この場合、基板上の電気熱変換体は、前述の無機絶縁層のみを介して液路形成部材を構成する樹脂が積層されることになる。しかしながら、無機絶縁層は通常膜質がポーラスとなっていることから、樹脂中に含まれるイオンを透過させてしまい、このイオンによって電気熱変換体を腐食させてしまうことがある。また、インク吐出圧力発生素子が形成された基板と液路形成部材との密着力を向上させるために、基板にシランカップリング処理を施したり、下びき層(密着力向上及びパッシベーション層)を形成する例が知られている。下びき層は、ポリイミド(例えば、東レ社製、商品名:フォトニース)からなる。
【0007】
ここで、インクジェット記録ヘッドは、通常その使用環境下に合ってインクと常時接触しているため、インクからの影響でインク吐出圧力発生素子が形成された基板と液路形成部材との間が剥離するようなことは避けなければならない。近年、インクジェット記録に対しては、用紙選択性、耐水性等の要求が高まっており、これらの要望に対応するためにインクを弱アルカリ性側にすることが検討されている。こうした弱アルカリ性のインクに対しては、インク吐出圧力発生素子が形成された基板と液路形成部材との密着力を長期にわたり維持することが困難な場合があった。
【0008】
これに対して、特許文献5は、液路形成部材がポリエーテルアミド樹脂からなる密着層を介して前記基板に接合されているインクジェット記録ヘッドを開示している。こうすることで、アルカリ性のインクに対しても長期にわたり優れた密着力を維持することができ、また、接着面にTa等の金属面が露出している場合でも長期にわたり優れた密着力を維持することができるため、信頼性の高いインクジェット記録ヘッドとなる。しかし、この方法で用いられるポリエーテルアミド樹脂は、それ自体感光性を有していないため、マスク材を形成してドライエッチング等を行うことでパターンを形成しなければならず、工程が長くなっていた。
【0009】
本発明は、上記諸点に鑑みなされたものであって、インク吐出圧力発生素子が形成された基板と液路形成部材との密着力を高め、信頼性の高いインクジェット記録ヘッドを安価に提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明は、少なくとも、
(a)一般式I:
【0011】
【化1】

【0012】
(一般式Iにおいて、
1、R2、R3及びR4は、水素、アルコキシ基、アルキル基、塩素、又は臭素を示し、お互いに同じでも異なってもよく、
5及びR6は、水素、メチル基、プロピル基、トリフルオロメチル基、又はトリクロロメチル基を示し、お互いに同じでも異なってもよく、
7は、芳香族環を含む3価又は4価の有機基を示し、
Yは、感光基を示し、
Xは、R7とYを結合する2価の基を示し、
nは、1又は2である。)
で示される繰り返し単位を有するポリマーと、
(b)光重合開始剤、光架橋剤及び増感剤の少なくとも1つと
を含むことを特徴とする感光性ポリエーテルアミド組成物である。
【0013】
また、本発明は、インク吐出圧力発生素子が形成された基板と、液路形成部材とが接合されてなり、前記インク吐出圧力発生素子を内包する液路と、前記液路と連通する、インクを吐出するための吐出口とを有するインクジェット記録ヘッドであって、
前記液路形成部材が、前記の感光性ポリエーテルアミド組成物からなる密着層を介して、前記基板に接合されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッドである。
【0014】
また、本発明は、インク吐出圧力発生素子が形成された基板と、液路形成部材とが接合されてなり、前記インク吐出圧力発生素子を内包する液路と、前記液路と連通する、インクを吐出するための吐出口とを有するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記インク吐出圧力発生素子が形成された基板上に、前記の感光性ポリエーテルアミド組成物からなるパターニング層を形成する工程と、
前記パターニング層を形成した基板上に、溶解可能な樹脂にて液路パターンを形成する工程と、
前記液路パターンを形成した基板上に、液路を形成するための被覆樹脂層を形成する工程と、
前記インク吐出圧力発生素子の上方に位置する前記被覆樹脂層に、前記吐出口を形成する工程と、
前記液路パターンを溶出する工程と
を有することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アルカリ性のインクに対しても、長期にわたり優れた密着力を維持することができる。また、接着面にTa等の金属面が露出している場合でも、長期にわたり優れた密着力を維持することが可能となる。さらに、別途マスク材を形成することなく工程を大幅に省略できる。したがって、信頼性の高いインクジェット記録ヘッドを安価に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<感光性ポリエーテルアミド組成物>
本発明の感光性ポリエーテルアミド組成物は、少なくとも、(a)前記一般式Iで示される繰り返し単位を有するポリマーと、(b)光重合開始剤、光架橋剤及び増感剤の少なくとも1つとを含む。この感光性ポリエーテルアミド組成物は、後述するインクジェット記録ヘッドにおいて液路形成部材と基板とを接合する密着層の材料として好適である。
【0017】
一般式Iにおいて、R1、R2、R3及びR4は、水素、アルコキシ基、アルキル基、塩素、又は臭素を示し、お互いに同じでも異なってもよい。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基が挙げられる。アルコキシ基は、炭素数が1〜6の低級アルコキシ基が好ましい。アルキル基としては、例えば、エチル基、プロピル基が挙げられる。アルキル基は、炭素数が1〜6の低級アルキル基が好ましい。
【0018】
一般式Iにおいて、R5及びR6は、水素、メチル基、プロピル基、トリフルオロメチル基、又はトリクロロメチル基を示し、お互いに同じでも異なってもよい。
【0019】
一般式Iにおいて、R7は、芳香族環を含む3価又は4価の有機基を示す。芳香族環を含む3価の有機基としては、例えば、ベンゼン−1,3,5−トリイル基が挙げられる。
【0020】
一般式Iにおいて、Yは感光基を示す。感光基とは、光によって分解する基や、光によってラジカルやカチオンを発生する基を意味する。感光基としては、例えば、ジアゾ基、アジド基、シンナモイル基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基が挙げられる。
【0021】
一般式Iにおいて、Xは、R7とYを結合する2価の基を示す。この2価の基としては、例えば、メチレン基、カルボニル基、スルホニウム基等の2価の有機基、−O−、−NH−、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0022】
一般式Iにおいて、nは、1又は2である。すなわち、R7が芳香族環を含む3価の有機基の場合、nは1であり、R7が芳香族環を含む4価の有機基の場合、nは2である。nが2の場合、X及びYは、それぞれ同じでも異なってもよい。
【0023】
成分(a)としてのポリマーは、一般式Iで示される繰り返し単位を有する。一般式Iで示される繰り返し単位の繰り返し数は、50〜300が好ましい。成分(a)としてのポリマーは、一般式Iで示される繰り返し単位のみのホモポリマーでもよく、他の単位を有するコポリマーでもよい。コポリマーの場合、一般式Iで示される繰り返し単位が主成分であることが好ましく、一般式Iで示される繰り返し単位が、ポリマーを構成する繰り返し単位の90〜100モル%であることがより好ましい。
【0024】
成分(a)としてのポリマーは、通常行なわれるように、ジアミン化合物にカルボン酸無水物化合物を縮合し、その後に感光基を付加することによって得ることができる。
【0025】
成分(b)としての光重合開始剤としては、光カチオン重合開始剤や光ラジカル重合開始剤を用いることができる。
【0026】
光カチオン重合開始剤としては、例えば、芳香族ジアゾニウム塩ArN2+-、芳香族ヨードニウム塩Ar2+-、芳香族スルホニウム塩Ar3+-に代表される芳香族オニウム塩が挙げられる。Xとしては、BF4、PF6、SbF6、SnCl6、FeCl4、BiCl5、SbCl6などが用いられる。この他にも、トリアジン化合物が挙げられる。商品としては、ADEKA社製のアデカオプトマーSP−170、アデカオプトマーSP−172(いずれも商品名)など、チバガイギー社製のイルガキュア261(商品名)など、日本シーベルヘグナー社製のトリアジンA、トリアジンB、トリアジンPMS、トリアジンPP(いずれも商品名)など、ローディアジャパン社製のPhotoIniciater2704(商品名)など、が挙げられる。
【0027】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン及びベンゾフェノン化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾイン及びベンゾインエーテル化合物、アミノカルボニル化合物、チオキサントン類などのカルボニル化合物、スルフィド類、過酸化物が挙げられる。ベンゾフェノン化合物としては、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−(1,3−アクリロイル−1,4,7,10,13−ぺンタオキサトリデシル)ベンゾフェノンなどが挙げられる。アセトフェノン化合物としては、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンなどが挙げられる。ベンゾインエーテル化合物としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。アミノカルボニル化合物としては、メチル−4−(ジメチルアミノ)ベンゾエートなどが挙げられる。チオキサントン類としては、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントンなどが挙げられる。
【0028】
光重合開始剤の含有量は、成分(a)としてのポリマー100質量部に対し、1〜10質量部含有することが好ましい。
【0029】
成分(b)としての光架橋剤としては、例えば、ジアゾニウム塩やイミノキノンジアジドが挙げられる。光架橋剤の含有量は、成分(a)としてのポリマー100質量部に対し、1〜20質量部含有することが好ましい。
【0030】
成分(b)としての増感剤としては、例えば、光ラジカル重合開始剤が一般的には用いられる。例えば、アジド、ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントンなどが挙げられる。増感剤の含有量は、成分(a)としてのポリマー100質量部に対し、1〜10質量部であることが好ましい。
【0031】
本発明の感光性ポリエーテルアミド組成物は、成分(a)及び成分(b)以外に、例えば、密着性向上のために、シランカップリング剤を含んでいてもよい。
【0032】
<インクジェット記録ヘッド及びその製造方法>
本発明のインクジェット記録ヘッドは、インク吐出圧力発生素子が形成された基板と、液路形成部材とが接合されてなり、前記インク吐出圧力発生素子を内包する液路と、前記液路と連通する、インクを吐出するための吐出口とを有している。そして、前記液路形成部材が、上述の感光性ポリエーテルアミド組成物からなる密着層を介して、前記基板に接合されている。
【0033】
本発明のインクジェット記録ヘッドは、以下のように製造することができる。
【0034】
まず、インク吐出圧力発生素子2が形成された基板1を用意する(図1)。基板1としては、例えば、シリコン基板を用いることができる。インク吐出圧力発生素子2としては、例えば、電気熱変換素子、圧電素子を用いることができるが、電気熱変換素子を用いた場合に本発明を適用する効果が大きい。基板1上には、SiNやSiO2等の無機絶縁層や、Ta等の耐キャビテーション層が設けられていてもよい。なお、図2は、図1のA−A面で切断した場合の模式的断面図であり、以下の工程においても同様の模式的断面図により説明する。
【0035】
次いで、インク吐出圧力発生素子2が形成された基板1上に、上述の感光性ポリエーテルアミド組成物からなるパターニング層14を形成する。まず、上述の感光性ポリエーテルアミド組成物を適当な溶媒に溶解させた塗布液を、スピンコート法などにより基板1上に塗布し、露光及び現像により、基板1と液路形成部材とを接合する位置に、密着層となるパターニング層14を形成する。その後、必要に応じてベークを行うこともできる。パターニング層14の膜厚は、1〜3μmとすることが好ましい。
【0036】
次いで、パターニング層を形成した基板1上に、溶解可能な樹脂にて液路パターン3を形成する(図3)。液路パターン3は、後に溶出して液路となる部分である。溶解可能な樹脂としては、例えば、ポリメチルイソプロペニルケトンを用いることができる。液路パターン3は、基板1上に溶解可能な樹脂の層を形成し、その層をパターニングすることで形成することができる。液路パターン3の膜厚は、10〜30μmとすることが好ましい。
【0037】
次いで、液路パターン3を形成した基板1上に、液路形成部材を形成するための被覆樹脂層5を形成する(図4)。液路形成部材となる被覆樹脂層5は、樹脂により形成されていることが好ましく、エポキシ樹脂のカチオン重合化合物により形成されていることがより好ましい。
【0038】
エポキシ樹脂としては、例えば、カチオンに対して活性が高い脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。脂環式エポキシ樹脂としては、少なくとも1個の脂環式環を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル、又はシクロヘキセン若しくはシクロペンテン環含有化合物を酸化剤でエポキシ化することによって得られるシクロヘキセンオキサイド構造含有化合物若しくはシクロペンテンオキサイド構造含有化合物、又はビニルシクロヘキサン構造を有する化合物を酸化剤でエポキシ化することによって得られるビニルシクロヘキサンオキサイド構造含有化合物が挙げられる。この他にも、多官能エポキシ樹脂が挙げられる。多官能エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック、ビスフェノールノボラック、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシが挙げられる。エポキシ樹脂をカチオン重合するカチオン重合開始剤としては、先に挙げている光カチオン重合開始剤を用いることができる。
【0039】
被覆樹脂層5の膜厚は、液路パターン3上に形成された部分において、2〜80μmとすることが好ましい。
【0040】
さらに、撥インク剤層6を形成することもできる(図4)。撥インク剤層6の膜厚は、0.1〜2μmとすることが好ましい。
【0041】
次いで、インク吐出圧力発生素子2の上方に位置する被覆樹脂層5をパターニングして、吐出口11を形成する(図6)。吐出口11は、インク吐出圧力発生素子2の対向する側に設けられることが多い。撥インク剤層6を形成した場合は、撥インク剤層6を被覆樹脂層5とともにパターニングする。被覆樹脂層5のパターニングは、吐出口のパターンを有するマスク4を介して光を照射し(図5)、その後に現像することで行うことができる。ここで、被覆樹脂層5のパターニングの際の現像条件では、液路パターン3は完全に現像されず残存する。形成する吐出口の径は、通常φ10〜30μmである。
【0042】
次いで、インクを供給する供給口12を形成する(図7)。供給口12の形成は、例えば、アルカリ溶液によるSiの異方性エッチングにより行うことができる。このとき、エッチング液から表面の撥インク層を保護するために、保護層を被覆樹脂層5又は撥インク剤層6上に塗布することが好ましい。
【0043】
通常、基板1上には、複数の同一又は異なる形状のインクジェット記録ヘッドが配置されている。したがって、この段階でダイサー等により切断し、個々のインクジェット記録ヘッドを得る。ただし、本発明の方法では液路パターン3が残存しているため、切断時に発生するゴミが液路内に侵入することを防止できる。
【0044】
次いで、液路パターン3を溶出する(図8)。液路パターン3が存在した箇所は、液路13となる。そして、供給口12にインク供給部材8を接着して、インクジェット記録ヘッドが完成する(図9)。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を示して、本発明をさらに詳細に説明する。
【0046】
(実施例1)
本実施例では、前述の手順に従って、インクジェット記録ヘッドを作製した。
【0047】
まず、インク吐出圧力発生素子としての電気熱変換素子(材質HfB2からなるヒーター)と、液路形成部材を形成する部分にSiN+Taの膜を形成したシリコン基板1を用意した。
【0048】
<樹脂組成物1:感光性ポリエーテルアミド組成物>
・下記構造式のポリエーテルアミド樹脂 100質量部
【0049】
【化2】

【0050】
・2,4−ジエチルチオキサントン 1.5質量部
・4−ジエチルアミノエチルベンゾエートベンゾエート 5質量部
次いで、上記の樹脂組成物1〔溶媒:N−メチルピロリドン/ブチルセルソルブアセテート〕を基板上にスピンコートして、膜厚2.0μmの密着層を形成した。次に、密着層をパターニングして、基板上の、電気熱変換素子及び電気接続部以外の部分に密着層が形成された状態にした。パターニングの方法としては、キヤノン製マスクアライナーMPA600(商品名)を用いて露光量−1.0J/cm2で露光し、トリグライム/ブチルセルソルブアセテート=6/4の溶液で現像した。その後、100℃/30分+200℃/1時間のベークを行った。
【0051】
次いで、溶解可能な樹脂としてのポリメチルイソプロペニルケトン(東京応化工業社製、商品名:ODUR−1010)を基板上にスピンコートした。120℃で20分間のプリベークをした後パターニングして、液路パターンを形成した。パターニングの方法としては、キヤノン製マスクアライナーPLA520(商品名、コールドミラー:CM290)を用いて1.5分間露光し、メチルイソブチルケトン/キシレン=2/1の溶液で現像し、キシレンでリンスした。なお、液路パターンの膜厚は10μmであった。
【0052】
<樹脂組成物2>
・エポキシ樹脂 100質量部
(商品名:EHPE、ダイセル化学工業社製)
・添加樹脂 20質量部
(商品名:1,4−HFAB、セントラル硝子社製)
・シランカップリング剤 5質量部
(商品名:A−187、日本ユニカー社製)
・光カチオン重合触媒 2質量部
(商品名:SP170、旭電化工業社製)
次いで、上記の樹脂組成物2をメチルイソブチルケトン/ジグライム混合溶媒に50wt%の濃度で溶解した塗布液を基板上にスピンコートして、被覆樹脂層を形成した。被覆樹脂層の膜厚は、液路パターン上に形成された部分において10μmであった。
【0053】
<樹脂組成物3>
・EHPE−3158(商品名、ダイセル化学工業社製) 35質量部
・2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)ヘキサフロロプロパン 25質量部
・1,4−ビス(2−ヒドロキシヘキサフロロイソプロピル)ベンゼン 25質量部
・3−(2−パーフルオロヘキシル)エトキシ−1,2−エポキシプロパン 16質量部
・A−187(商品名、日本ユニカー社製) 4質量部
・SP−170(商品名、旭電化工業社製) 1.5質量部
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル 100質量部
次いで、上記の樹脂組成物3をノードソン社製マイクロスプレーシステムにより基板上に1μmの膜厚になるように塗布して、80℃のホットプレートで3分のベークを行うことで、撥インク剤層を形成した。
【0054】
次いで、被覆樹脂層及び撥インク剤層をパターニングして、吐出口を形成した。パターニングの方法としては、キヤノン製マスクアライナーPLA520(商品名、コールドミラー:CM250)を用いて10秒露光し、60℃で30分間のアフターベークを行った後、メチルイソブチルケトンで現像した。その後、60℃で30分間のアフターベークを行った。なお、本実施例では、φ15μmの吐出口を形成した。また、上記の現像条件では、液路パターンは完全に現像されず残存している。
【0055】
次いで、アルカリ溶液によるSiの異方性エッチングにより、供給口を形成した。このとき、エッチング液から表面の撥インク層を保護するために、東京応化社製のOBC(商品名)を撥インク剤層上に塗布した。
【0056】
次いで、キヤノン製マスクアライナーPLA520(商品名、コールドミラー:CM290)を用いて2分間露光して、液路パターンを可溶化した。その後、メチルイソブチルケトン中に超音波を付与しつつ浸漬することで残存している液路パターンを溶出して、液路を形成した。
【0057】
最後に、200℃で1時間加熱して被覆樹脂層を完全に硬化させて、液路形成部材とした。そして、供給口にインク供給部材を接着して、インクジェット記録ヘッドが得られた。
【0058】
(比較例1)
密着層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録ヘッドを作製した。
【0059】
(比較例2)
密着層を以下のように形成したこと以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録ヘッドを作製した。
【0060】
密着層として、ポリエーテルアミド樹脂(日立化成工業社製、商品名:HIMAL1200〔溶媒:N−メチルピロリドン/ブチルセルソルブアセテ−ト〕)を膜厚2.0μmで形成した。その後、100℃/30分+250℃/1時間のベークを行った。次いで、上記ポリエーテルアミド樹脂の層上に、東京応化工業社製ポジレジストOFPR800(商品名)の層を形成し、パターニングして、密着層パターンのマスクを形成した。さらに、そのマスクを用いてO2プラズマアッシングにより密着層のパターニングを行い、最後にマスクを剥離した。
【0061】
(比較例3)
密着層を以下のように形成したこと以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録ヘッドを作製した。
【0062】
密着層として、ポリイミド(東レ社製、商品名:フォトニースUR3100)を膜厚2.0μmで形成した。密着層のパターニングの方法は、キヤノン製マスクアライナーMPA600(商品名)を用いて露光量0.2J/cm2で露光し、専用現像液で現像した。その後、130℃/30分+300℃/1時間のベークを行った。
【0063】
(評価)
得られたインクジェット記録ヘッドをインクに浸漬し、プレッシャークッカー(PCT)試験(120℃、2気圧、50Hr)を行って、液路形成部材の密着状況を観察した。用いたインクは、エチレングリコール/尿素/イソプロピルアルコール/黒色染料/水=5/3/2/3/87部からなるものである。このインクは、保湿成分(インクの蒸発を低減させ、ノズルの目詰まりを防ぐ成分)として尿素を添加しており、尿素が加水分解することで弱アルカリ性を示すものである。
【0064】
実施例1及び比較例2で得られたインクジェット記録ヘッドにおいては、密着状況に変化は観察されなかった。なお、比較例2では、密着層をパターニングするための工程が多く、安価なインクジェット記録ヘッドを得ることは難しい。
【0065】
一方、比較例1で得られたインクジェット記録ヘッドでは、一部パターンに干渉縞及び剥離が確認された。これは、SiN+Ta層と液路形成部材との密着性が十分でないために生じたものと考えられる。また、比較例3で得られたインクジェット記録ヘッドでは、液路形成部材が完全に脱離していた。インクがアルカリ性であって、高温高圧での評価であるため、ポリイミドが消滅していた。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】インク吐出圧力発生素子が形成された基板を示す模式的斜視図である。
【図2】図1の基板のA−A切断面を示す模式的断面図である。
【図3】液路パターンが形成された状態を示す模式的断面図である。
【図4】被覆樹脂層及び撥インク剤層が形成された状態を示す模式的断面図である。
【図5】吐出口を形成するためのパターン露光を行っている状態を示す模式的断面図である。
【図6】吐出口が形成された状態を示す模式的断面図である。
【図7】供給口が形成された状態を示す模式的断面図である。
【図8】液路が形成された状態を示す模式的断面図である。
【図9】インク供給部材が配置されたインクジェット記録ヘッドの模式的断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 基板
2 インク吐出圧力発生素子
3 液路パターン
4 マスク
5 被覆樹脂層
6 撥インク剤層
7 インク供給部材
11 吐出口
12 供給口
13 液路
14 パターニング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
(a)一般式I:
【化1】

(一般式Iにおいて、
1、R2、R3及びR4は、水素、アルコキシ基、アルキル基、塩素、又は臭素を示し、お互いに同じでも異なってもよく、
5及びR6は、水素、メチル基、プロピル基、トリフルオロメチル基、又はトリクロロメチル基を示し、お互いに同じでも異なってもよく、
7は、芳香族環を含む3価又は4価の有機基を示し、
Yは、感光基を示し、
Xは、R7とYを結合する2価の基を示し、
nは、1又は2である。)
で示される繰り返し単位を有するポリマーと、
(b)光重合開始剤、光架橋剤及び増感剤の少なくとも1つと
を含むことを特徴とする感光性ポリエーテルアミド組成物。
【請求項2】
インク吐出圧力発生素子が形成された基板と、液路形成部材とが接合されてなり、前記インク吐出圧力発生素子を内包する液路と、前記液路と連通する、インクを吐出するための吐出口とを有するインクジェット記録ヘッドであって、
前記液路形成部材が、請求項1に記載の感光性ポリエーテルアミド組成物からなる密着層を介して、前記基板に接合されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記液路形成部材が、樹脂により形成されていることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記液路形成部材が、エポキシ樹脂のカチオン重合化合物により形成されていることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
前記吐出口が、前記インク吐出圧力発生素子の対向する側に設けられていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
前記インク吐出圧力発生素子が、電気熱変換素子であることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項7】
インク吐出圧力発生素子が形成された基板と、液路形成部材とが接合されてなり、前記インク吐出圧力発生素子を内包する液路と、前記液路と連通する、インクを吐出するための吐出口とを有するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記インク吐出圧力発生素子が形成された基板上に、請求項1に記載の感光性ポリエーテルアミド組成物からなるパターニング層を形成する工程と、
前記パターニング層を形成した基板上に、溶解可能な樹脂にて液路パターンを形成する工程と、
前記液路パターンを形成した基板上に、液路を形成するための被覆樹脂層を形成する工程と、
前記インク吐出圧力発生素子の上方に位置する前記被覆樹脂層に、前記吐出口を形成する工程と、
前記液路パターンを溶出する工程と
を有することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−163189(P2009−163189A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3240(P2008−3240)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】