説明

搬送装置

【課題】設備全体の設置スペースを削減することができるとともに、異仕様のワークを製造ラインに流す場合であっても生産効率を悪化させることなく、工程間におけるワークの搬送を行うことができる搬送装置を安価に提供すること。
【解決手段】製造ライン10において、多数のフリーローラ20を備える搬送軌道12と、搬送軌道12上に移動および離脱可能に載置されて、シリンダブロックWが搭載される複数のパレット13と、パレット13を次工程に移動させるロボット14と、ロボット14の走行軌道15と、ロボット14の動作を制御するコントローラ16とを設けて、搬送軌道12および走行軌道15を、走行軌道15が搬送軌道12より上側に位置するように各加工機11のベット部11bの上方に配置し、コントローラ16からの指令により、シリンダブロックWが搭載されたパレット13を搬送軌道12上で移動させるように、ロボット14の動作を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造ラインにおいて次工程へワークを搬送するための搬送装置に関する。特に、本発明はシリンダブロック等のような重量物を搬送するのに好適なものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの一部をなすシリンダブロック等のように複雑な形状を有するワークは、多種多様な加工が施されて製作されている。このようなワークを製造するラインでは、複数の加工機が設置されており、各加工機で異なる加工が順次施されていく。そして、各加工機(次工程)へワークを搬送するために搬送装置が利用されている。
【0003】
このような製造ラインとして、図16に示すように、加工機100ごとに独立して搬送装置110を設置した独立搬送型のものがある。しかしながら、このような独立搬送型の製造ラインでは、各加工機100(各工程)ごとに搬送装置110が必要となり、製造設備が高価なものになってしまうとともに、搬送の自由度が少ないという問題があった。
【0004】
このため近年、工程間におけるワーク搬送において、製造設備が高価なものにならず、しかも搬送の自由度を向上させるために、搬送ロボットが利用されている。例えば、製造ラインにおいては図17に示すように、搬送ロボット120を、各加工機100の手前側スペース130に走行(スライド)可能に設置して、工程(各加工機)間におけるワーク搬送が行われている。
【0005】
そして、このような搬送ロボット120としては、例えば特許文献1に開示された搬送装置を利用したものがある。特許文献1に開示された搬送装置は、搬送ロボットのチャック部に相当するものであり、ワークを保持する第一の保持手段と第二の保持手段を有し、第一の保持手段および第二の保持手段はエアーの供給により膨張可能なゴムチューブおよびチューブスリーブを備えている。これにより、大きさや形状の異なるワークであっても確実に保持し、搬送することができるようになっている。
【特許文献1】特開2002−210689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来技術では、搬送ロボット120はワーク自体を保持して搬送するため、搬送ロボット120には大きな可搬能力が要求される結果、搬送ロボット120が大きくなってしまう。例えば、25kg程度のシリンダブロックを搬送する場合であれば、搬送装置(チャック)の重量も考慮して、50kg程度の可搬能力が必要である。そのため、図17、図18に示すように、搬送ロボット120の動作スペース130が大きくなってしまい、設備全体の設置スペースが大きくなってしまうという問題があった。また、特許文献1の搬送装置(チャック)は、保持手段の構成が複雑であり、かつ高価であるという問題もあった。
【0007】
さらに、搬送ロボット120が稼働中は安全確保のため、作業者18が加工機100に近づくことができなかった。このため、加工機100の治具の段替え作業などを行う場合には、ラインを停止する必要があった。従って、多様な(異仕様の)ワークをラインに流す場合、つまり治具の段替えが必要となる場合には、生産効率が非常に悪くなる。このため、図17に示すような搬送ロボット120を適用した製造ラインは、単一(同一仕様)のワークをラインに流す場合においてのみ利用されているのが実情である。
【0008】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、設備全体の設置スペースを削減することができるとともに、異仕様のワークを製造ラインに流す場合であっても生産効率を悪化させることなく、工程間におけるワークの搬送を行うことができる搬送装置を安価に提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するためになされた本発明に係る搬送装置は、ワークに対する加工を行う複数の加工機が設置された製造ラインにて、ワークを次工程の加工機へ搬送する搬送装置において、多数のフリーローラを備える搬送軌道と、前記搬送軌道上に移動および離脱可能に載置されて、ワークが搭載される複数のパレットと、前記パレットを次工程に移動させる多関節ロボットと、前記多関節ロボットの走行軌道と、前記多関節ロボットの動作を制御する制御手段と、を有し、前記搬送軌道および走行軌道は、前記走行軌道が前記搬送軌道より上側に位置するように各加工機の治具配置部の上方に配置されており、前記制御手段は、前記多関節ロボットによりワークが搭載されたパレットを前記搬送軌道上で移動させるように、前記多関節ロボットの動作を制御することを特徴とする。
【0010】
この搬送装置では、制御手段からの指令に基づき、走行軌道に沿って走行する多関節ロボットの動作が制御されて、ワークが搭載されたパレットが多関節ロボットによって搬送軌道上を移動させられることにより、工程(各加工機)間におけるワークの搬送が行われる。ここで、この搬送装置では、搬送軌道に載置したパレットにワークを搭載して、パレットを移動させることによりワークを搬送するため、従来のように多関節ロボットに大きな可搬能力が要求されなくなる。これにより、多関節ロボットとして従来よりも小さなもの(可搬能力としては従来の半分程度あればよい)を使用することができる。その結果、多関節ロボットを天吊りすることが可能となり、搬送軌道および走行軌道を、各加工機の治具配置部(ベット部)の上方に走行軌道が搬送軌道より上側に位置するように配置することができ、ロボットの動作スペースを、各加工機の治具配置部(ベット部)の上方空間に移動させることができる。これにより、ロボットの動作スペースを別途設ける必要がなく、設備全体としての設置スペースを削減することができる。また、従来よりも小型の多関節ロボットを使用することができるため、安価に搬送装置を構築することができる。
【0011】
そして、この搬送装置では、ロボットの動作スペースが各加工機の治具配置部(ベット部)の上方空間にあるため、ロボットが稼働中であっても作業者が治具配置部直前まで近づくことができる。これにより、ロボットが稼働中であっても、加工機の治具の段替え作業などを行うことができる。その結果、異仕様の(多様な)ワークを製造ラインに流す場合であっても、生産効率を悪化させることなく工程間におけるワークの搬送を行うことができる。
【0012】
本発明に係る搬送装置においては、前記多関節ロボットは、前記パレットを保持するチャック部を有し、前記制御手段は、前記チャック部が前記パレットの端部を保持して、前記複数のパレットのうち1つあるいは2つを前記搬送軌道上で移動させるように、前記多関節ロボットの動作を制御することが望ましい。
【0013】
このように、多関節ロボットにパレットを保持するチャック部を設けて、チャック部でパレットの端部を保持して1つあるいは2つのパレットを搬送することにより、工程間におけるワークの搬送を実施することができる。具体的には、1つのパレットを搬送する場合、多関節ロボットは、チャック部によりパレットの端部を保持してパレットを引くことにより、あるいは押すことにより搬送軌道上を移動させる。また、2つのパレットを搬送する場合、多関節ロボットは、パレット間に位置してチャック部により各パレットの端部をそれぞれ保持して上流側のパレットを押しつつ、下流側のパレットを引くことにより搬送軌道上を移動させる。このように、多関節ロボットは、直接ワークを保持する必要がないため、多関節ロボットにおけるチャック部を簡単かつ小さくすることができる。これにより、チャック部の重量を削減することができ、より小さな多関節ロボットを使用することができるので、より安価に搬送装置を構築することができる。
【0014】
本発明に係る搬送装置においては、前記制御手段は、前記チャック部に前記パレットを保持させた状態で、前記パレットを加工機側に移動させて前記パレットに搭載されているワークが前記加工機に備わる治具にセットされるように、前記多関節ロボットの動作を制御することが望ましい。
【0015】
こうすることにより、工程間におけるワークの搬送の他に、ワークを加工機に備わる治具へセットすることができる。これにより、ワークを治具にセットするために従来必要であった治具の可動ノック機構を不要にすることができる。従って、加工機に備わる治具の構成を簡単なものにすることができる。
【0016】
本発明に係る搬送装置においては、前記制御手段は、前記多関節ロボットを最終工程まで走行させた後、最終工程終了後に前記搬送軌道上に残された空パレットを前記チャック部に把持させて、前記多関節ロボットを製造ラインの先頭に戻すように前記走行軌道に沿って逆走させることが望ましい。
【0017】
ここで、本発明に係る搬送装置のようにパレットを利用してワークを搬送すると、最終工程終了後に搬送軌道上に残された空パレットを回収し、製造ラインの先頭に戻す必要がある。このため、従来はパレット返還コンベアを別途設けるのが一般的であった。
これに対して、この搬送装置では、多関節ロボットの戻り走行に合わせて空パレットを製造ラインの先頭に返還することができるため、パレット返還コンベアを別途設ける必要がない。これにより、より安価に搬送装置を構築することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上記した通り、設備全体の設置スペースを削減することができるとともに、異仕様のワークを製造ラインに流した場合であっても生産効率を悪化させることなく、工程間におけるワークの搬送を行うことができる搬送装置を安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の搬送装置を具体化した最も好適な実施の形態について、添付図面に基づき詳細に説明する。なお、本実施の形態は、エンジンのシリンダブロックの製造ラインに本発明を適用したものである。そこで、実施の形態に係る製造ラインについて、図1〜図4を参照しながら説明する。図1は、実施の形態に係る製造ラインの概略構成を示す斜視図である。図2は、実施の形態に係る製造ラインの概略構成を示す平面図である。図3は、実施の形態に係る製造ラインの概略構成を示す側面図である。図4は、搬送軌道の概略構成を示す斜視図である。図5は、パレットの概略構成を示す斜視図である。図6は、ロボットの搬送チャックの概略構成を示す斜視図である。
【0020】
図1、図2に示すように、本実施の形態に係る製造ライン10には、ワークであるシリンダブロックWに対する加工を行う複数の加工機11と、搬送軌道12と、搬送軌道12上に移動可能に載置された複数のパレット13と、これらのパレット13を次工程(次の加工機)に移動させるロボット14と、このロボット14の走行軌道15と、ロボット14の動作を制御するコントローラ16とが備わっている。これにより、製造ライン10では、シリンダブロックWをパレット13に搭載し、そのパレット13をロボット14により次工程(次の加工機)に移動させることにより、工程間におけるシリンダブロックWの搬送を行うようになっている。
【0021】
各加工機11は、所定の間隔で横一列に設置されている。加工機11には、図2、図3
に示すように、ワークであるシリンダブロックWに対し所定の加工を施す加工部11aと、加工機11の治具に対するシリンダブロックWの着脱を行うためのベット部11bとが設けられている。このような加工機11では、ベット部11bにおいて治具にセットされたシリンダヘッドを加工部11aに送り込み、加工部11a内で所定の加工を施した後、加工後のシリンダヘッドをベット部11bに送り出すようになっている。
【0022】
搬送軌道12は、図4に示すように、多数のフリーローラ20が組み込まれたレール21a,21bが並列に配置されて構成されたものである。この搬送軌道上12の幅(レース21a,21b間の距離)は、搬送軌道12上に載置されるパレット13の大きさ(幅寸法)に対応して設定される。各レール21a,21bの外側には、パレット13が搬送軌道12から外れないように、レールから上方に突出してパレット13をガイドするガイド部材22が設けられている。但し、加工機11のベット部11bにおいては、加工機11側に位置するレール21bには、ガイド部材22は設けられていない。パレット13に搭載されたシリンダブロックWを加工機11の治具にセットするために、パレット13を搬送軌道12から外す(加工機11側に移動させる)必要があるからである。なお、シリンダブロックの治具へのセットについての詳細は後述する。
【0023】
このような搬送軌道12上に載置されるパレット13は、ワークであるシリンダブロックを搭載して搬送するためのものである。パレット13の両端部には、図5に示すように、ロボット14の搬送チャック30に備わる嵌合ピン33,34(図6参照)が嵌合する嵌合孔25,26が形成されている。本実施の形態では、パレット13の各端部にそれぞれ2つの嵌合孔が形成されている。また、パレット13の中央上面には、搬送チャック30に備わる係合爪35(図6参照)が係合する係合突起27が形成されている。係合突起27は、パレット13の上面に突出した突起27aと、突起27aの先端に設けられた(形成された)平板部27bとにより構成されている。さらに、パレット13には、係合突起27と嵌合孔26との間に、2つの係合位置決め孔28が形成されている。この係合位置決め孔28には、係合突起27に係合爪35が係合した状態で、搬送チャック30に備わる嵌合ピン33が嵌合するようになっている。
【0024】
そして、製造ライン10においては、図1に示すように、搬送軌道12上に上記したパレット13が合計8個載置されている。具体的には、7個のパレット13は各加工機11の前にセットされ、残り1つのパレット13がライン先頭(最初の加工機よりも上流側)にセットされている。
【0025】
ロボット14は、パレット13に搭載されたシリンダヘッドWを搬送するためのものであって、一般的な垂直型多関節ロボットである。ここで、製造ライン10では、工程(加工機)間におけるシリンダブロックWの搬送を、搬送軌道12上に設けたパレット13を利用して行う。このため、ロボット14がシリンダブロックW自体を保持して工程間を搬送することはない。従って、ロボット14には、従来のように大きな可搬能力(約50kg以上)が要求されない。よって、ロボット14として、従来の搬送ロボットに比べて小型のもの(20〜30kg程度の可搬能力があればよい)を使用することができる。
【0026】
ロボット14の先端には、搬送チャック30が取り付けられている。搬送チャック30は、パレット13を保持あるいは把持するものである。搬送チャック30には、図6に示すように、接続部31と本体部32とが備わっており、接続部31を介してロボット14に接続されるようになっている。本体部32の一端部には、2本の可動嵌合ピン33,33が設けられている。この2本の可動嵌合ピン33,33は、上昇・下降するようになっている。これにより、可動嵌合ピン33,33の先端部は、本体部32の上面あるいは下面から突出するようになっている。また、本体部32の他端部には、固定嵌合ピン34,34が下面から突出して設けられている。さらに、本体部32の中央下面には、係合爪35が設けられている。係合爪35は、本体部32の下面から突出する突起部35aと、その突起部35aの先端に設けられた(形成された)U字形の爪部35bとにより構成されている。なお、爪部35bは、そのU字開口部が固定嵌合ピン34,34の方に向くように配置されている。そして、ロボット14の走行および動作(搬送チャック30の可動嵌合ピン33の動作も含む)は、コントローラ16からの指令によって制御されるようになっている。
【0027】
そして、このようなロボット14は、図3に示すように、各加工機11のベット部11b上空(搬送軌道12の上方)に設置された走行軌道15に沿って移動(走行)するように天吊り設置されている。なお、走行軌道15は、複数の支柱17により支持されている。このようにロボット14を天吊りすることができるのは、ロボット14に小型のロボットを使用することができるからである。これにより、図2に示すように、ロボット14の動作スペースSrと加工機11の設置スペースSmとをオーバーラップさせることができる。その結果、従来のように、搬送ロボット120の動作スペース130を別途設ける必要がなくなる。従って、製造ライン10の設置スペースを小さくすることができる。
【0028】
また、ロボット14が稼働中であっても、図2、図3に示すように、作業者18が各加工機11のベット部11bの直前まで近づくことができる。このため、ロボット14が稼働中であっても、加工機11の治具の段替え作業などを行うことができる。これにより、製造ライン10においては、多様なワーク(例えば、仕様の異なるシリンダブロックなど)を流しても、生産効率を悪化させることなく工程間におけるシリンダブロックの搬送を行うことができる。
【0029】
次に、上記のように構成された製造ライン10におけるロボットによるシリンダブロックの搬送動作について、図7〜図10を参照しながら説明する。図7は、ロボットの搬送チャックが下流側パレットを保持して移動させる状態を示す図である。図8は、ロボットの搬送チャックが上流側と下流側の2つのパレットを保持した状態を示す図である。図9は、下流側パレットに搭載されたシリンダブロックを次工程に搬送した状態を示す図である。図10は、上流側パレットに搭載されたシリンダブロックを次工程へ搬送している状態を示す図である。
【0030】
まず、製造ライン10の先頭にセットされている下流側パレット13dに加工前のシリンダブロックW1が搭載される。このとき、加工機11にて加工されたシリンダブロックW2が加工機11から送り出されて上流側パレット13uに搭載されている。このような状態で、図7に示すように、コントローラ16からの指令により、ロボット14が下流側パレット13dと上流側パレット13uとの間に移動させられる。次いで、搬送チャック30の可動嵌合ピン33が下降させられる。そして、ロボット14の動作が制御されて、可動嵌合ピン33が下流側パレット13dの嵌合孔25に嵌合させられる。これにより、ロボット14の搬送チャック30により下流側パレットの13dの端部が保持される。その状態で、ロボット14は走行軌道15に沿って上流側に移動させられる。このロボット14の移動(走行)に伴って、下流側パレット13dはロボット14に引かれて搬送軌道12上を上流側に移動する。
【0031】
そして、ロボット14が上流側パレット13uに近づくと、ロボット14の移動(走行)が停止させられる。その後、図8に示すように、ロボット14の動作が制御されて、搬送チャック30の固定嵌合ピン34が上流側パレットの嵌合孔26に嵌合させられる。これにより、ロボット14の搬送チャック30により上流側パレット13uおよび下流側パレットの13dの各端部が保持される。その状態で、ロボット14は走行軌道15に沿って上流側に移動させられる。このロボット14の移動(走行)に伴って、上流側パレット13uはロボット14に押されて搬送軌道12上を上流側に移動し、下流側パレット13dはロボット14に引かれて搬送軌道12上を上流側に移動する。
【0032】
その後、下流側パレット13dが加工機11の所定位置に達すると、ロボット14の移動(走行)が一時停止され、搬送チャック30の可動嵌合ピン33が上昇させられる。これにより、搬送チャック30による下流側パレット13dの保持が解除される。そして、図9に示すように、ロボット14の移動(走行)が再開される。このロボット14の移動(走行)に伴って、上流側パレット13uはロボット14に押されて搬送軌道12上を上流側に移動する。
【0033】
そして、上流側パレット13uが加工機間の所定位置に達すると、図10に示すように、ロボット14の動作が制御されて、搬送チャック30による上流側パレット13uの下流側端部の保持が開放され、搬送チャック30によって上流側パレット13uの上流側端部が保持される。つまり、搬送チャック30が上昇して固定嵌合ピン34が嵌合孔26から外され、搬送チャック30がワークWaを乗り越えるようにして上流側へ移動する。そして、可動嵌合ピン33が下降して、可動嵌合ピン33が上流側パレット13uの嵌合孔25に嵌合する。
【0034】
その後は、上記した動作が繰り返されて、順次、パレット13に搭載されたシリンダブロックWが次工程に搬送されていく。このようにして、製造ライン10では、ロボット14により、工程間(各加工機間)におけるシリンダブロックWの搬送が実施されるため、ロボット14の動作を利用することにより搬送の自由度を向上させることができる。
【0035】
続いて、加工機の治具へシリンダブロックをセットする動作について、図11および図12を参照しながら説明する。図11は、治具の前にシリンダブロックが配置(搬送)された状態を示す図である。図12は、シリンダブロックが治具にセットされた状態を示す図である。
【0036】
まず、図11に示すように、搬送チャック30の可動嵌合ピン33がパレット13の嵌合孔25に嵌合した状態で、ロボット14の動作が制御されて、パレット13に搭載されたシリンダブロックWが加工機11に備わる治具40の前まで搬送される。そして、図12に示すように、ロボット14により、パレット13に搭載されたシリンダブロックWが治具40に近づくように搬送チャック30によって保持されたパレット13を移動させられる。これにより、シリンダブロックWに設けられた不図示のピン孔に、治具40のノックピン41が嵌合して、シリンダブロックWが治具40にセットされる。
【0037】
このようにしてロボット14により、シリンダブロックWを治具40にセットすることができるため、ワークを治具にセットするために従来必要であった治具の可動ノック機構を不要にすることができる。これにより、加工機11に備わる治具40の構成を簡単なものにすることができる。
【0038】
最後に、最終工程終了後に搬送軌道上に残る空きパレットパレットをライン先頭に戻す動作について、図13〜図15を参照しながら説明する。図13は、空きパレットに搬送チャックが接近する状態を示す図である。図14は、搬送チャックの係合爪がパレットの係合突起に係合した状態を示す図である。図15は、搬送チャックによるパレットの把持が完了した状態を示す図である。
【0039】
製造ライン10において最終工程が終了すると、製造ライン10における加工が終了したシリンダブロックがラインから搬出され、図13に示すように、搬送軌道12上に空きパレット13eが残る。そうすると、ロボット14により、可動嵌合ピン33が上昇した状態の搬送チャック30が空きパレット13eに近付けられる。そして、図14に示すように、ロボット14により、空きパレット13eの係合突起27に対し、搬送チャック30の係合爪35の開口部が差し込まれて係合させられる。その後、図15に示すように、搬送チャック30の可動嵌合ピン33が下降して、空きパレット13eの係合位置決め孔28に嵌合する。これにより、搬送チャック30によって空きパレット13eが把持される。これにより、空きパレット13eを持ち上げた際に、空きパレット13eの落下および回転を防止することができる。そして、この状態で空きパレット13eを上昇させ、ロボット14を走行軌道15に沿って逆送させる。すなわち、ロボット14をライン先頭に移動させる。このロボット14の移動(戻り走行)に伴って、空きパレット13eもライン先頭に戻される。
【0040】
このように製造ライン10では、最終工程終了後に搬送軌道12上に残る空きパレット13eをロボット14の戻り走行を利用してライン先頭に戻す(返還する)ことができる。これにより、パレット返還コンベアを別途設ける必要がない。このため、製造ライン10を安価に構築することができる。
【0041】
以上、詳細に説明したように本実施の形態に係る製造ライン10によれば、搬送軌道12上に載置したパレット13にシリンダブロックWを搭載して、そのパレット13をロボット14により移動させることにより、次工程へシリンダブロックWを搬送する。このため、ロボット14として小型のものを使用することができるので、ロボット14を天吊りすることが可能となる。これにより、製造ライン10では、搬送軌道12および走行軌道15を、各加工機11のベット部11bの上方に走行軌道15が搬送軌道12より上側に位置するように配置している。その結果、ロボット14の動作スペースを別途設ける必要がなく、設備全体としての設置スペースを削減することができる。
【0042】
そして、ロボット14の動作スペースが各加工機11のベット部11bの上方空間に存在するため、ロボット14が稼働中であっても作業者18がベット部11bの直前まで近づくことができる。これにより、ロボット14が稼働中であっても、加工機11の治具40の段替え作業などを行うことができる。その結果、仕様の異なるシリンダブロックを製造ライン10に流しても、生産効率を悪化させることなく工程間(加工機間)におけるシリンダブロックの搬送を行うことができる。また、ロボット14に小型のものを使用することができるため、安価に製造ライン10を構築することができる。
【0043】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記した実施の形態では、シリンダブロックの製造ラインに本発明を適用するものを例示したが、複数の加工工程がある製造ライン、例えばシリンダヘッド等の製造ラインに本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施の形態に係る製造ラインの概略構成を示す斜視図である。
【図2】実施の形態に係る製造ラインの概略構成を示す平面図である。
【図3】実施の形態に係る製造ラインの概略構成を示す側面図である。
【図4】搬送軌道の概略構成を示す斜視図である。
【図5】パレットの概略構成を示す斜視図である。
【図6】ロボットの搬送チャックの概略構成を示す斜視図である。
【図7】ロボットの搬送チャックが下流側パレットを保持して移動させる状態を示す図である。
【図8】ロボットの搬送チャックが上流側と下流側の2つのパレットを保持した状態を示す図である。
【図9】下流側パレットに搭載されたシリンダブロックを次工程に搬送した状態を示す図である。
【図10】上流側パレットに搭載されたシリンダブロックを次工程へ搬送している状態を示す図である。
【図11】治具の前にシリンダブロックが配置(搬送)された状態を示す図である。
【図12】シリンダブロックが治具にセットされた状態を示す図である。
【図13】空きパレットに搬送チャックが接近する状態を示す図である。
【図14】搬送チャックの係合爪がパレットの係合突起に係合した状態を示す図である。
【図15】搬送チャックによるパレットの把持が完了した状態を示す図である。
【図16】独立搬送型の製造ラインの概略構成を示す斜視図である。
【図17】搬送ロボットを用いた従来の製造ラインの概略構成を示す斜視図である。
【図18】図17に示す製造ラインの平面図である。
【符号の説明】
【0045】
10 製造ライン
11 加工機
11a 加工部
11b ベット部
12 搬送軌道
13 パレット
14 ロボット
15 走行軌道
16 コントローラ
18 作業者
20 フリーローラ
21 レール
25 嵌合孔(可動嵌合ピン側)
26 嵌合孔
27 係合突起
28 係合位置決め孔
30 搬送チャック
33 可動嵌合ピン
34 固定嵌合ピン
35 係合爪
40 治具
41 ノックピン
Sl 製造ラインの設置スペース
Sm 加工機の設置スペース
Sr ロボットの動作スペース
W シリンダブロック(ワーク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに対する加工を行う複数の加工機が設置された製造ラインにて、ワークを次工程の加工機へ搬送する搬送装置において、
多数のフリーローラを備える搬送軌道と、
前記搬送軌道上に移動および離脱可能に載置されて、ワークが搭載される複数のパレットと、
前記パレットを次工程に移動させる多関節ロボットと、
前記多関節ロボットの走行軌道と、
前記多関節ロボットの動作を制御する制御手段と、
を有し、
前記搬送軌道および走行軌道は、前記走行軌道が前記搬送軌道より上側に位置するように各加工機の治具配置部の上方に配置されており、
前記制御手段は、前記多関節ロボットによりワークが搭載されたパレットを前記搬送軌道上で移動させるように、前記多関節ロボットの動作を制御する
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
請求項1に記載する搬送装置において、
前記多関節ロボットは、前記パレットを保持するチャック部を有し、
前記制御手段は、前記チャック部が前記パレットの端部を保持して、前記複数のパレットのうち1つあるいは2つを前記搬送軌道上で移動させるように、前記多関節ロボットの動作を制御する
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項3】
請求項2に記載する搬送装置において、
前記制御手段は、前記チャック部に前記パレットを保持させた状態で、前記パレットを加工機側に移動させて前記パレットに搭載されているワークが前記加工機に備わる治具にセットされるように、前記多関節ロボットの動作を制御する
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載する搬送装置において、
前記制御手段は、前記多関節ロボットを最終工程まで走行させた後、最終工程終了後に前記搬送軌道上に残された空パレットを前記チャック部に把持させて、前記多関節ロボットを製造ラインの先頭に戻すように前記走行軌道に沿って逆走させる
ことを特徴とする搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−12135(P2009−12135A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177673(P2007−177673)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】