説明

成形機、その成形機を用いたモールドモータの製造方法及びその製造方法によるモールドモータ

【課題】熱硬化性樹脂成形機では、副上金型で熱硬化性樹脂が直接接触・加圧されながら金型の内に充填するため、副上金型に直接接触している熱硬化性樹脂に流動が生じず、副上金型で形成される製品の一部の外観不具合やボイドの発生していた。
【解決手段】工程(a)は分割されたプランジャー9と分割された副上金型10が機械的に連結され、最終的にモールドモータを形成する形状とは異なった凹状の形態で、固定子巻線4と固定子鉄芯5が設置された金型の内に熱硬化性樹脂6を加圧・充填する前段階を示している。工程(b)は金型の内に熱硬化性樹脂を加圧・充填している工程を示しており、このとき、分割されたプランジャー9と分割された副上金型10が機械的に連結された部分は、最終的にモールドモータを形成する形状とは異なった凹状の形態で加圧・充填する段階を示している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に空調機や給湯器や洗濯機に使用されているモールドモータの製造に使用される熱硬化性樹脂成形機および金型に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モータは図3に示すように制振性、形状任意性、信頼性の良さを活かした、熱硬化性樹脂により固定子全体を成形することが広く採用されている。
【0003】
また、従来から使用されているモールドモータを成形する熱硬化性樹脂成形機を図2を参照しながら説明する。図2は熱硬化性樹脂成形機とその金型を示す略図である。熱硬化性樹脂6はポット16に挿入され、モータの巻線完成品4、5が設置された上金型11、下金型12、モータの巻線完成品の内径を保持する金型中芯15で構成される金型の内にプランジャー13で加圧され、副上金型14で熱硬化性樹脂が直接接触・加圧しながら前記金型の内に充填される。充填された後に熱硬化性樹脂6は金型の熱エネルギーにより硬化し不溶不融の樹脂となり、モールドモータの固定子を形成する。この成形方法は一般的にトランスファー成形と呼ばれている。(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−178232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来から使用している熱硬化性樹脂成形機では、副上金型で熱硬化性樹脂が直接接触・加圧されながら金型の内に充填するため、副上金型に直接接触している熱硬化性樹脂に流動が生じず、副上金型で形成される製品の一部の外観不具合やボイドの発生が問題となっていた。また、ベアリングハウジングの寸法精度も悪化し、近年の低振動化・低騒音化には対応し難く、さらなる振動・騒音の低減が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記従来の課題を解決するために、本発明は、熱硬化性樹脂を挿入するポットを有し、前記熱硬化性樹脂を金型の内に加圧充填するために稼動させるプランジャーを有し、前記金型のうちの上金型の少なくとも一部を可動自在な副上金型を設ける構成とし、この可動自在な副上金型で前記ポット内に挿入された前記熱硬化性樹脂を前記金型の内に加圧充填し、かつ、この可動自在な副上金型で前記熱硬化性樹脂の成形品の一部の形状を形成し、かつ、前記金型は前記成形樹脂品の成形に生じるランナー部が生じない構成を有する成形機において、プランジャーの熱硬化性樹脂を加圧する面が2面以上に分割され、分割されたプランジャーの熱硬化性樹脂を加圧する面が、それぞれ加圧機によって制御できる構成のプランジャーであり、かつ、前記副上金型は前記プランジャーと同様に分割されており、プランジャーの制御と連動して可動する構成を有する成形機としたものである。この発明によると、成形時に生じていたランナーを生じず、かつ、成形時に生じていた外観不具合やボイドの発生を低減でき、かつ、モールドモータの振動・低騒が低減できる。
【0007】
以下、具体的に説明する。まず、本件出願の第1の発明は、熱硬化性樹脂を挿入するポットを有し、前記熱硬化性樹脂を金型の内に加圧充填するために稼動させるプランジャーを有する成形機において、前記プランジャーの前記熱硬化性樹脂を加圧する面は2面以上に分割され、分割されたプランジャーの熱硬化性樹脂を加圧する面が、それぞれ加圧機によって制御できる構成を有する成形機としたものであり、金型の内に熱硬化性樹脂を加圧充填する際に、金型の内を流動する熱硬化性樹脂を正確に制御できるという作用がある。ここで、分割するプランジャーの面は円形、かつ、分割されたプランジャーのそれぞれの面の面積が概ね同一であることが好ましい。これは、金型の内に熱硬化性樹脂を加圧充填する際に、分割されたプランジャーのそれぞれの面積の差が大きいほど、金型の内を流動する熱硬化性樹脂を正確に制御できなくなり、加圧充填される熱硬化性樹脂内の空気が逃げにくくなり、成形品にボイドが発生しやすくなる。また、分割されたそれぞれのプランジャーの面は油圧、バネ、電動機等の加圧機で制御することが好ましい。
【0008】
ここでいう熱硬化性樹脂とは、不飽和ポリエステル樹脂成形材料やエポキシ樹脂成形材料等、硬化することで3次元架橋が行われ不溶不融の硬化物となる樹脂に無機充填材としては炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、クレー、タルク等が、補強剤としてはガラス繊維、ビニロン繊維等使用されている成形材料のことである
また、第2の発明は、熱硬化性樹脂を挿入するポットを有し、前記熱硬化性樹脂を金型の内に加圧充填するために稼動させるプランジャーを有し、前記金型のうちの上金型の少なくとも一部を可動自在な副上金型を設ける構成とし、この可動自在な副上金型で前記ポット内に挿入された前記熱硬化性樹脂を前記金型の内に加圧充填し、かつ、この可動自在な副上金型で前記熱硬化性樹脂の成形品の一部の形状を形成し、かつ、前記金型は前記成形樹脂品の成形に生じるランナー部が生じない構成を有する成形機において、プランジャーが第1の発明と同様のプランジャーであり、かつ、前記副上金型は第1の発明のプランジャーと同様に分割されており、プランジャーの制御と連動して可動する構成を有する成形機とその金型としたものであり、成形時に生じるランナーを生じず、かつ、金型の内を流動する熱硬化性樹脂を正確に制御することが可能となり、成形時に生じていた外観不具合やボイドの発生を低減できるという作用がある。ここで、副上金型と金型の温度は同一であることが好ましい。また、分割する副上金型の面は円形、かつ、分割された副上金型のそれぞれの面の面積が概ね同一であることが好ましい。
【0009】
第3の発明は、第2の発明の成形機・金型を用いてモータ外周をモールドしたモールドモータとすることで再利用不能なランナーを発生させず、かつ、ランナー部とモールドモータの切断面がなく、かつ、成形時に生じる外観不具合やボイドが発生しない成形を実現できる。また、この方法で成形したモールドモータのベアリングハウジングの寸法精度は向上し、モールドモータから発生する振動・騒音が低減できる。
【0010】
第4の発明は、熱硬化性樹脂を金型の内に加圧充填する際において、
(a)分割された副上金型はモールドモータの一部を形成する形状とは異なった形状に分割されている工程、(b)前記(a)の形状のまま、熱硬化性樹脂を金型の内に加圧充填する工程、(c)成形終了時には副上金型はモールドモータの一部を形成する形状と同一にする段階的加圧工程、を経て、モールドモータとすることで再利用不能なランナーを発生させず、かつ、ランナー部とモールドモータの切断面がなく、かつ、成形時に生じる外観不具合やボイドが発生しない成形を実現できる。また、この方法で成形したモールドモータのベアリングハウジングの寸法精度は向上し、モールドモータから発生する振動・騒音が低減できる。
【0011】
第5の発明は、第4の発明の(a)工程で副上金型の形状を凹状としたもので、金型の内を流動する熱硬化性樹脂を正確に制御することを容易にする作用がある。
【0012】
第6の発明は、第4の発明の(c)工程で、熱硬化性樹脂の硬化が開始される前に、副上金型をモールドモータの一部を形成する形状と同一にする製造方法であり、スムーズな成形を可能とする作用がある。熱硬化性樹脂の硬化が開始された後に、副上金型をモールドモータの一部を形成する形状と同一にする場合、スムーズな成形作業が困難となる。
【0013】
第7の発明は、第2から第6の発明のモールドモータを搭載した洗濯機であり、騒音・振動の小さい洗濯機を提供する。
【0014】
第8の発明は、第2から第6の発明のモールドモータを搭載したエアコンであり、騒音・振動の小さいエアコンを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本件出願の第1の発明によれば、成形に生じるランナー部が生じない構成を有する成形機において、成形時に生じていた外観不具合やボイドの発生を低減できる成形機を提供できるという効果が得られる。
【0016】
また、第2の発明によれば、成形時に生じていた外観不具合やボイドの発生を低減できるという効果が得られる。
【0017】
また、第3の発明によれば、モールドモータの成形時に発生する外観不具合やボイドの発生が低減でき、かつ、モールドモータの振動・騒音が低減できるという効果が得られる。
【0018】
また、第4の発明によれば、モールドモータの成形時に発生する外観不具合やボイドの発生が低減でき、かつ、モールドモータの振動・騒音が低減できるという効果が得られる。
【0019】
また、第5の発明によれば、モールドモータの成形時に発生する外観不具合やボイドの発生が低減でき、かつ、モールドモータの振動・騒音が低減できるという効果が得られる。
【0020】
また、第6の発明によれば、モールドモータの成形時に発生する外観不具合やボイドの発生が低減でき、かつ、モールドモータの振動・騒音が低減できるという効果が得られる。
【0021】
また、第7の発明によれば、騒音・振動の小さい洗濯機を提供できる。
【0022】
また、第8の発明によれば、騒音・振動の小さいエアコンを提供できる。
【0023】
以上のとおり、本発明の成形機、その成形機を用いたモールドモータの製造方法、及びその製造方法によるモールドモータは不要なランナーを生じず、かつ、外観不具合を生じない、かつ、低騒音・低振動のモールドモータの成形方法に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a)本発明の一実施例の工程aの説明図(b)本発明の一実施例の工程bの説明図(c)本発明の一実施例の工程cの説明図
【図2】(a)従来の熱硬化性樹脂成形機を示す説明図(b)従来の熱硬化性樹脂成形機を示す説明図
【図3】モールドモータの構成を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0026】
本実施例について、図1、図2、図3を用いて説明する。図1は本発明の一実施例を示す熱硬化性樹脂成形機・金型とモールドモータを成形している段階を示す略図であり、図3で示されるようなモールドモータの固定子巻線4と固定子鉄芯5を熱硬化性樹脂6で一体的にモールドする工程を示している。また、このモールドモータはベアリングハウジング1も熱硬化性樹脂で構成されており、分割された副上金型10によってその外郭形状が形成される。工程(a)は分割されたプランジャー9と分割された副上金型10が機械的に連結され、最終的にモールドモータを形成する形状とは異なった凹状の形態で、固定子巻線4と固定子鉄芯5が設置された金型の内に熱硬化性樹脂6を加圧・充填する前段階を示している。
【0027】
このとき熱硬化性樹脂は安定流動しやすいように30℃〜80℃に予備加熱されており、また、上型11・下型12副上金型10・金型中芯部15は120〜160℃に温調されている。また、固定子巻線と固定子鉄芯も120〜160℃の状態である。工程(b)は金型の内に熱硬化性樹脂を加圧・充填している工程を示しており、このとき、分割されたプランジャー9と分割された副上金型10が機械的に連結された部分は、最終的にモールドモータを形成する形状とは異なった凹状の形態で加圧・充填する段階を示している。工程(c)は金型の内に熱硬化性樹脂を加圧・充填し終わる工程を示しており、熱硬化性樹脂の硬化が始まる前に分割されたプランジャー9と分割された副上金型10が機械的に連結された部分は、最終的にモールドモータを形成する形状となる段階を示している。
【0028】
この後、熱硬化性樹脂が硬化した後に金型から取り出し、図3のようなモールドモータを組み立てる。従来の方法では、副上金型10に接触している付近の熱硬化性樹脂6には流動が生じず、その部分のみ急激な硬化が開始されたり、樹脂中のガスが表面にあらわれることが原因で外観不良やボイドの発生が多発していた。また、従来の方法では、副上金型10に接触している付近の熱硬化性樹脂6には流動が生じず、均一な成形圧力が加わらないためにモールドモータの振動・騒音の原因となるブラケットハウジングの寸法精度が悪化していた。
【0029】
図2は比較例として、従来の方法でモールドモータを成形するための熱硬化性樹脂成形であり、その工程を示す略図である。副上金型14はプランジャー13と機械的に連結され、金型の内に設置された固定子巻線4と固定子鉄芯5に熱硬化性樹脂6を加圧・充填する工程を示している。この後、熱硬化性樹脂が硬化した後に金型から取り出し、図3のようなモールドモータを組み立てる。このとき、熱硬化性樹脂は安定流動しやすいように30℃〜80℃に予備加熱されており、また、上型11・下型12副上金型10・金型中芯部15は120〜160℃に温調されている。また、固定子巻線と固定子鉄芯も120〜160℃の状態である。この方法では、副上金型14に接触している付近の熱硬化性樹脂6には流動が生じず、その部分のみ急激な硬化が開始されたり、樹脂中のガスが表面にあらわれることが原因で外観不良やボイドの発生が多発していた。また、副上金型14に接触している付近の熱硬化性樹脂6には流動が生じず、均一な成形圧力が加わらないためにモールドモータの振動・騒音の原因となるブラケットハウジングの寸法精度が悪化していた。
【0030】
本発明の実施例で示す方法と前記比較例で示す従来の方法で各1000台作製したモールドモータの外観不具合とボイドとベアリングハウジングの内径の寸法精度測定結果を表1に示す。ここで使用した熱硬化性樹脂は黒色の不飽和ポリエステル樹脂成形材料である。また、外観不良とは黒色のむらが発生しているものを外観不具合とした。また、1mm以上の大きさのボイドが発生していた場合、ボイドととした。また、ベアリングハウジングの測定は100台とし、室温での金型寸法がφ20mmの部分を測定した。
【0031】
【表1】

表1の結果より、比較例と比較し本発明では外観不具合、ボイドの発生が低減でき、かつ、寸法精度が向上することができ、回転子と固定子のギャップ精度も向上でき、モールドモータが回転中に発生する振動・騒音を低減させることが確認できる。
【0032】
また、ベアリングハウジング以外でもブラッケト等が挿入されるような部分においても本発明を適用することが出来る。
【0033】
このように本発明の成形機、その成形機を用いたモールドモータの製造方法、及びその製造方法によるモールドモータによれば、ランナーを生じず、かつ、外観不具合やボイドの発生を低減でき、かつ、寸法精度を向上することができ、回転子と固定子のギャップ精度も向上できモールドモータが回転中に発生する騒音・振動を低減させることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 ベアリングハウジング
2 ブラケット
3 回転子
4 固定子巻線
5 固定子鉄芯
6 熱硬化性樹脂
7 回転子シャフト
8 ベアリング
9 分割されたプランジャー
10 分割された副上金型
11 上金型
12 下金型
13 プランジャー
14 副上金型
15 金型中芯部
16 ポット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂を挿入するポットを有し、前記熱硬化性樹脂を金型の内に加圧充填するために稼動させるプランジャーを有する成形機において、前記プランジャーの前記熱硬化性樹脂を加圧する面は2面以上に分割され、分割されたプランジャーの熱硬化性樹脂を加圧する面が、それぞれ加圧機によって制御できる構成を有する成形機。
【請求項2】
請求項1記載の成形機において、さらに、
熱硬化性樹脂を挿入するポットを有し、前記熱硬化性樹脂を金型の内に加圧挿入するために稼動させるプランジャーを有し、前記金型のうちの上金型の少なくとも一部を可動自在な副上金型を設ける構成とし、この可動自在な副上金型で前記ポット内に挿入された前記熱硬化性樹脂を前記金型の内に加圧充填し、かつ、この可動自在な副上金型で前記熱硬化性樹脂の成形品の一部の形状を形成し、かつ、前記金型は前記成形樹脂品の成形に生じるランナー部が生じない構成を有する成形機であり、前記副上金型は分割された構成を有しかつプランジャーの制御と連動して可動する構成を有する成型機。
【請求項3】
請求項2記載の成形機を用いてモータの外周をモールドするモールドモータの製造方法。
【請求項4】
請求項3記載のモールドモータの製造方法において、
熱硬化性樹脂を金型の内に加圧充填する際に、
(a)分割された副上金型はモールドモータの一部を形成する形状とは異なった形状に分割されている工程、
(b)前記(a)の形状のまま、熱硬化性樹脂を金型の内に加圧充填する工程、
(c)成形終了時には副上金型はモールドモータの一部を形成する形状と同一にする、段階的加圧工程、を有する製造方法。
【請求項5】
請求項4記載のモールドモータの製造方法において、
熱硬化性樹脂を金型の内に加圧充填する際に、(a)工程で、副上金型の形状が凹状であるモールドモータの製造方法。
【請求項6】
請求項5記載のモールドモータの製造方法において、
熱硬化性樹脂を金型の内に加圧充填する際に、(c)工程で、熱硬化性樹脂の硬化が開始される前に、副上金型をモールドモータの一部を形成する形状と同一にするモールドモータの製造方法。
【請求項7】
請求項2から請求項6のいずれかに記載のモールドモータの製造方法で得られたモータを搭載する洗濯機。
【請求項8】
請求項2から請求項6のいずれかに記載のモールドモータの製造方法で得られたモータを搭載するエアコン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−212841(P2011−212841A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69615(P2010−69615)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】