説明

成膜方法

【課題】疎水性基板上に良好な酸化膜を形成する成膜方法を提供する。
【解決手段】室温以上且つ水の沸点未満の第1の基板温度T1で、水の過飽和状態にした疎水性の基板11の基板表面110上に下地酸化膜12を原子層堆積法を用いて形成するステップと、第2の基板温度T2で、下地酸化膜12上に上部酸化膜13を原子層堆積法を用いて形成するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上での成膜方法に係り、特に疎水性表面を持つ基板上に原子層堆積法を用いて酸化膜を形成する成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法は、前駆体(precursor)と呼ばれる有機金属化合物とその酸化剤(主として水)を用いて原子層を1層ずつデジタル的に膜成長を行う成膜方法である。1原子層ずつ成長可能であるのは、前駆体の持つ自己抑制機構、すなわち表面に1原子層だけ吸着するとそれ以上の厚さにならないという性質を利用するためである。ALD法は、化学気相成長(CVD)法の一種であるが、表面吸着による自己抑制機構により1原子層ずつ成長する点が、通常のCVD法とは異なる。
【0003】
ALD法は基板の表面吸着を利用するため、薄膜成長において重要な基板温度や基板材料以上に、基板の表面状態が成長条件を大きく左右する。シリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)等の基板は、基板表面に水酸基(OH基)が存在するために、親水性の性質を持ち、ALD法によって比較的問題なく一様な成膜が可能である。しかし、グラファイトやその1原子層膜であるグラフェン(graphene)はハニカム構造の結晶を有し、表面にはパイ電子のみ存在する。このため、基板表面は不活性な疎水性を示し、ALD法による一様な膜の成長が難しい。
【0004】
このようなことから、グラファイトやグラフェン等の疎水性基板上に酸化膜を形成する方法として、酸化膜と基板との間にバッファー層を設けることで一様な酸化膜を成長させる方法が提案されている。例えば、バッファー層として二酸化窒素で表面を覆い、その上に酸化アルミニウム(Al23)膜を成長する方法、基板上に薄い金属薄膜(アルミニウム(Al)膜、チタン(Ti)膜等)を堆積し、この金属薄膜上に酸化膜を成長させる方法、酸化力の強いオゾンや窒素酸化物(NO2)を利用する方法等が提案されている(例えば、非特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.R.Williams, L.DiCarlo, C.M.Marcus, “Quantum Hall Effect in a Gate-Controlled p-n Junction of Graphene,” 2007, Science, vol 317, p.638-640
【非特許文献2】Seyoung Kim, Junghyo Nah, Insun Jo, Davood Shahrierdi, Luigi Colombo, Zhen Yao, Emanuel Tutuc, and Sanjay K.Banerjee, “Realization of a high mobility dual-gated graphene field-effect transistor with Al2O3 dielectric,” 2009, Applied Physics Letters 94, 062107
【非特許文献3】W.H.Wang, W.Han, K.Pi, K.M.McCreary, F.Miao, W.Bao, C.N.Lau, and R.K.Kawakami, “Growth of atomically smooth MgO films on graphene by molecular beam epitaxy,” 2008, Applied Physics Letters 93, 183107
【非特許文献4】Bongki Lee, Seong-Yong Park, Hyun-Chul Kim, KyeongJae Cho, Eric M.Vogel, Moon J.Kim, Robert M.Wallace, and Jiyoung Kim, “Conformal Al2O3 dleccctr deposited by atomic layer deposition for graphene-based nanoelectronics,” 2008, Applied Physics Letters 92, 203102
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらのバッファー層を用いる方法では、経年変化による界面状態の変化やバッファー層の存在による界面準位の増加等が問題となる。例えば、ALD法で堆積させたAl23膜をトランジスタのゲート絶縁膜に使用した場合、ゲート絶縁膜と基板との界面に、トランジスタを構成する上で本質的に不必要である金属膜、半導体酸化膜、半導体窒化膜等がバッファー層として残る。このため、界面での電荷蓄積によるゲート電圧の制御性や耐圧に関して問題が発生する場合がある。特に基板が化合物半導体の場合には、この界面電荷の効果は顕著であり大きな問題となっている。
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明は、疎水性基板上に良好な酸化膜を形成する成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、(イ)室温以上且つ水の沸点未満の第1の基板温度で、水の過飽和状態にした疎水性の基板の基板表面上に下地酸化膜を原子層堆積法を用いて形成するステップと、(ロ)第2の基板温度で、下地酸化膜上に上部酸化膜を原子層堆積法を用いて形成するステップとを含む成膜方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、疎水性基板上に良好な酸化膜を形成する成膜方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る成膜方法を用いて製造された半導体装置の例を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る成膜方法に使用される製造装置の例を示す模式図である。
【図3】本発明の実施形態に係る成膜方法を説明するためのプロセスステップである。
【図4】本発明の実施形態に係る成膜方法において水を基板に供給する方法を説明するためのプロセスステップである。
【図5】疎水性基板上に付着した水の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
図1に、本発明の実施形態に係る成膜方法を用いて製造された半導体装置10の例を示す。図1に示した半導体装置10では、疎水性の基板11の基板表面110上に、下地酸化膜12と上部酸化膜13が順に積層されている。以下では、図1に示した半導体装置10を製造する場合を例にして、本発明の実施形態に係る成膜方法を説明する。
【0013】
本発明の実施形態に係る成膜方法は、室温以上且つ水の沸点未満の第1の基板温度T1で、水の過飽和状態にした疎水性の基板11の基板表面110上に下地酸化膜12を原子層堆積法を用いて形成するステップと、第2の基板温度T2で、下地酸化膜12上に上部酸化膜13を原子層堆積法を用いて形成するステップとを含む。
【0014】
第1の基板温度T1が室温(例えば25℃程度)以上、且つ水の沸点(100℃)より低い温度に設定されるのは、後述するように、基板11に水(H2O)を供給することによって疎水性の基板11の基板表面110を水の過飽和の状態、即ち十分な親水性表面状態にするためである。水の過飽和の状態にある基板表面110上に、下地酸化膜12が形成される。
【0015】
このため、下地酸化膜12を形成するために使用される前駆体として、第1の基板温度T1においてALD法を用いて成膜するために十分な蒸気圧を得られる材料が選択される。一般的に、ALD法における前駆体の蒸気圧は5〜10ヘクトパスカル(hPa)程度である。例えば、下地酸化膜12が酸化アルミニウム(Al23)膜である場合に、前駆体として使用可能な有機金属化合物にはトリメチルアルミニウム(TMA)がある。TMAは、室温から100℃未満の範囲にある第1の基板温度T1においても十分な蒸気圧がある。
【0016】
第2の基板温度T2は、ALD法によって上部酸化膜13を形成するために前駆体が十分な蒸気圧が得られる温度に設定される。上部酸化膜13がAl23膜である場合には、前駆体としてTMAが採用可能である。或いは、上部酸化膜13が酸化ハフニウム(HfO2)膜である場合には、前駆体としてテトラキスエチルメチルアミノハフニウム(TEMAH)が採用可能である。
【0017】
本発明の実施形態に係る成膜方法は、例えば図2に示すような原子層堆積装置100を用いて実行される。図2に示した原子層堆積装置100では、前駆体102や酸化剤103の搬送に使用されるキャリアガス101が、ガスライン108を介して、基板11が格納された反応チャンバー104に流入する。キャリアガス101には、窒素(N2)ガスやヘリウム(He)ガス等が採用可能である。
【0018】
前駆体102は、パルシングバルブ106を開くことでガスライン108に導入され、キャリアガス101によって反応チャンバー104に搬送される。酸化剤103は、パルシングバルブ107を開くことでガスライン108に導入され、キャリアガス101によって反応チャンバー104に搬送される。また、ドライポンプ105によって、反応ガスや余剰な前駆体102等が反応チャンバー104の外部に排出される。
【0019】
キャリアガス101は、3〜6hPa程度の圧力でガスライン108に導入される。このため、前駆体102をガスライン108に導入するためには、成膜温度における前駆体102の蒸気圧は、5hPa以上、好ましくは8〜10hPa程度である必要がある。
【0020】
以下では、図2に示した原子層堆積装置100を用いて、図1に示したように基板11上に下地酸化膜12と上部酸化膜13を形成する場合を例示的に説明する。ここで、下地酸化膜12の形成に使用される前駆体102はTMAであり、下地酸化膜12はAl23膜であるとする。
【0021】
また、パルス供給によって前駆体102や酸化剤103等がパルス状に反応チャンバー104に供給されるが、以下において「パルス時間」は、前駆体102や酸化剤103等を反応チャンバー104に供給するためにパルシングバルブ106やパルシングバルブ107を開いている時間であり、「パージ時間」は、キャリアガス101のみを反応チャンバー104に供給するためにパルシングバルブ106及びパルシングバルブ107を閉じている時間である。通常、パージ時間は、基板表面110に余剰に吸着しているTMAや反応生成物、余剰な水分子等を、反応チャンバー104の外部に排出するための時間である。
【0022】
以下に、本発明の実施形態に係る成膜方法を、図3を参照して説明する。図3のグラフの縦軸は、基板11の基板温度と、反応チャンバー104内の圧力である。なお、酸化剤103はH2Oであり、パルシングバルブ107を開くことにより、基板11に供給される水がガスライン108を介して反応チャンバー104に導入される。
【0023】
(イ)疎水性の基板11を反応チャンバー104に格納した後、反応チャンバー104内の温度を設定して、基板11の基板温度を、室温から水の沸点(100℃)未満の範囲にある第1の基板温度T1にする。TMAは室温でも十分な蒸気圧があるため、室温から100℃未満の範囲でも前駆体102として使用可能である。なお、前駆体102がTMAである場合は、最適な第1の基板温度T1は80℃程度であることが実験により得られている。
【0024】
(ロ)図3に示す期間tT1のうちの期間twの間、水を基板11に供給し、基板11の基板表面110を水の過飽和状態にする。例えば、図4に示すように、パルシングバルブ107が開いているパルス時間tPLWと、キャリアガス101のみ供給するためにパルシングバルブ107が閉じているパージ時間tPGWからなるパルス供給のサイクル(以下において、「水供給サイクル」という。)Cwを繰り返して、水を基板11に供給する。ただし、パージ時間tPGWは、基板11に常に水が供給されるように設定される。具体的には、パルシングバルブ107から反応チャンバー104まで水が通過するのに要する通過時間tPASSよりも、パージ時間tPGWを短くする。例えば、通過時間tPASSが2.5秒である場合、パージ時間tPGWは2.5秒より短くする。通過時間tPASSは、原子層堆積装置100の構造に依存する。
【0025】
(ハ)期間twに続く期間tmにおいて、パルシングバルブ106のみ開くパルス時間tPLM及びパルシングバルブ106、107を閉じるパージ時間tPGMからなるパルス供給によって、基板表面110が水の過飽和状態である基板11にTMAを1回供給する。具体的には、TMAを前駆体102としてガス状にし、パルシングバルブ106をパルス時間tPLM=0.1秒だけ開いて、TMAをキャリアガス101に載せて反応チャンバー104に導入する。この間、パルシングバルブ107は閉じている。その結果、前駆体102は反応チャンバー104内に置かれた基板11の基板表面110と反応し、基板表面110に1原子層のみ吸着される。このとき、基板表面110の全面に水が付着しているため、前駆体102は基板表面110の全面に吸着される。
【0026】
(ニ)前駆体102を基板表面110に吸着させた後、パージ時間tPGM=2.5秒の間、パルシングバルブ106、107を閉じて、キャリアガス101のみを反応チャンバー104に導入する。パージ時間tPGMは基板表面110に余剰に吸着しているTMAを取り除くのに必要な時間である。パージ時間tPGMは反応チャンバー104内の温度(第1の基板温度T1)に応じて、2.5〜120秒の範囲でも設定可能である。
【0027】
(ホ)次いで、期間tmにおいて、パルシングバルブ107のみ開くパルス時間tPLO及びパルシングバルブ106、107を閉じるパージ時間tPGOからなるパルス供給によって、前駆体102の酸化剤103を基板11に供給する。例えば、パルシングバルブ107をパルス時間tPLO=0.1秒だけ開いて、酸化剤103をキャリアガス101に載せて反応チャンバー104に導入する。これにより、基板表面110に接する下地酸化膜12の1原子層分の最下層が形成される。次いで、パージ時間tPGO=4.0秒の間、パルシングバルブ106、107を閉じて、キャリアガス101のみを反応チャンバー104に導入する。これにより、反応生成物や余剰な水分子を反応チャンバー104の外部に排出する。
【0028】
(ヘ)その後、前駆体102を基板11に供給する工程と、前駆体102の酸化剤103を基板11に供給する工程とを繰り返すALD法のプロセスにより、第1の基板温度T1で下地酸化膜12を形成する。即ち、
(a)パルス時間t1PLMの間、パルシングバルブ107を閉じ、パルシングバルブ106を開いて、前駆体102を基板11に供給し;
(b)パージ時間t1PGMの間、パルシングバルブ106、107を閉じて、キャリアガス101のみを基板11に供給し;
(c)パルス時間t1PLOの間、パルシングバルブ106を閉じ、パルシングバルブ107を開いて、前駆体102の酸化剤103を基板11に供給し;
(d)パージ時間t1PGOの間、パルシングバルブ106、107を閉じて、キャリアガス101のみを基板11に供給する、
を含むプロセスサイクルを1つのサイクル(以下において、「低温サイクル」という。)C1として、第1の基板温度T1において低温サイクルC1を複数回繰り返し実行する。例えば、パルス時間t1PLM=0.1秒且つパージ時間t1PGM=4.0秒で前駆体102としてTMAを基板11に供給し、パルス時間t1PLO=0.1秒且つパージ時間t1PGO=4.0秒で酸化剤103としてH2Oを基板11に供給する。この場合も、パージ時間t1PGMは反応チャンバー104内の温度(第1の基板温度T1)に応じて120秒程度まで長くした方が良い場合もある。上記の期間tw、期間tm、及び複数回の低温サイクルC1を含む期間tT1において、基板11上に下地酸化膜12が形成される。
【0029】
(ト)下地酸化膜12の形成後、反応チャンバー104内の温度を設定して、基板11の基板温度を第2の基板温度T2にする。第2の基板温度T2は、ALD法における一般的な成膜温度である。例えば前駆体102がTMAである場合、第2の基板温度T2は140℃〜350℃程度である。基板11の基板温度が第2の基板温度T2に到達後、図3に示す期間tT2において、ALD法における通常のプロセスによって上部酸化膜13を形成する。即ち、
(a)パルス時間t2PLMの間、パルシングバルブ106を開き、且つパルシングバルブ107を閉じて、前駆体102を基板11に供給し;
(b)パージ時間t2PGMの間、パルシングバルブ106、107を閉じて、キャリアガス101のみを基板11に供給し;
(c)パルス時間t2PLOの間、パルシングバルブ106を閉じ、且つパルシングバルブ107を開いて、前駆体102の酸化剤103を基板11に供給し;
(d)パージ時間t2PGOの間、パルシングバルブ106、107を閉じて、キャリアガス101のみを基板11に供給する、
を含むプロセスサイクルを1つのサイクル(以下において、「通常サイクル」という。)C2として、第2の基板温度T2において通常サイクルC2を複数回繰り返し実行することにより、所望の膜厚の上部酸化膜13を形成する。以上により、図1に示した半導体装置10が完成する。
【0030】
なお、期間twにおける水供給サイクルCwの繰り返し回数は、偶数回(例えば、2、4、6、8回等)にすることが好ましい。この理由は、水分子が非常に大きな双極子モーメントを持つために、水が基板表面110上に安定して存在するには電気二重層を形成することが好ましいからである。なお、水の層が厚くなるとTMAとの反応が均一でなくなり、その後の酸化膜の成長に対する影響が懸念される。このため、水供給サイクルCwは8サイクル程度に留めることが好ましい。1回の水供給サイクルCwで膜厚0.2nm程度の水の膜が形成されるため、例えば水供給サイクルCwを8サイクルとした場合には、基板表面110上に膜厚1.6nm程度の水の膜が形成される。
【0031】
なお、パルス時間t1PLO、t1PLM、t2PLO、t2PLM、及びパージ時間t1PGO、t1PGM、t2PGO、t2PGMは、原子層堆積装置100の構造等に依存する値であるが、一般的な原子層堆積装置100では、例えば上記のように、t1PLO=t1PLM=t2PLO=t2PLM=0.1秒、t1PGO=t1PGM=t2PGO=t2PGM=4.0秒が典型的な値である。
【0032】
ただし、基板表面110上に最初の1原子層の酸化膜が形成される際には、基板11に常に水が供給されている必要がある。このため、既に説明したように、パージ時間tPGWは通過時間tPASSよりも短い必要があり、例えば、パージ時間tPGWは2.5秒である。
【0033】
基板表面110上に最初の1原子層の酸化膜が形成された後、例えばパルス時間t1PLO=0.1秒、パージ時間t1PGO=4.0秒、パルス時間t1PLM=0.1秒、及びパージ時間t1PGM=4.0秒からなる低温サイクルC1を、20サイクル以上(典型的には50サイクル程度)繰り返すことにより、下地酸化膜12を成長させる。成長条件に依存するが、1回の低温サイクルC1によって形成されるAl23膜の膜厚は、0.1nm程度である。低温サイクルC1の繰り返し回数が20サイクルよりも少ない場合には、基板表面110を均一にAl23膜で覆うことが出来ず、不完全な膜成長となる場合がある。一方、下地酸化膜12が厚膜であると、低温成長で形成されるために耐圧等の点で不利である。このため、低温サイクルC1を50サイクル程度繰り返して下地酸化膜12を形成する。このとき、下地酸化膜12の膜厚は5nm程度である。
【0034】
上部酸化膜13の形成においては、例えば、パルス時間t2PLM=0.1秒間、ガス状にした前駆体102をキャリアガス101に載せて反応チャンバー104に導入して、下地酸化膜12上に前駆体102を1原子層のみ吸着させる。次いで、パージ時間t2PGM=4.0秒間、キャリアガス101のみを反応チャンバー104に導入して、表面吸着反応で生じた生成物や余剰の前駆体102を、ドライポンプ105によって反応チャンバー104の外部に排出する。その後、パルス時間t2PLO=0.1秒間、前駆体102と反応する酸化剤103(主として水)を反応チャンバー104に導入して、下地酸化膜12の表面に吸着された金属分子を酸化して1原子層の酸化膜を形成する。次いで、パージ時間t2PGO=4.0秒間、キャリアガス101を反応チャンバー104に導入し、反応生成物や余剰な水分子を反応チャンバー104の外部に排出する。以上により、第2の基板温度T2において上部酸化膜13を1原子層成長させる通常サイクルC2が完了する。
【0035】
そして、通常サイクルC2を複数回繰り返すことによって、所望の膜厚の上部酸化膜13を形成する。パージ時間t2PGMは、反応チャンバー104内の温度(第2の基板温度T2)によっては4〜120秒の範囲でも可能である。
【0036】
以上の説明では、下地酸化膜12の形成に使用される前駆体がTMAであり、下地酸化膜12がAl23膜である場合を示した。しかし、水の沸点より低い温度でも十分な蒸気圧がある前駆体であれば、下地酸化膜12の形成に使用される前駆体がTMA以外であってもよいことはもちろんである。また、下地酸化膜12にAl23膜以外の酸化膜を使用してもよい。
【0037】
ただし、125℃以上での成膜が必要なTEMAH等の、100℃以上での成膜が要求される材料は、下地酸化膜12の形成に使用される前駆体として採用できない。これらの材料は、水の沸点より低い温度において搬送途中で凝縮するためである。しかし、HfO2膜を形成するための前駆体102としてTEMAH以外の、水の沸点より低い温度での成膜に使用可能な材料が見出されれば、その材料をTMAと同様に下地酸化膜12の形成に使用して、下地酸化膜12をHfO2膜にすることも可能である。
【0038】
上部酸化膜13を形成するために使用される前駆体102としては、TMAやTEMAH等が採用可能である。既に述べたように、前駆体102にTMAを使用した場合には、上部酸化膜13はAl23膜である。また、前駆体102にTEMAHを使用した場合には、上部酸化膜13はHfO2膜である。
【0039】
更に、上部酸化膜13としてAl23膜及びHfO2膜以外の酸化膜、例えば酸化チタン(TiO2)膜、酸化シリコン(SiO2)膜、酸化亜鉛(ZnO)膜、ジルコニア(ZrO)膜、酸化錫(SnO2)膜等を成長可能である。TiO2膜の形成には、前駆体102に塩化チタン(TiCl4)、酸化剤103にH2Oを使用する。SiO2膜の形成には、前駆体102にビスジエチルアミドシラン(Bis(diethylamido)silane:2DEAS)、酸化剤103にH2Oを使用する。ZnO膜の形成には、前駆体102に塩化亜鉛(ZnCl2)、酸化剤103にH2Oを使用する。ZrO膜の形成には、前駆体102にテトラキスエチルメチルアミドジルコニウム(Tetrakis(ethylmethylamido)zirconium)、酸化剤103にH2Oを使用する。SnO2膜の形成には、前駆体102に塩化錫(SnCl4)、酸化剤103にH2Oを使用する。
【0040】
なお、ZnCl2は、室温〜100℃においてALD法で成膜するために十分な蒸気圧がある。このため、前駆体としてZnCl2を使用して、下地酸化膜12をZnO膜にすることができる。
【0041】
本発明の実施形態に係る成膜方法は、通常のALD法と同様に、(1)1原子層ずつ膜をデジタルに成長できること、(2)どのような形状の材料上においても一様に膜を成長できるので、複雑な3次元構造物での成膜が可能、(3)CVD法と比較して低温成長のため、緻密なアモルファス膜が形成される、等の特徴を有する。
【0042】
成膜条件としては、前駆体102と酸化剤103の選択、反応チャンバー104内の温度(基板温度)、キャリアガス101の流量、パルシングバルブ106、107の開閉時間、そしてキャリアガス101のみを基板11に供給する時間(バージ時間)がある。既に述べたように、ALD法は基板の表面吸着を利用するため、基板の表面状態が成長条件を大きく左右する。
【0043】
このため、疎水性基板上に一様な酸化膜を形成するために、本発明の実施形態に係る成膜方法のポイントは、基板11に水を供給して基板表面110を水の過飽和の状態にして、下地酸化膜12の形成を開始することにある。
【0044】
下地酸化膜12の形成後は、通常のプロセスで良好な酸化膜として上部酸化膜13を形成できる。例えば、図1に示した半導体装置10において、基板11上に低温(室温〜100℃未満)で下地酸化膜12(Al23膜)を成長し、下地酸化膜12の上にALD法の一般的な成膜温度で上部酸化膜13(Al23膜、HfO2膜等)を成長させることができる。
【0045】
一方、下地酸化膜12を形成する際に、基板11に常に水が供給されていない場合は、パージ時間にキャリアガス101によって基板表面110上の水の一部が除去される等して、基板表面110の全面を水で覆うことができない。このため、例えば図5に示すように、基板表面110上で水がいくつかの領域に分離して付着する。その結果、水が付着した領域上に分離して下地酸化膜12が形成されてしまい、一様な酸化膜を基板表面110上に形成することができない。
【0046】
上記では、疎水性の基板11がグラファイトやグラフェンである場合を仮定して説明したが、同様な方法により疎水性有機分子膜やタンパク質膜での酸化膜の成長も可能である。有機分子やタンパク質等は熱に弱いため、比較的低温での酸化膜の成長が望まれる。このような熱に弱い膜の場合に、下地酸化膜12の成膜後、基板温度を上げずに上部酸化膜13を成膜する方法を適用する。このとき、第1の基板温度T1と第2の基板温度T2は、例えば同一である。下地酸化膜12の低温成長は、基板温度が65℃程度までは一般的なALD装置により可能である。このため、有機分子膜やタンパク質膜に損傷や変性を与えずに酸化膜を成長させることが可能であり、有機分子デバイスや生体デバイスへの応用も期待される。
【0047】
以上に説明したように、本発明の実施形態に係る成膜方法では、グラファイトやグラフェン、疎水性有機分子膜、タンパク質膜等の疎水性基板の表面を十分な親水性表面状態とした上で、ALD法のプロセスを開始する。これにより、バッファー層を形成することなく、疎水性基板上に一様な酸化膜を形成できる。このため、経年変化による界面状態の変化やバッファー層の存在による界面準位の増加等の弊害を除くことができる。したがって、本発明の実施形態に係る成膜方法によれば、疎水性基板上に良好な酸化膜を形成する成膜方法を提供することができる。
【0048】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明を実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0049】
既に述べた実施形態の説明においては、基板表面110を水の過飽和にするためにパルス供給によって水を基板11に供給する例を説明したが、パルス供給ではなく、連続して水を基板11に供給してもよい。また、酸化剤103として、H2O以外の材料、例えばオゾンを使用してもよい。
【0050】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の成膜方法は、酸化膜を有する半導体装置、有機分子デバイス、生体デバイス等に利用可能である。
【符号の説明】
【0052】
10…半導体装置
11…基板
12…下地酸化膜
13…上部酸化膜
100…原子層堆積装置
101…キャリアガス
102…前駆体
103…酸化剤
104…反応チャンバー
105…ドライポンプ
106…パルシングバルブ
107…パルシングバルブ
108…ガスライン
110…基板表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室温以上且つ水の沸点未満の第1の基板温度で、水の過飽和状態にした疎水性の基板の基板表面上に下地酸化膜を原子層堆積法を用いて形成するステップと、
第2の基板温度で、前記下地酸化膜上に上部酸化膜を原子層堆積法を用いて形成するステップと
を含むことを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記下地酸化膜を形成するステップが、
前記基板に水を供給して前記基板表面を水の過飽和状態にするステップと、
前記第1の基板温度において原子層堆積法で成膜するために十分な蒸気圧のある前駆体と前記前駆体の酸化剤とを、前記基板表面が水の過飽和状態にある前記基板に交互に供給するステップを含む低温サイクルを複数回実行すること
を含むことを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
常に水を供給しながら前記基板に前記前駆体を供給することによって、前記下地酸化膜の前記基板表面に接する最下層を形成することを特徴とする請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記基板を格納する反応チャンバーに水及びキャリアガスを供給するガスライン、及び前記ガスラインに水を導入するために開閉されるバルブを備える原子層堆積装置を用いて、前記バルブを開いているパルス時間と前記バルブを閉じているパージ時間とが設定されるパルス供給によって前記基板に水を供給し、前記バルブから前記反応チャンバーまで水が通過するのに要する時間よりも前記パージ時間を短くすることによって、常に水を前記基板に供給することを特徴とする請求項3に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記低温サイクルにおいて、前記前駆体を前記基板に供給するステップの後、及び前記酸化剤を前記基板に供給するステップの後に、キャリアガスのみを前記基板に供給することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記下地酸化膜が、トリメチルアルミニウムを前記前駆体に用いて形成される酸化アルミニウム膜であることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項7】
前記第2の基板温度が前記第1の基板温度より高いことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−124371(P2011−124371A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280476(P2009−280476)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】