説明

成膜方法、成膜装置、圧電体膜、圧電素子、及び液体吐出装置

【課題】ターゲットと成膜される膜との組成ずれを抑制し、所望組成を安定的に得ることが可能な成膜方法を提供する。
【解決手段】基板BとターゲットTとを対向させて、プラズマを用いた気相成長法により基板B上にターゲットTの構成元素を含む膜を成膜する際に、基板BをターゲットTの構成元素が付着する壁面10Sで囲むと共に、壁面10Sに対して物理的な処理を行って壁面10Sに付着した成分を成膜雰囲気中に放出させながら、成膜を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを用いた気相成長法により基板上にターゲットの構成元素を含む膜を成膜する成膜方法及び成膜装置に関するものである。本発明はまた、この成膜方法により成膜された圧電体膜、及びこれを備えた圧電素子と液体吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング法は、基板とターゲットとを対向配置させ、減圧下でプラズマ化させたガスをターゲットに衝突させ、そのエネルギーによりターゲットから飛び出した分子や原子を基板に付着させる成膜方法である。
【0003】
スパッタリング法において、理論的には成膜される膜組成はターゲット組成と略同一となるはずである。しかしながら、膜の構成元素の中に蒸気圧の高い元素がある場合、その元素が成膜された膜表面で逆スパッタされやすく、ターゲット組成と略同一の組成を得ることが難しい傾向にある。
【0004】
逆スパッタリング現象は、構成元素間でスパッタされやすさ(スパッタ率)に大きな差がある場合に、ターゲットにおいてはほぼ同じ組成でスパッタされるのに対して、基板上においては、堆積された元素のうち、スパッタされやすい構成元素が膜表面において優先的にスパッタされて膜からたたき出されてしまう現象である。
【0005】
例えば、強誘電性に優れたペロブスカイト型酸化物であるPZT(チタン酸ジルコニウム酸鉛)あるいはその置換系では、TiとZrに比してPbが逆スパッタされやすく、膜中のPb濃度がターゲット中のPb濃度よりも減少してしまう傾向にある。AサイトがBiあるいはBaを含むペロブスカイト型酸化物においても、これらの元素の蒸気圧が高く、同様の傾向にある。
【0006】
その他、Zn含有化合物においても、Znの元素の蒸気圧が高く、同様の傾向にある。例えば、インジウム錫酸化物(ITO)に匹敵する優れた電気的・光学的特性を有し、かつ低コストで資源的にも豊富なInGaZnO(IGZO)等の酸化亜鉛系の透明導電体膜又は透明半導体膜においても、他の構成元素に比してZnが逆スパッタされやすく、膜組成がターゲット組成に比してZnの少ない組成となりやすい。
【0007】
上記例示したような系では、所望組成を得るために、逆スパッタされやすい元素の濃度を高めに設定したターゲットを用いるなどの工夫がなされている。しかしながら、所望組成を安定的に得るために、ターゲット組成と略同一組成の膜を成膜できることが好ましい。
【0008】
上記問題はスパッタリング法に限らず、基板とターゲットとを対向させて、プラズマを用いた気相成長法により基板上にターゲットの構成元素を含む膜を成膜する成膜方法において、同様に起こる。
【0009】
上記のような組成ずれを抑制するために、本発明者は先に特許文献1,2において、成膜温度Ts(℃)及びプラズマ中のプラズマ電位Vs(V)とフローティング電位Vf(V)との差であるVs−Vf(V)を制御することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許4142705号公報
【特許文献2】特許4142706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、逆スパッタリングが起こりやすい組成系等に好ましく適用することができ、ターゲットと成膜される膜との組成ずれを抑制し、所望組成を安定的に得ることが可能な成膜方法と成膜装置を提供することを目的とするものである。
本発明はまた、ターゲットと成膜される膜との組成ずれが抑制され、所望組成を安定的に得ることが可能な圧電体膜を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の成膜方法は、基板とターゲットとを対向させて、プラズマを用いた気相成長法により前記基板上に前記ターゲットの構成元素を含む膜を成膜する成膜方法において、
前記基板を前記ターゲットの構成元素が付着する壁面で囲むと共に、該壁面に対して物理的な処理を行って該壁面に付着した成分を成膜雰囲気中に放出させながら、前記成膜を行うことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の成膜装置は、
内部に互いに対向配置された基板ホルダ及びターゲットホルダが装着された真空容器と、
前記真空容器内にプラズマを発生させるプラズマ発生手段と、
前記真空容器内にプラズマ化させるガスを導入するガス導入手段とを備え、
プラズマを用いた気相成長法により基板上にターゲットの構成元素を含む膜を成膜する成膜装置において、
前記基板ホルダはターゲットの構成元素が付着する壁面で囲まれていると共に、該壁面には、該壁面に対して物理的な処理を行って該壁面に付着した成分を成膜雰囲気中に放出させる物理的処理手段が接続されていることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の圧電体膜は、上記の本発明の成膜方法により成膜されたものであることを特徴とするものである。
本発明の圧電素子は、上記の本発明の圧電体膜と、該圧電体膜に対して電界を印加する電極とを備えたことを特徴とするものである。
【0015】
本発明の液体吐出装置は、上記の本発明の圧電素子と、該圧電素子に隣接して設けられた液体吐出部材とを備え、該液体吐出部材は、液体が貯留される液体貯留室と、前記圧電体膜に対する前記電界の印加に応じて該液体貯留室から外部に前記液体が吐出される液体吐出口とを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、逆スパッタリングが起こりやすい組成系等に好ましく適用することができ、ターゲットと成膜される膜との組成ずれを抑制し、所望組成を安定的に得ることが可能な成膜方法と成膜装置を提供することができる。
本発明によれば、ターゲットと成膜される膜との組成ずれが抑制され、所望組成を安定的に得ることが可能な圧電体膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る第1実施形態の成膜装置の全体構成を示す断面図
【図2】本発明に係る第2実施形態の成膜装置の全体構成を示す断面図
【図3】本発明に係る第3実施形態の成膜装置の全体構成を示す断面図
【図4】本発明に係る一実施形態の圧電素子及びインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)の構造を示す断面図
【図5】図4のインクジェット式記録ヘッドを備えたインクジェット式記録装置の構成例を示す図
【図6】図5のインクジェット式記録装置の部分上面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
「成膜方法」
本発明の成膜方法は、基板とターゲットとを対向させて、プラズマを用いた気相成長法により前記基板上に前記ターゲットの構成元素を含む膜を成膜する成膜方法において、
前記基板を前記ターゲットの構成元素が付着する壁面で囲むと共に、該壁面に対して物理的な処理を行って該壁面に付着した成分を成膜雰囲気中に放出させながら、前記成膜を行うことを特徴とするものである。
【0019】
本発明の成膜方法において、上記壁面としては、成膜が行われる真空容器の内壁面、若しくは基板と真空容器との間に設けられた壁部材の面が挙げられる。
【0020】
本発明の成膜方法によれば、基板をターゲットの構成元素が付着する壁面で囲むと共に、この壁面に対して物理的な処理を行って壁面に付着した成分を成膜雰囲気中に放出させながら成膜を行うので、基板に対して壁面に付着した成分を積極的に供給することができる。壁面に付着した成分の中でも逆スパッタリングされやすい元素が壁面から成膜雰囲気中に放出されやすいので、基板に対して逆スパッタリングされやすい元素を壁面から積極的に供給することができる。したがって、本発明の成膜方法によれば、逆スパッタリングが起こりやすい組成系等に好ましく適用することができ、ターゲットと成膜される膜との組成ずれを抑制し、所望組成を安定的に得ることができる。
【0021】
基板に対して上記壁面からの成分の供給があるか否かは、例えば以下の方法によって実証することができる。上記壁面にダミー基板を取り付けて、物理的な処理を行う場合と行わない場合の成膜速度を各々求め、物理的な処理を行わない場合に比較して、物理的な処理を行う場合の成膜速度が低下していれば、壁面に付着した成分が成膜雰囲気中に放出されていることの実証となる。
【0022】
本発明の成膜方法において、上記壁面に対する物理的な処理としては加熱処理が挙げられる。加熱温度は特に制限なく、壁面に付着した成分を成膜雰囲気中に放出させる効果が効果的に得られることから、100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、200℃以上が特に好ましい。加熱温度は500℃以上でも原理的には問題ないが、装置の構成上煩雑になるので、500℃以下が好ましい。
【0023】
本発明の成膜方法において、上記壁面に対するその他の物理的な処理としては交流電圧印加処理が挙げられる。この場合、上記壁面がプラズマ電極となるので、上記壁面をプラズマ状態とすることができ、壁面に付着した成分を成膜雰囲気中に放出させることができる。
【0024】
本発明の成膜方法において、上記壁面に対するその他の物理的な処理としてはマイナス電位印加処理が挙げられる。この場合、通常プラスイオンであるプラズマイオンが上記壁面に引き込まれ、このプラズマイオンによって上記壁面がスパッタされるので、壁面に付着した成分を成膜雰囲気中に放出させることができる。上記壁面に印加する電位は特に制限されず、壁面に付着した成分を成膜雰囲気中に放出させる効果が効果的に得られることから、上記壁面の電位と上記壁面から1〜2cm離れた位置のプラズマ電位との差を20V以上とすることが好ましい。
【0025】
上記電位差は20V以上あれば多くの元素が壁からスパッタされるが、より好ましくは30V以上であり、さらに好ましくは50V以上である。上記電位差は100V以上でも原理的に問題はないが、壁素材そのもののスパッタが支配的になる可能性があり、膜への不純物の混入の可能性があるため、100V以下が好ましい。
【0026】
本明細書において、「電位」は、ラングミュアプローブを用いてシングルプローブ法あるいはトリプルプローブ法により測定するものとする。原理的に測定可能であれば他の手法でも構わない。
【0027】
本発明の成膜方法は基板とターゲットとを対向させて、プラズマを用いた気相成長法により基板上にターゲットの構成元素を含む膜を成膜する成膜方法に適用可能である。
本発明が適用可能な気相成長法としては、2極スパッタリング法、3極スパッタリング法、直流スパッタリング法、高周波スパッタリング法(RFスパッタリング法)、ECRスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、対向ターゲットスパッタリング法、パルススパッタ法、及びイオンビームスパッタリング法等のスパッタリング法が挙げられる。本発明が適用可能な気相成長法としては、スパッタリング法の他、イオンプレーティング法、及びプラズマCVD法等が挙げられる。
【0028】
本発明の成膜方法は、導電体膜、半導体膜、絶縁体膜、及び誘電体膜等の任意の組成の膜の成膜に適用することができる。本発明の成膜方法は、逆スパッタリングが起こりやすい組成系等に好ましく適用することができ、組成ずれを良好に抑制することができる。
【0029】
本発明は、成膜する膜が、非金属かつ非半金属の元素(ここで言う「非金属かつ非半金属の元素」とは例えば酸素元素等である。)を除いて複数の元素を含む膜であり、かつ、該複数の元素のうち、最もスパッタ率の大きい元素のスパッタ率が、最もスパッタ率の小さい元素のスパッタ率の1.5倍以上の膜である場合に好ましく適用できる。
【0030】
スパッタされやすさはスパッタ率で表されることが多く、スパッタ率が高いものほどスパッタされやすい。「スパッタ率」とは、入射イオンの数とそれによってスパッタされた原子数との比で定義されるものであり、その単位は(atoms/ion)である。
【0031】
圧電材料であるPZTあるいはその置換系のスパッタ成膜においては、PZTの構成元素であるPb,Zr,及びTiの中で、Pbが最もスパッタ率が大きくスパッタされやすいことは以前より知られている。例えば、「真空ハンドブック」((株)アルバック編、オーム社発行)の表8.1.7には、Arイオン300eVの条件におけるスパッタ率は、Pb=0.75、Zr=0.48,Ti=0.65であることが記載されている。このことは、Zrに比してPbは1.5倍以上スパッタされやすいということを意味している。
【0032】
本発明は、圧電体膜の成膜に好ましく適用できる。
本発明は、下記一般式(P)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物を主成分とする圧電体膜の成膜に好ましく適用できる。
一般式ABO・・・(P)
(A:Aサイトの元素であり、Pb,Ba,Sr,Bi,Li,Na,Ca,Cd,Mg,K,及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Mg,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,Ni,Hf,及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。
O:酸素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
本明細書において、「主成分」とは、含量80モル%以上の成分と定義する。
【0033】
上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物としては、
チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ジルコニウム酸鉛、チタン酸鉛ランタン、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、ニッケルニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、亜鉛ニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛等の鉛含有化合物、及びこれらの混晶系;
チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムバリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム等の非鉛含有化合物、及びこれらの混晶系が挙げられる。
【0034】
電気特性がより良好となることから、上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物は、Mg,Ca,Sr,Ba,Bi,Nb,Ta,W,及びLn(=ランタニド元素(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,及びLu))等の金属イオンを、1種又は2種以上含むものであることが好ましい。
【0035】
本発明は、一般式(P)で表され、かつAサイトがPb,Bi,及びBaからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属元素を含む1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物を含む膜の成膜に好ましく適用できる。Pb,Bi,あるいはBaは蒸気圧が高く、逆スパッタされやすい元素である。
【0036】
上記一般式(P)で表され、Pbを含むペロブスカイト型酸化物としては、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ジルコニウム酸鉛、チタン酸鉛ランタン、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、及びニッケルニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛等が挙げられる。
【0037】
上記一般式(P)で表され、BiあるいはBaを含むペロブスカイト型酸化物としては、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、ビスマスフェライト、ビスマスフェライトランタン、及びビスマスフェライトバリウム等が挙げられる。
【0038】
本発明は、Zn含有化合物を含む膜の成膜に好ましく適用できる。Znも蒸気圧が高く、逆スパッタされやすい元素である。
本発明は、下記一般式(S)で表されるZn含有酸化物を含む膜の成膜に好ましく適用できる。
InZn(x+3y/2+3z/2) ・・・(S)
(式中、MはIn,Fe,Ga,及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。x,y,zはいずれも0超の実数である。)
【0039】
上記式(S)で表されるZn含有酸化物としては、透明導電体膜又は透明半導体膜として各種用途に用いられているInGaZnO(IGZO)、及びZnIn等が挙げられる。
【0040】
以上説明したように、本発明の成膜方法は逆スパッタリングが起こりやすい組成系等に好ましく適用することができ、本発明の成膜方法によれば、ターゲットと成膜される膜との組成ずれを抑制し、所望組成を安定的に得ることができる。本発明の成膜方法によれば、基板に対して壁面に付着した成分を積極的に供給することができるので、成膜速度を向上させることも可能である。
【0041】
「背景技術」の項で挙げた特許文献1,2ではプラズマ電位を高度に制御する必要があるが、本発明ではかかる制御を行うことなく、簡易に組成ずれを抑制することができる。ただし、特許文献1,2に記載等の他の組成ずれを抑制する技術と本発明を組み合わせることは差し支えない。
【0042】
「第1実施形態の成膜装置」
図面を参照して、本発明に係る第1実施形態の成膜装置について説明する。図1は装置の全体構成を示す断面図である。本実施形態では高周波スパッタリング装置(RFスパッタリング装置)を例として説明する。
【0043】
図1に示す成膜装置1は、内部に、基板Bが装着可能であり、装着された基板Bを所定温度に加熱することが可能な基板ホルダ11と、ターゲットTが装着可能なターゲットホルダ12とが備えられた真空容器10から概略構成されている。本実施形態の装置では、真空容器10内が成膜室となっている。真空容器10内において、基板ホルダ11とターゲットホルダ12とは互いに対向するように離間配置されている。真空容器10はステンレス等の導電体からなり、接地されている。
【0044】
基板Bは特に制限されず、Si基板、酸化物基板、ガラス基板、及び各種フレキシブル基板など、用途に応じて適宜選択することができる。基板Bはかかる基板に電極等の膜が形成されたものでもよい。ターゲットTの組成は、成膜する膜の組成に応じて選定される。
【0045】
成膜装置1においては、プラズマ電極(本実施形態ではターゲットホルダ12がプラズマ電極として機能する。)の放電により真空容器10内に導入されたガスGがプラズマ化され、Arイオン等のプラスイオンが生成する。生成したプラスイオンはターゲットTをスパッタする。プラスイオンにスパッタされたターゲットTの構成元素は、ターゲットから放出され中性あるいはイオン化された状態で基板Bに蒸着される。図中、符号Pがプラズマ空間を模式的に示している。
【0046】
成膜装置1には、真空容器10内にプラズマ化させるガスGを導入するガス導入手段が設けられている。ガス導入手段は、プラズマ化させるガスGの供給源(図示略)と、供給源から供給されたガスGを真空容器10内に導入するガス導入管18とから構成されている。成膜装置1には、真空ポンプ等の排気手段(図示略)に接続され、真空容器10内のガスの排気Vを行うガス排出管19が備えられている。真空容器10に対するこれらガス導入管18とガス排出管19との接続箇所は適宜設計でき、これらガス導入管18とガス排出管19は真空容器10内のガス濃度がなるべく均一になるように設けられることが好ましい。ガスGとしては特に制限なく、Ar、又はAr/O混合ガス等が使用される。
【0047】
成膜圧力は特に制限なく、10Pa以下であることが好ましい。成膜圧力が10Paより大きいと、元素の種類によってはターゲットTからたたき出された粒子が散乱等の影響により基板Bに到達する割合が少なくなることがある。成膜圧力が10Pa以下では、プラズマ空間が分子流と粘性流の中間である中間流から分子流の間の条件となるため、ターゲットTからたたき出された粒子が基板Bに到達するまでに散乱される可能性が、元素の種類によらず無視できるほど少ない。
【0048】
基板ホルダ11は、基板Bが載置される板状のホルダ本体11Aと、ホルダ本体11Aに取り付けられ、基板Bの端部を固定する固定部材11Bとから概略構成されている。基板ホルダ11は、真空容器10の内底面に取り付けられた保持部材15により保持されている。
【0049】
ターゲットホルダ12はターゲットTが載置される板状のホルダ本体からなり、真空容器10に取り付けられた保持部材16により保持されている。保持部材16と真空容器10とは絶縁材を介して互いに絶縁されている。保持部材16は真空容器10の外部に配置された高周波交流電源(RF電源)13に接続されており、ターゲットホルダ12がプラズマを発生させるためのプラズマ電極(カソード電極)となっている。高周波交流電源13のターゲットホルダ接続側と反対側は接地されている。
【0050】
本実施形態では、真空容器10内にプラズマを発生させるプラズマ発生手段14として、高周波交流電源13及びプラズマ電極(カソード電極)として機能するターゲットホルダ12が備えられている。
【0051】
本実施形態において、真空容器10にはヒータ等の加熱手段からなる物理的処理手段21が取り付けられており、真空容器10の少なくとも内壁面10Sが所定温度に加熱可能とされている。加熱温度は特に制限なく、100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、200℃以上が特に好ましい。加熱温度は500℃以上でも原理的には問題ないが、装置の構成上煩雑になるので、500℃以下が好ましい。
【0052】
本実施形態の成膜装置1は、以上のように構成されている。本実施形態の成膜装置1を用いることにより、本発明の成膜方法を実施することができる。本実施形態の成膜装置1では、基板ホルダ11は真空容器10の内壁面10Sで囲まれている。本実施形態では、真空容器10の内壁面10Sを加熱して、この面に付着した成分を成膜雰囲気中に放出させることができ、上記の本発明の成膜方法を実施することができる。
【0053】
基板Bの外周と真空容器10の内壁面10Sとの距離D1は特に制限されない。真空容器10の内壁面10Sに付着した成分を基板Bに対して良好に供給できることから、D1は20〜150mmが好ましく、50〜150mmがより好ましい。
【0054】
「第2実施形態の成膜装置」
図面を参照して、本発明に係る第2実施形態の成膜装置について説明する。図2は装置の全体構成を示す断面図である。第1実施形態と同じ構成要素には同じ参照符号を付して、説明は省略する。
【0055】
本実施形態の成膜装置2において、真空容器10には高周波交流電源等の交流電圧印加手段からなる物理的処理手段22が接続されており、真空容器10の少なくとも内壁面10Sに交流電圧が印加可能とされている。
【0056】
本実施形態では、真空容器10に電圧が付与されるので、ターゲットホルダ12の周囲に接地電位のシールド30が設けられている。
【0057】
シールド30は、ターゲットTの基板B側の外周を取り囲むように配置された複数の金属リング31と、複数の金属リング31間に配置されたスペーサ32と、真空容器10の内面に取り付けられ金属リング31を保持する保持部材33とから構成されている。これら金属リング31、スペーサ32、及び保持部材33はいずれもステンレス等の導電材により構成されている。金属リング31の数は特に制限なく、図示する例では2枚使用されている。金属リング31の枚数は必要に応じて変更することも可能である。スペーサ32は、金属リング31の周方向に間隔をおいて複数個配置され、互いに隣接するスペーサ32間にガスGが流れ易くなるように間隙が形成されている。保持部材33と真空容器10とは絶縁材を介して互いに絶縁されており、保持部材33は接地されている(絶縁材については図示略)。
【0058】
ターゲットTの周囲に接地電位のシールド30を設けることによって、プラズマの広がりが抑えられ、ターゲットT近傍のプラズマ電位を調整することができる。シールド30の構成及び機能については、本発明者が先に出願している特許第4142706号公報を参照されたい。
【0059】
本実施形態の成膜装置2は、以上のように構成されている。本実施形態の成膜装置2を用いることにより、本発明の成膜方法を実施することができる。本実施形態の成膜装置2では、基板ホルダ11は真空容器10の内壁面10Sで囲まれている。真空容器10の内壁面10Sに交流電圧を印加すると、真空容器10の内壁面10Sがプラズマ電極となり、この面をプラズマ状態とすることができ、この面に付着した成分を成膜雰囲気中に放出させることができ、上記の本発明の成膜方法を実施することができる。
【0060】
基板Bの外周と真空容器10の内壁面10Sとの距離D1は特に制限されない。真空容器10の内壁面10Sに付着した成分を基板Bに対して良好に供給できることから、D1は20〜150mmが好ましく、50〜150mmがより好ましい。
【0061】
「第2実施形態の設計変更」
上記第2実施形態において、物理的処理手段22を、高周波交流電源あるいは直流電源等のマイナス電位印加手段により構成し、真空容器10の少なくとも内壁面10Sに対してマイナス電位を印加可能な構成としてもよい。かかる構成では、通常プラスイオンであるプラズマイオンが真空容器10の内壁面10Sに引き込まれ、このプラズマイオンによって真空容器10の内壁面10Sがスパッタされるので、この面に付着した成分を成膜雰囲気中に放出させることができ、上記の本発明の成膜方法を実施することができる。
【0062】
真空容器10の内壁面10Sに印加する電位は特に制限されず、真空容器10の内壁面10Sに付着した成分を成膜雰囲気中に放出させる効果が効果的に得られることから、真空容器10の内壁面10Sの電位と真空容器10の内壁面10Sから1〜2cm離れた位置のプラズマ電位との差を20V以上とすることが好ましい。
【0063】
上記電位差は20V以上あれば多くの元素が壁からスパッタされるが、より好ましくは30V以上であり、さらに好ましくは50V以上である。上記電位差は100V以上でも原理的に問題はないが、壁素材そのもののスパッタが支配的になる可能性があり、膜への不純物の混入の可能性があるため、100V以下が好ましい。
【0064】
「第3実施形態の成膜装置」
図面を参照して、本発明に係る第3実施形態の成膜装置について説明する。図3は装置の全体構成を示す断面図である。第1実施形態と同じ構成要素には同じ参照符号を付して、説明を省略する。
【0065】
本実施形態の成膜装置3において、第1実施形態と同様、真空容器10は接地されている。本実施形態においては、基板ホルダ11を囲むように真空容器10の内底面に壁部材41が立設されている。壁部材41はステンレス等の導電材からなり、絶縁材を介して真空容器10とは絶縁されている(絶縁材については図示略)。
【0066】
壁部材41には、ヒータ等の加熱手段からなる物理的処理手段23が取り付けられており、壁部材41の少なくとも基板ホルダ11側の面41Sが所定温度に加熱可能とされている。加熱温度は特に制限されず、100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、200℃以上が特に好ましい。加熱温度は500℃以上でも原理的には問題ないが、装置の構成上煩雑になるので、加熱温度は500℃以下であることが好ましい。
【0067】
本実施形態の成膜装置3は、以上のように構成されている。本実施形態の成膜装置3を用いることにより、本発明の成膜方法を実施することができる。本実施形態の成膜装置3では、基板ホルダ11は壁部材41の面41Sで囲まれている。本実施形態では、壁部材41の面41Sを加熱して、この面に付着した成分を成膜雰囲気中に放出させることができ、上記の本発明の成膜方法を実施することができる。
【0068】
基板Bの外周と壁部材41の基板ホルダ11側の面41Sとの距離D2は特に制限されない。壁部材41の面41Sに付着した成分を基板Bに対して良好に供給できることから、D2は20〜150mmが好ましく、50〜150mmがより好ましい。壁部材41の高さは特に制限されない。壁部材41の高さが基板表面よりも著しく低いと壁部材41の面41Sに付着した成分を基板Bに対して良好に供給できなくなり、基板表面よりも著しく高いと壁部材41の存在が基板Bに対するターゲットTからの成分の供給を妨げる恐れがある。壁部材41の高さは基板表面の高さ±50mmの範囲内であることが好ましい。
【0069】
「第3実施形態の設計変更」
上記第3実施形態において、物理的処理手段23を高周波交流電源等の交流電圧印加手段により構成し、壁部材41の少なくとも面41Sに対して交流電圧を印加可能な構成としてもよい。かかる構成では、壁部材41の面41Sがプラズマ電極となり、この面をプラズマ状態とすることができ、この面に付着した成分を成膜雰囲気中に放出させることができ、上記の本発明の成膜方法を実施することができる。
【0070】
上記第3実施形態において、物理的処理手段23を高周波交流電源あるいは直流電源等のマイナス電位印加手段により構成し、壁部材41の少なくとも面41Sに対してマイナス電位を印加可能な構成としてもよい。かかる構成では、通常プラスイオンであるプラズマイオンが壁部材41の面41Sに引き込まれ、このプラズマイオンによって壁部材41の面41Sがスパッタされるので、この面に付着した成分を成膜雰囲気中に放出させることができ、上記の本発明の成膜方法を実施することができる。
【0071】
上記第1〜第3実施形態の成膜装置1〜3及びその設計変更は、逆スパッタリングが起こりやすい組成系等に好ましく適用することができる。上記第1〜第3実施形態の成膜装置1〜3及びその設計変更によれば、ターゲットと成膜される膜との組成ずれを抑制し、所望組成を安定的に得ることができる。上記第1〜第3実施形態の成膜装置1〜3及びその設計変更によれば、基板に対して壁面に付着した成分を積極的に供給することができるので、成膜速度を向上させることも可能である。
【0072】
「圧電素子及びインクジェット式記録ヘッド」
図4を参照して、本発明に係る一実施形態の圧電素子及びこれを備えたインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)の構造について説明する。図4はインクジェット式記録ヘッドの要部断面図(圧電素子の厚み方向の断面図)である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0073】
本実施形態の圧電素子4は、基板50上に、下部電極51と圧電体膜52と上部電極53とが順次積層された素子であり、圧電体膜52に対して下部電極51と上部電極53とにより厚み方向に電界が印加されるようになっている。
【0074】
下部電極51は基板50の略全面に形成されており、この上に図示手前側から奥側に延びるライン状の凸部52Aがストライプ状に配列したパターンの圧電体膜52が形成され、各凸部52Aの上に上部電極53が形成されている。
【0075】
圧電体膜52のパターンは図示するものに限定されず、適宜設計される。また、圧電体膜52は連続膜でも構わない。但し、圧電体膜52は、連続膜ではなく、互いに分離した複数の凸部52Aからなるパターンで形成することで、個々の凸部52Aの伸縮がスムーズに起こるので、より大きな変位量が得られ、好ましい。
【0076】
基板50としては特に制限なく、シリコン,酸化シリコン,ステンレス(SUS),イットリウム安定化ジルコニア(YSZ),アルミナ,サファイヤ,SiC,及びSrTiO等の基板が挙げられる。基材50としては、シリコン基板上にSiO膜とSi活性層とが順次積層されたSOI基板等の積層基板を用いてもよい。
【0077】
下部電極51の組成は特に制限なく、Au,Pt,Ir,IrO,RuO,LaNiO,及びSrRuO等の金属又は金属酸化物、及びこれらの組合せが挙げられる。上部電極53の組成は特に制限なく、下部電極51で例示した材料,Al,Ta,Cr,Cu等の一般的に半導体プロセスで用いられている電極材料、及びこれらの組合せが挙げられる。下部電極51と上部電極53の厚みは特に制限なく、50〜500nmであることが好ましい。
【0078】
圧電体膜52は、本発明の成膜方法により成膜された膜である。圧電体膜52は好ましくは、上記一般式(P)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物を主成分とする圧電体膜である。圧電体膜52はより好ましくは、上記一般式(P)で表され、かつAサイトがPb,Bi,及びBaからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属元素を含む1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物を含む圧電体膜である。圧電体膜52の膜厚は特に制限なく、通常1μm以上であり、例えば1〜5μmである。
【0079】
圧電アクチュエータ5は、圧電素子4の基板50の裏面に、圧電体膜52の伸縮により振動する振動板60が取り付けられたものである。圧電アクチュエータ5には、圧電素子4の駆動を制御する駆動回路等の制御手段(図示略)も備えられている。
【0080】
インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)6は概略、圧電アクチュエータ5の裏面に、インクが貯留されるインク室(液体貯留室)71及びインク室71から外部にインクが吐出されるインク吐出口(液体吐出口)72を有するインクノズル(液体貯留吐出部材)70が取り付けられたものである。インクジェット式記録ヘッド6では、圧電素子4に印加する電界強度を増減させて圧電素子4を伸縮させ、これによってインク室71からのインクの吐出や吐出量の制御が行われる。
【0081】
基板50とは独立した部材の振動板60及びインクノズル70を取り付ける代わりに、基板50の一部を振動板60及びインクノズル70に加工してもよい。例えば、基板50がSOI基板等の積層基板からなる場合には、基板50を裏面側からエッチングしてインク室61を形成し、基板自体の加工により振動板60とインクノズル70とを形成することができる。
【0082】
本実施形態の圧電素子4及びインクジェット式記録ヘッド6は、以上のように構成されている。本実施形態によれば、ターゲットと成膜される膜との組成ずれが抑制され、所望組成を安定的に得ることが可能な圧電体膜52、及びこれを備えた圧電素子4を提供することができる。
【0083】
「インクジェット式記録装置」
図5及び図6を参照して、上記実施形態のインクジェット式記録ヘッド6を備えたインクジェット式記録装置の構成例について説明する。図5は装置全体図であり、図6は部分上面図である。
【0084】
図示するインクジェット式記録装置100は、インクの色ごとに設けられた複数のインクジェット式記録ヘッド(以下、単に「ヘッド」という)6K,6C,6M,6Yを有する印字部102と、各ヘッド6K,6C,6M,6Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部114と、記録紙116を供給する給紙部118と、記録紙116のカールを除去するデカール処理部120と、印字部102のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙116の平面性を保持しながら記録紙116を搬送する吸着ベルト搬送部122と、印字部102による印字結果を読み取る印字検出部124と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部126とから概略構成されている。
印字部102をなすヘッド6K,6C,6M,6Yが、各々上記実施形態のインクジェット式記録ヘッド6である。
【0085】
デカール処理部120では、巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム130により記録紙116に熱が与えられて、デカール処理が実施される。
ロール紙を使用する装置では、図5のように、デカール処理部120の後段に裁断用のカッター128が設けられ、このカッターによってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター128は、記録紙116の搬送路幅以上の長さを有する固定刃128Aと、該固定刃128Aに沿って移動する丸刃128Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃128Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃128Bが配置される。カット紙を使用する装置では、カッター128は不要である。
【0086】
デカール処理され、カットされた記録紙116は、吸着ベルト搬送部122へと送られる。吸着ベルト搬送部122は、ローラ131、132間に無端状のベルト133が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部102のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)となるよう構成されている。
【0087】
ベルト133は、記録紙116の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(図示略)が形成されている。ローラ131、132間に掛け渡されたベルト133の内側において印字部102のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ134が設けられており、この吸着チャンバ134をファン135で吸引して負圧にすることによってベルト133上の記録紙116が吸着保持される。
【0088】
ベルト133が巻かれているローラ131、132の少なくとも一方にモータ(図示略)の動力が伝達されることにより、ベルト133は図5上の時計回り方向に駆動され、ベルト133上に保持された記録紙116は図5の左から右へと搬送される。
【0089】
縁無しプリント等を印字するとベルト133上にもインクが付着するので、ベルト133の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部136が設けられている。
吸着ベルト搬送部122により形成される用紙搬送路上において印字部102の上流側に、加熱ファン140が設けられている。加熱ファン140は、印字前の記録紙116に加熱空気を吹き付け、記録紙116を加熱する。印字直前に記録紙116を加熱しておくことにより、インクが着弾後に乾きやすくなる。
【0090】
印字部102は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙送り方向と直交方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図6を参照)。各印字ヘッド6K,6C,6M,6Yは、インクジェット式記録装置100が対象とする最大サイズの記録紙116の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
【0091】
記録紙116の送り方向に沿って上流側から、黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応したヘッド6K,6C,6M,6Yが配置されている。記録紙116を搬送しつつ各ヘッド6K,6C,6M,6Yからそれぞれ色インクを吐出することにより、記録紙116上にカラー画像が記録される。
印字検出部124は、印字部102の打滴結果を撮像するラインセンサ等からなり、ラインセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まり等の吐出不良を検出する。
【0092】
印字検出部124の後段には、印字された画像面を乾燥させる加熱ファン等からなる後乾燥部142が設けられている。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けた方が好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
後乾燥部142の後段には、画像表面の光沢度を制御するために、加熱・加圧部144が設けられている。加熱・加圧部144では、画像面を加熱しながら、所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ145で画像面を加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
【0093】
こうして得られたプリント物は、排紙部126から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット式記録装置100では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部126A、126Bへと送るために排紙経路を切り替える選別手段(図示略)が設けられている。
大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列にプリントする場合には、カッター148を設けて、テスト印字の部分を切り離す構成とすればよい。
インクジェット記記録装置100は、以上のように構成されている。
【0094】
(設計変更)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能である。
【実施例】
【0095】
(実施例1)
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
【0096】
(実施例1)
25mm角のシリコン基板上にスパッタリング法により、10nm厚のTi膜と150nm厚のIr下部電極とを順次成膜した。得られた基板上に、RFスパッタリング法により4μm厚のPZT圧電体膜を成膜した。
【0097】
本実施例では、真空容器が接地電位とされ、基板ホルダの周りに壁部材が設けられ、壁部材にヒータが取り付けられた図3に示した第3実施形態の成膜装置3を用いた。壁部材の基板ホルダ側の面が180℃となるように壁部材を加熱して、成膜を実施した。その他の成膜条件は以下の通りとした。
ターゲット:Pb1.1(Zr0.5Ti0.5)O焼結体(4インチφ)、
基板温度:500℃、
成膜ガス:Ar/O=97.5/2.5(流量比)、
成膜圧力:0.5Pa、
ターゲット−基板間距離:80mm、
RFパワー:200W。
【0098】
得られたPZT膜についてXRD分析を実施したところ、ペロブスカイト構造を有する(100)配向膜であった。得られたPZT膜についてXRF組成分析を実施したところ、Pb:Zr:Ti(モル比)=1.1:0.5:0.5であり、ターゲット組成と同一組成であった。
【0099】
壁部材の基板ホルダ側の面にダミー基板を取り付けて、ダミー基板の成膜速度を求めたところ0.32μm/hであった。壁部材の加熱処理を行った本実施例では、壁部材の加熱処理を行わなかった後記比較例1に比較して、ダミー基板の成膜速度が小さく、壁部材の基板ホルダ側の面に付着した成分が成膜雰囲気中に放出されていることが実証された。
【0100】
(比較例1)
壁部材を冷却して、壁部材の基板ホルダ側の面を約30℃(室温レベル)に調整して成膜を行った以外は実施例1と同様にして、PZT膜の成膜を実施した。
得られたPZT膜についてXRD分析を実施したところ、パイロクロア構造であり、ペロブスカイト構造を得ることができなかった。得られたPZT膜についてXRF組成分析を実施したところ、Pb:Zr:Ti(モル比)=0.9:0.5:0.5であり、ターゲット組成よりもPb量が少ない組成であった。
実施例1と同様に、壁部材の基板ホルダ側の面にダミー基板を取り付けて、ダミー基板の成膜速度を求めたところ0.40μm/hであった。
【0101】
(実施例2)
25mm角シリコン基板上にRFスパッタリング法により、4μm厚のInGaZnO膜を成膜した。本実施例では、壁部材に高周波交流電源が取り付けられた以外は実施例1と同様の成膜装置を用いた。壁部材に印加するRFパワーは100Wとした。壁部材の基板ホルダ側の面の電位は、−150Vであった。壁部材の基板ホルダ側の面の電位と壁部材の基板ホルダ側の面から1〜2cm離れた位置のプラズマ電位との差は、約30Vであった。
【0102】
その他の成膜条件は以下の通りとした。
ターゲット:InGaZnO焼結体(4インチφ)、
基板温度:200℃、
成膜ガス:Ar/O=90/10(流量比)、
成膜圧力:0.5Pa、
ターゲット−基板間距離:80mm、
RFパワー:200W。
【0103】
得られた膜についてXRF組成分析を実施したところ、In:Ga:Zn(モル比)=1.0:0.95:0.95であり、ターゲット組成とほぼ同一組成であった。
壁部材の基板ホルダ側の面にダミー基板を取り付けて、ダミー基板の成膜速度を求めたところ0.20μm/hであった。壁部材に対する交流電圧印加処理を行った本実施例では、壁部材に対する交流電圧印加処理を行わなかった後記比較例2に比較して、ダミー基板の成膜速度が小さく、壁部材の基板ホルダ側の面に付着した成分が成膜雰囲気中に放出されていることが実証された。
【0104】
(比較例2)
壁部材に対する交流電圧印加処理を行わなかった以外は実施例2と同様にして、InGaZnO膜の成膜を実施した。
得られた膜についてXRF組成分析を実施したところ、In:Ga:Zn(モル比)=1.0:0.8:0.7であり、ターゲット組成よりもGa及びZrの量が少ない組成であった。実施例2と同様に、壁部材の基板ホルダ側の面にダミー基板を取り付けて、ダミー基板の成膜速度を求めたところ0.35μm/hであった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、プラズマを用いる気相成長法による任意の組成の成膜に適用することができる。本発明は、インクジェット式記録ヘッド,磁気記録再生ヘッド,MEMS(Micro Electro-Mechanical Systems)デバイス,マイクロポンプ,超音波探触子,及び超音波モータ等に搭載される圧電アクチュエータ、及び強誘電体メモリ等の強誘電体素子に用いられる圧電体膜の成膜、あるいはZn含有化合物を含む導電体膜又は半導体膜の成膜等に好ましく適用することができる。
【符号の説明】
【0106】
1,2,3 成膜装置(高周波スパッタリング装置)
10 真空容器
10S 真空容器の内壁面
11 基板ホルダ
12 ターゲットホルダ(プラズマ電極)
14 プラズマ発生手段
18 ガス導入管(ガス導入手段)
21、22、23 物理的処理手段
41 壁部材
41S 壁部材の基板ホルダ側の面
G ガス
B 基板
T ターゲット
5 圧電素子
6,6K,6C,6M,6Y インクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)
50 基板
51 下部電極
52 圧電体膜
53 上部電極
70 インクノズル(液体貯留吐出部材)
71 インク室(液体貯留室)
72 インク吐出口(液体吐出口)
100 インクジェット式記録装置(液体吐出装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板とターゲットとを対向させて、プラズマを用いた気相成長法により前記基板上に前記ターゲットの構成元素を含む膜を成膜する成膜方法において、
前記基板を前記ターゲットの構成元素が付着する壁面で囲むと共に、該壁面に対して物理的な処理を行って該壁面に付着した成分を成膜雰囲気中に放出させながら、前記成膜を行うことを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記壁面は前記成膜が行われる真空容器の内壁面、若しくは前記基板と前記真空容器との間に設けられた壁部材の面であることを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記物理的な処理は加熱処理であることを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記物理的な処理は100℃以上の加熱処理であることを特徴とする請求項3に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記物理的な処理は交流電圧印加処理であることを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記物理的な処理はマイナス電位印加処理であることを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜方法。
【請求項7】
前記壁面の電位と前記壁面から1〜2cm離れた位置のプラズマ電位との差を20V以上とすることを特徴とする請求項6に記載の成膜方法。
【請求項8】
前記気相成長法はスパッタリング法であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項9】
前記膜は、非金属かつ非半金属の元素を除いて複数の元素を含む膜であり、かつ、該複数の元素のうち、最もスパッタ率の大きい元素のスパッタ率が、最もスパッタ率の小さい元素のスパッタ率の1.5倍以上の膜であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の成膜方法。OKです。
【請求項10】
前記膜は圧電体膜であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項11】
前記膜は下記一般式(P)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物を主成分とすることを特徴とする請求項10に記載の成膜方法。
一般式ABO・・・(P)
(A:Aサイトの元素であり、Pb,Ba,Sr,Bi,Li,Na,Ca,Cd,Mg,K,及びランタニド元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Mg,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,Ni,Hf,及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む。
O:酸素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
【請求項12】
前記膜は、前記一般式(P)で表され、かつAサイトがPb,Bi,及びBaからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属元素を含む1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物を含むことを特徴とする請求項11に記載の成膜方法。
【請求項13】
前記膜は、前記一般式(P)で表され、かつAサイトがPbを含む1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物を含むことを特徴とする請求項12に記載の成膜方法。
【請求項14】
前記膜はZn含有化合物を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項15】
前記膜は下記一般式(S)で表されるZn含有酸化物を含むことを特徴とする請求項14に記載の成膜方法。
InZn(x+3y/2+3z/2) ・・・(S)
(式中、MはIn,Fe,Ga,及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。x,y,zはいずれも0超の実数である。)
【請求項16】
内部に互いに対向配置された基板ホルダ及びターゲットホルダが装着された真空容器と、
前記真空容器内にプラズマを発生させるプラズマ発生手段と、
前記真空容器内にプラズマ化させるガスを導入するガス導入手段とを備え、
プラズマを用いた気相成長法により基板上にターゲットの構成元素を含む膜を成膜する成膜装置において、
前記基板ホルダはターゲットの構成元素が付着する壁面で囲まれていると共に、該壁面には、該壁面に対して物理的な処理を行って該壁面に付着した成分を成膜雰囲気中に放出させる物理的処理手段が接続されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項17】
前記壁面は前記真空容器の内壁面、若しくは前記基板ホルダと前記真空容器との間に設けられた壁部材の面であることを特徴とする請求項16に記載の成膜装置。
【請求項18】
前記物理的処理手段は加熱手段であることを特徴とする請求項16又は17に記載の成膜装置。
【請求項19】
前記物理的処理手段は交流電圧印加手段であることを特徴とする請求項16又は17に記載の成膜装置。
【請求項20】
前記物理的処理手段はマイナス電位印加手段であることを特徴とする請求項16又は17に記載の成膜装置。
【請求項21】
請求項1〜15のいずれかに記載の成膜方法により成膜されたものであることを特徴とする圧電体膜。
【請求項22】
請求項21に記載の圧電体膜と、該圧電体膜に対して電界を印加する電極とを備えたことを特徴とする圧電素子。
【請求項23】
請求項22に記載の圧電素子と、該圧電素子に隣接して設けられた液体吐出部材とを備え、該液体吐出部材は、液体が貯留される液体貯留室と、前記圧電体膜に対する前記電界の印加に応じて該液体貯留室から外部に前記液体が吐出される液体吐出口とを有することを特徴とする液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−189703(P2010−189703A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35080(P2009−35080)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】