懸架装置
【課題】ばね部材の種類によらず、ばね部材の初期荷重の設定作業を容易に行うことができる懸架装置を提供することを課題とする。
【解決手段】(c)に示すように、雄ねじ部68Aの外周面に、径内方に向けて凹む外周凹部79が形成され、ばね受け部材69Aの内周面に、径外方に向けて凹む内周凹部81が形成される。外周凹部79と内周凹部81とに、ばね受け部材69Aの回り止めを行う嵌合部材83が嵌合される。
【効果】ばね受け部材69Aの回り止めは嵌合部材83で行うため、ばね部材の初期荷重を設定するとき、嵌合部材83を外周凹部79と内周凹部81から取り外し、ばね受け部材69Aを回すだけでよい。したがって、ばね部材の種類によらず、ばね部材の初期荷重の設定作業を容易に行うことができる。
【解決手段】(c)に示すように、雄ねじ部68Aの外周面に、径内方に向けて凹む外周凹部79が形成され、ばね受け部材69Aの内周面に、径外方に向けて凹む内周凹部81が形成される。外周凹部79と内周凹部81とに、ばね受け部材69Aの回り止めを行う嵌合部材83が嵌合される。
【効果】ばね受け部材69Aの回り止めは嵌合部材83で行うため、ばね部材の初期荷重を設定するとき、嵌合部材83を外周凹部79と内周凹部81から取り外し、ばね受け部材69Aを回すだけでよい。したがって、ばね部材の種類によらず、ばね部材の初期荷重の設定作業を容易に行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダとばね部材とを主要素とする懸架装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の懸架装置として、減衰力を発生するシリンダと伸縮作用を発揮するばね部材から構成されたものがよく知られている。
ばね部材の初期荷重を変更することにより、車両の乗り心地を乗員の好みに合わせることができる。
【0003】
ばねの初期荷重を変更できる懸架装置が各種提案されている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0004】
特許文献1の図1に示すように、懸架装置(1)(括弧付き番号は特許文献1に記載されている符号を示す。以下同じ)は、外周に雄ねじ部を有するシリンダ(13)と、シリンダ(13)の雄ねじ部に噛合う雌ねじ部を有すると共にばね部材(2)を受けるばね受け部材(15)とを備える。ばね受け部材(15)には、2つの切割り(18、19)が設けられる。
【0005】
ばね受け部材(15)を回して上方へ移動させると、ばね部材(2)が圧縮され、ばね受け部材(15)にばね部材(2)の圧縮で生じる反力が掛かる。ばね受け部材(15)は切割り(18、19)によってたわみやすいため、ばね受け部材(15)の雌ねじ部がシリンダ(13)の雄ねじ部に押付けられる。雌ねじ部を雄ねじ部に押付けることで、ばね受け部材(15)の回り止めが図られる。
【0006】
ところで、ばね力(ばね反力)が大きなばね部材に、ばね部材(2)の種類を変更する場合がある。この場合には、ばね受け部材(15)の剛性をばね力に応じて増加する必要がある。しかし、剛性を高めるとばね受け部材(15)のたわみが小さくなり、所望の回り止め性能が得られなくなる。言い換えると、ばね部材(2)の初期荷重の設定作業は、所定のばね部材(2)に対して実施可能であり、ばね部材の選択の自由度が少なくなる。
【0007】
しかし、乗員の好みが多様化する中、多種のばね部材から所望のばね部材を選択できることが望まれる。
そこで、ばね部材の種類によらず、ばね部材の初期荷重の設定作業を容易に行うことができる懸架装置が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−194125公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ばね部材の種類によらず、ばね部材の初期荷重の設定作業を容易に行うことができる懸架装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、ピストンロッドが摺動可能に収納され減衰力を発生するシリンダと、このシリンダの外周よりも径外方に配置され伸縮作用を発揮するばね部材と、前記シリンダの外周に形成される雄ねじ部と、この雄ねじ部に噛合う雌ねじ部を有し前記ばね部材を受けるばね受け部材とを備える懸架装置において、前記雄ねじ部の外周面に、径内方に向けて凹む外周凹部が形成され、前記ばね受け部材の内周面に、径外方に向けて凹む内周凹部が形成され、前記外周凹部と前記内周凹部とに、前記ばね受け部材の回り止めを行う嵌合部材が嵌合されることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明では、外周凹部又は内周凹部は、複数設けられることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明では、内周凹部は、ばね受け部材の下面を貫通して形成されることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明では、外周凹部は、シリンダを車体側に止める締結部材の軸方向と同方向に設けられると共に車体幅中心側に向けて凹んでいることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明では、嵌合部材は、弾発性を有することを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る発明では、嵌合部材が弾発性を保持した状態にあるとき、前記嵌合部材の弾発保持状態を外部から解除する解除手段が、ばね受け部材に着脱可能に設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明では、雄ねじ部の外周面に、径内方に向けて凹む外周凹部が形成され、ばね受け部材の内周面に、径外方に向けて凹む内周凹部が形成され、外周凹部と内周凹部とに、ばね受け部材の回り止めを行う嵌合部材が嵌合される。
ばね受け部材の回り止めは嵌合部材で行うため、ばね部材の初期荷重を設定するとき、嵌合部材を外周凹部と内周凹部から取り外し、ばね受け部材を回すだけでよい。したがって、ばね部材の種類によらず、ばね部材の初期荷重の設定作業を容易に行うことができる。
【0017】
請求項2に係る発明では、外周凹部又は内周凹部は、複数設けられる。
外周凹部又は内周凹部を複数設けるため、ばね受け部材の回転角度を小さく設定することができる。ばね受け部材の回転角度を小さくすると、ばね部材の初期荷重を微調整することができる。
【0018】
請求項3に係る発明では、内周凹部は、ばね受け部材の下面を貫通して形成される。
内周凹部がばね受け部材の下面を貫通して形成されるため、内周凹部を下方から覗くと、嵌合部材を位置を視認することができる。嵌合部材を下方から視認することで、嵌合部材の取付状態を確認することが可能となる。
【0019】
請求項4に係る発明では、外周凹部は、シリンダを車体側に止める締結部材の軸方向と同方向に設けられると共に車体幅中心側に向けて凹んでいる。
締結部材の軸方向と同方向は、車体左右方向に沿う位置となる。加えて、外周凹部が車体幅中心側に向けて凹んでいるため、車体の側方から嵌合部材を外周凹部に容易に嵌合させることができる。外周凹部に対する嵌合部材の嵌合が容易になるので、ばね部材の初期荷重の設定作業がしやすくなる。
【0020】
請求項5に係る発明では、嵌合部材は、弾発性を有する。
弾発性を有する嵌合部材を、外周凹部と内周凹部とに嵌合させているため、ばね部材を圧縮したときでも、嵌合部材が落ちずに保持される。嵌合部材が保持されるので、嵌合部材を落として紛失しにくくなる。
【0021】
請求項6に係る発明では、嵌合部材が弾発性を保持した状態にあるとき、嵌合部材の弾発保持状態を外部から解除する解除手段が、ばね受け部材に着脱可能に設けられる。
解除手段で、嵌合部材の弾発保持状態を解除するため、ばね部材を圧縮しなくとも、ばね受け部材の回転が可能となる。解除手段を用いることにより、ばね受け部材を回転させるまでの時間を短くすることができるので、作業効率が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る懸架装置を備えた自動二輪車の左側面図である。
【図2】自動二輪車後部の左側面図である。
【図3】図2の3部拡大図である。
【図4】ばね受け部材とシリンダの分解斜視図である。
【図5】図3の5−5線断面図である。
【図6】ばね受け部材をシリンダに取付けてから嵌合部材を外周凹部及び内周凹部に嵌合させるまでの作用を説明する図である。
【図7】図5の変更例を示す図である。
【図8】図7に示す外周凹部と内周凹部の作用を説明する図である。
【図9】図4の変更例を示す図である。
【図10】図9に示す嵌合部材の作用を説明する図である。
【図11】図4の更なる変更例を示す図である。
【図12】図11に示す嵌合部材の作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。また、以下の説明で用いる前後、左右、上下は乗員シートに座った乗員を基準に定める。
【実施例】
【0024】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、自動二輪車10は、ヘッドパイプ11と、このヘッドパイプ11から後方へ延ばされるメインフレーム12と、ヘッドパイプ11から後方の斜め下へ延ばされ更に後方へ延ばされるダウンフレーム13L(Lは左を示す添え字。以下同様)と、メインフレーム12の後端部とダウンフレーム13Lの後端部に連結される前側ミドルフレーム14Lと、メインフレーム12の後端部から後方へ延ばされるシートレール15Lと、ダウンフレーム13Lの後端部とシートレール15Lに渡されている後側ミドルフレーム16Lと、前側ミドルフレーム14Lの下端部とダウンフレーム13Lの後端部に取付けられるピボットプレート17Lとからなる車体フレーム18を有する。
【0025】
ヘッドパイプ11に、ステアリング軸19を介してフロントフォーク(前輪懸架装置)21が転舵自在に取付けられる。フロントフォーク21の下端に、前輪22が回転自在に取付けられる。
ステアリング軸19の上端に、ステアリングハンドル23が取付けられる。
【0026】
メインフレーム12及びダウンフレーム13Lに、エンジン24が取付けられる。このエンジン24のシリンダヘッド25後側に、吸気装置26が取付けられ、シリンダヘッド25前側に、排気装置27が取付けられる。排気装置27は、複数の排気管28と、これらの排気管28を集合させ後方へ延びている集合管29と、この集合管29の後端部に設けられるマフラ31とからなる。エンジン24は水冷式であり、エンジン24の前方に、ラジエータユニット32が配置される。
【0027】
メインフレーム12に、燃料タンク33が取付けられ、この燃料タンク33に続くようにシートレール15Lに、乗員シート34が取付けられる。
【0028】
フロントフォーク19に、前輪22の上方を覆うようにフロントフェンダ35が設けられる。ヘッドパイプ11にフロントカウル36が設けられ、このフロントカウル36にヘッドライト37が設けられている。
【0029】
ピボットプレート17Lに、ピボット軸38でリヤスイングアーム39が揺動自在に取付けられ、このリヤスイングアーム39の後端部に、後輪41が回転自在に取付けられる。リヤスイングアーム39とシートレール15Lが後輪懸架装置50L(詳細後述)で連結される。
【0030】
シートレール15Lの後端部に、後輪41の後方の斜め上を覆うようにリヤフェンダ51が設けられている。このリヤフェンダ51の上端に、テールランプ52が設けられ、リヤフェンダ51の上下方向中間部に、リフレクタ53が設けられる。
シートレール15Lにリヤカウル54が取付けられ、このリヤカウル54にグラブレール55が取付けられる。
【0031】
後輪懸架装置50Lを図2に基づいて説明する。
図2に示すように、後輪懸架装置50Lは、シートレール(図1、符号15L)及び後側ミドルフレーム16Lに設けたステー61に上端がボルト62で取付けられ減衰力を発生させるオイルを貯留するシリンダ63と、このシリンダ63に摺動可能に収納され下端がリヤスイングアーム39にボルト64で取付けられるピストンロッド65と、このピストンロッド65の上下方向中間部に取付けられピストンロッド65から径外方に延びて形成する下側ばね受け部材66と、シリンダ63の外周よりも径外方に配置され下側ばね受け部材66で支持されると共に伸縮作用を発揮するばね部材67と、シリンダ63の中間部外周に形成された雄ねじ部68Aに噛合いばね部材67を受ける上側ばね受け部材69A(詳細後述)と、シリンダ63の上端部に設けられシリンダ63の内部に窒素等のガスを供給するガスタンク71とからなる。ボルト62は、車体フレーム18の左右方向に延びている。
【0032】
後輪懸架装置50Lの上端は、ボルト62でステー61に揺動可能に止められ、後輪懸架装置50Lの下端は、ボルト64でリヤスイングアーム39に揺動可能に止められる。
なお、後輪懸架装置50Lは、実施例ではガスタンク71を有する形式としたが、ガスタンク71を有しない形式を適用してもよい。
【0033】
上側ばね受け部材69Aの構成を図3に基づいて説明する。
図3に示すように、上側ばね受け部材69Aは、雄ねじ部68Aに噛合う雌ねじ部(後述)を内周面に有する筒部76と、この筒部76の上端に一体に設けられシリンダ63の中心軸を基準にして径外方に延びて形成されると共にばね部材67の上端87に接触する板状のばね受け部77Aとからなる。
【0034】
筒部76に、シリンダ63の軸方向に沿って切込んで形成される受け部材側切込み78(詳細後述)が設けられる。
雄ねじ部68Aに、受け部材側切込み78と一致するように、シリンダ63の軸方向に沿って外周凹部79(詳細後述)が設けられる。
【0035】
上側ばね受け部材69Aを回し、上側ばね受け部材69Aを上下方向に移動させることで、ばね部材67の高さを調整する。このような作業により、ばね部材67の初期荷重の設定を行う。
【0036】
ところで、ばね部材67の初期荷重を設定した後、上側ばね受け部材69Aが回らないようにする必要がある。上側ばね受け部材69Aの回り止め構造を図4に基づいて説明する。
図4に示すように、雄ねじ部68Aの外周面に、径内方に向けて凹む外周凹部79が形成される。
加えて、ばね受け部77Aの内周面に、径外方に向けて凹む第1内周凹部81が形成される。この第1内周凹部81は、ばね受け部77Aの下面82を貫通して形成される。さらに、筒部76に、第1内周凹部81に連続する受け部材側切込み78が形成される。
【0037】
外周凹部79と第1内周凹部81とに、ピン形状の嵌合部材83を嵌合させることにより、上側ばね受け部材69Aの回り止めを行う。
受け部材側切込み78は、嵌合部材83の挿入通路になるため、嵌合部材83の挿入を円滑に行うことができる。
【0038】
なお、嵌合部材83は、外周凹部79と第1内周凹部81とに嵌合させた後、ばね部材(図3、符号67)の上端(図3、符号87)で支持される。
筒部76及びばね受け部77Aの内周面に、雄ねじ部68Aに噛合う雌ねじ部84が形成される。
【0039】
ばね受け部77Aと雄ねじ部68Aの断面構造を図5に基づいて説明する。
図5に示すように、外周凹部79は、シリンダ63を車体フレーム(図1、符号18)側に止めるボルト(図2、符号62)の軸方向と同方向に設けられると共に車体幅中心側に向けて凹んでいる。
【0040】
一方、ばね受け部77Aは、第1内周凹部81の他に、車体フレーム(図1、符号18)の車体幅中心側に位置し径外方に凹んで形成される第2内周凹部85を有する。第1内周凹部81と第2内周凹部85の間の角度は180°である。つまり、上側ばね受け部材69Aの上下方向の位置を180°ごとに設定できる。
ばね受け部77Aは、工具を用いて回す。そのため、ばね受け部77Aの外周面に、工具を掛けるために径内方に凹む工具掛け部86が複数設けられる。
【0041】
以上に述べた後輪懸架装置50Lの作用を次に述べる。
図6(a)に示すように、上側ばね受け部材69Aを矢印(1)のように回して、上側ばね受け部材69Aの雌ねじ部84をシリンダ63の雄ねじ部68Aにねじ込む。
【0042】
(b)に示すように、嵌合部材83を受け部材側切込み78に通して、嵌合部材83を雄ねじ部68Aの外周凹部79と上側ばね受け部材69Aの第1内周凹部81に挿入する。
(c)に示すように、嵌合部材83を外周凹部79と第1内周凹部81に嵌合させ、嵌合部材83をばね部材67の上端87で支持する。
【0043】
これまでに説明した後輪懸架装置50Lでは、雄ねじ部68Aの外周面に外周凹部79を設け、ばね受け部77Aの内周面に内周凹部81、85(図5参照)を設けた。この構造により、上側ばね受け部材69Aの上下方向の位置を180°ごとに設定できた。ところで、ばね部材67の初期荷重の設定は更に細かく調整できる方が好ましい。そこで、ばね部材67の初期荷重の設定は更に細かく調整できる例を次に説明する。
【0044】
図7において、図5と共通の構造は符号を流用して詳細な説明を省略する。主たる変更点は、外周凹部の数量を1個から2個に増加し、内周凹部の数量を2個から3個に増加したことである。
雄ねじ部68Bの外周面の車体前後方向後側に、径内方に凹む第1外周凹部88が設けられ、雄ねじ部68Bの外周面の車体前後方向前側に、径内方に凹む第2外周凹部89が設けられる。第1外周凹部88及び第2外周凹部89は、シリンダ63を車体側に止めるボルト(締結部材)62(図2参照)の軸方向と直交する位置に設けられる。
【0045】
上側ばね受け部材69Bのばね受け部77Bの内周面に、径外方に凹む内周凹部が120°の間隔で3個設けられる。この3個の内周凹部とは、初期状態にて、車体前後方向後側に配置される第1内周凹部91、車体前後方向前側車体幅中心寄りに配置される第2内周凹部92、車体前後方向前側左寄りに配置される第3内周凹部93である。
初期状態では、第1外周凹部88と第1内周凹部91に嵌合部材83を嵌合させる。
【0046】
雄ねじ部68Bとばね受け部77Bの作用を図8に基づいて説明する。
図8(a)に示すように、ばね受け部77Bは初期状態にある。第1外周凹部88と第1内周凹部91が対向し、凹部88、91から嵌合部材83が取外されている。ばね受け部77Bを矢印(2)のように60°回す。
(b)に示すように、第2外周凹部89と第2内周凹部92が対向する。ばね受け部77Bを矢印(3)のように60°回す。
【0047】
(c)に示すように、第1外周凹部88と第3内周凹部93が対向する。ばね受け部77Bを矢印(4)のように60°回す。
(d)に示すように、第1外周凹部88と第1内周凹部91が対向する。
このように、ばね受け部77Bを60°ずつ回すと、上側ばね受け部材69Bの上下方向の位置が変わる。そのため、ばね部材67の初期荷重の設定を更に細かく調整できる。
【0048】
これまでに説明した後輪懸架装置50Lでは、ピン形状の嵌合部材(図4、符号83)を用いた。ピン形状の嵌合部材は、ばね部材(図6、符号67)を圧縮させると落ちるため、取扱いに注意を要する。そのような注意を払わなくとも済む嵌合部材があれば、更に好ましい。ばね部材を圧縮させたときに嵌合部材の取扱いが容易である例を次に説明する。
【0049】
図9において、嵌合部材以外の構成要素の構造は図4と同様であり、必要に応じて図4を参照して説明する。主たる変更点は、嵌合部材を板ばね状に変更したことである。
嵌合部材94は、長手状の部材であり中間に凸状に形成された補強部95を有する本体部96と、この本体部96の左端部に設けられ側面視にてU字状に形成すると共に内周凹部(図4、符号81)に嵌合する内周側ばね部97と、本体部96の右端部に設けられ側面視にてU字状に形成されると共に外周凹部(図4、符号79)に嵌合する外周側ばね部98とからなる板ばね状の部材である。すなわち、嵌合部材94は、弾発性を有する。
【0050】
嵌合部材94の作用を図10に基づいて説明する。
図10(a)に示すように、嵌合部材94の内周側ばね部97が上側ばね受け部材69Aの第1内周凹部81に嵌合し、外周側ばね部98が雄ねじ部68Aの外周凹部79に嵌合している。
【0051】
そのため、ばね部材67を矢印(5)のように圧縮させても、(b)に示すように、嵌合部材94は、第1内周凹部81と外周凹部79に嵌合したままになる。
工具99を矢印(6)のように外周凹部79に挿入し、工具99で嵌合部材94を矢印(7)のように取外す。これで上側ばね受け部材69Aを回すことができるため、ばね部材67の初期荷重の設定作業を行うことができる。
【0052】
これまでに説明した後輪懸架装置50Lでは、ばね部材67の初期荷重の設定作業を行う前に、ばね部材67を圧縮するため、準備作業に時間が掛かった。準備作業時間を短縮できれば、ばね部材67の初期荷重の設定作業により早く取りかかることができ、より好ましくなる。そこで、準備作業時間を短縮できる例を次に説明する。
【0053】
図11において、嵌合部材以外の構成要素の構造は図4と同様であり、必要に応じて図4を参照して説明する。主たる変更点は、嵌合部材を突起部とばねの構成に変更したことである。
嵌合部材101は、長手状の部材でありシリンダ(図4、符号63)側が嵌合する本体部103と、この本体部103のシリンダ(図4、符号63)側に円弧状に形成され外周凹部(図4、符号79)に接触する押圧面102と、本体部103のシリンダ側上面に傾斜して形成される傾斜面109と、本体部103の長手方向に沿って本体部103に形成した穴部104に挿入され接触端106が内周凹部(図4、符号81)に接触して本体部103を外周凹部に付勢するばね105とからなる。
【0054】
嵌合部材101の作用を図12に基づいて説明する。
図12(a)に示すように、本体部103が雄ねじ部68Aの外周凹部79に嵌合している。解除手段107を上側ばね受け部材69Aの穴108に矢印(8)のように挿入する。
【0055】
(b)に示すように、解除手段107の下部111で、本体部103が上側ばね受け部材69Aの外側に押され、嵌合部材101と外周凹部79の嵌合が解かれている。上側ばね受け部材69Aは、解除手段107を挿入したまま回すことが可能である。
上側ばね受け部材69Aに、嵌合部材101が弾発性を保持した状態にあるとき、嵌合部材101の弾発保持状態を外部から解除する解除手段107が着脱可能に設けられる。
【0056】
以上に述べた後輪懸架装置50Lの作用効果を以下に記載する。
図4に示す構成により、ばね受け部材69Aの回り止めは嵌合部材83で行うため、ばね部材の初期荷重を設定するとき、嵌合部材83を外周凹部79と内周凹部81から取り外し、ばね受け部材69Aを回すだけでよい。したがって、ばね部材の種類によらず、ばね部材の初期荷重の設定作業を容易に行うことができる。
【0057】
図7に示す構成により、外周凹部88、89、内周凹部91、92、93のように、外周凹部又は内周凹部を複数設けるため、ばね受け部材69Bの回転角度を小さく設定することができる。ばね受け部材69Bの回転角度を小さくすると、ばね部材の初期荷重を微調整することができる。
【0058】
図6(b)に示す構成により、内周凹部81がばね受け部材69Aの下面を貫通して形成される。そのため、図6(c)に示すように、内周凹部81を下方から覗くと、嵌合部材83を位置を視認することができる。嵌合部材83を下方から視認することで、嵌合部材83の取付状態を確認することが可能となる。
【0059】
図5に示すように、外周凹部79は、シリンダ63を車体フレーム側に止めるボルトの軸方向と同方向に設けられると共に車体幅中心側に向けて凹んでいる。この構成により、締結部材(ボルト)の軸方向と同方向は、車体左右方向に沿う位置となる。加えて、外周凹部79が車体幅中心側に向けて凹んでいるため、車体の側方から嵌合部材83を外周凹部79に容易に嵌合させることができる。外周凹部79に対する嵌合部材83の嵌合が容易になるので、ばね部材の初期荷重の設定作業がしやすくなる。
【0060】
図10(b)に示す構成により、弾発性を有する嵌合部材94を、外周凹部79と内周凹部81とに嵌合させているため、ばね部材を圧縮したときでも、嵌合部材94が落ちずに保持される。嵌合部材94が保持されるので、嵌合部材94を落として紛失しにくくなる。
【0061】
図12(b)に示す構成により、解除手段107で、嵌合部材101の弾発保持状態を解除するため、ばね部材67を圧縮しなくとも、ばね受け部材69Aの回転が可能となる。解除手段107を用いることにより、ばね受け部材69Aを回転させるまでの時間を短くすることができるので、作業効率が大幅に向上する。
【0062】
尚、本発明に係る懸架装置は、実施の形態では自動二輪車に適用したが、三輪車や四輪車にも適用可能であり、一般の車両に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の懸架装置は、自動二輪車に好適である。
【符号の説明】
【0064】
10…自動二輪車、18…車体、50L…懸架装置、62…締結部材、63…シリンダ、65…ピストンロッド、67…ばね部材、68A…雄ねじ部、69A…ばね受け部材、79…外周凹部、81、91、92、93…内周凹部、82…下面、83、94、101…嵌合部材、84…雌ねじ部、107…解除手段。
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダとばね部材とを主要素とする懸架装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の懸架装置として、減衰力を発生するシリンダと伸縮作用を発揮するばね部材から構成されたものがよく知られている。
ばね部材の初期荷重を変更することにより、車両の乗り心地を乗員の好みに合わせることができる。
【0003】
ばねの初期荷重を変更できる懸架装置が各種提案されている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0004】
特許文献1の図1に示すように、懸架装置(1)(括弧付き番号は特許文献1に記載されている符号を示す。以下同じ)は、外周に雄ねじ部を有するシリンダ(13)と、シリンダ(13)の雄ねじ部に噛合う雌ねじ部を有すると共にばね部材(2)を受けるばね受け部材(15)とを備える。ばね受け部材(15)には、2つの切割り(18、19)が設けられる。
【0005】
ばね受け部材(15)を回して上方へ移動させると、ばね部材(2)が圧縮され、ばね受け部材(15)にばね部材(2)の圧縮で生じる反力が掛かる。ばね受け部材(15)は切割り(18、19)によってたわみやすいため、ばね受け部材(15)の雌ねじ部がシリンダ(13)の雄ねじ部に押付けられる。雌ねじ部を雄ねじ部に押付けることで、ばね受け部材(15)の回り止めが図られる。
【0006】
ところで、ばね力(ばね反力)が大きなばね部材に、ばね部材(2)の種類を変更する場合がある。この場合には、ばね受け部材(15)の剛性をばね力に応じて増加する必要がある。しかし、剛性を高めるとばね受け部材(15)のたわみが小さくなり、所望の回り止め性能が得られなくなる。言い換えると、ばね部材(2)の初期荷重の設定作業は、所定のばね部材(2)に対して実施可能であり、ばね部材の選択の自由度が少なくなる。
【0007】
しかし、乗員の好みが多様化する中、多種のばね部材から所望のばね部材を選択できることが望まれる。
そこで、ばね部材の種類によらず、ばね部材の初期荷重の設定作業を容易に行うことができる懸架装置が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−194125公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ばね部材の種類によらず、ばね部材の初期荷重の設定作業を容易に行うことができる懸架装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、ピストンロッドが摺動可能に収納され減衰力を発生するシリンダと、このシリンダの外周よりも径外方に配置され伸縮作用を発揮するばね部材と、前記シリンダの外周に形成される雄ねじ部と、この雄ねじ部に噛合う雌ねじ部を有し前記ばね部材を受けるばね受け部材とを備える懸架装置において、前記雄ねじ部の外周面に、径内方に向けて凹む外周凹部が形成され、前記ばね受け部材の内周面に、径外方に向けて凹む内周凹部が形成され、前記外周凹部と前記内周凹部とに、前記ばね受け部材の回り止めを行う嵌合部材が嵌合されることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明では、外周凹部又は内周凹部は、複数設けられることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明では、内周凹部は、ばね受け部材の下面を貫通して形成されることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明では、外周凹部は、シリンダを車体側に止める締結部材の軸方向と同方向に設けられると共に車体幅中心側に向けて凹んでいることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明では、嵌合部材は、弾発性を有することを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る発明では、嵌合部材が弾発性を保持した状態にあるとき、前記嵌合部材の弾発保持状態を外部から解除する解除手段が、ばね受け部材に着脱可能に設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明では、雄ねじ部の外周面に、径内方に向けて凹む外周凹部が形成され、ばね受け部材の内周面に、径外方に向けて凹む内周凹部が形成され、外周凹部と内周凹部とに、ばね受け部材の回り止めを行う嵌合部材が嵌合される。
ばね受け部材の回り止めは嵌合部材で行うため、ばね部材の初期荷重を設定するとき、嵌合部材を外周凹部と内周凹部から取り外し、ばね受け部材を回すだけでよい。したがって、ばね部材の種類によらず、ばね部材の初期荷重の設定作業を容易に行うことができる。
【0017】
請求項2に係る発明では、外周凹部又は内周凹部は、複数設けられる。
外周凹部又は内周凹部を複数設けるため、ばね受け部材の回転角度を小さく設定することができる。ばね受け部材の回転角度を小さくすると、ばね部材の初期荷重を微調整することができる。
【0018】
請求項3に係る発明では、内周凹部は、ばね受け部材の下面を貫通して形成される。
内周凹部がばね受け部材の下面を貫通して形成されるため、内周凹部を下方から覗くと、嵌合部材を位置を視認することができる。嵌合部材を下方から視認することで、嵌合部材の取付状態を確認することが可能となる。
【0019】
請求項4に係る発明では、外周凹部は、シリンダを車体側に止める締結部材の軸方向と同方向に設けられると共に車体幅中心側に向けて凹んでいる。
締結部材の軸方向と同方向は、車体左右方向に沿う位置となる。加えて、外周凹部が車体幅中心側に向けて凹んでいるため、車体の側方から嵌合部材を外周凹部に容易に嵌合させることができる。外周凹部に対する嵌合部材の嵌合が容易になるので、ばね部材の初期荷重の設定作業がしやすくなる。
【0020】
請求項5に係る発明では、嵌合部材は、弾発性を有する。
弾発性を有する嵌合部材を、外周凹部と内周凹部とに嵌合させているため、ばね部材を圧縮したときでも、嵌合部材が落ちずに保持される。嵌合部材が保持されるので、嵌合部材を落として紛失しにくくなる。
【0021】
請求項6に係る発明では、嵌合部材が弾発性を保持した状態にあるとき、嵌合部材の弾発保持状態を外部から解除する解除手段が、ばね受け部材に着脱可能に設けられる。
解除手段で、嵌合部材の弾発保持状態を解除するため、ばね部材を圧縮しなくとも、ばね受け部材の回転が可能となる。解除手段を用いることにより、ばね受け部材を回転させるまでの時間を短くすることができるので、作業効率が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る懸架装置を備えた自動二輪車の左側面図である。
【図2】自動二輪車後部の左側面図である。
【図3】図2の3部拡大図である。
【図4】ばね受け部材とシリンダの分解斜視図である。
【図5】図3の5−5線断面図である。
【図6】ばね受け部材をシリンダに取付けてから嵌合部材を外周凹部及び内周凹部に嵌合させるまでの作用を説明する図である。
【図7】図5の変更例を示す図である。
【図8】図7に示す外周凹部と内周凹部の作用を説明する図である。
【図9】図4の変更例を示す図である。
【図10】図9に示す嵌合部材の作用を説明する図である。
【図11】図4の更なる変更例を示す図である。
【図12】図11に示す嵌合部材の作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。また、以下の説明で用いる前後、左右、上下は乗員シートに座った乗員を基準に定める。
【実施例】
【0024】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、自動二輪車10は、ヘッドパイプ11と、このヘッドパイプ11から後方へ延ばされるメインフレーム12と、ヘッドパイプ11から後方の斜め下へ延ばされ更に後方へ延ばされるダウンフレーム13L(Lは左を示す添え字。以下同様)と、メインフレーム12の後端部とダウンフレーム13Lの後端部に連結される前側ミドルフレーム14Lと、メインフレーム12の後端部から後方へ延ばされるシートレール15Lと、ダウンフレーム13Lの後端部とシートレール15Lに渡されている後側ミドルフレーム16Lと、前側ミドルフレーム14Lの下端部とダウンフレーム13Lの後端部に取付けられるピボットプレート17Lとからなる車体フレーム18を有する。
【0025】
ヘッドパイプ11に、ステアリング軸19を介してフロントフォーク(前輪懸架装置)21が転舵自在に取付けられる。フロントフォーク21の下端に、前輪22が回転自在に取付けられる。
ステアリング軸19の上端に、ステアリングハンドル23が取付けられる。
【0026】
メインフレーム12及びダウンフレーム13Lに、エンジン24が取付けられる。このエンジン24のシリンダヘッド25後側に、吸気装置26が取付けられ、シリンダヘッド25前側に、排気装置27が取付けられる。排気装置27は、複数の排気管28と、これらの排気管28を集合させ後方へ延びている集合管29と、この集合管29の後端部に設けられるマフラ31とからなる。エンジン24は水冷式であり、エンジン24の前方に、ラジエータユニット32が配置される。
【0027】
メインフレーム12に、燃料タンク33が取付けられ、この燃料タンク33に続くようにシートレール15Lに、乗員シート34が取付けられる。
【0028】
フロントフォーク19に、前輪22の上方を覆うようにフロントフェンダ35が設けられる。ヘッドパイプ11にフロントカウル36が設けられ、このフロントカウル36にヘッドライト37が設けられている。
【0029】
ピボットプレート17Lに、ピボット軸38でリヤスイングアーム39が揺動自在に取付けられ、このリヤスイングアーム39の後端部に、後輪41が回転自在に取付けられる。リヤスイングアーム39とシートレール15Lが後輪懸架装置50L(詳細後述)で連結される。
【0030】
シートレール15Lの後端部に、後輪41の後方の斜め上を覆うようにリヤフェンダ51が設けられている。このリヤフェンダ51の上端に、テールランプ52が設けられ、リヤフェンダ51の上下方向中間部に、リフレクタ53が設けられる。
シートレール15Lにリヤカウル54が取付けられ、このリヤカウル54にグラブレール55が取付けられる。
【0031】
後輪懸架装置50Lを図2に基づいて説明する。
図2に示すように、後輪懸架装置50Lは、シートレール(図1、符号15L)及び後側ミドルフレーム16Lに設けたステー61に上端がボルト62で取付けられ減衰力を発生させるオイルを貯留するシリンダ63と、このシリンダ63に摺動可能に収納され下端がリヤスイングアーム39にボルト64で取付けられるピストンロッド65と、このピストンロッド65の上下方向中間部に取付けられピストンロッド65から径外方に延びて形成する下側ばね受け部材66と、シリンダ63の外周よりも径外方に配置され下側ばね受け部材66で支持されると共に伸縮作用を発揮するばね部材67と、シリンダ63の中間部外周に形成された雄ねじ部68Aに噛合いばね部材67を受ける上側ばね受け部材69A(詳細後述)と、シリンダ63の上端部に設けられシリンダ63の内部に窒素等のガスを供給するガスタンク71とからなる。ボルト62は、車体フレーム18の左右方向に延びている。
【0032】
後輪懸架装置50Lの上端は、ボルト62でステー61に揺動可能に止められ、後輪懸架装置50Lの下端は、ボルト64でリヤスイングアーム39に揺動可能に止められる。
なお、後輪懸架装置50Lは、実施例ではガスタンク71を有する形式としたが、ガスタンク71を有しない形式を適用してもよい。
【0033】
上側ばね受け部材69Aの構成を図3に基づいて説明する。
図3に示すように、上側ばね受け部材69Aは、雄ねじ部68Aに噛合う雌ねじ部(後述)を内周面に有する筒部76と、この筒部76の上端に一体に設けられシリンダ63の中心軸を基準にして径外方に延びて形成されると共にばね部材67の上端87に接触する板状のばね受け部77Aとからなる。
【0034】
筒部76に、シリンダ63の軸方向に沿って切込んで形成される受け部材側切込み78(詳細後述)が設けられる。
雄ねじ部68Aに、受け部材側切込み78と一致するように、シリンダ63の軸方向に沿って外周凹部79(詳細後述)が設けられる。
【0035】
上側ばね受け部材69Aを回し、上側ばね受け部材69Aを上下方向に移動させることで、ばね部材67の高さを調整する。このような作業により、ばね部材67の初期荷重の設定を行う。
【0036】
ところで、ばね部材67の初期荷重を設定した後、上側ばね受け部材69Aが回らないようにする必要がある。上側ばね受け部材69Aの回り止め構造を図4に基づいて説明する。
図4に示すように、雄ねじ部68Aの外周面に、径内方に向けて凹む外周凹部79が形成される。
加えて、ばね受け部77Aの内周面に、径外方に向けて凹む第1内周凹部81が形成される。この第1内周凹部81は、ばね受け部77Aの下面82を貫通して形成される。さらに、筒部76に、第1内周凹部81に連続する受け部材側切込み78が形成される。
【0037】
外周凹部79と第1内周凹部81とに、ピン形状の嵌合部材83を嵌合させることにより、上側ばね受け部材69Aの回り止めを行う。
受け部材側切込み78は、嵌合部材83の挿入通路になるため、嵌合部材83の挿入を円滑に行うことができる。
【0038】
なお、嵌合部材83は、外周凹部79と第1内周凹部81とに嵌合させた後、ばね部材(図3、符号67)の上端(図3、符号87)で支持される。
筒部76及びばね受け部77Aの内周面に、雄ねじ部68Aに噛合う雌ねじ部84が形成される。
【0039】
ばね受け部77Aと雄ねじ部68Aの断面構造を図5に基づいて説明する。
図5に示すように、外周凹部79は、シリンダ63を車体フレーム(図1、符号18)側に止めるボルト(図2、符号62)の軸方向と同方向に設けられると共に車体幅中心側に向けて凹んでいる。
【0040】
一方、ばね受け部77Aは、第1内周凹部81の他に、車体フレーム(図1、符号18)の車体幅中心側に位置し径外方に凹んで形成される第2内周凹部85を有する。第1内周凹部81と第2内周凹部85の間の角度は180°である。つまり、上側ばね受け部材69Aの上下方向の位置を180°ごとに設定できる。
ばね受け部77Aは、工具を用いて回す。そのため、ばね受け部77Aの外周面に、工具を掛けるために径内方に凹む工具掛け部86が複数設けられる。
【0041】
以上に述べた後輪懸架装置50Lの作用を次に述べる。
図6(a)に示すように、上側ばね受け部材69Aを矢印(1)のように回して、上側ばね受け部材69Aの雌ねじ部84をシリンダ63の雄ねじ部68Aにねじ込む。
【0042】
(b)に示すように、嵌合部材83を受け部材側切込み78に通して、嵌合部材83を雄ねじ部68Aの外周凹部79と上側ばね受け部材69Aの第1内周凹部81に挿入する。
(c)に示すように、嵌合部材83を外周凹部79と第1内周凹部81に嵌合させ、嵌合部材83をばね部材67の上端87で支持する。
【0043】
これまでに説明した後輪懸架装置50Lでは、雄ねじ部68Aの外周面に外周凹部79を設け、ばね受け部77Aの内周面に内周凹部81、85(図5参照)を設けた。この構造により、上側ばね受け部材69Aの上下方向の位置を180°ごとに設定できた。ところで、ばね部材67の初期荷重の設定は更に細かく調整できる方が好ましい。そこで、ばね部材67の初期荷重の設定は更に細かく調整できる例を次に説明する。
【0044】
図7において、図5と共通の構造は符号を流用して詳細な説明を省略する。主たる変更点は、外周凹部の数量を1個から2個に増加し、内周凹部の数量を2個から3個に増加したことである。
雄ねじ部68Bの外周面の車体前後方向後側に、径内方に凹む第1外周凹部88が設けられ、雄ねじ部68Bの外周面の車体前後方向前側に、径内方に凹む第2外周凹部89が設けられる。第1外周凹部88及び第2外周凹部89は、シリンダ63を車体側に止めるボルト(締結部材)62(図2参照)の軸方向と直交する位置に設けられる。
【0045】
上側ばね受け部材69Bのばね受け部77Bの内周面に、径外方に凹む内周凹部が120°の間隔で3個設けられる。この3個の内周凹部とは、初期状態にて、車体前後方向後側に配置される第1内周凹部91、車体前後方向前側車体幅中心寄りに配置される第2内周凹部92、車体前後方向前側左寄りに配置される第3内周凹部93である。
初期状態では、第1外周凹部88と第1内周凹部91に嵌合部材83を嵌合させる。
【0046】
雄ねじ部68Bとばね受け部77Bの作用を図8に基づいて説明する。
図8(a)に示すように、ばね受け部77Bは初期状態にある。第1外周凹部88と第1内周凹部91が対向し、凹部88、91から嵌合部材83が取外されている。ばね受け部77Bを矢印(2)のように60°回す。
(b)に示すように、第2外周凹部89と第2内周凹部92が対向する。ばね受け部77Bを矢印(3)のように60°回す。
【0047】
(c)に示すように、第1外周凹部88と第3内周凹部93が対向する。ばね受け部77Bを矢印(4)のように60°回す。
(d)に示すように、第1外周凹部88と第1内周凹部91が対向する。
このように、ばね受け部77Bを60°ずつ回すと、上側ばね受け部材69Bの上下方向の位置が変わる。そのため、ばね部材67の初期荷重の設定を更に細かく調整できる。
【0048】
これまでに説明した後輪懸架装置50Lでは、ピン形状の嵌合部材(図4、符号83)を用いた。ピン形状の嵌合部材は、ばね部材(図6、符号67)を圧縮させると落ちるため、取扱いに注意を要する。そのような注意を払わなくとも済む嵌合部材があれば、更に好ましい。ばね部材を圧縮させたときに嵌合部材の取扱いが容易である例を次に説明する。
【0049】
図9において、嵌合部材以外の構成要素の構造は図4と同様であり、必要に応じて図4を参照して説明する。主たる変更点は、嵌合部材を板ばね状に変更したことである。
嵌合部材94は、長手状の部材であり中間に凸状に形成された補強部95を有する本体部96と、この本体部96の左端部に設けられ側面視にてU字状に形成すると共に内周凹部(図4、符号81)に嵌合する内周側ばね部97と、本体部96の右端部に設けられ側面視にてU字状に形成されると共に外周凹部(図4、符号79)に嵌合する外周側ばね部98とからなる板ばね状の部材である。すなわち、嵌合部材94は、弾発性を有する。
【0050】
嵌合部材94の作用を図10に基づいて説明する。
図10(a)に示すように、嵌合部材94の内周側ばね部97が上側ばね受け部材69Aの第1内周凹部81に嵌合し、外周側ばね部98が雄ねじ部68Aの外周凹部79に嵌合している。
【0051】
そのため、ばね部材67を矢印(5)のように圧縮させても、(b)に示すように、嵌合部材94は、第1内周凹部81と外周凹部79に嵌合したままになる。
工具99を矢印(6)のように外周凹部79に挿入し、工具99で嵌合部材94を矢印(7)のように取外す。これで上側ばね受け部材69Aを回すことができるため、ばね部材67の初期荷重の設定作業を行うことができる。
【0052】
これまでに説明した後輪懸架装置50Lでは、ばね部材67の初期荷重の設定作業を行う前に、ばね部材67を圧縮するため、準備作業に時間が掛かった。準備作業時間を短縮できれば、ばね部材67の初期荷重の設定作業により早く取りかかることができ、より好ましくなる。そこで、準備作業時間を短縮できる例を次に説明する。
【0053】
図11において、嵌合部材以外の構成要素の構造は図4と同様であり、必要に応じて図4を参照して説明する。主たる変更点は、嵌合部材を突起部とばねの構成に変更したことである。
嵌合部材101は、長手状の部材でありシリンダ(図4、符号63)側が嵌合する本体部103と、この本体部103のシリンダ(図4、符号63)側に円弧状に形成され外周凹部(図4、符号79)に接触する押圧面102と、本体部103のシリンダ側上面に傾斜して形成される傾斜面109と、本体部103の長手方向に沿って本体部103に形成した穴部104に挿入され接触端106が内周凹部(図4、符号81)に接触して本体部103を外周凹部に付勢するばね105とからなる。
【0054】
嵌合部材101の作用を図12に基づいて説明する。
図12(a)に示すように、本体部103が雄ねじ部68Aの外周凹部79に嵌合している。解除手段107を上側ばね受け部材69Aの穴108に矢印(8)のように挿入する。
【0055】
(b)に示すように、解除手段107の下部111で、本体部103が上側ばね受け部材69Aの外側に押され、嵌合部材101と外周凹部79の嵌合が解かれている。上側ばね受け部材69Aは、解除手段107を挿入したまま回すことが可能である。
上側ばね受け部材69Aに、嵌合部材101が弾発性を保持した状態にあるとき、嵌合部材101の弾発保持状態を外部から解除する解除手段107が着脱可能に設けられる。
【0056】
以上に述べた後輪懸架装置50Lの作用効果を以下に記載する。
図4に示す構成により、ばね受け部材69Aの回り止めは嵌合部材83で行うため、ばね部材の初期荷重を設定するとき、嵌合部材83を外周凹部79と内周凹部81から取り外し、ばね受け部材69Aを回すだけでよい。したがって、ばね部材の種類によらず、ばね部材の初期荷重の設定作業を容易に行うことができる。
【0057】
図7に示す構成により、外周凹部88、89、内周凹部91、92、93のように、外周凹部又は内周凹部を複数設けるため、ばね受け部材69Bの回転角度を小さく設定することができる。ばね受け部材69Bの回転角度を小さくすると、ばね部材の初期荷重を微調整することができる。
【0058】
図6(b)に示す構成により、内周凹部81がばね受け部材69Aの下面を貫通して形成される。そのため、図6(c)に示すように、内周凹部81を下方から覗くと、嵌合部材83を位置を視認することができる。嵌合部材83を下方から視認することで、嵌合部材83の取付状態を確認することが可能となる。
【0059】
図5に示すように、外周凹部79は、シリンダ63を車体フレーム側に止めるボルトの軸方向と同方向に設けられると共に車体幅中心側に向けて凹んでいる。この構成により、締結部材(ボルト)の軸方向と同方向は、車体左右方向に沿う位置となる。加えて、外周凹部79が車体幅中心側に向けて凹んでいるため、車体の側方から嵌合部材83を外周凹部79に容易に嵌合させることができる。外周凹部79に対する嵌合部材83の嵌合が容易になるので、ばね部材の初期荷重の設定作業がしやすくなる。
【0060】
図10(b)に示す構成により、弾発性を有する嵌合部材94を、外周凹部79と内周凹部81とに嵌合させているため、ばね部材を圧縮したときでも、嵌合部材94が落ちずに保持される。嵌合部材94が保持されるので、嵌合部材94を落として紛失しにくくなる。
【0061】
図12(b)に示す構成により、解除手段107で、嵌合部材101の弾発保持状態を解除するため、ばね部材67を圧縮しなくとも、ばね受け部材69Aの回転が可能となる。解除手段107を用いることにより、ばね受け部材69Aを回転させるまでの時間を短くすることができるので、作業効率が大幅に向上する。
【0062】
尚、本発明に係る懸架装置は、実施の形態では自動二輪車に適用したが、三輪車や四輪車にも適用可能であり、一般の車両に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の懸架装置は、自動二輪車に好適である。
【符号の説明】
【0064】
10…自動二輪車、18…車体、50L…懸架装置、62…締結部材、63…シリンダ、65…ピストンロッド、67…ばね部材、68A…雄ねじ部、69A…ばね受け部材、79…外周凹部、81、91、92、93…内周凹部、82…下面、83、94、101…嵌合部材、84…雌ねじ部、107…解除手段。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンロッド(65)が摺動可能に収納され減衰力を発生するシリンダ(63)と、このシリンダ(63)の外周よりも径外方に配置され伸縮作用を発揮するばね部材(67)と、前記シリンダ(63)の外周に形成される雄ねじ部(68A)と、この雄ねじ部(68A)に噛合う雌ねじ部(84)を有し前記ばね部材(67)を受けるばね受け部材(69A)とを備える懸架装置(50L)において、
前記雄ねじ部(68A)の外周面に、径内方に向けて凹む外周凹部(79)が形成され、
前記ばね受け部材(69A)の内周面に、径外方に向けて凹む内周凹部(81)が形成され、
前記外周凹部(79)と前記内周凹部(81)とに、前記ばね受け部材(69A)の回り止めを行う嵌合部材(83)が嵌合されることを特徴とする懸架装置。
【請求項2】
前記外周凹部又は前記内周凹部は、複数(91〜92、88、89)設けられることを特徴とする請求項1記載の懸架装置。
【請求項3】
前記内周凹部(81)は、前記ばね受け部材(69A)の下面(82)を貫通して形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の懸架装置。
【請求項4】
前記外周凹部(79)は、前記シリンダ(63)を車体(18)側に止める締結部材(62)の軸方向と同方向に設けられると共に車体幅中心側に向けて凹んでいることを特徴とする請求項1又は請求項3記載の懸架装置。
【請求項5】
前記嵌合部材(94)は、弾発性を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の懸架装置。
【請求項6】
前記嵌合部材(101)が前記弾発性を保持した状態にあるとき、前記嵌合部材(101)の弾発保持状態を外部から解除する解除手段(107)が、前記ばね受け部材(69A)に着脱可能に設けられることを特徴とする請求項5記載の懸架装置。
【請求項1】
ピストンロッド(65)が摺動可能に収納され減衰力を発生するシリンダ(63)と、このシリンダ(63)の外周よりも径外方に配置され伸縮作用を発揮するばね部材(67)と、前記シリンダ(63)の外周に形成される雄ねじ部(68A)と、この雄ねじ部(68A)に噛合う雌ねじ部(84)を有し前記ばね部材(67)を受けるばね受け部材(69A)とを備える懸架装置(50L)において、
前記雄ねじ部(68A)の外周面に、径内方に向けて凹む外周凹部(79)が形成され、
前記ばね受け部材(69A)の内周面に、径外方に向けて凹む内周凹部(81)が形成され、
前記外周凹部(79)と前記内周凹部(81)とに、前記ばね受け部材(69A)の回り止めを行う嵌合部材(83)が嵌合されることを特徴とする懸架装置。
【請求項2】
前記外周凹部又は前記内周凹部は、複数(91〜92、88、89)設けられることを特徴とする請求項1記載の懸架装置。
【請求項3】
前記内周凹部(81)は、前記ばね受け部材(69A)の下面(82)を貫通して形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の懸架装置。
【請求項4】
前記外周凹部(79)は、前記シリンダ(63)を車体(18)側に止める締結部材(62)の軸方向と同方向に設けられると共に車体幅中心側に向けて凹んでいることを特徴とする請求項1又は請求項3記載の懸架装置。
【請求項5】
前記嵌合部材(94)は、弾発性を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の懸架装置。
【請求項6】
前記嵌合部材(101)が前記弾発性を保持した状態にあるとき、前記嵌合部材(101)の弾発保持状態を外部から解除する解除手段(107)が、前記ばね受け部材(69A)に着脱可能に設けられることを特徴とする請求項5記載の懸架装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−2620(P2013−2620A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137673(P2011−137673)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]