説明

排気弁駆動制御方法及び装置

【課題】 多数の制御マップを必要とすることなく、エンジン回転速度に応じた排気弁の閉弁制御を行える排気弁駆動制御方法及び装置を提供する。
【解決手段】 内燃機関の排気弁11を閉弁制御する方法であって、排気弁11の現在位置X0と内燃機関の回転速度Neとを求め、それらに基づいてピストンが排気弁11の現在位置X0に到達する時刻T0を演算し、その到達時刻T0よりも前に排気弁11の閉作動を開始し、排気弁11とピストンとの間隔が第一所定値hc1となる時刻T1を演算し、その時刻T1に達したときに排気弁11の閉作動を一旦停止し、ピストンが排気弁11の停止位置X1に到達する時刻T2を演算し、その到達時刻T2よりも前に排気弁11の閉作動を再開するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気弁の駆動制御方法及び装置に係り、特に、排気弁の閉弁動作を簡易モデル化し、そのモデルに基づいて排気弁を閉弁制御するようにした排気弁駆動制御方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、内燃機関(以下エンジンという)における排気弁及び吸気弁の開閉制御の自由度を高めるために、カム機構を用いずに流体圧を利用して弁を開閉駆動する動弁機構が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。この動弁機構を用いれば、エンジンの運転状態に応じて排気弁及び吸気弁の開閉時期やリフト量等を調節・制御できるため、より細やかなエンジン制御が可能となる。特に、排気弁を閉弁制御する際に、上昇するピストンとの接触を避けつつ、掃気を確実かつ効果的に行うことが可能となる。
【0003】
例えば本出願人は、図7に示すような閉弁制御を提案している。
【0004】
図中ラインAが排気弁のリフト量(排気弁下端位置)を示しており、ラインBがピストン位置(ピストン上端位置)を示している。縦軸の下端が全閉状態であるときの排気弁の位置(リフト量ゼロ)であり、上に向かう程、排気弁のリフト量(開度)が大きく、ピストン位置が低くなることを意味する。つまり、図7では排気弁及びピストンの位置関係及び移動方向が実際と上下逆に描かれている。
【0005】
図7(a)は、エンジン回転速度が比較的低く、ピストンの上昇速度が排気弁の閉弁速度(上昇速度)よりも遅い例を示している。
【0006】
図に示すように、排気弁の閉作動は、ピストンが、全開状態である排気弁の下端位置まで上昇するよりも前に開始される。ここでは、ピストンの上昇速度が排気弁の閉弁速度よりも遅いので、排気弁の閉作動が開始されるとピストンと排気弁との間隔が徐々に大きくなる。そして、ピストンと排気弁との間隔が所定の値まで大きくなると、排気弁の閉作動が一旦停止される。その後、上昇するピストンと排気弁との間隔がある程度縮まると、閉作動が再開される。つまり、ピストンの上昇に応じて排気弁の閉作動が段階的に実行される。このように排気弁を段階的に閉じることで、排気口の開口面積を充分に確保して掃気効率を向上させることができる。
【0007】
【特許文献1】特開2003−328713号公報
【特許文献2】特開2001−280109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ピストンの上昇速度は当然エンジン回転速度により変化するため、エンジン回転速度毎に排気弁の閉弁制御内容を変化させる必要がある。
【0009】
例えば、ピストンの上昇速度が排気弁の閉弁速度を上回る領域では、排気弁を段階的に閉じるとピストンと排気弁とが接触する可能性があるため、図7(b)に示すように、全開から全閉まで連続的に(一回で)閉じる必要がある。この場合、排気弁の駆動回数は1回であり、その駆動期間は比較的長いものとなる。なお、図7に示す閉弁制御は本願の出願時において未公開の技術であり、従来技術を構成するものではない。
【0010】
このように、排気弁の最適な閉弁制御内容(駆動回数、駆動時期、駆動期間等)がエンジン回転速度毎に異なるため、従来は、エンジン回転速度毎に最適な制御内容を定めた制御マップを作成していたが、多数の制御マップが必要となるため、マップ作成の労力が非常に大きかった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、多数の制御マップを必要とすることなく、エンジン回転速度に応じた排気弁の閉弁制御を行える排気弁駆動制御方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために考案された請求項1の発明は、内燃機関の排気弁を閉弁制御する方法であって、まず、上記排気弁の現在位置と内燃機関の回転速度とを求め、それらに基づいてピストンが上記排気弁の現在位置に到達する時刻を演算し、その到達時刻よりも前に上記排気弁の閉作動を開始し、内燃機関の回転速度等に基づいて、上記排気弁とピストンとの間隔が第一所定値となる時刻を演算し、その時刻に達したときに上記排気弁の閉作動を一旦停止し、内燃機関の回転速度等に基づいて、上記ピストンが上記排気弁の停止位置に到達する時刻を演算し、その到達時刻よりも前に排気弁の閉作動を再開するものである。
【0013】
請求項2の発明は、上記排気弁の閉作動の停止及び再開を、上記排気弁とピストンとの間隔が上記第一所定値となる時刻における上記排気弁のリフト量が所定のオーバラップリフト量以下となるまで繰り返し行い、上記排気弁とピストンとの間隔が上記第一所定値となる時刻における上記排気弁のリフト量が上記オーバラップリフト量以下となった場合、上記排気弁のリフト量が上記オーバラップリフト量と一致したときにその閉作動を一旦停止し、その後、内燃機関のクランク角が所定角度となったときに上記排気弁を全閉まで閉じるものである。
【0014】
請求項3の発明は、上記排気弁を現在位置から全閉位置まで移動させたとしたときの平均移動速度と、排気弁の現在位置に到達したときのピストンの移動速度とを演算し、上記排気弁の平均移動速度が上記ピストンの移動速度よりも速い場合にのみ上記請求項1又は2記載の制御方法を実行するものである。
【0015】
請求項4の発明は、上記排気弁の平均移動速度が上記ピストンの移動速度以下である場合、内燃機関の回転速度等に基づいて、上記ピストンの移動速度が上記排気弁の平均移動速度と一致する時刻と、その時刻における上記ピストンの位置とを演算し、その演算結果と上記排気弁の平均移動速度等に基づいて、上記ピストンの移動速度が上記排気弁の平均移動速度と一致する時刻において上記排気弁と上記ピストンとの間隔が第二所定値となるために必要な排気弁の閉作動開始時刻を決定し、上記排気弁閉作動開始時刻にて上記排気弁の閉作動を開始するものである。
【0016】
請求項5の発明は、上記排気弁の現在位置をX0、コンロッド長さをl、ピストンストロークを2rとしたとき、次式8
【0017】
【数1】

【0018】
に基づいて、上記ピストンが上記排気弁の現在位置X0に到達するときのクランク角Ac0を算出し、次いで、現在のクランク角をAcc、内燃機関の回転速度をNeとしたとき、次式10
【0019】
【数2】

【0020】
に基づいて、上記ピストンが上記排気弁の現在位置X0に到達する時刻T0を算出するものである。
【0021】
請求項6の発明は、上記排気弁の現在位置をX0、上記排気弁の任意の位置をY、上記排気弁を現在位置X0から任意の位置Yまで閉弁したときに開放されるエネルギをErelease、排気弁の可動部質量をm、予め定められた補正係数をCgain、Coffsetとしたとき、次式11
【0022】
【数3】

【0023】
に基づいて、排気弁が現在位置X0から任意の位置Yまで閉弁するのに要する期間T’cyを演算し、その期間T’cyと排気弁の閉作動開始時刻とに基づいて、任意時刻tにおける排気弁の位置を求め、一方、内燃機関の回転速度をNe、現在のクランク角をAccとしたとき、次式12
【0024】
【数4】

【0025】
に基づいて、任意時刻tにおけるクランク角θtを求め、更にコンロッド長さをl、ピストンストロークを2rとしたとき、次式13
【0026】
【数5】

【0027】
に基づいて、任意時刻tにおけるピストン位置Xptを求め、これら任意時刻tにおける排気弁の位置と、任意時刻tにおけるピストン位置Xptとに基づいて、上記排気弁とピストンとの間隔が上記第一所定値となる時刻を決定するものである。
【0028】
請求項7の発明は、上記ピストンが上記排気弁の現在位置に到達するときのクランク角をθt、内燃機関の回転速度をNe、コンロッド長さをl、ピストンストロークを2rとしたとき、次式9、
【0029】
【数6】

【0030】
に基づいて、上記排気弁の現在位置に到達したときのピストンの移動速度Vpistonを求めるものである。
【0031】
請求項8の発明は、内燃機関の排気弁を開弁させるための加圧された作動流体が供給される圧力室と、上記圧力室に高圧作動流体を供給して上記排気弁を開方向に作動するための高圧作動流体供給手段と、上記圧力室から上記作動流体を排出して上記排気弁を閉方向に作動するための作動流体排出手段と、上記高圧作動流体供給手段及び作動流体排出手段を制御する制御装置とを備え、上記制御装置は、上記排気弁を閉弁制御する際に、まず、上記排気弁の現在位置と内燃機関の回転速度とに基づいてピストンが上記排気弁の現在位置に到達する時刻を演算し、その到達時刻よりも前に上記排気弁の閉作動が開始するように上記作動流体排出手段に駆動信号を出力し、内燃機関の回転速度等に基づいて、上記排気弁とピストンとの間隔が所定値となる時刻を演算し、その時刻に達したときに上記排気弁の閉作動が一旦停止するように上記作動流体排出手段に対する駆動信号の出力を一時的に停止し、内燃機関の回転速度等に基づいて、上記ピストンが上記排気弁の停止位置に到達する時刻を演算し、その到達時刻よりも前に上記排気弁の閉作動が再開するように上記作動流体排出手段に駆動信号を出力するものである。
【0032】
請求項9の発明は、上記制御装置は、上記排気弁の閉作動の停止及び再開を、上記排気弁とピストンとの間隔が上記所定値となる時刻における上記排気弁のリフト量が所定のオーバラップリフト量以下となるまで繰り返し行い、上記排気弁とピストンとの間隔が上記所定値となる時刻における上記排気弁のリフト量が上記オーバラップリフト量以下となった場合、上記排気弁のリフト量が上記オーバラップリフト量と一致したときに上記排気弁の閉作動が一旦停止するように上記作動流体排出手段に対する駆動信号の出力を一時的に停止し、その後、内燃機関のクランク角が所定角度となったときに上記作動流体排出手段に駆動信号を出力して上記排気弁を全閉まで閉じるものである。
【0033】
請求項10の発明は、上記作動流体排出手段が、上記圧力室からの上記作動流体の排出又は排出停止を切り換えるための作動弁を備え、上記制御装置は、上記排気弁の閉作動を行うときには上記作動弁に駆動信号を出力してそれを開き、上記排気弁の閉作動を一旦停止するときには上記作動弁に対する駆動信号の出力を停止してそれを全閉するものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、排気弁の制御マップが不要となり、マップ作成に要する労力をなくすことができるという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0036】
図1に本実施形態に係る排気弁駆動制御装置を示す。
【0037】
本実施形態の排気弁駆動制御装置は、コモンレール式燃料噴射装置を備えたディーゼルエンジンに適用したものである。まずコモンレール式燃料噴射装置について説明すると、エンジンの各気筒毎に燃料噴射を実行するインジェクタ1が設けられ、インジェクタ1にはコモンレール2に貯留されたコモンレール圧Pc(例えば数10〜数100MPa)の高圧燃料が常時供給される。コモンレール2への燃料圧送は高圧ポンプ3によって行われ、燃料タンク4の燃料が燃料フィルタ5を通じてフィードポンプ6によって吸引吐出された後、高圧ポンプ3に送られる。フィードポンプ6のフィード圧Pfは、リリーフ弁からなる圧力調整弁7によって調整され、一定に保たれる。フィード圧Pfは当然コモンレール圧Pcより低い値で、例えば0.5MPa程度である。
【0038】
図示する装置全体を総括的に制御する制御装置としての電子制御ユニット(以下ECUという)8が設けられ、これにはエンジンの運転状態(エンジンのクランク角、回転速度、エンジン負荷等)を検出するセンサ(図示しないが、クランク角センサ、エンジン回転センサ、アクセル開度センサなどが含まれる)が接続される。ECU8はこれらセンサの信号に基づいてエンジン運転状態を把握し、且つこれに基づいた駆動信号をインジェクタ1の電磁ソレノイドに送ってインジェクタ1を開閉制御する。電磁ソレノイドのON/OFFに応じて燃料噴射が実行・停止される。噴射停止時にはインジェクタ1から常圧程度の燃料がリターン回路9を通じて燃料タンク4に戻される。ECU8はエンジン運転状態に基づいて実際のコモンレール圧を目標圧に向けてフィードバック制御する。このため実際のコモンレール圧を検出するためのコモンレール圧センサ10が設けられる。
【0039】
次に、本発明に係る排気弁駆動制御装置について説明する。11がエンジンの排気弁である。排気弁11はシリンダヘッド12に昇降自在に支持され、排気弁11の上端部は一体のバルブピストン13となっている。即ち、排気弁11にバルブピストン13が一体に連結される。排気弁11の上部にアクチュエータAが設けられ、アクチュエータボディ14がシリンダヘッド12に固設され、バルブピストン13はアクチュエータボディ14内を摺動昇降可能である。なお、本実施形態では排気弁11とバルブピストン13とを一体的に形成したが、別体として構成しても構わない。
【0040】
排気弁11には鍔部15が設けられ、鍔部15とシリンダヘッド12との間に排気弁11を閉弁方向(図の上側)に付勢するバルブスプリング16が圧縮状態で配設される。ここではバルブスプリング16がコイルスプリングで構成される。アクチュエータボディ14内に鍔部15を吸引する磁石17が埋設され、これによっても排気弁11が閉弁方向に付勢される。磁石17はここでは排気弁11を囲繞するようなリング状の永久磁石である。バルブピストン13は少なくとも排気弁11の上端の部分であり、アクチュエータボディ14に軸シールをなしつつ挿入される。
【0041】
アクチュエータボディ14内に、バルブピストン13の上端面(即ち受圧面43)に面した圧力室18が区画形成される。圧力室18は、排気弁11を開作動するための加圧された作動流体が供給されるもので、その底面部分が受圧面43によって区画形成される。ここで作動流体にはエンジンの燃料と共通の軽油を用いる。圧力室18に高圧燃料が導入されると排気弁11が開方向(図の下側)に押され、この押圧力がバルブスプリング16及び磁石17の付勢力を上回ると排気弁11が下方に開弁(リフト)する。一方、圧力室18には排出通路19が接続され、これを通じて圧力室18の高圧燃料が排出されると、排気弁11が閉弁する。
【0042】
圧力室18の上方に、圧力室18への高圧燃料の供給又は供給停止を切り換えるための第一の作動弁20が設けられる。第一の作動弁20はここでは圧力バランス式制御弁方式を採用している。
【0043】
即ち、第一の作動弁20は、排気弁11と同軸に配されたニードル状のバランス弁21を有する。バランス弁21の上端部に軸シール部40が形成され、軸シール部40の下方に供給通路22が、軸シール部40の上方に弁制御室23がそれぞれ区画形成されている。バランス弁21の上端面は弁制御室23内の燃料圧力が作用される受圧面となっている。これら供給通路22と弁制御室23とは、アクチュエータボディ14内に形成された分岐通路42と、外部の配管とを介して、高圧作動流体供給源としてのコモンレール2に接続され、コモンレール圧Pcの高圧燃料が常時供給されている。これら第一の作動弁20とコモンレール2等により高圧作動流体供給手段が構成される。
【0044】
供給通路22は、バランス弁21の下部側に面して圧力室18に連通されると共に、その途中にバランス弁21の下端円錐面が線接触或いは面接触される弁シート24を有する。弁シート24の下流側に供給通路22の出口41(即ち圧力室18への高圧燃料の入口)が設けられる。この出口41は、排気弁11と同軸に位置されると共に、バルブピストン13の受圧面43に指向され、出口41から排出或いは噴出される高圧燃料を圧力室18に導入するようになっている。また出口41は排気弁11又はバルブピストン13の移動方向又は軸方向と同方向に指向され、受圧面43はその軸方向に垂直な円形の面である。
【0045】
弁制御室23には、バランス弁21を閉弁方向(図の下側)に付勢するバネ25が設けられる。バネ25はコイルスプリングからなり、圧縮状態で弁制御室23に挿入配置される。また弁制御室23は、燃料の出口であるオリフィス26を介してリターン回路9に連通される。オリフィス26の上方にはこれを開閉する開閉弁としてのアーマチュア27が昇降可能に設けられ、アーマチュア27の上方にこれを昇降(開閉)駆動するための電気アクチュエータとしての電磁ソレノイド28と、アーマチュアスプリング29とが設けられる。電磁ソレノイド28はECU8に接続され、ECU8から与えられる信号即ちコマンドパルスによりON/OFF制御される。
【0046】
通常、電磁ソレノイド28がOFFのときは、アーマチュアスプリング29によりアーマチュア27が下方に押し付けられ、オリフィス26が閉じられる。一方、電磁ソレノイド28がONされると、アーマチュアスプリング29の付勢力に抗じてアーマチュア27が上昇され、オリフィス26が開かれる。
【0047】
圧力室18には、アクチュエータボディ14内に形成された低圧通路31を介して、所定容積を有した低圧作動流体供給源としての低圧室32が直接的に連通接続されている。低圧室32は、圧力調整弁7の下流側且つ高圧ポンプ3の上流側のフィード回路33に接続され、フィード回路33からフィード圧Pfの低圧燃料を常時導入、貯留している。低圧通路31には、圧力室18の圧力が低圧室32の圧力以下となったときのみ開となる第二の作動弁としての機械式逆止弁34が設けられる。これら低圧室32と第二の作動弁34等により低圧作動流体導入手段が構成される。
【0048】
一方、排出通路19には、圧力室18からの燃料の排出又は排出停止を切り換えるための第三の作動弁30が設けられる。第三の作動弁30はECU8に接続されると共に開度が可変な電磁絞り弁であり、ECU8から与えられる駆動信号即ちコマンドパルスにより開閉制御される。ここで排出通路19の出口側は、低圧室32と同じように、圧力調整弁7の下流側且つ高圧ポンプ3の上流側のフィード回路33に接続される。これら排出通路19及び第三の作動弁30等により作動流体排出手段が構成される。
【0049】
圧力室18は、主にアクチュエータボディ14内に形成された断面円形且つ一定径のピストン挿入孔44からなり、このピストン挿入孔44にバルブピストン13が摺動可能に挿入される。そして排気弁11が全閉から全開になるまでの間、バルブピストン13がピストン挿入孔44から外れる(抜ける)ことはなく、バルブピストン13は常にピストン挿入孔44の内面に接している。言い換えれば、排気弁11が全閉から全開になるまでの間、バルブピストン13の移動量に対する圧力室18の容積の増大量の比は一定に保たれる。
【0050】
係る排気弁駆動制御装置で排気弁11を開弁する場合、ECU8により電磁ソレノイド28が所定期間ONされる。すると第一の作動弁20において、アーマチュア27が上昇してオリフィス26が開き、弁制御室23の高圧燃料が排出され、バランス弁21が上昇し、バランス弁21が弁シート24から離れる。これにより供給通路22が開の状態となり、供給通路22の出口41から圧力室18に高圧燃料が瞬時に勢いよく噴出される。この高圧燃料によりバルブピストン13の受圧面43が押圧され、これにより排気弁11には初期エネルギが与えられ、その後、排気弁11は、バルブスプリング16及び磁石17による力が作用する条件下で慣性運動し、下方にリフトされる。
【0051】
この排気弁11の慣性運動の過程で圧力室18の容積が次第に増加するが、排気弁11の運動が数10〜数100MPaもの高圧燃料による慣性運動であることに起因して、高圧燃料供給量に応じた理論上の圧力室18の容積増大量よりも、実際の圧力室18の容積増大量が大きくなり、圧力室18の圧力が低圧室32の圧力より低くなる。こうなると、逆止弁34が自動的に開き、低圧室32の低圧燃料が低圧通路31を通じて圧力室18に直接導入される。つまり低圧室32には圧力室18の過剰な容積増加分を補うように燃料が補給される。これにより実際の高圧燃料供給量を越えて圧力室18により多くの燃料が供給されるので、圧力室18が負圧になることを回避し、バルブリフト動作を安定化させると共に、バルブリフト量を、高圧燃料供給により与えられた初期エネルギに応じたリフト量に保持することができる。
【0052】
次に、排気弁11を閉作動させるときは、第一の作動弁20を閉(電磁ソレノイド28をOFF)に保持すると共に、第三の作動弁30をON(開)する。すると圧力室18の高圧燃料が排出通路19を通じてフィード回路33へと排出される。これにより圧力室18の圧力が下がり、排気弁11がバルブスプリング16及び磁石17の付勢力により上昇即ち閉作動される。
【0053】
排気弁11の閉作動中に第三の作動弁30をOFF(全閉)すると、圧力室18の高圧燃料の排出が停止されるため、排気弁11がそのときのリフト量(位置)に保持される。つまり、排気弁11の閉作動中に第三の作動弁30を全閉することで、排気弁11の閉作動を一旦停止できる。
【0054】
さて、本実施形態の排気弁駆動制御装置の特徴は、排気弁11の閉弁動作を簡易モデル化し、その簡易モデルに基づいて排気弁11を閉弁制御する点にあるので、以下、この点について説明する。
【0055】
まず、図1に示したような排気弁駆動制御装置において、排気弁11の任意のリフト量xにおいて排気弁11に作用する閉弁方向(上方向)への力Fは次式1で求められる。
【0056】
【数7】

【0057】
ここで、Kはスプリング14のバネ定数、Fsetはスプリング14のセットフォース、Fotherはスプリング14以外の外力(本実施例では永久磁石17による吸引力)である。力Fとリフト量xとの関係を図2にラインaで示す。
【0058】
次に、排気弁11の任意のリフト量Aにおける力積Eはリフト量の関数f(x)となり、次式2で求められる。
【0059】
【数8】

【0060】
力積Eとリフト量xとの関係を図2にラインbで示す。
【0061】
ここで、力積Eは力(N)×長さ(m)の積算値であるので、エネルギ(J)の次元を持つ。従って、現在のリフト量Xから任意の目標リフト量Yまで排気弁11を閉弁する際に開放されるエネルギErelease(図2参照)は次式3で求められる。
【0062】
【数9】

【0063】
この開放されるエネルギEreleaseが全て排気弁11の閉弁速度(移動速度)に変換され、かつそれが排気弁11の平均移動速度であると考えると、排気弁11の平均移動速度Vaveと、排気弁11がリフト量Xからリフト量Yまで移動するのに要する期間(戻り時間)TcYはそれぞれ次式4、5から求められる。
【0064】
【数10】

【0065】
【数11】

【0066】
ここで、mは可動部重量である。
【0067】
本出願人は、この式5に基づいて、排気弁11の任意のリフト量(位置)から全閉位置(リフト量ゼロ)までの推定戻り時間を算出し、詳細な油圧シミュレーションにより得られた戻り時間との比較を行った。その結果を図3に示す。図のラインcが式5に基づいて算出した推定戻り時間であり、丸ポイントdで示すものがシミュレーションにより得られた戻り時間である。
【0068】
図から分かるように、式5に基づいて算出した結果cと、シミュレーション結果dとには開きがある。この開きをなくすためには、次式6に示すような補正を行う必要がある。
【0069】
【数12】

【0070】
ここで、Cgain、Coffset共に補正係数である。
【0071】
実際の閉弁動作においては、各摺動部のフリクションが存在するため、上述した開放エネルギErelease 全てが移動速度には変換されない。この摩擦減衰分を補正するのが補正係数Cgainである。また、第三の作動弁30を開とする駆動信号(コマンドパルス)をECU8が出力してから、圧力室18の圧力が低下して排気弁11が実際に閉作動(上昇)を開始するまでには時間遅れ(作動遅れ)が存在する。この作動遅れ分を補正するのが補正係数Coffsetである。
【0072】
補正後の式6に基づいて求めた排気弁11の戻り時間を図3にラインc’で示す。なお、この例では、補正係数Cgainが2.15、Coffsetが0.5である。図から分かるように、補正後の式6に基づく演算結果は、詳細なシミュレーション結果dとほぼ同じ値をとることが分かる。従って、式6を用いれば排気弁11の任意位置から任意位置までの戻り時間を求めることができる。
【0073】
また、次式7
【0074】
【数13】

【0075】
に基づけば、排気弁11の平均移動速度が求められる。
【0076】
このように、式6及び式7を用いれば、排気弁11が任意のリフト量(位置)Xから任意のリフト量Yまで移動(閉弁)するのに要する時間T’cY、及びその間の平均移動速度V’aveを求めることができる。
【0077】
以上の点をふまえて、本実施形態の排気弁駆動制御装置による排気弁11の閉弁制御方法を、図4〜図6を用いて説明する。なお、図4及び図5において縦軸の下端が全閉状態であるときの排気弁の位置(リフト量ゼロ)を示しており、そこから上に向かう程、排気弁のリフト量(開度)が大きく、ピストン(エンジンのピストンであり図1には示されていない)の位置が低くなることを意味する。つまり、これら図では排気弁及びピストンの位置関係及び移動方向が実際と上下逆に描かれている。
【0078】
排気弁11を閉弁制御するにあたって、ECU8はまず、排気弁11を全閉まで閉じたとしたときの平均移動速度と、ピストンが排気弁11の現在位置(全開位置)に到達したときのピストンの移動速度とを求め、両者の比較を行う。排気弁11の平均移動速度がピストン移動速度よりも速い場合と、ピストン移動速度以下である場合とで閉弁制御内容が大きく異なるからである。
【0079】
排気弁11の閉弁制御を開始するときは、排気弁11のリフト量は最大リフト量X0であり、その値X0は予めECU8に入力されている。ECU8はこの最大リフト量X0と上記式7とを用いて、現在のリフト量X0から全閉位置Y(リフト量ゼロ)まで閉じたときの排気弁11の平均移動速度V’aveを求める。
【0080】
一方、ECU8は、ECU8に予め入力されたコンロッド長さlと、ピストンストローク2rとに基づいて、次式8
【0081】
【数14】

【0082】
から、ピストンの上端部(トップランド)が排気弁11の現在位置X0に到達するときのクランク角Ac0を求める。
【0083】
ここで、エンジン回転センサにより検出されるエンジン回転速度をNeとした場合、任意のクランク角θtにおけるピストンの移動速度Vpiston(上昇速度)は次式9より求められる。
【0084】
【数15】

【0085】
従って、式9のクランク角θtに上記式8より求めたクランク角Ac0を代入すれば、排気弁11の現在位置X0に到達したときのピストンの移動速度Vpistonが求められる。
【0086】
ECU8は、このようにして求めた排気弁11の平均移動速度V’aveとピストン移動速度Vpistonとを比較して、二種類の閉弁制御を使い分ける。
【0087】
まず、排気弁11の平均移動速度V’aveがピストンの移動速度Vpistonよりも速い場合の制御内容を図4及び図6を用いて説明する。
【0088】
ECU8はまず、ピストンの上端部が排気弁11の現在位置X0に到達するときのクランク角Ac0と、クランク角センサにより検出される現在のクランク角Accと、エンジン回転センサにより検出される現在のエンジン回転速度Neとに基づいて、次式10
【0089】
【数16】

【0090】
から、ピストンの上端部が排気弁11の現在位置X0に到達する時刻T0を求める。
【0091】
そして、ECU8はその到達時刻T0よりも前に排気弁11の閉作動を開始すべく、時刻T0から、ピストンと排気弁11との接触防止に対する安全率と排気弁11の作動遅れとを考慮したオフセット期間Toffsetだけ遡った時刻T1onを排気弁11の閉弁信号出力時期として設定する。つまり、この時刻T1onにて第三の作動弁30をON(開)する。この結果、時刻T1onから作動遅れ期間を経た後(時刻T0より前)に排気弁11が閉作動(上方への移動)を開始する。
【0092】
一方、ECU8は排気弁11の閉作動開始時刻と上記式6とに基づいて、任意時刻における排気弁11の位置を求める。つまり、式6に式4及び式5を代入し、現在位置Xを最大リフト量X0とすると、次式11
【0093】
【数17】

【0094】
が得られる。この式11は排気弁11の位置Yと、その位置に到達するのに要する期間T’cyとの関数なので、式11と排気弁11の閉作動開始時刻(時刻T1onから作動遅れ期間だけ後退させた時刻)とに基づいて、任意時刻tにおける排気弁11の位置を求めることができる。任意時刻tにおける排気弁11の位置を図4にラインeで示す。なお、排気弁11のリフト量に対する力積(エネルギ)Erelease及び可動部質量mは予めECU8に入力される。
【0095】
更にECU8は、エンジン回転センサにより検出される現在のエンジン回転速度Neと、クランク角センサにより検出される現在のクランク角Accとに基づいて、次式12
【0096】
【数18】

【0097】
から、任意時刻tにおけるクランク角θtを求め、更に、そのθtと、コンロッド長さl、ピストンストローク2rとに基づいて、次式13
【0098】
【数19】

【0099】
より任意時刻tにおけるピストン位置Xptを求める。任意時刻tにおけるピストン位置を図4にラインfで示す。
【0100】
ECU8は、このようにして求めた任意時刻tにおける排気弁位置eとピストン位置fとに基づいて、排気弁11とピストンとの間隔が予め定めた第一所定値hc1(クリアランス目標値)となる時刻T1と、その時刻T1における排気弁11の位置X1とを求める。第一所定値hc1は、排気ガスの掃気性や安全性等を考慮して予め設定され、ECU8に入力される。
【0101】
そして、ECU8は時刻T1で排気弁11の閉作動を一旦停止すべく、時刻T1から排気弁11の作動遅れを考慮したオフセット期間T’offsetだけ遡った時刻T1offを排気弁11の閉弁信号出力停止時期として設定する。つまり、この時刻T1offにて第三の作動弁30を一旦OFF(全閉)する。この結果、排気弁11の閉作動が時刻T1で一旦停止され、排気弁はその位置X1に維持される。
【0102】
またECU8は、上記式13(図4のラインf)に基づいて、ピストンの上端部が排気弁11の停止位置(現在位置)X1に到達する時刻T2を求め、その時刻T2から上記オフセット期間Toffsetだけ遡った時刻T2onを排気弁11の閉弁信号出力再開時期として設定する。つまり、この時刻T2onにて第三の作動弁30を再度ON(全開)する。従って、ピストンの上端部が排気弁11の停止位置X1に到達する時刻T2よりも前に、排気弁11の閉作動が再開する。
【0103】
その後再び、上記と同様の方法により排気弁11とピストンとの間隔が第一所定値hc1となる時刻T3と、その時刻T3における排気弁11の位置X2とを求め、時刻T3で排気弁11の閉作動を一旦停止する。そして、ピストンが排気弁11の停止位置X2に到達するよりも前に、排気弁11の閉作動を再開する。
【0104】
このように、ECU8はピストンの移動速度に合わせて排気弁11を段階的に閉じていく。
【0105】
そして、排気弁11とピストンとの間隔が第一所定値hc1となる時刻における排気弁11のリフト量が、予め定めたオーバーラップリフト量Xoverlap以下となったならば、上記排気弁11のリフト量がオーバーラップリフト量Xoverlapと一致する時刻T4を求め、その時刻T4から上記オフセット期間T’offsetだけ遡った時刻T3offを排気弁11の閉弁信号出力停止時期として設定する。言い換えれば、上記第一所定値hc1を、排気弁11のリフト量がオーバーラップリフト量Xoverlapと一致する時刻T4における排気弁11とピストンとの間隔hc1’に変更する。
【0106】
これにより、排気弁11のリフト量がオーバーラップリフト量Xoverlapと一致した時点でその閉作動が停止する。その後、図示しない吸気弁が開放され、クランク角が所定角度となったときに、ECU8は第三の作動弁30をON(開)し排気弁11を全閉位置まで閉じる。
【0107】
以上により排気弁11の閉弁制御が終了する。このように、ピストンの移動速度に合わせて排気弁11を段階的に閉じることで、ピストンと排気弁11との接触を避けつつ、排気口の開口面積を充分に確保して掃気効率を向上させることができる。
【0108】
なお、図4では、排気弁11を4段階に分けて閉じる例を示したが、閉作動の繰り返し回数はピストンの移動速度(つまりエンジンの回転速度)や第一所定値hc1の値などにより変化するものである。
【0109】
次に、排気弁11の平均移動速度V’aveがピストンの移動速度Vpiston以下である場合の制御内容を図5及び図6を用いて説明する。
【0110】
ECU8はまず、上記式9等に基づいて、ピストンの移動速度Vpistonが排気弁11の平均移動速度V’aveと等しくなる時刻Taを求める。
【0111】
次に、上記式13に基づいて、時刻Taにおけるピストン位置Xaを求め、そのピストン位置Xaから予め定めた第2所定値hc2(クリアランス目標値)を除した値Xva(図5ではリフト量ゼロ)を時刻Taにおける排気弁11のリフト量の目標値として設定する。
【0112】
次にECU8は、時刻Taにおいて排気弁11のリフト量が上記Xvaとなるため、即ち、時刻Taにおける排気弁11とピストンとの間隔が第二所定値hc2となるために必要な排気弁閉作動開始時期を決定する。つまり、排気弁11が現在のリフト量X0(全開位置)から目標リフト量Xvaまで閉弁するのに要する期間Tbを上記式11より求め、上記時刻Taからその戻り期間Tbと作動遅れ等を考慮したオフセット期間Toffsetだけ遡った時刻T1onを排気弁11の閉弁信号出力時期として設定する。つまり、この時刻T1onにて第三の作動弁30をON(開)する。これにより、時刻T1onから作動遅れ期間を経た時刻にて排気弁11の閉作動が開始する。この場合、ECU8は排気弁11が全閉状態となるまで、第三の作動弁30を開に維持する。即ち、排気弁11を全開から全閉まで連続的に(一回で)閉じる。
【0113】
以上説明してきたように、本実施形態の排気弁駆動制御装置及び方法によれば、排気弁11の閉弁動作を簡易モデル化し、そのモデルに従って、排気弁11を閉弁制御しているので、制御マップが不要となり、マップ作成労力をなくすことができる。
【0114】
本発明は上記実施形態に限定はされない。
【0115】
例えば、上記実施形態では、排気弁11の位置(リフト量)を演算により求めるとしたが、排気弁11の位置を検出する手段を設けて直接検出するようにしても良い。
【0116】
また、図1の排気弁駆動制御装置は一例として示したものであり、本発明は排気弁11の閉作動を任意の時刻で開始でき、かつ排気弁11を任意のリフト量で維持できるものであれば、あらゆる構造の排気弁駆動制御装置に応用できる。
【0117】
例えば、上記実施形態では作動流体をエンジンの燃料(軽油)とし、高圧作動流体をコモンレール圧の燃料、低圧作動流体をフィード圧の燃料としたが、作動流体は通常のオイル等でもよく、別途油圧装置で高圧と低圧とを作ってもよい。
【0118】
また、上記実施形態ではバルブを閉作動方向に付勢するためバルブスプリングと磁石とを併用したが、バルブスプリングのみ、或いは磁石のみと各々単独で用いても良い。更に、上記実施形態では磁石で鍔部を吸引する構成としたが、別段このような構成でなくても構わない。
【0119】
また、上記実施形態ではコモンレール式燃料噴射装置を備えたディーゼルエンジンに適用した例を示したが、通常の噴射ポンプ式ディーゼルエンジンや、ガソリンエンジン等にも適用可能である。
【0120】
第一の作動弁は上記のような圧力バランス式制御弁に限らず、通常のスプール弁等であってもよい。第三の作動弁も上記のような絞り弁に限らず、通常のスプール弁等であってもよい。また、上記実施形態における圧力バランス式の第一の作動弁において、電気アクチュエータとして電磁ソレノイドの代わりにピエゾ素子又は超磁歪素子等を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明の一実施形態に係る排気弁駆動制御装置の断面図である。
【図2】排気弁のリフト量と、排気弁に作用する力及び力積との関係を示すグラフである。
【図3】排気弁のリフト量と全閉までに要する戻り時間との関係を示すグラフである。
【図4】排気弁の平均移動速度がピストンの移動速度よりも速い場合の閉弁制御内容を説明するための図である。
【図5】排気弁の平均移動速度がピストンの移動速度以下である場合の閉弁制御内容を説明するための図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る排気弁駆動制御装置による閉弁制御内容を示す制御フロー図である。
【図7】本出願人が提案した排気弁の閉弁制御を示す図であり、(a)はピストンの移動速度が排気弁の移動速度よりも遅いときを、(b)はピストンの移動速度が排気弁の移動速度を上回るときを示している。
【符号の説明】
【0122】
1 インジェクタ
2 コモンレール
8 制御装置(ECU)
11 排気弁
18 圧力室
19 排出通路
20 第一の作動弁
21 バランス弁
22 供給通路
23 弁制御室
27 アーマチュア
30 第三の作動弁
32 低圧室
34 第二の作動弁(逆止弁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気弁を閉弁制御する方法であって、
まず、上記排気弁の現在位置と内燃機関の回転速度とを求め、それらに基づいてピストンが上記排気弁の現在位置に到達する時刻を演算し、
その到達時刻よりも前に上記排気弁の閉作動を開始し、
内燃機関の回転速度等に基づいて、上記排気弁とピストンとの間隔が第一所定値となる時刻を演算し、その時刻に達したときに上記排気弁の閉作動を一旦停止し、
内燃機関の回転速度等に基づいて、上記ピストンが上記排気弁の停止位置に到達する時刻を演算し、その到達時刻よりも前に排気弁の閉作動を再開する
ことを特徴とする排気弁駆動制御方法。
【請求項2】
上記排気弁の閉作動の停止及び再開を、上記排気弁とピストンとの間隔が上記第一所定値となる時刻における上記排気弁のリフト量が所定のオーバラップリフト量以下となるまで繰り返し行い、
上記排気弁とピストンとの間隔が上記第一所定値となる時刻における上記排気弁のリフト量が上記オーバラップリフト量以下となった場合、上記排気弁のリフト量が上記オーバラップリフト量と一致したときにその閉作動を一旦停止し、その後、内燃機関のクランク角が所定角度となったときに上記排気弁を全閉まで閉じる
請求項1記載の排気弁駆動制御方法。
【請求項3】
上記排気弁を現在位置から全閉位置まで移動させたとしたときの平均移動速度と、排気弁の現在位置に到達したときのピストンの移動速度とを演算し、上記排気弁の平均移動速度が上記ピストンの移動速度よりも速い場合にのみ上記請求項1又は2記載の制御方法を実行する排気弁駆動制御方法。
【請求項4】
上記排気弁の平均移動速度が、排気弁の現在位置に到達したときのピストンの移動速度以下である場合、
内燃機関の回転速度等に基づいて、ピストンの移動速度が上記排気弁の平均移動速度と一致する時刻と、その時刻における上記ピストンの位置とを演算し、
その演算結果と上記排気弁の平均移動速度等に基づいて、上記ピストンの移動速度が上記排気弁の平均移動速度と一致する時刻において上記排気弁と上記ピストンとの間隔が第二所定値となるために必要な排気弁の閉作動開始時刻を決定し、上記排気弁閉作動開始時刻にて上記排気弁の閉作動を開始する
請求項3記載の排気弁駆動制御方法。
【請求項5】
上記排気弁の現在位置をX0、コンロッド長さをl、ピストンストロークを2rとしたとき、次式8
【数1】

に基づいて、上記ピストンが上記排気弁の現在位置X0に到達するときのクランク角Ac0を算出し、
次いで、現在のクランク角をAcc、内燃機関の回転速度をNeとしたとき、次式10
【数2】

に基づいて、上記ピストンが上記排気弁の現在位置X0に到達する時刻T0を算出する
請求項1〜4いずれかに記載の排気弁駆動制御方法。
【請求項6】
上記排気弁の現在位置をX0、上記排気弁の任意の位置をY、上記排気弁を現在位置X0から任意の位置Yまで閉弁したときに開放されるエネルギをErelease、排気弁の可動部質量をm、予め定められた補正係数をCgain、Coffsetとしたとき、次式11
【数3】

に基づいて、排気弁が現在位置X0から任意の位置Yまで閉弁するのに要する期間T’cyを演算し、その期間T’cyと排気弁の閉作動開始時刻とに基づいて、任意時刻tにおける排気弁の位置を求め、
一方、内燃機関の回転速度をNe、現在のクランク角をAccとしたとき、次式12
【数4】

に基づいて、任意時刻tにおけるクランク角θtを求め、更にコンロッド長さをl、ピストンストロークを2rとしたとき、次式13
【数5】

に基づいて、任意時刻tにおけるピストン位置Xptを求め、
これら任意時刻tにおける排気弁の位置と、任意時刻tにおけるピストン位置Xptとに基づいて、上記排気弁とピストンとの間隔が上記第一所定値となる時刻を決定する
請求項1〜5いずれかに記載の排気弁駆動制御方法。
【請求項7】
上記ピストンが上記排気弁の現在位置に到達するときのクランク角をθt、内燃機関の回転速度をNe、コンロッド長さをl、ピストンストロークを2rとしたとき、次式9、
【数6】

に基づいて、上記排気弁の現在位置に到達したときのピストンの移動速度Vpistonを求める
請求項3〜6いずれかに記載の排気弁駆動制御方法。
【請求項8】
内燃機関の排気弁を開弁させるための加圧された作動流体が供給される圧力室と、上記圧力室に高圧作動流体を供給して上記排気弁を開方向に作動するための高圧作動流体供給手段と、上記圧力室から上記作動流体を排出して上記排気弁を閉方向に作動するための作動流体排出手段と、上記高圧作動流体供給手段及び作動流体排出手段を制御する制御装置とを備え、
上記制御装置は、
上記排気弁を閉弁制御する際に、
まず、上記排気弁の現在位置と内燃機関の回転速度とに基づいてピストンが上記排気弁の現在位置に到達する時刻を演算し、
その到達時刻よりも前に上記排気弁の閉作動が開始するように上記作動流体排出手段に駆動信号を出力し、
内燃機関の回転速度等に基づいて、上記排気弁とピストンとの間隔が所定値となる時刻を演算し、その時刻に達したときに上記排気弁の閉作動が一旦停止するように上記作動流体排出手段に対する駆動信号の出力を一時的に停止し、
内燃機関の回転速度等に基づいて、上記ピストンが上記排気弁の停止位置に到達する時刻を演算し、その到達時刻よりも前に上記排気弁の閉作動が再開するように上記作動流体排出手段に駆動信号を出力する
ことを特徴とする排気弁駆動制御装置。
【請求項9】
上記制御装置は、上記排気弁の閉作動の停止及び再開を、上記排気弁とピストンとの間隔が上記所定値となる時刻における上記排気弁のリフト量が所定のオーバラップリフト量以下となるまで繰り返し行い、
上記排気弁とピストンとの間隔が上記所定値となる時刻における上記排気弁のリフト量が上記オーバラップリフト量以下となった場合、上記排気弁のリフト量が上記オーバラップリフト量と一致したときに上記排気弁の閉作動が一旦停止するように上記作動流体排出手段に対する駆動信号の出力を一時的に停止し、その後、内燃機関のクランク角が所定角度となったときに上記作動流体排出手段に駆動信号を出力して上記排気弁を全閉まで閉じる
請求項8記載の排気弁駆動制御装置。
【請求項10】
上記作動流体排出手段が、上記圧力室からの上記作動流体の排出又は排出停止を切り換えるための作動弁を備え、
上記制御装置は、上記排気弁の閉作動を行うときには上記作動弁に駆動信号を出力してそれを開き、上記排気弁の閉作動を一旦停止するときには上記作動弁に対する駆動信号の出力を停止してそれを全閉する
請求項8又は9記載の排気弁駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−2661(P2006−2661A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179699(P2004−179699)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】