説明

指向性アンテナおよびアンテナシステム

【課題】メッセンジャワイヤ等の水平に延在する部材に好適に指向性アンテナを取り付けるための技術を提供する。
【解決手段】指向性アンテナ10Bは、支持部材11と、支持部材11の表面に形成され、かつ所定方向に沿って配置された複数のエレメントを含むアンテナ本体部12とを備える。支持部材11の内表面はメッセンジャワイヤ5に接している。すなわち、支持部材11はメッセンジャワイヤ5の少なくとも2箇所に接することによってメッセンジャワイヤ5に取り付け可能に構成される。アンテナ本体部12は、複数のエレメントにより構成される指向性アンテナである。金具6によって通信ケーブル4がメッセンジャワイヤ5に支持されているが、支持部材11(筒状体)の内径は、メッセンジャワイヤ5および通信ケーブル4をともに支持部材11に通すことができる大きさとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指向性アンテナおよびそれを備えるアンテナシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車向け無線通信が注目を集めている。自動車向け無線通信には、たとえば移動する車と道路脇に設置した無線機との間で通信を行なう路車間通信等がある。このような無線通信サービスでは、道路上の空間(以下では単に「道路」と呼ぶ)がサービスエリアとなる。
【0003】
道路を無線通信のサービスエリアとする方法として、たとえば道路脇に設けられた電柱あるいは電柱間に張架されたメッセンジャワイヤに無線機を取り付ける方法が考えられる。メッセンジャワイヤとは、通信ケーブルや有線放送、CATVのケーブル等を架空敷設するために、それらのケーブルを支持するワイヤである。
【0004】
たとえば特開2002−50921号公報(特許文献1)は、メッセンジャワイヤに吊り下げられた無線機、および、その無線機の筐体に内蔵されるアンテナを開示する。この無線機は、1:N型無線システム、すなわち1台の親機が複数(N台)の子機の各々と通信を行なうシステムに用いられる親機である。この無線機の筐体には2本の中央給電アンテナ(ダイポールアンテナ)が内蔵される。上記文献においては、2本の中央給電アンテナによってダイバーシティアンテナが構成されることにより、水平面上において無指向性が得られることが開示されている。
【特許文献1】特開2002−50921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
道路のように細長い形状のエリアをカバーする無線システムを構築する場合、電波を効率よくサービスエリアに集中させるためには、たとえばメッセンジャワイヤに特定の方向に指向性を有するアンテナを設置することが好ましい。しかし、上述の特開2002−50921号公報には、無指向性のアンテナしか開示されていない。
【0006】
本発明の目的は、メッセンジャワイヤ等の水平に延在する部材に好適に指向性アンテナを取り付けるための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は要約すれば、指向性アンテナであって、水平方向に延在する水平部材の少なくとも2箇所に取り付け可能に構成された支持部材と、支持部材の表面に形成され、かつ所定方向に配置された複数のエレメントを含むアンテナ本体部とを備える。
【0008】
好ましくは、支持部材は、中空に形成され、かつ両端部が開口した筒状の部材である。
好ましくは、アンテナ本体部は、アレイアンテナである。
【0009】
好ましくは、複数のエレメントは、電波を放射するための放射器と、放射器からの電波を所定の方向に導くための導波器と、放射器に対して導波器と反対側に設けられ、放射器からの電波を反射するための反射器とを含む。
【0010】
本発明の他の局面に従うと、アンテナシステムであって、上述の第3番目の指向性アンテナと、支持部材が水平部材に取り付けられた状態において、アレイアンテナの水平方向の位置および鉛直方向の位置の少なくとも一方が、本来の設置位置からずれていることを検出する変位検出装置と、変位検出装置の検出結果に基づいて、複数のエレメントの各々への給電位相を制御する制御装置とを備える。制御装置は、アレイアンテナの指向性が、アレイアンテナが本来の設置位置に設置された状態での指向性となるように、アレイアンテナの指向性を補正する。
【0011】
好ましくは、変位検出装置は、アレイアンテナの鉛直方向に対する傾きを検出するセンサを含む。
【0012】
好ましくは、アレイアンテナは、電波を放射する一方で、所定の位置に設けられた反射体により反射された電波を受信する。変位検出装置は、アレイアンテナが受信した反射波の電界強度に基づいて、アレイアンテナの変位を検出する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、メッセンジャワイヤ等の水平に延在する部材に取り付け可能であり、かつ所望の方向の指向性を得ることが可能なアンテナを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0015】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1に係る指向性アンテナが取り付けられる電柱設備を示した模式図である。図1を参照して、電柱1には、電線2および柱上変圧器3等が取り付けられるとともに、通信ケーブル4が取り付けられる。通信ケーブル4は、たとえば電話線、光ケーブルなどである。メッセンジャワイヤ5は通信ケーブル4を吊り下げて支持するためのものである。
【0016】
図2は、図1に示したメッセンジャワイヤ5およびその周辺部分の拡大図である。図2を参照して、通信ケーブル4は、金具6によって、メッセンジャワイヤ5に吊り下げられた状態で保持される。
【0017】
実施の形態1に係る指向性アンテナは、メッセンジャワイヤ5に取り付けられる。一般的に、電柱間のメッセンジャワイヤは道路脇に存在するので、実施の形態1に係る指向性アンテナをメッセンジャワイヤ5に取り付けることによって、道路を無線通信のサービスエリアとすることができる。
【0018】
図3は、実施の形態1に係る指向性アンテナにより形成される、無線通信のサービスエリアの一例を示した図である。図3を参照して、道路8の脇に電柱1が設置され、図示しないメッセンジャワイヤが電柱間に張り渡される。なお、電柱1の配置および電柱間の間隔は特に限定されるものではなく、また、メッセンジャワイヤの延在方向も特に限定されない。
【0019】
斜線の領域は、無線通信のサービスエリアを示す。サービスエリアは、道路8に沿って形成される。たとえば、実施の形態1に係る指向性アンテナを、その指向性の方向が道路に沿った方向となるようにメッセンジャワイヤに取り付けることによって、無線通信のサービスエリアを道路に沿って形成することが可能になる。
【0020】
また、実施の形態1によれば、無指向性アンテナをメッセンジャワイヤに設置する場合に比較して、指向性アンテナの設置台数を少なくすることも可能になる。
【0021】
ここで、メッセンジャワイヤに指向性アンテナを設置する場合、少なくとも次の2点を考慮する必要があると考えられる。その1つは、架空敷設された(メッセンジャワイヤにより支持された)通信ケーブル等の間隔が、たとえば30cm程度と比較的短いため、他のメッセンジャワイヤとの干渉を回避可能なようにアンテナを構成することである。もう1つは、風などの影響を受けてアンテナが水平方向(あるいは上下方向)に振動したり回転したりすることによりその指向性の方向が物理的に変動する可能性があるが、このような指向性の物理的変動を抑制することである。
【0022】
図4は、メッセンジャワイヤに指向性アンテナを取り付ける場合に考慮すべき第1の点を説明する図である。図4に示すように、メッセンジャワイヤ5A,5Bが、決まった上下方向の間隔(たとえば30cm)で張り渡され、アンテナ20A,20Bがメッセンジャワイヤ5Aに取り付けられているものとする。
【0023】
アンテナ20Aの上下方向の大きさは、メッセンジャワイヤ5A,5Bの間隔より小さい。したがって、アンテナ20Aとメッセンジャワイヤ5Bとの干渉が回避される。これに対し、アンテナ20Bの上下方向の大きさは、メッセンジャワイヤ5A,5B間の間隔より大きい。したがってアンテナ20Bがメッセンジャワイヤ5Bと干渉する。すなわち、図4は、メッセンジャワイヤにアンテナを取り付けるためには、メッセンジャワイヤに設置された状態でのアンテナの上下方向の寸法が短いほど好ましいことを示している。
【0024】
図5は、メッセンジャワイヤに指向性アンテナを取り付ける場合に考慮すべき第2の点を説明する図である。図5を参照して、アンテナ20Aはメッセンジャワイヤ5上の点Pで支持されるように取り付けられている。図5に示すように、メッセンジャワイヤ5の延在方向(長軸方向)に沿った軸をX軸とし、鉛直方向の軸をZ軸とし、X軸およびZ軸の両方に垂直な軸をY軸とする。なお、アンテナ20Aの上下方向のサイズについては、上記の要請を満たすものとする。
【0025】
メッセンジャワイヤ5にアンテナ20Aを取り付ける場合、取り付け位置の自由度は高くなる。しかしながら、たとえば風が吹いた場合には、アンテナ20Aは、X軸方向に振動したり、Y軸方向に振動したりすることが考えられる。さらに、アンテナ20Aが紐によってメッセンジャワイヤから吊り下げられている場合には、その紐のねじれ等により、アンテナ20AがZ軸を中心に回転(振動)することも起こりうる。このような場合には、アンテナ20Aの位置が本来の設置位置から変動するので、アンテナ20Aからの電波(ビーム)の放射方向も変化する。すなわち、図5に示したように指向性が様々な方向に変動する。この場合、通信の安定性を維持させることが困難になると予想される。
【0026】
本実施の形態のアンテナは、このような課題を解決可能にするものである。以下、本実施の形態のアンテナについて説明する。
【0027】
図6は、実施の形態1に従う指向性アンテナの第1の構成例を示した図である。図6(A)は、実施の形態1に従う指向性アンテナをメッセンジャワイヤに取り付けた状態を示す図である。図6(A)に示すように、指向性アンテナ10Aは、支持部材11と、支持部材11の表面に形成されるアンテナ本体部12とを含む。
【0028】
本実施の形態では、支持部材11は中空に形成され、アンテナ本体部12は、支持部材11の内表面に形成されている。ただし、アンテナ本体部12は、支持部材11の外表面に形成されていてもよい。
【0029】
支持部材11は、メッセンジャワイヤ5の2箇所に接する取付部材15を含む。取付部材15をメッセンジャワイヤ5に取り付けることによって、支持部材11はメッセンジャワイヤ5に取り付けられる。
【0030】
図6(B)は、取付部材15により指向性アンテナ10Aの指向性の変動が抑制されることを説明する図である。図6(B)に示すように、メッセンジャワイヤ5の2箇所に取付部材15が取り付けられているため、Y軸の周りおよびZ軸の周りに指向性アンテナ10Aの指向性が振動(回転)することが抑制される。したがって、仮に指向性が変動するとしても、その変動を、X軸を中心とする振動(回転)に限定することができる。
【0031】
図7は、実施の形態1に従う指向性アンテナの第2の構成例を示した図である。図7を参照して、指向性アンテナ10Bは、筒状に形成された支持部材11と、アンテナ本体部12とを含む。
【0032】
支持部材11は、その両端部が開口し、かつ中空に構成された筒状体である。したがって、図7に示すように支持部材11をメッセンジャワイヤ5に通すことができる。メッセンジャワイヤ5に支持部材11を通して支持部材11を吊り下げることで支持部材11はメッセンジャワイヤ5に設置される。
【0033】
金具6によって通信ケーブル4がメッセンジャワイヤ5に支持されているが、支持部材11(筒状体)の内径は、メッセンジャワイヤ5および通信ケーブル4をともに支持部材11に通すことができる大きさとなっている。また、支持部材11(筒状体)の外径は、メッセンジャワイヤ5の上下方向の間隔(たとえば30cm)よりも小さい。
【0034】
アンテナ本体部12は、支持部材11の表面に形成される。第1の構成例と同様に、アンテナ本体部12は、支持部材11の内表面に形成されているが、支持部材11の外表面に形成されていてもよい。
【0035】
図8は、支持部材11における、メッセンジャワイヤ5への取付部分の構成を示した図である。なお図8は支持部材11の延在方向(長軸方向)に沿って支持部材11を見た状態を示している。
【0036】
図8を参照して、支持部材11は、凹凸が形成された重ね部11A,11Bを含む。図8(A)に示すように、メッセンジャワイヤ5に支持部材11を取り付ける際には、重ね部11A,11Bの凹凸を互いに重ね合わせる作業が行なわれる。これにより、中空の筒状体が形成される。図8(B)に示すように、重ね合わされた重ね部11A,11Bによって筒状体の内表面には、窪み部分が形成される。この窪み部分にメッセンジャワイヤ5を納めることによって、支持部材11をメッセンジャワイヤ5に吊り下げた状態で固定することが可能になる。
【0037】
図7および図8に示した構成においても、支持部材11の内表面はメッセンジャワイヤ5に接している。すなわち、支持部材11はメッセンジャワイヤ5の少なくとも2箇所に接することによってメッセンジャワイヤ5に取り付け可能に構成される。したがって、指向性アンテナ10Aと同様に、仮に指向性アンテナ10Bの指向性が変動するとしても、その変動を、メッセンジャワイヤの延在方向(X軸)を中心とする振動(回転)に限定することができる。
【0038】
なお、図6に示した取付部材15も、図8に示した構成と同様の構成を有する。つまり取付部材15は筒状体であって、その内部に、メッセンジャワイヤおよびこれに支持されるケーブルを通すことができるよう構成される。したがって、実施の形態1によれば、メッセンジャワイヤに指向性アンテナを取り付けた場合に、そのメッセンジャワイヤにより支持されるケーブルと、アンテナ本体部との干渉を防ぐことができる。
【0039】
さらに、実施の形態1によれば、指向性アンテナがメッセンジャワイヤに取り付けられた状態において、その指向性アンテナの上下方向の寸法(指向性アンテナ10Bの場合には、筒状体の外形)は、上下方向に隣り合うメッセンジャワイヤの間隔よりも小さい。これによって、指向性アンテナが、自身が取り付けられたメッセンジャワイヤ以外のメッセンジャワイヤ、ケーブル等と干渉するのを防ぐことができる。
【0040】
次に、アンテナ本体部12について説明する。以下に説明するように、アンテナ本体部12は、複数のエレメント(素子)を含む。これら複数のエレメントに給電することで、アンテナ本体部12は、指向性アンテナとして機能する。すなわち、複数のエレメントは、指向性アンテナとして動作可能に構成されている。
【0041】
図9は、アンテナ本体部12の第1の例を示した図である。図9を参照して、アンテナ本体部12は複数のエレメント13を含む。支持部材11を平面に展開すると、複数のエレメント13は、支持部材11の表面に二次元状に配置されている。具体的には、支持部材11を平面に展開した状態において、複数のエレメント13は、支持部材11の延在方向(支持部材11の長軸方向)、および、その延在方向に垂直な方向に配置される。複数のエレメント13(アンテナ本体部12)は、アレイアンテナを構成する。
【0042】
図10は、図9に示したアンテナ本体部12への給電を示した図である。図10を参照して、無線機14(給電装置)から複数のエレメント13の各々に電力が供給される。無線機14から複数のエレメント13の各々への給電位相を制御することによって、アンテナ本体部12すなわちアレイアンテナの利得方向(指向性)、およびアンテナ利得やサイドローブの形状(ビーム形状)を任意に制御することが可能になる。なお給電位相の制御方法は、公知の様々な方法を適用することができるので、特にここでは説明しない。
【0043】
図11は、アンテナ本体部12(アレイアンテナ)の指向性の一例を示した図である。図11を参照して、たとえば、支持部材11の延在方向(すなわちメッセンジャワイヤ5の延在方向)を水平面における0°方向および180°方向とする(図11(A)参照)。複数のエレメント13の各々の給電位相を制御することで、図11(A)に示すように、0°方向の指向性および180°方向の指向性を得たり、図11(B)に示すように0°方向のみの指向性を得たりすることができる。なお、180°方向の指向性のみを得ることも可能である。
【0044】
また、水平面において、支持部材11(メッセンジャワイヤ5)の延在方向に直交する方向を+90°方向および−90°方向とする。図11(C)に示すように、複数のエレメント13の各々の給電位相を制御することで、+90°方向の指向性、−90°方向の指向性および、+90°方向および−90°方向の指向性を得ることができる。
【0045】
また、複数のエレメント13の各々への給電位相を制御することにより、水平面上で任意の方向の指向性を得ることができる。さらに上下方向の指向性を制御することも可能である。具体的には、たとえば斜め下方向の指向性を得ることができる。ビーム形状についても同様である。
【0046】
図12は、0°方向の指向性を得るための構成例を示した図である。図12を参照して、無線機14からの電力は給電線路FD(たとえば同軸ケーブル)を介して複数のエレメント13の各々に供給される。図12に示した例においては、各エレメントへの給電位相は、たとえば無線機14から各エレメント13までの給電線路の長さを調整することによって制御される。
【0047】
なお、上述の例では、複数のエレメント13は二次元状に配置される。ただし、複数のエレメント13は二次元状に配置されるものと限定される必要はなく、一次元状に配置されてもよい。また、複数のエレメント13は必ずしも支持部材11の延在方向と同一の方向に沿って配置されるものと限定されず、たとえば支持部材11の延在方向に対して所定の角度傾いた方向に沿って、一次元状にあるいは二次元状に支持部材11の表面に配置されてもよい。すなわち、複数のエレメント13は、ある方向に沿って配置されているが、その配置方向や配置パターンは、指向性アンテナに求められる指向性の方向およびビーム形状に基づいて定められる。
【0048】
このようにアンテナ本体部の第1の例では、複数のエレメントによってアレイアンテナが構成される。これにより、アンテナ本体部12を指向性アンテナとすることができる。さらに、その指向性を任意の方向に制御することができる。
【0049】
図13は、アンテナ本体部12の第2の例を示した図である。図13を参照して、アンテナ本体部12は、八木アンテナであり、導波器13Aと、放射器13Bと、反射器13Cとを含む。これら導波器13A、放射器13Bおよび反射器13Cは、支持部材11の内表面に沿って円弧状に形成される。
【0050】
放射器13Bは、無線機14からの電力が供給されることで電波を放射する。導波器13Aは、放射器13Bから放射された電波を所定の方向に導く。反射器13Cは、放射器13Bに対して導波器13Aと反対側に設けられて、放射器13Bから放射された電波を導波器13A側に反射する。導波器13Aによって導かれた放射器13Bからの電波と、反射器13Cによって反射された放射器13Bからの電波とが重畳することで、図13に示すように、支持部材11の延在方向(図11と同様に、この方向を0°方向とする)に鋭い指向性を得ることができる。
【0051】
なお、第2の例においても、アンテナ本体部12を構成するエレメントの数は特に限定されるものではない。たとえば、八木アンテナでは、導波器の数を増やすことによって、その指向性が鋭くなるとともに利得が大きくなる。したがって、たとえば所望の指向性(あるいは所望の利得)に基づき導波器の数が決定される。
【0052】
このようにアンテナ本体部12の第2の例では、複数のエレメントによって、八木アンテナを構成する。これにより、アンテナ本体部12を指向性アンテナとすることができる。さらに、アンテナ本体部12を構成するエレメント(導波器13A、放射器13Bおよび反射器13C)を筒状体の内表面に沿って形成できるので、容易にアンテナ本体部12を形成できる。
【0053】
これら第1および第2の例に示すように、アンテナ本体部12は指向性アンテナとして構成される。したがって指向性アンテナ10Aあるいは10Bをメッセンジャワイヤに設置した状態において、所望の方向の指向性を得ることが可能になる。たとえば道路に沿った方向に指向性が得られるよう実施の形態1に従う指向性アンテナを設置することで、道路をサービスエリアとする無線サービスを実現できる。
【0054】
[実施の形態2]
実施の形態2では、実施の形態1に従う指向性アンテナの変位に伴う指向性の変動を制御するアンテナシステムを示す。
【0055】
実施の形態1に従う指向性アンテナでは、支持部材11がメッセンジャワイヤ5の少なくとも2箇所に取り付けられている。これにより、そのアンテナの指向性の物理的な変動が抑制される。ただし、メッセンジャワイヤを中心として指向性アンテナが振動(回転)する(これにより指向性が変動する)可能性も考えられる。
【0056】
実施の形態2に従うアンテナシステムは、指向性アンテナがメッセンジャワイヤに取り付けられた状態において、指向性アンテナ(アレイアンテナ)の水平方向の位置および鉛直方向の位置の少なくとも一方が、本来の設置位置からずれていることを検出する変位検出装置を備える。さらに、実施の形態2に従うアンテナシステムは、検出装置の検出結果に基づいて、アレイアンテナの指向性を制御する制御装置を備える。
【0057】
具体的には、アレイアンテナがメッセンジャワイヤを中心軸として振動(回転)していることが変位検出装置により検出された場合、制御装置はその振動方向と逆方向にアレイアンテナの指向性を制御する。これにより、アレイアンテナが振動していても、その指向性を、本来の設置位置(振動のない状態での位置)にアレイアンテナが設置された状態での指向性となるように制御することができる。したがって、アレイアンテナが振動していても所望の指向性を得ることが可能になる。
【0058】
図14は、実施の形態2に従うアンテナシステムの第1の構成例を示した図である。図14を参照して、アンテナシステム100は、指向性アンテナ10Aと、無線機14と、重力センサ16とを備える。重力センサ16は、アンテナ本体部12が設けられた支持部材11の内表面に設置される。
【0059】
指向性アンテナ10Aがメッセンジャワイヤ5を中心として振動した場合、アンテナ本体部12(アレイアンテナ)は鉛直方向に対して傾く。重力センサ16は、アンテナ本体部12(アレイアンテナ)が鉛直方向に対して傾いている場合、その傾きの方向および大きさを検出して、その検出結果を位相制御装置18に出力する。
【0060】
位相制御装置18は、アンテナ本体部12が備える複数のエレメント13の各々に無線機14からの電力が供給される際に、重力センサ16の検出結果に基づいて、各エレメント13に供給される電力の位相を制御する。位相制御装置18は、指向性アンテナ10Aの振動によるアレイアンテナの指向性の変動を相殺するように各エレメント13に対する給電位相を制御する。これによって、指向性アンテナ10Aが振動していても所望の指向性を得ることが可能になる。
【0061】
なお、重力センサ16は、アンテナ本体部12の位置が、本来の設置位置からずれていることを検出する変位検出装置に相当する。ただし、物体の鉛直方向からの傾きを検出することが可能なセンサであれば、「変位検出装置」は重力センサに限定されず、たとえばジャイロセンサを用いることも可能である。
【0062】
図15は、実施の形態2に従うアンテナシステムの第2の構成例を示した図である。図15を参照して、アンテナシステム101は、位相制御装置18に代えて位相制御装置19を備える点、および重力センサ16を含まない点においてアンテナシステム100と異なる。アンテナシステム101の他の部分の構成についてはアンテナシステム100と同様であるので以後の説明は繰返さない。
【0063】
この構成例においては、アンテナ本体部12から放射された電波を反射するための反射体17が設置される。アンテナ本体部12は、この反射波も受信する。反射体17の位置および傾きは、アンテナ本体部12が本来の位置に設置されたときに、アンテナ本体部12が受信する反射波の強度が所定の強度となるよう定められる。アンテナ本体部12が振動により鉛直方向に対して傾いた場合には、アンテナ本体部12による反射波の受信強度が変化する。
【0064】
位相制御装置19は、検波装置21と、変位検出装置22と、位相調整器23と、サーキュレータ24と、分岐部25とを含む。通信は、送信装置26と受信装置27とを含む無線機14で行なわれる。
【0065】
検波装置21は、アンテナ本体部12の各エレメント13が受信した反射波について、位相調整器23を介して合成された信号(たとえば、信号強度のピーク)を検出する。変位検出装置22は、検波装置21が検出した信号強度の変化に基づいてアンテナ本体部12の変位を検出し、その検出結果を示す信号を位相調整器23に対して送出する。
【0066】
位相調整器23は、変位検出装置22からの信号に応じて、各エレメント13への給電位相を調整し、アンテナ本体部12の振動によるビーム方向の変動を相殺するように、アンテナ本体部12(アレイアンテナ)の指向性を制御する。
【0067】
位相調整器23と変位検出装置22とによって、受信信号の強度についてフィードバック制御系が構成されるので、アレイアンテナの指向性を最適に維持できる。
【0068】
サーキュレータ24は、送信装置26から出力される電力を位相調整器23を介してアンテナ本体部12(各エレメント13)に導くとともに、位相調整器23からの信号を分岐部25に導く。分岐部25は、サーキュレータ24からの信号を受信装置27と検波装置21とに2分岐する。
【0069】
このように、実施の形態2によれば、指向性アンテナが振動したとしても、指向性の変動を抑制することができる。よって、実施の形態2によれば、実施の形態1による効果に加えて、通信の安定性を維持することができるという効果も得ることができる。
【0070】
(適用例)
図16は、本実施の形態に従う指向性アンテナを含む無線通信システムの一例を示した図である。図16を参照して、道路31,32の角には、無線通信のための中継機20が設けられる。中継機20は、アンテナ10に給電を行なうことで、交通情報の収集および配信を行なう。
【0071】
アンテナ10は、実施の形態1に従う指向性アンテナである。アンテナ10の構成としては、指向性アンテナ10Aまたは10Bの構成を採用することができる。なお、中継機20は、アンテナ10が振動していることを検出した場合、その指向性の変動を抑制するように、アンテナ10の制御を行なってもよい。あるいは、中継機20とは別に、変位検出装置およびアンテナ10の指向性を制御する制御装置を設けてもよい。
【0072】
道路31を走行する車両41および道路32を走行する車両42は、中継機20およびアンテナ10を介して無線通信を行なう。たとえば、車両42は、道路31,32の交差点に近づいた場合に、交差点に近づいたことを示す情報を無線により送信する。中継機20は、道路32側に設けられたアンテナ10を介してその情報を受信するとともに、道路31側に設けられたアンテナ10を介して、その情報を無線により送信する。図16に示すように、道路31を走行する車両41が存在する場合、車両41は、道路31側に設けられたアンテナ10を介して、車両42が交差点に近づいているという情報を受信する。
【0073】
同様に、車両41は、道路31,32の交差点に近づいた場合に、交差点に近づいたことを示す情報を無線により送信する。車両42は、道路31側に設けられたアンテナ10、中継機20、および道路32側に設けられたアンテナ10を介してこの情報を受信する。車両41,42が、道路31,32の交差点に近づいているという情報を交換することで、道路31,32の交差点において車両41,42が衝突する可能性をより小さくすることが可能になる。
【0074】
なお、図16は、路側機を介して車両同士が情報を交換する場合を示した図であるが、アンテナ10を適用した無線通信システムは、車両と路側機とが情報を授受する路車間通信に用いられてもよい。この場合、車両は、たとえば交通管制センタから発信される渋滞情報あるいは事故情報を、路側機を介して受けることができる。
【0075】
なお、本発明の指向性アンテナは、水平に延びる水平部材に取り付け可能に構成される。したがって、上記「水平部材」はメッセンジャワイヤに限定されるものではない。たとえば棒状の部材等でもよいし、紐状の部材であってもよい。また、その水平部材の用途もケーブルの支持等の用途に限定されるものではない。
【0076】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施の形態1に係る指向性アンテナが取り付けられる電柱設備を示した模式図である。
【図2】図1に示したメッセンジャワイヤ5およびその周辺部分の拡大図である。
【図3】実施の形態1に係る指向性アンテナにより形成される、無線通信のサービスエリアの一例を示した図である。
【図4】メッセンジャワイヤに指向性アンテナを取り付ける場合に考慮すべき第1の点を説明する図である。
【図5】メッセンジャワイヤに指向性アンテナを取り付ける場合に考慮すべき第2の点を説明する図である。
【図6】実施の形態1に従う指向性アンテナの第1の構成例を示した図である。
【図7】実施の形態1に従う指向性アンテナの第2の構成例を示した図である。
【図8】支持部材11における、メッセンジャワイヤ5への取付部分の構成を示した図である。
【図9】アンテナ本体部12の第1の例を示した図である。
【図10】図9に示したアンテナ本体部12への給電を示した図である。
【図11】アンテナ本体部12(アレイアンテナ)の指向性の一例を示した図である。
【図12】0°方向の指向性を得るための構成例を示した図である。
【図13】アンテナ本体部12の第2の例を示した図である。
【図14】実施の形態2に従うアンテナシステムの第1の構成例を示した図である。
【図15】実施の形態2に従うアンテナシステムの第2の構成例を示した図である。
【図16】本実施の形態に従う指向性アンテナを含む無線通信システムの一例を示した図である。
【符号の説明】
【0078】
1 電柱、2 電線、3 柱上変圧器、4 通信ケーブル、5,5A,5B メッセンジャワイヤ、6 金具、8,31,32 道路、10,20A,20B アンテナ、10A,10B 指向性アンテナ、11 支持部材、11A,11B 重ね部、12 アンテナ本体部、13 エレメント、13A 導波器、13B 放射器、13C 反射器、14 無線機、15 取付部材、16 重力センサ、17 反射体、18,19 位相制御装置、20 中継機、21 検波装置、22 変位検出装置、23 位相調整器、24 サーキュレータ、25 分岐部、26 送信装置、27 受信装置、41,42 車両、100,101 アンテナシステム、FD 給電線路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に延在する水平部材の少なくとも2箇所に取り付け可能に構成された支持部材と、
前記支持部材の表面に形成され、かつ所定方向に配置された複数のエレメントを含むアンテナ本体部とを備える、指向性アンテナ。
【請求項2】
前記支持部材は、中空に形成され、かつ両端部が開口した筒状の部材である、請求項1に記載の指向性アンテナ。
【請求項3】
前記アンテナ本体部は、アレイアンテナである、請求項1または2に記載の指向性アンテナ。
【請求項4】
前記複数のエレメントは、
電波を放射するための放射器と、
前記放射器からの電波を所定の方向に導くための導波器と、
前記放射器に対して前記導波器と反対側に設けられ、前記放射器からの電波を反射するための反射器とを含む、請求項1または2に記載の指向性アンテナ。
【請求項5】
請求項3に記載の指向性アンテナと、
前記支持部材が前記水平部材に取り付けられた状態において、前記アレイアンテナの水平方向の位置および鉛直方向の位置の少なくとも一方が、本来の設置位置からずれていることを検出する変位検出装置と、
前記変位検出装置の検出結果に基づいて、前記複数のエレメントの各々への給電位相を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記アレイアンテナの指向性が、前記アレイアンテナが前記本来の設置位置に設置された状態での指向性となるように、前記アレイアンテナの指向性を補正する、アンテナシステム。
【請求項6】
前記変位検出装置は、
前記アレイアンテナの鉛直方向に対する傾きを検出するセンサを含む、請求項5に記載のアンテナシステム。
【請求項7】
前記アレイアンテナは、電波を放射する一方で、所定の位置に設けられた反射体により反射された前記電波を受信し、
前記変位検出装置は、前記アレイアンテナが受信した反射波の電界強度に基づいて、前記アレイアンテナの変位を検出する、請求項5に記載のアンテナシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−239509(P2009−239509A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81453(P2008−81453)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】