説明

成膜装置の制御方法、成膜方法、成膜装置、有機EL電子デバイスおよびその制御プログラムを格納した記憶媒体

【課題】仕事関数の低い材料を迅速に有機層と陰極との界面近傍に挿入する。
【解決手段】スパッタ装置Spは、銀Agからなるターゲット材305と、処理容器外に設けられ、銀Agよりも仕事関数が小さいセシウムCsを加熱して蒸発させるディスペンサDsと、ディスペンサDsに連通し、蒸発させたセシウムCsの蒸気を、アルゴンガスをキャリアガスとして処理容器内まで搬送させる第1のガス供給管345と、処理容器内に高周波電力を供給する高周波電源360とを有する。制御器50は、高周波電力のエネルギーを用いてアルゴンガスを励起させてプラズマを生成し、生成されたプラズマによりターゲット材305から叩き出された銀Ag原子をメタル電極30として成膜する際、ディスペンサDsの温度を制御することにより成膜中のメタル電極30に混入させるセシウムCsの割合を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置の制御方法、陰極の成膜装置および有機EL電子デバイスに関し、さらに、成膜装置の制御方法をコンピュータに実行させるための処理手順を定めたプログラムを格納した記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機化合物を用いて発光させる有機EL(Organic Electroluminescence)素子を利用した有機ELディスプレイが注目されている。この有機EL素子は、自発光し、反応速度が速く、消費電力が低い等の特徴を有しているため、バックライトを必要とせず、たとえば、携帯型機器の表示部等への応用が期待されている。
【0003】
有機EL素子は、ガラス基板上に形成され、有機層を陽極層(アノード)および陰極層(カソード)にてサンドイッチした構造を有している。この有機EL素子に外部から数Vの電圧を印加して電流を流すと、陰極側から有機層に電子が注入され、陽極側から有機層にホールが注入される。電子とホールの注入により有機分子は励起状態になるが、電子とホールが再結合して励起された有機分子が元の基底状態に戻るときその余分なエネルギーが光として放出される。
【0004】
電子を有機層に注入する際、電子注入障壁を低下させて陰極側から有機層に効率よく電子を注入することができれば、高性能な有機EL素子を製造することができる。このため、有機層と陰極との界面に仕事関数が低いアルカリ金属などの材料からなる電子注入層を形成することが一般的に行われている(たとえば、非特許文献1〜3を参照。)。
【0005】
たとえば、非特許文献1では、有機層に効率よく電子を注入するために、アルミニウムにより形成された陰極層と電子輸送層との間にフッ化リチウム(LiF)層を挿入することが開示されている。リチウム(Li)やセシウム(Cs)に代表されるアルカリ金属は、仕事関数が小さいので電子注入層を形成する材料として好ましい。
【0006】
非特許文献2では、アルミニウムにより形成された陰極層と有機層(Alq)との間にアルミナ(Al)層を挿入することが開示されている。非特許文献3では、アルミニウムにより形成された陰極層と有機層(Alq)との間に酸化ストロンチウム(SrO)層を挿入することが開示されている。
【0007】
電子注入層を成膜する手法としては、真空蒸着やアルカリディスペンサを用いた蒸着法が従来から利用されている。また、電子注入層の上層となる陰極の成膜には、真空蒸着を用いるのが一般的であったが、均一性の問題および基板の大面積化から、昨今は、大面積な基板により均一な膜を形成するためにスパッタリングを利用する場合が多くなっている。
【0008】
これらの成膜過程において電子注入層を成膜した後は、できるだけ早く陰極を成膜して電子注入層を陰極にて覆ってしまうことが好ましい。その理由は、上記非特許文献1にも記載されているように、仕事関数が低い材料は活性であるため、高真空状態にあるチャンバ内であってもチャンバ内に残留している水分、窒素、酸素などと容易に反応してしまうからである。
【0009】
【非特許文献1】“Enhanced electron injection in organic electroluminescence deviceusing an Al/LiF electrode” 1997 American Institute of Physics,Appl.Phys.Lett.70(2), 13 January 1997
【非特許文献2】“Fabrication and electroluminescence of double-layered organiclight-emitting diodes with the Al2O3/Al cathode” 1997 American Institute ofPhysics, Appl.Phys.Lett.70(10), 10 March 1997
【非特許文献3】「Alq上への酸化ストロンチウム薄膜形成とEL素子への応用」 電子情報通信学会論文誌 C-II, Vol.J82-C-II No.2 pp.70-71 1999年2月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
電子注入層を成膜した後、できるだけ早く陰極を成膜するために、アルカリ金属等を成膜する真空蒸着と陰極を成膜するスパッタリングとを同一チャンバ内で連続的に行うことも考えられる。しかしながら、アルカリ金属等を成膜する真空蒸着と陰極を成膜するスパッタリングとでは動作圧力が異なる。つまり、アルカリ金属等の成膜時には、チャンバ内を所望の真空状態(減圧状態)に保つ必要がある。一方、陰極の成膜時には、成膜前にスパッタ用ガスをチャンバ内に供給する必要があり、その際、チャンバ内の圧力は必然的にある程度上がってしまう。このため、アルカリ金属等の膜と陰極との連続的な成膜は動作原理上不可能である。
【0011】
これに加えて、同一チャンバ内で真空蒸着の後に陰極のスパッタリングを連続的に行うためには、真空蒸着に使われたアルカリ金属等のガスがスパッタリング成膜機構側に流れないように、不要なアルカリ金属等のガスを外部に排気し、アルカリ金属等のガスとスパッタガスとが混合しない状態になったらスパッタガスを導入してスパッタリング処理を実行する必要がある。この理由からも真空蒸着の後に陰極のスパッタリングを連続的に行うことは難しい。
【0012】
アルカリ金属を混入したターゲット材を事前に用意し、このターゲット材をスパッタすることにより、陰極にアルカリ金属を混入させながら成膜する方法も考えられる。しかしながら、前述したように、アルカリ金属は活性であるため、アルカリ金属が混入したターゲット材はすぐに酸化等してしまい、その製造や保管、輸送には困難が伴い、量産に適さない。
【0013】
同一チャンバ内にて、リチウムなどのアルカリ金属と銀やアルミニウムなどの陰極用金属とを別々の容器に収納し、別々に蒸発させ、各蒸気を拡散時に混ぜ合わせながら、被処理体に蒸着させる方法も考えられる。しかしながら、この方法では制御性が悪く、陰極に混入させるアルカリ金属の割合を電子注入効率を考慮して精密に制御したり、アルカリ金属を均一に陰極に混入させるように精度よく制御したりすることは難しい。
【0014】
そこで、上記問題を解消するために、本発明は、仕事関数の低い材料を迅速に有機層と陰極との界面近傍に挿入する成膜装置の制御方法、成膜方法、成膜装置、有機EL電子デバイスおよびその制御プログラムを格納した記憶媒体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、上記課題を解決するために、本発明のある態様によれば、処理容器内にて被処理体上に形成された有機層に陰極を形成する成膜装置の制御方法であって、前記成膜装置は、処理容器内に設けられ、前記陰極の主原料となる第1の金属から形成されたターゲット材と、処理容器外に設けられ、前記第1の金属よりも仕事関数が小さい第2の金属を加熱して蒸発させる蒸発源と、前記蒸発源に連通し、前記蒸発させた第2の金属の蒸気を不活性ガスにより処理容器内まで運搬させる第1のガス供給路と、前記処理容器内に所望のエネルギーを供給するエネルギー源と、を備え、前記供給されたエネルギーを用いて前記第1のガス供給路から供給された前記不活性ガスを励起させてプラズマを生成し、生成されたプラズマを接触させることにより前記ターゲット材から叩き出された第1の金属のターゲット原子を陰極として成膜する際、前記成膜中の陰極に混入させる前記第2の金属の割合を制御する成膜装置の制御方法が提供される。
【0016】
これによれば、第1の金属のターゲット原子を陰極として成膜する際、前記成膜中の陰極に混入させる前記第2の金属の割合が制御される。これにより、陰極の成膜時に仕事関数の低い第2の金属を陰極に混入させることによって、実質的に電子注入層と陰極とを同時に成膜することができる。この結果、活性な第2の金属の原子が、処理容器内の残留水分、窒素、酸素等と反応することを防ぐことができる。これにより、電子注入効率が高い高性能な有機EL電子デバイスを安定的に製造することができる。
【0017】
ここで、前記成膜中の陰極に混入させる前記第2の金属の割合は非常に重要である。これは、発行層上に電子輸送層、電子注入層、陰極を積層させる従来の有機EL電子デバイスにおいて、電子注入層を構成するアルカリ金属の厚みは、陰極に比べて相当程度薄いほうがよいとの研究結果もあることからもわかる。たとえば、アルカリ金属の一例であるリチウムの厚みは、0.5〜2.0nm程度が好ましく、これ以上厚いとかえって電子の注入効率が低下するとの報告もある。
【0018】
そこで、陰極への第2の金属の混入比率の重要性に鑑みて、本発明では、前記陰極に混入させる前記第2の金属の割合を制御する一方法として、処理容器外に設けられた蒸発源の温度を制御する方法が挙げられる。これにより、蒸発源に収納された第2の金属の蒸発速度を制御することができる。すなわち、蒸発源の温度を上げれば第2の金属の蒸発速度が上がり、陰極に混入させる前記第2の金属の割合を増やすことができ、蒸発源の温度を下げれば第2の金属の蒸発速度が下がり、陰極に混入させる前記第2の金属の割合を減らすことができる。蒸発源の温度を制御するためには、蒸発源に設けられた電源に印加する電圧や、電源を流れる電流を制御すればよい。
【0019】
前記陰極に混入させる前記第2の金属の割合を制御する他の方法としては、不活性ガスの流量を制御する方法が挙げられる。不活性ガスは、第2の金属を搬送するキャリアガスとして機能する。よって、第2の金属の蒸気(気化分子)に対して不活性ガスの流量を相対的に増やせば、単位時間当たりに運搬される第2の金属の量が増え、これにより、陰極に混入する第2の金属の割合を相対的に増やすことができる。逆に、第2の金属の蒸気に対して不活性ガスの流量を相対的に減らせば、陰極に混入する第2の金属の割合を相対的に減らすことができる。
【0020】
また、前述した温度制御では、電圧値や電流値を変更してから実際に蒸発源が所望の温度に到達するまでにある程度の時間を必要とし、レスポンスが悪い。一方、不活性ガスの流量制御は、温度制御に比べてレスポンスがよい。そこで、温度制御により大まかな制御を行い、不活性ガスの流量制御により細かい制御を行うことにより、陰極成膜中に第2の金属を混入する量をより精度良く制御することができる。
【0021】
前記成膜装置に、スパッタ用ガスを処理容器内に供給する第2のガス供給路を設け、前記第2のガス供給路から供給されるスパッタ用ガスの流量を制御することにより、前記陰極に混入させる前記第2の金属の割合を制御してもよい。
【0022】
第2の金属の蒸気に対してスパッタ用ガスの流量を相対的に増やせば、ガス中の第2の金属成分比が下がり、陰極に混入する第2の金属の割合を相対的に減らすことができる。逆に、第2の金属の蒸気に対してスパッタ用ガスの流量を相対的に減らせば、ガス中の第2の金属成分比が上がり、陰極に混入する第2の金属の割合を相対的に増やすことができる。
【0023】
前記第1のガス供給路から処理容器内に供給するガスの総流量と前記第2のガス供給路から処理容器内に供給するガスの総流量との割合を制御することにより、前記陰極に混入させる前記第2の金属の割合を制御してもよい。
【0024】
前記第1の金属に前記第2の金属を混入させた薄膜を所望の厚さまで形成後、前記第1のガス供給路から前記第2の金属の蒸気供給を停止するように前記蒸発源の温度を制御してもよい。
【0025】
また、前記第1の金属に前記第2の金属を混入させた薄膜を所望の厚さまで形成後、前記第1のガス供給路からのガス供給を停止し、前記第2のガス供給路から供給されるスパッタ用ガスのみを処理容器内に供給するように制御してもよい。
【0026】
これらによれば、第2の金属を混入させた陰極層と第2の金属を混入させない陰極層とを成膜することができる。これにより、第2の金属を混入させた陰極層の厚さを調整して、電子の注入効率を高く維持した高性能な有機EL電子デバイスを製造することができる。
【0027】
前記第1のガス供給路から処理容器内に供給するガスの総流量が前記第2のガス供給路から処理容器に供給するガスの総流量に対して相対的に減少するように制御してもよい。
【0028】
前記第1のガス供給路から処理容器内に供給する第2の金属の蒸気量が同第1のガス供給路から処理容器内に供給する不活性ガスの流量に対して相対的に減少するように制御してもよい。
【0029】
これらによれば、第2の金属の混入量を徐々に減らしながら陰極を成膜することができる。これにより、有機層近傍になるほど第2の金属の混入比率が高く、有機層から遠ざかるほど第2の金属の混入比率が低くなるように陰極に第2の金属を混入させることができる。これによっても、電子の注入効率を高く維持した高性能な有機EL電子デバイスを製造することができる。
【0030】
前記第1のガス供給路を形成する配管を400℃以上に制御してもよい。これによれば、第2の金属の蒸気が不活性ガスをキャリアガスとして第1のガス供給路を搬送される際、第1のガス供給路を構成する配管に付着して液化することを防ぐことができる。これにより、陰極に混入させる第2の金属の割合を精度よく制御することができるとともに、材料効率を高めることができる。
【0031】
前記第2の金属は、仕事関数が低いアルカリ金属であることが好ましい。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。これにより、電子の注入効率を高めることができる。なお、前記第1の金属は、電気抵抗が低く光の反射率が高い銀またはアルミニウムであることが好ましい。
【0032】
また、上記課題を解決するために、本発明の他の態様によれば、処理容器内にて被処理体上に形成された有機層に陰極を形成する成膜方法であって、処理容器外に設けられた蒸発源により前記陰極の主原料となる第1の金属よりも仕事関数が小さい第2の金属を加熱して蒸発させ、前記蒸発させた第2の金属の蒸気を、不活性ガスをキャリアガスとして前記蒸発源に連結した第1のガス供給路に通し、処理容器内まで搬送させ、前記処理容器内に所望のエネルギーを供給し、前記供給されたエネルギーを用いて前記第1のガス供給路から供給された前記不活性ガスを励起させてプラズマを生成し、生成されたプラズマを前記第1の金属からなるターゲット材に接触させることにより前記ターゲット材から叩き出された第1の金属のターゲット原子を陰極として成膜する際、前記成膜中の陰極に前記第2の金属を混入させる成膜方法が提供される。
【0033】
また、上記課題を解決するために、本発明の他の態様によれば、処理容器内にて被処理体上に形成された有機層に陰極を形成する成膜装置であって、処理容器内に設けられ、前記陰極の主原料となる第1の金属から形成されるターゲット材と、処理容器外に設けられ、前記第1の金属よりも仕事関数が小さい第2の金属を加熱して蒸発させる蒸発源と、前記蒸発源に連通し、前記蒸発させた第2の金属の蒸気を不活性ガスにより処理容器内まで運搬させる第1のガス供給路と、前記処理容器内に所望のエネルギーを供給するエネルギー源と、前記供給されたエネルギーを用いて前記第1のガス供給路から供給された前記不活性ガスを励起させてプラズマを生成し、生成されたプラズマを接触させることにより前記ターゲット材から叩き出された第1の金属のターゲット原子を陰極として成膜する際、前記成膜中の陰極に混入させる前記第2の金属の割合を制御する制御器と、を備えた成膜装置が提供される。
【0034】
また、上記課題を解決するために、本発明の他の態様によれば、上記制御方法により成膜装置を制御することによって製造された有機EL電子デバイスが提供される。
【0035】
さらに、上記課題を解決するために、本発明の他の態様によれば、上記制御方法により成膜装置を制御するためにコンピュータに実行させる処理手順を定めた制御プログラムを記憶した記憶媒体が提供される。
【0036】
これらによれば、陰極の成膜時に仕事関数の低い第2の金属を陰極に混入させることにより、実質的に電子注入層と陰極とを同時に成膜することができる。この結果、第2の金属の原子が、処理容器内の残留水分、窒素、酸素等と反応することを防止することができる。これにより、電子の注入効率を高く維持した高性能な有機EL電子デバイスを安定的に製造することができる。
【発明の効果】
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、仕事関数の低い材料を迅速に有機層と陰極との界面近傍に挿入することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の構成及び機能を有する構成要素については、同一符号を付することにより、重複説明を省略する。
【0039】
(有機EL電子デバイスの製造プロセス)
最初に、本実施形態にかかる有機EL電子デバイスの製造プロセスについて図1を参照しながら説明する。まず、図1(a)に示した、ITO(Indium Tin Oxide)付きのガラス基板G(以下、基板Gという。)が蒸着装置に搬入され、ITO(陽極)10上に、図1(b)に示した有機層20が成膜される。
【0040】
つぎに、基板Gは、スパッタ装置に搬送され、銀Agから形成されたスパッタリング材にアルゴンガスのイオンを衝突させることにより、スパッタリング原子Agを叩き出す。叩き出されたスパッタリング原子Agは、スパッタ装置に供給されたセシウムを混入しながら、パターンマスクを介して有機層20上に堆積する。これにより、図1(c)に示したセシウム混入メタル電極(陰極)30が成膜される。
【0041】
つぎに、基板Gは、エッチング装置に搬送され、容器内に供給されたエッチングガスを励起させて生成されたプラズマにより、メタル電極30をマスクとして有機層20をドライエッチングする。これにより、図1(d)に示したように、メタル電極30の下部に位置した有機層20のみが基板G上に残る。
【0042】
ついで、基板Gは、再びスパッタ装置に搬送され、前述したスパッタリングにより、図1(e)に示したように、パターンマスクを使用してメタル電極(側壁)30が成膜される。
【0043】
つぎに、基板Gは、たとえば、RLSA(Radial Line Slot Antenna)プラズマCVD装置などのCVD装置に搬送され、図1(f)に示したように、パターンマスクを使用して、たとえば、水素化窒化珪素(H:SiNx)からなる封止膜40が成膜され、これにより、有機EL素子が封止され、外部の水分などから保護される。
【0044】
以上に説明した有機EL電子デバイスは、たとえば、図2に示したクラスタ型の基板処理システムSys内で製造される。以下に、基板処理システムSysの全体構成を説明し、その後、基板処理システムSys内部での基板Gの搬送および処理について説明する。
【0045】
(基板処理システムの全体構成、基板の搬送および各処理)
本実施形態にかかる基板処理システムSysは、複数の処理容器を有するクラスタ型の製造装置であり、ロードロック室LLM(Load Lock Module)、搬送室TM(Transfer Module)、クリーニング室(前処理室)CM(Cleaning Module)および4つの異なる処理が実行される処理容器であるプロセスモジュールPM(Process Module)1〜PM4から構成される。
【0046】
ロードロック室LLMは、大気系から搬送された基板Gを、減圧状態にある搬送室TMに搬送するために内部を減圧状態に保持した真空搬送室である。搬送室TMには、略中央に屈伸および旋回可能な多関節状の搬送アームArmが配設されている。基板Gは、最初に、搬送アームArmを用いてロードロック室LLMから前処理室CMに搬送され、つぎに、PM1に搬送され、さらに、他のPM2〜PM4に搬送される。クリーニング室CMでは、基板Gに形成された陽極層としてのITO10の表面に付着した汚染物(主に有機物)を除去する。
【0047】
PM1〜PM4では、まず、PM1にて、蒸着により基板のITO表面に6層の有機層20が連続的に成膜される。つぎに、基板Gは、PM4に搬送される。PM4では、スパッタリングにより基板Gの有機層20上にセシウムをドープしたメタル電極30が形成される。つぎに、基板Gは、PM2に搬送され、メタル電極30をパターンマスクとして有機層20の一部がエッチングにより除去される。
【0048】
ついで、基板Gは、再びPM4に搬送され、PM4にてメタル電極30の側部がスパッタリングにより形成され、最後にPM3に搬送され、PM3にてCVDにより封止膜40が形成される。
【0049】
(制御器)
基板処理システムSysを用いた上記処理は、制御器50によって制御される。制御器50は、ROM50a、RAM50b、CPU50cおよび入出力I/F(インターフェース)50dを有している。ROM50a、RAM50bには、たとえば、メタル電極30を成膜する際のセシウム混入量を制御するためのデータや制御プログラムが格納されている。
【0050】
CPU50cは、ROM50a、RAM50bに格納されたデータや制御プログラムを用いて、基板処理システムSys内の搬送やプロセスを制御するための駆動信号を生成する。入出力I/F50dは、CPU50cにより生成された駆動信号を基板処理システムSysに出力し、これに応じて基板処理システムSysから出力された応答信号を入力して、CPU50cに伝える。
【0051】
以下では、基板処理システムSysに設けられた有機膜を成膜する蒸着装置(PM1)の内部構成および有機膜の積層構造について、図3,4を参照しながら簡単に説明した後、セシウムを混入したメタル電極を成膜するための成膜装置(スパッタ装置)の内部構成およびその制御方法について、図5〜8を参照しながら詳しく説明する。
【0052】
(有機膜の成膜:PM1)
図3にその縦断面を模式的に示したように、PM1は、第1の処理容器100および第2の処理容器200を有していて、第1の処理容器100内にて6層の有機層20が連続的に成膜される。なお、図3では、有機層20の連続成膜を制御する制御器50は図示していない。
【0053】
第1の処理容器100は、直方体の形状であり、その内部に摺動機構110、6つの吹き出し機構120a〜120fおよび7つの隔壁130を有している。第1の処理容器100の側壁には、開閉により基板Gを搬入、搬出可能なゲートバルブ140が設けられている。
【0054】
摺動機構110は、ステージ110a、支持体110bおよびスライド機構110cを有している。ステージ110aは、支持体110bにより支持され、ゲートバルブ140から搬入された基板Gを、図示しない高電圧電源から印加された高電圧により静電吸着する。スライド機構110cは、第1の処理容器100の天井部に装着されるとともに接地されていて、基板Gをステージ110aおよび支持体110bとともに第1の処理容器100の長手方向にスライドさせ、これにより、各吹き出し機構120のわずか上空にて基板Gを平行移動させるようになっている。
【0055】
6つの吹き出し機構120a〜120fは、形状および構造がすべて同一であって、互いに平行して等間隔に配置されている。吹き出し機構120a〜120fは、その内部が中空の矩形形状をしていて、その上部中央に設けられた開口から有機分子を吹き出すようになっている。吹き出し機構120a〜120fの下部は、第1の処理容器100の底壁を貫通する連結管150a〜150fにそれぞれ連結されている。
【0056】
隔壁130は、各吹き出し機構120を仕切ることにより、各吹き出し機構120の開口から吹き出される有機分子が隣りの吹き出し機構120から吹き出される有機分子に混入することを防止するようになっている。
【0057】
第2の処理容器200には、形状および構造が同一の6つの蒸着源210a〜210fが内蔵されている。蒸着源210a〜210fは、収納部210a1〜210f1に有機材料をそれぞれ収納していて、各収納部を200〜500℃程度の高温にすることにより各有機材料を気化させるようになっている。なお、気化とは、液体が気体に変わる現象だけでなく、固体が液体の状態を経ずに直接気体に変わる現象(すなわち、昇華)も含んでいる。
【0058】
蒸着源210a〜210fは、その上部にて連結管150a〜150fにそれぞれ連結されている。各蒸着源210にて気化された有機分子は、各連結管150を高温に保つことにより、各連結管150に付着することなく各連結管150を通って各吹き出し機構120の開口から第1の処理容器100の内部に放出される。なお、第2の処理容器200は、その内部を所定の真空度に保持するために、図示しない排気機構により所望の真空度まで減圧されている。各連結管150には、バルブ220a〜220fがそれぞれ取り付けられていて、各有機材料の連通および遮断を制御するようになっている。
【0059】
各吹き出し機構120から吹き出された有機分子のうち、まず、吹き出し機構120aから吹き出された有機分子が、吹き出し機構120aの上方をある速度で進行する基板G上のITO(陽極)に付着することにより、図4に示したように、基板Gに第1層のホール輸送層が形成される。続いて、基板Gが吹き出し機構120bから吹き出し機構120fまで順に移動する際、各吹き出し機構120b〜120fから吹き出された有機分子がそれぞれ基板Gに堆積することにより、有機層(第2層〜第6層)が順に形成される。このようにして、有機EL製造プロセスの各工程を示した図1のうち、図1(a)に示した基板GのITO(陽極)10上に、図1(b)に示した有機層20が成膜される。
【0060】
(セシウムを混入したメタル電極の成膜:PM4)
有機層20上には、セシウムを混入したメタル電極30が成膜される。セシウム混入メタル電極30は、PM4内にてスパッタリングにより成膜される。図5に示したように、PM4にはスパッタ装置Spが配設されている。スパッタ装置Spの外部には、ディスペンサDsが設置されている。スパッタ装置SpやディスペンサDs、その他の機器は、制御器50から出力される駆動信号により駆動する。
【0061】
なお、スパッタ装置Spは、処理容器内にて基板G上に形成された有機層20に陰極(メタル電極30)を形成する成膜装置に相当し、ディスペンサDsは、処理容器外に設けられ、たとえば、メタル電極30を形成する銀等の第1の金属よりも仕事関数が小さいセシウム等の第2の金属を加熱して蒸発させる蒸発源に相当する。
【0062】
(スパッタ装置の内部構成)
まず、スパッタ装置Spの内部構成について説明する。スパッタ装置Spは、その内部にてプラズマを生成し、スパッタリングによりメタル電極30を形成する処理容器300を有している。処理容器300は、一対のターゲット材305a、305b、パッキングプレート310a、310b、ターゲットホルダー315a、315b、磁界発生手段320a、320b、ステージ325、排気口330、ガスシャワーヘッド340を有している。
【0063】
一対のターゲット材305a、305bは、処理容器300のほぼ中央にて所定の距離だけ離れて、スパッタ面が平行になるように対向して配置されている。ターゲット材305a、305b(有機EL素子の陰極を形成する第1の金属に相当)は、電気抵抗が低く、光の反射率が比較的高い銀またはアルミニウムであることが好ましい。本実施形態では、ターゲット材305a、305bは、銀Agから形成されている。
【0064】
一対のターゲット材305a、305bは、パッキングプレート310a、310bを介してターゲットホルダー315a、315bに保持されている。磁界発生手段320a、320bは、本実施形態では磁石であり、各ターゲット材305a、305bの背面にてターゲット材305aにS極の磁石、ターゲット305bにN極の磁石が位置するように配置されている。これにより、ターゲット材305a、305bの対向空間には、この空間を囲むように各ターゲット材305a、305bに垂直な磁界が発生する。
【0065】
ステージ325は、処理容器300の底面に設けられ、支持体325aにより支持されている。ステージ325には温調手段325bが埋設されていて、制御器50からの駆動信号に従いその発熱量が調整されるようになっている。ステージ325は図示しない高電圧電源から印加された高電圧により基板Gを静電吸着するようになっている。
【0066】
排気口330は開度調整可能バルブV1を介して真空ポンプ335と連結していて、制御器50から出力された駆動信号に基づき、バルブV1の開度を調節することにより、処理容器300内を所望の真空圧に制御するようになっている。
【0067】
一対のターゲット材305a、305b間の側部には、ガスシャワーヘッド340が設けられている。ガスシャワーヘッド340は、分岐して第1のガス供給管345及び第2のガス供給管350に接続されている。第1のガス供給管345の上流側は、バルブV2を介してディスペンサDsに接続されている。
【0068】
ディスペンサDsの内部にはセシウム等のアルカリ金属を収納できる蒸発容器Ds1が設けられている。蒸発容器Ds1は、電源と接続されている。制御器50から出力された駆動信号に基づき、電源Ds2にかかる電圧を制御して、蒸発容器Ds1に流れる電流を制御することにより、蒸発容器Ds1が所望の温度になるように蒸発容器Ds1が加熱される。これにより、蒸発容器Ds1に収納されたセシウムの蒸発量を調整することができる。なお、蒸発容器Ds1に収納される金属(第2の金属に相当)は、第1の金属より仕事関数が低いアルカリ金属であることが好ましい。アルカリ金属の一例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。
【0069】
ディスペンサDsは、開度調整可能バルブV3を介して真空ポンプ355と連結している。バルブV3は、制御器50から出力された駆動信号に基づきその開度を調節することにより、ディスペンサDs内を所望の真空圧に制御する。
【0070】
また、ディスペンサDsは、ガスの流量を調整するマスフローコントローラMFC1(Mass Flow Controller)およびバルブV4を介してアルゴンガス供給源360と連結している。アルゴンガス供給源360から出力されたアルゴンガスは、第1のガス供給管345内の通路(第1のガス供給路)を通って処理容器内に供給される。アルゴンガスの給断および流量は、制御器50から出力された駆動信号に基づき、マスフローコントローラMFC1及びバルブV4を制御することにより調節される。
【0071】
これにより、ディスペンサDs内で蒸発したセシウムは、ディスペンサDs内に送り込まれた所定量のアルゴンガスをキャリアガスとして、第1のガス供給管345内部の通路を通って処理容器内まで搬送される。このとき、アルゴンガスおよびセシウムの蒸気を通す配管(第1のガス供給管345を含む)およびディスペンサDsは、制御器50から出力された駆動信号に基づき、配管やディスペンサDsの壁面に埋設されたヒータ(図示せず)を熱することにより、たとえば、400℃以上に調節される。これにより、セシウムの蒸気がアルゴンガスにより搬送される際、配管等に付着して液化することを防ぐことができる。これにより、メタル電極30に混入させる第2の金属の割合を精度よく制御することができるとともに、材料効率を高めることができる。
【0072】
第2のガス供給管350は、第1のガス供給管345とは独立した別系統の配管であり、バルブV5、マスフローコントローラMFC2およびバルブV6を介してアルゴンガス供給源365に連結している。アルゴンガス供給源365から出力されたアルゴンガスは、第2のガス供給管350内の通路(第2のガス供給路)を通って処理容器内に供給される。アルゴンガスの給断および流量は、制御器50から出力された駆動信号に基づき、マスフローコントローラMFC2およびバルブV6を制御することにより調節される。また、バルブV2およびバルブV5の切り替えにより、アルゴンガスの供給経路を切り替えることができる。
【0073】
直流電源370は、各ターゲット材305a、305bを陰極、パッキングプレート310bを陽極として、制御器50から出力された駆動信号に基づき所望の直流電圧(DC定電力)を印加する。これにより、ターゲット材305a、305bの対向空間にプラズマが生成される。電力の種類としては、DC定電力に限られず、AC電力、RF電力、MF電力、パルスDC電力等であってもよく、これらの重畳電力であってもよい。なお、直流電源370は、処理容器300内に所望のエネルギーを供給するエネルギー源の一例である。
【0074】
(メタル電極成膜処理)
つぎに、上述した構成を有するスパッタ装置Spの内部にてセシウム(Cs)を混入しながらメタル電極30を成膜する処理について、制御器50が実行する処理手順を示した図6のフローチャートを参照しながら説明する。
【0075】
メタル電極成膜処理は、ステップ600から開始され、制御器50は、ステップ605にて各部の温度を制御する。温度制御の一つとして、制御器50は、ディスペンサDsに設けられた蒸発容器Ds1を流れる電流値(電源Ds2の電圧値)を制御する。たとえば、図7(a)に示したように、成膜時間に対する電流値を制御するためのデータがROM50aに記憶されている場合、制御器50は、ROM50aのデータに基づきステップ605にて電流値を図7(a)の所定の値(ON値)に設定する。他の温度制御としては、制御器50は、ステージ325に埋設された温調手段325bを制御したり、第1のガス供給管345や第2のガス供給管350等に埋設された図示しないヒータを400℃以上の所定の温度に制御したりする。
【0076】
つぎに、制御器50は、ステップ610にて原料をスパッタ装置Sp内に供給する。具体的には、制御器50は、マスフローコントローラMFC1の開度を調整し、バルブV4およびバルブV2を開くように制御する。これにより、ディスペンサDs内のセシウムの蒸気は、アルゴンガス供給源360から供給されたアルゴンガスをキャリアガスとして第1のガス供給管345内を通過し、処理容器内に供給される。
【0077】
制御器50は、別途、第2のガス供給管350からアルゴンガスを供給してもよい。この場合、制御器50は、マスフローコントローラMFC2の開度を調整し、バルブV5およびバルブV6を開くように制御する。これにより、アルゴンガス供給源365から供給されたアルゴンガスは、第2のガス供給管350内を通過し、処理容器内に供給される。
【0078】
つぎに、ステップ615に進んで、制御器50は、バルブV1の開度を制御する。これにより、処理容器内は所望の減圧状態に保たれる。ついで、ステップ620に進んで、制御器50は、直流電源370からターゲット材305a、305bに所定の直流電圧が印加されるように制御する。
【0079】
このときのターゲット材305a、305bの対向空間で行われている成膜処理を、図8を参照しながら説明する。ガスシャワーヘッド340から供給されたアルゴンガスArは、図8(a)に示したように、直流電圧のエネルギーによりイオン化し(プラズマ化)、ターゲット材305a、305bに向かって引き込まれ、各ターゲット材305a、305bに衝突し、各ターゲット材305a、305bから銀Ag原子を叩き出す。
【0080】
一方、セシウムCsは、前記対向空間中のプラズマに混在し、その一部はターゲット材305a、305bに吸着し、イオン化されたアルゴンArと衝突してイオン化したり(Cs)、再び基底状態に戻ったり(Cs)しながらプラズマ中を漂う。
【0081】
ターゲット材305a、305bから叩き出された銀Ag原子が徐々に基板G上に積層される際、図7(b)に示したように、銀Agの成膜中にはセシウムCsが混入する。これにより、電子注入効率を高めるセシウムCsが混入したメタル電極(陰極)30を成膜することができる。この結果、活性なセシウムCsが、処理容器内の残留水分、窒素、酸素等と反応する前にセシウムCsを銀Agで覆うことができる。これにより、電子の注入効率を高く維持した高性能な有機EL電子デバイスを安定的に製造することができる。
【0082】
ここで、メタル電極に混入させるセシウムCsの割合は非常に重要である。これは、発行層上に電子輸送層、電子注入層、メタル電極(陰極)を積層させる従来の有機EL電子デバイスにおいて、電子注入層を構成するアルカリ金属の厚みは、メタル電極(陰極)に比べて相当程度薄いほうがよいとの研究結果もあることからもわかる。たとえば、アルカリ金属の一例であるリチウムの厚みは、0.5〜2.0nm程度が好ましく、これ以上厚いとかえって電子の注入効率が低下するとの報告もある。
【0083】
そこで、本実施形態では、セシウムCsの混入比率の重要性に鑑みて、メタル電極30に混入させるセシウムCsの割合を制御する一方法として、制御器50は、図6のステップ605にてディスペンサDsの温度を制御する。これにより、ディスペンサDsに収納されたセシウムCs等のアルカリ金属の蒸発速度(または気化速度)を制御することができる。すなわち、ディスペンサDsの温度を上げればセシウムCsの蒸発速度が上がり、メタル電極30に混入させるセシウムCsの割合を増やすことができ、ディスペンサDsの温度を下げればセシウムCsの蒸発速度が下がり、メタル電極30に混入させるセシウムCsの割合を減らすことができる。
【0084】
このようにして、セシウムCsが混入されたメタル電極30が徐々に積層される間に、制御器50は、図6のステップ625〜645を繰り返し制御する。図8(b)の状態では、まだメタル電極30は成膜処理を終了する所定の厚さまでは形成されていないので、ステップ630に進み、制御器50はディスペンサDsの温度を変更するか否かを判断する。ここで、本処理開始から時間t1(図7(a)参照)が経過した場合、制御器50は、ディスペンサDsの温度を変更すると判定し、ステップ635にて電流値を0(OFF値)に制御する。
【0085】
この制御により、ディスペンサDsからセシウムCsが急激に供給されなくなり、所定期間経過後、図8(c)に示したように、処理容器内にはアルゴンガスArのみが供給されるようになる。供給されたアルゴンガスArは、前述したとおりイオン化し、ターゲット材305a、305bに衝突して銀Agを叩き出す。これにより、図8(d)に示したように、セシウムCsが混入しないメタル電極30層(Ag)が、セシウムCsが混入されたメタル電極30(Ag+Cs)上に積層される。
【0086】
なお、制御器50は、ステップ640にてガスの流量を変動させてもよい。ガスの流量を変動させる場合には、制御器50は、たとえば、ステップ645にてマスフローコントローラMFC1の開度またはバルブV4の開閉を変えることにより、処理容器内に供給するアルゴンガスの流量を変えることができる。
【0087】
また、制御器50は、たとえば、ステップ645にてマスフローコントローラMFC2の開度またはバルブV6の開閉を変えることによっても、処理容器内に供給するアルゴンガスの流量を変えることができる。
【0088】
また、制御器50は、たとえば、ステップ645にてバルブV2やバルブV5の開閉を制御することによっても、処理容器内に供給するアルゴンガスの流量を変えることができる。以上に説明した各マスフローコントローラMFCおよび各バルブVの制御の組み合わせで多様な流量制御が可能となる。
【0089】
このようにして、セシウムCsが混入されたメタル電極30が所定の厚さまで形成されると、制御器50は、図6のステップ625からステップ695に進み、本処理を終了する。
【0090】
以上に説明したように、本実施形態にかかるメタル電極の成膜方法によれば、アルカリ金属をメタル電極に混入させることにより、実質的に電子注入層と陰極層とを同時に成膜することができる。これにより、活性なアルカリ金属と水分、窒素、酸素などとの反応を抑え、電子注入効率の高い有機EL電子デバイスを製造することができる。
【0091】
また、本実施形態にかかるメタル電極30の成膜方法によれば、種々の制御方法を用いてメタル電極30に混入させるアルカリ金属の割合を制御することができる。具体例としては、上述したように、たとえば、ディスペンサDsの温度を制御することにより、ディスペンサDsに収納されたアルカリ金属の蒸発速度を制御し、これにより、メタル電極30に混入させるアルカリ金属の割合を制御することができる。
【0092】
また、他の例としては、アルゴンガスなどの不活性ガスの流量を制御することにより、単位時間当たりに運ばれるアルカリ金属量を制御し、これにより、メタル電極30に混入させるアルカリ金属の割合を制御することができる。このようにして、温度制御により大まかな制御を行い、キャリアガスである不活性ガスの流量制御により細かい制御を行うことにより、メタル電極30成膜中にアルカリ金属を混入する量をより精度良く制御することができる。
【0093】
流量制御としては、たとえば、次のような各種の制御が可能である。その一つとしては、上述したように、スパッタ装置Spに、スパッタ用ガスとしてのアルゴンガスを処理容器内に供給する第2のガス供給管350を設け、第2のガス供給管350から供給されるスパッタ用ガスの流量を制御することにより、メタル電極30に混入させるアルカリ金属の割合を制御する方法が挙げられる。
【0094】
第1のガス供給管345から処理容器内に供給するガスの総流量と第2のガス供給管350から処理容器内に供給するガスの総流量との割合を制御することにより、メタル電極30に混入させるアルカリ金属の割合を制御してもよい。
【0095】
また、たとえば、ターゲット原子Agにアルカリ金属を混入させた薄膜を予め定められた膜厚まで形成し、その後、第1のガス供給管345からアルカリ金属の蒸気の供給を停止した場合、アルカリ金属を混入させたメタル電極の層上にアルカリ金属を混入させないメタル電極を成膜することができる。
【0096】
同様に、ターゲット原子Agにアルカリ金属を混入させた薄膜を所望の厚さまで形成後、第1のガス供給管345からのガス供給を停止し、第2のガス供給管350から供給されるスパッタ用ガスのみを処理容器内に供給するように制御しても、アルカリ金属を混入させたメタル電極の層上にアルカリ金属を混入させないメタル電極を成膜することができる。
【0097】
また、図8(b)に示したように、ディスペンサDsに流す電流量を徐々に減少させることにより、アルカリ金属の蒸発量を徐々に減少させて、これにより、第1のガス供給管345から処理容器内に供給するアルカリ金属の蒸気量が処理容器内に供給するアルゴンガスの流量に対して相対的に減少するように制御してもよい。
【0098】
これによれば、メタル電極30の成膜中、アルカリ金属の混入量を徐々に減らすことができる。これにより、有機層20近傍になるほどアルカリ金属の原子数が多く、有機層20から遠ざかるほどアルカリ金属の原子数が少なくなるようにメタル電極30にアルカリ金属を混入させ、成膜時間t2経過後はアルカリ金属がほとんど混入しなくなるようにメタル電極30を成膜することができる。
【0099】
以上説明したように、本実施形態によれば、仕事関数が低い材料と陰極とを同時に成膜することが可能となり、高性能な有機ELデバイスを安定的に製造することができる。
【0100】
上記実施形態において、各部の動作はお互いに関連しており、互いの関連を考慮しながら、一連の動作として置き換えることができる。そして、このように置き換えることにより、上記有機EL電子デバイスを製造するための成膜装置の実施形態を、上記デバイスを製造するための成膜方法の実施形態および上記デバイスを製造するための成膜装置の制御方法とすることができる。
【0101】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0102】
たとえば、本実施形態では、陰極(メタル電極30)にアルカリ金属を混入させたが、陰極(メタル電極30)にアルカリ金属を混入させるとともに、有機層20の第6層(図4参照)中にアルカリ金属を混入させてもよい。
【0103】
たとえば、本実施形態では、有機層20の第6層にアルカリ金属を混入させたが、有機層20にアルカリ金属を混入させるとともに、次に成膜されるメタル電極30中にもアルカリ金属を混入させてもよい。
【0104】
なお、基板Gのサイズは、730mm×920mm以上であってもよく、たとえば、730mm×920mm(チャンバ内の径:1000mm×1190mm)のG4.5基板サイズや、1100mm×1300mm(チャンバ内の径:1470mm×1590mm)のG5基板サイズであってもよい。また、素子が形成される被処理体は、上記サイズの基板Gに限られず、たとえば200mmや300mm以上のシリコンウエハであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の一実施形態にかかる有機EL電子デバイスを製造するプロセスを示した図である。
【図2】同実施形態にかかる基板処理システムの概略構成図である。
【図3】同実施形態にかかる6層連続成膜処理を実行するPM1の縦断面図である。
【図4】同実施形態にかかる6層連続成膜処理により形成される有機EL素子を示した図である。
【図5】同実施形態にかかる成膜処理を実行するPM4の縦断面図である。
【図6】メタル電極成膜処理を示したフローチャートである。
【図7】成膜時間に対する電流値を示したグラフである。
【図8】メタル電極の成膜過程を説明するための図である。
【符号の説明】
【0106】
10 ITO
20 有機層
30 メタル電極
40 封止膜
50 制御器
100,200,300 処理容器
305a、305b ターゲット材
310a、310b パッキングプレート
315a、315b ターゲットホルダー
320a、320b 磁界発生手段
110a、325 ステージ
330 排気口
335、355 真空ポンプ
340 ガスシャワーヘッド
345 第1のガス供給管
350 第2のガス供給管
360,365 アルゴンガス供給源
370 直流電源
G 基板
Sys 基板処理システム
PM1、PM2,PM3,PM4 プロセスモジュール
Sp スパッタ装置
Ds ディスペンサ
Ds1 蒸発容器
Ds2 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内にて被処理体上に形成された有機層に陰極を形成する成膜装置の制御方法であって、
前記成膜装置は、
処理容器内に設けられ、前記陰極の主原料となる第1の金属から形成されたターゲット材と、
処理容器外に設けられ、前記第1の金属よりも仕事関数が小さい第2の金属を加熱して蒸発させる蒸発源と、
前記蒸発源に連通し、前記蒸発させた第2の金属の蒸気を不活性ガスにより処理容器内まで運搬させる第1のガス供給路と、
前記処理容器内に所望のエネルギーを供給するエネルギー源と、を備え、
前記供給されたエネルギーを用いて前記第1のガス供給路から供給された前記不活性ガスを励起させてプラズマを生成し、生成されたプラズマを接触させることにより前記ターゲット材から叩き出された第1の金属のターゲット原子を陰極として成膜する際、前記成膜中の陰極に混入させる前記第2の金属の割合を制御する成膜装置の制御方法。
【請求項2】
前記蒸発源の温度を制御することにより、前記陰極に混入させる前記第2の金属の割合を制御する請求項1に記載された成膜装置の制御方法。
【請求項3】
前記不活性ガスの流量を制御することにより、前記陰極に混入させる前記第2の金属の割合を制御する請求項1または2のいずれかに記載された成膜装置の制御方法。
【請求項4】
前記成膜装置は、
スパッタ用ガスを処理容器内に供給する第2のガス供給路をさらに備え、
前記第2のガス供給路から供給されるスパッタ用ガスの流量を制御することにより、前記陰極に混入させる前記第2の金属の割合を制御する請求項1〜3のいずれかに記載された成膜装置の制御方法。
【請求項5】
前記第1のガス供給路から処理容器内に供給するガスの総流量と前記第2のガス供給路から処理容器内に供給するガスの総流量との割合を制御することにより、前記陰極に混入させる前記第2の金属の割合を制御する請求項1〜4のいずれかに記載された成膜装置の制御方法。
【請求項6】
前記第1の金属に前記第2の金属を混入させた薄膜を所望の厚さまで形成後、前記第1のガス供給路から前記第2の金属の蒸気供給を停止するように前記蒸発源の温度を制御する請求項2に記載された成膜装置の制御方法。
【請求項7】
前記第1の金属に前記第2の金属を混入させた薄膜を所望の厚さまで形成後、前記第1のガス供給路からのガス供給を停止し、前記第2のガス供給路から供給されるスパッタ用ガスのみを処理容器内に供給するように制御する請求項5または6のいずれかに記載された成膜装置の制御方法。
【請求項8】
前記第1のガス供給路から処理容器内に供給するガスの総流量が前記第2のガス供給路から処理容器に供給するガスの総流量に対して相対的に減少するように制御する請求項5に記載された成膜装置の制御方法。
【請求項9】
前記第1のガス供給路から処理容器内に供給する第2の金属の蒸気量が同第1のガス供給路から処理容器内に供給する不活性ガスの流量に対して相対的に減少するように制御する請求項5,8のいずれかに記載された成膜装置の制御方法。
【請求項10】
前記第1のガス供給路を形成する配管を400℃以上に制御する請求項1〜9のいずれかに記載された成膜装置の制御方法。
【請求項11】
前記第2の金属は、アルカリ金属である請求項1〜10のいずれかに記載された成膜装置の制御方法。
【請求項12】
前記第1の金属は、銀またはアルミニウムである請求項1〜11のいずれかに記載された成膜装置の制御方法。
【請求項13】
処理容器内にて被処理体上に形成された有機層に陰極を形成する成膜方法であって、
処理容器外に設けられた蒸発源により前記陰極の主原料となる第1の金属よりも仕事関数が小さい第2の金属を加熱して蒸発させ、
前記蒸発させた第2の金属の蒸気を、不活性ガスをキャリアガスとして前記蒸発源に連結した第1のガス供給路に通し、処理容器内まで搬送させ、
前記処理容器内に所望のエネルギーを供給し、
前記供給されたエネルギーを用いて前記第1のガス供給路から供給された前記不活性ガスを励起させてプラズマを生成し、生成されたプラズマを前記第1の金属からなるターゲット材に接触させることにより前記ターゲット材から叩き出された第1の金属のターゲット原子を陰極として成膜する際、前記成膜中の陰極に前記第2の金属を混入させる成膜方法。
【請求項14】
処理容器内にて被処理体上に形成された有機層に陰極を形成する成膜装置であって、
処理容器内に設けられ、前記陰極の主原料となる第1の金属から形成されたターゲット材と、
処理容器外に設けられ、前記第1の金属よりも仕事関数が小さい第2の金属を加熱して蒸発させる蒸発源と、
前記蒸発源に連通し、前記蒸発させた第2の金属の蒸気を不活性ガスにより処理容器内まで運搬させる第1のガス供給路と、
前記処理容器内に所望のエネルギーを供給するエネルギー源と、
前記供給されたエネルギーを用いて前記第1のガス供給路から供給された前記不活性ガスを励起させてプラズマを生成し、生成されたプラズマを接触させることにより前記ターゲット材から叩き出された第1の金属のターゲット原子を陰極として成膜する際、前記成膜中の陰極に混入させる前記第2の金属の割合を制御する制御器と、を備えた成膜装置。
【請求項15】
前記請求項1〜12のいずれかに記載された制御方法により成膜装置を制御することによって製造された有機EL電子デバイス。
【請求項16】
前記請求項1〜12のいずれかに記載された制御方法により成膜装置を制御するためにコンピュータに実行させる処理手順を定めた制御プログラムを記憶した記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−84622(P2009−84622A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254989(P2007−254989)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】