説明

接触子及びその製造方法、ならびに前記接触子を備える接続装置及びその製造方法

【課題】 特に、接触子を支持基板に適切に半田接合でき、さらに、接触信頼性を向上でき、長寿命化を図ることが出来る接触子及びその製造方法、ならびに、接続装置及びその製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】 接触子20は、固定部21と、固定部21から延出形成された弾性腕22とを有する導電性の芯部30の表面側に表面層38が形成された積層構造である。固定部21に形成された前記表面層38は、前記芯部30側から白金族層36及び、Au層37の順に積層されており、前記弾性腕22に形成された前記表面層38は、白金族元素とAuとを有する合金で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICパッケージなどの電子部品の電極と当接する接触子に係り、特に、接触子を支持基板に適切に半田接合でき、さらに、接触信頼性を向上でき、長寿命化を図ることが出来る接触子及びその製造方法、ならびに前記接触子を備える接続装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の特許文献1には、複数のスパイラル状の弾性腕を有する接触子を備えた接続装置が開示されている。ICパッケージなどの電子部品の底面には複数の球状の電極が設けられており、それぞれの電極が弾性腕に弾圧されて、電極と接触子とが一対一の関係で個別に接続される。
【0003】
特許文献1の図4Fには、例えば金(Au)で形成された最表面層(特許文献1では導電性部材40)を有する接触子の断面形状が示されている。
【特許文献1】特開2005−032708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の構成において、電子部品の電極が半田で形成されている場合、電極と接触子との間で金属間化合物が生成され、接触子側へ半田転写が生じるという問題があった。このため接触信頼性に欠け、接続装置の短命化が問題となった。
【0005】
特に接続装置が検査用で、電子部品との間で装着と離脱とが繰り返して行われる用途である場合、上記した従来課題が顕著化した。さらに、接続装置の接触子が弾性変形可能な材質及び形状で形成されているとき、電極は接触子に対して滑り接触する。このような滑り接触では、凝着磨耗が生じることで、上記した従来課題がより顕著化した。
【0006】
一方、最表面層にPd等の白金族元素を用いることで、半田転写量を激減できることがわかっている。しかしながら、触媒作用により、使用環境によっては有機物汚染等が生じ、潤滑油を併用できない等、使用環境が限定されてしまう問題があった。また、最表面層にPd等の白金族元素を用いた場合、支持面と接触子間を適切に半田接合できないといった問題があった。
【0007】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、接触子を支持基板に適切に半田接合でき、さらに、接触信頼性を向上でき、長寿命化を図ることが出来る接触子及びその製造方法、ならびに、接続装置及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電子部品の半田で形成された電極と電気的に接続される接触子において、
固定部と、前記固定部から延出形成された接続部とを有する導電性の芯部の表面側に表面層が形成された積層構造であり、
前記固定部に形成された前記表面層は、前記芯部側から白金族層あるいは白金族元素を含む合金層及び、Au層の順に積層されており、
前記接続部の少なくとも前記電極と接続する部分での前記表面層は、白金族元素とAuとを有する合金で形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
これにより、固定部と支持面間を適切に半田接合でき、且つ半田転写の改善、接触抵抗の安定性、使用環境の自由度の向上、耐環境特性の向上等を図ることができる。以上により、従来に比べて優れた接触信頼性を得ることができ、長寿命化を図ることが可能になる。
【0010】
本発明では、前記芯部と前記表面層の間には、NiあるいはNi合金からなる金属層、及び、前記金属層中に分散されたフッ素樹脂粒子を有する中間部が形成されていることが好ましい。
【0011】
また本発明では、前記接続部の少なくとも前記電極と接続する部分での前記中間部は、前記フッ素樹脂粒子の一部が前記中間部の表面に露出しており、露出する前記フッ素樹脂粒子の表面を除く前記金属層の表面に前記表面層が形成されていることが好ましい。これにより、より効果的に半田転写を改善できる。
【0012】
また本発明では、前記固定部に形成された前記表面層は、前記芯部側からPd層及び、Au層の順に積層され、前記接続部の少なくとも前記電極と接続する部分での前記表面層は、Pd及びAuの合金で形成されていることが好ましい。極薄のPdO(酸化パラジウム)が形成されて安定化し、触媒作用が抑制される。これにより酸化力の大きい原子状酸素の発生が抑制され、より効果的に、使用環境の自由度の向上を図ることが出来る。
【0013】
また本発明では、前記芯部は、CuあるいはCu合金で形成された導電層を備えることが好ましい。
【0014】
また本発明では、前記接続部は弾性変形可能な弾性腕で形成される構成に特に有効である。
【0015】
また本発明は、電子部品の半田で形成された電極と電気的に接続される接触子を備えた接続装置において、
前記接触子は上記のいずれかに記載された発明により形成され、前記固定部は、支持面に半田接合されていることを特徴とするものである。
【0016】
本発明では、前記接続部に対して、前記電極を有する前記電子部品の装着と離脱とが繰り返し行われる検査用として用いられる場合に特に有効である。電子部品の着脱を繰り返しても、効果的に、電極と接続部間の接続による半田転写を従来に比べて抑制することが出来る。
【0017】
本発明は、電子部品の半田で形成された電極と電気的に接続される接触子の製造方法において、
(a) 固定部と、前記固定部から延出して形成し、前記電極と当接する接続部とを有して成る導電性の芯部と、前記芯部の表面側から白金族層あるいは白金族元素を含む合金層及び、Au層の順に積層された表面層との積層構造にて形成する工程、
(b) 前記接続部の少なくとも前記電極と接続する部分での前記表面層を合金化して、白金族元素とAuとを有する合金層を形成する工程、
を有することを特徴とするものである。
【0018】
上記により、固定部を支持面に適切に半田接合でき、且つ、半田転写の改善、接触抵抗の安定性、使用環境の自由度の向上、耐環境特性の向上等を図ることが可能な接触子を簡単且つ適切に製造できる。
【0019】
本発明では、前記芯部と前記表面層の間に、NiあるいはNi合金からなる金属層、及び、前記金属層中に分散されたフッ素樹脂粒子を有する中間部を形成することが好ましい。
【0020】
また本発明では、前記接続部の少なくとも前記電極と接続する部分での前記中間部の前記金属層の一部をエッチングで削って、前記フッ素樹脂粒子の一部を前記中間部の表面に露出させることが好ましい。これにより中間部の表面に適切にフッ素樹脂粒子の一部を露出させることが出来る。
【0021】
また本発明では、露出する前記フッ素樹脂粒子の表面を除く前記金属層の表面に前記表面層を形成することが好ましい。
【0022】
また本発明では、前記(a)工程で、前記表面層を、前記芯部側からPd層及び、Au層の順に積層し、前記(b)工程で、前記接続部の少なくとも前記電極と接続する部分での前記表面層を合金化して、Pd及びAuの合金層を形成することが好ましい。
【0023】
また本発明では、前記(b)工程で、レーザ光照射により、前記表面層を合金化することが好ましい。これにより簡単且つ適切に表面層を合金化できる。
【0024】
また本発明は、電子部品の半田で形成された電極と電気的に接続される接触子を備える接続装置の製造方法において、
前記接触子を上記のいずれかに記載された発明により形成した後、
前記固定部に形成された前記表面層のAu層と支持面間を半田層にて接合する工程、
を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、接触子の固定部と支持基板間を適切に半田接合し、且つ半田転写の改善、接触抵抗の安定性、使用環境の自由度の向上、耐環境特性の向上等を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は、本実施形態である接続装置の部分断面図、図2は、図1に示す接続装置の接触子付近を示す拡大断面図、図3は、本実施形態の接触子の平面図、図4(a)は、接触子の弾性腕の部分を図3のA−A線に沿って膜厚方向から切断した切断面を示す断面図、図4(b)は、接触子の固定部の部分を図3のB−B線に沿って膜厚方向から切断した切断面を示す断面図、図5は、別の実施形態の弾性腕の断面図、図6は、図5に示す弾性腕の表面付近を拡大した部分拡大断面図、図7は、別の実施形態の弾性腕の部分拡大断面図、である。
【0027】
図1に示す接続装置1は、基台10を有している。基台10の平面形状は例えば四角形状であり、基台10の4辺のそれぞれにはほぼ垂直に立ち上がる側壁部10aが形成されている。4辺の側壁部10aで囲まれた領域は凹部であり、その底部10bの上面が支持面12である。支持面12の上には、接続シート15が設置されている。接続シート15は、例えば、可撓性の基材シート16の表面に複数の接触子20が設けられた構成である。
【0028】
接触子20は、例えば、薄い導電性金属板を打ち抜いて形成され、さらにメッキ処理されたものである。あるいは、接触子20は、銅やニッケルなどの導電性材料を使用してメッキ工程で形成される。
【0029】
それぞれの接触子20は、図2に示すように、外力が与えられて立体形状に形成される。このとき、加熱処理で内部の残留応力が除去され、接触子20は立体形状で弾性力を発揮できるようになる。
【0030】
図2と図3に示すように、接触子20は、固定部21と弾性腕(接続部)22が一体に連続して形成された構成である。弾性腕22は例えば螺旋形状に形成されており、弾性腕22の巻き始端である基部22aが、固定部21と一体化されている。弾性腕22の巻き終端である先端部22bは、螺旋のほぼ中心部に位置している。図2に示す形態では、接触子20を構成している固定部21が基材シート16に固定支持され、弾性腕22は、先端部22bが支持面12から離れるように立体成形されている。
【0031】
なお、接触子20は立体成形されず平面形状であってもよい。また弾性腕22は螺旋形状であることに限定されない。弾性腕22は帯状(直線状)や湾曲形状等であってもよい。また弾性腕22は片側だけが固定部21に支持されているが両側が固定部に支持された構成であってもよい。
【0032】
図2に示すように基台10は接触子20に対する支持基板として機能し、基台10の表面の支持面12に回路パターンが形成されている。あるいは、基台10と、接触子20の間に回路基板が設けられ、この回路基板の表面が接触子20に対する支持面12であってもよい。
【0033】
図2に示すように、接触子20の固定部21は支持面12に形成された図示しない電極パッドと半田層25にて接合されている。半田層25は、例えば、スズ・ビスマス合金や、スズ・銀合金であるが特に限定されるものではない。
【0034】
図1に示すように、接続装置1には、電子部品40が設置される。電子部品40は、ICパッケージなどであり、ICベアチップなどの各種電子素子が本体部41内に密閉されている。本体部41の底面41aには、複数の突出電極42が設けられており、それぞれの突出電極42が本体部41内の回路に導通している。この実施の形態の電子部品40は、突出電極42が球形状である。また、突出電極42は裁頭円錐形状などであってもよい。
【0035】
突出電極42は、スズを含む導電性の合金で形成されている。すなわち、鉛を含まない半田で形成されており、例えばスズ・ビスマス合金や、スズ・銀合金である。半田の組成は限定されない。
【0036】
本実施形態の接続装置1は、例えば、電子部品40の検査用であり、図1に示すように、被検査物である電子部品40が、基台10の凹部内に装着される。このとき、電子部品40は、本体部41の底面41aに設けられた個々の突出電極42が接触子20の上に設置されるように位置決めされる。基台10の上には図示しない押圧用の蓋体が設けられており、この蓋体を基台10上に被せると、この蓋体により電子部品40が矢印F方向へ押圧される。この押圧力により、それぞれの突出電極42が弾性腕22に押し付けられ、立体形状の弾性腕22が押しつぶされて、突出電極42と弾性腕22とが個別に導通させられる。
【0037】
接続装置1がいわゆるバーン・イン検査に使用される場合には、周囲の温度が150℃程度に設定された状態で、外部の検査用の回路から接触子20を経て突出電極42に電流が与えられて、電子部品40の本体部41内の回路が断線しているか否かの検査が行われる。あるいは、接触子20から突出電極42に所定の信号が与えられて、本体部41内の回路の動作試験が行われる。
【0038】
検査が完了した電子部品40は、接続装置1から取り出され、次に検査すべき電子部品40が接続装置1内に設置されて、同様にして検査が行われる。この検査が繰り返される。そのため、接触子20の弾性腕22には、新たな電子部品40の突出電極42が次々に接触することになる。
【0039】
本実施形態では、図4(a)の断面図で示すように、弾性腕22は、芯部30と、この芯部30の表面の全周を覆う表面層38との積層構造で構成される。なお芯部30と表面層38との積層構造は、接触子20の全体を構成している。よって、後述の図4(b)に示すように、固定部21も芯部30と表面層38との積層構造で形成されている。表面層38の厚みは0.1〜1.6μm程度である。
【0040】
芯部30は、導電層31の周囲の全周が弾性層32で覆われたものである。導電層31は、銅(Cu)または銅を含む合金の単層である。銅合金は、高い電気導電度と高い機械的強度を有するCu,Si,Niを有するコルソン合金が好ましく使用される。コルソン合金は、例えばCu−Ni−Si−Mgで、Cuが96.2質量%、Niが3.0質量%、Siが0.65質量%、Mgが0.15質量%のものが使用される。
【0041】
弾性層32は、導電性であり且つ高い機械的強度と高い曲げ弾性係数を発揮する金属材料であり、ニッケル(Ni)層またはNiを含む合金層である。Ni合金は、Ni−X合金(ただしXは、P、W、Mn、Ti、Beのいずれか一種以上)が使用される。弾性層32は、導電層31の周囲に電解メッキまたは無電解メッキを施すことで形成される。弾性層32は、好ましくは無電解メッキで形成されたNi−P合金である。Ni−P合金では、リン(P)の濃度を10at%以上で30at%以下(より好ましくは17〜25at%)とすることにより、少なくとも一部が非晶質となり(好ましくは全体が非晶質)、高い弾性係数と高い引っ張り強度を得ることができる。あるいは、弾性層32はNi−W合金で形成される。この場合もタングステン(W)の濃度を10at%以上で30at%以下とすることにより、少なくとも一部が非晶質となり(好ましくは全体が非晶質)、高い弾性係数と高い引っ張り強度を得ることができる。
【0042】
図4において、弾性層32の断面積は、芯部30の断面積の20%以上で80%以下であることが好ましい。この範囲であると、芯部30が導電性とばね性の双方の機能を発揮できる。また図4の断面図において、芯部30の厚さ寸法および幅寸法は、共に10μm以上で100μm以下であることが好適である。
【0043】
弾性腕22に形成された表面層38は、白金族元素とAuとを有する合金層で形成されている。弾性腕22に形成された表面層38の全てが上記の合金層で形成されていなくてもよい。少なくとも弾性腕22の突出電極42と接続する部分の表面層38が上記の合金層で形成されていればよい。例えば弾性腕22の基部22a付近に突出電極42が接触する可能性は低いので、基部22a付近での表面層38は次に説明する固定部21の表面層38と同じ構造で形成され、基部22a付近を除く弾性腕22の全体が上記の合金層で形成される構造を提供できる。なお当然に弾性腕22を構成する表面層38の全体が上記の合金層で形成されていてもよい。
【0044】
上記したように、接触子20を構成する固定部21の部分も、芯部30と表面層38との積層構造で形成されているが、弾性腕22の部分と違って、表面層38が、白金族層36とAu層37との積層構造で形成されている。白金族層36はAu層37より厚く形成される。白金族層36の厚みは0.1〜1μm程度であり、Au層の厚みは、0.01〜0.6μm程度である。
【0045】
白金族層36は、弾性層32の表面に形成されている。白金族層36は、白金族元素を含む合金層であってもよい。またAu層37は白金族層36の表面に形成され、最表面に露出している。
【0046】
表面層38は、芯部30の表面全体を覆っていることが必須でない。弾性腕22では表面層38が少なくとも突出電極42と接触する部分に設けられ、固定部21では表面層38が少なくとも半田層25と接触する部分に設けられればよい。ただし、芯部30の表面全体を表面層38で覆うことが、簡単な製造工程を実現できるし、また芯部30の表面全体を表面層38で覆ったほうが耐環境性等を向上できて好適である。
【0047】
上記したように、弾性腕22の表面層38は白金族元素とAuとを有する合金層で形成されるが、合金層は白金族元素とAuのみで構成されても、他の元素を含んでもどちらでもよい。表面層38に占める白金族元素は50〜99.5at%(好ましくは99at%以下)の範囲内であることが好適である。また表面層38に占めるAuは0.5〜50at%(好ましくは1at%以上)の範囲内であることが好適である。
【0048】
本実施形態では、白金族元素としてはPdを用いることが好適である。よって表面層38はPdとAuとの合金層で形成されることが好適である。
【0049】
これにより、突出電極42との接触抵抗を効果的に低減できる。また表面層38に白金族元素を含むことで半田転写量を低減できる。また、白金族元素とAuの標準電極電位は、Auのほうが白金族元素より大きい。このため、表面層38に含有された白金族元素は、金属酸化物(白金族元素がPdであればPdO)を形成し安定化する。よって表面層38の触媒作用は抑制され、酸化力が大きい原子状酸素の発生等を効果的に抑制できる。
【0050】
また、芯部(特に、CuあるいはCu合金で形成された導電層31)を構成する元素の表面付近での拡散腐食は、白金族元素を含有する表面層38の形成により効果的に抑制することができる。
【0051】
以上により、弾性腕22を構成する表面層38を、白金族元素とAuを有する合金層で形成することで、半田転写の改善、接触抵抗の安定性、使用環境の自由度の向上、耐環境特性の向上等を図ることができる。よって、従来に比べて優れた接触信頼性を得ることができ、長寿命化を図ることが可能になる。
【0052】
一方、固定部21を構成する表面層38は、図4(b)に示すように、白金族層36とAu層37との積層構造で形成され、Au層37が最表面に露出する。仮に白金族層36が露出した状態であると支持面12に形成された電極パッドとの間で適切に半田接合できないが、本実施形態では、Au層37が最表面に露出することで半田との濡れ性を向上させることができ、強固に半田接合することが可能になる。
【0053】
固定部21を構成する表面層38のAu層37は非常に薄く、白金族層36の表面に網目状あるいは島状で形成される等、白金族層36の表面全体を覆っていない形態も含まれる。
【0054】
なお物の形態として限定されるわけでないが、例えば弾性腕22に形成された表面層38は、最初、固定部21と同様に、白金族層36とAu層37との積層構造で形成され、YAGレーザ照射等による熱エネルギーにより、合金化されたものである。これにより簡単な製造方法で、弾性腕22に形成された表面層38をAuと白金族元素との合金層で形成できると共に、固定部21に形成された表面層38を白金族層36とAu層37との積層構造で形成できる。
【0055】
図5に示す実施形態では、表面層38と芯部30の間に中間部33が設けられている。
図6に示すように、中間部33は、金属層34と、金属層34中に分散された多数のフッ素樹脂粒子35を有して構成される。
【0056】
金属層34は、NiまたはNi合金で形成される。Ni合金は、Ni−X合金(ただしXは、P、W、Mn、Ti、Beのいずれか一種以上)が好ましく使用される。金属層34をNi合金で形成する場合、弾性層32と同様にNi−P合金やNi−W合金で形成することが好適である。金属層34中に占めるNi−P合金及びNi−W合金のP及びWの濃度を10at%以上で30at%以下(好ましくは17〜25at%)の範囲内にて調整する。そして、金属層34は、弾性層32と同じように機能するために、非晶質であることが好適である。
【0057】
フッ素樹脂粒子35は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で形成される。
【0058】
フッ素樹脂粒子35は、図6に示すように、中間部33の表面33aに露出している。中間部33の表面33aに露出しているのは一部のフッ素樹脂粒子35であり、図6のように中間部33の内部に完全に埋もれているフッ素樹脂粒子35があってもよい。フッ素樹脂粒子35の一部は、中間部33の表面33aから突出していることが好適である。
【0059】
また図6の形態では、中間部33の平均膜厚はフッ素樹脂粒子35の平均粒径以上となっている。中間部33の平均膜厚とは、中間部33の全域(金属層34が存在するかフッ素樹脂粒子35が存在するかは問わない)での膜厚を平均化したものであるが、実際には任意に定めた複数の測定点での膜厚を平均化して中間部33の平均膜厚を求める。中間部33の平均膜厚はフッ素樹脂粒子35の平均粒径より小さくてもよい。しかしながら、それにより、フッ素樹脂粒子35の表面33aからの突出量が大きくなりすぎて接触信頼性が低下することと、絶対的な金属層34の量が減ることで中間部33と芯部30間の接合強度が低下しやすくなる。よって、中間部33の平均膜厚をフッ素樹脂粒子35の平均粒径以上に調整することが好適である。
【0060】
フッ素樹脂粒子35の平均粒径は0.1〜5μm程度であることが好ましい。フッ素樹脂粒子35は、球状、半楕円球状、鱗片状等、特に限定しないが、フッ素樹脂粒子35が球状以外の形態である場合には、長径、長辺の長さの平均を、「平均粒径」と設定する。フッ素樹脂粒子35の平均粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)にて複数個のフッ素樹脂粒子35の粒径を測定し、その平均を算出して特定したものである。
【0061】
また中間部33の平均膜厚は、0.5〜6μm程度であることが好適である。
またフッ素樹脂粒子35は、中間部33中に10〜50vol%含まれることが好適である。これにより、中間部33を設けた効果を大きくでき、しかも、中間部33と電子部品の突出電極42間の導通性を適切に確保できる。
【0062】
図6に示す実施形態では、中間部33の表面33aに露出する金属層34の表面に表面層38が形成される。すなわち表面層38は、露出するフッ素樹脂粒子35の表面には形成されない。
【0063】
上記した中間部33を導電性の芯部30の表面に形成することで、フッ素樹脂粒子35の金属に対する反発機能や分離・剥離機能(金属に対する非付着性)が適切に作用し、より効果的に、半田転写量を低減することが出来る。
【0064】
図6では、中間部33の表面全体が表面層38で覆われていない。図6では表面層38は中間部33の表面に露出した金属層34の表面に形成され、表面層38の平面形状は例えば網目状となっている。中間部33を設けた効果は、弾性腕22にて発揮される。すなわち固定部21では、半田接合性を高めることが重要であるので、中間部33を弾性腕22だけに設ける形態であってもよい。
【0065】
一方、図7に示す実施形態は、図6と違って、中間部33の表面全体が表面層38で覆われている。図7に示す形態では、中間部33を構成するフッ素樹脂粒子35と表面層38との密着性は低い。よって、弾性腕22に半田で形成された突出電極42が当接し、表面層38と突出電極42との間で転写が生じても、フッ素樹脂粒子35の表面にある表面層38が突出電極42側に転写されやすく、弾性腕22側への半田転写は起こしにくくなる。なおフッ素樹脂粒子35の表面にある表面層38が除去されてしまうと図6とほぼ同様の形態となる。
【0066】
本実施形態では、接触子20には弾性変形可能な弾性腕22が設けられる。この弾性腕22が電子部品40の突出電極42と当接する。図1のように、電子部品40を矢印F方向へ押圧することで、弾性腕22が押しつぶされて、突出電極42と弾性腕22とが導通させられる。このとき、突出電極42は弾性腕22に対して滑り接触する。本実施形態では、このような滑り接触においても、凝着磨耗を防ぎ、よって、接触信頼性を向上でき、長寿命化を図ることが出来る。
【0067】
次に本実施形態の特に接触子20の製造方法について説明する。
まず接触子20を固定部21と、固定部21から延出する弾性腕22の平面形状(例えば図3の形状)を備える導電性の芯部30を形成する。例えば、導電層31を銅板あるいは銅合金板をエッチングにて図3に示す平面形状に形成し、銅板あるいは銅合金板の表面に例えば無電解メッキによりNiP合金より成る弾性層32をメッキ形成する。
【0068】
続いて、弾性層32の表面全体に白金族層36をメッキ形成する。さらに白金族層36の表面にAu層37をメッキ形成する。白金族層36とAu層37とで表面層38が構成される。白金族層36は、白金族元素を含む合金層であってもよい。また白金族層36はPd層であることが好ましい。
【0069】
次に、図8に示すように弾性部22に形成された表面層38を、例えばYAGレーザ光の照射により合金化して、白金族元素とAuを有する合金層を形成する。なおレーザ光照射以外に熱照射であってもよいが、合金化を効果的に促進させるにはレーザ光照射を用いることが好適である。
【0070】
上記のようにレーザ光を弾性腕22に対して照射し、固定部21に照射していない。よって固定部21の表面層38は白金族層36とAu層37との積層構造を維持している。
【0071】
次に、例えば弾性腕22を図2のように立体成形する。そして、図2に示すように、接触子20の固定部21を支持面12の電極パッド上に半田層25を介して接合する。
【0072】
また金属層34とフッ素樹脂粒子35を有する中間部33を芯部30の表面に形成してもよい。この中間部33は弾性腕22の部分だけに形成されてもよい。このとき図9に示すように、中間部33の表面からフッ素樹脂粒子35の露出が少ない場合には、中間部33を設けた効果が小さくなってしまうので図10のように例えばエッチングにより金属層34の表面を除去して、フッ素樹脂粒子35の一部を中間部33の表面から突出させる。フッ素樹脂粒子35の突出量は例えば粒径の半分程度までとする。
【0073】
続いて、図11に示すように、中間部33上に、白金族層36及びAu層37を形成し、図8で説明したように弾性腕22に形成された表面層38を合金化する。
【0074】
図11では、中間部33の表面全体に白金族層36を形成しているが、金属層34の表面にだけ白金族層36を電気メッキ法にてメッキ形成することも出来る。
【0075】
図1のように複数の接触子20を備えた接続シート15を形成するには、例えば銅板からエッチングにて接触子20形状を形成した後、各接触子20の固定部21を基材シート16に接合する。その後、表面層38のメッキ形成や立体成形等を行う。
【0076】
以上の製造方法によれば、固定部21を支持面に適切に半田接合でき、且つ、半田転写の改善、接触抵抗の安定性、使用環境の自由度の向上、耐環境特性の向上等を図ることが可能な接触子20及び接続装置1を適切且つ簡単に製造することが出来る。
【0077】
なお、本実施形態での接触子20は図1に示す接続装置1以外の用途に使用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本実施形態である接続装置の部分断面図、
【図2】図1に示す接続装置の接触子付近を示す拡大断面図、
【図3】本実施形態の接触子の平面図、
【図4】(a)は、接触子の弾性腕の部分を図3のA−A線に沿って膜厚方向から切断した切断面を示す断面図で、(b)は、接触子の固定部の部分を図3のB−B線に沿って膜厚方向から切断した切断面を示す断面図、
【図5】別の実施形態の弾性腕の断面図、
【図6】図5に示す弾性腕の表面付近を拡大した部分拡大断面図、
【図7】別の実施形態の弾性腕の部分拡大断面図、
【図8】接触子の製造工程を示す接触子の断面図、
【図9】芯部の表面に中間部を形成する場合の、接触子の製造工程を示す接触子の断面図、
【図10】図9の次に行われる一工程図(断面図)、
【図11】図10の次に行なわれる一工程図(断面図)、
【符号の説明】
【0079】
1 接続装置
10 基台
12 支持面
15 接続シート
16 基材シート
20 接触子
21 固定部
22 弾性腕
30 芯部
31 導電層
32 弾性層
33 中間部
34 金属層
35 フッ素樹脂粒子
36 白金族層
37 Au層
38 表面層
40 電子部品
42 突出電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品の半田で形成された電極と電気的に接続される接触子において、
固定部と、前記固定部から延出形成された接続部とを有する導電性の芯部の表面側に表面層が形成された積層構造であり、
前記固定部に形成された前記表面層は、前記芯部側から白金族層あるいは白金族元素を含む合金層及び、Au層の順に積層されており、
前記接続部の少なくとも前記電極と接続する部分での前記表面層は、白金族元素とAuとを有する合金で形成されていることを特徴とする接触子。
【請求項2】
前記芯部と前記表面層の間には、NiあるいはNi合金からなる金属層、及び、前記金属層中に分散されたフッ素樹脂粒子を有する中間部が形成されている請求項1記載の接触子。
【請求項3】
前記接続部の少なくとも前記電極と接続する部分での前記中間部は、前記フッ素樹脂粒子の一部が前記中間部の表面に露出しており、露出する前記フッ素樹脂粒子の表面を除く前記金属層の表面に前記表面層が形成されている請求項2記載の接触子。
【請求項4】
前記固定部に形成された前記表面層は、前記芯部側からPd層及び、Au層の順に積層され、前記接続部の少なくとも前記電極と接続する部分での前記表面層は、Pd及びAuの合金で形成されている請求項1ないし3のいずれかに記載の接触子。
【請求項5】
前記芯部は、CuあるいはCu合金で形成された導電層を備える請求項1ないし4のいずれかに記載の接触子。
【請求項6】
前記接続部は弾性変形可能な弾性腕で形成される請求項1ないし5のいずれかに記載の接触子。
【請求項7】
電子部品の半田で形成された電極と電気的に接続される接触子を備えた接続装置において、
前記接触子は請求項1ないし6のいずれかに記載された発明により形成され、前記固定部は、支持面に半田接合されていることを特徴とする接続装置。
【請求項8】
前記接続部に対して、前記電極を有する前記電子部品の装着と離脱とが繰り返し行われる検査用として用いられる請求項7記載の接続装置。
【請求項9】
電子部品の半田で形成された電極と電気的に接続される接触子の製造方法において、
(a) 固定部と、前記固定部から延出して形成し、前記電極と当接する接続部とを有して成る導電性の芯部と、前記芯部の表面側から白金族層あるいは白金族元素を含む合金層及び、Au層の順に積層された表面層との積層構造にて形成する工程、
(b) 前記接続部の少なくとも前記電極と接続する部分での前記表面層を合金化して、白金族元素とAuとを有する合金層を形成する工程、
を有することを特徴とする接触子の製造方法。
【請求項10】
前記芯部と前記表面層の間に、NiあるいはNi合金からなる金属層、及び、前記金属層中に分散されたフッ素樹脂粒子を有する中間部を形成する請求項9記載の接触子の製造方法。
【請求項11】
前記接続部の少なくとも前記電極と接続する部分での前記中間部の前記金属層の一部をエッチングで削って、前記フッ素樹脂粒子の一部を前記中間部の表面に露出させる請求項10記載の接触子の製造方法。
【請求項12】
露出する前記フッ素樹脂粒子の表面を除く前記金属層の表面に前記表面層を形成する請求項11記載の接触子の製造方法。
【請求項13】
前記(a)工程で、前記表面層を、前記芯部側からPd層及び、Au層の順に積層し、前記(b)工程で、前記接続部の少なくとも前記電極と接続する部分での前記表面層を合金化して、Pd及びAuの合金層を形成する請求項9ないし12のいずれかに記載の接触子の製造方法。
【請求項14】
前記(b)工程で、レーザ光照射により、前記表面層を合金化する請求項9ないし13のいずれかに記載の接触子の製造方法。
【請求項15】
電子部品の半田で形成された電極と電気的に接続される接触子を備える接続装置の製造方法において、
前記接触子を請求項9ないし14のいずれかに記載された発明により形成した後、
前記固定部に形成された前記表面層のAu層と支持面間を半田層にて接合する工程、
を含むことを特徴とする接続装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−44983(P2010−44983A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209482(P2008−209482)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】