説明

抗感染剤の生物学的有効性に影響を及ぼすためのクミン(CUMINUMCYMINUM)抽出物及びピペリンの使用

本発明は、抗感染剤の活性を増強させることにより抗生物質及び抗真菌剤等の抗感染剤に対する微生物菌株の耐性を減少させるための生物学的増強剤の使用に関する。これはバクテリア及び酵母中での耐性を減少させるために、特定の感染及び疾患の治療を補助するために、並びに微生物菌株の成長を阻害するために必要である抗感染剤の濃度をより低くするために有用であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学療法の分野に関し、特に抗感染剤の生物学的有効性を高めるための生物学的増強剤を含む経口医薬組成物としてのそれらの製剤に関し、それについて、かかる抗感染剤の標準用量での治療効果を維持しながら、より低用量、及び/又はより少ない回数での投与が求められている。
【背景技術】
【0002】
バクテリア、ウィルス、及び真菌を含む、多様なヒトの病気は、病原性微生物を起源とする。かかる病原性微生物の存在は、敗血症、一連の感染(上位及び低位の呼吸気管、CNS、髄膜炎、腹膜、生殖器-尿路、皮膚、及び軟組織を含む腹腔内)、並びに全身性真菌症のような様々な他の感染、皮膚糸状菌により引き起される感染を含むカンジダ症を導く。過去100年の間で、短期及び長期治療に利用可能となった、多様な化学物質及び生物学的天然物の数えられないほどの治療薬によって、かかる大規模な微生物ファミリーにより引き起される疾患と闘うための重要な進展がなされた。かかる抗微生物剤には、アミノグリコシド系、ペニシリン系、セファロスポリン系、マクロライド系、糖ペプチド系、フルオロキノロン系、テトラサイクリン系、一次及び二次抗TB薬剤、抗らい病菌剤、抗ウィルス剤、ポリエン、トリアゾール及びイミダゾール抗真菌剤、ピリミジン誘導体のようなものとの組合せ、並びにトリメトプリム・スルファメトキサゾール(sulphamethoxizole)を含む。
【0003】
一方かかる医薬品は、病原性バクテリア及び真菌に対して有効であるので、かかる病原体の存在と関連した疾患の治療に有用である。制限を有し、且つ臨床の懸案事項を導くかかる医薬品の使用のエビデンスは増加している。かかる懸案事項には関与するいくつかの要因:(a)1つ以上の公知の抗感染剤に対する耐性を増加し始めるバクテリア及び真菌の特定株により、通常又は標準化された治療投与量での有益な作用の減少を導き、(b)所望されない副作用及び毒性の原因と闘うために要求されるより高い投与量、そして(c)高額な治療費及び患者の非協力が存在する。薬剤耐性病原体の出現は、制御不良の抗生物質の過剰使用及び低量使用、そして投与下でさえ、不合理な投与回数に帰すことにもなる。当該延長した、及び高用量での治療は、特に妊婦、老人及び子供における深刻な懸案事項でもある。
【0004】
一方、抗生物質使用の合理的使用を具体化するアプローチでは、微生物薬剤耐性の問題の緩和を助長し得る。新規の抗微生物剤は、全部ではないが、今最も利用可能な抗生物質に対して現在耐性であるそれらの株と闘うために発見される必要がある。そのようなものとして、病原性微生物に対する医療従事者の設備を更に補充するために使用され得る新規抗微生物剤の同定への継続した関心が存在する。
【0005】
他のアプローチでは、2つの抗感染剤が相乗効果を生み出す組合せのような方法、即ち、抗感染剤の一つが他の抗感染剤の増強剤として作用するような方法、において組合される。かかる組合せの例は、広域抗生物質として1968年に発表されたコ・トリモキサゾール又はTMP-SMXとしても公知である、トリメトプリム-スルファメトキサゾールである。トリメトプリムは、特にバクテリアに対して相乗的に作用し、且つバクテリア耐性の発達を遅延させるスルホンアミドの増強剤として開発された。スルファメトキサゾールに対するトリメトプリムの1:5である比率は、最も感染しやすいバクテリアに対する血中濃度の最適な相乗比率である、およそ1:20の最高血中濃度の比率を達成する(Gutman LT,Pediatr Infect Dis 1984;3:349-57,Olin BR,Facts and Comparisons,Inc.1998;408b-409d,Cockerill FR,Edson RS,Mayo Clin Proc 1991;66:1260-9)。
【0006】
当該組合せは、一つの抗感染剤と、それ自体天然では抗感染でない他の化学物質の間でも可能であるが、抗感染剤と組合せた場合は、この抗感染剤の有効性を増強させる。かかる組合せの例はアモキシシリン+クラブラン酸(より一般的にはオーグメンチンとして知られている)である。アモキシシリンはペニシリンタイプの抗生物質である。それは例えば、インフルエンザ菌、淋菌、大腸菌、肺炎球菌、連鎖球菌、及びブドウ球菌のある特定株等の様々なバクテリアに対して有効である。化学的にペニシリンとアンピシリンは密接に関連する。オーグメンチンでのアモキシシリンへのクラブラン酸の付加は、通常アモキシシリンに耐性である多くの他のバクテリアに対するこの抗生物質の有効性を増強させる。クラブラン酸は、ストレプトミセス属clavuligerusの発酵により生産する。それは構造的にペニシリンに関連するβ-ラクタムであり、そしてβ-ラクタマーゼの活性部位を遮断することにより多種多様なβ-ラクタマーゼを不活性化する能力を有す。クラブラン酸は、しばしばペニシリン系及びセファロスポリン系に薬剤耐性をもたらすことを担うβラクタマーゼを仲介した臨床的に重要なプラスミドに対して特に活性である。
【0007】
インドの伝統医薬に関連し、且つアーユルベーダに十分に発表された最も注目すべき特徴の1つは、他との組合せにおいて使用する場合、1つの医薬の効果を相乗させ且つ増強させる添加物を提供する組成物の使用である。アーユルベーダには、広範な疾患に対して使用される多くの製剤の本質的な成分として使用されるいくつかの天然物がある。それらのうちで最も突出した'Trikatu'は、黒コショウ、長コショウ及び乾燥ショウガを含む。詳細且つ系統的な研究では、コショウの活性成分の一つ(即ちピペリン)がいくつかの薬剤及び栄養物の生物学的利用能、及び/又は生物学的有効性を増強させる能力を有することを示した。ピペリンを得る方法、及び低用量で活性薬剤の生物学的利用能/生物学的有効性を増強させる抗TB抗生物質を含むピペリン含有製剤は、従来の特許(IP 172684,; IP 172690,; IP 176433; US 5439891)に開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明の目的
発明の主な目的は、抗感染剤の生物学的有効性を増加させるための生物学的増強剤を含む経口医薬組成物を提供することであり、それについて、かかる抗感染剤の標準用量での治療効果を維持しながら、より低用量、及び/又はより少ない回数での投与が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の概要
本発明では、ピペリン及び他の生物学的増強剤が、バクテリア、ウィルス及び酵母を用いたin vitroにおいて、並びにマウス及びモルモットの感染モデルを用いたin vivoにおいて、多様な抗感染剤と組合される時に増強剤として使用される場合の、1つの組合せについて取り扱う。本発明は従来技術の焦点とされる問題点を克服し、又は回避することを目的とする。本発明の製品の使用は、低用量療法を提供し、標準化された単独投与の治療効果に匹敵する増強した治療効果を生み出す。
【0010】
従って、本発明は、微生物により引き起こされる感染に対し、減量した抗感染剤の増強した治療効果のために有用である組成物を提供し、当該組成物は、抗感染剤、並びに式1のピペリン、及び式2の3',5-ジヒドロキシフラボン7-O-β-D-ガラクツロニド(galacturonide)-4'-O-β-D-グルコピラノシド、又はそれらの混合物から選定される生物学的増強剤との混合物を含んで成る。
【化1】

【0011】
本発明の1つの態様では、抗感染剤は半合成を含むペニシリン系、セファロスポリン系、アミノグリコシド系、糖ペプチド系、フルオロキノロン系(fluroquinolones)、マクロライド系、テトラサイクリン系、一次及び二次抗TB薬剤、抗ハンセン病薬剤、オキサゾリジノン系(oxazolidelones)、抗真菌剤、抗ウィルス剤、及びピリミジン誘導体類−スルホンアミド類の組合せから成る群から選定される。
【0012】
本発明の更なる態様では、当該抗真菌剤は、ポリエン系、イミダゾール系、及びトリアゾール系から成る群から選定される。
【0013】
また本発明の他の態様では、抗ウィルス剤は、ジドブジン、イドウリジン(idouridine)、アシクロビル、及びリバビリン(ribavarine)から成る群から選定される。
【0014】
本発明の他の態様では、3',5-ジヒドロキシフラボン7-O-β-D-ガラクツロニド(galacturonide)-4'-O-β-D-グルコピラノシドは純粋な形態で使用され、又はクミン(Cuminum cyminum)由来の3',5-ジヒドロキシフラボン7-O-β-D-ガラクツロニド(galacturonide)-4'-O-β-D-グルコピラノシドのHPLCフィンガープリントフラクション、又はサブフラクションの形態で使用される。
【0015】
本発明の他の態様では、抗感染剤の濃度は、かかる抗感染剤を生物学的増強剤なしで使用する場合の1/2から1/8である。
【0016】
本発明の他の態様では、組成物は1つ以上の医薬的に許容され得る添加剤と賦形剤を含む。
【0017】
本発明の他の態様では、添加剤/賦形剤は、タンパク質類、炭水化物類、糖、タルク、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、炭酸カルシウム、スターチゼラチンペースト、及び/又は医薬的に許容され得る担体、希釈剤類及び溶媒類を含む栄養物から成る群から選定される。
【0018】
本発明の他の態様では、組成物は経口投与形態にある。
【0019】
本発明の更なる態様では、生物学的増強剤に対する抗感染剤の比率は、1:1から1:5の範囲にある。
【0020】
本発明の他の態様では、添加剤は前記組成物の抗感染剤特性に影響を及ぼさない。
【0021】
本発明は、抗感染剤、並びに式1のピペリン、及び式2の3',5-ジヒドロキシフラボン7-O-β-D-ガラクツロニド(galacturonide)-4'-O-β-D-グルコピラノシド又はそれらの混合物から選定される生物学的増強剤の混合物を含んで成る微生物により引き起こされる感染に対し、減量した抗感染剤の増強した治療効果のために有用である組成物の調製方法も提供し、当該方法は物理的混合技術を含んで成る。
【化2】

【0022】
本発明の1つの態様では、物理的混合技術は透析、分子ふるい、及び膜から選定される。
【0023】
本発明の他の態様では、生物学的増強剤の調製方法は、水、アルコール、水とアルコールの組合せ、炭化水素類、ケトン類及びエーテル類の使用を含む。
【0024】
本発明の1つの態様では、抗感染剤は半合成を含むペニシリン系、セファロスポリン系、アミノグリコシド系、糖ペプチド系、フルオロキノロン系(fluroquinolones)、マクロライド系、テトラサイクリン系、一次及び二次抗TB薬剤、抗らい病菌薬剤、オキサゾリジノン系(oxazolidelones)、抗真菌剤、抗ウィルス剤及びピリミジン誘導体類-スルホンアミド類の組合せから成る群から選定される。
【0025】
本発明の更なる態様では、抗真菌剤は、ポリエン系、イミダゾール系及びトリアゾール系から成る群から選定される。
【0026】
更に本発明の他の態様では、抗ウィルス剤はジドブジン、イドウリジン(idouridine)、アシクロビル、及びリバビリン(ribavarine)から成る群から選定される。
【0027】
本発明の他の態様では、3',5-ジヒドロキシフラボン7-O-β-D-ガラクツロニド(galacturonide)-4'-O-β-D-グルコピラノシドは純粋な形態で使用され、又はクミン(Cuminum cyminum)由来の3',5-ジヒドロキシフラボン7-O-β-D-ガラクツロニド(galacturonide)-4'-O-β-D-グルコピラノシドのHPLCフィンガープリントフラクション、又はサブフラクションの形態で使用される。
【0028】
本発明の他の態様では、抗感染剤の濃度は、かかる抗感染剤が生物学的増強剤なしで使用される場合の1/2から1/8である。
【0029】
本発明の他の態様では、組成物は1つ以上の医薬的に許容され得る添加剤と賦形剤を含む。
【0030】
本発明の他の態様では、添加剤/賦形剤は、タンパク質類、炭水化物類、糖、タルク、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、炭酸カルシウム、スターチゼラチンペースト、及び/又は医薬的に許容され得る担体、希釈剤類、及び溶媒類を含む栄養物から成る群から選定される。
【0031】
本発明の他の態様では、組合せは経口投与形態にある。
【0032】
本発明の更なる態様では、生物学的増強剤に対する抗感染剤の比率は、1:1から1:5の範囲にある。
【0033】
本発明の更なる他の態様では、添加剤は前記組成物の抗感染剤特性に影響を及ぼさない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
発明の詳細な説明
生物学的有効性/生物学的利用能
当該発明者等の研究室で行われた研究では、’生物学的増強剤’の概念化をもたらした。かかる薬剤自体に治療実体はないが、活性薬剤と組合せた場合、当該活性薬剤の薬理学的効果の増強作用を導く。多くの薬剤のかかる製剤は、当該製剤中に存在する薬剤の量を減少させた場合でさえ、生物学的利用能/生物学的有効性が増加することが見出された。かかる薬剤の分類のために得られたエビデンスは、(a)生物学的利用能及び/又は有効性が低く、(b)延長した治療を要求し、並びに(c)高い毒性及び高価である、ということである。例えば、特許番号IP172690、IP176433及びUS5744161はかかる技術を開示する。本発明者等の研究室で実施された更なる研究では、かかる生物学的増強剤が多種多様な治療薬の生物学的利用能を増加させ得るだけではなく、後述する一連の(a)から(g)の多様なメカニズムを通して生物学的有効性を増強させることを更に可能にすることを示した。結果として、治療レベルを達成し損なう薬剤の細胞内濃度を減少させることに関与する要因についての新しい理解が浮上した。当該戦略では、標準化された高用量と比較して、活性薬剤のより低い濃度でさえ、生物学的利用能及び/又は生物学的有効性を増強させることを可能にする。それらの要因のいくつかは以下である:
【0035】
(a)病原体が存続生物(persistors)になった場合でさえ、病原体への活性薬剤の浸透又は侵入を増加させ、更に病原体及び薬剤を拒絶する異常組織の能力を阻害する。これは最終的に他の活性薬剤に近づき難い病原性微生物の殺傷を増強させることを確実にするであろう。
【0036】
(b)化学療法剤耐性は、薬剤治療における主要な問題である。新規の臨床現象に内在するメカニズム、及び後天的な薬剤耐性は、細胞殺傷経路における任意のステップでの変更から発生し得る。これらは薬剤輸送、薬剤代謝、薬剤標的、細胞修復メカニズム、有害な毒素又は病原体を認識する細胞の能力を含む。減少した細胞内薬剤蓄積の通常のメカニズムは、P-糖タンパク質の発現の増加であり、膜トランスポーターはそれらの細胞から薬剤を効果的に除去する。その他の制限要因は、シトクロムP450依存性タンパク質の高い活性である。それらのタンパク質P-gp及びCYP450は、共に大部分の薬剤の経口生物学的利用能を制御することを示した。P-gpは、腫瘍中、及び薬剤治療後におけるその発現のレベルにより引き起こされるMDRに関連すると考えられている。
【0037】
(c)シグナルの変更は、病原体への薬剤の接近性を増加させることを確実にするためになされる。重要なエビデンスは、カルシウムシグナルが、P-gpに依存しない経路により流出される、いくつかの薬剤の治療作用において主要な役割を果たすことを示唆するために蓄積されている(Vilpo等,Haematologica 2000:85:806-813)。cAMPはシグナル経路を仲介する一方、膜流動性中の変化に関与する(Friedlander G等、Biochimica et Biophysica Acta 1990; 1022: 1-7)。
【0038】
(d)NO生産を経た免疫学的干渉、CMI及び/又は体液性免疫増強作用は、好適にはTh1/Th2バランスに影響する。
【0039】
(e)特異的感作受容体は、タンパク質類、DNA、RNA等に類似し、病原体及び疾患に対し増強した抗生物質活性を導く効果を強め、且つ延長させる。これらのメカニズムのいくつかに関する限りでは、十分な量の実験的エビデンスが得られた。例えば、ピペリンは細胞膜のリン脂質中に深く挿入していることが示され(Ray等,Ind.J Biochem.Biophys 1999;36:248-251)、膜流動性を調節することは、膜に結合した輸送タンパク質の活性を変化させ得る。全般的な浸透性の変化は、(i)特異的イオン輸送チャネルに影響することができ、そして(ii)細胞間隔経路に沿った親油性溶質のバルク運動も導き得る。かかる膜変化はいくつかのポリエン抗生物質(Milhaud J等,Biochimica et Biophysica Acta,1988;943:315-325)の作用の中でも明らかにされた。しかしながら、膜流動性の中でピペリンにより引き起こされる変化は、既に述べた通り寿命が短く、完全に可逆的であるが、いずれのものよりも選択的である。重篤な副作用及び毒性がないならば、抗TB薬剤の減量製剤での第II相及び第III 相臨床試験でそれらが明確にされるべきである。ここでのピペリンは、ピペリンなしで標準化された用量の抗TB薬剤に対して、6ヶ月間、1日10mg投与された。ピペリンを含む黒コショウは、実質的に全世界での食品の一部である。コショウの首都当りの平均消費量は、本発明のピペリンの製剤中で使用される量よりも多くのピペリン含有量を計上するであろう。
【0040】
(f)薬剤の作用メカニズムを増強させることにより、低用量でのそれらの有効性が増加し、例えばRNAポリメラーゼの転写阻害は、標準用量の半分未満でのリファンピシンの効果への増強を導く。
【0041】
(g)薬剤の吸収を増加させ、及び/又は生体内変化を阻害することにより、薬剤の生物学的利用能を増加させる。
【0042】
本発明の製品は、相乗効果及び/又は相加効果を通して作用している医薬構成要素に基づく新規メカニズムであるので、上記のような1つ以上のメカニズムの結果として、抗感染剤への標的細胞の感受性を増加させる当該製剤を含有した薬剤はより生物学的有効性がある。
【0043】
生物学的増強剤を含む製剤の説明。
本発明における'薬剤'とは、生物の病態生理学に影響を与えることができ、そして病気の治療又は予防のために使用される化学的構成要素を言う。薬剤は化合物の多くの分類を含むが、アミノグリコシド、ペニシリン系、セファロスポリン系及び他のβ-ラクタム剤、マクロライド系、糖ペプチド系、フルオロキノロン系、テトラサイクリン系、一次及び二次抗TB薬剤、抗らい病菌、抗ウィルス、ポリエン、トリアゾール、及びイミダゾール系、並びにピリミジン系、スルファメトキサゾールの組合せ等に限定されない。薬剤は、帯電性、非帯電性、親水性、疎水性、又は両イオン性物質から成る、プロドラッグ、活性体又は代謝体であってよく、単純拡散、輸送を仲介する担体(イオン及び/又は電位差によりチャネルを開閉させ、エネルギー要求に依存し、又は依存しない)により薬剤を侵入させる。
【0044】
'生物学的増強剤'とは、ピペリン(式1)又はフラクション及び/又は化学的構成要素として抽出物を特徴づけるような他の分子を言う。98%を上回る純度で、化学的に特徴づけられた形態としてピペリンを得る方法は、IP 172689、IP 172690、IP 176433、US 5439891及び同時係属の米国特許出願No60/306917/2001に開示された。クミン(Cuminum cyminum)由来の特徴化されたフラクション(同封されたHPLCプロファイル)、及び化学的に特徴づけられた純粋な分子(図2)の調製方法は、同時係属の特許出願No.NF 515/2001中に開示された。薬剤に対するそれらの2つの生物学的増強剤の比率は、フラクションが1から50%、及び純粋な分子が0.1から30%の間で変化することができ、抗感染剤のMIC値における所望される減少を得る。薬剤と生物学的増強剤の比率、及び/又は混合物中の生物学的増強剤は、薬剤単独よりも少ない製剤のMICにより測定される治療効果の増強を生み出すために十分な量により決定される。医薬担体は、一般的に優れた混合を達成するための成分を作製するために付加される不活性バルク剤であり、固体又は液体であり得る。本発明の方法において使用される標準医薬組成物の不活性部分は、本発明の一部でもある。
【0045】
試験デザイン
チェッカー盤法(The checkerboard method):
これはin vitroにおいて抗菌剤組合せを入手するために最も頻繁に使用される方法である。用語"チェッカー盤"とは検査される2つの薬剤を複数回希釈することにより、形成されるパターン(チューブ又はマイクロタイタープレートウェルのパターン)を言う(Eliopoulos GM、Moellering RC.Antimicrobila Combinations.In:Antibiotics in Laboratory Medicine:USA:Williams & Wilkins)。本研究におけるチェッカー盤はカラムから成り、カラム中の個々のチューブ(又はウェル)は、x軸と列に沿って希釈された同量の標準化薬剤(抗バクテリア/抗真菌/抗TB/抗ウィルス)を含み、ここで個々のチューブ(又はウェル)は、y軸上で希釈された同量の生物学的増強剤を含む(図3)。結果として、チェッカー盤(1つのチューブ/ウェル又はプレートを表す)中の個々の正方形は、標準化薬剤と生物学的増強剤の特有な組合せを含んだ。本発明の研究において、標準化薬剤の濃度の範囲は64μg/mlから0.03μg/mlである一方、生物学的増強剤は500μg/mlから0.2μg/mlの範囲で検査された。このチェッカー盤技術は液体又は半液体(寒天)培地により実施することができる。
【0046】
寒天法:
本方法において、寒天(Mueller Hinton agar、Middlebrook 7H10 agar)をオートクレーブし、そして50℃から55℃に冷却した。標準化薬剤と生物学的増強剤の組合せを寒天に付加した。個々の標準化薬剤と生物学的増強剤の2倍希釈剤を順次適当な溶媒中で調製した。寒天と薬剤の両方の所望される濃度を維持するために、並びに溶媒の影響を除外するために、寒天へ付加される溶媒の容積(標準化薬剤又は生物学的増強剤を含む)を小さく保った(即ち全容積の≦5%)。寒天プレートに注いだ後、乾燥させ、標準化イオンカラム(およそ104cfuスポット)を与えるためにデザインされた複製装置により、検査するバクテリアを寒天表面へ適用した。当該プレートを37℃で24時間(ヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の場合、3週間)培養した。
【0047】
培養液法:
上記の通りチェッカー盤は、マイクロタイタープレートフォーマット上の液体培地によっても実施した。本方法は抗バクテリア/抗真菌/抗ウィルス薬剤の生物学的増強剤との組合せを試験するために使用した。
【0048】
生物学的増強剤の阻害効果:
全ての生物学的増強剤は、500μg/mlから0.2μg/mlの濃度範囲であれば、それらの独自の阻害効果を上昇させた(表1、2及び3)。
【表1】

【表2】

【表3】

【0049】
実施例:
以下の実施例は、いくつかの好適な態様を説明することを意図したものであるが、決して本発明の範囲を制限するように解釈されるものではない。当業者は本発明の部分として解釈され得る更なる製剤をデザインすることができる。
【実施例1】
【0050】
無色、非-刺激性、純度99%のピペリンの調製
本明細書中に参考文献により組み入れた、インド特許1726891及び172690、並びに米国特許5439891及び米国出願No.60/306917/2001において特許が請求された方法により行われた。
【実施例2】
【0051】
ピペリンとクミン(Cuminum cyminum)フラクションによる組合せを使用する場合のヒト型結核菌(M.tuberculosis)、トリ型結核菌(M.avium)及びM.intracellureに対するリファンピシンのMICにおける減少。
【0052】
リファンピシン単独、及びピペリンとの組合せにおける最小阻害濃度(MIC)は、当該試験デザインにおいて記載された方法を用いて、マイコバクテリウム属に対して実施した。
【0053】
リファンピシンのMICにおける1/2への減少が、ピペリン及びクミン(Cuminum cyminum)のフラクションとの組合せの中に観察された(表4-a、4-b)。
【実施例3】
【0054】
マウスの全身性感染モデルにおける、ピペリン及びクミン(Cuminum cyminum)のフラクションとの組合せを用いた場合のリファピシン要求用量の減少。
【0055】
当該試験では、in vivoでのピペリンとの組合せにおけるリファンピシンの応答を示す。スイスアルビノマウスを、ヒト型結核菌(M.tuberculosis)H37Rv(106 CFU/マウス)により静脈内に感染させた。当該感染させたマウスを、6匹のマウスから成る群に分けた。
【0056】
処置は感染から24時間後に開始し、そして4週間、1日1回、週5日の投与スケジュールで継続した。当該マウスを4週間後に処理し、肺及び脾臓由来のCFUを数えた。20mg/kgでのリファンピシン単独投与は、log10のCFUにおいて、約2-logの減少をもたらすことができた。同じ効果は、20mg/kgのピペリンとの組合せを与えた場合、lOmg/kgのリファンピシンで観察された。一方、クミン(Cuminum cyminum)のフラクションは、log10 CFUにおけるリファンピシンの5mg/kg投与と同一の減少をもたらしたように、より効果的であった(図4-a、4-b)。
【表4】

【表5】

【実施例4】
【0057】
ピペリンとの組合せにおいて使用する場合の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、MRSA及びStaphylococcus hemolyticusに対するシプロフロキサシンのMICsにおける減少。
【0058】
シプロフロキサシン単独、及びピペリンとの組合せにおける最小阻害濃度(MIC)は、試験デザイン中に記載された方法を用いて、バクテリア属に対して実施された。シプロフロキサシンのMICにおける1/2から1/8を上回る減少は、ピペリンとの組合せにおいて観察された(表5)。
【表6】

【実施例5】
【0059】
ピペリンとの組合せにおいて使用される場合のカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、Candida parapsilosis及びCandida glabrataに対するフルコナゾールのMICsにおける減少。
【0060】
フルコナゾール単独、及びピペリンとの組合せにおける最小阻害濃度(MIC)は、試験デザイン中に記載された方法を用いて、真菌属に対して実施された。フルコナゾールのMICにおける1/2から1/8への減少は、ピペリンとの組合せ中で観察された(表6)。
【表7】

【実施例6】
【0061】
本発明の目的のため実施例と同じ薬剤のリストを、添付の表7に引用した。
【0062】
参考文献
1.Gutman LT. The use of TMP-SMX in children: a review of adverse reactions and indications. Pediatr Infect Dis 1984;3:349-57.
2.Bushby SRM. Synergy of trimethoprim and sulfonamides:History and current status. In:Antibiotics and Antibiosis in Agriculture, London: Butterworths.1977;64-81.
3.Olin BR, ed. Drug Facts and Comparisons. St. Louis, Facts and Comparisons, Inc.;1998:408b-409d.
4.Cockerill FR, Edson RS.TMP-SMX. Mayo Clin Proc 1991;66:1260-9.
【0063】
【表8】

【表9】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、チェッカー盤(checker board)法による本発明の抗菌剤組成物である。
【0065】
【図2】図2は、in vivoでのマウス感染モデルにおけるリファンピシン単独、及びピペリンとの組合せの影響を示すグラフである。
【0066】
【図3】図3は、in vivoでのマウス感染モデルにおけるリファンピシン単独、及び式2の3',5-ジヒドロキシフラボン7-0-β-D-ガラクルロニド(galacturonide)-4'-0-β-D-グルコピラノシドの組合せの影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物により引き起こされる感染に対し、減量した抗感染剤の増強した治療効果のために有用である組成物であって、抗感染剤、並びに式1のピペリン、及び式2の3',5-ジヒドロキシフラボン7-O-β-D-ガラクツロニド(galacturonide)-4'-O-β-D-グルコピラノシド、又はそれらの混合物から選定される生物学的増強剤との混合物を含んで成る組成物。
【化1】

【請求項2】
前記抗感染剤が、半合成を含むペニシリン系、セファロスポリン系、アミノグリコシド系、糖ペプチド系、フルオロキノロン系(fluroquinolones)、マクロライド系、テトラサイクリン系、一次及び二次抗TB薬剤、抗ハンセン病薬剤、オキサゾリジノン系(oxazolidelones)、抗真菌剤、抗ウィルス剤、及びピリミジン誘導体類−スルホンアミド類の組合せから成る群から選定される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記抗真菌剤が、ポリエン系、イミダゾール系、及びトリアゾール系から成る群から選定される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記抗ウィルス剤が、ジドブジン、イドウリジン(idouridine)、アシクロビル、及びリバビリン(ribavarine)から成る群から選定される、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記3',5-ジヒドロキシフラボン7-O-β-D-ガラクツロニド(galacturonide)-4'-O-β-D-グルコピラノシドが純粋な形態で使用され、又はクミン(Cuminum cyminum)由来の3',5-ジヒドロキシフラボン7-O-β-D-ガラクツロニド(galacturonide)-4'-O-β-D-グルコピラノシドのHPLCフィンガープリントフラクション、又はサブフラクションの形態で使用される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記抗感染剤の濃度が、かかる抗感染剤が生物学的増強剤なしで使用される場合の1/2から1/8である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が1つ以上の医薬的に許容され得る添加剤と賦形剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記添加剤/賦形剤が、タンパク質類、炭水化物類、糖、タルク、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、炭酸カルシウム、スターチゼラチンペースト、及び/又は医薬的に許容され得る担体類、希釈剤類及び溶媒類を含む栄養物から成る群から選定される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が経口投与形態にある、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記生物学的増強剤に対する抗感染剤の比率が、1:1から1:5の範囲にある、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記添加剤が前記組成物の抗感染剤特性に影響を及ぼさない、請求項7に記載の組成物。
【請求項12】
抗感染剤、並びに式1のピペリン、及び式2の3',5-ジヒドロキシフラボン7-O-β-D-ガラクツロニド(galacturonide)-4'-O-β-D-グルコピラノシド又はそれらの混合物から選定される生物学的増強剤の混合物を含んで成る微生物により引き起こされる感染に対し、減量した抗感染剤の増強した治療効果のために有用である組成物の調製方法であって、物理的混合技術を含んで成る方法。
【化2】

【請求項13】
前記物理的混合技術が、透析、分子ふるい、及び膜から選定される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記生物学的増強剤の調製方法が、水、アルコール、水とアルコールの組合せ、炭化水素類、ケトン類及びエーテル類の使用を含んで成る、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記抗感染剤が、半合成を含むペニシリン系、セファロスポリン系、アミノグリコシド系、糖ペプチド系、フルオロキノロン系(fluroquinolones)、マクロライド系、テトラサイクリン系、一次及び二次抗TB薬剤、抗らい病菌薬剤、オキサゾリジノン系(oxazolidelones)、抗真菌剤、抗ウィルス剤及びピリミジン誘導体類-スルホンアミド類の組合せから成る群から選定される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記抗真菌剤が、ポリエン系、イミダゾール系及びトリアゾール系から成る群から選定される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記抗ウィルス剤が、ジドブジン、イドウリジン(idouridine)、アシクロビル、及びリバビリン(ribavarine)から成る群から選定される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記3',5-ジヒドロキシフラボン7-O-β-D-ガラクツロニド(galacturonide)-4'-O-β-D-グルコピラノシドが、純粋な形態で使用され、又はクミン(Cuminum cyminum)由来の3',5-ジヒドロキシフラボン7-O-β-D-ガラクツロニド(galacturonide)-4'-O-β-D-グルコピラノシドのHPLCフィンガープリントフラクション、又はサブフラクションの形態で使用される、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記抗感染剤の濃度が、かかる抗感染剤を生物学的増強剤なしで使用する場合の1/2から1/8である、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物が、1つ以上の医薬的に許容され得る添加剤と賦形剤を含んで成る、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記添加剤/賦形剤が、タンパク質類、炭水化物類、糖、タルク、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、炭酸カルシウム、スターチゼラチンペースト、及び/又は医薬的に許容され得る担体類、希釈剤類、及び溶媒類を含む栄養物から成る群から選定される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記組合せが、経口投与形態にある、請求項12に記載の方法。
【請求項23】
前記生物学的増強剤に対する抗感染剤の比率が、1:1から1:5の範囲にある、請求項12に記載の方法。
【請求項24】
前記添加剤が、前記組成物の抗感染剤特性に影響を及ぼさない、請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−514972(P2006−514972A)
【公表日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−570079(P2004−570079)
【出願日】平成15年3月31日(2003.3.31)
【国際出願番号】PCT/IN2003/000110
【国際公開番号】WO2004/087154
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(595059872)カウンシル オブ サイエンティフィク アンド インダストリアル リサーチ (81)
【Fターム(参考)】