説明

摺動部材及び圧縮機

【課題】摺動面に潤滑油を確実に供給し、潤滑性能を高めた摺動部材及び圧縮機を提供すること。
【解決手段】ベーン46は、ベーン溝から突出する方向X1及び当該ベーン溝47に収納される方向X2に往復移動する基材上にダイヤモンドライクカーボン皮膜層54を備え、このダイヤモンドライクカーボン皮膜層54とベーン溝47との間にオイルが供給された状態で摺動する構成とし、ダイヤモンドライクカーボン皮膜層54の摺動面54Aに、方向X1側に中心軸S1を傾斜させた複数の第1空孔61と、方向X2側に中心軸S2を傾斜させた複数の第2空孔62とを配列した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に硬質炭素皮膜層を形成した摺動部材及び圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、ロータリ圧縮機のベーン等のように、相手方部材(ベーンスロット)との間に潤滑油が供給された状態で往復移動して、当該ベーンスロットの壁面に摺動する摺動部材が知られている。この種の摺動部材では、摺動面の摩擦抵抗を低減するとともに潤滑油切れによる焼き付きを抑制するために、基材の表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜層(硬質炭素皮膜層)を形成したものが提案されている(特許文献1参照)。
更に、近年、ダイヤモンドライクカーボン皮膜層に凹部(空孔)を複数形成し、この凹部を潤滑油溜まりとすることにより、潤滑油切れによる焼き付きを防止する技術が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−339564号公報
【特許文献2】特開2005−172082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の構成では、ダイヤモンドライクカーボン皮膜層上に形成される凹部は、すべて摺動面に略垂直に形成されていたため、往復移動による摺動時に排出された潤滑油が、再び、凹部内に流入することは難しく、摺動面上で早期に潤滑油切れが生じるという問題がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、摺動面に潤滑油を確実に供給し、潤滑性能を高めた摺動部材及び圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、第1方向及びこの第1方向と反対の第2方向に往復移動する基材上に硬質炭素皮膜層を備え、この硬質炭素皮膜層と相手方の部材との間に潤滑油が供給された状態で摺動する摺動部材において、前記硬質炭素皮膜層の摺動面に、前記第1方向側に中心軸を傾斜させた複数の有底の第1空孔と、前記第2方向側に中心軸を傾斜させた複数の有底の第2空孔とを配列したことを特徴とする。
【0006】
この構成において、前記第1空孔と前記第2空孔との孔数を略同等に形成しても良い。また、前記摺動面における前記第1方向側の領域に前記第1空孔を配列するとともに、前記第2方向側の領域に前記第2空孔を配列しても良い。更に、前記第1空孔と前記第2空孔との間に、前記摺動面に垂直な中心軸を有する有底の第3空孔を配列しても良い。また、前記第1空孔及び第2空孔は、前記基材の表面に達しない深さに形成されても良い。
【0007】
また、本発明は、密閉容器内に駆動要素と、該駆動要素の回転軸にて駆動される回転圧縮要素とを備え、前記回転圧縮要素が、シリンダと、前記回転軸に形成された偏心部と、前記偏心部に嵌合されてシリンダ内で偏心回転するローラと、前記ローラに当接してシリンダ内を高圧室と低圧室とに区画するベーンと、前記シリンダに形成され、前記ベーンを移動自在に収納するベーンスロットとを備えた圧縮機において、前記ベーンは、前記ベーンスロットから突出する第1方向及び当該ベーンスロットに収納される第2方向に往復移動する基材上に硬質炭素皮膜層を備え、この硬質炭素皮膜層とベーンスロットとの間に潤滑油が供給された状態で摺動する構成とし、前記硬質炭素皮膜層の摺動面に、前記第1方向側に中心軸を傾斜させた複数の有底の第1空孔と、前記第2方向側に中心軸を傾斜させた複数の有底の第2空孔とを配列したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、硬質炭素皮膜層の摺動面に、第1方向側に中心軸を傾斜させた複数の有底の第1空孔と、第2方向側に中心軸を傾斜させた複数の有底の第2空孔とを配列したため、例えば、上記第1方向に摺動する場合には、第2空孔から潤滑油が排出されるとともに、第1空孔に潤滑油が流入され、上記第2方向に摺動する場合には、第1空孔から潤滑油が排出されるとともに、第2空孔に潤滑油が流入されることにより、各空孔内に潤滑油を効率的に保持することができる。このため、長期間に亘って、摺動面に潤滑油を確実に供給することができ、潤滑性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係るロータリ圧縮機を示す縦断面図である。
【図2】シリンダの平面図である。
【図3】Aは、ベーンがベーン溝から突出した状態を示す図であり、Bは、ベーンがベーン溝に収納された状態を示す図である。
【図4】ベーンを示す斜視図である。
【図5】摺動部材上に形成されたダイヤモンドライクカーボン皮膜層を示す概略断面図である。
【図6】ダイヤモンドライクカーボン皮膜層の表面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本実施の形態に係るロータリ圧縮機100の一態様を示す縦断面図である。このロータリ圧縮機100は、冷媒の凝縮器と蒸発器との間に配管接続されて冷凍機ユニットを構成するものであり、図1に示すように、密閉容器1を有し、この密閉容器1の上側に電動要素(駆動要素)2が、下側にこの電動要素2のクランクシャフト3(回転軸)によって駆動されて冷媒を圧縮する回転圧縮要素4が収納されている。
【0011】
密閉容器1は、筒状のシェル部10と、このシェル部10にアーク溶接などにより固着されたエンドキャップ11とを備え、このエンドキャップ11には電動要素2に電力を供給する際の中継端子をなすターミナル12が設けられると共に、圧縮された冷媒を機外に吐出する吐出管13が設けられている。また、シェル部10の底部近くには、上記冷凍機ユニットのアキュムレータから排出された冷媒を回転圧縮要素4に導く吸込管6が溶接などにより固着されている。
【0012】
電動要素2は、いわゆるDCブラシレスモータなどの直流モータからなるものであり、回転子(ロータ)31と、シェル部10に固着された固定子(ステータ)32とを備え、回転子31にクランクシャフト3が固定されて、回転子31の回転力が回転圧縮要素4に伝達されるようになっている。このクランクシャフト3は主軸受け7A(支持部材)および副軸受け7Bにより回転自在に支持されている。
【0013】
図1に示すように、回転圧縮要素4は、円筒形状を有するシリンダ41を有し、このシリンダ41は主軸受け7Aと副軸受け7Bとの間で、図示せぬボルトなどにより主軸受け7Aおよび副軸受け7Bに一体的に固定され、主軸受け7Aが密閉容器1の内側面に溶接により固着されて、この主軸受け7Aにシリンダ41が支持される。また、シリンダ41の上側の開口が主軸受け7Aに、下側の開口が副軸受け7Bにより閉塞されて、このシリンダ41内に圧縮室43が形成される。
【0014】
圧縮室43には、クランクシャフト3に一体成形された偏心部44に嵌合されて偏心回転するローラ45が内設されている。また、図2に示すように、シリンダ41には、冷媒の吸込口48と吐出口40との間にベーン溝(ベーンスロット)47が設けられ、このベーン溝47にはベーン46が摺動自在に配設されている。このベーン46は図示せぬスプリングなどの付勢部材によって常時ローラ45方向に押圧され、偏心部44およびローラ45の回転に応じてローラ45の外周面に摺接しながらベーン溝47内を往復動し、圧縮室43の内部を低圧室側43Aと高圧室側43Bに圧力的に仕切る役割を果たしている。
【0015】
具体的には、ローラ45はその外側面の一端がシリンダ41の内側面49と常に所定のクリアランスで接するように設けられ、シリンダ41とローラ45との間の空間である圧縮室43が三日月状に形成される。そして、ベーン46がローラ45の外側面に当接し、このベーン46により三日月状の圧縮室43が低圧室側43Aと高圧室側43Bに仕切られる。本実施形態では、シリンダ41のベーン溝47内を往復移動するベーン46が摺動部材として機能する。
【0016】
シリンダ41の吸込口48には吸込管6(図1参照)が挿嵌され、また、上記吐出口40には、図示しない吐出バルブが設けられており、冷媒がこの吐出バルブで規定される吐出圧に達すると吐出口40から密閉容器1内に吐出される。
したがって、密閉型ロータリ圧縮機100にあっては、電動要素2がクランクシャフト3を回転駆動することによってローラ45を圧縮室43内において偏心回転させることにより、アキュムレータを介して機外から供給された冷媒が吸込管6を介して圧縮室43の低圧室側43Aに吸入され、その冷媒を高圧室側43Bに移動させながら圧縮して吐出口40から密閉容器1内に吐出し、吐出管13から機外に吐出することになる。
【0017】
また、前掲図1に示すように、密閉容器1の底部には、主軸受け7Aの下面(図中A−A’線にて示す)までオイル(潤滑油)8が貯留されており、このオイル8を主軸受け7A、副軸受け7Bおよび回転圧縮要素4とクランクシャフト3との間の摺動部分や回転圧縮要素4のベーン46の摺動部分に給油するオイルピックアップ50(給油装置)がクランクシャフト3の下端部3Aに設けられている。
【0018】
具体的には、クランクシャフト3は円筒状に形成され、その下端部3Aに円筒状のオイルピックアップ50が圧入して取付けられている。オイルピックアップ50の内部には、図1に示すように、螺旋形のオイル流路を構成するパドル51が一体成形されており、クランクシャフト3の回転により生じる遠心力によりオイルピックアップ50が下端50Aから密閉容器1に貯留されたオイル8を吸込み、パドル51がオイル8を上向きに送給する。そして、このオイル8がオイルピックアップ50に穿たれた給油孔52を経て、クランクシャフト3の周面、特に、主軸受け7A、副軸受け7Bおよび回転圧縮要素4とクランクシャフト3との各摺動部分に供給される。
【0019】
密閉容器1内の底部にはHFC系の混合冷媒(例えば、R134aとR32とR125との3種混合冷媒)が封入されている。ここで、冷媒は、HFC系の混合冷媒に限るものではなく、HFC系の単独冷媒(例えば、R134a、R32、またはR125)や、自然系冷媒(例えば、COまたはHC)を用いることもできる。
また、密閉容器1に貯留されるオイルは、動粘度が20〜120mm/s程度のものが望ましく、例えば、ポリビニルエーテル、ポリオールエステル、アルキルベンゼン、ポリアルファオレンまたはポリアルキレングリコールのいずれかが用いられている。
【0020】
摺動部材としてのベーン46は、図3Aに示すように、潤滑油が存在した状態で、相手方部材としてのシリンダ41のベーン溝47から突出する方向(第1方向)X1と、図3Bに示すように、当該ベーン溝47内に収納される方向(第2方向)X2とを往復移動してベーン溝47内を摺動する。このベーン46は、図4に示すように、金属製の扁平な板材で形成され、ベーン溝47の壁面47A(図3)に対向するベーン46の摺動面46Aには、摺動時の摩擦抵抗を低減するために、ダイヤモンドライクカーボン皮膜層(硬質炭素皮膜層)54が形成されている。
【0021】
図5は、摺動部材上に形成されたダイヤモンドライクカーボン皮膜層を示す概略断面図であり、図6は、ダイヤモンドライクカーボン皮膜層の表面を示す概略図である。
本実施形態のベーン46は、基材としてCr(クロム)を含有する鋼、鋳鉄材、球状黒鉛鋳鉄材、共晶黒鉛鋳鉄材、もしくは鉄系焼結材のいずれかが用いられており、図5に示すように、これら基材上にクロム(Cr)層55、クロム(Cr)/炭化タングステン(WC)混合層56、炭化タングステン(WC)/ダイヤモンドライクカーボン(DLC)混合層57を積層した中間層53を備え、この中間層53の上に、純度の高いダイヤモンドライクカーボン皮膜層54が形成されている。
中間層53は、基材とダイヤモンドライクカーボン皮膜層54との密着性を高めるものであり、基材からダイヤモンドライクカーボン皮膜層54へかけて順次硬度を高めるように積層されている。これによれば、ダイヤモンドライクカーボン皮膜層54の剥離を防止することができ、強度の強い皮膜層を形成することができる。この中間層53は、PVD(Physical Vapor Deposition)処理法により形成される。
【0022】
ダイヤモンドライクカーボン皮膜層54は、自己潤滑性に優れた皮膜層であり、表面の摩擦係数が低く、また耐摩耗性が高い特性を有する。本実施形態では、ダイヤモンドライクカーボン皮膜層54は、PCVD(Plasma-enhanced Chemical Vapor Deposition)処理法により形成される。また、ダイヤモンドライクカーボン皮膜層54及び中間層53の厚みTは、約3〜5μmに形成することが望ましい。
【0023】
ダイヤモンドライクカーボン皮膜層54の摺動面54Aは、図4に示すように、当該摺動面54A(ベーンの側面)の高さ方向の1/2の高さを通る線Pによりベーン46の進退方向に沿って2つの領域54B,54Cに区分けされている。
上側の領域(第1方向側の領域)54Bには、図5に示すように、ベーン溝47から突出する方向X1側に中心軸S1を傾斜させた有底の第1空孔(以下、単に第1空孔という)61が配列され、下側の領域(第2方向側の領域)54Cには、ベーン溝47内に収納する方向X2側に中心軸S2を傾斜させた有底の第2空孔(以下、単に第2空孔という)62が配列されている。さらに、本実施形態では、上記した領域54B,54C間の線P上には、摺動面54Aに垂直な中心軸S3を有する有底の第3空孔(以下、単に第3空孔という)63が配列されている。
【0024】
本実施形態では、第1空孔61の中心軸S1は、摺動面54Aから垂直に延びる線Vに対して、上記方向X1側に約30度〜45度の角度αだけ傾斜して形成されている。同様に、第2空孔62の中心軸S2は、摺動面54Aから垂直に延びる線Vに対して、上記方向X2側に約30度〜45度の角度αだけ傾斜して形成されている。この場合、第1空孔61と第2空孔62の孔数は略同数に設定されるのが望ましい。
この構成によれば、例えば、ベーン46がベーン溝47から突出する場合には、第2空孔62からオイルが排出されて摺動面54Aの潤滑性を確保するとともに、第1空孔61内に余分なオイルが流入する。また、ベーン46がベーン溝47に収納される場合には、第1空孔61からオイルが排出されて摺動面54Aの潤滑性を確保するとともに、第2空孔62内に余分なオイルが流入する。このため、往復して移動するベーン46の摺動面54Aに傾斜させて形成した第1空孔61または第2空孔62内にオイルを効率的に保持することができる。従って、長期間に亘って、摺動面54Aに潤滑油を確実に供給することができ、潤滑性能を高めることができる。
【0025】
一方、第3空孔63は、摺動面54Aとベーン溝47の壁面47Aとが摺動した際に発生する摩耗粉を収容するための孔部であり、この第3空孔63を、第1空孔61と第2空孔62との間に設けることにより、各空孔からオイルと流れた摩耗粉を第3空孔63に集めることができ、摩耗粉に基づく摩擦進行を防止することができる。
【0026】
第1空孔61〜第3空孔63は、例えば、レーザ照射により形成されるものであり、本実施形態では、各空孔の孔径Eは、直径0.5μm〜2μmの範囲で略同一径に設定されている。更に、第1空孔61〜第3空孔63の深さDは、ダイヤモンドライクカーボン皮膜層54及び中間層53の厚みTよりも小さな値に設定され、本実施形態では、約1〜3μmに設定される。これにより、ダイヤモンドライクカーボン皮膜層54(及び中間層53)に形成された第1空孔61〜第3空孔63が基材の表面に達することが防止され、この基材表面が酸化等により腐食されて、密着性が低下することを防止できる。
【0027】
また、本実施形態では、図6に示すように、第1空孔61〜第3空孔63は、隣接する空孔の中心間の距離Lが略等間隔に形成されている。このため、各空孔を移動するオイル量を調整しやすくなり、摺動面54Aの潤滑性能を高めることができる。なお、本実施形態では、摺動面54Aの面積に対する空孔面積(気孔率)は5〜10%に設定されている。この気孔率を低くし過ぎると、空孔内に保持されるオイル量が低下して潤滑性能が低下し、気孔率が高過ぎると、摺動面積が低減するため、逆に、摩擦抵抗が上昇してしまう傾向にある。このため、摺動面54Aの面積に対する空孔面積(気孔率)は5〜10%に設定することにより、摩擦抵抗の上昇を防止し、良好な潤滑性能を維持することができる。
【0028】
このように、本実施形態によれば、密閉容器1内に電動要素2と、電動要素2のクランクシャフト3にて駆動される回転圧縮要素4とを備え、この回転圧縮要素4が、シリンダ41と、クランクシャフト3に形成された偏心部44と、偏心部44に嵌合されてシリンダ41内で偏心回転するローラ45と、ローラ45に当接してシリンダ41内を高圧室43Bと低圧室43Aとに区画するベーン46と、シリンダ41に形成され、ベーン46を移動自在に収納するとベーン溝47とを備え、ベーン46は、ベーン溝47から突出する方向X1及び当該ベーン溝47に収納される方向X2に往復移動する基材上にダイヤモンドライクカーボン皮膜層54を備え、このダイヤモンドライクカーボン皮膜層54とベーン溝47との間にオイルが供給された状態で摺動する構成とし、ダイヤモンドライクカーボン皮膜層54の摺動面54Aに、方向X1側に中心軸S1を傾斜させた複数の第1空孔61と、方向X2側に中心軸S2を傾斜させた複数の第2空孔62とを配列したため、例えば、ベーン46がベーン溝47から突出する場合には、第2空孔62からオイルが排出されて摺動面54Aの潤滑性を確保するとともに、第1空孔61内に余分なオイルが流入する。また、ベーン46がベーン溝47に収納される場合には、第1空孔61からオイルが排出されて摺動面54Aの潤滑性を確保するとともに、第2空孔62内に余分なオイルが流入する。このため、往復して移動するベーン46の摺動面54Aに傾斜させて形成した第1空孔61または第2空孔62内にオイルを効率的に保持することができる。従って、長期間に亘って、摺動面54Aにオイルを確実に供給することができ、潤滑性能を高めることができる。
【0029】
また、本実施形態によれば、第1空孔61と第2空孔62との孔数を略同等に形成したため、第1空孔61と第2空孔62の一方から排出されるオイル量と、第1空孔61と第2空孔62の他方に流入されるオイル量とのバランスを取ることができ、摺動面54A上のオイル切れを防止でき、潤滑性能を高めることができる。
【0030】
また、本実施形態によれば、摺動面54Aにおける上側の領域54Bには、ベーン溝47から突出する方向X1側に中心軸S1を傾斜させた第1空孔61が配列され、下側の領域54Cには、ベーン溝47内に収納する方向X2側に中心軸S2を傾斜させた第2空孔62が配列されているため、各空孔を容易に設けることができるとともに、各領域に存在するオイル量を調整しやすくなり、摺動面54Aの潤滑性能を高めることができる。
【0031】
また、本実施形態によれば、第1空孔61と第2空孔62との間に、摺動面54Aに垂直な中心軸S3を有する第3空孔63を配列したため、各空孔からオイルと流れた摩耗粉を第3空孔63に集めることができ、摩耗粉に基づく摩擦進行を防止することができる。
【0032】
また、本実施形態によれば、第1空孔61〜第3空孔63は、の深さDは、ダイヤモンドライクカーボン皮膜層54及び中間層53の厚みTよりも小さな値に設定されるため、ダイヤモンドライクカーボン皮膜層54(及び中間層53)に形成された第1空孔61〜第3空孔63が基材の表面に達することが防止され、この基材表面が酸化等により腐食されて、密着性が低下することを防止できる。
【0033】
また、本実施形態によれば、基材とダイヤモンドライクカーボン皮膜層54との間に複数の中間層53を形成し、これら中間層53は、基材からダイヤモンドライクカーボン皮膜層54へかけて順次硬度を高めるように積層されているため、基材とダイヤモンドライクカーボン皮膜層54との密着性を高めることができ、ダイヤモンドライクカーボン皮膜層54の剥離が防止され、強度の強い皮膜層を形成することができる。
【0034】
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、本実施形態では、摺動面54Aを進退方向に2つの領域54B,54Cに区分けし、領域54Bに第1空孔61を配列するとともに、領域54Cに第2空孔62を配列しているが、これに限るものではなく、摺動面54A全体に第1空孔61及び第2空孔62をランダムに配列しても良い。また、本実施形態では、単段式のロータリ圧縮機100にて説明したが、多段式のロータリ圧縮機に適用しても差し支えない。
また、ロータリ圧縮機100を縦型で説明したが、ロータリ圧縮機100は縦型に限られず、横置き型であってもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 密閉容器
2 電動要素(駆動要素)
3 クランクシャフト(回転軸)
3B 摺動面
4 回転圧縮要素
6 吸込管
8 オイル
41 シリンダ
43 圧縮室
43A 低圧室
43B 高圧室
44 偏心部
45 ローラ
46 ベーン(摺動部材)
46A 摺動面
47 ベーン溝(ベーンスロット)
50 オイルピックアップ
50A 下端
51 パドル
52 給油孔
53 中間層
54 ダイヤモンドライクカーボン皮膜層(硬質炭素皮膜層)
54A 摺動面
54B 上側の領域(第1方向側の領域)
54C 下側の領域(第2方向側の領域)
61 第1空孔
62 第2空孔
63 第3空孔
100 圧縮機
S1、S2 中心軸
X1 ベーン溝から突出する方向(第1方向)
X2 ベーン溝内に収納される方向(第2方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向及びこの第1方向と反対の第2方向に往復移動する基材上に硬質炭素皮膜層を備え、この硬質炭素皮膜層と相手方の部材との間に潤滑油が供給された状態で摺動する摺動部材において、
前記硬質炭素皮膜層の摺動面に、前記第1方向側に中心軸を傾斜させた複数の有底の第1空孔と、前記第2方向側に中心軸を傾斜させた複数の有底の第2空孔とを配列したことを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
前記第1空孔と前記第2空孔との孔数を略同等に形成したことを特徴とする請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記摺動面における前記第1方向側の領域に前記第1空孔を配列するとともに、前記第2方向側の領域に前記第2空孔を配列したことを特徴とする請求項1または2に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記第1空孔と前記第2空孔との間に、前記摺動面に垂直な中心軸を有する有底の第3空孔を配列したことを特徴とする請求項3に記載の摺動部材。
【請求項5】
前記第1空孔及び前記第2空孔は、前記基材の表面に達しない深さに形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項6】
密閉容器内に駆動要素と、該駆動要素の回転軸にて駆動される回転圧縮要素とを備え、前記回転圧縮要素が、シリンダと、前記回転軸に形成された偏心部と、前記偏心部に嵌合されてシリンダ内で偏心回転するローラと、前記ローラに当接してシリンダ内を高圧室と低圧室とに区画するベーンと、前記シリンダに形成され、前記ベーンを移動自在に収納するベーンスロットとを備えた圧縮機において、
前記ベーンは、前記ベーンスロットから突出する第1方向及び当該ベーンスロットに収納される第2方向に往復移動する基材上に硬質炭素皮膜層を備え、この硬質炭素皮膜層とベーンスロットとの間に潤滑油が供給された状態で摺動する構成とし、前記硬質炭素皮膜層の摺動面に、前記第1方向側に中心軸を傾斜させた複数の有底の第1空孔と、前記第2方向側に中心軸を傾斜させた複数の有底の第2空孔とを配列したことを特徴とする圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−2525(P2013−2525A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133083(P2011−133083)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】