説明

描画方法、原盤の製造方法、スタンパの製造方法及び情報記録ディスクの製造方法

【課題】微細なパターンをレジスト層に高精度で描画できる描画方法、これを用いた原盤の製造方法、スタンパの製造方法及び情報記録ディスクの製造方法を提供する。
【解決手段】走査型電子顕微鏡による観察が可能な材料で構成されたレジスト層支持材34と描画領域EAにおいてレジスト層支持材34を被覆し、且つ、内側非描画領域NEA1及び外側非描画領域NEA2の少なくとも一部においてレジスト層支持材34を被覆しないようにレジスト層支持材34の上に形成されたレジスト層36とを備える被加工体30を用意し、レジスト層支持材34におけるレジスト層36から露出する部分を走査型電子顕微鏡により観察しこの観察の結果に基づいて電子ビームの焦点の位置を調整して電子ビームをレジスト層36に照射しレジスト層36を所定の描画パターンで露光する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録ディスク等の製造に利用可能な描画方法、これを用いた原盤の製造方法、スタンパの製造方法及び情報記録ディスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ディスク等の情報記録ディスクを製造するために原盤が用いられている。例えば、ガラス等の基板の上にレジスト層を形成し、光ディスクのピットやグルーブに相当するパターンでレジスト層に描画(露光)し、更に現像してレジスト層の露光部又は非露光部のいずれかを除去してピットやグルーブに相当するパターンのレジスト層を形成し、このレジスト層に基づいて基板をエッチングすることによりピットやグルーブに相当するパターンが形成された原盤が得られる。この原盤の転写面(ピットやグルーブに相当するパターンが形成された面)に化学メッキ法やスパッタ法で導電膜を形成し更にこの導電膜を電極として導電膜の上に電解メッキ法で電解メッキ層を形成してこれら導電膜及び電解メッキ層を一体で原盤から剥離することによりスタンパが得られる。このようにして得られたスタンパを金型内に設置して樹脂成形を行うことによりピットやグルーブが形成された光記録媒体の基板が得られる。又、導電膜及び電解メッキ層を一体で原盤から剥離したものをメタルマザーとして用い、このメタルマザーに電解メッキ法で更に電解メッキ層を形成しこの電解メッキ層をメタルマザーから剥離したものをスタンパとして用いることもある。又、更に電解メッキ法を繰り返してスタンパを形成することもある。尚、描画における露光部と非露光部は、レジストのタイプ(ポジ型又はネガ型)やスタンパを得るまでの転写の回数等に応じて適宜置き換えればよい。
【0003】
近年、光ディスクの記録密度は著しく向上しており、トラックピッチは数百nm以下となっている。例えば、ブルーレイディスク(登録商標)と称される光ディスクのトラックピッチは320nmである。これに伴って、高精度な描画が求められている。
【0004】
又、近年、ハードディスク等の磁気ディスクの記録密度も著しく向上しており、磁気ディスクの分野では更なる記録密度の向上のために、記録層のデータ領域の部分がトラックに相当するパターンで形成されたディスクリートトラックメディアや記録ビットに相当するパターンで形成されたパターンドメディアが提案されている(例えば、特許文献1参照)。例えば強磁性材料の連続膜の上に樹脂層を成膜し、スタンパを用いてインプリントにより樹脂層にトラックや記録ビットに相当する凹凸パターンを転写し、凹凸パターンの樹脂層に基づいて強磁性材料の連続膜をエッチングすることによりトラックや記録ビットに相当するパターンの記録層を形成することができる。尚、強磁性材料の連続膜と樹脂層との間に1層又は2層以上のマスク層を成膜し、樹脂層に基づいてマスク層をエッチングし、マスク層に基づいて強磁性材料の連続膜をエッチングすることも提案されている。トラックや記録ビットに相当する凹凸パターンを樹脂層に転写するためのスタンパとして、又はそのようなスタンパを得るために上記のような原盤を利用することが提案されている。ディスクリートトラックメディアやパターンドメディアでは、数十nm(例えば50nm以下)のトラックピッチが提案されており光ディスクよりも更に高精度な描画が求められている。
【0005】
このような微細なパターンを描画する場合、描画に用いる光の波長の影響が無視できなくなるため、描画のために電子ビームが用いられるようになっている。又、高精度な描画を実現するためには電子ビームの焦点の位置をレジスト層に正確に合わせる必要がある。電子ビーム描画装置は通常走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)の機能を備えており、SEM機能を利用して電子ビームの焦点を調整する手法が知られている。一方、レジスト層の表面は過度に平坦でありSEM観察には向かないという事情がある。
【0006】
そこで描画対象の被加工体と調整用の基準サンプルとを並べて配置し、両者の上面のレベルが一致するように基準サンプルの高さを調整し、基準サンプルに電子ビームを照射して基準サンプルの上面のレベルに電子ビームの焦点の位置を合わせ、基準サンプルに代えて被加工体を電子ビームの照射位置に移動させて被加工体に描画を行う方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。又、描画対象の被加工体のレジスト層にマーキングピンを当接させてレジスト層の一部を機械的に剥離して溝を形成し、溝のエッジに焦点の位置を合わせる方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−049752号公報
【特許文献2】特開2003−123677号公報
【特許文献3】特開2006−309821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、基準サンプルを用いる方法では、調整用の基準サンプルの高さを調整しても描画対象の被加工体の上面のレベルと基準サンプルの上面のレベルとの間に数μm程度のずれが生じることがあった。100nm以上のトラックピッチのパターンを描画するような場合には、この程度のずれが生じても実用上問題となることはなかったが、ディスクリートトラックメディアやパターンドメディアのように100nmよりも小さい(例えば50nm以下の)トラックピッチのパターンを描画する場合には、現像されたレジスト層のパターンに実用上許容できないような形状や寸法のずれが生じることがあった。従って、そのようなレジスト層に基いて得られる原盤のパターンにも実用上許容できないような形状や寸法のずれが生じることがあった。
【0009】
又、描画対象の被加工体のレジスト層にマーキングピンを当接させてレジスト層の一部を機械的に剥離する方法では、剥離されたレジスト層の一部が描画領域に付着することがあり、本来の描画パターンどおりに適切に描画できないことがあった。従って、この場合も現像されたレジスト層のパターンに実用上許容できないような形状や寸法のずれが生じることがあり、そのようなレジスト層に基いて得られる原盤のパターンに実用上許容できないような形状や寸法のずれが生じることがあった。
【0010】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであって、微細なパターンをレジスト層に高精度で描画できる描画方法、これを用いた原盤の製造方法、スタンパの製造方法及び情報記録ディスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、走査型電子顕微鏡による観察が可能な材料で構成され所定の環状の描画領域に形成され更に描画領域の径方向の内側及び外側の少なくとも一方に存在する非描画領域にも形成されたレジスト層支持材と描画領域においてレジスト層支持材を被覆し、且つ、非描画領域の少なくとも一部においてレジスト層支持材を被覆しないようにレジスト層支持材の上に形成されたレジスト層とを備える被加工体を用意する被加工体用意工程と、レジスト層支持材の非描画領域におけるレジスト層から露出する部分を走査型電子顕微鏡により観察し走査型電子顕微鏡による観察の結果に基づいて電子ビームの焦点の位置を調整して電子ビームをレジスト層に照射しレジスト層を所定の描画パターンで露光する描画工程と、を含む描画方法により上記目的を達成したものである。
【0012】
この描画方法では、走査型電子顕微鏡による観察には向かないレジスト層の上面ではなく走査型電子顕微鏡による観察が可能な材料で構成されたレジスト層支持材の上面を観察することで、電子ビームの焦点の位置をレジスト層支持材の上面(レジスト層の下面)のレベルに合わせることができる。
【0013】
又、基準サンプルではなく描画対象の被加工体(のレジスト層支持材)を直接観察して電子ビームの焦点の位置を合わせるので、電子ビームの焦点の位置を被加工体のレジスト層支持材の上面(レジスト層の下面)のレベルに確実に合わせることができる。
【0014】
又、走査型電子顕微鏡による観察のために描画対象のレジスト層にマーキングピンを当接させてレジスト層の一部を機械的に剥離する必要がないのでレジスト層を所望の描画パターンどおりに適切に描画できる。
【0015】
即ち、次のような本発明により、上記目的を達成することができる。
【0016】
(1)走査型電子顕微鏡による観察が可能な材料で構成され所定の環状の描画領域に形成され更に前記描画領域の径方向の内側及び外側の少なくとも一方に存在する非描画領域にも形成されたレジスト層支持材と前記描画領域において前記レジスト層支持材を被覆し、且つ、前記非描画領域の少なくとも一部において前記レジスト層支持材を被覆しないように前記レジスト層支持材の上に形成されたレジスト層とを備える被加工体を用意する被加工体用意工程と、前記レジスト層支持材の前記非描画領域における前記レジスト層から露出する部分を走査型電子顕微鏡により観察し前記走査型電子顕微鏡による観察の結果に基づいて電子ビームの焦点の位置を調整して電子ビームを前記レジスト層に照射し前記レジスト層を所定の描画パターンで露光する描画工程と、を含むことを特徴とする描画方法。
【0017】
(2) (1)において、前記被加工体用意工程は、前記描画領域において前記レジスト層支持材を被覆し、且つ、前記非描画領域の少なくとも一部において前記レジスト層支持材を被覆しないように前記レジスト層支持材の上に前記レジスト層を成膜するレジスト層成膜工程を含むことを特徴とする描画方法。
【0018】
(3) (1)又は(2)の描画方法を用いて前記描画パターンに対応する凹凸パターンの転写面を有する原盤を製造することを特徴とする原盤の製造方法。
【0019】
(4) (3)において、前記被加工体用意工程において前記被加工体として前記レジスト層支持材の下に基板を更に備える被加工体を用意し、前記レジスト層支持材は前記基板をエッチングするためのマスク層であり、前記描画工程の後に前記レジスト層を現像する現像工程と、前記レジスト層に基づいて前記マスク層をエッチングするマスク層エッチング工程と、前記マスク層に基づいて前記基板をエッチングする基板エッチング工程と、を更に含むことを特徴とする原盤の製造方法。
【0020】
(5) (3)において、前記被加工体用意工程において前記被加工体として前記レジスト層支持材の下に基板を更に備える被加工体を用意し、前記描画工程の後に前記レジスト層を現像する現像工程と、前記レジスト層に基づいて前記レジスト層支持材及び前記基板をエッチングする基板エッチング工程と、を更に含むことを特徴とする原盤の製造方法。
【0021】
(6) (3)において、前記レジスト層支持材は基板であり、前記描画工程の後に前記レジスト層を現像する現像工程と、前記レジスト層に基づいて前記基板をエッチングする基板エッチング工程と、を更に含むことを特徴とする原盤の製造方法。
【0022】
(7) (3)乃至(6)のいずれかの原盤の製造方法を用いて製造された原盤を用いて前記凹凸パターンに対応する凹凸パターンの転写面を有するスタンパを製造することを特徴とするスタンパの製造方法。
【0023】
(8) (7)のスタンパの製造方法を用いて製造されたスタンパを用いて情報記録ディスクを製造することを特徴とする情報記録ディスクの製造方法。
【0024】
尚、本出願において「情報記録ディスク」という用語は、光ディスク、磁気ディスク、光磁気ディスク、情報の記録のために磁気と熱を併用する熱アシスト型の記録ディスク、磁気とマイクロ波を併用するマイクロ波アシスト型の記録ディスクを含む意義で用いることとする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、微細なパターンをレジスト層に高精度で描画できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態に係る描画方法を用いて製造される情報記録ディスクの構造を模式的に示す径方向及び厚さ方向に平行な断面図
【図2】同平面図
【図3】前記描画方法を用いた前記情報記録ディスクを製造するための原盤の製造方法の概要を示すフローチャート
【図4】基板の上にレジスト層支持材(マスク層)が成膜された同原盤の完成前の状態である被加工体を模式的に示す径方向及び厚さ方向に平行な断面図
【図5】同平面図
【図6】同レジスト層支持材の上にレジスト層が成膜される工程を模式的に示す径方向及び厚さ方向に平行な断面図
【図7】同レジスト層の成膜が完了した同被加工体を模式的に示す径方向及び厚さ方向に平行な断面図
【図8】同平面図
【図9】同レジスト層の描画に用いられる電子ビーム描画装置を模式的に示す断面図を含む側面図
【図10】同被加工体のレジスト層の描画工程における焦点の調整方法を模式的に示す径方向及び厚さ方向に平行な断面図
【図11】同レジスト層への描画を模式的に示す径方向及び厚さ方向に平行な断面図
【図12】同レジスト層が現像された同被加工体を模式的に示す径方向及び厚さ方向に平行な断面図
【図13】レジスト層支持材(マスク層)がエッチングされた同被加工体を模式的に示す径方向及び厚さ方向に平行な断面図
【図14】前記基板がエッチングされた同被加工体を模式的に示す径方向及び厚さ方向に平行な断面図
【図15】同基板上のレジスト層支持材(マスク層)が除去されて得られた原盤を模式的に示す径方向及び厚さ方向に平行な断面図
【図16】本発明の第2実施形態に係る原盤の製造方法の概要を示すフローチャート
【図17】同第2実施形態に係るレジスト層支持材及び基板がエッチングされた被加工体を模式的に示す径方向及び厚さ方向に平行な断面図
【図18】本発明の第3実施形態に係る原盤の製造方法の概要を示すフローチャート
【図19】同第3実施形態に係る被加工体の基板の上にレジスト層が成膜される工程を模式的に示す径方向及び厚さ方向に平行な断面図
【図20】同レジスト層の成膜が完了した同被加工体を模式的に示す径方向及び厚さ方向に平行な断面図
【図21】同レジスト層の描画工程における焦点の調整方法を模式的に示す径方向及び厚さ方向に平行な断面図
【図22】同レジスト層への描画を模式的に示す径方向及び厚さ方向に平行な断面図
【図23】同レジスト層が現像された同被加工体を模式的に示す径方向及び厚さ方向に平行な断面図
【図24】前記基板がエッチングされた同被加工体を模式的に示す径方向及び厚さ方向に平行な断面図
【図25】本発明の実施例のサンプルのレジスト層支持材の上面のSEM画像の一例
【図26】同実施例のサンプルのレジスト層支持材の上面のSEM画像の他の一例
【図27】同実施例のサンプルの現像後のレジスト層のSEM画像の一例
【図28】比較例のサンプルの現像後のレジスト層のSEM画像の一例
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
本発明の第1実施形態は、図1及び2に示されるような情報記録ディスク10における情報記録ディスク10と同心の環状の記録領域RAに所定の凹凸パターンを形成するために利用される描画方法に関する。本第1実施形態の理解のため、まず情報記録ディスク10の構造について簡単に説明する。
【0029】
情報記録ディスク10は中心孔10Aが形成された垂直記録型のディスクリートトラックメディア(磁気ディスク)である。記録領域RAは情報記録ディスク10と同心の環状であり、図2に示されるように、円周方向に所定のピッチで放射状に設定された複数の円弧形状のサーボ領域SAとこれらサーボ領域SAの間に設定されたデータ領域DAとに区分けされている。又、情報記録ディスク10における記録領域RAよりも径方向の内側の領域はデータやサーボ信号が記録されない内側非記録領域NRA1である。内側非記録領域NRA1の直径は中心孔10Aの直径よりも大きい。又、情報記録ディスク10における記録領域RAよりも径方向の外側の領域もデータやサーボ信号が記録されない外側非記録領域NRA2である。
【0030】
情報記録ディスク10は、基板12と、軟磁性層14と、配向層16と、記録層18と、を有し、これらの層がこの記載順序で基板12の上に形成されている。尚、図1では本第1実施形態の理解のため、基板12や各層の厚さを実際よりも極端に厚く描いている。
【0031】
記録層18はデータ領域DAにおいてトラックに相当するパターンで形成されている。より詳細には、記録層18はデータ領域DAにおいてトラックの形状に相当する円弧形状の多数の記録要素に分割されている。トラックピッチは例えば数十nmである。尚、図1及び2では本第1実施形態の理解のため、トラックの形状を実際よりも極端に大きく(トラックの数を極端に少なく)描いている。又、記録層18はサーボ領域SAにおいて所定のサーボパターンに相当する凹凸パターンで形成されている。尚、図1では便宜上、データ領域DAの部分だけを図示しており、サーボ領域SAの部分は図示していない。又、図1では記録層18が完全に露出しているが記録層18の凹部(記録要素の間の凹部)は非磁性の充填材等で充填され表面が平坦化されていてもよい。又、記録層18(及び充填材)の上には保護層や潤滑層が形成されていてもよい。又、基板12と軟磁性層14との間には下地層や反強磁性層が形成されていてもよい。又、記録層18等は基板12の片面だけに形成されているが、記録層18等は基板12の両面に形成されていてもよい。
【0032】
次に、図3に示されるフローチャートに沿って情報記録ディスク10の記録領域RAにトラックのパターンやサーボパターンに相当する凹凸パターンを形成するために利用される描画方法及びこれを用いた原盤の製造方法について説明する。
【0033】
始めに図4〜8に示されるように、原盤の製造過程の形態である被加工体30を用意する(S102:被加工体用意工程)。被加工体30は、情報記録ディスク10の記録領域RAに対応する領域を含む描画領域EAと、描画領域EAよりも径方向内側の内側非描画領域NEA1と、描画領域EAよりも径方向外側の外側非描画領域NEA2と、に区分けされている。描画領域EAは、例えば記録領域RAと、内側非記録領域NRA1における外周近傍の部分及び/又は外側非記録領域NRA2における内周近傍の部分と、に対応する。尚、記録領域RAの形状と描画領域EAの形状は同じでもよい。又、外側非描画領域NEA2の外径は外側非記録領域NRA2の外径よりも大きい。
【0034】
具体的には、まず図4及び5に示されるようにスパッタ等により基板32の上にマスク層(レジスト層支持材34)を成膜する(S102A:レジスト層支持材成膜工程)。基板32の材料はガラス、Si、グラッシーカーボン、SiC等である。又、基板32の厚さは0.3〜3mmである。尚、基板32の外径は情報記録ディスク10の基板12の外径よりも大きい。又、基板32には中心孔は形成されていない。
【0035】
マスク層(レジスト層支持材34)は走査型電子顕微鏡(SEM)による観察が可能な材料で構成されている。又、マスク層(レジスト層支持材34)は後述する基板エッチング工程(S110)においてマスクとして機能する材料で構成されている。走査型電子顕微鏡による観察が可能な材料とは、例えば粒界が存在する多結晶材料や表面の算術平均粗さRaが0.35nm以上であるような材料である。例えば、スパッタ成膜においてチャンバ内圧力を高く設定する等の成膜条件の設定を行うことにより表面粗さが大きくSEM観察に適した膜を成膜することができる。尚、電子によるチャージアップが発生しにくく観察しやすいという点では電気抵抗率が100Ωcm以下の材料であることが好ましい。具体的にはレジスト層支持材34の材料としては例えば、Ni、Si、Ta、Cr、Ti、Mn、Zn、Co、Pt、Au、W、Ag、Al、Cu、C(炭素)等を用いることができる。尚、本第1実施形態では上述のようにレジスト層支持材34は後述する基板エッチング工程(S110)においてマスクとして機能するのでレジスト層支持材34の材料は基板32の材料と異なる。レジスト層支持材34の厚さは2〜20nmである。レジスト層支持材34は基板32の全面に形成されている。言い換えれば、レジスト層支持材34は描画領域EAに形成され、更に内側非描画領域NEA1及び外側非描画領域NEA2にも形成されている。
【0036】
次に、図6に示されるように、描画領域EAにおいてレジスト層支持材34を被覆し、且つ、内側非描画領域NEA1の一部においてレジスト層支持材34を被覆しないようにレジスト層支持材34の上にレジスト層36を成膜する(S102B:レジスト層成膜工程)。具体的には、スピンコートにより被加工体30における内側非描画領域NEA1の外周よりも若干内側の部分にレジスト層36の液状の材料を供給し、被加工体30を回転させてレジスト層36の液状の材料を遠心力により径方向外側に流動させる。これにより図7及び8に示されるように、内側非描画領域NEA1における中心部を除く部分、描画領域EA及び外側非描画領域NEA2にレジスト層36が形成される。レジスト層36の厚さは10〜200nmである。尚、レジスト層36の材料は電子線レジストでありポジ型でもネガ型でもよい。
【0037】
次に、図9に示されるような電子ビーム描画装置40を用いて、電子ビームをレジスト層36に照射しレジスト層36を情報記録ディスク10の記録層18のトラックのパターンやサーボパターンに相当する凹凸パターンに対応するパターンを含む描画パターンで露光する(S104:描画工程)。尚、描画パターンは、情報記録ディスク10の記録層18のトラックのパターンやサーボパターンに相当する凹凸パターンのみに対応するパターンでもよい。
【0038】
電子ビーム描画装置40は、電子ビームの焦点の位置(図9における垂直方向の位置)や照射位置(図9における水平方向の位置)を制御して電子ビームを照射可能である電子ビームカラム42と、電子ビームカラム42の下に設けられた真空チャンバ44と、を有し、露光に用いられる電子ビーム(電子ビームカラム42により照射される電子ビーム)を用いたSEMの機能を備えている。電子ビームカラム42には、電子銃46と、収束レンズ48と、ブランキング電極50と、アパーチャ52と、ビーム偏光器54と、非収差補正器56と、焦点レンズ58と、対物レンズ60と、が備えられている。真空チャンバ44には、被加工体30を保持するターンテーブル62と、ターンテーブル62をX−Y方向(図9における水平方向の位置)に移動自在に保持するX−Yステージ64と、が備えられている。
【0039】
この工程では最初に図9及び10に示されるようにレジスト層支持材34の内側非描画領域NEA1におけるレジスト層36から露出する部分を露光に用いられる電子ビームを用いたSEMにより観察し、SEM観察の結果に基づいて電子ビームの焦点を調整する。より詳細には電子ビームの焦点の位置をレジスト層36の下面のレベル(レジスト層支持材34の上面のレベル)に合わせる。例えば、電子ビームの焦点の位置を変更しながらレジスト層支持材34の上面のSEM画像を作業者が目視し、レジスト層支持材34の上面のSEM画像が最も鮮明になる位置に焦点を合わせる。
【0040】
このように、SEM観察には向かないレジスト層36の上面ではなくSEM観察が可能な材料で構成されたレジスト層支持材34の上面を観察することで、電子ビームの焦点の位置をレジスト層支持材34の上面(レジスト層36の下面)のレベルに合わせることができる。
【0041】
又、基準サンプルではなく描画対象の被加工体30(のレジスト層支持材34)を直接観察して電子ビームの焦点の位置を合わせるので、電子ビームの焦点の位置をレジスト層支持材34の上面(レジスト層36の下面)のレベルに確実に合わせることができる。
【0042】
次に、上記の焦点の調整に基いて、図11に示されるように、電子ビームを被加工体30のレジスト層36に照射しレジスト層36を情報記録ディスク10の記録層18のトラックのパターンやサーボパターンに相当する凹凸パターンに対応するパターンを含む描画パターンで露光する。尚、レジスト層36の材料(ポジ型又はネガ型)や、原盤からスタンパを作製するまでの転写の回数に応じて、レジスト層36における情報記録ディスク10の記録層18の凸部に対応する部分を露光するのか凹部に対応する部分を露光するのかを選択する。
【0043】
被加工体30の一部であるレジスト層支持材34の上面のSEM観察の結果に基づいて電子ビームの焦点の位置が調整され電子ビームの焦点の位置がレジスト層支持材34の上面(レジスト層36の下面)のレベルに確実に合わせられているので、レジスト層36を情報記録ディスク10の記録層18のトラックのパターンやサーボパターンに相当する凹凸パターンに対応するパターンを含む描画パターンのとおりに高精度で露光することができる。又、SEM観察のために描画対象のレジスト層36にマーキングピンを当接させてレジスト層36の一部を機械的に剥離する必要がないので、この点でもレジスト層36を所望の描画パターンどおりに適切に描画できる。尚、電子ビームの焦点の位置はレジスト層36の下面のレベルに合わせられているが、レジスト層36の厚さが10〜200nmの範囲であれば、レジスト層36の下面から上面まで高精度で露光することが可能である。レジスト層36の厚さが著しく厚い場合は、例えば焦点の位置をレジスト層の厚さ方向の中間点に合わせるように焦点の位置を補正してもよい。
【0044】
次に、レジスト層36を現像する(S106:現像工程)。これにより、図12に示されるように、レジスト層36の露光部分(ポジ型の場合)又は非露光部分(ネガ型の場合)が除去され、情報記録ディスク10の記録層18のトラックやサーボパターンに相当する凹凸パターンに対応する凹凸パターンを含むパターンのレジスト層36が形成される。
【0045】
次に、レジスト層36に基づいてマスク層(レジスト層支持材34)をエッチングする(S108:マスク層エッチング工程)。これにより、図13に示されるように、レジスト層支持材34におけるレジスト層36から露出する部分が除去され、情報記録ディスク10の記録層18のトラックのパターンやサーボパターンに相当する凹凸パターンに対応する凹凸パターンを含むパターンのマスク層(レジスト層支持材34)が形成される。エッチング法としては、例えばAr等の希ガスを用いたIBE(Ion Beam Etching)を用いることができる。又、マスク層(レジスト層支持材34)の材料に対するエッチングレートがレジスト層36に対するエッチングレートよりも高い反応ガスを用いたRIE(Reactive Ion Etching)でレジスト層支持材34をエッチングしてもよい。
【0046】
次に、マスク層(レジスト層支持材34)に基づいて基板32をエッチングする(S110:基板エッチング工程)。基板32の厚さ方向の途中の位置までエッチングが進んだところでエッチングを停止する。これにより、図14に示されるように、基板32におけるマスク層(レジスト層支持材34)から露出する部分が除去され、情報記録ディスク10の記録層18のトラックのパターンやサーボパターンに相当する凹凸パターンに対応する凹凸パターンを含む凹凸パターンの基板32が形成される。基板32の材料がガラス、Si、SiCの場合、エッチング法としては、例えばCFやSFのようなフッ素系ガスを用いたRIEを用いることができる。又、基板32の材料がグラッシーカーボンの場合、エッチング法としては、例えばOのような酸素系ガスを用いたRIEを用いることができる。この工程でレジスト層36は完全に除去される。
【0047】
次に、ウェットエッチングにより、基板32の凸部の上に残存するマスク層(レジスト層支持材34)を除去する(S112:レジスト層支持材除去工程)。マスク層(レジスト層支持材34)の材料がNiの場合、エッチング液としては例えばスルファミン酸溶液を用いることができる。これにより、図15に示されるような、情報記録ディスク10の記録層18のトラックのパターンやサーボパターンに相当する凹凸パターンに対応する凹凸パターンを含む凹凸パターンの転写面を有する原盤70が完成する。
【0048】
ここで原盤70を用いて情報記録ディスク10のトラックのパターンやサーボパターンに相当する凹凸パターンの記録層18を形成する方法について簡単に説明しておく。まず原盤70の凹凸パターンの転写面に化学メッキ法やスパッタ法で導電膜を形成し、更にこの導電膜を電極として導電膜の上に電解メッキ法で電解メッキ層を形成し、これら導電膜及び電解メッキ層を一体で原盤70から剥離することにより原盤70の転写面の凹凸パターンに対応する凹凸パターンの転写面を有するメタルスタンパが得られる。次に、情報記録ディスク10の基板12の上に軟磁性層14、配向層16、連続膜の記録層18、マスク層、レジスト層が形成された構成の被加工体のレジスト層に上記のメタルスタンパを押し付けてメタルスタンパの転写面の凹凸パターンをレジスト層に転写する。この凹凸パターンのレジスト層に基いてマスク層、記録層18を順次エッチングすることにより、トラックやサーボパターンに相当する凹凸パターンの記録層18が形成される。又、導電膜及び電解メッキ層を一体で原盤70から剥離したものをメタルマザーとして用い、このメタルマザーに電解メッキ法で更に電解メッキ層を形成しこの電解メッキ層をメタルマザーから剥離したものをメタルスタンパとして用いてもよい。又、更に電解メッキ法を繰り返してメタルスタンパを形成してもよい。又、メタルスタンパを金型内に設置して樹脂成形により原盤70の転写面の凹凸パターンに対応する凹凸パターンの転写面を有する樹脂スタンパを作製し、樹脂スタンパをレジスト層に押し付けることにより樹脂スタンパの転写面の凹凸パターンをレジスト層に転写してもよい。描画における露光部と非露光部は、レジストのタイプ(ポジ型又はネガ型)やスタンパを得るまでの電解メッキの回数等に応じて適宜変更すればよい。
【0049】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。前記第1実施形態ではレジスト層36に基づいてマスク層(レジスト層支持材34)をエッチングし(S108)、マスク層(レジスト層支持材34)に基づいて基板32をエッチングしている(S110)。これに対し、本第2実施形態ではレジスト層支持材34は基板エッチング工程(S110)においてマスクとして機能しない。図16のフローチャートに示されるようにマスク層エッチング工程(S108)は省略されており、図17に示されるように基板エッチング工程(S110)においてレジスト層36に基づいてレジスト層支持材34及び基板32をエッチングする。又、レジスト層支持材除去工程(S112)では基板32の凸部の上に残存するレジスト層36及びレジスト層支持材34を除去する。尚、レジスト層支持材除去工程(S112)ではレジスト層36、レジスト層支持材34に対応した2種類のエッチング液を用いてもよい。他の工程については前記第1実施形態と同じなので同じ要素については図1〜15と同一符号を用いることとして説明を適宜省略する。
【0050】
本第2実施形態でもレジスト層支持材34は走査型電子顕微鏡による観察が可能な材料で構成されている必要はあるがレジスト層支持材34の材料は基板をエッチングするためのマスク層として機能する材料である必要はない。従って、レジスト層支持材34の材料の選択の幅を広げることができる。本第2実施形態のレジスト層支持材34の材料としては例えばNi、Si、Ta、Cr、Ti、Mn、Zn、Co、Pt、Au、W、Ag、Al、Cu、C(炭素)や、Si、グラッシーカーボン、SiC等の材料を用いることができる。尚、基板32の材料として本第2実施形態でも例えばガラス、Si、グラッシーカーボン、SiCを用いることができる。レジスト層支持材34の材料としてSi、グラッシーカーボン、SiC等の基板32の材料と同じ材料を用いる場合も、例えばスパッタ成膜においてチャンバ内圧力を高く設定する等の成膜条件の設定を行うことにより表面粗さが大きくSEM観察に適した膜を成膜することができる。又、本第2実施形態の基板エッチング工程(S110)でも例えばAr等の希ガスを用いたIBEを用いることができる。又、レジスト層支持材34及び基板32の材料に対するエッチングレートがレジスト層36に対するエッチングレートよりも高い反応ガスを用いたRIEでレジスト層支持材34及び基板32をエッチングしてもよい。
【0051】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。前記第1及び第2実施形態の被加工体30はレジスト層支持材34の下に更に基板32を備えているが、本第3実施形態の被加工体80はレジスト層支持材82が基板を兼ねている。本第3実施形態のレジスト層支持材82も、前記第1及び第2実施形態のレジスト層支持材34と同様にSEM観察が可能な材料で構成されている。又、レジスト層支持材82の材料は最終的な原盤70の材料として適した材料である必要がある。本第3実施形態のレジスト層支持材82の材料としては例えばSi、グラッシーカーボン、SiCを用いることができる。
【0052】
図18のフローチャートに示されるように、本第3実施形態の被加工体用意工程(S102)ではレジスト層支持材の成膜は行われずレジスト層の成膜だけが行われる。より詳細には、図19及び20に示されるように、基板(レジスト層支持材82)の上に直接レジスト層36が成膜される。
【0053】
描画工程(S104)では図21に示されるように基板(レジスト層支持材82)の内側非描画領域NEA1におけるレジスト層36から露出する部分をSEM観察し、SEM観察の結果に基づいて電子ビームの焦点の位置を調整する。より詳細には電子ビームの焦点の位置をレジスト層36の下面のレベル(基板(レジスト層支持材82)の上面のレベル)に合わせる。尚、SEM観察に適するように基板(レジスト層支持材82)の内側非描画領域NEA1の部分の上面が他の部分の上面よりも粗くなるように基板(レジスト層支持材82)を予め加工しておいてもよい。例えば、FIB(Focused Ion Beam)により基板(レジスト層支持材82)における内側非描画領域NEA1の部分に複数の凹部を形成しておく。
【0054】
次に、図22に示されるように前記第1及び第2実施形態と同様に描画工程(S104)を実行し、更に図23に示されるように現像工程(S106)を実行する。
【0055】
次に図24に示されるように基板エッチング工程(S110)を実行する。本第3実施形態の基板エッチング工程(S110)では、レジスト層36に基づいて基板(レジスト層支持材82)をエッチングする。尚、前記第2実施形態と同様にマスク層エッチング工程(S108)は省略されている。
【0056】
又、基板エッチング工程(S110)の後に、レジスト層支持材除去工程(S112)に代えてレジスト層除去工程(S114)を実行する。レジスト層除去工程(S114)では例えばOガス等の反応ガスを用いたRIEにより基板(レジスト層支持材82)の凸部の上に残存するレジスト層36を除去する。これにより前記第1及び第2実施形態と同様の原盤70が得られる。
【0057】
尚、前記第1及び第2実施形態と同じ要素については図1〜17と同一符号を用い説明を適宜省略した。
【0058】
本第3実施形態では、レジスト層支持材82が基板を兼ねているので、被加工体80の構成が簡単であると共に被加工体80の加工工程が少なく生産効率の向上に寄与する。
【0059】
尚、前記第1〜第3実施形態では、被加工体用意工程(S102)において描画領域EAにおいてレジスト層支持材34(82)を被覆し、且つ、内側非描画領域NEA1の一部においてレジスト層支持材34(82)を被覆しないようにレジスト層支持材34(82)の上にレジスト層36を成膜しているが、レジスト層支持材34(82)の上の全面にレジスト層36を成膜してからレジスト層36における内側非描画領域NEA1の部分の一部又は全部を露光及び現像により除去してもよい。この場合、内側非描画領域NEA1の部分の一部又は全部の露光において電子ビームの焦点を高精度で調整する必要はない。
【0060】
又、前記第1〜第3実施形態では、描画工程(S104)においてレジスト層支持材34(82)の内側非描画領域NEA1におけるレジスト層36から露出する部分をSEM観察しているが、例えば外側非描画領域NEA2にレジスト層36を成膜してからレジスト層36における外側非描画領域NEA2の部分の一部又は全部を露光及び現像により除去し、レジスト層支持材34(82)の外側非描画領域NEA2におけるレジスト層36から露出する部分をSEM観察し、このSEM観察の結果に基づいて電子ビームの焦点の位置を調整してもよい。この場合も、外側非描画領域NEA2の部分の一部又は全部の露光において電子ビームの焦点を高精度で調整する必要はない。
【0061】
又、前記第1〜第3実施形態では、情報記録ディスク10は内側非記録領域NRA1及び外側非記録領域NRA2を有し、被加工体30(80)も内側非描画領域NEA1及び外側非描画領域NEA2を有しているが、例えば、情報記録ディスクは外側非記録領域を有しておらず、(原盤の製造過程における形態である)被加工体も外側非描画領域を有していなくてもよい。又、情報記録ディスクは内側非記録領域を有しておらず、(原盤の製造過程における形態である)被加工体も内側非描画領域を有していなくてもよい。この場合、レジスト層支持材の外側非描画領域におけるレジスト層から露出する部分をSEM観察し、このSEM観察の結果に基づいて電子ビームの焦点の位置を調整すればよい。
【0062】
又、前記第1〜第3実施形態では、被加工体30(80)、原盤70は情報記録ディスク10と同様のディスク形状であるが、原盤やその製造過程における被加工体の形状は、情報記録ディスク10を含む形状であれば例えば正方形等のディスク形状以外の形状でもよい。
【0063】
又、前記第1〜第3実施形態では、情報記録ディスク10は垂直記録型のディスクリートトラックメディアであるが、面内記録型のディスクリートトラックメディア、垂直記録型又は面内記録型のパターンドメディアの記録領域に凹凸パターンを形成するために利用される描画にも本発明を適用可能である。又、記録領域に凹凸パターンが形成される情報記録ディスクであれば、光磁気ディスク、情報の記録のために磁気と熱を併用する熱アシスト型の記録ディスク、磁気とマイクロ波を併用するマイクロ波アシスト型の記録ディスク、光ディスク等の、磁気ディスク以外の情報記録ディスクの記録領域に凹凸パターンを形成するために利用される描画にも本発明を適用可能である。
【0064】
又、連続膜の被加工層をイオン注入や反応ガスによる改質処理によって記録要素と非記録要素とに分離する工程を含む情報記録媒体の製造にも本発明を適用可能である。例えば、連続膜の被加工層、マスク層、レジスト層が形成された構成の被加工体のレジスト層に上記のような樹脂スタンパやメタルスタンパを押し付けてスタンパの転写面の凹凸パターンをレジスト層に転写し、この凹凸パターンのレジスト層に基いてマスク層をエッチングし、被加工層におけるマスク層から露出した部分にイオン注入や反応ガスによる改質処理を施すことにより被加工層を記録要素と非記録要素とに分離できる。
【0065】
又、連続膜の記録層を有する磁気記録媒体にサーボパターンを転写するための磁気転写用のマスター情報担体として用いられる凹凸パターンの転写面を有する磁気転写用のスタンパの製造にも本発明を適用可能である。例えば、上記のような樹脂スタンパやメタルスタンパの凹凸パターン面に強磁性体を成膜することで、強磁性体で形成された凹凸パターンの転写面を有する磁気転写用のスタンパを製造することができる。又、上記のようなメタルスタンパの材質を強磁性体とすることで、強磁性体で形成され凹凸パターンの転写面を有する磁気転写用のスタンパを製造することができる。
【実施例】
【0066】
5枚のサンプルを用意し前記第1実施形態のとおり描画工程(S104)及び現像工程(S106)を実行した。条件は以下のとおりであった。
基板32の材料:Si
基板32の直径:100mm
基板32の厚さ:0.6mm
内側非描画領域NEA1:半径0〜15mm
描画領域EA:半径15〜35mm
外側非描画領域NEA2:半径35〜50mm
レジスト層支持材34の材料:Ni
レジスト層支持材34の厚さ:4nm
レジスト層36の材料:ポジ型電子線レジストZEP520A(日本ゼオン製)
レジスト層36の厚さ:50nm
レジスト層36の成膜範囲:半径3〜50mm
描画パターンのトラックピッチ:50nm
露光部の径方向の幅:10nm
非露光部の径方向の幅:40nm
電子ビームのビーム電流:1nA
電子ビームの線速度:100mm/sec
現像液:電子線レジスト用現像液ZED−N50(日本ゼオン製)
現像液の温度:20℃
現像時間:1min
【0067】
図25及び26は、描画工程(S104)におけるレジスト層支持材34の上面のSEM画像(倍率:8万倍)の例でありNiの粒界を観察したものである。図25は電子ビームの焦点の位置がレジスト層支持材34の上面に一致したと判断されたときのSEM画像の例である。又、図26は電子ビームの焦点の位置がレジスト層支持材34の上面に一致していないと判断されたときのSEM画像の例である。
【0068】
又、図27は、現像工程(S106)後のレジスト層36のSEM画像(倍率:5万倍)の例である。図27において白い部分は凸部(非露光部)の径方向の端部でありハレーションにより白く見えている。又、黒い部分のうち径方向の幅が広い方は、凸部における径方向の端部よりも内側の部分を示す。又、黒い部分のうち径方向の幅が狭い方は、凹部(露光されて現像により除去された部分)を示す。
【0069】
図27に示されるようなSEM画像に基いて5枚のサンプルのレジスト層36の凹部の径方向の幅を測定した。測定結果を表1に示す。尚、表1に示される数値は、各サンプルにおける10箇所の測定結果の相加平均である。
【0070】
【表1】

【0071】
[比較例]
前記実施例に対し、描画対象の被加工体30と調整用の基準サンプルとを並べて配置し、両者の上面のレベルが一致するように基準サンプルの高さを調整し、基準サンプルに電子ビームを照射して基準サンプルの上面のレベルに電子ビームの焦点の位置を合わせた。その後、基準サンプルに代えて被加工体30を電子ビームの照射位置に移動させて上記焦点の位置を保持しつつ被加工体30に描画を行った。尚、基準サンプルの上面部の材料はAuだった。他の条件は前記実施例と同じ条件に設定し、前記実施例と同様に5枚のサンプルを用意して描画工程(S104)及び現像工程(S106)を実行した。
【0072】
図28は、比較例のサンプルの現像工程(S106)後のレジスト層36のSEM画像(倍率:5万倍)の例である。図28に示されるようなSEM画像に基いて前記実施例と同様に比較例の5枚のサンプルのレジスト層36の凹部の径方向の幅を測定した。測定結果を表1に併記する。尚、測定結果が示されていないサンプルは、図28中に示された黒い点のような部分のように、凹部であるべき部分の一部に凹部が形成されていなかったサンプルである。
【0073】
表1に示されるように、比較例では5枚のサンプルのうちの3枚のサンプルでは所望のパターンのレジスト層36が形成されていたが、2枚のサンプルでは図28に示されるようにレジスト層36の凹部であるべき部分の一部に凹部が形成されていなかった。尚、意図的に電子ビームの焦点の位置をレジスト層から2μm程度ずらして描画した場合、比較例の2枚のサンプルとほぼ同様の態様でレジスト層の凹部であるべき部分の一部に凹部が形成されないことが確認されている。比較例の2枚のサンプルでは描画対象の被加工体30と調整用の基準サンプルの上面のレベルにずれが生じていたために、露光が部分的に不適切となりレジスト層36の凹部であるべき部分の一部に凹部が形成されなかったと考えられる。
【0074】
一方、実施例では5枚の総てのサンプルにおいて図27に示されるように所望のパターンのレジスト層36が形成されていた。即ち、描画対象の被加工体30(のレジスト層支持材34)を直接SEM観察して電子ビームの焦点の位置を調整することにより、100nmよりも小さいトラックピッチのパターンのレジスト層を高精度で形成できることが確認された。
【0075】
又、図25及び26に示されるように、レジスト層支持材34の上面をSEM観察することにより、電子ビームの焦点の位置がレジスト層支持材34の上面のレベル(レジスト層36の下面のレベル)に一致しているか否かを明確に識別できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、例えば、ディスクリートトラックメディア、パターンドメディア等の情報記録ディスクの製造に利用できる。
【符号の説明】
【0077】
10…情報記録ディスク
12…基板
14…軟磁性層
16…配向層
18…記録層
30、80…被加工体
32…基板
34…マスク層(レジスト層支持材)
36…レジスト層
40…電子ビーム描画装置
42…電子ビームカラム
44…真空チャンバ
70…原盤
82…基板(レジスト層支持材)
RA…記録領域
NRA1…内側非記録領域
NRA2…外側非記録領域
DA…データ領域
SA…サーボ領域
EA…描画領域
NEA1…内側非描画領域
NEA2…外側非描画領域
S102…被加工体用意工程
S102A…レジスト層支持材成膜工程
S102B…レジスト層成膜工程
S104…描画工程
S106…現像工程
S108…レジスト層支持材(マスク層)エッチング工程
S110…基板エッチング工程
S112…レジスト層支持材除去工程
S114…レジスト層除去工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型電子顕微鏡による観察が可能な材料で構成され所定の環状の描画領域に形成され更に前記描画領域の径方向の内側及び外側の少なくとも一方に存在する非描画領域にも形成されたレジスト層支持材と前記描画領域において前記レジスト層支持材を被覆し、且つ、前記非描画領域の少なくとも一部において前記レジスト層支持材を被覆しないように前記レジスト層支持材の上に形成されたレジスト層とを備える被加工体を用意する被加工体用意工程と、
前記レジスト層支持材の前記非描画領域における前記レジスト層から露出する部分を走査型電子顕微鏡により観察し前記走査型電子顕微鏡による観察の結果に基づいて電子ビームの焦点の位置を調整して電子ビームを前記レジスト層に照射し前記レジスト層を所定の描画パターンで露光する描画工程と、を含むことを特徴とする描画方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記被加工体用意工程は、前記描画領域において前記レジスト層支持材を被覆し、且つ、前記非描画領域の少なくとも一部において前記レジスト層支持材を被覆しないように前記レジスト層支持材の上に前記レジスト層を成膜するレジスト層成膜工程を含むことを特徴とする描画方法。
【請求項3】
請求項1又は2の描画方法を用いて前記描画パターンに対応する凹凸パターンの転写面を有する原盤を製造することを特徴とする原盤の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記被加工体用意工程において前記被加工体として前記レジスト層支持材の下に基板を更に備える被加工体を用意し、前記レジスト層支持材は前記基板をエッチングするためのマスク層であり、
前記描画工程の後に前記レジスト層を現像する現像工程と、前記レジスト層に基づいて前記マスク層をエッチングするマスク層エッチング工程と、前記マスク層に基づいて前記基板をエッチングする基板エッチング工程と、を更に含むことを特徴とする原盤の製造方法。
【請求項5】
請求項3において、
前記被加工体用意工程において前記被加工体として前記レジスト層支持材の下に基板を更に備える被加工体を用意し、
前記描画工程の後に前記レジスト層を現像する現像工程と、前記レジスト層に基づいて前記レジスト層支持材及び前記基板をエッチングする基板エッチング工程と、を更に含むことを特徴とする原盤の製造方法。
【請求項6】
請求項3において、
前記レジスト層支持材は基板であり、
前記描画工程の後に前記レジスト層を現像する現像工程と、前記レジスト層に基づいて前記基板をエッチングする基板エッチング工程と、を更に含むことを特徴とする原盤の製造方法。
【請求項7】
請求項3乃至6のいずれかの原盤の製造方法を用いて製造された原盤を用いて前記凹凸パターンに対応する凹凸パターンの転写面を有するスタンパを製造することを特徴とするスタンパの製造方法。
【請求項8】
請求項7のスタンパの製造方法を用いて製造されたスタンパを用いて情報記録ディスクを製造することを特徴とする情報記録ディスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2011−255653(P2011−255653A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134525(P2010−134525)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】