説明

接近通報用のレーダ波中継装置および表示装置

【課題】見通しの悪い交差点などにおける車両(移動物体)の出会い頭の衝突を防止する。
【解決手段】移動物体からのレーダ波を受信し、受信したレーダ波を当該レーダ波が送信されてきた方向とは異なる方向に変更して送信し、送信したレーダ波の反射波を受信し、受信した該反射波を該移動物体に向けて送信し、該レーダ波を受信したのち、該レーダ波の送信周期と当該レーダ波中継装置1B内の遅延時間とに基づく遅延時間分、該レーダ波についての反射波の送信を遅延させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定箇所に接近する移動物体の存在を他の移動物体に通報するためのレーダ波中継装置および表示装置に関し、特に、見通しの悪い交差点などの場所において車両の出会い頭の衝突を防止するのに用いて好適な、接近通報用のレーダ波中継装置および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
見通しの悪い交差点への進入車に、他方向からの進入車の存在を知らせる方法としては、例えば、カーブミラー(凸面鏡)による方法や、特開平8−106600号公報などで提案されているように、交差点の手前に超音波や光線あるいは赤外線などのセンサを設置して進入車両の存在を探知してそれを運転者(ドライバ)の視認しやすい位置に設置した表示装置に表示する方法などがある。
【特許文献1】特開平8−106600号公報
【特許文献2】特開平5−20599号公報
【特許文献3】特開平7−105500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前者のカーブミラーによる方法では、交差点に進入する人や車とカーブミラーの位置関係によっては、死角となって見えない部分が生じたり、風による方向のずれなどが生じやすい。また、雨や霧等の悪天候状況下ではカーブミラー自体を視認することが困難な場合もある。
一方、後者の方法では、接近車両の存在は分かっても、その速度を測定することができない。このため、交差点付近に駐車中の車両が存在する場合、それを進入車両と誤認してしまうことになる。これを回避するには、例えば、上記のセンサを、交差点付近に距離をおいて列状に複数設置して、これらのセンサ間の車両2の通過時間を測定できるようにすることが考えられるが、これでは、センサを設置する場所の確保・工事などに非常に労力がかかり、しかも、大規模で複雑なシステム構成になってしまう。
【0004】
なお、車両などの移動物体の衝突を防止する手法としては、代表的なものに、ミリ波レーダを車両に搭載し、そのミリ波レーダの反射波から前方障害物(車両)の存在を運転者に通知する手法があるが、この手法では、ミリ波の指向性が強いため、そのままでは、交差点へ他の方向から進入してくる車両の存在を検知することはできない。
そこで、例えば、特開平5−20599号公報や特開平7−1055500号公報などで示されるように、交差点側に検出装置(レーダ)を設置して交差点に接近してくる車両を検知できるようにしておき、接近車両が検知されると、その車両への方向以外の方向に対してその旨を警告灯や表示器により通知することも考えられているが、この手法では、交差点側に設置した検出装置内にレーダ波を発信する機能(電源や発信機)が必要なため、装置の大型化や故障発生率の増大,これに伴うメンテナンス作業労力の増大などを招いてしまう。
【0005】
本発明は、以上のような課題に鑑み創案されたもので、例えば、見通しの悪い交差点などにおける車両(移動物体)の出会い頭の衝突を、停車中の車両を進入車両と誤認することなく、確実に防止することができ、しかも、故障率の低い、接近通報用のレーダ波中継装置および表示装置を小型、且つ、安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
例えば、以下の手段を用いる。
(1)接近通報用のレーダ波中継装置であって、移動物体からのレーダ波を受信するレーダ波受信部と、該レーダ波受信部にて受信されたレーダ波を当該レーダ波が送信されてきた方向とは異なる方向に変更して送信しうる受信レーダ波送信方向変更部と、該受信レーダ波送信方向変更部から送信されたレーダ波の反射波を受信する反射波受信部と、該反射波受信部で受信された該反射波を該移動物体に向けて送信する反射波送信部と、該レーダ波受信部にて該レーダ波が受信されたのち、該レーダ波の送信周期と当該レーダ波中継装置内の遅延時間とに基づく遅延時間分、該レーダ波についての反射波の送信を遅延させる遅延調整器と、をそなえた接近通報用のレーダ波中継装置を用いることができる。
【0007】
(2)さらに、接近通報用の表示装置であって、移動物体から受信したレーダ波を当該レーダ波が送信されてきた方向とは異なる方向に位置する各移動物体の移動方向に対応づけられた偏波面にそれぞれ変更して送信しうるレーダ波中継装置によって中継されてきた中継レーダ波を受信する中継レーダ波受信部をそなえ、さらに、該中継レーダ波受信部が、該レーダ波中継装置からの受信レーダ波の偏波面を識別する偏波面識別部をそなえ、前記接近通報用の表示装置が、該偏波面識別部にて識別された偏波面に対応する、前記移動物体の移動方向についての情報を表示する表示部、をそなえた接近通報用の表示装置を用いることができる。
【0008】
また、本発明に関連する技術の接近通報用のレーダ波中継装置は、移動物体からのレーダ波を受信するレーダ波受信部と、このレーダ波受信部にて受信されたレーダ波を当該レーダ波が送信されてきた方向とは異なる方向に変更して送信しうる受信レーダ波送信方向変更部とをそなえて成ることを特徴としている。
ここで、上記レーダ波中継装置(以下、単に「中継装置」ともいう)は、上記の構成に加えて、さらに、上記の受信レーダ波送信方向変更部から送信されたレーダ波の反射波を受信する反射波受信部と、この反射波受信部で受信された反射波を上記の移動物体に向けて送信する反射波送信部とをそなえていてもよい。
【0009】
また、上記の受信レーダ波送信方向変更部は、上記のレーダ波受信部にて受信されたレーダ波の偏波面を異なる偏波面に変換する偏波面変換部をそなえていてもよい。
さらに、上記中継装置には、上記のレーダ波受信部にて上記パルス波が受信されたのち、そのパルス波についての反射波が上記の反射波送信部から送信されるまでの遅延時間を調整する遅延調整器が設けられていてもよい。
【0010】
また、本発明に関連する技術の接近通報用のレーダ波中継装置は、移動物体からのレーダ波を受信するレーダ波受信部と、このレーダ波受信部で受信されたレーダ波を上記の移動物体に向けて折り返し送信する折り返し送信部と、この折り返し送信部から送信された折り返しレーダ波の上記の移動物体での反射波を受信する反射波受信部と、上記の折り返しレーダ波と反射波とから上記移動物体の速度情報を検出する速度情報検出部と、この速度情報検出部にて検出された速度情報を上記のレーダ波が送信されてきた方向とは異なる他方向から受信されるレーダ波に付加して当該他方向へ送信する速度情報付加送信部とをそなえて成ることを特徴としている。
【0011】
次に、本発明に関連する技術の接近通報用の表示装置は、移動物体から受信したレーダ波を当該レーダ波が送信されてきた方向とは異なる方向に変更して送信しうるレーダ波中継装置によって中継されてきた中継レーダ波を受信する中継レーダ波受信部と、この中継レーダ波受信部で受信された中継レーダ波から移動物体の速度情報を検出する速度情報検出部と、この速度情報検出部にて検出された速度情報を表示する表示部とをそなえて成ることを特徴としている。
【0012】
ここで、上記表示装置は、上記の速度情報検出部にて検出された速度情報が所定のしきい値以上である場合にのみその速度情報を上記の表示部に供給する速度情報マスク部をそなえていてもよい。
また、上記の中継レーダ波受信部は、上記のレーダ波中継装置からの受信レーダ波の偏波面を識別する偏波面識別部をそなえるとともに、上記の表示部は、この偏波面識別部にて識別された偏波面に応じて上記の移動物体の移動方向についての情報を表示するように構成されていてもよい。
【0013】
さらに、本発明に関連する技術の接近通報用の表示装置は、移動物体の存在を発光表示する移動物体存在表示用の発光部と、その移動物体の速度情報に応じて発光色もしくは発光状態が変化する速度情報表示用の発光部とをそなえていることを特徴としている。
また、本発明に関連する技術の接近通報用の表示装置は、移動物体が進入しうる地点についての情報を表示するための地点表示領域と、この地点表示領域において、移動物体の存在と移動方向とを発光表示するとともに、その移動物体の移動速度に応じて発光色もしくは発光状態が変化する方向・速度表示用の発光部とをそなえていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の接近通報用のレーダ波中継装置によれば、移動物体からのレーダ波を受信し、その受信レーダ波の送信方向をそのレーダ波が送信されてきた方向とは異なる方向に変更しうるので、次のような利点が得られる。
(1)例えば、見通しの悪い交差点などに本中継装置を設置するだけで、既存のレーダをそのまま活かして、移動物体に対して他方向からの移動物体の存在(接近)を通報でき、交差点での移動物体の出会い頭の衝突事故を確実に防止することができる。
【0015】
(2)レーダを搭載した移動物体は、他方向から接近してくる他の移動物体の有無だけではなく、その移動物体の速度をも検知することができるので、停止中の移動物体を接近中と誤認識することが無い。
(3)レーダ波を利用するので、天候などにも影響されない。
(4)受信レーダ波の送信方向を変えるだけでよいので、発信機や電源回路などの能動回路は用いずに、全て受動回路で構成することが可能であり、大幅な小型化及び低コスト化が可能である。
【0016】
(5)電源供給の必要が無いので、設置が容易であり、また、故障の発生率も発信機や電源回路をそなえる場合に比して大幅に軽減できるので、メンテナンスなどの作業労力も低減することができる。
ここで、本レーダ波中継装置は、送信方向を変更して送信したレーダ波の反射波を受信し、その反射波を上記の移動物体に向けて送信するようにしてもよく、このようにすれば、移動物体は、自身のレーダのレーダ波のみを用いて(他の移動物体がレーダの送信周波数やレーダの搭載/未搭載によらず)、他の移動物体の存在,速度を検知することができるので、衝突防止システムを柔軟に構築できる。
【0017】
また、本レーダ波中継装置は、受信レーダ波の偏波面を元の偏波面とは異なる偏波面に変換する偏波面変換部をそなえていてもよく、このようにすれば、対向する移動物体から直接届くレーダ波との干渉を防止しながら、他方向からの移動物体の存在,速度を検知することができる。
さらに、本レーダ波中継装置には、移動物体からのレーダ波が受信されたのち、そのレーダ波についての反射波を同じ移動物体に送信するまでの遅延時間を調整する遅延調整器を設けてもよい。このようにすれば、移動物体は、他の移動物体までの距離をも正確に検知することが可能となる。
【0018】
また、本発明のレーダ波中継装置によれば、移動物体からのレーダ波を、その移動物体に向けて折り返し送信し、その反射波と上記の折り返しレーダ波とから移動物体の速度情報を検出し、その速度情報を上記のレーダ波が送信されてきた方向とは異なる他方向から受信されるレーダ波に付加して当該他方向へ送信するので、移動物体は、自身のレーダ波の送信周波数と他の移動物体のレーダ波の送信周波数とが異なる場合でも、他の移動物体の正確な速度を検出することが可能である。従って、他方向からの移動物体の接近を確実に認識して、衝突事故を回避することができる。また、この場合も、本レーダ波中継装置は、受動回路で構成できるので、その故障率も大幅に低減されるとともに、低コスト化を図ることができる。
【0019】
さらに、本発明に関連する技術の接近通報用の表示装置は、移動物体から受信したレーダ波をそのレーダ波が送信されてきた方向とは異なる方向に変更して送信しうるレーダ波中継装置によって中継されてきた中継レーダ波を受信し、その中継レーダ波から移動物体の速度情報を検出し、その速度情報を表示するので、レーダを搭載していない移動物体に対しても他方向からの移動物体の接近と速度とを通報することができる。また、移動物体だけでなく、付近の歩行者などにも同様の通報を行なって注意を促すことができる。
【0020】
ここで、検出した上記の速度情報が所定のしきい値以上である場合にのみその速度情報を表示するようにしてもよく、このようにすれば、停止中の移動物体についての表示を除外することができ、停止中の移動物体が接近していると誤認することがない。
また、レーダ波中継装置からの受信レーダ波の偏波面を識別して、その偏波面に応じて移動物体の移動方向についての情報を表示するようにすれば、移動物体の接近,速度だけでなく、その接近方向までをも通報することができるので、より確実に衝突事故の発生を防止することができる。
【0021】
ここで、本発明に関連する技術の表示装置では、移動物体の存在を発光表示するとともに、その速度に応じて発光色もしくは発光状態を変化させるようにすることもでき、このようにすれば、夜間や悪天候などの視界の悪い条件下においても、移動物体の存在と速度とを確実に通報することができるので、さらに、移動物体の衝突事故などを効果的に防止することができる。
【0022】
また、本発明に関連する技術の表示装置では、移動物体の進入しうる地点の情報を表示するとともに、その地点へ接近する移動物体の存在と速度とを発光表示し、且つ、その発光色もしくは発光状態を移動物体の速度に応じて変化させるようにすることもでき、このようにすることで、移動物体がどの方向からどの位の速度で上記の地点に接近してくるかを、夜間や悪天候などの視界の悪い条件下においても、確実に知らせることができるので、さらに、移動物体の衝突事故などを効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(A)第1実施形態の説明
図1は本発明の第1実施形態としての接近通報用のレーダ波中継装置が適用される衝突防止システムを説明するための模式図で、この図1に示す衝突防止システムでは、道路A〜Dの交差点中央に設置されたレーダ波中継装置1において、その交差点に進入してくる車両(移動物体)2が搭載している衝突防止レーダ〔例えば、CW(Continuous Wave)レーダ〕からのレーダ波を受信し、そのレーダ波が送信されてきた方向以外の方向(道路)に向けて再放射(中継送信)することが行なわれるようになっている。なお、「衝突防止レーダ」とは、自身の送信レーダ波と、その送信レーダ波が他車両2などの障害物で反射してきた反射波とのドップラー効果による周波数ずれ(ドップラーシフト)から、自車両2の前方に速度をもった障害物が存在することを検知できるものである。
【0024】
このため、本実施形態のレーダ波中継装置(以下、単に、「中継装置」もしくは「中継器」という)1は、例えば図2に示すように、各道路A〜D方向用の、受信アンテナ11A〜11D,分配器12A〜12D,合成器13A〜13D,サーキュレータ14A〜14D,偏波面変換器15A〜15D及び送信アンテナ16A〜16Dをそなえて構成されている。なお、以下において、これらの各構成要素の道路A〜D方向を特に区別しない場合は、受信アンテナ11,分配器12といった具合に、符号A〜Dを省略して表記する。
【0025】
ここで、受信アンテナ(レーダ波受信部)11A〜11Dは、それぞれ、道路A〜Dを交差点に向かって進入してくる車両2から送信されたレーダ波(以下、車載レーダ波ともいう)を受信するためのものであり、分配器12A〜12Dは、それぞれ、対応する受信アンテナ11A〜11Dで受信されたレーダ波を3分岐して、それぞれを自担当の道路方向を除く他の3方向用の合成器13へ出力するものである。
【0026】
また、合成器13A〜13Dは、それぞれ、自担当の道路方向用の分配器12を除く他の道路方向用の分配器12から分配されてくる3系統の受信レーダ波を合成するものであり、サーキュレータ14A〜14Dは、それぞれ、対応する合成器13A〜13Dで合成されたレーダ波のみを通過させて、同じ道路方向用の受信アンテナ11で受信されたレーダ波が送信アンテナ16側に回り込まないようにするためのものである。
【0027】
さらに、偏波面変換器15A〜15Dは、それぞれ、対応するサーキュレータ14からのレーダ波の偏波面を90°回転させるためのもので、例えば図3(A)および図3(B)に示すようなひねり導波管によって実現できる。そして、送信アンテナ16A〜16Dは、それぞれ、各道路A〜D方向へ偏波面変換器15A〜15Dによる偏波面変換後のレーダ波を再放射するものである。
【0028】
つまり、上記の分配器12や合成器13,サーキュレータ14,偏波面変換器15,送信アンテナ16を含む部分は、受信アンテナ11にて受信された車載レーダ波を元の方向(その車載レーダ波が送信されてきた方向)とは異なる方向(1方向以上)に変更して送信(中継)しうる受信レーダ波送信方向変更部として機能するのである。
このように、本実施形態の中継装置1は、受信レーダ波をそのレーダ波が送られてきた方向以外の道路方向へ再放射するのに、発信機や電源などの能動回路を用いずに構成することができる。
【0029】
ところで、上述のように受信レーダ波の偏波面を回転させて再放射する必要があるのは、現在実用化されている車載レーダでは、対向車からのレーダ波との干渉を避けるために、偏波面を傾けていることに起因する。即ち、例えば、送信レーダ波の直線偏波の偏波面を45°に傾けておけば、自車と対向車との受信偏波面の差は90°となり直交するので干渉が軽減されるが、このように偏波面の傾いた受信レーダ波を、中継装置1において、そのまま(偏波面を変えずに)中継すると、その中継レーダ波が受信されるべき車両2では、自車2の受信偏波面と中継レーダ波の偏波面とが直交するので、中継レーダ波を受信できないのである。
【0030】
そこで、本実施形態では、上述したように、中継装置1からレーダ波を再放射する際には、偏波面変換器(偏波面変換部)15A〜15Dにより、受信レーダ波の偏波面を90°回転させて、道路側からみたときの送信偏波面が受信偏波面と同一になるよう変換する。つまり、受信レーダ波の偏波面を元の偏波面とは異なる偏波面に変換する。
例えば、各車両2の送信偏波面及び受信偏波面がそれぞれ右上がり(45°)に傾いている場合、図4(A)及び図4(B)に示すように、各道路A〜D方向からの受信レーダ波の偏波面(道路A〜D側から見て右上がり)を90°回転させることで、中継器1の各道路A〜Dから見たときの送信偏波面及び受信偏波面もそれぞれ右上がりに傾ける。
【0031】
これにより、例えば、図1に示す車両2Aに着目すると、図4(B)中に一点鎖線3で示すように、対向方向(道路C方向)から中継器1を経由せずに届くレーダ波については、偏波面が異なるため、自身(車両2A)が送信したレーダ波の反射波としては受信されないが、中継器1を経由して届いたレーダ波については、その偏波面が自車2Aの受信偏波面と同じに変換されているため、自車2Aが送信したレーダ波の反射波として受信することが可能となる。
【0032】
以下、本中継器1を有する衝突防止システムの動作について詳述する。
例えば、図1において、道路A,Bのそれぞれから車両2A,2Bが交差点へ進入してくるとする。この場合、車両2Aに搭載された衝突防止レーダから送信されたレーダ波は、中継装置1の受信アンテナ11Aで受信され、分配器12Aで3分岐された後、道路A以外の各道路B〜D方向用の合成器13B〜13D、サーキュレータ14B〜14Dを介して偏波面変換器15B〜15Dに入力される。
【0033】
そして、偏波面変換器15B〜15Dにおいてそれぞれ偏波面が90°回転させられた受信レーダ波は、送信アンテナ16B〜16Dから道路B〜Dへ再放射される。ここで、車両2Aの送信レーダ波の周波数(送信周波数)=fa′〔Hz〕,車両2Aの速度=va′〔m/s〕と仮定すると、中継装置1からみた車両2Aからのレーダ波の周波数fa′は、ドップラー効果の式より、
【0034】
【数1】

【0035】
となる。ただし、この式(1)において、cは光速を表わす。
従って、道路B,道路C及び道路D方向には、それぞれ、周波数fa′のレーダ波が再放射されることになる。従って、車両2Bには、車両2Bの受信偏波面に一致する周波数fa′のレーダ波(以下、レーダ波fa′と表記することもある)が届くことになる。ここで、車両2Bのレーダ波の送信周波数=fb〔Hz〕,車両2Bの速度=vb〔m/s〕とすると、このレーダ波fa′の車両2Bからみた周波数fa′(b)は、ドップラー効果の式より、
【0036】
【数2】

【0037】
となる。これを車両2Bの車載レーダにより、自身が送信したレーダ波の周波数fbと比較すれば、ドップラー効果の式より、車両2Aと車両2Bとの相対速度vabが以下のように求まる。
【0038】
【数3】

【0039】
これにより、車両2Bでは、あたかも、交差点方向(付近)に速度vabをもった障害物が存在するようにみえ、車両2Bの運転者に注意を促すことができる。なお、現在、日本国内で実用化されている車載レーダの中心周波数は、ほぼ同一(約59.5GHz)であるが、レーダの固体差やメーカ差などにより周波数誤差が生じ、fa≠fbとなった場合、上記の式(3)で求まる車両2Aと車両2Bとの相対速度vabは実際の相対速度とは若干異なる。ただ、或る程度、正確な速度情報を得ることは可能である。
【0040】
同様に、車両2Bから送信されたレーダ波についても、中継装置1で偏波面が90°回転させられた後、道路A方向に再放射され、このレーダ波を車両2Aが受けることにより、車両2Aでも、あたかも交差点方向(付近)に速度vabをもった障害物(車両2B)が存在しているように見えることになる。以上により、交差点に進入してくる各車両2A,2Bの各運転者に、他方向からの進入車両2B,2Aの存在(接近)を通報して注意を促すことができ、交差点での出会い頭の衝突を未然に回避・防止することが可能になる。
【0041】
なお、道路Cや道路Dからの進入車両2が存在する場合にも、上記と同様にして、運転者に注意を促すことができる。また、運転者への注意の促し方(通報方法)は、警報音などによる聴覚的手段や警報表示などによる視覚的手段によって行なえばよい。さらに、この通報とともに、あるいは、通報は行なわずに、自動的に、車速を減速制御するようにしてもよい。このようにすれば、より確実に、交差点での衝突事故を防止することが可能になる。
【0042】
以上のように、本実施形態の衝突防止システム(中継装置1)によれば、交差点に上記の中継装置1を設置するだけで、既存の車載レーダをそのまま活かして、交差点での車両2の出会い頭の衝突事故を確実に防止することができる。特に、本実施形態では、交差点への進入車両2の有無だけではなく、その進入車両2の速度情報をも検出することができるので、停車中の車両2を進入車両2と誤認識することが無い。また、レーダ波を利用するので、天候などにも影響されない。
【0043】
さらに、本実施形態の中継装置1は、図2により上述したように、発信機や電源回路などの能動回路は用いずに、全て受動回路で構成できるので、大幅な小型化,低コスト化が可能である。しかも、この場合は、電源供給の必要が無いので、設置が容易であり、また、故障の発生率も発信機や電源回路をそなえる場合に比して大幅に軽減できるので、メンテナンスなどの作業労力を低減することができる。なお、測定(検知)距離を伸ばしたい場合には、適宜、車載レーダの出力(送信電力レベル)を大きくしたり、増幅器を設ければ対応可能である。
【0044】
(B)第2実施形態の説明
図5は本発明の第2実施形態としての接近通報用のレーダ波中継装置が適用される衝突防止システムを説明するための模式図で、この図5に示す衝突防止システムでは、道路A〜Dの交差点中央に設置されたレーダ波中継装置1Aにおいて、その交差点に進入してくる車両2Aが搭載している衝突防止レーダ(例えば、CWレーダ)からのレーダ波を、そのレーダ波を送信した車両2Aに折り返し、その反射波を受けることで、車両2Aの速度情報を検知し、その速度情報を他方向から交差点に進入してくる車両2Bの車載レーダのレーダ波に載せてその車両2Bへ折り返すことが行なわれるようになっている。
【0045】
このため、本第2実施形態の中継装置1Aは、例えば図6に示すように、道路A方向用回路10Aとして、受信アンテナ21A,25A,送信アンテナ23A,30A,分配器22A,27A,方向性結合器24A及びミキサ26A,29Aをそなえるとともに、道路B方向用回路10Bとして、同様に、受信アンテナ21B,25B,送信アンテナ23B,30B,分配器22B,27B,方向性合器24B及びミキサ26B,29Bをそなえて構成されている。
【0046】
なお、この図6には図示を省略しているが、これらの道路A方向用回路10Aや道路B方向用回路10Bと同様の構成を有する、道路C方向用回路,道路D方向用回路も設けられているものとし、以下、便宜上、道路C方向用回路には、符号10Cを付記し、道路D方向用回路には符号10Dを付記して、説明を行なう。また、以下では、道路A〜D方向用の区別を行なわない場合には、受信アンテナ21,送信アンテナ23といった具合に、A,Bなどの英文字の表記は省略する場合がある。
【0047】
ここで、上記の各道路A〜D方向用回路10A〜10Dにおいて、受信アンテナ(レーダ波受信部)21は、道路A〜Dから交差点に向かって進入してくる車両2の車載レーダからのレーダ波を受信するためのものであり、分配器22は、この受信アンテナ21で受信されたレーダ波を2分岐するもので、一方は送信アンテナ23を通じて同じ道路方向へ折り返され、他方はミキサ22Aに入力されるようになっている。つまり、上記の送信アンテナ23は、受信アンテナ21で受信された車載レーダ波を同じ道路側に折り返し送信する折り返し送信部として機能する。
【0048】
また、方向性結合器24は、送信アンテナ23を通じて折り返される受信レーダ波の一部を抽出するためのものであり、受信アンテナ(反射波受信部)25は、上記の送信アンテナ23により折り返し送信されたレーダ波の反射波を受信するためのものであり、ミキサ26は、この受信アンテナ25で受信された折り返しレーダ波の反射波と方向性結合器24にて抽出された折り返しレーダ波とをミキシングすることにより、折り返しレーダ波とその反射波との周波数差情報を検出するものである。
【0049】
ここで、この周波数差情報は、車両2Aの移動速度に応じたドップラー効果により生じるものであるから、車両2Aの速度情報を含んでいることになる。つまり、上記のミキサ26は、上記の折り返しレーダ波と反射波とから車両2の速度情報を検出する速度情報を検出する速度情報検出部として機能しており、送信アンテナ23,方向性結合器24,受信アンテナ25,ミキサ26から成る部分は、送信周波数と反射周波数との差から車両2の速度を、発信機などを用いることなく検知するレーダとして機能するのである。
【0050】
そして、分配器27は、このミキサ26で得られた信号(周波数差分情報)を3分岐して、それぞれを他方向の道路方向用回路10へ分配するものであり、合成器28は、他方向の道路方向用回路10の分配器27から分配されてくる3系統の信号を合成するものであり、ミキサ29は、この合成器28の出力と分配器22から分配されてくる受信レーダ波とをミキシングすることにより、受信レーダ波に上記の周波数差情報を付加するものである。
【0051】
また、送信アンテナ30は、このミキサ29の出力を交差点に自担当の道路方向(例えば、送信アンテナ30Aなら道路A方向、送信アンテナ30Bなら道路B方向)から進入してくる車両2に向けて送信するものである。つまり、これらのミキサ29及び送信アンテナ30は、ミキサ26にて検出された速度情報を車載レーダ波が送信されてきた方向とは異なる他方向から受信される車載レーダ波に付加してその方向へ送信する速度情報付加送信部として機能するのである。
【0052】
以下、上述のごとく構成された本第2実施形態の衝突防止システム(中継装置1A)の動作について詳述する。
例えば、この場合も、図5に示すように、道路A及び道路B上を車両2A及び車両2Bがそれぞれ交差点に進入してくると仮定する。なお、車両2Aの速度=va,車両2Aのレーダ波の送信周波数=fa,車両2Bの速度=vb,車両2Bのレーダ波の送信周波数=fbとする。
【0053】
このとき、車両2A(速度va)の車載レーダから放射されたレーダ波(周波数fa)は、前記の式(1)から、中継装置1の受信アンテナ21Aにて周波数fa′のレーダ波(以下、レーダ波fa′と表記することもある)として受信される。
この受信レーダ波fa′は、中継装置1内部で折り返されて、送信アンテナ23Aから車両2Aに向けて再放射される。この折り返しレーダ波(周波数fa′)が車両2Aで反射して戻ってきたレーダ波(反射波)は、周波数fa″〔fa″は前記の式(1)におけるfaにfa′を代入した値)〕で受信アンテナ25Aにて受信される。
【0054】
そして、受信アンテナ25Aで受信された反射波(周波数fa″)は、ミキサ26Aにて、方向性結合器24Aにより抽出される折り返しレーダ波(周波数fa′)とミキシングされる。これにより、これらの反射波と折り返しレーダ波との周波数差情報(速度データ)Δfa(=fa″−fa′=fa′−fa)が得られる。この周波数差情報Δfaは、分配器27Aにて3分岐されて、他の道路B〜D方向用回路10B〜10Dの合成器28に入力される。
【0055】
ここで、道路B方向用回路10Bに着目すると、この道路B方向用回路10Bでは、このように道路A方向用回路10の分配器27Aから入力された周波数誤差情報Δfaと、他の道路方向用回路10C,10Dから同様にして入力される周波数誤差情報(ただし、進入車両2が無い場合は0)とが合成器28Bにて合成され、ミキサ29Bに入力される。
ミキサ29Bでは、この合成器28Bの出力と、受信アンテナ21Bで受信された車両2Bからのレーダ波とをミキシングすることにより、車両2Bからの受信レーダ波(周波数fb′)に、車両2Aからの受信レーダ波を基にして上述のごとく得られた周波数差情報Δfaを付加し、これ(fb′+Δfa)が送信アンテナ30Bを通じて車両2Bに向けて再放射される。なお、上記の周波数fb′は、周波数fa′〔式(1)参照〕と同様にして求められる。
【0056】
車両2Bでは、この周波数fb′+Δfaのレーダ波を中継装置1Aから受けると、周波数差情報Δfaを抽出することで、車両2Aの速度vaを求めることができ、これにより、交差点に速度vaで進入してくる車両2Aの存在を運転者に通報して注意を促すことができる。以上と同様にして、車両2Aでも、車両2Bが交差点に速度vbで進入してくることが運転者に通報される。
【0057】
従って、本実施形態によっても、車両2A,2Bの交差点での出会い頭の衝突事故を確実に防止することができるとともに、お互いに進入車両2の速度を知ることができるので、停車中の車両2を進入(接近)車両2と誤認識することが無い。特に、この場合は、中継装置1にて進入車両2の速度情報(周波数差情報)を求め、それを他方向からの車両2のレーダ波に載せて再放射するので、fa(車両2Aの送信周波数)≠fb(車両2Bの送信周波数)であっても、正確な速度を求められる。つまり、相手車両2の車載レーダの周波数や周波数安定度によらずに、相手車両2の正確な速度を検出することが可能である。
【0058】
なお、道路C,道路Dから進入車両2がある場合も、上記と同様の方法により、Δfc,Δfdが合成器28A,28Bにて車両2B,車両2Aへのレーダ波に付加されるので、車両2A,2Bは、それぞれ、Δfc,Δfdを抽出することで、それぞれの存在と正確な車速とを検知することができる。また、道路C,道路Dを走行中の車両2についても、勿論、同様にして、他方向から交差点へ進入してくる車両2の存在と正確な車速とを検知することができる。
【0059】
さらに、この場合も、運転者への注意の促し方(通報方法)は、警報音などによる聴覚的手段や警報表示などによる視覚的手段によって行なえばよいし、また、この通報とともに、あるいは、通報は行なわずに、自動的に、車速を減速制御するようにしてもよい。また、本実施形態においても、測定(検知)距離を伸ばしたい場合には、適宜、車載レーダの出力(送信電力レベル)を大きくしたり、増幅器を設ければよい。
【0060】
(C)第3実施形態の説明
図7は本発明の第3実施形態としての接近通報用のレーダ波中継装置が適用される衝突防止システムを説明するための模式図で、この図7に示す衝突防止システムでは、交差点中央に設置した中継装置1Bにおいて、第1実施形態と同様に、車載レーダのレーダ波(例えば、車両2Aからのレーダ波)を中継して他の交差点各方向に再放射したのち、その反射波〔この反射波には進入車両2(例えば、車両2B)の速度情報がドップラーシフトとして含まれる〕を上記のレーダ波の発信元方向(車両2A方向)に向けて再放射することが行なわれるようになっている。
【0061】
このため、本第3実施形態の中継装置1Bは、例えば図8に示すように、各道路A〜Dに対応して道路A〜D方向用回路3A〜3Dをそなえるとともに、これらのそれぞれが、受信アンテナ31,35,37,39,増幅器32,分配器33,送信アンテナ34,36,38,41,合成器40をそなえて構成されている。
ここで、上記の受信アンテナ(レーダ波受信部)31は、道路A(道路B〜D)方向からの車載レーダ波を受信するためのものであり、増幅器32は、この受信アンテナ31で受信されたレーダ波を所要の送信電力レベルにまで増幅するためのものである。なお、この増幅器32は、必要な測定(検知)距離が短い場合や車載レーダの送信電力レベルを高くした場合など、レーダ波を中継するのに十分な電力レベルが確保される場合には不要である。
【0062】
また、分配器33は、受信レーダ波を3分岐して、それぞれを送信アンテナ34,36,38に分配することにより、第1実施形態と同様に、受信レーダ波の伝搬方向をその車載レーダ波が送信されてきた方向とは異なる方向に変更しうる受信レーダ波送信方向変更部として機能するものであり、送信アンテナ34,36,38は、それぞれ、この分配器33から分配されてくる受信レーダ波をそのまま道路A以外の道路B,C,D(道路B方向用回路3Bでは道路B以外の道路A,C,D、道路C方向用回路3Cでは道路C以外の道路A,C,D、道路D方向用回路3Dでは道路D以外の道路A〜C)へ向けて送信(再放射)するためのものである。
【0063】
さらに、受信アンテナ(反射波受信部)35,37,39は、それぞれ、これらの送信アンテナ34,36,38から再放射されたレーダ波の反射波を受信するためのものであり、合成器40は、これらの受信アンテナ35,37,39で受信された反射波を合成するものであり、送信アンテナ(反射波送信部)41は、この合成器40の出力(反射波)を道路A方向(道路B方向用回路3Bでは道路B方向、道路C方向用回路3Cでは道路C方向、道路D方向用回路3Dでは道路D方向)へ向けて送信するためのものである。
【0064】
ただし、この場合、道路A〜D方向用回路3A〜3Dの3組の再放射用アンテナ(送信アンテナ34及び受信アンテナ35/送信アンテナ36及び受信アンテナ37/送信アンテナ38及び受信アンテナ39)は、各道路A〜D方向用回路3A〜3D間の干渉を避ける(例えば、道路B方向への再放射波の反射波が道路A方向や道路C方向用の受信アンテナ31や37に入射してしまうことを防止する)ために、例えば図9に模式的に示すように、それぞれの(直線)偏波面を少しずつ変えている。なお、この図9は道路A方向からみた中継装置1Bの偏波面の向きを表わしている。
【0065】
上述のごとく構成された本実施形態の中継装置1Bでは、例えば、道路A方向から交差点に向かって衝突防止レーダを搭載した車両2Aが進入してくるとすると、その車両2Aから送信されたレーダ波が道路A方向用回路3Aの受信アンテナ31にて受信される。この受信レーダ波は、分配器33で3分岐されて、それぞれ、送信アンテナ34,36,38を通じて道路B〜Dへ再放射される。
【0066】
ここで、今、図7に示すように、道路Bから衝突防止レーダを搭載していない車両2Bが交差点に向かって進入してくるとすると、上述のごとく道路Bに向けて再放射されたレーダ波は、この車両2Bで反射されることになる。この反射波は、道路A方向用回路3Aの受信アンテナ35にて受信され、他の受信アンテナ37,39の出力(道路C,道路D方向からの反射波)と合成器40にて合成された後、送信アンテナ41から道路A(車両2A)に向けて送信される。
【0067】
これにより、車両2Aでは、自身の車載レーダにより送信したレーダ波と上述のごとく中継装置1Bから送信されてくるレーダ波との周波数比較を行なうことで、車両2Bの速度を検出することができる。この結果、車両2Aは、他方向からの交差点への進入車両2Bの有無とその進入車両2Bの速度とを、進入車両2Bのレーダ波を頼りにせず自車両2Aの車載レーダから送信したレーダ波のみを用いて、つまり、進入車両2Bの車載レーダの有無やレーダ方式の違いによらず、確実に検知することができる。
【0068】
なお、道路B,道路C,道路Dから交差点に進入してくる車両2についても、衝突防止レーダを搭載していれば、上記と同様にして、他方向からの進入車両2の存在とその車速とを検知することができるのはいうまでもない。
以上のように、本第3実施形態においても、既存の車載レーダをそのまま活かして、天候などに影響されず、また、停車中の車両2を進入車両2と誤認識することもなく、交差点での車両2の出会い頭の衝突事故を確実に防止することができるほか、この場合は、他方向からの進入車両2の衝突防止レーダの搭載/未搭載やレーダ方式の違いによらないので、より柔軟なシステム構成を実現できる。
【0069】
また、この場合も、中継装置1Bは、発信機や電源回路などの能動回路は用いずに、全て受動回路で構成可能なので、大幅な小型化が可能であり、さらに、電源供給の必要が無いので、設置が容易である。また、故障の発生率も発信機や電源回路をそなえる場合に比して大幅に軽減できるので、メンテナンスなどの作業労力を低減することができる。
なお、本第3実施形態においても、他方向からの進入車両検知時の運転者への注意の促し方(通報方法)は、警報音などによる聴覚的手段や警報表示などによる視覚的手段によって行なえばよく、また、この通報とともに、あるいは、通報は行なわずに、自動的に、車速を減速制御するようにしてもよい。
【0070】
(C′)第3実施形態の変形例の説明
本変形例では、上記の中継装置1Bを有する衝突防止システムにおいて、車載レーダとしてパルス式レーダを適用して、車載レーダ波としてパルス波が車両2から送信されるものと仮定する。このパルス式レーダでは、送信波に対する反射波の遅延時間から対象物(車両2)までの距離を算出することができる。例えば、車両2Aから送信されたパルス波が、中継装置1Bを経由して、車両2Bに当たって反射し、再度、中継装置1Bを経由して、車両2Aに戻ってくるまでの時間を計測することで、車両2Bまでの距離を算出することが可能である。
【0071】
しかしながら、図8により上述した回路構成では、中継装置1Bでレーダ波の向きを変える際、中継装置1B内部において遅延時間が発生する。この遅延時間は、車両2Aからみれば測定距離の誤差となって現われる。例えば、送信周期Tのパルス式レーダを用いた場合、図11に示すように、レーダ波の往復時間aは、「実際の距離に対応した遅延時間t」+「中継継装置1B内の遅延時間b」となり、遅延時間b分だけ、距離算出の誤差となる。
【0072】
そこで、本変形例では、図8に示すように、例えば、合成器40と送信アンテナ41との間に、入力パルスを「T−b」だけ遅延させる遅延調整器(遅延回路)42を設けて、図12に示すように、受信レーダ波を「T−b」だけ遅延させることによって、次の送信パルス周期で誤差を含まない遅延時間tを得られるようにする。つまり、受信アンテナ31でレーダ波が受信されたのち、そのレーダ波についての反射波が反射波送信部としての送信アンテナ41から送信されるまでの遅延時間を調整する。
【0073】
ここで、中継装置1B内の遅延時間bは装置特有の値のため、事前に調べておけばよい。送信周期Tは予め分かっていれば、「T−b」が固定されるため、高誘電率の誘電体フィルタなどを用いて「T−b」分の遅延を作り出せばよい。送信周期Tが未定の場合は、例えば、パルス検波器により車載レーダの送信周期Tを検出し、検出した送信周期Tと既知の遅延時間bとを基に、遅延時間「T−b」の遅延回路42を構成する。
【0074】
なお、一般的に、測定したい距離範囲をRとすると、
R=C×T/2 …(4)
C=3.0×108,T=送信パルス間隔(周期)
となるため、R=200mとすると、この式(4)から、以下の送信パルス間隔が必要である。
【0075】
T=1.33μs
また、中継装置1Bにおける遅延時間bは、中継装置1Bの構成にもよるが、〜数100nsである。従って、高誘電率の誘電体フィルタなどを用いて、T−b≒1μs程度の遅延時間を作ればよい。
以上のように、本変形例の中継装置1Bでは、上述した第3実施形態同様にして、交差点へ他方向から進入してくる車両2の存在とその車速とを確実に検知できるとともに、この場合は、その車両2までの距離までをも正確に検知することができる。従って、上述した第3実施形態と同様の利点が得られるほか、運転者に対してより適切な情報を渡すことができるので、より確実に、交差点での出会い頭の衝突事故を防止することができる。
【0076】
(D)第4実施形態の説明
図13は本発明の第4実施形態としての衝突防止システムの構成を説明するための模式図で、この図13に示す衝突防止システムは、第1実施形態(図1及び図2)にて前述したものと同様の中継装置1が道路A〜Dの交差点中央に設置されるとともに、道路標識などと同様、それぞれの道路A〜D上を走行する車両2から視認しやすい交差点付近の位置(4カ所)に、接近通報用の表示装置5A〜5Dが設置された構成になっている。
【0077】
これらの各表示装置5A〜5Dは、それぞれ、中継装置1からの送信レーダ波(中継レーダ波)を受けることにより、他方向からの交差点への進入車両2の存在及び速度情報を交差点に進入してくる車両2に表示するためのもので、このために、図13中に示すように、例えば、表示部51の背面に受信機6が付設されている。そして、この受信機6は、その要部に着目すると、例えば図14に示すように、受信アンテナ61,ミキサ62及び局部発振器63をそなえて構成されている。
【0078】
ここで、受信アンテナ(中継レーダ波受信部)61は、中継装置1から再放射されてくるレーダ波を受信するためのものであり、局部発振器63は、車載レーダのレーダ波と同じ周波数を発振するものであり、ミキサ(速度情報検出部)62は、この局部発振器61からの局部発振信号と受信アンテナ61で受信されたレーダ波とをミキシングすることにより、中継装置1からのドップラーシフトを受けた受信レーダ波と局部発振信号との周波数差情報(つまり、速度情報)を得るためのものである。
【0079】
例えば、第1実施形態と同様に、送信周波数faの衝突防止レーダを搭載した車両2Aが速度vaで交差点に進入してくる場合、この車両2Aからのレーダ波(周波数fa)は、表示装置5B〜5Dの受信機6では、それぞれ、ドップラーシフトを受けたレーダ波〔周波数fa′:式(1)参照〕が受信アンテナ61にて受信されることになる。ここで、局部発振器63の発振周波数をfaに設定すると、ミキサ62によって得られる周波数差情報はfa′−faとなる。
【0080】
そして、この周波数差情報fa′−faを信号処理部(図示省略)にて処理(ドップラーの式により演算)すれば、車両2Aの速度vaが求められ、これを基に、例えば図16に模式的に示すように、交差点への進入車両2が存在することと、その進入車両2の速度情報とを表示装置5B〜5Dの表示部51に表示することができる。
このときの表示方法としては、例えば図16に示すように、表示部51を発光ダイオードなどの発光素子を用いた電光掲示板として構成し、「注意」という文字を発光部51aにおいて点灯(点滅でもよい)させるとともに、低速のときは青のみ、中速のときは青と黄色、高速のときは青,黄,赤の全てを点灯するといった具合に、進入車両2の速度に応じて、3色の発光部52a〜52cを点灯(あるいは、点滅)することで速度情報を表示する手法などを採ればよい。
【0081】
つまり、図16に示す表示部51は、車両2の存在を、例えば「注意」という文字の発光によって、表示する発光部(移動物体存在表示用の発光部)51aと、車両2の速度情報に応じて発光色(もしくは発光状態)が変化する発光部52a〜52cとを有しているのである。
これにより、図13に示すように、道路B方向から交差点へ車両2Bが進入してくる場合、その車両2Bは、表示装置5B(電光掲示板51)に表示されている情報から車両2Aがどのくらいの速度で交差点に進入してくるかを、夜間や悪天候などの視界の悪い条件下においても、確実に認識することができる。同様にして、車両2Aや他の道路Cや道路D方向から進入車両2が存在する場合にも、お互いに他方向からの進入車両2の存在とその速度情報とを表示装置5A,5C,5D(電光掲示板51)から知ることができる。
【0082】
なお、ここでは、表示装置5A〜5D及び受信機6に着目した動作について説明したが、例えば、車両2Aや車両2Bでは、衝突防止レーダを搭載していれば、この場合も、第1実施形態と同様に、中継装置1からの中継レーダ波を受けることにより、お互いの存在と速度とを検知している。
従って、本第4実施形態においても、前述した第1実施形態と同様の利点が得られるほか、表示装置5A〜5Dの設置により、夜間や悪天候で視界が悪い場合などでも、より確実に、交差点での出会い頭の衝突事故を防止することができる。また、この場合は、表示装置5A〜5Dにより、衝突防止レーダを搭載していない車両2、あるいは、自転車や歩行者に対しても、同様の内容の注意を促すことができるので、車両2同士の衝突事故だけでなく、車両2と自転車や車両2と歩行者との衝突事故防止効果も期待できる。
【0083】
なお、上述した受信機6は、例えば図15に示すように、速度情報マスク部として機能する濾波器(ハイパスフィルタ:HPF)64を設けて、或る周波数(速度)以上でなければ表示部51に信号を通さない構成にし(つまり、有効な周波数差情報についてのしきい値を設ける)、或る速度以上の進入車両2があった場合にのみ、上述したような注意を促すようにしてもよい。このようにすれば、停車中の車両2についての情報が、他の道路方向に伝わらずに済むので、停車中の車両2を進入車両2と誤認することが無い。
【0084】
(E)第5実施形態の説明
図17は本発明の第5実施形態としての衝突防止システムの構成を説明するための模式図で、この図17に示す衝突防止システムは、第3実施形態(図7〜図9)にて前述したものと同様の中継装置1Bが道路A〜道路Dの交差点中央に設置されるとともに、この場合も、道路標識などと同様、それぞれの道路A〜D上を走行する車両2から視認しやすい交差点付近の位置(4カ所)に、受信機8付きの表示装置7A〜7Dが設置された構成になっている。なお、この場合も、受信機8は、例えば、表示部71の背面に付設されている。
【0085】
そして、これらの表示装置7A〜7Dも、上述した第4実施形態と同様に、中継装置1Bから再放射される中継レーダ波を受けて、交差点への進入車両2の存在とその速度とを表示するためのものであるが、本実施形態では、中継装置1Bが、前述したように、各道路A〜D方向毎に偏波面を変えて(図9参照)レーダ波の再放射を行なうので、この偏波面の違いを利用して、進入車両2の方向までをも表示できるようになっている。
【0086】
このため、表示装置7A〜7Dに付設されている受信機8には、その要部の構成に着目すると、いずれも、例えば図18に示すように、中継装置1Bから再放射される3系統の(自装置が設置されている道路以外の3つの道路側からの)レーダ波の偏波面の違いに対応して、受信アンテナ81−1〜81−3及びミキサ82−1〜82−3をそなえるとともに、各偏波面に共通の局部発振器83がそなえられている。
【0087】
ここで、受信アンテナ81−1は、例えば、交差点に向かって右方向の道路から中継装置1Bを経由してくる偏波面「1」の中継レーダ波(周波数F1)を受信するためのものであり、受信アンテナ81−2は、交差点に向かって正面方向の道路から中継装置1Bを経由してくる偏波面「2」の中継レーダ波(周波数F2)を受信するためのものであり、受信アンテナ81−3は、交差点に向かって左方向の道路から中継装置1Bを経由してくる偏波面「3」の中継レーダ波(周波数F3)を受信するためのものである。
【0088】
また、局部発振器83は、車載レーダの送信周波数と同じ周波数(例えば、fa)の局部発振信号を生成するものであり、ミキサ82−1は、この局部発振信号と受信アンテナ81−1で受信された中継装置1B(交差点に向かって右方向から進入してくる車両2)からのレーダ波(偏波面「1」,周波数F1)とをミキシングすることにより、車載レーダの送信周波数と、交差点に向かって右方向から進入してくる車両2からのドップラーシフトを受けたレーダ波との周波数差情報(F1-fa)を得るものである。
【0089】
同様に、ミキサ82−2は、局部発振信号と受信アンテナ81−2で受信された中継装置1B(交差点に向かって正面方向から進入してくる車両2)からのレーダ波(偏波面「2」,周波数F2)とをミキシングすることにより、車載レーダの送信周波数と、交差点に向かって正面方向から進入してくる車両2からのドップラーシフトを受けたレーダ波との周波数差情報(F2-fa)を得るものであり、ミキサ82−3は、局部発振信号と受信アンテナ81−3で受信された中継装置1B(交差点に向かって左方向から進入してくる車両2)からのレーダ波(偏波面「3」,周波数F3)とをミキシングすることにより、車載レーダの送信周波数と、交差点に向かって左方向から進入してくる車両2からのドップラーシフトを受けたレーダ波との周波数差情報(F3-fa)を得るものである。
【0090】
そして、これらのミキサ82−1〜82−3で得られた各周波数差情報は、それぞれ、各ミキサ82−1〜82−3毎に設けられた信号処理部(図示省略)へ入力され、これらの各信号処理部にて、各周波数差情報を基に、ドップラー効果の式により、交差点への車両2の進入速度が求められる。これにより、受信機8では、交差点への進入車両2の存在及びその速度が自装置の設置されている道路を除く各道路方向毎に求められ、この結果、交差点への他方向からの進入車両2の存在及びその速度と併せて、その進入方向をも表示装置7A〜7Dにより表示することが可能である。
【0091】
つまり、上記の受信アンテナ81−1〜81−3,ミキサ82−1〜82−3,発振器83は、中継装置1Bから受信されるレーダ波の偏波面を識別する偏波面識別部として機能し、その識別結果に応じて車両2の移動方向についての情報が表示部71に表示されるようになっているのである。
例えば、図17に示すように、車両2Aと車両2Bがそれぞれ交差点に進入してくる場合を考える。この場合、車両2Aの車載レーダから送信されたレーダ波(周波数fa)は、第3実施形態にて前述したごとく、ドップラーシフトを受けて、周波数fa′のレーダ波として中継装置1Bで受信され、それぞれ、道路A以外の道路B〜道路D方向に再放射される。このとき、例えば、道路B方向には偏波「1」で、道路C方向には偏波「2」で、道路D方向には偏波「3」でそれぞれ再放射される。
【0092】
一方、車両2Bの車載レーダから送信されたレーダ波(周波数fb)についても、同様にして、ドップラーシフトを受けて、周波数fb′のレーダ波として中継装置1Bで受信され、それぞれ、道路A方向には偏波「1」で、道路D方向には偏波「2」で、道路C方向には偏波「3」で再放射される。
これにより、例えば、道路Dに設置された表示装置7Dに着目すると、その受信機8には、図19に示すように、中継装置1Bからの偏波「1」のレーダ波(周波数fa′)と偏波「2」のレーダ波(周波数fb′)とがそれぞれ受信アンテナ81−1,81−2を通じて受信されることになり、ミキサ82−1,82−2において、周波数差情報fa′−fa,fb′−fbが得られる。
【0093】
そして、これらの各周波数差情報fa′−fa,fb′−fbは、「右方向から進入車両」が存在する場合の処理を担う信号処理部と、「正面方向から進入車両」が存在する場合の処理を担う信号処理部にそれぞれ入力され、これにより、各信号処理部にて、車両2A,2Bの速度がそれぞれ求められる。表示装置7Dでは、このようにして受信機8で得られる進入車両2の速度,進入方向に関する情報を表示部71に表示することで、道路Dを交差点に向かって走行中の車両2(レーダは未搭載でもよい)の運転者に注意を促すことができる。なお、勿論、道路Cや道路Dに車両2が存在する場合も、上記と同様の作用が得られる。
【0094】
ここで、このときの表示方法としては、例えば図20に示すように、表示部71に、交差点を表わす十字領域72を設けることで交差点の存在を表示するとともに、この十字領域72内に、車両2を表わす発光部73を設けて進入中の車両2の存在をその点灯(点滅でもよい)により表示し、且つ、その発光色を受信機8により得られた速度に応じて変化させる〔所定速度(例えば、50km/h)以上で赤、それ未満で黄など〕ことで車速を表示するといった手法が考えられる。
【0095】
つまり、この図20に示す表示部71も、例えば発光ダイオードなどの発光素子を用いた電光掲示板として構成され、車両2が進入しうる地点(交差点)についての情報(上記の場合、形状)を表示するための領域(十字領域;地点表示領域)72と、この領域内72において、車両2の存在と上記の偏波面識別部(受信アンテナ81−1〜81−3,ミキサ82−1〜82〜3)で識別された偏波面に応じた車両2の移動方向(交差点への進入方向)とを発光表示するとともに、その車両2の速度に応じて発光色(もしくは発光状態)が変化する方向・速度表示用の発光部73とをそなえているのである。
【0096】
このようにすれば、夜間や悪天候で視界が悪い時などにおいても、確実に、運転者に注意を促すことができる。なお、上記の十字領域72も発光部として構成すれば、交差点の存在自体も強調表示することができる。ただし、この場合、十字領域72は、車両2の存在(発光部73)をより強調するために、その発光強度を発光部73の発光強度よりも抑えたり、発光色を発光部の発光色よりも目立たない色にした方が良い。
【0097】
なお、ここでは、中継装置1B,表示装置7A〜7D,受信機8に着目した動作説明を行なったが、本第5実施形態においても、前述した第3実施形態と同様に、衝突防止レーダを搭載した車両2では、他方向から進入車両2のレーダ波を頼りにせずに、自車両2の車載レーダのレーダ波のみを用いて進入車両2の存在と速度とを検知することができる。
以上のように、本第5実施形態によれば、交差点中央に、第3実施形態にて前述したものと同様の中継装置1Bを設置するとともに、交差点を形成する各道路A〜Dに受信機8付きの表示装置7A〜7Dを設置することで、第3実施形態と同様の作用効果が得られるほか、交差点への進入車両2の有無や速度情報だけでなく、その進入方向までをも運転者に向けて表示して注意を促すことができるので、さらに効果的に、交差点での出会い頭の衝突事故を防止することができる。
【0098】
なお、本実施形態においても、車載レーダをパルス式レーダとし、上記の中継装置1Bを、図10に示す構成(遅延調整器42を設けた構成)としてもよく、このようにすれば、交差点への進入車両2は、前述したように、他方からの進入車両2の有無や速度だけでなく、その車両2までの距離をも正確に測定することが可能である。
また、上述した表示装置7A〜7D(あるいは、5A〜5D)において、中継装置1B(1)からの中継レーダ波が受信できなくなった場合(もしくは、受信できなくなってから所定時間が経過した後)、上述した発光表示は停止(中止)するようにしてもよい。さらに、中継レーダ波を受信できなくなった場合に限らず、表示装置7A〜7D(あるいは、5A〜5D)(以降、符号省略)は、中継レーダ波の受信状態に応じて(例えば、受信レベルが所定レベルを下回った場合やC/Nが劣化した場合など)、上述した発光表示を停止するようにしてもよい。
【0099】
また、検出した車速に応じて表示時間を変化させるようにしてもよい。例えば、表示装置内にタイマを設け、このタイマに、中継レーダ波の受信により検出した車速が速い場合には短めの時間をタイマに設定し、逆に、検出した車速が遅い場合には長めの時間を設定して、検出した車速が遅いときには速いときよりも長く上記の発光表示を行なうようにする。このときのタイマに対する設定時間については、表示装置が中継レーダ波を受信可能な(表示装置から)最も離れた場所から交差点内(交差点の入り口や中心など)までの距離を検出した速度で割った値程度にすることが望ましい。
【0100】
(F)その他
上述した各実施形態および変形例では、中継装置1,1A,1Bは、いずれの場合も、車載レーダのレーダ波を対向(正面)方向(例えば、道路A方向から受信したレーダ波なら道路C方向)に再放射しているが、交差点が図1や図5,図7,図13,図17に示すように直交もしくはほぼ直交する形状になっている場合には、対向方向からの進入車両2の存在は運転者から視認できることが多いので、対向方向用の回路は省略、もしくは、機能停止させることで、対向方向へのレーダ波の再放射は行なわないようにしてもよい。
【0101】
ただし、例えば、交差点の形状が例えば図21に示すような形状になっており、見通しが悪い場合には、対向方向の道路側にもその道路の方向に合わせた角度で受信レーダ波を再放射するようにした方が良い。このようにすることで、車載レーダ波の直進性により、衝突防止用の車載レーダのみでは、検知できなかった部分の検知が可能となる。
また、上述した各実施形態および変形例では、4つ角の交差点に中継装置1,1A,1Bを設置した場合について説明したが、勿論、T字路等の三ツ股交差点やL字路等の曲がり角、5本以上の道路が交差する交差点、その他、車両2等の移動物体が通行しうる見通しの悪い箇所に設置してもよく、この場合も、上記と同様の作用効果が得られる。
【0102】
さらに、上述した例では説明を省略したが、第2実施形態にて説明した衝突防止システムに、第4実施形態や第5実施形態と同様に、受信機付きの表示装置を適用してもよい。また、上述した例では、車載レーダとしてCWレーダやパルス式レーダを適用しているが、本発明はこれに限定されず、上述した周波数差情報が得られ車両2の速度情報が得られるレーダであれば、どのようなタイプのレーダを適用してもよい。
【0103】
さらに、レーダは必ずしも自動車に搭載されている必要はなく、例えばバイクに搭載されていてもよい。この場合は、車両2だけでなく、車両2とバイク、あるいは、バイク同士の交差点での衝突事故も確実に防止することが可能である。また、上述した例では、再放射するレーダ波の偏波を直線偏波としてその角度を変えることで偏波面を変えているが、例えば上述のように正面方向を除いて左右方向のみを再放射の対象とする場合には、円偏波の回転方向を変えることで偏波面を変えるようにしてもよい。
【0104】
そして、本発明は、上述した各実施形態および変形例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施することができる。
以上の実施例及び変形例を含む実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
〔G〕付記
(付記1)
移動物体からのレーダ波を受信するレーダ波受信部と、
該レーダ波受信部にて受信されたレーダ波を当該レーダ波が送信されてきた方向とは異なる方向に変更して送信しうる受信レーダ波送信方向変更部とをそなえて成ることを特徴とする、接近通報用のレーダ波中継装置。
【0105】
(付記2)
移動物体からのレーダ波を受信するレーダ波受信部と、
該レーダ波受信部にて受信されたレーダ波を当該レーダ波が送信されてきた方向とは異なる方向に変更して送信しうる受信レーダ波送信方向変更部と、
該受信レーダ波送信方向変更部から送信されたレーダ波の反射波を受信する反射波受信部と、
該反射波受信部で受信された該反射波を該移動物体に向けて送信する反射波送信部とをそなえて成ることを特徴とする、接近通報用のレーダ波中継装置。
【0106】
(付記3)
該受信レーダ波送信方向変更部が、
該レーダ波受信部にて受信されたレーダ波の偏波面を異なる偏波面に変換する偏波面変換部をそなえていることを特徴とする、付記1記載の接近通報用のレーダ波中継装置。
(付記4)
該レーダ波受信部にて該レーダ波が受信されたのち、該レーダ波についての反射波が該反射波送信部から送信されるまでの遅延時間を調整する遅延調整器が設けられていることを特徴とする、付記2記載の接近通報用のレーダ波中継装置。
【0107】
(付記5)
移動物体からのレーダ波を受信するレーダ波受信部と、
該レーダ波受信部で受信されたレーダ波を該移動物体に向けて折り返し送信する折り返し送信部と、
該折り返し送信部から送信された折り返しレーダ波の該移動物体での反射波を受信する反射波受信部と、
該折り返しレーダ波と該反射波とから該移動物体の速度情報を検出する速度情報検出部と、
該速度情報検出部にて検出された速度情報を該レーダ波が送信されてきた方向とは異なる他方向から受信されるレーダ波に付加して当該他方向へ送信する速度情報付加送信部とをそなえて成ることを特徴とする、接近通報用のレーダ波中継装置。
【0108】
(付記6)
移動物体から受信したレーダ波を当該レーダ波が送信されてきた方向とは異なる方向に変更して送信しうるレーダ波中継装置によって中継されてきた中継レーダ波を受信する中継レーダ波受信部と、
該中継レーダ波受信部で受信された該中継レーダ波から該移動物体の速度情報を検出する速度情報検出部と、
該速度情報検出部にて検出された速度情報を表示する表示部とをそなえて成ることを特徴とする、接近通報用の表示装置。
【0109】
(付記7)
該速度情報検出部にて検出された速度情報が所定のしきい値以上である場合にのみ当該速度情報を該表示部に供給する速度情報マスク部をそなえていることを特徴とする、付記6記載の移動物体衝突防止用の表示装置。
(付記8)
該中継レーダ波受信部が、該レーダ波中継装置からの受信レーダ波の偏波面を識別する偏波面識別部をそなえるとともに、
該表示部が、該偏波面識別部にて識別された偏波面に応じて該移動物体の移動方向についての情報を表示するように構成されたことを特徴とする、付記6記載の接近通報用の表示装置。
【0110】
(付記9)
移動物体の存在を発光表示する移動物体存在表示用の発光部と、
該移動物体の速度情報に応じて発光色もしくは発光状態が変化する速度情報表示用の発光部とをそなえたことを特徴とする、接近通報用の表示装置。
(付記10)
移動物体が進入しうる地点についての情報を表示するための地点表示領域と、
該地点表示領域において、該移動物体の存在と移動方向とを発光表示するとともに、当該移動物体の移動速度に応じて発光色もしくは発光状態が変化する方向・速度表示用の発光部とをそなえたことを特徴とする、接近通報用の表示装置。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の第1実施形態としての接近通報用のレーダ波中継装置が適用される衝突防止システムを説明するための模式図である。
【図2】図1に示す中継装置の詳細構成を示すブロック図である。
【図3】(A)及び(B)はいずれも図2に示す中継装置の偏波面変換器として適用されるひねり導波管の一例を示す図である。
【図4】(A)及び(B)は図2に示す中継装置の偏波面を説明するための模式図である。
【図5】本発明の第2実施形態としての接近通知用のレーダ波中継装置が適用される衝突防止システムを説明するための模式図である。
【図6】図5に示す中継装置の詳細構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の第3実施形態としての接近通報用のレーダ波中継装置が適用される衝突防止システムを説明するための模式図である。
【図8】図7に示す中継装置の詳細構成を示すブロック図である。
【図9】図7に示す中継装置の偏波面(道路A方向からみた場合)を説明するための模式図である。
【図10】図7に示す中継装置の他の詳細構成を示すブロック図である。
【図11】図10に示す中継装置における遅延調整動作を説明するための図である。
【図12】図10に示す中継装置における遅延調整動作を説明するための図である。
【図13】本発明の第4実施形態としての衝突防止システムの構成を説明するための模式図である。
【図14】図13に示す表示装置に付設されている受信機の構成を示すブロック図である。
【図15】図13に示す表示装置に付設されている受信機の他の構成を示すブロック図である。
【図16】図13に示す表示装置の外観を示す模式図である。
【図17】本発明の第5実施形態としての衝突防止システムの構成を説明するための模式図である。
【図18】図17に示す表示装置に付設されている受信機の構成を示すブロック図である。
【図19】図17に示す表示装置に付設されている受信機の構成を示すブロック図である。
【図20】図17に示す表示装置の外観を示す模式図である。
【図21】見通しの悪い交差点の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0112】
1,1A,1B レーダ波中継装置
2,2A,2B 車両(移動物体)
3A〜3D,10A〜10D 道路A〜D方向用回路
5A〜5D,7A〜7D 表示装置
6,8 受信機
11A〜11D,21A,21B,31 受信アンテナ(レーダ波受信部)
12A〜12D,27A,27B 分配器
13A〜13D,28A,28B,40 合成器
14A〜14D サーキュレータ
15A〜15D 偏波面変換器(ひねり導波管)
16A〜16D,34,36,38,41 送信アンテナ
22A,22B,33 分配器
23A,23B 送信アンテナ(折り返し送信部)
24A,24B 方向性結合器
25A,25B,35,37,39 受信アンテナ(反射波受信部)
26A,26B ミキサ(速度情報検出部)
29A,29B ミキサ(速度情報付加送信部)
30A,30B 送信アンテナ(速度情報付加送信部)
32 増幅器
42 遅延調整器
51,71 表示部
51a 発光部(移動物体存在表示用の発光部)
52a〜52c 発光部(速度情報表示用の発光部)
61,81−1〜81−3 受信アンテナ(中継レーダ波受信部)
62,82−1〜82−3 ミキサ(速度情報検出部)
63,83 局部発振器
64 濾波器(HPF;速度情報マスク部)
72 十字領域(地点表示領域)
73 発光部(方向・速度表示用の発光部)
A〜D 道路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接近通報用のレーダ波中継装置であって、
移動物体からのレーダ波を受信するレーダ波受信部と、
該レーダ波受信部にて受信されたレーダ波を当該レーダ波が送信されてきた方向とは異なる方向に変更して送信しうる受信レーダ波送信方向変更部と、
該受信レーダ波送信方向変更部から送信されたレーダ波の反射波を受信する反射波受信部と、
該反射波受信部で受信された該反射波を該移動物体に向けて送信する反射波送信部と、
該レーダ波受信部にて該レーダ波が受信されたのち、該レーダ波の送信周期と当該レーダ波中継装置内の遅延時間とに基づく遅延時間分、該レーダ波についての反射波の送信を遅延させる遅延調整器と、
をそなえて成ることを特徴とする、接近通報用のレーダ波中継装置。
【請求項2】
接近通報用の表示装置であって、
移動物体から受信したレーダ波を当該レーダ波が送信されてきた方向とは異なる方向に位置する各移動物体の移動方向に対応づけられた偏波面にそれぞれ変更して送信しうるレーダ波中継装置によって中継されてきた中継レーダ波を受信する中継レーダ波受信部をそなえ、さらに、
該中継レーダ波受信部が、該レーダ波中継装置からの受信レーダ波の偏波面を識別する偏波面識別部をそなえ、
前記接近通報用の表示装置が、
該偏波面識別部にて識別された偏波面に対応する、前記移動物体の移動方向についての情報を表示する表示部、
をそなえたことを特徴とする、接近通報用の表示装置。
【請求項3】
該中継レーダ波受信部で受信された該中継レーダ波から該移動物体の速度情報を検出する速度情報検出部をそなえ、
前記表示部が、該速度情報検出部にて検出された速度情報を表示することを特徴とする、請求項2記載の接近通報用の表示装置。
【請求項4】
移動物体の存在を発光表示する移動物体存在表示用の発光部と、
該移動物体の速度情報に応じて発光色もしくは発光状態が変化する速度情報表示用の発光部とをそなえたことを特徴とする、請求項2記載の接近通報用の表示装置。
【請求項5】
移動物体が進入しうる地点についての情報を表示するための地点表示領域と、
該地点表示領域において、該移動物体の存在と移動方向とを発光表示するとともに、当該移動物体の移動速度に応じて発光色もしくは発光状態が変化する方向・速度表示用の発光部とをそなえたことを特徴とする、請求項2記載の接近通報用の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2008−262591(P2008−262591A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173738(P2008−173738)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【分割の表示】特願2000−11916(P2000−11916)の分割
【原出願日】平成12年1月20日(2000.1.20)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】