説明

感光性導電ペースト、それを用いた積層型電子部品の製造方法、および積層型電子部品

【課題】導体層を形成するのに用いられる感光性導電ペーストであって、導体層と絶縁層を一体焼成する場合にも、導体層と絶縁層の間でのデラミネーションや、絶縁層の気泡による絶縁性の低下を生じさせずに、電気抵抗の低い導体層を効率よく形成することが可能な感光性導電ペーストを提供する。
【解決手段】金属成分粒子と、酸性官能基を有する樹脂と、光反応性有機成分とを含有する感光性導電ペーストにおいて、(a)前記金属成分粒子の中心粒径を1.5〜5.0μm、(b)前記金属成分粒子の中心粒径と、前記金属成分粒子の結晶子径の比(中心粒径/結晶子径)を35〜90、(c)金属成分粒子に含まれる有機成分量を0.10重量%以下とする。
金属成分粒子としてAg粒子を用いる。
焼成前の導体層に占める金属成分粒子の割合を30〜60体積%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、基材上に所望の回路や電極などの導体パターンを形成するのに用いられる感光性導電性ペースト、該感光性導電ペーストを用いた積層型電子部品の製造方法、および積層型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、感光性導電ペーストを用いて積層セラミック回路基板を製造する方法が広く用いられるようになっており、それらの1つとして、下記の1)〜6)の工程を備えた積層セラミック回路基板の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
1)感光性セラミックペーストの塗布・乾燥による塗布膜の形成、
2)上記塗布膜への露光・現像によるビアホール用貫通凹部の形成、
3)上記塗布膜上への、感光性導電ペーストの塗布・乾燥による全面導体膜の形成、
4)上記全面導体膜への選択的な露光・現像による所定形状の導体膜の形成、
5)上記1)〜4)の工程の繰り返しによる積層体の形成、
6)上記積層体の焼成
【0003】
また、回路基板や多層基板などに微細な導電パターンを形成するために用いられる感光性導電性ペーストとして、例えば、
(a)導電性を有する金属成分粒子
(b)側鎖にエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体
(c)光反応性化合物
(d)光重合開始剤
を含有し、さらに金属酸化物、ケイ素酸化物、ホウ素酸化物から選択される微粒子を添加してなる焼成用感光性導電ペーストが提案されている(特許文献2参照)。そして、この焼成用感光性導電ペーストを用いることにより、100μm以下の微細な導体パターンを、セラミック基板上に、容易に形成することが可能になるとされている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の積層セラミック回路基板の製造方法の場合、感光性ガラスペーストを塗布・乾燥し、露光・現像することにより形成した絶縁層と、感光性導電ペーストを塗布・乾燥し、露光・現像することにより形成した導体層(電極)とを同時焼成する工程で、絶縁層と導体層(電極)の焼結収縮挙動の相違から、絶縁層と導体層(電極)との間でデラミネーションが発生するという問題点がある。
【0005】
このような絶縁層と導体層との間のデラミネーションを抑制する方法としては、上述の特許文献2のように、金属酸化物、ケイ素酸化物、ホウ素酸化物から選択される微粒子を、基板との結合成分として導電ペーストに添加して、導体層(電極)と絶縁層の結合を強化する方法や、絶縁層中の絶縁性無機成分と同じ絶縁性無機成分を共材として導電ペーストに添加して、導体層(電極)と絶縁層の焼結収縮挙動を近付けたり、導体層(電極)の焼結開始温度を調整したりする方法などがある。
【0006】
しかし、上述のように、導電ペーストに酸化物(結合成分)や共材を添加する方法の場合、導体層(電極)の電気抵抗が高くなるという問題がある。
また、一般的な導電ペーストにおいて用いられている金属成分粒子には、金属成分粒子の凝集を防ぐ目的で、有機成分による表面処理が施されているため、焼成中に金属成分粒子の表面の有機成分が燃焼し、二酸化炭素ガスや一酸化炭素ガスが発生する。そして、絶縁層中にガラス成分が含まれているような場合に、ガラス成分が軟化した状態で導体層(電極)中の金属成分粒子から二酸化炭素ガスや一酸化炭素ガスが発生すると、絶縁層と導体層との間のデラミネーションの発生や、絶縁層への空隙や気泡の発生による絶縁性の低下などを招くという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−18236号公報
【特許文献2】特許3672105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、導体層と絶縁層とを一体焼成して積層素子を形成する場合にも、導体層と絶縁層との間のデラミネーションの発生を抑制、防止しつつ、電気抵抗の低い導体層(電極)を効率よく形成することが可能で、かつ、絶縁層への空隙や気泡の発生による絶縁性能の低下を引き起こすことのない感光性導電ペースト、それを用いた特性の良好な積層型電子部品の製造方法、および該製造方法により製造される特性の良好な積層型電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の感光性導電ペーストは、
導電性を有する金属成分粒子と、酸性官能基を有する樹脂と、光反応性有機成分とを含有する感光性導電ペーストであって、
(a)前記金属成分粒子の中心粒径が1.5〜5.0μmであり、
(b)前記金属成分粒子の中心粒径と、前記金属成分粒子の結晶子径の比(中心粒径/結晶子径)が35〜90であるとともに、 (c)前記金属成分粒子に含まれる有機成分量が0.10重量%以下であること
を特徴としている。
【0010】
本発明の感光性導電ペーストにおいては、酸性官能基を有する樹脂として、例えば、セルロース系、アクリル系など各種の樹脂を用いることができるが、特に、側鎖にカルボキシル基を有するアクリル系共重合体を含むものであることが望ましい。このような樹脂を使用することにより、アルカリ系または水系の現像液で現像処理を容易に行うことができる。
【0011】
側鎖にカルボキシル基を有するアクリル系共重合体を含む前記樹脂は、例えば、不飽和カルボン酸とエチレン性不飽和化合物を共重合させることにより製造することができる。
【0012】
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、ビニル酢酸およびこれらの無水物等が挙げられる。一方、エチレン性不飽和化合物としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル、フマル酸モノエチル等のフマル酸エステル等が挙げられる。
【0013】
また、側鎖にカルボキシル基を有するアクリル系共重合体としては、以下のような形態の不飽和結合を導入したものを用いてもよい。
1)アクリル系共重合体の側鎖のカルボキシル基に、これと反応可能な、例えばエポキシ基等の官能基を有するアクリル系モノマーを付加する。
2)側鎖のカルボキシル基の代わりにエポキシ基が導入されてなる前記アクリル系共重合体に、不飽和モノカルボン酸を反応させた後、さらに飽和または不飽和多価カルボン酸無水物を導入する。
【0014】
また、側鎖にカルボキシル基を有するアクリル系共重合体としては、重量平均分子量(Mw)が50000以下、かつ酸価が30〜150のものが好ましい。
さらに、アクリル系共重合体の側鎖に長鎖アルキル基を導入することで、ポリマーの凝集エネルギーをコントロールし、未露光部分をアルカリ現像液で除去して電極パターンを形成するときに、未露光部分が除去されやすくすることができる。こうすることで、金属成分の残渣が残りにくくなり、焼成後のショート不良をより確実に防止できる。
【0015】
このような長鎖アルキルを導入するには、以下のような方法がある。
1)カルボキシル基に長鎖アルキルグリシジル化合物を付加する。
2)エチレン性不飽和化合物のエステル部を長鎖アルキルにする。
【0016】
また、本発明の感光性導電ペーストにおいて、光反応性有機成分とは、公知の光重合性もしくは光変性化合物のことであって、例えば、
1)不飽和基などの反応性官能基を有するモノマーやオリゴマーと、芳香族カルボニル化合物などの光ラジカル発生剤の混合物
2)芳香族ビスアジドとホルムアルデヒドの縮合体などのいわゆるジアゾ樹脂
3)エポキシ化合物などの付加重合性化合物とジアリルヨウドニウム塩などの光酸発生剤の混合物
4)ナフトキノンジアジド系化合物
などが挙げられる。
【0017】
これらの光反応性有機成分のうち、特に好ましいのは、不飽和基などの反応性官能基を有するモノマーやオリゴマーと、芳香族カルボニル化合物などの光ラジカル発生剤との混合物である。
【0018】
光反応性官能基含有モノマーおよびオリゴマーとしては、ヘキサンジオールトリアクリレート、トリプロピレングリコールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントアクリレート、ステアリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ラウリルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、トリデシルアクリレート、カプロラクトンアクリレート、エトキシ化ノニルフェノールアクリレート、1、3−ブタンジオールジアクリレート、1、4−ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化グリセリルトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1、4−ブタンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1、6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1、3−ブチレングリコールジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等が挙げられる。
また、前記光ラジカル発生剤としては、ベンジル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルサルファイド、ベンジルジメチルケタール、2−n−ブトキシ−4−ジメチルアミノベンゾエート、2−クロロチオキサントン、2、4−ジエチルチオキサントン、2、4−ジイソプロピルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2−ジメチルアミノエチルベンゾエート、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、3、3'−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、2、4−ジメチルチオキサントン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2、2−ジメトキシ−1、2−ジフェニルエタン−1−オン、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、メチルベンゾイルフォルメート、1−フェニル−1、2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタノン、ビス(2、6−ジメトキシベンゾイル)−2、4、4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2、4、6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0019】
また、本発明の感光性導電ペーストにおいては、前記金属成分粒子がAg粒子であることが望ましい。
【0020】
また、本発明の積層型電子部品の製造方法は、本発明(請求項1または2の発明)の前記感光性導電ペーストを用いて形成した導体層と、絶縁性無機成分と感光性を有する有機成分とを含む絶縁層とを備えた積層体を一体焼成する工程を備えていることを特徴としている。
【0021】
また、本発明の積層型電子部品の製造方法においては、焼成前の前記導体層に占める前記金属成分粒子の割合が30〜60体積%であることが望ましい。
【0022】
また、前記絶縁性無機成分が、ガラス粉末とセラミック粉末とを主成分として含む材料であることが望ましい。
【0023】
また、本発明の積層型電子部品の製造方法においては、焼成前の前記導体層に占める金属成分粒子の割合(体積%)と、焼成前の前記絶縁層に占める絶縁性無機成分の割合(体積%)の差が7体積%以下であることが望ましい。
【0024】
また、本発明の積層型電子部品の製造方法においては、前記絶縁層中のガラス粉末の、ガラス軟化点が600℃以上であることが望ましい。
【0025】
また、本発明の積層型電子部品は、
本発明(請求項3または4)記載の積層型電子部品の製造方法により製造された積層型電子部品であって、
前記感光性導電性ペーストを焼成することにより形成された導体層からなる内部導体が、前記絶縁性無機成分と前記感光性を有する有機成分とを含む前記絶縁層を焼成することにより形成された焼結絶縁層を介して積層された構造を有していること
を特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
本発明の感光性導電ペーストは、導電性を有する金属成分粒子と、酸性官能基を有する樹脂と、光反応性有機成分とを含有する感光性導電ペーストであって、(a)金属成分粒子の中心粒径が1.5〜5.0μmであり、(b)金属成分粒子の中心粒径と、金属成分粒子の結晶子径の比(中心粒径/結晶子径)が35〜90であるとともに、(c)金属成分粒子に含まれる有機成分量が0.10重量%以下であるという要件を備えていることから、例えば、導体層(内部導体)が絶縁層(焼結絶縁層)を介して積層された構造を有する積層型電子部品を製造する場合において、導体層の形成に本発明の感光性導電ペーストを用いることにより、導体層(内部導体)と絶縁層(焼結絶縁層)の間のデラミネーションを抑制、防止しつつ、導体層の電気抵抗の増大や、絶縁層に空隙や気泡が含まれることによる絶縁性能の低下などを抑制、防止して、特性の良好な積層型電子部品を提供することが可能になる。
【0027】
すなわち、中心粒径が1.5〜5.0μm、中心粒径/結晶子径が35〜90の範囲の金属成分粒子を用いることにより、導体層(を構成する感光性導電ペースト)の焼結開始温度を所定の範囲に制御することが可能になる。その結果、導体層と絶縁層の焼結収縮挙動を近付けることが可能になり、導体層と絶縁層の間のデラミネーションの発生を抑制、防止しつつ、導体層と絶縁層を一体焼成(同時焼成)することが可能になる。
また、本発明の感光性導電ペーストにおいては、上述の特許文献1の導電ペーストで添加されているような、金属酸化物、ケイ素酸化物、ホウ素酸化物などの結合成分や共材などを添加する必要がないので、電気抵抗の低い導体層を得ることができる。
さらに、金属成分粒子として、有機成分量が0.10重量%以下の金属成分粒子を用いるようにしているので、焼成中に金属成分粒子から発生する燃焼ガスが少なく、絶縁層中に空隙や気泡が発生することを抑制することができる。
【0028】
また、本発明の感光性導電ペーストにおいて、金属成分粒子をAg粒子とすることにより、感光性導電ペーストの焼結開始温度を600℃〜800℃に制御することが可能になり、絶縁層が例えばガラス粉末とセラミック骨材とを主たる成分とするものである場合に、導体層と絶縁層の焼結収縮挙動を近付けることが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。
【0029】
また、本発明の積層型電子部品の製造方法は、感光性導電ペーストを用いて形成した導体層と、絶縁性無機成分と感光性を有する有機成分とを含む絶縁層とを備えた積層体を一体焼成する工程を備えていることから、内部導体と焼結絶縁層の間のデラミネーションを抑制するとともに、内部導体の電気抵抗の増大や焼結絶縁層に多量の気泡が含まれることによる絶縁性能の低下などを抑制、防止して、特性の良好な積層型電子部品を確実に作製することが可能になる。
【0030】
また、本発明の積層型電子部品の製造方法においては、焼成前の導体層に占める金属成分粒子の割合を30〜60体積%とすることにより、十分な光硬化性を確保しつつ、焼成時の収縮による断線や亀裂のない導体層(導体パターン)を形成することができる。すなわち、焼成前の導電層中に占める金属成分粒子の割合が30体積%未満の場合、焼成時の収縮による断線や亀裂が生じやすく、所望のパターンを有する導体パターンを得ることが困難であり、また、焼成前の導電層中の金属成分粒子の体積が60体積%を超えると、感光性有機成分量が不足し、十分な光硬化が得られなくなるため好ましくない。
【0031】
また、絶縁層を構成する絶縁性無機成分として、ガラス粉末とセラミック粉末とを主成分として含む材料を用いることにより、導体層と絶縁層の焼結収縮挙動をより近付けることが可能になり、本発明をさらに実効あらしめることができる。
【0032】
また、本発明の積層型電子部品の製造方法において、焼成前の導体層に占める金属成分粒子の割合(体積%)と、焼成前の絶縁層に占める絶縁性無機成分の割合(体積%)の差を7体積%以下とすることにより、導体層と絶縁層の焼結収縮挙動をより確実に近付けることが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。
【0033】
また、本発明の積層型電子部品の製造方法においては、絶縁層中のガラス粉末として、ガラス軟化点が600℃以上のものを用いることにより、積層体の焼成工程で、ガラスが軟化する前に、有機成分の分解ガスや燃焼ガスを効率よく外部に排出させて、焼結絶縁層に多量の気泡が含まれることによる絶縁性能の低下を抑制、防止することが可能になる。
【0034】
また、本発明の積層型電子部品は、上述のように構成された本発明の積層型電子部品の製造方法により製造された積層型電子部品であるため、導体層(内部導体)と絶縁層(焼結絶縁層)の間のデラミネーションなどの構造的な欠陥がなく、導体層の電気抵抗が低く、絶縁層の絶縁性能に優れた、特性の良好な積層型電子部品を確実に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例にかかる積層型電子部品(積層コイル部品)の製造方法を説明する図である。
【図2】本発明の実施例にかかる方法で製造した積層型電子部品(積層コイル部品)の外観構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0037】
[1]感光性導電ペーストの作製
(1)金属成分粒子の用意
まず、金属成分粒子として、本発明の要件を備えたAg粉末(表1のAg粉末A,B,C,およびD)を用意した。
また、比較のために、本発明の要件を備えていないAg粉末(表1のAg粉末E,F,G,H,I,J)を用意した。
【0038】
なお、比較用のAg粉末EおよびFは中心粒径が本発明の範囲を外れたAg粉末であり、比較用のAg粉末GおよびHは中心粒径/結晶子径のが本発明の範囲を外れているAg粉末である。
さらに、比較用のAg粉末IおよびJは、金属成分粒子の有機成分量が本発明の範囲を超えているAg粉末であり、400〜1000℃に加熱した場合における二酸化炭素ガスおよび一酸化炭素ガスの発生量(CO2およびCOの分圧)が1.0×10-6Pa以上のAg粉末である。
【0039】
なお、金属成分粒子中の有機成分量(重量%)は、TG/MS分析による重量減少量から算出した。TG/MS分析測定条件は以下の通りである。
(a)使用装置:TG/MS(NETZSCH製)
(b)昇温範囲:常温〜1000℃
(c)昇温速度:20℃/min
(d)測定試料重量:100mg
(e)測定雰囲気:He(流量150ml/min)
(f)試料容器(セル)材質:Al23
【0040】
なお、二酸化炭素ガスおよび一酸化炭素ガスの発生量は、昇温脱離分析法(TDS)にて測定した。TDS分析測定条件は以下の通りである。
(a)使用装置:HPT−TDS(理学電機製)
(b)昇温範囲:常温〜1000℃
(c)昇温速度:30℃/min
(d)測定試料重量:1mg
加熱方法:間接加熱法(試料をAl23セル内に置きPt筒で覆い、間接的 に加熱する方法
加熱温度の測定:試料容器下部(Pt筒内)の温度を熱電対で測定
【0041】
なお、表1の各Ag粉末の結晶子径は、X線回折測定におけるメインピークの半値幅より算出した値である。
また、中心粒径は、レーザー回折式粒度分析計(日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布計URA)にて計測した値である。
さらに、金属成分粒子の中心粒径と、金属成分粒子の結晶子径の比である中心粒径/結晶子径は、同一単位に換算した場合の中心粒径の値を結晶子径の値で除した値である。
なお、表1における金属成分粒子の体積(体積%)は、焼成前の導体層に占める金属成分粒子の割合(体積%)を示している。
【0042】
【表1】

【0043】
(2)感光性樹脂の作製
表2の各原材料を、表2記載の割合で配合し、十分に混合することにより感光性樹脂を作製した。
【0044】
【表2】

【0045】
(3)感光性導電ペーストの作製
それから上記(1)で用意した金属成分粒子と、上記(2)で作製した感光性樹脂と、分散剤と、沈降防止剤とを下記の割合で配合して、感光性導電ペーストを作製した。
(a)金属成分粒子:71.4〜90.0重量部
(b)感光性樹脂 :9.6〜28.2重量部
(c)分散剤 :0.2重量部
(d)沈降防止剤 :0.2重量部
【0046】
なお、金属成分粒子の感光性導電ペースト中の割合(体積%)は、表1に示すような割合(30〜60体積%)となるようにした。
また、感光性樹脂は、金属成分粒子と感光性樹脂との合計量が99.6重量部(金属成分粒子+感光性樹脂=99.6重量部)となるような割合で配合した。
【0047】
[2]絶縁層形成用の感光性ガラスペーストの作製
絶縁層形成用材料として、各原料を下記の割合で配合し、3本ロールで十分に混合することにより、ガラス粉末とセラミック粉末(骨材)とを含む感光性ガラスペーストを作製した。
(a)ポリマー(メタクリル酸とメタリル酸メチルの共重合体):28重量部
(b)モノマー(EO変性トリメチロールプロパンアクリレート):12重量部
(c)光重合開始剤(2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン):2重量部
(d)溶剤(ペンタメチレングリコール):0.6重量部
(e)有機染料(オイルイエロー(商品名、オリエント化学工業株式会社製)):1重量部
(f)添加剤(消泡剤):1重量部
(g)ガラス粉末(Si−B−K系ガラス、ガラス軟化点790℃):34重量部
(f)セラミック骨材(アルミナ):21.4重量部
【0048】
なお、ガラス粉末としては、ガラス軟化点が600℃以上のガラス粉末を用いることが望ましい。ガラス粉末は2種類以上のガラスを混合して用いることも可能である。
【0049】
ガラス軟化点が600℃以上のガラス粉末を用いることが望ましいのは、ガラス軟化点が600℃未満の場合、通常は500〜600℃の範囲で行われる脱バインダー工程で、軟化したガラス成分がバインダーをはじめとする有機物質の焼失を阻害し、その後の焼成工程において、残留した有機物質に由来する炭素の酸化によって絶縁層中に気泡が発生しやすいことによる。
【0050】
また、セラミック骨材としては、アルミナ、マグネシア、スピネル、シリカ、フォルステライト、フェライトまたはジルコニアなどを用いることが可能であり、これら2種以上を混合して用いることも可能である。
【0051】
なお、この実施例では、絶縁層を形成するにあたり、セラミック骨材とガラス粉末を含む感光性ガラスペーストを用いたが、絶縁層の形成に用いられる材料はこれに制約されるものではなく、例えば、感光性グリーンシートを用いることも可能である。
【0052】
[3]配線回路チップの作製
上述のようにして作製した感光性導電ペーストおよび感光性ガラスペーストを用いて、以下に説明する方法で多層配線回路チップ(積層型電子部品)を作製した。以下、図1および図2を参照しつつ、多層配線回路チップ(積層型電子部品)の製造方法について説明する。
【0053】
(a)まず、感光性ガラスペーストをPETフィルム(支持フィルム)上にスクリーン印刷し、乾燥した後、全面露光する。これを数回繰り返し、厚み約150μmの絶縁層である外層11(11a)を形成する(図1参照)。なお、図1では支持フィルムは省略している。
(b)次に、上述のようにして作製した外層11(11a)上に、膜厚が約10μmとなるように、感光性導電ペーストをスクリーン印刷し、乾燥した後、露光、現像して1層目の導体層(コイルパターン)12(12a)を形成する。
(c)さらに、形成した1層目の導体層(コイルパターン)12(12a)と、その周囲の外層11(11a)上に、膜厚15μm程度で感光性ガラスペーストを、スクリーン印刷により印刷(全面印刷)して1層目の感光性ガラスペースト層(絶縁層)13(13a)を形成する。
それから、この感光性ガラスペースト層(絶縁層)13(13a)を、選択的に露光、現像して、所定の位置にビアホール14(14a)を形成する。
(d)その後、膜厚が約10μmとなるように、スクリーン印刷により感光性導電ペーストを全面印刷し、乾燥する。続いて選択的に露光、現像を行って、2層目のコイルパターン(導体層)12(12b)を形成する。
(e)さらに、導体層12と、その周囲の絶縁層外層13上に、感光性ガラスペーストの印刷、ビアホール14(14b)の形成を行って2層目の絶縁層13(13b)を形成する。
(f)次に、上記(d)と同様の方法で、第3層目の導体層12(12c)を形成する。
(g)その後、上記(e)の工程およびそれに続く上記(f)の工程を繰り返して、所定の層数になるまで、所定の位置にビアホール14を備えた感光性ガラスペースト層(絶縁層)13とコイルパターン(導体層)12とを形成する。
(h)それから、その上に、上記(a)と同様に方法で、感光性ガラスペーストをスクリーン印刷し、乾燥した後、全面露光することにより、厚み約150μmの絶縁層である外層11(11b)を形成する。これにより、コイルパターン(導体層)12がビアホール14を介して層間接続されることにより形成されたコイル20を内部に有する配線回路基板30が得られる。
【0054】
(i)それから、この配線回路基板30を、ダイサーを用いて約1mm□のチップ形状に分割し、PETフィルムを剥離して焼成した後、両端部に外部電極を形成する。
これにより、図2に示すように、コイル20(図1参照)を内部に有するセラミック積層体30aの両端部に、該コイルの両端部と導通する一対の外部電極21a,21bが配設された構造を有する多層配線回路チップ(積層型電子部品)50が得られる。なお、この多層配線回路チップ(積層型電子部品)は、所定の面に方向性確認マーク22を備えている。
【0055】
[4]評価
上述のようにして作製した各試料(多層配線回路チップ)について、デラミネーション発生率、気孔率、および抵抗率を以下の方法で測定し、特性を評価した。
【0056】
(a)デラミネーション発生率
デラミネーション発生率(%)は、試料を100個観察し、導体層と絶縁層間でデラミネーションが発生した試料の個数を計測し、下記の式により求めた。
デラミネーション発生率(%)={デラミネーションが発生した試料の個数/全試料数(100個)}×100
【0057】
(b)気孔率
気孔率(%)を測定するにあたっては、走査型レーザー顕微鏡(1LM21、レーザーテック株式会社製、倍率50倍)で観察される視野をパーソナルコンピューターに取り込み、絶縁層における、気孔部の面積とガラス・セラミック部の面積を明暗2値化して計測した。そして、下記の式で気孔率を求めた。
気孔率(%)={絶縁層の観察料域の気孔部の面積/絶縁層の観察領域の全面積}×100
【0058】
(c)抵抗率
抵抗率は、アルミナ基板上に線幅100〜500μmの配線を形成し、デジタルボルトメーターにてシート抵抗を測定した。さらに、Ag電極の配線幅、膜厚などの寸法から抵抗率を計算した。
また、電極寸法の測定には走査型レーザー顕微鏡(1LM21、レーザーテック株式会社製、倍率20倍)を用いた。
その結果を表3に示す。
なお、理解を容易にするために、表3には、表1に示している金属成分粒子の条件などを併せて示している。
【0059】
【表3】

【0060】
表3に示すように、試料番号1〜10の試料、すなわち、
(a)金属成分粒子の中心粒径が1.5〜5.0μmであり、
(b)金属成分粒子の中心粒径と、金属成分粒子の結晶子径の比(中心粒径/結晶子径)が35〜90であるとともに、 (c)金属成分粒子に含まれる有機成分量が0.10重量%以下である
という本発明の要件を備えた本発明の実施例にかかる試料の場合、導体層と絶縁層の間でデラミネーションが発生しないこと、導体層の抵抗率が2.5μΩ・cm以下と低いことが確認された。
また、金属成分粒子に含まれる有機成分量が0.10重量%以下と少ないため、絶縁層中の気孔率が1%未満になり、十分な絶縁性能を備えていることが確認された。
【0061】
これに対し、金属成分粒子の中心粒径が1.0μmと、本発明の範囲(中心粒径=1.5〜5.0μm)を下回っている試料番号11の試料(比較例の試料)の場合、本発明の中心粒径/結晶子径の要件(中心粒径/結晶子径=35〜90)、および、金属成分粒子に含まれる有機成分量が0.10重量%以下という要件を満たしていても、デラミネーションが発生することが確認された。これは、低温で導体層の方が絶縁層よりも大きく焼結収縮することが原因であると考えられる。
【0062】
また、金属成分粒子の中心粒径が5.5μmと、本発明の範囲(中心粒径=1.5〜5.0μm)を越えている試料番号12の試料(比較例の試料)の場合、本発明の中心粒径/結晶子径の要件(中心粒径/結晶子径=35〜90)、および、金属成分粒子に含まれる有機成分量が0.10重量%以下という要件を満たしていても、導体層の抵抗率が2.5μΩ・cm以上に高くなることが確認された。これは、金属成分粒子の中心粒径が5.5μmと大きいため、導体層が焼結不足になったことによるものと考えられる。
【0063】
また、金属成分粒子の中心粒径/結晶子径が33で、本発明の中心粒径/結晶子径の範囲(中心粒径/結晶子径=35〜90)を下回っている試料番号13の試料(比較例の試料)の場合、金属成分粒子の中心粒径の要件(1.5〜5.0μm)、および、金属成分粒子に含まれる有機成分量が0.10重量%以下という要件を満たしていても、導体層が焼結不足になり、抵抗率が2.5μΩ・cm以上に高くなることが確認された。
【0064】
また、金属成分粒子の中心粒径/結晶子径が252で、本発明の中心粒径/結晶子径の範囲(中心粒径/結晶子径=35〜90)を超えている試料番号14の試料(比較例の試料)の場合、金属成分粒子の中心粒径の要件(1.5〜5.0μm)、および、金属成分粒子に含まれる有機成分量が0.10重量%以下という要件を満たしていても、導体層と絶縁層の間でデラミネーションが発生することが確認された。これは、低温で導体層の方が絶縁層よりも大きく焼結収縮することによるものと考えられる。
【0065】
また、金属成分粒子に含まれる有機成分量が0.10重量%以上である、試料番号15および試料番号16の試料(比較例の試料)の場合、焼成中の有機成分の燃焼ガスが多く発生し、絶縁層中の気孔率が増大することが確認された。
なお、絶縁層中の気孔率が1%を超えると、絶縁層の絶縁性が低下し、絶縁不良の発生率が増加するため、好ましくない。
焼成前の導体層(すなわち、感光性導電ペーストを塗布、乾燥し、露光、現像することにより形成された導体層)に占める金属成分粒子の割合を30〜60体積%とすることにより、十分な光硬化性を確保しつつ、焼成時の収縮による断線や亀裂のない導体層(導体パターン)を形成することができることが確認されている。
また、焼成前の導電層中に占める金属成分粒子の割合が30体積%未満になると焼成時の収縮による断線や亀裂が生じやすいこと、焼成前の導電層中の金属成分粒子の体積が60体積%を超えると感光性有機成分量が不足し、十分な光硬化が得られなくなることが確認されている。
【0066】
なお、上記実施例では積層型電子部品として、積層型コイル部品を例にとって説明したが、本発明は積層コイル部品に限らず、多層セラミック基板、多層LC複合部品などの種々の積層型電子部品に適用することが可能である。
【0067】
本発明はさらにその他の点においても上記実施例に限定されるものではなく、金属成分粒子を構成する金属の種類、酸性官能基を有する樹脂や、光反応性有機成分の種類、絶縁層を構成する絶縁材料の種類などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0068】
11(11a,11b) 外層
12(12a,12b) コイルパターン(導体層)
13(13a,13b) 絶縁層
14 ビアホール
20 配線回路基板
21a,21b 外部電極
22 方向確認マーク
30 セラミック積層体
50 配線回路チップ(積層型電子部品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する金属成分粒子と、酸性官能基を有する樹脂と、光反応性有機成分とを含有する感光性導電ペーストであって、
(a)前記金属成分粒子の中心粒径が1.5〜5.0μmであり、
(b)前記金属成分粒子の中心粒径と、前記金属成分粒子の結晶子径の比(中心粒径/結晶子径)が35〜90であるとともに、 (c)前記金属成分粒子に含まれる有機成分量が0.10重量%以下であること
を特徴とする前記感光性導電ペースト。
【請求項2】
前記金属成分粒子がAg粒子であることを特徴とする請求項1記載の感光性導電ペースト。
【請求項3】
請求項1または2記載の前記感光性導電ペーストを用いて形成した導体層と、絶縁性無機成分と感光性を有する有機成分とを含む絶縁層とを備えた積層体を一体焼成する工程を備えていることを特徴とする積層型電子部品の製造方法。
【請求項4】
焼成前の前記導体層に占める前記金属成分粒子の割合が30〜60体積%であることを特徴とする請求項3記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記絶縁性無機成分が、ガラス粉末とセラミック粉末とを主成分として含む材料であることを特徴とする請求項3または4記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項6】
焼成前の前記導体層に占める金属成分粒子の割合(体積%)と、焼成前の前記絶縁層に占める絶縁性無機成分の割合(体積%)の差が7体積%以下であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記絶縁層中のガラス粉末の、ガラス軟化点が600℃以上であることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれかに記載の積層型電子部品の製造方法により製造された積層型電子部品であって、
前記感光性導電性ペーストを焼成することにより形成された導体層からなる内部導体が、前記絶縁性無機成分と前記感光性を有する有機成分とを含む前記絶縁層を焼成することにより形成された焼結絶縁層を介して積層された構造を有していること
を特徴とする積層型電子部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−233468(P2011−233468A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105190(P2010−105190)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】