説明

成膜装置、成膜方法

【課題】測定時のS/N比(シグナル/ノイズ比)の低下を抑制し、短時間の測定で精密な測定を行い、リアルタイム性の向上が図られるような光学的検知装置を提供する。
【解決手段】測定用の光が通過する測定光路と、前記測定光路に測定用の光を照射する光源と、前記測定光路を通過した光を受光し、吸収スペクトルの検出を行う検出器と、を有し、前記測定光路と前記光源とを連結させる第1の連結路と、前記測定光路と前記検出器とを所定の間隔でもって連結させる第2の連結路と、が設けられ、前記第1の連結路は前記測定光路と前記光源との間の空間を密閉可能な構成であり、前記第2の連結路は前記測定光路と前記検出器との間の空間を密閉可能な構成であり、前記第1の連結路及び前記第2の連結路の内部を排気する排気機構と、前記第1の連結路及び前記第2の連結路の内部に不活性ガスを供給する不活性ガス供給機構と、を備えた光学的検知装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機EL素子の製造を行うに際し、発光層の成膜に用いる成膜装置、当該成膜装置において材料ガス濃度の検出を行う光学的検知装置、成膜を行う成膜方法及び該光学的検知装置を用いる場合のノイズレベルの監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロルミネッセンス(EL:Electro Luminescence)を利用した有機EL素子が開発されている。有機EL素子は、自発光するため、液晶ディスプレー(LCD)などに比べて視野角に優れている等の利点があり、今後の発展が期待されている。
【0003】
この有機EL素子の最も基本的な構造は、ガラス基板上にアノード(陽極)層、発光層およびカソード(陰極)層を重ねて形成したサンドイッチ構造である。発光層の光を外に取り出すために、ガラス基板上のアノード層には、ITO(Indium Tin Oxide)からなる透明電極が用いられる。かかる有機EL素子は、表面にITO層(アノード層)が予め形成されたガラス基板上に、発光層とカソード層を順に成膜し、更に封止膜層を成膜することによって製造されるのが一般的である。
【0004】
以上のような有機EL素子における発光層の成膜は、蒸着処理装置において行われるのが一般的である。蒸着処理装置における発光層等の膜厚は、発光効率等の観点から所定の膜厚に制御される必要があり、従来より膜厚制御技術が創案されてきた。
【0005】
膜厚制御技術としては、蒸着させる材料ガスの濃度をFTIR(フーリエ変換型赤外分光)装置等の光学的検知装置によって測定し、測定された材料ガス濃度のデータと基板に成膜された薄膜の膜厚との関係性に基づき膜厚の制御を行う方法が知られている。以下には、図1を参照して従来の膜厚測定技術について説明する。
【0006】
図1は、従来より膜厚測定のために用いられてきた、FTIR装置である光学的検知装置100の概略説明図である。図1に示すように、光学的検知装置100は、赤外光を照射する光源102と、光源102から照射された赤外光が通過する測定光路105と、測定光路105を通過した赤外光の検出を行う検出器107から構成される。即ち、光源102と検出器107に挟まれるように測定光路105が配置され、光源102から検出器107方向に照射された赤外光は、測定光路105を通過した後、検出器107に到達する。なお、光学的検知装置100は、一般的には基板に成膜を行う成膜装置等に付随あるいは一体化して設けられるが、成膜装置等は一般的に公知な蒸着処理装置であり、図示していない。
【0007】
測定時には、測定光路105に材料ガスが流され、その状態で光源102から測定光路に照射した赤外光の吸収ピークを測定することで、材料ガス濃度を検出している。この時、測定光路105を通過する材料ガスは、光路内での凝集を回避するために加熱した状態で流される。即ち、測定光路105は測定時に高温状態で用いられる。
【0008】
また一方、膜厚制御技術としては、水晶振動子(以下、QCMとも呼称する)を成膜対象基板の近傍やその他の材料ガスが流される位置に配置し、材料ガスが吹き付けられることによって材料の付着した当該QCMの振動数を測定することで材料ガス濃度を検出する方法も従来より知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記図1を参照して説明した光学的検知装置100において、光源102及び検出器107は常圧の大気中で用いられるため、測定光路105と光源102との間及び測定光路105と検出器107との間には大気が存在する。これにより、COやHO等の成分についてもピークが検出されてしまい、検出器107におけるピークの測定時に、上記COやHO等のピークと材料ガスのピークとが混在し、測定精度が十分に担保されないといった問題点があった。
【0010】
また、上述したように、測定光路105は測定時に高温状態で用いられるため、測定光路105からの輻射熱によって近接して配置される光源102及び検出器107が高温に加熱されてしまう場合があり、光源102及び検出器107の稼動、特に検出器107(例えばMCT検出器)において熱ノイズが発生し、正確な検出が行われない恐れがあった。この場合、光源102あるいは検出器107を、例えば液体窒素等の冷却媒体を装置内に導入することによって冷却するといった方法で光源102及び検出器107の温度上昇を抑えることが行われる。
【0011】
しかしながら、光源102や検出器107を冷却した場合、冷却による霜や結露が発生する恐れがあり、特に検出器107においては、検出素子を冷却しなくてはいけない場合等があり、発生した霜や結露のピークを検出してしまうことで材料ガス濃度の測定に悪影響が出る恐れがあった。
【0012】
また、光源102のエネルギー低下や測定光路105に設けられた窓部への成膜材料の付着等の様々な要因により光学的検知装置100の感度が経時的に変化(主に低下)してしまい、材料ガス濃度の定量的な測定が正確にできないといった問題点があった。
【0013】
加えて、測定光路105が成膜装置内あるいは成膜装置近傍に設けられる場合に、検出器107は成膜装置近傍に配置されることとなるので、成膜装置の装置振動が検出器107に伝播し、振動によるノイズが発生し正確な検出が行われない恐れがあった。
【0014】
即ち、検出器107においてCOやHO等の成分についてもピークが検出されてしまうことや、霜・結露のピークを検出してしまうこと、ならびに装置振動によるノイズの発生により、検出器107におけるピークの測定においてS/N比(シグナル/ノイズ比)が低下し、測定時間の長時間化や、定量性の低下が懸念され、更には、測定されるピーク強度の変化が測定誤差(の範囲)か否かを見極めることが困難になるといった問題点があった。なお、ここでシグナルとは、検出される光の吸収スペクトルにおいて検出対象である成分のピーク強度であり、ノイズとは、検出される光の吸収スペクトルにおいて検出対象以外の成分によって検出されてしまうピーク強度等である。
【0015】
一方、QCMを用いてガス濃度の測定を行う場合、実際の基板への材料の蒸着レートと、QCMに対する材料の蒸着レートが必ずしも一致するものではないため、測定においては適宜QCMにおける測定値を妥当な値とするための補正を行う必要がある。また、QCMはその特性上、QCMの個体差によって測定値にばらつきが出るといった問題点や、材料の付着による測定値の経時的変化が大きいためにQCM単体では長時間の測定には向かないといった問題点もある。
【0016】
即ち、成膜装置において材料ガス濃度の測定を行う場合に、光学的検知装置を用いても、また、QCMを用いても、測定精度が長時間にわたって担保されることはなく、経時的に測定精度が低下してしまう。これにより、正確な膜厚の成膜を行うことが難しくなり、例えば有機EL素子の生産性が低下してしまうといった問題があった。
【0017】
そこで、上記事情に鑑み、本発明の目的は、成膜装置に設置され、材料ガス濃度の測定を行う光学的検知装置において、測定時のS/N比(シグナル/ノイズ比)の低下を抑制し、短時間の測定で精密な測定を行うことが可能となり、リアルタイム性の向上が図られるような光学的検知装置及び該光学的検知装置を用いる場合のノイズレベルの監視方法を提供することにある。
【0018】
加えて、本発明は、光学的検知装置の感度の変化に応じて感度校正を行い、正確な材料ガス濃度の定量的な測定を正確に行うことが可能となるような光学的検知装置や当該光学的検知装置を用いた成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【0019】
更に、本発明は、光学的検知装置とQCMを併用することで、QCMにおける材料ガス濃度の測定値を規格化し、QCMの個体差や経時的変化による測定値のばらつきに影響されず、高精度に材料ガス濃度の測定を行うことが可能な成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記の目的を達成するため、本発明の一実施形態によれば、成膜に用いる材料ガスのガス濃度を、材料ガス中を通過した光の吸収スペクトルのピーク強度を検出することで測定する光学的検知装置であって、測定用の光が通過する測定光路と、前記測定光路に測定用の光を照射する光源と、前記測定光路を通過した光を受光し、吸収スペクトルの検出を行う検出器と、を有し、前記測定光路と前記光源とを連結させる第1の連結路と、前記測定光路と前記検出器とを所定の間隔でもって連結させる第2の連結路と、が設けられ、前記第1の連結路は前記測定光路と前記光源との間の空間を密閉可能な構成であり、前記第2の連結路は前記測定光路と前記検出器との間の空間を密閉可能な構成であり、前記第1の連結路及び前記第2の連結路の内部を排気する排気機構と、前記第1の連結路及び前記第2の連結路の内部に不活性ガスを供給する不活性ガス供給機構と、を備えた光学的検知装置が提供される。
【0021】
上記光学的検知装置においては、前記第2の連結路は、断熱材で構成されていても良く、前記検出器には、除震機構が備えられていても良い。また、前記検出器には、入射する光の光量を減少させる減光フィルタが設けられていても良い。また、前記第1の連結路又は前記第2の連結路に光の吸収スペクトルのピーク強度が既知である1又は複数の参照膜を着脱する着脱機構が備えられていても良い。
【0022】
また、別の観点からの本発明の一実施形態によれば、基板に薄膜を成膜する成膜装置であって、基板に成膜処理を行う減圧自在な処理チャンバーと、前記処理チャンバー内で基板支持台に支持された基板に対して材料ガスを噴射する蒸着ヘッドと、前記蒸着ヘッドと連通する材料ガス生成部と、前記材料ガス生成部にキャリアガスを導入するキャリアガス導入機構と、前記材料ガス生成部から前記蒸着ヘッドに導入される材料ガスのガス濃度を、材料ガス中を通過した光の吸収スペクトルのピーク強度を検出することで測定する光学的検知装置と、を備え、前記光学的検知装置は、材料ガス及び測定用の光が通過する測定光路と、前記測定光路に測定用の光を照射する光源と、前記測定光路を通過した光を受光し、吸収スペクトルの検出を行う検出器と、前記測定光路と前記光源とを連結させる第1の連結路と、前記測定光路と前記検出器とを所定の間隔でもって連結させる第2の連結路と、前記第1の連結路及び前記第2の連結路の内部を排気する排気機構と、前記第1の連結路及び前記第2の連結路の内部に不活性ガスを供給する不活性ガス供給機構と、を有し、前記第1の連結路は前記測定光路と前記光源との間の空間を密閉可能な構成であり、前記第2の連結路は前記測定光路と前記検出器との間の空間を密閉可能な構成である、成膜装置が提供される。
【0023】
上記成膜装置においては、前記第2の連結路は、断熱材で構成されていても良く、前記検出器には、除震機構が備えられていても良い。また、前記検出器には、入射する光の光量を減少させる減光フィルタが設けられていても良い。また、前記第1の連結路又は前記第2の連結路に光の吸収スペクトルのピーク強度が既知である1又は複数の参照膜を着脱する着脱機構が備えられていても良い。
【0024】
更に別の観点からの本発明の一実施形態によれば、薄膜の材料ガス中を通過した光の吸収スペクトルのピーク強度を検出することで該材料ガスの濃度を測定する光学的検知装置を用いて基板に薄膜を成膜する成膜方法であって、前記光学的検知装置の測定光路上に光の吸収スペクトルのピーク強度が既知である1又は複数の参照膜を配置し、当該参照膜の光の吸収スペクトルのピーク強度を測定し、既知である前記参照膜の光の吸収スペクトルのピーク強度と測定された当該参照膜の光の吸収スペクトルのピーク強度を比較し、前記光学的検知装置の感度補正を行う、成膜方法が提供される。
【0025】
また、本発明の別の一実施形態によれば、基板に薄膜を成膜する成膜装置であって、基板に成膜処理を行う減圧自在な処理チャンバーと、前記処理チャンバー内で基板支持台に支持された基板に対して材料ガスを噴射する蒸着ヘッドと、前記蒸着ヘッドと連通する材料ガス生成部と、前記材料ガス生成部にキャリアガスを導入するキャリアガス導入機構と、前記材料ガス生成部から前記蒸着ヘッドに導入される材料ガスのガス濃度を、材料ガス中を通過した光の吸収スペクトルのピーク強度を検出することで測定する光学的検知装置と、前記材料ガスを付着させ、振動数を測定することで当該材料ガスのガス濃度を測定する水晶振動子と、を備え、前記光学的検知装置には光の吸収スペクトルのピーク強度が既知である1又は複数の参照膜を当該光学的検知装置の測定光路上に着脱する着脱機構が備えられている、成膜装置が提供される。
【0026】
上記成膜装置においては、前記光学的検知装置によって測定されたガス濃度から算出される成膜レートに基づき、前記水晶振動子によって測定されたガス濃度から算出される成膜レートを補正する補正機構を備えていても良い。また、振動数を測定することで材料ガスのガス濃度を測定する前記水晶振動子として、前記基板近傍に設置され、成膜直前の材料ガス濃度を測定する第1の水晶振動子と、前記蒸着ヘッドに導入される前の材料ガス濃度を測定する第2の水晶振動子とが備えられていても良い。
【0027】
また、本発明の一実施形態によれば、薄膜の材料ガス中を通過した光の吸収スペクトルのピーク強度を検出することで該材料ガスの濃度を測定する光学的検知装置と、材料ガスを付着させ、振動数を測定することで当該材料ガスのガス濃度を測定する水晶振動子と、を用いて基板に薄膜を成膜する成膜方法であって、前記光学的検知装置によって測定されたガス濃度から算出される成膜レートに基づき、前記水晶振動子によって測定されたガス濃度から算出される成膜レートを補正する、成膜方法が提供される。
【0028】
上記成膜方法においては、前記水晶振動子は、前記基板近傍に設置され、成膜直前の材料ガス濃度を測定する第1の水晶振動子と前記蒸着ヘッドに導入される前の材料ガス濃度を測定する第2の水晶振動子のいずれか一方又は両方であっても良い。
【0029】
更に、別の観点からの本発明の一実施形態によれば、成膜に用いる材料ガスのガス濃度を、上記記載の光学的検知装置を用いて光の吸収スペクトルのピーク強度を検出することで測定する測定方法におけるノイズレベルの監視方法であって、前記第2の連結路に、薄膜の成膜されていない基板を設置した場合と、参照膜が成膜された基板を設置した場合との光の吸収スペクトルのピーク強度を比較し、参照ピークを検出するバックグラウンド測定を行い、前記測定光路に材料ガスを流した場合に出現するノイズのピークと、前記バックグラウンド測定によって検出された参照ピークとを比較し、シグナル/ノイズ比が所定値を超えない場合に材料ガスのガス濃度測定を行い、シグナル/ノイズ比が所定値を超えた場合には、前記バックグラウンド測定を再度行う、ノイズレベルの監視方法が提供される。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、成膜装置に設置され、材料ガス濃度の測定を行う光学的検知装置において、測定時のS/N比(シグナル/ノイズ比)の低下を抑制し、短時間の測定で精密な測定を行うことが可能となり、リアルタイム性の向上が図られるような光学的検知装置及び該光学的検知装置を用いる場合のノイズレベルの監視方法が提供される。
【0031】
また、光学的検知装置の感度の変化に応じて感度校正を行い、正確な材料ガス濃度の定量的な測定が可能となるような光学的検知装置や当該光学的検知装置を用いた成膜装置及び成膜方法が提供される。
【0032】
更には、光学的検知装置とQCMを併用することで、QCMにおける材料ガス濃度の測定値を規格化し、QCMの個体差や経時的変化による測定値のばらつきに影響されることなく高精度で材料ガス濃度の測定を行うことが可能な成膜装置及び成膜方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】従来の光学的検知装置を示す概略説明図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態にかかる光学的検知装置の概略説明図である。
【図3】光学的検知装置を備えた成膜装置の構成の一例を示す概略説明図である。
【図4】バックグラウンド測定において、理想的なバックグラウンドが測定された場合の光の吸収スペクトルの一例を示すグラフである。
【図5】材料ガス濃度の測定を行う場合の光の吸収スペクトルの一例を示すグラフである。
【図6】本発明の第2の実施の形態にかかる成膜装置の概略説明図である。
【図7】膜厚・分子数等が既知である参照膜のピーク強度を示すグラフである。
【図8】ピーク強度に基づいて作成される検量線を示すグラフである。
【図9】着脱機構の一例を示す説明図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態にかかる成膜装置の概略説明図である。
【図11】データベースとなる光学的検知装置によって測定される成膜レートと基板への成膜レートとの相関を示すグラフである。
【図12】QCMのtooling調整を簡略的に示すグラフである。
【図13】光学的検知装置での測定によって定まる成膜レートと、QCMの成膜レートの相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0035】
(第1の実施の形態)
図2は、本発明の第1の実施の形態にかかる光学的検知装置1の概略説明図である。この光学的検知装置1は、例えば有機EL素子の製造において発光層の成膜(蒸着処理)に用いる成膜装置に付随して設けられるものであり、発光層成膜に使用される有機材料ガス(以下、単に材料ガスとも呼称する)のガス濃度を測定するために設けられる。なお、図2に成膜装置は図示していないが、成膜時には成膜装置内の材料ガス供給部から有機材料ガスが以下に説明する測定光路5に導入される。
【0036】
図2に示すように、光学的検知装置1は、成膜に使用する材料ガスの濃度を測定するための測定光路5と、測定光路5に測定用の光(例えば赤外光)を照射する光源7と、光源7から照射され測定光路5を通過した光を受光し、受光した光の吸収スペクトルの検出を行う検出器10を備えている。また、測定光路5と光源7とは、第1の連結路13を介して連通しており、測定光路5と検出器10とは、第2の連結路15を介して連通している。なお、この第2の連結路15は所定の長さLを有している。この第2の連結路15の長さLは、適宜設定可能であるが、測定光路5からの熱が検出器10に伝導しない程度の長さであれば良い。
【0037】
測定光路5は、例えば略円筒形状の鋼管であることが好ましい。この測定光路5として用いられる鋼管は、測定用の光の信号強度を測定中に減衰させないために内面処理が施されていることが好ましい。内面処理としては、赤外光の反射率に優れ、耐腐食性を備える金メッキ等が例示される。また、第1の連結路13及び第2の連結路15は、測定光路5からの熱伝導を抑えるために、断熱材を用いて構成することが好ましい。
【0038】
また、第1の連結路13は光源7と測定光路5との間の空間を密閉するように構成されている。第1の連結路13には、その内部を排気する排気機構17と、その内部にNガス(窒素ガス)を供給するNガス供給機構19が設けられており、第1の連結路13の内部は排気可能且つNガスをパージ可能となっている。
【0039】
上記第1の連結路13と同様に、第2の連結路15も測定光路5と検出器10との間の空間を密閉するように構成されている。第2の連結路15には、その内部を排気する排気機構21と、その内部にNガスを供給するNガス供給機構23が設けられており、第2の連結路15の内部は排気可能且つNガスをパージ可能となっている。なお、本実施の形態ではNガスを第1の連結路13及び第2の連結路15に供給するものとしたが、Nガス以外の不活性ガスを用いることも可能である。
【0040】
即ち、第1の連結路13及び第2の連結路15に設けられた排気機構17、21を稼動させることにより、第1の連結路13、第2の連結路15及び2つの連結路13、15と連通する測定光路5の内部が排気され、真空状態での装置運用が可能な構成となっている。加えて、排気された第1の連結路13、第2の連結路15及び測定光路5の内部にNガス供給機構19、23の稼動によりNガスをパージすることも可能となっている。
【0041】
一方、検出器10の内部には検出器10内に入射した光の光量を減少させる減光フィルタ25が設けられていても良い。これは、検出器10として例えばMCT検出器を用いる場合に、検出器10内に入射する光量が多すぎると正確な吸収スペクトルの検出ができない恐れがあるため、検出器10内に入射する光量を適当な量に調整するために設けられる。
【0042】
また、図2に示すように、検出器10の底面部には検出器10に対する振動を抑制させることが可能な除震機構28が設けられていても良い。これは、例えば検出器10が有機EL素子の製造における発光層の成膜を行う成膜装置近傍に配置された場合に、成膜装置の装置振動が検出器10に伝播し、振動によって正確な吸収スペクトルの検出ができないといった問題を回避するために設けられるものである。
【0043】
また、図3は本発明の第1の実施の形態にかかる光学的検知装置1を備えた成膜装置30の構成の一例を示す説明図である。図3に示すように、成膜装置30は基板Gの成膜処理を行う処理チャンバー40を備えている。この処理チャンバー40の内部は所定の温度に加熱されている。処理チャンバー40の内部下方には、基板Gを支持する基板支持台42が設けられ、成膜処理時には、基板Gが成膜対象面を鉛直上方に向けた状態で(フェースアップ状態で)例えば、静電チャックで基板支持台42に支持される。また、基板支持台42の上方近傍には、有機材料ガスを噴出する蒸着ヘッド50が設置されており、蒸着ヘッド50の開口面(材料ガス噴出面)51が基板支持台42に保持された状態の基板G上面(成膜対象面)に対向するような構成となっている。
【0044】
また、処理チャンバー40の内部は、排気管52を介して真空ポンプ53に接続しており、成膜処理時には真空引きされる。基板支持台42に支持された基板Gが蒸着ヘッド50の下方を通過する際に発光層(有機層)が成膜される。なお、図3に示す成膜装置30の構成は本発明の実施の形態の一例を示すものであり、例えば基板Gをいわゆるフェースダウン状態として成膜を行うように構成される成膜装置についても本発明は適用可能である。
【0045】
蒸着ヘッド50は、第1供給路55を介して材料ガス生成部(材料供給部)60に連通している。また、蒸着ヘッド50と材料ガス生成部60は、上記第1供給路55とは別系統の第2供給路63を介しても連通している。なお、第2供給路63は、第1供給路55から分岐した流路である。また、図3に示すように、第2供給路63の流路途中には光学的検知装置1が配置されており、第2供給路63は、その前段部63aが第1の連結路13に接続され、後段部63bが第2の連結路15に接続されている。
【0046】
一方、材料ガス生成部60にはキャリアガスとしてアルゴンガス等を導入するキャリアガス導入機構65が接続されている。材料ガス生成部60に取り付けられたヒータ(図示せず)によって加熱された有機材料が気化され、キャリアガス導入機構65からのキャリアガス流入によって第1供給路55を介して蒸着ヘッド50に導入される。なお、図3に示す各流路の開閉は、図示した制御バルブV1〜V7を適宜開閉することで行われる。これら制御バルブV1〜V7としては、は、例えばリーク特性の良い耐熱バルブを用いることが好ましい。
【0047】
また、図3に示す本実施の形態では、材料ガス生成部60とその材料ガス生成部60に接続されるキャリアガス導入機構65を処理チャンバー40の内部に設けるものとしたが、本発明はこれに限られるものではない。例えば材料ガス生成部60とその材料ガス生成部60に接続されるキャリアガス導入機構65を処理チャンバー40の外部に配置することもできる。この場合、材料ガス生成部60は断熱状態で保持するのが好ましい。材料ガス生成部60やキャリアガス導入機構65を処理チャンバー40の外部に配置した場合、材料あるいはキャリアガスの充填や交換や、装置のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0048】
以上、図3を参照して説明した光学的検知装置1を備えた成膜装置30においては、材料ガス生成部60から材料ガスが第1供給路55を介して蒸着ヘッド50に導入され、蒸着ヘッド50から基板G上面に材料ガスが噴射されることで成膜が行われる。ここで、基板Gに噴射される材料ガスのガス濃度は、所定の膜厚で成膜を行うために所定値である必要がある。即ち、基板Gに噴射される材料ガスのガス濃度は適宜測定される必要があり、更には、成膜中にリアルタイムで測定されることが望ましい。
【0049】
そこで、第1供給路55から分岐した第2供給路63の途中に光学的検知装置1を設け、成膜に用いる材料ガスと同じガスを測定光路5内に導入し、測定光路5へ光源7から光(例えば赤外光)を照射し、測定光路5内を通過した光を検出部10において受光・検出することで、材料ガス濃度を測定する構成としている。図2に示すように構成される光学的検知装置1において、上述したように測定光路5の内部は密閉可能に構成され、排気自在且つNガスをパージ可能となっている。そのため、従来装置の問題点であった、測定光路上に大気(CO、HO等)が存在することで、測定時に得られる光の吸収スペクトルにおいてCO、HO等のピークを検出してしまうといった問題が回避される。
【0050】
また、材料ガス濃度の測定時には、測定光路5には加熱された材料ガスが導入されるため、測定光路5の内部は高温となる。しかし、図2に示すように、光学的検知装置1において、測定光路5と光源7との間には第1の連結路13が設けられ、測定光路5と検出器10との間には第2の連結路15が設けられ、それぞれの連結路は例えば断熱材で構成されているため、測定光路5の内部が高温となった場合でも、光源7及び検出器10には熱が伝わりにくくなっており、例えば検出器10において熱による熱ノイズが発生し、正確な検出が行われないといった問題が回避される。
【0051】
更には、冷却が必要な検出素子を供えた検出器10(例えばMCT検出器)を用いる場合には、例えば液体窒素を用いて検出器10の冷却を行うが、この冷却を、測定光路5、第1連結路13及び第2連結路15の内部をNガスによってパージした後に行うことで、霜や結露を発生させることなく冷却が行われる。即ち、材料ガス濃度の測定時に、霜や結露の発生に伴った光の吸収スペクトルのピークが検出されてしまうといった従来技術の問題点が解消され、より高精度で材料ガス濃度の測定を行うことが可能となる。
【0052】
加えて、光学的検知装置1の検出器10に除震機構28を設けると、例えば図3に示す成膜装置30の振動が検出器10に伝播した場合でも、その伝播した振動を抑えることができ、振動によって正確な光の吸収スペクトルが検出されないといった事態を回避することが可能となる。
【0053】
また、以下では光学的検知装置1において行われる、光の吸収スペクトルのピーク強度を検出する場合の、ノイズレベルの監視方法について説明する。先ず、光学的検知装置1の装置立ち上げ時には、Nガスがパージされた状態の第2の連結路15内に薄膜の成膜されていない基板(例えばSi基板)を配置し、その場合の光の吸収スペクトルを測定し、さらに、第2の連結路15内に参照膜(例えばSiN膜)が成膜された基板(例えばSi基板)を配置し、その場合の光の吸収スペクトルを測定し、これらの比較を行うことで、参照膜のピーク強度を確認するバックグラウンド測定を行う。なお、このバックグラウンド測定においては、参照膜の成膜された基板を配置したことによって検出されるピーク強度(以下、参照ピークとも呼称する)が規定値であり、且つ、参照ピークのシグナル/ノイズ比(S/N比)が閾値以上であり、更に、大気成分(COやHO)や霜・結露等のピークが検出されていないことが確認された段階で装置の安定化がなされたものとし、バックグラウンド測定が完了する。なお、図4は、上記バックグラウンド測定において、理想的なバックグラウンドが測定された場合の光の吸収スペクトルの一例を示すグラフであり、実線が測定された吸収スペクトルを示し、鎖線が測定時から所定の時間経過後の吸収スペクトルを示している。
【0054】
そして、実際に測定光路5に材料ガスを流して測定を行う場合に出現する霜・結露や大気成分等のノイズのピーク(材料ガスのピーク以外のピーク)と、上記バックグラウンド測定によって得られた参照ピークとを比較し、そのS/N比が所定の値(閾値)を超えない範囲内である場合のみ、材料ガス濃度の測定を行い、仮に該S/N比が閾値を超えた場合には、再度バックグラウンド測定をしなおした後、材料ガス濃度の測定を開始する。即ち、材料ガス濃度の測定を行うに際し、ノイズレベルの監視を行い、ノイズによるピークが所定値以下である場合にのみ、材料ガス濃度の測定が行われる。図5は、材料ガス濃度の測定を行う場合の光の吸収スペクトルの一例を示すグラフであり、実線はS/N比が閾値を超えない範囲内である場合を示し、鎖線はS/N比が閾値を超えた場合を示している。
【0055】
以上説明したように、材料ガス濃度の測定時に、バックグラウンド測定を行っておき、S/N比が所定の閾値を超えない範囲である場合にのみ測定を行うこととすることで、常に精度を保った状態で材料ガス濃度の測定が行われ、成膜に用いられる材料ガスの濃度が高精度で求められることとなる。
【0056】
以上、本発明の実施の形態の一例(第1の実施の形態)を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。そこで、以下には本発明の他の実施の形態(第2、第3の実施の形態)について図面を参照して説明する。
【0057】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態として、上記第1の実施の形態にかかる光学的検知装置1の第1の連結路13に、光の吸収スペクトルのピーク強度が既知である複数の参照膜76(76a〜76c)を着脱することが可能な着脱機構75が設けられている装置構成について説明する。図6は、本発明の第2の実施の形態にかかる成膜装置70の概略説明図である。なお、本実施の形態にかかる成膜装置70の構成は、以下に説明する着脱機構75が設けられている点を除き上記第1の実施の形態と同様の装置構成であるため、各構成要素について図6では同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0058】
図6に示すように、成膜装置70に備えられている光学的検知装置1の第1の連結路13には、当該第1の連結路13の内部(即ち、光路上)に参照膜76を光源7からの光の進行方向に垂直な方向に挿入する着脱機構75が設置されている。なお、参照膜76とは、膜厚・分子数が既知の薄膜であり、参照膜76の光の吸収スペクトルのピーク強度も既知である。また、参照膜76は、成膜装置70によって基板Gに成膜を行うための材料ガスと同じ材料ガスを用いて成膜したものでも良い。本実施の形態では参照膜76は基板への成膜を行う材料ガスと同じ材料ガスによって成膜され、3枚の膜厚がそれぞれ異なる薄膜76a〜76cである場合を例として説明する。
【0059】
着脱機構75は、第1の連結路13に設けられた挿入部13aから各参照膜76a〜76cを適宜第1の連結路13内部に挿入できる機構(いわゆるカートリッジ式機構)であっても良い。以下に説明する光学的検知装置1の感度補正を行う場合は、成膜装置70における基板Gへの成膜が開始された後、例えば所定の時間毎(定期的)に自動的に参照膜76の挿入が行われる。
【0060】
光学的検知装置1では、例えば光源7のエネルギー低下や、測定光路5に設けられた窓部等に成膜材料が付着してしまうことで、感度が経時的に低下してしまうといった問題がある。そこで、本実施の形態にかかる成膜装置70では、着脱機構75を設けて参照膜76を定期的に第1の連結路13内に挿入し、光学的検知装置1によって参照膜76の光の吸収スペクトルのピーク強度(以下、単にピーク強度とも呼称する)を定期的に測定することで、光学的検知装置1の感度校正を行うこととしている。
【0061】
以下、光学的検知装置1の感度補正(感度校正)について説明する。図7は膜厚・分子数等が既知である参照膜76a〜76cのピーク強度を示すグラフである。また、図8は、ピーク強度に基づいて作成される検量線を示すグラフであり、実線は図7に示した既知のピーク強度について作成された検量線である。なお、図中のAbsとは吸光度であり、D/Rとは成膜レート(単位時間あたりの成膜量)であり、D/Rは材料ガス濃度に比例する値である。
【0062】
ここで、例えば成膜装置70において基板Gへの成膜を所定時間行った場合に、光源7のエネルギー低下等によって光学的検知装置1の感度が低下した状態で、参照膜76a〜76cを第1の連結路13に挿入してピーク強度の測定を行うと、光学的検知装置1の感度が低下しているため、参照膜76の既知のピーク強度より低い値が測定される。具体的には、図8に破線で示すような検量線が作成される。
【0063】
参照膜76のピーク強度は既知であるため、測定された参照膜76のピーク強度が低下した要因は、光学的検知装置1の感度低下にある。従って、実際に基板Gへの成膜を行うための材料ガス濃度の測定についても測定感度が低下していることが明らかとなるため、図8に作成された2つの検量線(実線及び破線)に基づき光学的検知装置1の感度補正を行うことで、基板成膜時の正確な材料ガス濃度が定量的に検出される。
【0064】
以上、本発明の第2の実施の形態について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではない。例えば、上記第2の実施の形態では、参照膜76を基板への成膜を行う材料ガスと同じ材料ガスによって成膜され、膜厚がそれぞれ異なる3枚の薄膜76a〜76cとして説明したが、参照膜76は1枚のみ、あるいは2枚以上の複数枚の薄膜でも良い。また、必ずしも参照膜76として基板への成膜を行う材料ガスと同じ材料ガスによって成膜された薄膜を用いる必要はなく、SiN等のピーク強度が既知である薄膜であれば参照膜76として使用可能である。更には、複数種の薄膜(例えば有機薄膜とSiN膜)を混合させて用いても良い。
【0065】
また、上記第2の実施の形態では、着脱機構75をいわゆるカートリッジ機構として図示・説明したが、着脱機構75の構成はこれに限られるものではない。例えば、図9に示すように、第1の連結路13内の光路上に参照膜76を自在に着脱するように、第1の連結路13内部にちょうつがい等で参照膜76を取り付けるような構成としても良い。
【0066】
また、上記第2の実施の形態では、着脱機構75が第1の連結路13に設置されている場合について図示・説明したが、当然着脱機構75は第2の連結路15や測定光路5に設けられていても良い。
【0067】
(第3の実施の形態)
次に、本発明の第3の実施の形態として、成膜用の材料を付着させた状態で振動数を測定することで材料ガス濃度の測定を行うことができる水晶振動子(以下、QCMと記載)を成膜装置内に設置した場合について図面を参照して説明する。図10は、本発明の第3の実施の形態にかかる成膜装置80の概略説明図である。なお、本実施の形態にかかる成膜装置80の構成は、以下に説明するQCM83、84が設けられている点を除き上記第1の実施の形態と同様の装置構成であるため、各構成要素について図10で同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0068】
図10に示すように、成膜装置80においては、第2供給路63の後段部63b(以下、単に流路63bとも記載する)の途中に分岐するQCM用のパスライン81が設けられており、パスライン81には流路63bに流れる材料ガスの一部が流れる構成となっている。また、パスライン81の下流側出口81aの近傍には開閉自在なシャッター82及びQCM83が設置されている。シャッター82開放時には、QCM83に対してパスライン81を通った材料ガスが吹き付けられ、QCM83には有機材料が付着する。
【0069】
一方、基板Gの近傍には、QCM84が設置されており、蒸着ヘッド50から基板Gに対して噴射される材料ガスの一部がQCM84にも噴射されるような構成となっている。なお、特にこのQCM84は基板Gの近傍に配置されるため、基板Gに対して実際に噴射されている材料ガスの濃度を正確に測定するのに適している。
【0070】
ここで、QCM83、84を用いて材料ガス濃度の測定を行う場合には、基板Gへの材料の成膜(蒸着)レートと、QCM83、84に対する材料の成膜レートが必ずしも一致しないため、測定においては適宜QCM83、84における測定値を妥当な値とするための補正を行う必要がある。また、QCM83、84は水晶振動子としての特性上、個体差によって測定値にばらつきが出たり、材料の付着による測定値の経時的変化(QCMの感度の低下)が大きいことが知られている。特に基板G近傍のQCM84は、材料の付着量が多いため、測定値の経時的変化が大きい。
【0071】
そこで、本発明者らは、材料ガス濃度の測定を行うための装置として光学的検知装置1とQCM83、84の両方を備えた成膜装置80において、光学的検知装置1によって測定される成膜レートと基板Gへの実際の成膜レートとの相関をデータベースとして取得し、そのデータベースに基づいてQCM83、84によって測定される成膜レートを補正し、更に、QCM83、84における測定値の経時的変化についても適宜校正を行うことで、上述したように測定値の個体差や経時的変化が問題となるQCMの測定結果の精度が向上し、生産性の向上等を図ることが可能であることを見出した。以下には図10に示す成膜装置80を用いる場合の、QCM83、84によって測定される成膜レートの補正(感度補正)について説明する。
【0072】
上述したように、先ず、光学的検知装置1によって測定される成膜レートと基板Gへの実際の成膜レートとの相関をデータベースとして取得する。例えば、供給する成膜材料の濃度を3種類の濃度とし、それぞれの場合について基板Gに成膜を行う。そしてそれぞれの場合についての、光学的検知装置1において測定される成膜レートと、実際に基板Gに成膜される薄膜の成膜レートを測定する。図11は、データベースとなる光学的検知装置1によって測定される成膜レート(縦軸:D/R)と基板Gへの成膜レート(横軸:D/R)との相関を示すグラフである。なお、図11では測定対象を材料ガス濃度が3種類の場合を図示しているが、測定する材料ガス濃度の種類は十分なデータベースが取得できる程度の適当な種類とすれば十分である。
【0073】
次に、上記3種類の濃度の材料ガスを流した状態でQCM83、84のそれぞれにおいて成膜レートを測定する。QCM83、84のそれぞれにおいて測定された成膜レートが光学的検知装置1において測定される成膜レートと一致していない場合、光学的検知装置1において測定される成膜レートと、各QCM83、84において測定される成膜レートとの比が1:1となる(一致する)ようにtooling調整(即ち、感度補正)を行う。図12は、以上のように説明したQCM83、84のtooling調整を簡略的に示すグラフである。なお、このQCM83、84のtooling調整は、製品製造のための基板Gへの成膜が行われる前段階において事前に行われるものである。
【0074】
以上説明したQCM83、84のtooling調整を実施することで、実際の製品製造における成膜時に、例えば2つのQCM83、84間の個体差による測定値の誤差等が生じることが防止される。
【0075】
また、上述したように、成膜装置80において基板Gへの成膜を所定時間行った場合に、QCM83、84(特に、基板近傍のQCM84)における成膜レートの測定感度(測定される振動数)は低下する(所謂経時的変化)。即ち、例えばQCM83、84に実際に基板Gに行われている成膜レートより高い成膜レートが出てしまうことになる。
【0076】
ここで、QCM84を例に挙げて成膜レートの経時的変化に対する補正について説明する。図13のグラフは、光学的検知装置1での測定によって定まる成膜レート(縦軸:D/R)と、QCM84の成膜レート(横軸:D/R)の相関関係を示すグラフであり、実線は経時変化前の相関関係を示し、破線は基板Gへの成膜を所定時間行った後(経時変化後)の相関関係を示している。図13に示すように、成膜開始後所定時間が経過した場合、光学的検知装置1での測定によって定まる成膜レート(縦軸:D/R)と、QCM84の成膜レート(横軸:D/R)は異なる値となっており、QCM84において測定される成膜レートの方が高い値となっている。光学的検知装置1において測定される成膜レートに変動は無いため、これは、QCM84に有機材料が付着し成膜レートの測定感度が低下していることに起因する。
【0077】
そこで、図13に示したデータベースとなる検量線(図中の実線)と、成膜開始後所定時間が経過した後の検量線(図中の破線)を比較し、その関係性に基づいてQCM84によって測定される成膜レートを補正することで、成膜開始後所定時間が経過した後であっても、基板Gに対する正確な成膜レートを求めることが可能となる。このQCM84についての成膜レートの補正を行うタイミングは、例えば図13に示すデータベース(実線)と経時変化後の検量線(破線)とを比較し、所定量以上のずれが生じた場合に行うといったように定めることができる。
【0078】
なお、ここでは測定される成膜レートの経時的変化が大きい基板G近傍のQCM84において測定される成膜レートの補正について説明したが、パスライン81の出口近傍に設置されるQCM83についても同様の方法で成膜レートの補正を行うことが可能である。また、図13に示すように、QCM83、84による成膜レートの測定値は経時的に変化するが、例えばその変化の幅に応じて各QCMのメンテナンスを行うタイミング等を決定することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、例えば有機EL素子の製造を行うに際し、発光層の成膜に用いる成膜装置、当該成膜装置において材料ガス濃度の検出を行う光学的検知装置、成膜を行う成膜方法及び該光学的検知装置を用いる場合のノイズレベルの監視方法に適用できる。
【符号の説明】
【0080】
1、70、80…光学的検知装置
5…測定光路
7…光源
10…検出器
13…第1の連結路
15…第2の連結路
17、21…排気機構
19、23…Nガス供給機構
28…除震機構
30…成膜装置
40…処理チャンバー
42…基板支持台
50…蒸着ヘッド
51…開口面
52…排気管
53…真空ポンプ
55…第1供給路
60…材料ガス生成部
63…第2供給路
65…キャリアガス供給機構
75…着脱機構
76…参照膜
81…パスライン
82…シャッター
83、84…水晶振動子(QCM)
G…基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜に用いる材料ガスのガス濃度を、材料ガス中を通過した光の吸収スペクトルのピーク強度を検出することで測定する光学的検知装置であって、
測定用の光が通過する測定光路と、
前記測定光路に測定用の光を照射する光源と、
前記測定光路を通過した光を受光し、吸収スペクトルの検出を行う検出器と、を有し、
前記測定光路と前記光源とを連結させる第1の連結路と、
前記測定光路と前記検出器とを所定の間隔でもって連結させる第2の連結路と、が設けられ、
前記第1の連結路は前記測定光路と前記光源との間の空間を密閉可能な構成であり、
前記第2の連結路は前記測定光路と前記検出器との間の空間を密閉可能な構成であり、
前記第1の連結路及び前記第2の連結路の内部を排気する排気機構と、
前記第1の連結路及び前記第2の連結路の内部に不活性ガスを供給する不活性ガス供給機構と、を備えた光学的検知装置。
【請求項2】
前記第2の連結路は、断熱材で構成されている、請求項1に記載の光学的検知装置。
【請求項3】
前記検出器には、除震機構が備えられている、請求項1又は2に記載の光学的検知装置。
【請求項4】
前記検出器には、入射する光の光量を減少させる減光フィルタが設けられている、請求項1〜3のいずれかに記載の光学的検知装置。
【請求項5】
前記第1の連結路又は前記第2の連結路に光の吸収スペクトルのピーク強度が既知である1又は複数の参照膜を着脱する着脱機構が備えられている、請求項1〜4のいずれかに記載の光学的検知装置。
【請求項6】
基板に薄膜を成膜する成膜装置であって、
基板に成膜処理を行う減圧自在な処理チャンバーと、
前記処理チャンバー内で基板支持台に支持された基板に対して材料ガスを噴射する蒸着ヘッドと、
前記蒸着ヘッドと連通する材料ガス生成部と、
前記材料ガス生成部にキャリアガスを導入するキャリアガス導入機構と、
前記材料ガス生成部から前記蒸着ヘッドに導入される材料ガスのガス濃度を、材料ガス中を通過した光の吸収スペクトルのピーク強度を検出することで測定する光学的検知装置と、を備え、
前記光学的検知装置は、材料ガス及び測定用の光が通過する測定光路と、
前記測定光路に測定用の光を照射する光源と、
前記測定光路を通過した光を受光し、吸収スペクトルの検出を行う検出器と、
前記測定光路と前記光源とを連結させる第1の連結路と、
前記測定光路と前記検出器とを所定の間隔でもって連結させる第2の連結路と、
前記第1の連結路及び前記第2の連結路の内部を排気する排気機構と、
前記第1の連結路及び前記第2の連結路の内部に不活性ガスを供給する不活性ガス供給機構と、を有し、
前記第1の連結路は前記測定光路と前記光源との間の空間を密閉可能な構成であり、
前記第2の連結路は前記測定光路と前記検出器との間の空間を密閉可能な構成である、成膜装置。
【請求項7】
前記第2の連結路は、断熱材で構成されている、請求項6に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記検出器には、除震機構が備えられている、請求項6又は7に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記検出器には、入射する光の光量を減少させる減光フィルタが設けられている、請求項6〜8のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項10】
前記第1の連結路又は前記第2の連結路に光の吸収スペクトルのピーク強度が既知である1又は複数の参照膜を着脱する着脱機構が備えられている、請求項6〜9のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項11】
薄膜の材料ガス中を通過した光の吸収スペクトルのピーク強度を検出することで該材料ガスの濃度を測定する光学的検知装置を用いて基板に薄膜を成膜する成膜方法であって、
前記光学的検知装置の測定光路上に光の吸収スペクトルのピーク強度が既知である1又は複数の参照膜を配置し、
当該参照膜の光の吸収スペクトルのピーク強度を測定し、
既知である前記参照膜の光の吸収スペクトルのピーク強度と測定された当該参照膜の光の吸収スペクトルのピーク強度を比較し、
前記光学的検知装置の感度補正を行う、成膜方法。
【請求項12】
基板に薄膜を成膜する成膜装置であって、
基板に成膜処理を行う減圧自在な処理チャンバーと、
前記処理チャンバー内で基板支持台に支持された基板に対して材料ガスを噴射する蒸着ヘッドと、
前記蒸着ヘッドと連通する材料ガス生成部と、
前記材料ガス生成部にキャリアガスを導入するキャリアガス導入機構と、
前記材料ガス生成部から前記蒸着ヘッドに導入される材料ガスのガス濃度を、材料ガス中を通過した光の吸収スペクトルのピーク強度を検出することで測定する光学的検知装置と、
前記材料ガスを付着させ、振動数を測定することで当該材料ガスのガス濃度を測定する水晶振動子と、を備え、
前記光学的検知装置には光の吸収スペクトルのピーク強度が既知である1又は複数の参照膜を当該光学的検知装置の測定光路上に着脱する着脱機構が備えられている、成膜装置。
【請求項13】
前記光学的検知装置によって測定されたガス濃度から算出される成膜レートに基づき、前記水晶振動子によって測定されたガス濃度から算出される成膜レートを補正する補正機構を備えた、請求項12に記載の成膜装置。
【請求項14】
振動数を測定することで材料ガスのガス濃度を測定する前記水晶振動子として、
前記基板近傍に設置され、成膜直前の材料ガス濃度を測定する第1の水晶振動子と、
前記蒸着ヘッドに導入される前の材料ガス濃度を測定する第2の水晶振動子とが備えられる、請求項12又は13に記載の成膜装置。
【請求項15】
薄膜の材料ガス中を通過した光の吸収スペクトルのピーク強度を検出することで該材料ガスの濃度を測定する光学的検知装置と、材料ガスを付着させ、振動数を測定することで当該材料ガスのガス濃度を測定する水晶振動子と、を用いて基板に薄膜を成膜する成膜方法であって、
前記光学的検知装置によって測定されたガス濃度から算出される成膜レートに基づき、前記水晶振動子によって測定されたガス濃度から算出される成膜レートを補正する、成膜方法。
【請求項16】
前記水晶振動子は、前記基板近傍に設置され、成膜直前の材料ガス濃度を測定する第1の水晶振動子と前記蒸着ヘッドに導入される前の材料ガス濃度を測定する第2の水晶振動子のいずれか一方又は両方である、請求項15に記載の成膜方法。
【請求項17】
成膜に用いる材料ガスのガス濃度を、請求項1〜5に記載の光学的検知装置を用いて光の吸収スペクトルのピーク強度を検出することで測定する測定方法におけるノイズレベルの監視方法であって、
前記第2の連結路に、薄膜の成膜されていない基板を設置した場合と、参照膜が成膜された基板を設置した場合との光の吸収スペクトルのピーク強度を比較し、参照ピークを検出するバックグラウンド測定を行い、
前記測定光路に材料ガスを流した場合に出現するノイズのピークと、前記バックグラウンド測定によって検出された参照ピークとを比較し、シグナル/ノイズ比が所定値を超えない場合に材料ガスのガス濃度測定を行い、シグナル/ノイズ比が所定値を超えた場合には、前記バックグラウンド測定を再度行う、ノイズレベルの監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−57658(P2013−57658A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−93501(P2012−93501)
【出願日】平成24年4月17日(2012.4.17)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】