説明

揺動軸受

【課題】プレス成形品からなる軌道輪の外径寸法のバラツキが大きい場合でも、軌道輪を周方向に位置決めすることができるようにして軌道輪のプレス成形後の矯正作業を不要とすることができるようにしたコストの安い揺動軸受を提供することである。
【解決手段】ハウジング1の円弧状面2に位置決め孔9を形成し、揺動軸受のプレス成形品からなる軌道輪10の外径面に上記位置決め孔9に嵌合される円形の位置決め突起16を設ける。位置決め突起16の先端面に位置決め補助ピン17を固着し、ハウジング1の円弧状面2に対する軌道輪10の組込み時に、外径寸法のバラツキが大きい軌道輪10が組込まれて、その軌道輪10の両端部が円弧状面2に当接するような場合でも、位置決め補助ピン17の先端部が位置決め孔9に嵌合されるようにして、軌道輪10の外径寸法の矯正作業を不要とし、コストの低減を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、斜板式の可変容量型プランジャポンプや斜板式の油圧モータに組込まれたスワッシュプレート等の可動部品を揺動自在に支持する揺動軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、斜板式のプランジャポンプにおいては、図5に示すように、ハウジング1に形成された凹形の円弧状面2とスワッシュプレート3に形成された凸形の円弧状面4間に揺動軸受Bを組込んでスワッシュプレート3を揺動自在に支持し、そのスワッシュプレート3の揺動により平坦なプランジャ案内面5の傾きを調整することにより、シリンダバレル6のシリンダ7内に挿入されたプランジャ8のストローク量を調整して、吐出量の調整を行うようにしている。
【0003】
ここで、揺動軸受Bとして特許文献1に記載されたものが従来から知られている。図5は、その特許文献1に記載された揺動軸受Bを示し、ハウジング1の円弧状面2に沿う円弧状の軌道輪21と、その軌道輪21の内側に組込まれた円弧状の保持器22と、その保持器22に形成されたポケット23内に収容されて軌道輪21の内周に形成された円弧状の転走面24に沿って転動可能な転動体25とからなり、上記転動体25によってスワッシュプレート3を揺動自在に支持している。
【0004】
ここで、軌道輪21は鋼板のプレス成形品からなり、その軌道輪21のプレス成形時に外径面側に突出する円形の位置決め突起26を設け、その位置決め突起26をハウジング1の円弧状面2に形成された位置決め孔27に挿入して軌道輪21を周方向に位置決めしている。
【0005】
【特許文献1】特開2002-286041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来の揺動軸受においては、軌道輪21が鋼板のプレス成形品であるため、削り出し品に比較して揺動軸受のコストの低減を図ることができると共に、軽量化とコンパクト化を図ることができるという特徴を有するものの、外径寸法のバラツキが大きく、ハウジング1の円弧状面2に対し軌道輪21の外径が大きくなり過ぎる場合が多くある。
【0007】
また、軌道輪21のプレス成形時に位置決め突起26を同時に成形するため、その位置決め突起26の突出量には制限があり、長さの長い位置決め突起26を成形することができない。
【0008】
そのため、軌道輪21の外径が大きくなり過ぎると、ハウジング1内に軌道輪21を組込む際に、図6に示すように、軌道輪21の周方向両端がハウジング1の円弧状面2に当接して、周方向の中央部が円弧状面2から浮き上がり、位置決め孔27に位置決め突起26を嵌合することができなくなる。
【0009】
そこで、従来の揺動軸受においては、軌道輪21の成形後において、その軌道輪21の外径寸法を矯正することが行われており、後加工を施す必要がある分、コスト的に不利になり、改善すべき点が残されている。
【0010】
この発明の課題は、プレス成形品からなる軌道輪の外径寸法のバラツキが大きい場合でも、軌道輪を周方向に位置決めすることができるようにして軌道輪のプレス成形後の矯正作業を不要とすることができるようにしたコストの安い揺動軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明においては、支持部材に形成された凹形の円弧状面と揺動部材に設けられた凸形の円弧状面の対向面間に組込まれる円弧状の軌道輪と、その軌道輪の内周に形成された円弧状の転走面に沿う円弧状の保持器と、その保持器のポケットに収容されて前記揺動部材を揺動自在に支持する転動体とからなり、前記軌道輪を鋼板のプレス成形品とし、その軌道輪のプレス成形時に外径面側に突出する円形の位置決め突起を設け、その位置決め突起を支持部材の円弧状面に形成された位置決め孔に挿入して軌道輪を周方向に位置決めする揺動軸受において、前記位置決め突起の先端部に、その位置決め突起とほぼ同径の位置決め補助ピンを固着した構成を採用したのである。
【0012】
ここで、位置決め補助ピンは、合成樹脂からなるものであってもよく、あるいは、金属からなるものであってもよい。その位置決め補助ピンの固着に際しては、補助ピンと位置決め突起の対向面の一方に連結ピンを突設し、他方にピン孔を設け、そのピン孔に連結ピンを圧入する方法や、接着する方法を採用することができる。
【0013】
合成樹脂からなる位置決め補助ピンにおいては、その位置決め補助ピンの射出成形時に、その位置決め補助ピンを位置決め突起に固着するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
上記のように、この発明においては、位置決め突起の先端部に位置決め補助ピンを固着したことによって、長さの長い位置決め突起部を得ることができ、プレス成形品からなる軌道輪の外径寸法のバラツキが大きく、その軌道輪を支持部材に形成された凹形の円弧状面内に組込んだ際に両端部が円弧状面に当接する場合においても、位置決め孔に位置決め補助ピンの先端部を嵌合して軌道輪を周方向に位置決めすることができる。このため、軌道輪のプレス成形後の矯正作業を不要とすることができ、コストの安い揺動軸受を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を図1乃至図4に基づいて説明する。図1は、図5に示す斜板式のプランジャポンプの支持部材としてのハウジング1の凹形の円弧状面2と揺動部材としてのスワッシュプレート3の凸形円弧状面4間にこの発明に係る揺動軸受Bを組込んで、スワッシュプレート3を揺動自在に支持した例を示す。
【0016】
図1および図2に示すように、揺動軸受Bは、軌道輪10、保持器11および転動体12からなる。軌道輪10は、SCMやSPCC等を素材とする鋼板のプレス成形品からなり、プレス成形後に熱処理されて硬度が高められている。この軌道輪10は、ハウジング1に形成された円弧状面2に沿う円弧状とされ、その内側には円弧状の転走面13が形成されている。また、軌道輪10の軸方向の一端部には内向きのフランジ14が設けられている。
【0017】
保持器11は、上記軌道輪10の円弧状の転走面13に沿う円弧状とされている。この保持器11は周方向に間隔をおいて形成された複数のポケット15を有し、各ポケット15内に転動体12が収容されている。転動体12として、ここでは、円筒ころが示され、その円筒ころは軌道輪10に形成された転走面13に沿って転動自在とされ、その転動時に一端面がフランジ14で案内される。
【0018】
なお、円筒ころの端面を案内するフランジ14は、軌道輪10の軸方向両端に設けるようにしてもよい。
【0019】
軌道輪10には、その軌道輪10のプレス成形時に外径面側に突出する円形の位置決め突起16が形成され、その位置決め突起16はハウジング1の円弧状面2に設けられた位置決め孔9に対して挿入可能とされている。
【0020】
位置決め突起16の先端面には、その位置決め突起16とほぼ同径の位置決め補助ピン17が固着されている。位置決め補助ピン17の固着に際して、ここでは、図2および図4に示すように、位置決め突起16の先端面にピン孔18を形成し、位置決め補助ピン17の後端面には連結ピン19を設け、その連結ピン19をピン孔18に圧入するようにしているが、位置決め補助ピン17を位置決め突起16の先端面に接着するようにしてもよい。
【0021】
ここで、位置決め補助ピン17は、合成樹脂からなるものであってもよく、あるいは、金属からなるものであってもよい。合成樹脂からなる位置決め補助ピン17においては、その位置決め補助ピン17の射出成形時に位置決め突起16に固着する方法を採用することができる。
【0022】
上記のように、位置決め突起16の先端部に位置決め補助ピン17を固着することによって、長さの長い位置決め突起部を得ることができる。このため、プレス成形品からなる軌道輪10の外径寸法のバラツキが大きく、その軌道輪10をハウジング1に形成された円弧状面2内への組込み時に、図3に示すように、軌道輪10の両端部が円弧状面2に当接したとしても、位置決め孔9に位置決め補助ピン17の先端部を嵌合して軌道輪10を周方向に位置決めすることができる。その結果、軌道輪10のプレス成形後に、その外径寸法を円弧状面2に沿うように矯正する後加工を行う必要がなくなり、コストの安い揺動軸受を提供することができる。
【0023】
なお、軌道輪10の組込み後、その内側に転動体12を保持する保持器11を組込み、その保持器11の内側にスワッシュプレート3を組込んで押し込むことで、上記軌道輪10は円弧状面4に沿うよう変形して、適正な組込み状態とされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明に係る揺動軸受をプランジャポンプに組込んだ状態の断面図
【図2】図1のII−II線に沿った断面図
【図3】軌道輪の組込み状態を示す断面図
【図4】位置決め突起と位置決め補助ピンを示す分解斜視図
【図5】従来の揺動軸受が組込まれた斜板式プランジャポンプを示す断面図
【図6】従来の揺動軸受の軌道輪の組込み状態を示す断面図
【符号の説明】
【0025】
1 ハウジング(支持部材)
2 円弧状面
3 スワッシュプレート(揺動部材)
4 円弧状面
9 位置決め孔
10 軌道輪
11 保持器
12 転動体
13 転走面
15 ポケット
16 位置決め突起
17 位置決め補助ピン
18 ピン孔
19 連結ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材に形成された凹形の円弧状面と揺動部材に設けられた凸形の円弧状面の対向面間に組込まれる円弧状の軌道輪と、その軌道輪の内周に形成された円弧状の転走面に沿う円弧状の保持器と、その保持器のポケットに収容されて前記揺動部材を揺動自在に支持する転動体とからなり、前記軌道輪を鋼板のプレス成形品とし、その軌道輪のプレス成形時に外径面側に突出する円形の位置決め突起を設け、その位置決め突起を支持部材の円弧状面に形成された位置決め孔に挿入して軌道輪を周方向に位置決めする揺動軸受において、
前記位置決め突起の先端部に、その位置決め突起とほぼ同径の位置決め補助ピンを固着したことを特徴とする揺動軸受。
【請求項2】
前記位置決め補助ピンが、合成樹脂からなる請求項1に記載の揺動軸受。
【請求項3】
前記位置決め補助ピンが、金属からなる請求項1に記載の揺動軸受。
【請求項4】
前記位置決め補助ピンと位置決め突起の対向面の一方に連結ピンを突設し、他方にピン孔を設け、そのピン孔に対する連結ピンの圧入によって位置決め補助ピンを固着した請求項1乃至3のいずれかの項に記載の揺動軸受。
【請求項5】
前記位置決め補助ピンの固着が、接着による請求項1乃至3のいずれかの項に記載の揺動軸受。
【請求項6】
前記合成樹脂からなる位置決め補助ピンの射出成形時に、その位置決め補助ピンを位置決め突起に固着した請求項2に記載の揺動軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−47217(P2009−47217A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212564(P2007−212564)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】