説明

放射線損傷量計測装置

【課題】 供用状態または炉外取出し状態における被測定材料の中性子照射量、DPA、ヘリウム生成量、水素生成量等の放射線損傷量をその場で非破壊的に測定する。
【解決手段】 原子炉プラントに組込まれた状態または外された状態の被測定部材19から放出されるγ線を測定する検出器本体1と、該検出器本体1を包囲して形成された放射線の遮蔽体と、該遮蔽体に前記検出器本体1と外部とを連通して設けられた細孔と、前記細孔の開口部を水密にシールする蓋と、を有して形成された検出器部5と、前記検出器本体1に接続され、前記γ線の測定データを分析して前記被測定部材19に含まれる放射性核種とその量を求め、該求めた放射性核種の量と前記被測定部材19の化学組成と前記放射線の照射時間履歴とに基づいて前記放射線の中性子量を算出し、算出した前記中性子量に基づいて前記放射線損傷量を算出する演算手段と、を含んで放射線損傷量測定装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電施設等の原子力プラントを構成する金属部材の放射線損傷量を測定する技術に係り、特に、原子力プラントに組込まれた状態(以下、供用状態という。)のまままたは外された状態で金属部材の放射線損傷量を非破壊的に測定する放射線損傷量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線損傷の評価には中性子照射量が使用される。この中性子照射量を測定するには、原子炉圧力容器サーベイランス測定のように、予め放射化箔を測定部位に設置しておき、ある期間照射した後に取り出して測定する方法が一般的である。この方法は、測定位置や照射期間があらかじめ計画されており、また使用する放射化箔についても純度が判った高純度金属を使用するので精度良い測定が可能である。
【0003】
これに対して、炉内構造物から放射線の照射量を遡及的に求める方法は、遡及的線量測定(Retrospective Dosimetry)と呼ばれ、非特許文献1に記載されており、近年使われるようになった。この方法は、炉内構造物自身の放射化による核種を測定して照射量を求める方法であり、上述のような放射化箔が設置されていない場所にも適用できるというメリットがある。しかし、構造物の化学組成、特にコバルト等の不純物の含有が判っていないことが多く、また妨害核種や大きなバックグラウンド放射線のなかでの測定を強いられる。
【0004】
また、従来の遡及的線量測定では、その測定対象の構造物から少量の金属をサンプルとして削り取る必要がある。日本では供用期間中のサンプリングは行われず、交換によって不要となった廃材からサンプリングが行われた例がある。
【0005】
一方、放射線損傷の評価は、DPA(Displacement per Atomの略)、ヘリウム生成量、水素生成量などのパラメータにより行われる。DPAは、中性子の衝突により移動した原子の数が照射域にある原子1個当たり何個かを示す原子変位量である。これらのパラメータは、中性子照射量から計算で求められるが、ヘリウム生成量については材料をサンプリングして直接測定も行われている。
【0006】
【非特許文献1】中性子線照射の影響及びヘリウムとホウ素測定のための遡及的原子炉線量測定“Retrospective Reactor Dosimetry for Neutron fluence,Helium,and Boron Measurement”L.R.Greenwood and B.M.Oliver(Reactor Dosimetry in the 21th Century Jan Wagemans et al.(Edtors), World Scientific Publishing Co.Pte.Ltd.(2003))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の放射線損傷量測定法は、放射化箔などの測定用のサンプルを予め設置しておく必要がある。あるいは、交換によって不要となった照射済み材料からサンプリングして、別の場所でγ線やβ線を測定して放射能量を測定し、中性子照射量を求めることが一般的である。また、ヘリウム生成量は被測定部材をサンプリングして、別の場所で試料を調整して重量を測定後、溶解して発生するヘリウムを測定するのが一般的である。
【0008】
すなわち、従来の放射線損傷量測定法は、原子炉プラントに組込まれた供用状態において、被測定部材の放射線損傷量を測定することについて配慮されていないから、測定の自由度が制限されるという問題がある。例えば、大きな被測定部材の放射線損傷量の分布を測るのは、困難であるという問題があった。特に、その場で結果を得ることができないという不便があった。
【0009】
本発明は、供用状態における被測定部材の原子変位量(以下、DPAという。)、中性子照射量、ヘリウム生成量、水素生成量等の放射線損傷量を、非破壊的に測定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の放射線損傷量計測装置は、原子炉プラントに組込まれた状態または外された状態の被測定部材から放出されるγ線を測定する検出器と、前記検出器に接続された演算手段とを備え、前記演算手段は、前記検出器により測定された前記γ線の測定データに基づいて前記被測定材料の放射線損傷量を算出して出力するように構成したことを特徴とする。
【0011】
このように構成することにより、本発明の放射線損傷量計測装置あるいは検出器を測定対象の部材が組込まれた場所に設置し、被測定部位から発するγ線を測定することにより、被測定部位の放射線損傷量を非破壊的に測定することができる。
【0012】
ここで、γ線を測定して被測定部位の放射線損傷量を計算等により求める技術は、周知である。例えば、演算手段は、γ線の測定データを分析して被測定部材に含まれる放射性核種とその量を求め、求めた放射性核種の量と被測定部材の化学組成と照射時間履歴とに基づいて中性子量を算出し、算出した中性子量に基づいて放射線損傷量を算出することができる。
【0013】
特に、本発明は、前記検出器を、前記γ線を検出する検出器本体と、該検出器本体を包囲して形成された放射線の遮蔽体と、該遮蔽体に前記検出器本体と外部とを連通して設けられた細孔と有して構成することを特徴とする。すなわち、検出器本体に細孔を有するコリメータ遮蔽体を設けることにより、妨害核種や大きなバックグラウンド放射線の中でも、それらの外乱を受けることなくγ線を精度よく測定することができる。
【0014】
この場合、検出器の細孔の開口部に水密構造の蓋を設けることが好ましい。この蓋の材料としては、例えば、アルミニウムが好ましい。これにより、放射線遮蔽のために水中に置かれている材料の放射線損傷量を、その場所で計測できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、供用状態における被測定部材の中性子照射量や、DPA、ヘリウム生成量、水素生成量で示される放射線損傷量をその場で非破壊的に測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、測定原理を説明する。中性子線による高照射場では、中性子線に照射された材料が放射化される。中性子線照射を止めた後には放射化された材料からγ線、β線等が放出される。このγ線を計測することにより、放射化によって材料中に生成された放射性核種の種類と量(単位ベクレル)がわかる。これは例えば、γ線のエネルギーを波高分析装置にかけて分析し、そのγ線のエネルギーから核種が同定できるものが市販されている。図4に示すように、縦軸に検出されたパルスの数、横軸にパルスのエネルギー(MeV)をとって分析結果を表示すると、曲線上のピークで放射性核種の存在が示され、ピークの横軸上の位置(エネルギーの大きさ)で核種が判る。例えば1.33MeVの位置にピークがあれば、60Coである。また、曲線上のピークの高さHから、放射性核種の量、この場合、60Coの量C(Bq)を、予め求めた検出器の検出効率から計算できる。
【0017】
予め材料の化学組成と照射時間がわかれば、放射性核種の量から照射場の中性子量が計算できる。例えば、材料中の単位量の59Coに単位中性子束が照射された場合、生成される放射性コバルト(60Co)の量は、単位中性子束の照射時間に応じて変化し、その量は、図5に示すように、予めデータ化可能である。そして、生成される60Coの量は、材料に含まれる59Coの量に比例し、かつ照射される中性子束に比例する。従って、照射時間が予め判っていれば、材料中の単位量の59Coから単位中性子束により生成される60Coの量Aが判り、材料中の59Coの量Bが判れば、それから単位中性子束により生成される60Coの量がA×Bで求まる。γ線測定の結果、被測定材料中の60Coの量Cが判明しているから、C/(A×B)で被測定材料が受けた中性子束、すなわち中性子量が求まる。
【0018】
上記演算処理のために、被測定材料の成分データ、被測定材料に対する中性子照射時間のデータを用意しておくとともに、各放射性核種ごとの図5に相当するデータ(演算式でもよい)、すなわち照射量―放射能変換データをデータベースとして備えておく。
【0019】
中性子量がわかれば、これをもとに放射線損傷量(DPA、ヘリウム生成量、水素生成量)が計算できる。中性子照射により生ずるDPA、ヘリウム生成量、水素生成量については、中性子エネルギー分布をパラメータとして、照射された単位中性子束当たりの数値を求めることが従来から知られているから、単位中性子束当たりの数値(照射量―DPA,He生成量,H生成量変換データ)としてデータベース化しておけばよい。中性子エネルギー分布は、照射域の中性子源に対する相対位置で決まるから、例えば原子炉の炉内構造物の場合、予め、被測定材料ごとの係数としてデータベース化できる。したがって、被測定材料が受けた中性子束が求まれば、予め求めておいた単位中性子束当たりのDPA、ヘリウム生成量、水素生成量及び中性子エネルギー分布に基づいて、放射線損傷量(DPA、ヘリウム生成量、水素生成量)が計算できる。
【0020】
この原理により被照射材料の放射線損傷量を非破壊的な測定により求めることができる。
【0021】
例えばステンレス鋼が中性子場で照射された場合については、照射後数ヶ月以内なら、γ線測定により、51Cr(半減期27.7日)、54Mn(同312.1日)、58Co(同70.9日)、59Fe(同44.5日)、60Co(同5.27年)等を測定することができる。測定材料の化学組成と照射時間履歴について、材料のミルシートや原子炉運転履歴に基づいて予め調査しておけば、それぞれの核種が生成される照射量―放射能変換データをもとに、照射場の中性子束が決定でき、中性子束から損傷量が決定できる。
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図3を用いて説明する。図1は本実施の形態に係る放射線損傷量計測装置の計測システム構成を示すブロック図である。図示の放射線損傷量計測装置は、検出器部5と、検出器部5に接続された計算処理部13と、計算処理部13に接続された出力部である表示部17と、同じく計算処理部13に接続された図示されていない入力手段と、を含んで構成されている。
【0023】
検出器部5は、被測定材料19からのγ線を測定する検出器本体1と、検出器本体1に接続された前置増幅器2と、前置増幅器2に接続された線形増幅器4と、これらに電力を供給する電源3と、を含んで構成されている。核種を同定するため、検出器本体1としては、Ge、Si、CdZnTe、HgI2、等の半導体検出器が設置されている。検出器本体1から出力されるパルスは前置増幅器2と線形増幅器4で増幅される。電源3により前置増幅器2と線形増幅器4に駆動電力を与える。
【0024】
計算処理部13は、線形増幅器4に接続されたA/D変換器6と、A/D変換器6に接続された演算手段と、この演算手段に接続された記憶手段と、を含んで構成されている。演算手段は、A/D変換器6に接続された放射能計算部8と、放射能計算部8に接続された中性子照射量計算部10と、中性子照射量計算部10に接続された放射線損傷量計算部12と、を含んで構成されている。放射能計算部8には放射能計算プログラム8aが、中性子照射量計算部10には中性子照射量計算プログラム10aが、放射線損傷量計算部12には放射線損傷量計算プログラム12aが、それぞれ装備されている。
【0025】
記憶手段には、検出器効率データ7と、照射量―放射能変換データ9と、照射量―DPA,He生成量,H生成量変換データ11と、前記図示されていない入力手段から入力される入力データ18が格納されている。入力データ18として照射時間、被測定材料の各成分の量(割合)、位置・形状等の情報が与えられるようになっている。
【0026】
照射量―放射能変換データ9は、材料中の単位量の元素(例えば59Co)に単位中性子束が照射された場合、生成される放射性核種(例えば60Co)の量を照射時間の関数として示すもので、生成されることが想定される複数の核種のデータが含まれている。
【0027】
照射量―DPA,He生成量,H生成量変換データ11は、中性子照射により生ずるDPA、ヘリウム生成量、水素生成量について、照射された単位中性子束当たりの数値を、中性子束の中性子エネルギー分布をパラメータとして示すものである。中性子束の中性子エネルギー分布は、中性子源と被測定材料の相対的位置関係により異なり、通常、中性子源から離れるにつれ、高エネルギーの中性子の割合が減少する。
【0028】
図6に、中性子エネルギー分布の例を模式的に示す。図中の中性子エネルギー分布を示す曲線a,b,cは、曲線aが中性子源に近い材料aでの中性子束の中性子エネルギー分布を示し、曲線bが材料aよりも中性子源から遠い材料bでの中性子束の中性子エネルギー分布を示し、曲線cが材料bよりも中性子源から遠い材料cでの中性子束の中性子エネルギー分布を示している。各曲線と横軸の間の面積が中性子束の値を示しており、中性子束の値が同じであっても、高エネルギーの中性子の割合が変われば、材料に及ぼす影響が異なることが理解できる。前記照射量―DPA,He生成量,H生成量変換データ11には、中性子源との相対位置の違いによる中性子エネルギー分布の差が例えば係数の形で、被測定材料(あるいは測定位置)ごとに格納してある。
【0029】
放射能計算プログラム8aは、A/D変換器6から出力されるγ線の測定データ、すなわちγ線の波高情報を図4に示すようなγ線のエネルギー情報に変換したのち、検出器効率データ7を参照して、放射化放射能、つまり、被測定材料に含まれる放射性核種の種類と量(Bq)を算出、出力するように構成されている。
【0030】
中性子照射量計算プログラム10aは、放射能計算部8から出力される放射性核種の種類と量(Bq)を入力とし、前記照射量―放射能変換データ9及び別途入力データ18として与えられる照射時間、被測定材料の成分値、位置・形状を参照して、前記入力された放射性核種が入力された量だけ生成されるには、単位中性子束の何倍の照射量が必要になるか、すなわち、被測定材料への中性子照射量を算定、出力するように構成されている。
【0031】
放射線損傷量計算プログラム12aは、中性子照射量を入力とし、前記照射量―DPA,He生成量,H生成量変換データ11を参照して、被測定材料の放射線損傷量、すなわち、DPA,He生成量,H生成量を算定、出力するように構成されている。
【0032】
入力手段は図示されていないが、先に述べたように、照射時間、被測定材料の各成分の量(割合)、位置・形状等の情報を計算処理部13に入力する手段であり、キーボード、フロッピー(登録商標)ディスクのデータを読み込む装置(FDドライブ)、あるいは、他の装置からのデータを受信するモデムなどである。
【0033】
表示部17は、前記放射能計算部8に接続された放射化量(放射性核種の種類と量)計算結果表示部14と、前記中性子照射量計算部10に接続された中性子照射量計算結果表示部15と、前記放射線損傷量計算部12に接続された放射線損傷量(DPA、He量、H量)計算結果表示部16と、表示画面と、を含んで構成されている。
【0034】
放射化量計算結果表示部14、中性子照射量計算結果表示部15及び放射線損傷量計算結果表示部16は、計算処理部13で計算された放射化量、中性子照射量、放射線損傷量をそれぞれ整理して図表あるいは数表として画面表示するための演算処理を行い、表示データを生成する。表示画面は、生成された前記表示データを入力として、放射化量、中性子照射量、放射線損傷量を図表あるいは数表として画面表示する。
【0035】
図2は本実施の形態に係る放射線損傷量計測装置を示す外観図である。検出器本体1と前置増幅器2がコリメータ20に内装され、前置増幅器2にケーブル21で線形増幅器4及び電源3を内装した中継ボックス22が接続されている。中継ボックス22に内装された線形増幅器4に信号ケーブル23でADCボードを備えたパーソナルコンピュータ24が接続されている。信号ケーブル23は線形増幅器4からADCボードに信号を伝送するケーブルであるが、ケーブル21は、前置増幅器2から線形増幅器4に信号を送る信号線と、電源3から前置増幅器2に電力を送る電力線の双方の機能を備えている。
【0036】
ADCボードを備えたパーソナルコンピュータ24は、計算処理部13と表示部17及び入力手段を兼ねている。本実施の形態では、計算処理部13及び放射化量計算結果表示部14、中性子照射量計算結果表示部15、放射線損傷量計算結果表示部16は、ソフトウェアとしてADCボードを備えたパーソナルコンピュータ24に組み込まれている。
【0037】
コリメータ20は、図3に示すように、放射線を遮る鉛のブロックで形成され、内部に、外部と直線状の細孔であるγ線入射路20aで連通する空洞部を設けてあって、コリメータ遮蔽体となっている。この空洞部に検出器本体1と前置増幅器2が収容され、検出器本体1のγ線入射面を前記γ線入射路20aに、γ線入射路20aの軸線に直交させて対面させてある。つまり、検出器本体1は前記γ線入射路20aに対面する側を除き、放射線遮蔽体である鉛で包囲されている。前記γ線入射路20aは、径約1mmの細孔をなしており、被測定材料が放射するγ線は、このγ線入射路20aを通過して検出器本体1のγ線入射面に入射する。このようなコリメータ20を用いることで、測定対象部以外の材料から放出されるγ線や妨害核種、バックグラウンドのγ線の影響を避けることができる。
【0038】
また、前置増幅器2から導出されるケーブル21は、検出器本体1を包囲して形成された放射線の遮蔽体である鉛のブロックの外面で水密にシールされ、γ線入射路20aの外側端には、γ線の通過を許容する薄いアルミ板20bがねじ留めされている。鉛のブロックとアルミ板20bの間は、Oリング20cで水密にシールされていて、γ線入射路20a内に水が浸入しないようになっている。例えば、原子炉内部の構造材料のγ線を検出する場合、原子炉内部に水(炉水)が満たされた状態で、被測定材料にコリメータ20を当てる。コリメータ20のγ線入射路20a内に水が浸入しないから、γ線の検出精度が低下するのが避けられる。
【0039】
なお、本実施の形態では、コリメータ20は鉛で形成したが、放射線を遮るものであれば、他の材料、例えばタングステンで形成してもよい。
【0040】
以下、上記構成の装置を用いて水中の被測定材料19の放射線損傷量を測定する動作について説明する。検出器本体1及び前置増幅器2を内装したコリメータ20が、水中に降ろされ、γ線入射路20aを被測定材料19に向けて被測定材料19に当接される。被測定材料19が放射するγ線がγ線入射路20aを経て検出器本体1に入射し、パルス信号を発生させる。発生したパルス信号は前置増幅器2で増幅され、ケーブル21を経て線形増幅器4に導かれる。
【0041】
線形増幅器4で増幅されて出力されたパルスはA/D変換器6で変換されて波高情報として出力され、これを放射能計算部8で、放射能計算プログラム8aにより、γ線のエネルギー情報に変換後、検出器効率データ7を元に放射化量すなわち、放射性核種の種類と量が求められる。
【0042】
次に入力データ18として与えられた被測定材料19の照射時間、成分量、位置・形状等の情報と照射量−放射能変換データ9を元に、中性子照射量計算プログラム10aにより前記放射能計算部8で得られた放射性核種の種類と量から中性子束が計算され、照射履歴から求めた時間を乗じることにより中性子照射量が計算される。
【0043】
次にこの中性子照射量を使い、照射量−DPA,He生成量,H生成量変換データ11を元に放射線損傷量計算プログラム12aにより放射線損傷量(つまり、DPA,He生成量,H生成量)が計算される。
【0044】
算出された前記放射化量(放射性核種の種類と量)は表示部17の放射化量計算結果表示部14に、中性子照射量は表示部17の中性子照射量計算結果表示部15に、放射線損傷量(DPA,He生成量,H生成量)は表示部17の放射線損傷量計算結果表示部16に、それぞれ伝送され、予め定められたフォーマットで画面表示するための表示データ生成の演算がなされる。演算結果が表示画面に表示される。
【0045】
本実施の形態によれば、供用状態にある被測定材料19の、中性子照射量や、DPA、ヘリウム生成量、水素生成量で示される放射線損傷量を、その場で非破壊的に測定し、表示できる。
【0046】
特に検出器本体1を、放射線を遮蔽する材料で形成されたコリメータ20に内装することにより、微小部の放射線損傷量が計測できると同時に計測点以外からのバックグラウンド放射線を遮蔽でき、測定の精度が向上する。またコリメータ20を水密構造とすることにより、水中に置かれた高放射性材料のγ線を精度よく測定できるため、例えば燃料プール内の高放射性の材料や、炉水が満たされた状態の原子炉容器内の構造物も特別に遮蔽セル室を設けることなく測定することができ、供用中の材料の放射線損傷量の評価が容易になる。もちろん、炉外に取り出された被照射材料も同様に非破壊的に測定することができる。
【0047】
なお、本実施の形態では、出力部としてパーソナルコンピュータのディスプレイ画面を用いたが、プリンターによる出力を行う構成としてもよい。
【0048】
また、図3では、コリメータ20は半球状としてあるが、検出器本体1に測定対象点以外からの放射線が遮蔽されれば、他の形状としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の放射線損傷量計測装置の要部構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の放射線損傷量計測装置の概要を示す外観図である。
【図3】図2に示すコリメータの詳細を示す断面図である。
【図4】γ線の波高分析結果を模式的に示す概念図である。
【図5】中性子照射時間と放射性核種生成量の関係を模式的に示す概念図である。
【図6】中性子エネルギー分布を模式的に示す概念図である。
【符号の説明】
【0050】
1 検出器本体
2 前置増幅器
3 電源
4 線形増幅器
5 検出器部
6 A/D変換器
7 検出器効率データ
8 放射能計算部
8a 放射能計算プログラム
9 照射量―放射能変換データ
10 中性子照射量計算部
10a 中性子照射量計算プログラム
11 照射量―DPA,He生成量,H生成量変換データ
12 放射線損傷量計算部
12a 放射線損傷量計算プログラム
13 計算処理部
14 放射化量計算結果表示部
15 中性子照射量計算結果表示部
16 放射線損傷量(DPA、He量、H量)計算結果表示部
17 表示部
18 入力データ(照射時間、成分量、位置・形状等)
19 被測定材料
20 コリメータ
20a γ線入射路
20b アルミ板
20c Oリング
21 ケーブル(電源+信号)
22 中継ボックス
23 信号ケーブル
24 ADCボードを備えたパーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉プラントに組込まれた状態または外された状態の被測定部材から放出されるγ線を測定する検出器と、前記検出器に接続された演算手段とを備え、前記演算手段は、前記検出器により測定された前記γ線の測定データに基づいて前記被測定材料の放射線損傷量を算出して出力する放射線損傷量計測装置。
【請求項2】
前記演算手段は、前記γ線の測定データを分析して前記被測定部材に含まれる放射性核種とその量を求め、該求めた放射性核種の量と前記被測定部材の化学組成と前記被測定部材の照射時間履歴とに基づいて照射された中性子量を算出し、算出した前記中性子量に基づいて前記放射線損傷量を算出することを特徴とする請求項1に記載の放射線損傷量計測装置。
【請求項3】
前記検出器は、前記γ線を検出する検出器本体と、該検出器本体を包囲して形成された放射線の遮蔽体と、該遮蔽体に前記検出器本体と外部とを連通して設けられた細孔と有してなることを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線損傷量計測装置。
【請求項4】
前記検出器は、前記細孔の開口部に水密構造の蓋を設けてなることを特徴とする請求項3に記載の放射線損傷量計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−118904(P2006−118904A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305140(P2004−305140)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】