説明

揺動体装置、及びそれを用いた光偏向器

【課題】可動子の揺動運動が安定し、ジッタの発生が効果的に抑制される光偏向器などとして構成され得る揺動体装置を提供する。
【解決手段】揺動体装置は、回転軸の回りに揺動可能に支持された少なくとも1つの可動子105、109を含み、可動子の揺動時の渦気流を規制する渦気流規制部材111を備える。渦気流規制部材111は、可動子の揺動運動により回転軸から最遠の位置にある可動子109の端部が描く軌跡曲面の少なくとも一部に近接して伸びる近接面を有する。近接面は凹凸形状201、202を持つ。揺動体装置は光偏向器として構成される場合、1つの可動子109に光偏向素子108が設けられ、少なくとも1つの可動子105にトルクを印加して可動子を揺動させる駆動手段104、110が備えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揺動可能に支持された少なくとも1つの可動子を有する揺動体装置、光偏向素子を有する可動子を往復振動させることで光偏向素子に入射された光を走査する光偏向器、それを用いた光学機器などに関する。揺動体装置は、光偏向器、アクチュエータ、センサなどとして応用可能である。また、光偏向器は、光の偏向走査によって画像を投影するプロジェクションディスプレイ、電子写真プロセスを用いるレーザービームプリンタ、デジタル複写機等の画像形成装置などの光学機器に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来の光走査装置における光偏向器としては、ポリゴンミラーやガルバノミラーが挙げられる。これらの光偏向器は、電子写真式複写機、レーザービームプリンタ、プロジェクションディスプレイ等の画像形成または画像読取り装置に用いられ、更なる高解像度化や高速プリント化が求められている。そのためには、光偏向器の回転を更に高速化しなければならず、従来の光走査手段では、耐久性、発熱、騒音等が課題となるため高速走査には限界がある。
【0003】
これに対して、近年、マイクロマシニング技術を利用した光偏向器の研究開発が進められている。例えば、Si単結晶基板から、エッチングにより、可動子(反射ミラー)とそれを可動に支持するトーションバー(ねじりバネ)とトーションバーを支持する固定部とを一体形成する技術が提案されている。この技術によって、上記従来の光走査手段に比べ、ミラー面サイズが非常に小さく小型化できる上、共振現象を利用して可動子を往復振動させることで高速化も可能である。更に、低騒音で消費電力も低いといった利点もある。
【0004】
しかし、可動子(反射ミラー)を大きな振れ角で揺動させる際に生じる可動部近辺の気流が原因で、ミラー走査の安定性を低下させてしまう可能性が指摘される。その結果、光走査の振幅が変化して、走査幅のゆらぎ(以下、ジッタとも呼ぶ)が生じる可能性がある。各種画像形成装置等に用いられる光偏向器にとって、ジッタは印字品質を低下させてしまう懸念がある。
【0005】
そこで、ジッタを低減させる方法として、図10に示すような技術が提案されている(特許文献1参照)。図10において、振動ミラー3は、ねじり梁4で軸支されて実装基板6に装着され、振動ミラー3を一体に備えたユニットとしての振動ミラー基板1を構成する。振動ミラー基板1は、位置決め部9によって回路基板12に取り付けられる。更に、回路基板12は、透過窓16、17を備えた封止部材であるカバー18によって、全体的に覆われ、振動ミラー3の置かれた空間が密閉される。振動ミラー3を覆っている振動ミラー覆い部14b上部には、気圧調整手段として気圧調整弁15が設けられており、外圧よりも、振動ミラー3が置かれた空間内の内圧が低くなるようにしている。
【0006】
このような光偏向器では、減圧された密閉空間内に置かれた反射ミラーが振動してねじれ変位した場合、振動ミラー3によって攪拌される空気の容積が制限され、空間内の雰囲気が安定に保たれる。これにより、振動ミラー3の回転に対する負荷変動を最小限に抑え、振れ角(振幅)の変動を低減させる。
【0007】
また、同様に、振動ミラーが置かれた空間内を蓋体で密封した上で、空間内を減圧又は空間内に不活性ガスを充填することによって、振動ミラー揺動時の気流の乱れを低減し、振動ミラーの揺動運動を安定させる方法も提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2007-171852号公報
【特許文献2】特開2003-057586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び特許文献2に記載の光偏向器の場合、反射ミラー周りの密閉、減圧又は不活性ガスの充填によって気流の乱れを低減し、振れ角及び揺動運動を安定させることができるとされている。しかしながら、密閉、減圧又は不活性ガスの充填のためのパッケージングにより、製造コストが増加しやすい。また、反射ミラー面で偏向走査される光ビームがカバーや蓋体の材質を透過するため、光ビームの光量が或る程度低下することは避けられない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑み、本発明の揺動体装置は、回転軸の回りに揺動可能に支持された少なくとも1つの可動子を含み、前記可動子の揺動時の渦気流を規制する渦気流規制部材を備える。前記渦気流規制部材は、前記可動子の揺動運動により前記回転軸から最遠の位置にある前記可動子の端部が描く軌跡曲面の少なくとも一部に近接して伸びる近接面を有し、前記近接面は凹凸形状を持つ。典型的には、本発明の揺動体装置は光偏向器として構成され、その場合、1つの可動子に光偏向素子が設けられ、少なくとも1つの可動子にトルクを印加して可動子を揺動させる駆動手段を備える。
【0010】
また、上記課題に鑑み、本発明の画像形成装置などの光学機器は、光源と、上記揺動体装置により構成された光偏向器と、光入射目標体とを有し、前記光偏向器は、前記光源からの光を偏向し、該光の少なくとも一部を前記光入射目標体に入射させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記の如き渦気流規制部材が設けられているので、渦気流規制部材の凹凸形状によって、生じる渦気流が小規模化され均一化(生成状態のばらつきの抑制)される。こうして、渦気流が規制される。そのため、可動子の振れ角(変位角)が比較的大きな振動の場合などにおいても、可動子の揺動運動が安定し、ジッタの発生が効果的に抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の光偏向器などとして構成される揺動体装置の基本的な実施形態は、回転軸の回りに揺動可能に支持された少なくとも1つの可動子を含み、前記可動子の揺動時の渦気流を規制する渦気流規制部材を備える。前記渦気流規制部材は、前記可動子の揺動運動により前記回転軸から最遠の位置にある前記可動子の端部が描く軌跡曲面の少なくとも一部に近接して伸びる近接面を有し、前記近接面は凹凸形状を持つ。本明細書で、回転軸から最遠の位置にある可動子の端部とは、可動子の主面(可動子を構成する面の中で最も面積の広い面)内にあって回転軸と直交する方向に伸びる各線上で回転軸から最遠の位置にある部分を連ねた部分である。例えば、後述する図示例における四角形状の可動子では、回転軸と平行に伸びる両側の側端部である。また、例えば、円形状の可動子では、回転軸の両側の円弧状の側端部であり、台形状の可動子では、回転軸に対して傾斜して伸びる両側の側端部である。この渦気流規制部材の凹凸形状によって、可動子の揺動運動で生じる渦気流が小規模化ないし細分化され、その結果として均一化される。凹凸形状の凹部と凸部は、典型的には、前記回転軸と平行に、或いはこれに対して所定の角度をなして伸びる。また、後述の図示例では、前記回転軸から最遠の位置にある可動子の端部は回転軸と平行になっているが、上述した例のように可動子の端部が回転軸に対して傾いていたり曲面的であったりする形態にも、渦気流規制部材を設けることができる。この場合にも、渦気流規制部材は、回転軸から最遠の位置にある可動子の前記傾いていたり曲面的であったりする端部が描く軌跡曲面の少なくとも一部に近接して伸びる近接面を有し、近接面は凹凸形状を持つ。
【0013】
光偏向器などとして構成される揺動体装置では、1つの可動子に反射面などの光偏向素子が設けられ、少なくとも1つの可動子にトルクを印加して可動子を揺動させるための永久磁石やコイルなどの駆動手段を備える。この場合、例えば、振動系が、支持体と、光偏向素子を有する第1可動子と、少なくとも1つの第2可動子と、を含んで構成される。そして、前記第1可動子と前記第2可動子は、ねじりバネにより、前記支持体に対して、前記回転軸であるねじり軸の回りにねじり振動可能に支持される。
【0014】
前記渦気流規制部材は、典型的には、前記回転軸を含み静止時(中立位置)の前記可動子の主面と垂直な平面に対して対称に、1対、配置される。本発明においては前記「対称」とは必ずしも厳密に対称でなくても良く、実質的に対称であれば良い。実質的に対称であるとは、本発明の効果が得られる範囲内での理論的な対称位置からのずれや加工誤差によるずれは許容できるという意味である。また、前記渦気流規制部材の前記回転軸の方向の長さは、その機能を効果的に果たすために、典型的には、同方向の前記可動子の長さ以上に設定される。
【0015】
1つの形態では、前記渦気流規制部材の近接面は、前記回転軸を含み静止時の前記可動子の主面と垂直な平面に平行に伸びるように形成される。また、他の形態では、前記渦気流規制部材の近接面は、前記可動子の端部が描く軌跡曲面に平行に伸びるように形成される。本発明においては前記「平行」とは必ずしも厳密に平行でなくても良く、実質的に平行であれば良い。実質的に平行であるとは、本発明の効果が得られる範囲内での理論的な平行位置からのずれや加工誤差によるずれは許容できるという意味である。
【0016】
上記光偏向器を利用する画像形成装置などの光学機器は、光源と、上記揺動体装置により構成された光偏向器と、感光体などの光入射目標体と、を有し、前記光偏向器は、前記光源からの光を偏向し、該光の少なくとも一部を前記光入射目標体に入射させる。
【0017】
本実施形態によれば、上記の如き渦気流規制部材が設けられているので、全般的に渦気流の発生が抑制され、且つ渦気流規制部材の凹凸形状によって、生じる渦気流が小規模化され均一化される。そのため、可動子の振れ角(変位角)が比較的大きな振動の場合においても、可動子の揺動運動が安定し、ジッタの発生が効果的に抑制される。従って、本実施形態の揺動体装置を、例えば、光偏向器として用いる場合、光ビームが上記蓋体などを透過しないので走査光ビームの光量を低下させることなく、安定した光走査を行うことができる。更には、装置の高コスト化、作動応答速度の低下、寿命低下を招くことなくジッタを低減することができる。
【実施例】
【0018】
以下、図面を用いて、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0019】
(第1の実施例)
図1から図6を用いて、本発明の揺動体装置を用いた光偏向器の第1の実施例について説明する。図1は、本実施例の光偏向器の構成を示す斜視図である。本実施例の光偏向器は、第1可動子109及び第2可動子105、更にこれら第1、第2可動子を支持する一直線(ねじり軸AA’)上に配置された2種類の弾性支持部である第1、第2ねじりバネ106、102を有する。第2ねじりバネ102は第2可動子105を固定板101に連結し、第1ねじりバネ106は第1可動子109を第2可動子105に連結している。更に、これら可動子、ねじりバネを含む振動系は、固定板101を介して固定部(不図示)に支持されている。こうして、平板状の第1、第2可動子109、105は、揺動振動可能な状態で第1、第2ねじりバネ106、102により夫々支持され、ねじり軸AA’を中心に時計回り及び反時計回りに往復振動を行う。この振動系では、第1可動子109及び第2可動子105がAA’軸(ねじり軸)を中心に弾性的に往復振動する。
【0020】
第2可動子105はシリコン部103と硬磁性体104で構成され、硬磁性体104は接着剤によってシリコン部103の裏表面に夫々接着されている。また、第2可動子105の裏側には、適当な間隔を隔ててコイル110が配置されている。コイル110は、例えば、スペーサ(不図示)を介して上記固定部(不図示)上に設けられている。ここで、コイル110の中央の空隙部に、透磁率の高い材料で作成されたコア(不図示)が配置されてもよい。硬磁性体104である永久磁石とコイル110は、振動系を駆動するための駆動手段を構成する。コイル110に電流を流すことで硬磁性体104を有する第2可動子105にトルクが作用し、第1可動子109を含む振動系全体が駆動される。
【0021】
第1可動子109は反射ミラー108とシリコン部107で構成されている。シリコン部107上の反射ミラー108の材料は、例えば、アルミニウムであり、真空蒸着により形成することができる。反射ミラー108の最表面には保護膜を形成してもよい。この第1可動子109上に形成された反射ミラー108は、第1可動子109の揺動振動により、反射ミラー108に入射する入射光を所定変位角の範囲で反射・偏向するものである。
【0022】
更に、本実施例では、一対の渦気流規制部材111が、上記固定部(不図示)上にビス、接着剤等にて固定されている。図2(a)の平面図に示す通り、一対の渦気流規制部材111は、第1可動子109と近接する面に、夫々、201a〜201j、202a〜202jの凹凸形状201、202を有する。凹凸形状201、202の凹部と凸部のピッチやサイズは、渦気流規制の機能を効果的に達成できるように、発生する渦の径の大きさなどに応じて設定する。例えば、渦直径の大きさなどと同程度にする。
【0023】
本実施例の光偏向器は、第1可動子109におけるシリコン部107の長手方向(ねじり軸AA’と直交する方向)の長さが、例えば4.0mm、高さ方向(ねじり軸AA’と平行な方向)の長さが、例えば1.0mmである。第2可動子105におけるシリコン部103は、長手方向の長さが、例えば3.0mm、高さ方向の長さが、例えば1.5mmである。固定板101と第2ねじりバネ102と第2可動子105のシリコン部103と第1ねじりバネ106と第1可動子109のシリコン部107とは、一体形成することができる。例えば、単結晶Si基板から、半導体製造方法のフォトリソグラフィとドライエッチングにより一体形成することができる。これにより、加工精度が高く小型の光偏向器を形成することができる。
【0024】
渦気流規制部材111の凹凸形状201、202については、図2(a)における凹部と凸部は夫々、例えば1.0mm×1.0mmの正方形形状であり、凹部と凸部は夫々両側で、例えば10個ずつ形成される。渦気流規制部材111は、第1可動子109の高さ方向の長さが、例えば1.0mm、第1可動子109の長手方向の長さが、例えば3.0mm、第1可動子109の厚み方向(図2(a)の左右方向)の長さが、例えば20mmである。また、渦気流規制部材111は、静止状態(図1や図2(a)に示す状態)の反射ミラー108面に対して、凹凸形状201、202を有する面が垂直になるように、第1可動子109の両脇に配置される。ここにおいて、第1可動子109の端部(ねじり軸AA’と平行な方向の面を持つ端部)と渦気流規制部材111の凸部の上面とのギャップは、例えば0.1mmである。効果的な渦気流規制の観点から、典型的には、このギャップは、100μm以上250μm以下の範囲とすると良い。渦気流規制部材111の材料は、例えば樹脂であり、金型成形されてもよい。この場合、量産に適しており、低コスト化も可能となる。
【0025】
次に、この渦気流規制部材111がジッタを低減する仕組みについて説明する。図2(b)は、渦気流規制部材111を設けないで第1可動子109を駆動した時に流体計測によって得られた、第1可動子109を通りねじり軸AA’と垂直な平面における第1可動子周辺の気体の定常的な流れを示す。第1可動子109が時計回りまたは反時計回りに揺動運動することで、第1可動子先端から放出される気流(流出気流301)や第1可動子109に向って側方部から流入する気流(流入気流302)が発生する。また、両側の流出気流301の間に、停滞気流303も発生する。
【0026】
図3は、図2(b)中のB部(第1可動子109の先端部)を拡大した図である。第1可動子109が矢印Cの方向へ揺動するとき、第1可動子109後方に後流渦と呼ばれる渦401が発生する。その後、或る角度で第1可動子109が折り返すとき(図3中の破線部の位置からC方向と反対方向に揺動するとき)、第1可動子109先端から渦402が前方に放出される。以上が、第1可動子109の揺動運動時における第1可動子109周辺の気体の流れである。このような気体の流れにおいて、前述の後流渦401が発生すると、その領域は圧力が低下する。一方、揺動中の第1可動子109の前方は、空気が圧縮されるために、圧力が高くなる。その結果、第1可動子109には、前後の圧力差により、第1可動子109の揺動方向とは逆方向の力である抗力Dが発生する。つまり、第1可動子109の後方に生成される図3中の後流渦401は、第1可動子109の駆動を妨げる役割を果たすことになる。尚、図3中の気流301は、図2(b)中の流出気流301と同じである。
【0027】
一般的に、物体後方に生成される渦は不安定性を有しており、その大きさや位置、回転の速度などにばらつきがある。これは前記後流渦401にも同様に当てはまり、第1可動子109が揺動するときの後流渦401の生成状態がばらつくことにより、第1可動子109に働く抗力Dもばらつく。こうして、第1可動子109を含む振動系全体に加わる力が変化することにより、系の共振周波数も変化する。この共振周波数の走査毎の変化により、第1可動子109の振幅がばらつき、反射ミラー108に入射して偏向される光の走査幅がばらつく(すなわち、ジッタが発生する)。
【0028】
図4に、ジッタが大小異なるユニットA〜Dにおいて、第1可動子後方に生成された渦直径のばらつき状態とジッタとの関係の測定結果を示す。測定は前記流体計測結果より得られた実際の第1可動子周辺の流れ画像を用いて行った。図4から明らかなように、第1可動子後方に生成される渦のばらつきとジッタとの間には強い相関関係が認められる。また、前記渦のばらつきはその渦の規模に伴って大きくなる。そのため、ジッタを低減させる方法として、渦を小さくし(渦気流の小規模化ないし細分化)、その結果として渦直径のばらつきを小さく(渦気流の生成状態のばらつきの抑制)することが考えられる。
【0029】
そこで、図1のように渦気流規制部材111を第1可動子109に近接して設置することで、図2(b)で示した流入、流出する気流を抑制し、第1可動子周辺の気流の乱れが小さくなるようにする。また、渦気流規制部材111は、第1可動子先端の後流を抑制し、第1可動子先端で生ずる後流渦を小さくする。更に、第1可動子先端から放出される図3中の渦401は、渦気流規制部材111の凹凸形状201、202に衝突することにより渦直径が更に小さくなる。
【0030】
図5は、本実施例と比較例との第1可動子周辺領域における渦度のシミュレーション結果を示す。渦度とは、流体の局所的な回転の強さであり、渦の規模を表す指標の一つである。図5から、本実施例の構成では、比較例(渦気流規制部材なしの例、及び凹凸形状のないフラットな渦気流規制部材を設ける例)よりも渦度が低減していることが分かる。従って、図1のように第1可動子両脇に渦気流規制部材111を設けることで、第1可動子109に流入、流出する気流を抑制して第1可動子後方の渦を小規模化(更には均一化)でき、ジッタを低減できる。
【0031】
第2可動子105の周辺に、第1可動子109と同様に、渦気流規制部材を設置しても同様の効果が得られる。また、可動子の数が1つ或いは3つ以上ある振動系にも、渦気流規制部材を設置して同様の効果を得ることができる。本実施例では、第1可動子109の反射ミラー108に対して入出する光ビームの行路を確保するために、図1や図2(a)に示すように渦気流規制部材111を、第1可動子109の中立位置を境にして一方の側(図2(a)の左側)のみに設けている。こうした形態でも、勿論、渦気流規制部材111による上記効果は奏されるが、可能であれば、渦気流規制部材の設置範囲を可動子の振動範囲に応じて広げてもよい。ミラーを持たない可動子に対して渦気流規制部材を設ける場合は、可動子の振動範囲を十分にカバーするように伸びた渦気流規制部材を設けることができる。
【0032】
上記渦気流規制部材111の凹凸形状201、202は、本実施例に示した以外に、図6乃至図8に示すように変形することも可能である。図6は、長方形形状の凹凸形状201、202を持つ変形例である。凸部の高さ及び凹部の深さが大きくなっている。形状例として、凸部と凹部はそれぞれピッチ1mm、高さ(深さ)2mmである。図7(a)は、可動子109の両側に設けた各渦気流規制部材111の凹凸形状201、202が異なる変形例である。具体的には、一方の凹凸形状の凹部及び凸部のピッチを他方の凹凸形状の凹部及び凸部のピッチよりも小さくする。各ピッチは1mm以下が好ましい。可動子の往復振動の往路と復路との振動運動に対して、異なった態様でジッタを低減したい場合などに適する。図7(b)は、凹凸形状201、202がねじり軸AA’に対してθ傾いた形状になった変形例である。形状例として、傾き角θは30°である。また、図7(c)は、上述したように渦気流規制部材111の端部が可動子109の反射面の平面を越えて設置されている変形例である。ただし、渦気流規制部材111は、第1可動子109による光走査を妨げない程度に反射面をオーバーして設置され、そのオーバー量は例えば1mmから2mmである。
【0033】
また、四角形の凹凸形状に限らず、例えば、図8(a)に示すように三角形状(ないし鋸歯形状)の突起を設けた凹凸形状201、202も可能である。形状例として、三角形状の凸部及び凹部のピッチ及び高さ(深さ)は1mmである。図8(b)に示すような波形状の凹凸形状201、202も可能である。形状例として、波形状の凸部の曲率半径は2mmである。更に、図8(c)に示すように、揺動時の可動子109端部が描く軌跡曲面に沿って凹凸形状201、202を設けた変形例も可能である。形状例として、第1可動子109と渦気流規制部材111の凸部とのギャップを例えば0.1 mmに保った状態で、第1可動子109の振れ角分だけ凹凸形状201、202を設ける。このときの凹凸形状のピッチは例えば1mmである。これらの変形例においても、本実施例と同様に、第1可動子の揺動運動から発生する渦を細分化して結果として渦のばらつきを小さくする効果が得られる。以上の形状の渦気流規制部材111を第2可動子105に対して設けても、第1可動子109に設けた場合と同様の効果が得られる。
【0034】
(第2の実施例)
図9は、上記実施例ないし変形例の光偏向器を用いた光学機器に係る第2の実施例を示す斜視図である。ここでは、光学機器として画像形成装置を示している。図9において、光偏向器1401は、本実施例では入射光を1次元に走査する光スキャナ装置として用いている。レーザー光源1402から出射されたレーザー光は、光走査のタイミングと関係した所定の強度変調を受けて、光偏向器1401により1次元的に偏向・走査される。この走査されたレーザー光は、書き込みレンズ1403により集光されて、感光体1404上に静電潜像を形成する。
【0035】
感光体1404は不図示の帯電器により一様に帯電されており、この上に光を走査することで感光体1404上に静電潜像が形成される。次に、不図示の現像器により静電潜像の画像部分にトナー像を形成し、これを、例えば不図示の用紙に転写・定着することにより、用紙上に画像を形成することができる。
【0036】
本発明は、本実施例のような画像形成装置の他にも、次のようなものにも好適に適用できる。例えば、データレコーダ、光造形システム、レーザー顕微鏡、バーコードリーダ、イメージ用ディスプレイ、光通信デバイス(例えば光スイッチ、アテネータ)、機械的な共振を電気的な共振に変換する共振器、等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の光偏向器の実施例を示す斜視図。
【図2】(a)は図1の実施例の平面図、(b)は渦気流規制部材を備えない構成における駆動時の第1可動子周辺の気流の様子を示す図。
【図3】図2(b)中のB部を拡大した図。
【図4】ユニット毎の、第1可動子の後方に生成される渦の直径のばらつきとジッタとの関係を示すグラフ。
【図5】本発明の実施例と比較例との、第1可動子周辺における渦度のシミュレーション結果を示すグラフ
【図6】渦気流規制部材における凹凸形状を長方形形状にした例を示す斜視図。
【図7】(a)は、渦気流規制部材における凹凸形状を左右非対称にした例を示す斜視図、(b)は、渦気流規制部材における凹凸形状をねじり軸(回転軸)に対してθ傾けた例を示す斜視図、(c)は、渦気流規制部材端部が可動子の平面を越えて設けられた例を示す斜視図。
【図8】(a)は、渦気流規制部材における凹凸形状を三角形状(ないし鋸歯形状)にした例を示す斜視図、(b)は、渦気流規制部材における凹凸形状を波形状(曲率を持つ形状)にした例を示す斜視図、(c)は、渦気流規制部材における凹凸形状を、駆動時の第1可動子の端部が描く軌跡曲面に沿った形態にした例を示す斜視図。
【図9】本発明の光偏向器を用いた光学機器の実施例を示す斜視図。
【図10】従来の光偏向器を示す図。
【符号の説明】
【0038】
101 固定板
102 第2ねじりバネ
103 シリコン部
104 硬磁性体(駆動手段)
105 第2可動子
106 第1ねじりバネ
107 シリコン部
108 反射ミラー(光偏向素子)
109 第1可動子
110 コイル(駆動手段)
111 渦気流規制部材
201(201a、201j) 凹凸形状
202(202a、202j) 凹凸形状
401 後流渦
1401 光偏向器
1402 レーザー光源(光源)
1404 感光体(光入射目標体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の回りに揺動可能に支持された少なくとも1つの可動子を含む揺動体装置であって、
前記可動子の揺動時の渦気流を規制する渦気流規制部材を備え、
前記渦気流規制部材は、前記可動子の揺動運動により前記回転軸から最遠の位置にある前記可動子の端部が描く軌跡曲面の少なくとも一部に近接して伸びる近接面を有し、前記近接面は凹凸形状を持つ、
ことを特徴とする揺動体装置。
【請求項2】
前記凹凸形状の凹部と凸部は、前記回転軸と平行に、或いは前記回転軸に対して所定の角度をなすように形成される、
ことを特徴とする請求項1記載の揺動体装置。
【請求項3】
1つの可動子に光偏向素子が設けられ、
少なくとも1つの可動子にトルクを印加して可動子を揺動させる駆動手段を備える、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の揺動体装置。
【請求項4】
支持体と、光偏向素子を有する第1可動子と、少なくとも1つの第2可動子と、を含み、
前記第1可動子と前記第2可動子は、ねじりバネにより、前記支持体に対して、前記回転軸であるねじり軸の回りにねじり振動可能に支持される、
ことを特徴とする請求項3記載の揺動体装置。
【請求項5】
前記渦気流規制部材が、前記回転軸を含み静止時の前記可動子の主面と垂直な平面に対して対称に、1対、配置されている、
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1つに記載の揺動体装置。
【請求項6】
前記渦気流規制部材の前記回転軸の方向の長さが、同方向の前記可動子の長さ以上ある、
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1つに記載の揺動体装置。
【請求項7】
前記渦気流規制部材の近接面は、前記回転軸を含み静止時の前記可動子の主面と垂直な平面に平行に設けられる、
ことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1つに記載の揺動体装置。
【請求項8】
前記渦気流規制部材の近接面は、前記可動子の端部が描く軌跡曲面に平行に設けられる、
ことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1つに記載の揺動体装置。
【請求項9】
光源と、請求項2乃至8のいずれか1つに記載の揺動体装置により構成された光偏向器と、光入射目標体と、を有し、
前記光偏向器は、前記光源からの光を偏向し、該光の少なくとも一部を前記光入射目標体に入射させる、
ことを特徴とする光学機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−300776(P2009−300776A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155750(P2008−155750)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】