説明

揺動軸受、エアディスクブレーキ装置、および揺動軸受用外輪の嵌合構造

【課題】適切な予圧でハウジングに密着させることのできる揺動軸受を提供する。
【解決手段】揺動軸受は、内径面に軌道面を有する円弧形状の軌道部材、および軌道部材の幅方向端部から径方向内側に突出する鍔部を有する揺動軸受用外輪12と、軌道面に沿って配置される複数のころ15と、複数のころ15を保持する円弧形状の保持器16とを備える。そして、揺動軸受用外輪12の外径の曲率半径をr、保持器16の外径の曲率半径をrとすると、1<r/r<1.15を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、揺動軸受、特に、エアディスクブレーキ装置等に使用される揺動軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の揺動軸受は、例えば、WO2006/002905A1(特許文献1)に記載されている。同公報に記載されている揺動軸受は、内径面に軌道面を有する円弧形状の揺動軸受用外輪と、軌道面に沿って配置される複数のころと、複数のころを保持する保持器とを備える。また、ころおよび保持器の幅方向への移動を規制するために、揺動軸受用外輪の円周方向の全域にわたって幅方向両端部から径方向内側に突出する鍔部が形成されている。
【特許文献1】WO2006/002905A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、図10および図11を参照して、揺動軸受用外輪をハウジングに組み込む場合を考える。まず、図10を参照して、揺動軸受用外輪101の曲率半径がハウジング102の曲率半径より小さいと、揺動軸受用外輪101とハウジング102との間に隙間が形成される。この隙間は、揺動軸受が揺動する際にガタツキ等を生じる原因となる。
【0004】
一方、図11を参照して、揺動軸受用外輪103の曲率半径がハウジング104の曲率半径より大きいと、揺動軸受用外輪103の曲率半径を小さくする方向に力(以下、「予圧」という)を加えながら組み込まなければならない。
【0005】
しかし、揺動軸受用外輪103とハウジング104との曲率半径の差が大きくなると、より大きな予圧を加えなければ上記の方法で組み込むことができない。一方、予圧が大きくなるのに伴って揺動時の回転トルクも増大する。これは、揺動軸受の異常発熱の原因となり、結果として揺動軸受の寿命が低下する。
【0006】
そこで、この発明の目的は、適切な予圧でハウジングに密着させることのできる揺動軸受および揺動軸受用外輪の嵌合構造を提供することである。また、このような揺動軸受を採用することにより、長寿命で信頼性の高いエアディスクブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る揺動軸受は、内径面に軌道面を有する円弧形状の軌道部材、および軌道部材の幅方向両端部から径方向内側に突出する鍔部を有する揺動軸受用外輪と、軌道面に沿って配置される複数のころと、複数のころを保持する円弧形状の保持器とを備える。そして、揺動軸受用外輪の外径の曲率半径をr、保持器の外径の曲率半径をrとすると、1<r/r<1.15を満たす。揺動軸受用外輪および保持器の曲率半径r,rを上記の範囲内に設定することにより、適切な予圧で揺動軸受用外輪をハウジングに密着させることができる。
【0008】
好ましくは、鍔部は、その先端から幅方向内側に向かって延び、保持器を径方向内側から保持する突出部をさらに備える。さらに好ましくは、保持器は、鍔部に対面する端面から幅方向外側に向かって突出する突起を有する。そして、突出部は、突起を径方向内側から保持する。これにより、保持器が揺動軸受用外輪の径方向に抜けるのを有効に防止することができる。
【0009】
好ましくは、保持器は、ポリアミド46と、5wt%〜20wt%の繊維状充填材とを含む樹脂製保持器である。ポリアミド46を母材とする樹脂製保持器を採用する場合、保持器に必要な機械的性質を得るためには、5wt%以上の繊維状充填材を添加する必要がある。一方、繊維状充填材の含有量が20wt%を超えると、保持器の靭性が低下して脆くなる。また、成形時の粘性が高くなり、金型等を用いて保持器を形成することが困難となる。なお、繊維状充填材としては、例えば、炭素繊維やガラス繊維を採用することができる。
【0010】
この発明に係るエアディスクブレーキ装置は、上記のいずれかに記載の揺動軸受を備える。これにより、長寿命で信頼性の高いエアディスクブレーキを得ることができる。
【0011】
この発明に係る揺動軸受用外輪の嵌合構造は、内径面に軌道面を有する円弧形状の軌道部材、および軌道部材の幅方向両端部から径方向内側に突出する鍔部を有する揺動軸受用外輪と、揺動軸受用外輪を受け入れるハウジングとを備える。そして、揺動軸受用外輪の外径の曲率半径をr、ハウジングの内径の曲率半径をrとすると、1<r/r<1.15を満たす。揺動軸受用外輪およびハウジングの曲率半径r,rを上記の範囲内に設定することにより、適切な予圧で揺動軸受用外輪をハウジングに密着させることができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、揺動軸受用外輪と保持器またはハウジングとの曲率半径の関係を規定したので、適切な予圧でハウジングに密着させることのできる揺動軸受および揺動軸受用外輪の嵌合構造を得ることができる。また、このような揺動軸受を採用することにより、長寿命で信頼性の高いエアディスクブレーキ装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図2〜図5を参照して、この発明の一実施形態に係る揺動軸受11を説明する。なお、図2は揺動軸受11の斜視図、図3は揺動軸受用外輪12の斜視図、図4は保持器16の斜視図、図5は図2のV−Vにおける断面図である。
【0014】
まず、図2を参照して、揺動軸受11は、揺動軸受用外輪12と、揺動軸受用外輪12の内径面に沿って配置される複数のころ15と、複数のころ15を保持する保持器16とを備える。
【0015】
次に、図3を参照して、揺動軸受用外輪12は、内径面に軌道面13aを有する円弧形状(この実施形態では中心角が180°の半円形状)の軌道部材13と、軌道部材13の幅方向両端部から径方向内側に突出して、ころ15および保持器16の幅方向の移動を規制する鍔部14とを含む。なお、この実施形態において、鍔部14は、軌道部材13の円周方向の全域に亘って形成されている。
【0016】
軌道部材13には、その円周方向両端部に外向き突出片13bと、円周方向一方側端部(図2中の左側)に内向き突出片13cと、円周方向他方側端部(図2中の右側)に爪部13dとが設けられている。鍔部14には、その先端から軌道部材13の幅方向内側に向かって延びる突出部14aが設けられている。
【0017】
外向き突出片13bは、軌道部材13の円周方向両端面の幅方向中央部から径方向外側に向かって延びている。この外向き突出片13bは、ハウジング(図示省略)に係合して、揺動軸受用外輪12の円周方向の移動、すなわち、揺動軸受用外輪12がハウジング内部で回転するのを防止する。
【0018】
内向き突出片13cは、外向き突出片13bの幅方向両側の2箇所から径方向内側に向かって延びている。この内向き突出片13cは、保持器16の円周方向端面に当接して保持器16の円周方向一方側への抜けを防止する。
【0019】
爪部13dは、軌道部材13の幅方向の端面から径方向内側に向かって延びている。この爪部13dは、鍔部14よりも軌道部材13の幅方向の内側に位置する。そして、爪部13dは、保持器16の突起16dと係合して保持器16の円周方向他方側への抜けを防止する。
【0020】
上記構成の揺動軸受用外輪12は、例えば、鋼板をプレス加工して製造する。具体的には、まず、打ち抜き加工によって鋼板から略長方形状の平板を得る。次に、曲げ加工によって軌道部材13および鍔部14を形成する。具体的には、平板の長手方向を所定の曲率に湾曲させることにより軌道部材13を形成することができる。また、平板の短手方向の両端部を軌道部材13に対して直角に折り曲げることにより鍔部14を形成することができる。
【0021】
なお、軌道部材13の形成工程では複数回の曲げ加工を行い、徐々に所定の曲率に近づけていく。同様に、鍔部14の形成工程でも複数回の曲げ加工を行い、少しずつ折り曲げていく。また、軌道部材13を形成するための曲げ加工と、鍔部14を形成するための曲げ加工とを交互に行い、徐々に揺動軸受用外輪12の形状に近づけていくのが望ましい。
【0022】
また、鍔部14の先端を軌道部材13の幅方向内側に向かって折り曲げることにより突出部14aを形成する。さらに、曲げ加工によって外向き突出片13b、内向き突出片13c、および爪部13dを形成する。
【0023】
次に、所定の機械的性質を付与するために揺動軸受用外輪12に熱処理を施す。具体的には、浸炭窒化処理や浸炭焼入れ処理を施す。これにより、表面は硬く、内部は軟らかく靭性の高い性質が得られる。さらに、上記の熱処理によって生じた残留応力や内部ひずみを低減し、靭性の向上や寸法を安定化させるために、上記の熱処理の後に焼戻を行うのが望ましい。
【0024】
次に、軌道面13aとなる軌道部材13の内径面の表面粗さを所定値以下にするために、揺動軸受用外輪12にバレル研磨を施す。軌道面13aの表面粗さを所定値以下とすることにより、軌道面13aところ15との間の摩擦抵抗を低減して、揺動時のトルク損失や発熱を抑制することができる。その結果、長寿命で信頼性の高い揺動軸受11を得ることができる。
【0025】
次に、図4を参照して、保持器16は、円周方向に所定の間隔を空けて配置される複数の柱部16aと、柱部16aの長手方向両端部に配置される円弧形状の一対の連結部16bとを含み、隣接する柱部16aの間にころ15を収容するポケット16cが形成されている。また、連結部16bの幅方向の端面(「揺動軸受用外輪12に組み込んだときに鍔部14に対面する壁面」を指す。)には、幅方向外側に向かって突出する複数の突起16dが円周方向に所定の間隔を空けて配置されている。
【0026】
さらに、保持器16の円周方向両端部には、ポケット16cの形成されていない空白領域16eが設けられている。円周方向一方側(図2中の左側)の空白領域16eは、保持器16の円周方向の端面が内向き突出片13cに衝突したときに、ポケット16cの変形に伴うころ15の回転不良を防止する。一方、円周方向他方側(図2中の右側)の空白領域16eは、保持器16が円周方向他方側に最大限偏ったときに、揺動軸受用外輪12からはみ出す部分なので、ころ15を配置することができない。
【0027】
上記構成の保持器16は、例えば、樹脂材料を射出成形して形成される樹脂保持器とすることができる。具体的には、母材としてのポリアミド46と、強化材としての繊維状充填材とを含む繊維強化プラスチック(FRP)である。ここで、繊維状充填材としては、炭素繊維(CFRP)やガラス繊維(GFRP)を採用することができる。
【0028】
なお、保持器16に必要な機械的性質を得るためには、5wt%以上の繊維状充填材を添加する必要がある。一方、繊維状充填材の含有量が20wt%を超えると、保持器の靭性が低下して脆くなる。また、成形時の粘性が高くなり、金型等を用いて保持器16を形成することが困難となる。そこで、繊維状充填材の添加量は、5wt%〜20wt%の範囲内とするのが望ましい。
【0029】
上記構成の揺動軸受11の組立方法を説明する。まず、保持器16のポケット16cにころ15を組み込む。そして、内向き突出片13cの形成されていない側の揺動軸受用外輪12の円周方向端部領域から保持器16を軌道面13aに沿って挿入する。
【0030】
次に、図5を参照して、鍔部14の先端に設けられた突出部14aは、保持器16の突起16dを径方向内側から保持して、保持器16が揺動軸受用外輪12の径方向に抜けるのを防止している。
【0031】
また、突起16dの鍔部14に対面する壁面は、径方向外側に向かって突出量を減少させる方向に傾斜する傾斜面16fを含む。さらに、突出部14aの先端にも径方向内側に向かって突出部14aの突出長さを減少させる方向に傾斜する傾斜面14bが設けられている。これらの傾斜面14b,16fは、保持器16を揺動軸受用外輪12の径方向から組み込む際の挿入案内面として機能する。このように、保持器16を揺動軸受用外輪12の径方向から組み込み可能とすれば、揺動軸受11の組立性がさらに向上する。
【0032】
なお、上記の実施形態においては、突出部14aで突起16dを径方向内側から保持する例を示したが、これに限ることなく、突出部14aで連結部16bを直接保持するようにしてもよい。この場合、突起16dは省略することができる。
【0033】
ただし、突出部14aで連結部16bを直接保持する場合、鍔部14の突出長さを保持器16の厚み寸法より長くしなければならない。一方、突出部14aで突起16dを保持する場合には、鍔部14の突出長さは突起16dの厚み寸法より長ければよい。つまり、図5に示すように、突起16dを保持器16の径方向外側に偏らせて設ければ、鍔部14の突出長さを短くすることができる。したがって、鍔部16の突出長さを短くする観点からは、保持器16の幅方向端面に突起16dを設けて、突出部14aと突起16dとを係合させるのが望ましい。
【0034】
また、上記の実施形態においては、保持器16をポリアミド46によって形成した例を示したが、これに限ることなく、他の樹脂を採用してもよい。また、樹脂製保持器に限ることなく、鋼板をプレス加工して製造する金属製保持器等であってもよい。
【0035】
また、外向き突出片13b、内向き突出片13c、および爪部13dは、この発明の必須の構成要素ではなく、省略することができる。また、上記の実施形態における爪部13dは、保持器16の突起16dと係合する例を示したが、これに限ることなく、保持器16の幅方向の端面に爪部13dと係合する突起を別途設けてもよい。
【0036】
また、上記の実施形態においては、軌道部材13の円周方向一方側端部に内向き突出片13cを、円周方向他方側端部に爪部13dをそれぞれ設けた例を示したが、これに限ることなく、爪部13dを省略して軌道部材13の円周方向両端部に内向き突出片13cを設けてもよいし、反対に、内向き突出片13cを省略して軌道部材13の円周方向両端部に爪部13dを設けてもよい。
【0037】
次に、図1、図6、および図7を参照して、揺動軸受用外輪12をハウジング1に組み込む方法を説明する。なお、図1は軌道部材13および保持器16の曲率半径の関係を示す図、図6は揺動軸受用外輪12をハウジング1に組み込む前の状態を示す図、図7は揺動軸受用外輪12をハウジング1に組み込んだ後の状態を示す図である。
【0038】
まず、図6を参照して、自然状態(外力が加わっていない状態を指す)における揺動軸受用外輪12の外径の曲率半径をr、揺動軸受用外輪12を受け入れるハウジング1の内径の曲率半径をrとすると、1<r/r<1.15を満たすようにrおよびrを設定する。
【0039】
次に、揺動軸受用外輪12にその曲率半径を小さくする方向に予圧を加えながらハウジング1に組み込む。これにより、図7に示すように揺動軸受用外輪12が、その外径面の全域でハウジング1に密着する。
【0040】
ここで、r/r<1とすると、図10を用いて説明したように、揺動軸受用外輪12とハウジング1との間に隙間が生じ、揺動軸受11が揺動する際にガタツキ等を生じる。一方、r/r>1.15とすると、揺動軸受用外輪12をハウジング1に組み込む際の予圧が大きくなりすぎて、揺動時の回転トルクも増大する。特に、揺動軸受用外輪12は、その幅方向両端部に円周方向の全域に亘って鍔部14が設けられているので、剛性が高く、揺動軸受用外輪12をハウジング1に密着させるためには、大きな予圧が必要となる。
【0041】
しかし、予圧の増大は揺動軸受11の異常発熱を引き起こし、結果として揺動軸受の寿命が低下する。そこで、揺動軸受用外輪12およびハウジング1の曲率半径r,rを上記の関係とすることにより、適切な予圧で揺動軸受用外輪12をハウジング1に密着させることができる。
【0042】
なお、上記の説明は、図2に示すように予め揺動軸受用外輪12、ころ15、および保持器16を組み立てた状態でハウジング1に組み込む場合にも同様に当てはまる。
【0043】
次に、図1を参照して、揺動軸受用外輪12の外径の曲率半径をr、揺動軸受用外輪12に組み込んだ状態での保持器16の外径の曲率半径をrとすると、1<r/r<1.15を満たすようにrおよびrを設定する。
【0044】
ここで、保持器16は揺動軸受用外輪12の軌道面のさらに内側に位置するので、r/r>1は常に成立する。また、r<rも常に成立するので、r/r<1.15を満足していれば、結果としてr/r<1.15が成立する。
【0045】
次に、図8および図9を参照して、この発明の一実施形態に係るエアディスクブレーキ装置71を説明する。なお、図8はエアディスクブレーキ装置71の概略断面図、図9は制動機構80の拡大断面図である。
【0046】
まず、図8を参照して、エアディスクブレーキ装置71は、タイヤ(図示省略)と一体回転するブレーキディスク72(「ロータ」ともいう)と、一対のブレーキパッド73,74と、ブレーキシリンダ75と、制動機構80とを主に備える。
【0047】
一対のブレーキパッド73,74は、ブレーキディスク72の軸方向に隣接する位置に配置されている。また、ブレーキディスクとブレーキパッド73,74との間には、非制動状態(ブレーキペダルを踏み込んでいない状態を指す)において、所定の隙間が設けられている。
【0048】
ブレーキシリンダ75は、容積が可変の空気室76と、空気室76への空気の供給および排出を行う吸排気口77と、空気室76の容積の変化に伴って軸方向(「図8中の矢印Aの方向およびその反対方向」を指す)に移動するアクチュエータロッド78と、アクチュエータロッド78を空気室76の容積を減じる方向に付勢する弾性部材としてのコイルばね79とを含む。
【0049】
制動機構80は、一方側端部に揺動部材81を有し、他方側端部でアクチュエータロッド78と連結し、揺動部材81の揺動中心Gを中心として回動する回動レバー82と、揺動部材81を揺動自在に支持するこの発明の一実施形態に係る揺動軸受11と、揺動部材81の揺動中心Gから外れた位置に取り付けられて、軸方向(「図8中の矢印Bの方向およびその反対方向」を指す)に移動するトラバース83と、トラバース83をブレーキパッド73,74から遠ざける方向に付勢する弾性部材としてのコイルばね84とを含む。
【0050】
上記構成のエアディスクブレーキ装置71は、例えば、大型商用車、トラック、またはバス等の大型で大きな制動力を必要とする車両等に採用される。
【0051】
上記構成のエアディスクブレーキ装置71の動作を説明する。まず、ブレーキペダル(図示省略)を踏み込むと、吸排気口77から空気室76に空気が供給され、空気室76の容積が増大する。空気室76の容積の増大に伴って、アクチュエータロッド78がコイルばね79の弾性力に逆らって矢印Aの方向に移動する。アクチュエータロッド78に押された回動レバー82は、揺動中心Gの周りを反時計回りに回動する(回動後の回動レバー82の位置を図9に一点鎖線で示す)。揺動部材81の揺動中心Gから外れた位置に取り付けられたトラバース83は、コイルばね84の弾性力に逆らって矢印Bの方向に移動する。これにより、ブレーキパッド73,74がブレーキディスク72に押し付けられて、タイヤの回転が制動される。
【0052】
一方、ブレーキペダルを緩めると、空気室76内の空気が吸排気口77から排出され、空気室76の容積が減少する。空気室76の容積の減少に伴って、コイルばね79がアクチュエータロッド78を矢印Aと反対方向に移動させる。アクチュエータロッド78に連結された回動レバー82は、揺動中心Gの周りを時計回りに回動する。そして、コイルばね84がトラバース83を矢印Bと反対方向に移動させる。これにより、ブレーキディスク72とブレーキパッド73,74との間に所定の隙間が形成されて、タイヤの制動が解除される。
【0053】
上記構成のエアディスクブレーキ装置71において、揺動部材81を揺動自在に支持する軸受として、この発明の一実施形態に係る揺動軸受11を採用することにより、長寿命で信頼性の高いエアディスクブレーキ装置71を得ることができる。
【0054】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
この発明は、揺動軸受に有利に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】揺動軸受用外輪および保持器の曲率半径の関係を示す図である。
【図2】この発明の一実施形態に係る揺動軸受の斜視図である。
【図3】図2に示す揺動軸受用外輪の斜視図である。
【図4】図2に示す保持器の斜視図である。
【図5】図2のV−Vにおける断面図である。
【図6】揺動軸受用外輪をハウジングに組み込む前の状態を示す図である。
【図7】揺動軸受用外輪をハウジングに組み込んだ後の状態を示す図である。
【図8】この発明の一実施形態に係るエアディスクブレーキ装置を示す図である。
【図9】図8の部分拡大図である。
【図10】ハウジングに組み込まれた従来の揺動軸受用外輪の一例を示す図である。
【図11】ハウジングに組み込まれた従来の揺動軸受用外輪の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1,102,104 ハウジング、11 揺動軸受、12,101,103 揺動軸受用外輪、13 軌道部材、13a 軌道面、13b 外向き突出片、13c 内向き突出片、13d 爪部、14 鍔部、14a 突出部、15 ころ、16 保持器、16a 柱部、16b 連結部、16c ポケット、16d 突起、16e 空白領域、14b,16f 傾斜面、71 エアディスクブレーキ装置、72 ブレーキディスク、73,74 ブレーキパッド、75 ブレーキシリンダ、76 空気室、77 吸排気口、78 アクチュエータロッド、79,84 コイルばね、80 制動機構、81 揺動部材、82 回動レバー、83 トラバース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径面に軌道面を有する円弧形状の軌道部材、および前記軌道部材の幅方向両端部から径方向内側に突出する鍔部を有する揺動軸受用外輪と、
前記軌道面に沿って配置される複数のころと、
前記複数のころを保持する円弧形状の保持器とを備え、
前記揺動軸受用外輪の外径の曲率半径をr、前記保持器の外径の曲率半径をrとすると、
1<r/r<1.15を満たす、揺動軸受。
【請求項2】
前記鍔部は、その先端から幅方向内側に向かって延び、前記保持器を径方向内側から保持する突出部をさらに備える、請求項1に記載の揺動軸受。
【請求項3】
前記保持器は、前記鍔部に対面する端面から幅方向外側に向かって突出する突起を有し、
前記突出部は、前記突起を径方向内側から保持する、請求項2に記載の揺動軸受。
【請求項4】
前記保持器は、ポリアミド46と、5wt%〜20wt%の繊維状充填材とを含む樹脂製保持器である、請求項1〜3のいずれかに記載の揺動軸受。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の揺動軸受を備える、エアディスクブレーキ装置。
【請求項6】
内径面に軌道面を有する円弧形状の軌道部材、および前記軌道部材の幅方向両端部から径方向内側に突出する鍔部を有する揺動軸受用外輪と、
前記揺動軸受用外輪を受け入れるハウジングとを備え、
前記揺動軸受用外輪の外径の曲率半径をr、前記ハウジングの内径の曲率半径をrとすると、
1<r/r<1.15を満たす、揺動軸受用外輪の嵌合構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−14098(P2009−14098A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176143(P2007−176143)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】