説明

放射線撮影システム及びその画像処理方法

【課題】プレ撮影と本撮影との間での格子位置の変動によるアーチファクトの発生を防止する。
【解決手段】被検体を配置しない状態でプレ撮影を行った後、被検体を配置して本撮影を行う。X線画像検出器で取得された複数の縞画像に基づき、数式(A)及び(B)を用いて、プレ撮影時に第1の位相微分像ψα1(x,y)及びψβ1(x,y)を算出し、本撮影時に第2の位相微分像ψα2(x,y)及びψβ2(x,y)を算出する。そして、画素ごとに、ψα2(x,y)−ψα1(x,y)とψβ2(x,y)−ψβ1(x,y)とを算出し、両者から絶対値の小さい方を選択することにより、補正済位相微分像を生成する。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線等の放射線により被検体の撮影を行う放射線撮影システム及びその画像処理方法に関し、特に、縞走査法を用いた放射線撮影システム及びその画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線は、物質を構成する元素の原子番号と、物質の密度及び厚さとに依存して減衰するといった特性を有することから、被検体の内部を透視するためのプローブとして用いられている。X線を用いた撮影は、医療診断や非破壊検査等の分野において広く普及している。
【0003】
一般的なX線撮影システムでは、X線を放射するX線源とX線を検出するX線画像検出器との間に被検体を配置して、被検体の透過像を撮影する。この場合、X線源からX線画像検出器に向けて放射されたX線は、X線画像検出器までの経路上に存在する物質の特性(原子番号、密度、厚さ)の差異に応じた量の減衰(吸収)を受けた後、X線画像検出器の各画素に入射する。この結果、被検体のX線吸収像がX線画像検出器により検出され画像化される。X線画像検出器としては、X線増感紙とフイルムとの組み合わせや輝尽性蛍光体のほか、半導体回路を用いたフラットパネル検出器(FPD:Flat Panel Detector)が広く用いられている。
【0004】
ただし、X線吸収能は、原子番号が小さい元素からなる物質ほど低くなるため、生体軟部組織やソフトマテリアルなどでは、X線吸収像としての十分な画像の濃淡(コントラスト)が得られないといった問題がある。例えば、人体の関節を構成する軟骨部とその周辺の関節液は、いずれも殆どの成分が水であり、両者のX線の吸収量の差が少ないため、濃淡差が得られにくい。
【0005】
このような問題を背景に、近年、被検体によるX線の強度変化に代えて、被検体によるX線の位相変化(角度変化)に基づいた画像(以下、位相コントラスト画像と言う)を得るX線位相イメージングの研究が盛んに行われている。一般に、X線が物体に入射したとき、X線の強度よりも位相のほうが高い相互作用を示すため、位相差を利用したX線位相イメージングでは、X線吸収能が低い弱吸収物体であっても高コントラストの画像を得ることができる。このようなX線位相イメージングの一種として、2枚の透過型回折格子とX線画像検出器とからなるX線タルボ干渉計を用いたX線撮影システムが考案されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0006】
X線タルボ干渉計は、被検体の背後に第1の回折格子を配置し、第1の回折格子の格子ピッチとX線波長で決まる特定距離(タルボ干渉距離)だけ下流に第2の回折格子を配置し、その背後にX線画像検出器を配置することにより構成される。上記タルボ干渉距離とは、第1の回折格子を通過したX線が、タルボ干渉効果によって自己像(縞画像)を形成する距離であり、この自己像は、X線源と第1の回折格子との間に配置された被検体とX線との相互作用(位相変化)により変調を受ける。
【0007】
X線タルボ干渉計では、第1の回折格子の自己像と第2の回折格子との重ね合わせにより強度変調された縞画像の被検体による変化(位相ズレ)から被検体の位相コントラスト画像を取得する。これは縞走査法と称されている。縞走査法では、第1の回折格子に対して第2の回折格子を、第1の回折格子の面にほぼ平行で、かつ第1の回折格子の格子方向(条帯方向)にほぼ垂直な方向に、格子ピッチを等分割した走査ピッチで並進移動(走査)させながら各走査位置で撮影を行い、X線画像検出器で得られる各画素の画素データの上記走査位置に対する強度変化の位相のズレ量から位相微分像(被検体で屈折したX線の角度分布に対応)を取得する。この位相微分像を、上記の縞走査方向に沿って積分することにより被検体の位相コントラスト画像が得られる。なお、画素データは、上記走査に対して周期的に強度が変調されるため、上記走査に対する画素データのセットを、以下、「強度変調信号」と称する。なお、上記の縞走査法は、X線に代えてレーザ光を利用した撮影装置においても用いられている(例えば、非特許文献2参照)。
【0008】
上記のように、縞走査法では、位相コントラスト画像の生成には、第1の回折格子と第2の回折格子との相対位置関係が重要である。第1の回折格子または第2の回折格子に歪みや、作製誤差、配置誤差などが生じると、上記位相微分像に、歪みや誤差に応じたオフセットが付加され、位相コントラスト画像の画質が劣化してしまう。そこで、特許文献1では、被検体を配置せずにプレ撮影を行うことで得られる位相微分像をオフセットデータとして記憶しておき、被検体を配置した本撮影で得られた位相微分像から、該オフセットデータを減算することにより、被検体情報のみが反映された位相微分像を求めることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4445397号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】C. David, et al., Applied Physics Letters, Vol.81, No.17, 2002年10月,3287頁
【非特許文献2】Hector Canabal, et al., Applied Optics, Vol.37, No.26, 1998年9月,6227頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載された位相微分像のオフセット補正方法では、プレ撮影と本撮影とは、被検体の有無以外については同一の撮影であることが前提であるため、プレ撮影と本撮影との間で、第1及び第2の回折格子の相対走査の開始位置が変動した場合には、逆にアーチファクトが発生してしまうといった問題がある。
【0012】
このアーチファクトの発生原因は、強度変調信号の位相ズレ量の計算式に起因している。位相ズレ量は、特許文献1の第7頁に記載されているように、複素平面での偏角の抽出、すなわちtan−1の関数として表され、−π/2〜π/2の範囲の値を取る。このため、プレ撮影で得られる位相微分像に、第1及び第2の回折格子に起因するモアレ縞が生じた場合には、図14(a)に示すように、モアレ縞に直交する方向に関するプロファイルψ(x)は、値が±π/2を跨ぐ部分で不連続となり、ノコギリ状となる。このモアレ縞は、本撮影で得られる位相微分像にも現れ、同図(b)に示すように、モアレ縞に直交する方向に関するプロファイルψ(x)は、同様にノコギリ状となる。
【0013】
プレ撮影時と本撮影時とで、第1及び第2の回折格子の相対走査の開始位置に変動がない場合には、上記プロファイルψ(x)、ψ(x)は同一となるため、上記オフセット補正により互いに相殺される。一方、プレ撮影時と本撮影時とで該相対走査の開始位置に変動が生じ、上記プロファイルψ(x)、ψ(x)の間でずれδが生じた場合には、上記オフセット補正により得られる両者の差分画像には、同図(c)に示すように、値がほぼπだけずれた帯状のアーチファクトが残留する。
【0014】
このアーチファクトは、プレ撮影と本撮影との間での走査開始位置の変動に限られず、プレ撮影と本撮影との間で第1及び第2の回折格子の位置関係に何らかの変動があった場合にも生じ得る。
【0015】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、プレ撮影と本撮影との間での格子位置の変動によるアーチファクトの発生を防止することを可能とする放射線撮影システム及びその画像処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の放射線撮影システムは、放射線を放射する放射線源と、前記放射線を通過させて縞画像を生成する第1の格子と、前記縞画像の周期パターンに対して位相が異なるM個(ここで、Mは正の整数)の相対位置(k=0,1,・・・M−1)で前記縞画像に強度変調を与える強度変調手段と、前記強度変調手段により前記各相対位置(k=0,1,・・・M−1)で強度変調された縞画像を検出する放射線画像検出器と、前記放射線画像検出器で取得された複数の縞画像に基づき、数式(A)及び(B)を用いて、被検体を配置しない場合の第1の位相微分像ψα1(x,y)及びψβ1(x,y)と、被検体を配置した場合の第2の位相微分像ψα2(x,y)及びψβ2(x,y)とを算出し、ψα1(x,y)とψα2(x,y)との差分値と、ψβ1(x,y)とψβ2(x,y)との差分値とを用いて、補正済位相微分像を算出する位相微分像生成手段と、を備えることを特徴とする。
【数1】

【数2】

ここで、x,yは、前記放射線画像検出器を構成する各画素の位置を表し、I(x,y)は、前記各画素の画素データであり前記縞画像を構成し、α,βは、互いに異なる値である。
【0017】
なお、前記位相微分像生成手段は、画素ごとに、ψα2(x,y)−ψα1(x,y)とψβ2(x,y)−ψβ1(x,y)とを算出し、両者のうち絶対値の小さい方を選択することにより、上記補正済位相微分像を生成することが好ましい。
【0018】
また、ψα2(x,y)からψα1(x,y)を減算した差分画像と、ψβ2(x,y)からψβ1(x,y)を減算した差分画像とに基づき、一方の差分画像を選択し、急激な変化を示している部分のデータを、他方の差分画像のデータで置換したものを上記補正済位相微分像とすることが好ましい。
【0019】
また、α=β±1/4であることが好ましい。
【0020】
また、α,βは、0,1/M,2/M,・・・,(M−1)/Mのうちいずれかの値を取ることが好ましい。
【0021】
また、前記補正済位相微分像を前記第1の格子の周期方向に沿って積分処理することにより、位相コントラスト画像を生成する位相コントラスト画像生成手段を備えることが好ましい。
【0022】
また、前記第1の位相微分像ψα1(x,y)及びψβ1(x,y)を記憶する記憶手段を備えることが好ましい。
【0023】
また、前記強度変調手段は、前記縞画像と同一方向の周期パターンを有する第2の格子と、前記第1及び第2の格子のいずれか一方を所定のピッチで移動させる走査手段とからなることが好ましい。
【0024】
また、前記第1及び第2の格子は、吸収型格子であり、前記第1の格子は、前記放射線源からの放射線を縞画像として前記第2の格子に投影することが好ましい。
【0025】
また、前記第1の格子は位相型格子であり、前記第1の格子は、タルボ干渉効果により、前記放射線源からの放射線を縞画像として前記第2の格子に射影することが好ましい。
【0026】
また、前記放射線源の射出側に線源格子を備えることが好ましい。
【0027】
さらに、本発明の画像処理方法は、放射線を放射する放射線源と、前記放射線を通過させて縞画像を生成する第1の格子と、前記縞画像の周期パターンに対して位相が異なるM個(ここで、Mは正の整数)の相対位置(k=0,1,・・・M−1)で前記縞画像に強度変調を与える強度変調手段と、前記強度変調手段により前記各相対位置(k=0,1,・・・M−1)で強度変調された縞画像を検出する放射線画像検出器と、を備えた放射線撮影システムに用いられる画像処理方法であって、前記放射線画像検出器で取得された複数の縞画像に基づき、数式(A)及び(B)を用いて、被検体を配置しない場合の第1の位相微分像ψα1(x,y)及びψβ1(x,y)と、被検体を配置した場合の第2の位相微分像ψα2(x,y)及びψβ2(x,y)とを算出し、ψα1(x,y)とψα2(x,y)との差分値と、ψβ1(x,y)とψβ2(x,y)との差分値とを用いて、補正済位相微分像を算出することを特徴とする。
【数1】

【数2】

ここで、x,yは、前記放射線画像検出器を構成する各画素の位置を表し、I(x,y)は、前記各画素の画素データであり前記縞画像を構成し、α,βは、互いに異なる値である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、数式(A)及び(B)を用いて、被検体を配置しない場合の第1の位相微分像ψα1(x,y)及びψβ1(x,y)と、被検体を配置した場合の第2の位相微分像ψα2(x,y)及びψβ2(x,y)とを算出し、ψα1(x,y)とψα2(x,y)との差分値と、ψβ1(x,y)とψβ2(x,y)との差分値とを用いて、補正済位相微分像を算出するので、被検体を配置しないプレ撮影と被検体を配置した本撮影との間での格子位置の変動によるアーチファクトの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態に係るX線撮影システムの構成を示す模式図である。
【図2】フラットパネル検出器の構成を示す模式図である。
【図3】第1及び第2の吸収型格子の構成を示す概略側面図である。
【図4】縞走査法を説明するための説明図である。
【図5】(a)は、被検体を透過したX線が入射する画素の強度変調信号を例示するグラフであり、(b)は、素抜け領域の画素の強度変調信号を例示するグラフである。
【図6】X線撮影システムのプレ撮影時の作用を示すフローチャートである。
【図7】各走査位置で得られる画像データを例示する図である。
【図8】第1の位相微分像を例示する図である。
【図9】X線撮影システムの本撮影時の作用を示すフローチャートである。
【図10】減算処理部の作用を説明するための図である。
【図11】本発明の第2実施形態における減算処理部の処理を説明するための図である。
【図12】本発明の第2実施形態で用いるマルチスリットを示す図である。
【図13】本発明の第4実施形態で用いられるX線画像検出器の構成を示す模式図である。
【図14】従来技術において生じるアーチファクトを説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第1実施形態)
図1において、本発明の第1実施形態に係るX線撮影システム10は、被検体HにX線を照射するX線源11と、X線源11に対向配置され、X線源11から被検体Hを透過したX線を検出して画像データを生成する撮影部12と、撮影部12から読み出された画像データを記憶するメモリ13と、メモリ13に記憶される複数の画像データを画像処理して位相コントラスト画像を生成する画像処理部14と、画像処理部14により生成された位相コントラスト画像を記録する画像記録部15と、X線源11及び撮影部12の制御を行う撮影制御部16と、操作部やモニタからなるコンソール17と、コンソール17から入力される操作信号に基づいてX線撮影システム10の全体を統括的に制御するシステム制御部18とから構成されている。
【0031】
X線源11は、高電圧発生器、X線管、コリメータ(いずれも図示せず)等から構成されており、撮影制御部16の制御に基づいて、被検体HにX線を照射する。例えば、X線管は、回転陽極型であり、高電圧発生器からの電圧に応じて、フィラメントから電子線を放出し、所定の速度で回転する回転陽極に電子線を衝突させることによりX線を発生する。回転陽極は、電子線が固定位置に当り続けることによる劣化を軽減するために回転しており、電子線の衝突部分が、X線を放射するX線焦点となる。また、コリメータは、X線管から発せられたX線のうち、被検体Hの検査領域に寄与しない部分を遮蔽するように照射野を制限するものである。
【0032】
撮影部12には、半導体回路からなるフラットパネル検出器(FPD)20、被検体HによるX線の位相変化(角度変化)を検出し位相イメージングを行うための第1の吸収型格子21及び第2の吸収型格子22が設けられている。FPD20は、X線源11から照射されるX線の光軸Aに沿う方向(以下、z方向という)に検出面が直交するように配置されている。
【0033】
第1の吸収型格子21は、z方向に直交する面内の一方向(以下、y方向という)に延伸した複数のX線遮蔽部(X線高吸収部)21aが、z方向及びy方向に直交する方向(以下、x方向という)に所定のピッチpで配列されたものである。同様に、第2の吸収型格子22は、y方向に延伸した複数のX線遮蔽部(X線高吸収部)22aが、x方向に所定のピッチpで配列されたものである。X線遮蔽部21a,22aの材料としては、X線吸収性に優れる金属が好ましく、例えば、金(Au)や白金(Pt)が好ましい。
【0034】
また、撮影部12には、第2の吸収型格子22を格子方向に直交する方向(x方向)に並進移動させることにより、第1の吸収型格子21に対する第2の吸収型格子22との相対位置を変化させる走査機構23が設けられている。走査機構23は、例えば、圧電素子等のアクチュエータにより構成される。走査機構23は、後述する縞走査の際に、撮影制御部16の制御に基づいて駆動されるものである。詳しくは後述するが、メモリ13には、縞走査の各走査ステップで撮影部12により得られる画像データがそれぞれ記憶される。なお、第2の吸収型格子22と走査機構23とが特許請求の範囲に記載の強度変調手段を構成している。
【0035】
画像処理部14は、位相微分像生成部30、オフセットデータ記憶部31、減算処理部32、及び、位相コントラスト画像生成部33により構成される。位相微分像生成部30は、走査機構23による縞走査の各走査ステップで撮影部12により撮影され、メモリ13に記憶された複数の画像データに基づき、位相微分像を生成する。詳しくは後述するが、位相微分像生成部30は、位相ズレ量の計算において2種の初期位相α,βを用いることにより、2種の位相微分像ψα(x,y),ψβ(x,y)を算出する。
【0036】
オフセットデータ記憶部31は、被検体HをX線源11と撮影部12との間に配置しない状態における撮影(プレ撮影)時に位相微分像生成部30により生成される上記2種の位相微分像(以下、第1の位相微分像ψα1(x,y),ψβ1(x,y)と言う)をオフセットデータとして記憶する。オフセットデータ記憶部31は、フラッシュメモリ等の不揮発性記憶装置により構成される。
【0037】
一方、被検体HをX線源11と撮影部12との間に配置した状態における撮影(本撮影)時に位相微分像生成部30により生成される上記2種の位相微分像(以下、第2の位相微分像ψα2(x,y),ψβ2(x,y)と言う)は、減算処理部32に入力される。
【0038】
システム制御部18は、コンソール17から入力される撮影指示に基づき、プレ撮影の場合には、位相微分像生成部30により生成される第1の位相微分像ψα1(x,y),ψβ1(x,y)としてオフセットデータ記憶部31に記憶させ、本撮影の場合には、位相微分像生成部30により生成される第2の位相微分像ψα2(x,y),ψβ2(x,y)を減算処理部32に入力するように制御を行う。
【0039】
減算処理部32は、画素ごとに、ψα2(x,y)−ψα1(x,y)と、ψβ2(x,y)−ψβ1(x,y)とを算出し、両者のうち絶対値の小さい方を選択することにより、オフセット補正がなされた補正済位相微分像Ψ(x,y)を算出し、位相コントラスト画像生成部33に入力する。
【0040】
位相コントラスト画像生成部33は、入力された補正済位相微分像Ψ(x,y)を走査方向(x方向)に沿って積分することにより、位相コントラスト画像を生成する。位相コントラスト画像生成部33により生成された位相コントラスト画像は、画像記録部15に記録された後、コンソール17に出力されてモニタ(図示せず)に表示される。
【0041】
コンソール17は、モニタの他、操作者が撮影指示やその指示内容を入力する入力装置(図示せず)を備えている。この入力装置としては、例えば、スイッチ、タッチパネル、マウス、キーボード等が用いられる。入力装置の操作により、X線管の管電圧やX線照射時間等のX線撮影条件、撮影タイミング等が入力される。モニタは、液晶ディスプレイやCRTディスプレイからなり、X線撮影条件等の文字や、上記位相コントラスト画像を表示する。
【0042】
図2において、FPD20は、X線を電荷に変換して蓄積する複数の画素40が、x方向及びy方向に沿ってアクティブマトリクス基板上に2次元配列されてなる受像部41と、画素40からの電荷の読み出しタイミングを制御する走査回路42と、画素40から電荷を読み出し、電荷を画像データに変換して出力する読み出し回路43とから構成されている。なお、走査回路42と各画素40とは、行毎に走査線44によって接続されており、読み出し回路43と各画素40とは、列毎に信号線45によって接続されている。画素40の配列ピッチは、x方向及びy方向にそれぞれ100μm程度である。
【0043】
画素40は、アモルファスセレン等の変換層(図示せず)によりX線を電荷に直接変換し、変換された電荷を変換層の下部の電極に接続されたキャパシタ(図示せず)に蓄積する直接変換型のX線検出素子である。各画素40には、TFTスイッチ(図示せず)が設けられ、TFTスイッチのゲート電極が走査線44、ソース電極がキャパシタ、ドレイン電極が信号線45に接続される。走査回路42からの駆動パルスによってTFTスイッチがON状態になると、キャパシタに蓄積された電荷が信号線45に読み出される。
【0044】
なお、画素40は、酸化ガドリニウム(Gd)やヨウ化セシウム(CsI)等からなるシンチレータ(図示せず)でX線を一旦可視光に変換し、変換された可視光をフォトダイオード(図示せず)で電荷に変換して蓄積する間接変換型のX線検出素子としてもよい。また、本実施形態では、放射線画像検出器としてTFTパネルをベースとしたFPDを用いているが、これに限られず、CCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子をベースとした各種の放射線画像検出器を用いることも可能である。
【0045】
読み出し回路43は、積分アンプ、補正回路、A/D変換器(いずれも図示せず)等により構成されている。積分アンプは、各画素40から信号線45を介して出力された電荷を積分して電圧信号(画像信号)に変換する。A/D変換器は、積分アンプにより変換された画像信号を、デジタルの画像データに変換する。補正回路は、画像データに対して、暗電流補正、ゲイン補正、及びリニアリティ補正等を行い、補正後の画像データをメモリ13に入力する。
【0046】
図3において、第1の吸収型格子21のX線遮蔽部21aは、x方向に所定のピッチpで、互いに所定の間隔dを空けて配列されており、間隔dの部分には、X線低吸収部21bが設けられている。同様に、第2の吸収型格子22のX線遮蔽部22aは、x方向に所定のピッチpで、互いに所定の間隔dを空けて配列されており、間隔dの部分には、X線低吸収部22bが設けられている。第1及び第2の吸収型格子21,22は、入射X線に位相差を与えるものでなく、強度差を与えるものであるため、振幅型格子とも称される。X線低吸収部21b,22bは、シリコン(Si)やポリマーからなることが好ましく、さらには、空隙であっても良い。
【0047】
第1及び第2の吸収型格子21,22は、タルボ干渉効果の有無に係らず、X線低吸収部21b,22bを通過したX線を線形的に投影するように構成される。具体的には、間隔d,dを、X線源11から照射されるX線のピーク波長より十分大きな値とすることで、照射X線に含まれる大部分のX線をX線低吸収部21b,22bで回折させずに、直進性を保ったまま通過するように構成される。例えば、前述のX線管の回転陽極としてタングステンを用い、管電圧を50kVとした場合には、X線のピーク波長は、約0.4Åである。この場合には、間隔d,dを1〜10μm程度とすれば、X線低吸収部21b,22bで大部分のX線が回折されずに線形的に投影される。格子ピッチp,pは、2〜20μm程度である。
【0048】
X線源11から照射されるX線は、平行ビームではなく、X線焦点を発光点としたコーンビームであるため、第1の吸収型格子21を通過して射影される投影像(以下、この投影像をG1像または縞画像と称する)は、X線焦点11aからの距離に比例して拡大される。第2の吸収型格子22の格子ピッチp及び間隔dは、X線低吸収部22bのパターンが、第2の吸収型格子22の位置におけるG1像の明部の周期パターンとほぼ一致するように決定されている。すなわち、X線焦点11aから第1の吸収型格子21までの距離をL、第1の吸収型格子21から第2の吸収型格子22までの距離をLとした場合に、格子ピッチp及び間隔dは、次式(1)及び(2)の関係を満たすように決定される。
【0049】
【数3】

【0050】
【数4】

【0051】
第1の吸収型格子21から第2の吸収型格子22までの距離Lは、タルボ干渉計の場合には、第1の回折格子の格子ピッチとX線波長とで決まるタルボ干渉距離に制約されるが、本実施形態の撮影部12では、第1の吸収型格子21が入射X線を回折させずに投影させる構成であって、第1の吸収型格子21のG1像が、第1の吸収型格子21の後方のすべての位置で相似的に得られるため、該距離Lを、タルボ干渉距離と無関係に設定することができる。
【0052】
上記のように本実施形態の撮影部12は、タルボ干渉計を構成するものではないが、第1の吸収型格子21でX線の回折が生じ、タルボ干渉効果が生じていると仮定した場合のタルボ干渉距離Zは、第1の吸収型格子21の格子ピッチp、X線波長(ピーク波長)λ、及び正の整数mを用いて、次式(3)で表される。
【0053】
【数5】

【0054】
式(3)は、X線源11から照射されるX線がコーンビームである場合のタルボ干渉距離を表す式であり、「Atsushi Momose, et al., Japanese Journal of Applied Physics, Vol.47, No.10, 2008年10月, 8077頁」により知られている。
【0055】
本実施形態では、前述のように距離Lをタルボ干渉距離と無関係に設定することができるため、撮影部12のz方向への薄型化を目的とし、距離Lを、m=1の場合の最小のタルボ干渉距離Zより短い値に設定する。すなわち、距離Lは、次式(4)を満たす範囲の値に設定される。
【0056】
【数6】

【0057】
X線遮蔽部21a,22aは、コントラストの高い周期パターン像を生成するためには、X線を完全に遮蔽(吸収)することが好ましいが、上記したX線吸収性に優れる材料(金、白金等)を用いたとしても、吸収されずに透過するX線が少なからず存在する。このため、X線の遮蔽性を高めるためには、X線遮蔽部21a,22aのそれぞれの厚み(z方向の厚さ)をできるだけ厚くすること(すなわち、アスペクト比を高めること)が好ましい。例えば、X線管の管電圧が50kVの場合に、照射X線の90%以上を遮蔽することが好ましく、X線遮蔽部21a,22aの厚みは、10μm〜200μmの範囲であることが好ましい。
【0058】
以上のように構成された第1及び第2の吸収型格子21,22では、第1の吸収型格子21のG1像(縞画像)と第2の吸収型格子22との重ね合わせにより強度変調された縞画像がFPD20によって撮像される。第2の吸収型格子22の位置におけるG1像のパターン周期と、第2の吸収型格子22の格子ピッチpとは、配置誤差などにより若干の差異が生じている。この微小な差異により、強度変調された縞画像にはモアレ縞が生じる。また、第1及び第2の吸収型格子21,22の格子配列方向に誤差が生じ、配列方向が同一でない場合には、いわゆる回転モアレが発生する。しかし、縞画像にこのようなモアレ縞が発生した場合でも、モアレ縞のx方向またはy方向の周期が画素40の配列ピッチより大きい範囲であれば特に問題が生じることはない。
【0059】
X線源11と第1の吸収型格子21との間に被検体Hを配置すると、FPD20により検出される縞画像は、被検体Hにより変調を受ける。この変調量は、被検体Hによる屈折効果によって偏向したX線の角度に比例する。したがって、FPD20で検出された縞画像を解析することによって、被検体Hの位相コントラスト画像を生成することができる。
【0060】
次に、縞画像の解析方法について原理的な説明を行う。同図には、被検体Hのx方向に関する位相シフト分布Φ(x)に応じて屈折する1つのX線が例示されている。符号50は、被検体Hが存在しない場合に直進するX線の経路を示しており、この経路50を進むX線は、第1及び第2の吸収型格子21,22を通過してFPD20に入射する。符号51は、被検体Hが存在する場合に、被検体Hにより屈折して偏向したX線の経路を示している。この経路51を進むX線は、第1の吸収型格子21を通過した後、第2の吸収型格子22のX線遮蔽部22aにより遮蔽される。
【0061】
被検体Hの位相シフト分布Φ(x)は、被検体Hの屈折率分布をn(x,z)、zをX線の進む方向として、次式(5)で表される。ここで、説明の簡略化のため、y座標は省略している。
【0062】
【数7】

【0063】
第1の吸収型格子21から第2の吸収型格子22の位置に投射されたG1像は、被検体HでのX線の屈折により、その屈折角φに応じた量だけx方向に変位する。この変位量Δxは、X線の屈折角φが微小であることに基づいて、近似的に次式(6)で表される。
【0064】
【数8】

【0065】
ここで、屈折角φは、X線波長λと被検体Hの位相シフト分布Φ(x)を用いて、次式(7)で表される。
【0066】
【数9】

【0067】
このように、被検体HでのX線の屈折によるG1像の変位量Δxは、被検体Hの位相シフト分布Φ(x)に関連している。そして、この変位量Δxは、FPD20で検出される各画素40の強度変調信号の位相ズレ量ψに、次式(8)のように関連している。
【0068】
【数10】

【0069】
したがって、各画素40の強度変調信号の位相ズレ量ψを求めることにより、式(8)から屈折角φが求まり、式(7)を用いて位相シフト分布Φ(x)の微分量が求まるから、これをxについて積分することにより、被検体Hの位相シフト分布Φ(x)、すなわち被検体Hの位相コントラスト画像を生成することができる。
【0070】
被検体Hがない場合でも、第1及び第2の吸収型格子21,22の歪みや、作製誤差、配置誤差などによりX線に屈折が生じるため、本実施形態では、被検体Hがない場合の位相微分像(第1の位相微分像)と、被検体Hがある場合の位相微分像(第2の位相微分像)とを位相微分像生成部30によりそれぞれ生成する。位相微分像生成部30は、下記に示す縞走査法を用いて位相ズレ量ψを算出することにより、第1及び第2の位相微分像を生成する。
【0071】
縞走査法では、第1及び第2の吸収型格子21,22の一方を他方に対して相対的にx方向に並進移動させながら撮影を行う(すなわち、両者の格子周期の位相を変化させながら撮影を行う)。本実施形態では、前述の走査機構23により第2の吸収型格子22を移動させる。第2の吸収型格子22の移動に伴って、モアレ縞が移動し、並進距離(x方向への移動量)が、第2の吸収型格子22の格子周期の1周期(格子ピッチp)に達すると(すなわち、位相変化が2πに達すると)、モアレ縞は元の位置に戻る。このように、格子ピッチpの整数分の1ずつ第2の吸収型格子22を移動させながら、FPD20で縞画像を撮影する。撮影した複数の縞画像から各画素の強度変調信号を取得し、位相微分像生成部30により、強度変調信号の位相ズレ量ψを画素ごとに算出する。この位相ズレ量ψの2次元分布が位相微分像に相当する。
【0072】
図4は、格子ピッチpをM(2以上の整数)個に分割した走査ピッチ(p/M)ずつ第2の吸収型格子22を移動させる様子を模式的に示している。走査機構23は、k=0,1,2,・・・,M−1のM個の各走査位置に、第2の吸収型格子22を順に並進移動させる。なお、同図では、第2の吸収型格子22の初期位置を、被検体Hが存在しない場合における第2の吸収型格子22の位置でのG1像の暗部が、X線遮蔽部22aにほぼ一致する位置(k=0)としているが、この初期位置は、k=0,1,2,・・・,M−1のうちいずれの位置としてもよい。
【0073】
まず、k=0の位置では、主として、被検体Hにより屈折しなかったX線が第2の吸収型格子22を通過する。次に、k=1,2,・・・と順に第2の吸収型格子22を移動させていくと、第2の吸収型格子22を通過するX線は、被検体Hにより屈折しなかったX線の成分が減少する一方で、被検体Hにより屈折したX線の成分が増加する。特に、k=M/2の位置では、主として、被検体Hにより屈折したX線のみが第2の吸収型格子22を通過する。k=M/2の位置を超えると、逆に、第2の吸収型格子22を通過するX線は、被検体Hにより屈折したX線の成分が減少する一方で、被検体Hにより屈折しなかったX線の成分が増加する。
【0074】
k=0,1,2,・・・,M−1の各位置で、FPD20により撮影を行うと、各画素40について、M個の画素データが得られる。以下に、このM個の画素データ(強度変調信号)に基づき、位相ズレ量ψを算出する方法を説明する。第2の吸収型格子22の位置kにおける各画素40の画素データI(x)は、次式(9)で表される。
【0075】
【数11】

【0076】
ここで、xは、画素のx方向に関する座標であり、Aは入射X線の強度であり、Aは強度変調信号のコントラストに対応する値である(ここで、nは正の整数である)。また、φ(x)は、上記屈折角φを画素40の座標xの関数として表したものである。
【0077】
次式(10)の関係式を用いると、上記屈折角φ(x)は、式(11)で表される。
【0078】
【数12】

【0079】
【数13】

【0080】
ここで、arg[ ]は、偏角の抽出を意味しており、次式(12)で示すように、座標xにおける位相ズレ量ψ(x)に相当する。
【0081】
【数14】

【0082】
また、式(12)は、次式(13)に示すようにtan−1の関数として表される。
【0083】
【数15】

【0084】
図5(a),(b)において、各画素40で得られる画素データI(x)は、第2の吸収型格子22の位置kに対して、格子ピッチpの周期で周期的に変化する。同図中の破線は、プレ撮影時に得られる強度変調信号及びその位相ズレ量ψ(x)を例示している。実線は、本撮影時に得られる強度変調信号及びその位相ズレ量ψ(x)を例示している。プレ撮影時の位相ズレ量ψ(x)は、第1及び第2の吸収型格子21,22の歪みや、作製誤差、配置誤差などにより生じるものである。
【0085】
同図(a)は、被検体Hを透過したX線が入射する画素40の強度変調信号を例示しており、被検体Hの影響により強度変調信号に位相ズレ(ψ(x)−ψ(x))が生じている。これに対して、同図(b)は、被検体Hが配置された領域外の素抜け領域に位置する画素40の強度変調信号を例示している。この場合、強度変調信号は、被検体Hの影響を受けないため、ψ(x)とψ(x)は等しくなるべきであるが、プレ撮影時と本撮影時とでの第1及び第2の吸収型格子21,22の位置関係に変動がある場合にはズレが生じる。
【0086】
例えば、走査機構23として、圧電素子等のアクチュエータを用いた場合には、走査ピッチ(p/M)は比較的精度良く制御することが可能であるが、第2の吸収型格子22を、k=0からk=M−1まで走査を行った後、k=0の初期位置に戻した際に、精度良く元の位置に戻らず、無視することのできない程度(数μm程度)の誤差が生じることがある。この誤差が、プレ撮影時と本撮影時とでの第1及び第2の吸収型格子21,22の位置関係の変動量に相当する。
【0087】
以上の説明では、画素40のy方向に関する座標を考慮していないが、y座標について同様の演算を行うことにより、位相ズレ量ψ(x)の2次元像ψ(x,y)及び位相ズレ量ψ(x)の2次元像ψ(x,y)が得られる。ψ(x,y)が前述の第1の位相微分像に対応し、ψ(x,y)が前述の第2の位相微分像に対応する。
【0088】
位相微分像生成部30は、上記式(12)を2次元化し、初期位相αを付加した次式(14)に基づいて、第1の位相微分像ψα1(x,y)及び第2の位相微分像ψα2(x,y)を算出するとともに、初期位相βを付加した次式(15)に基づいて、第1の位相微分像ψβ1(x,y)及び第2の位相微分像ψβ2(x,y)を算出する。
【0089】
【数16】

【数17】

【0090】
ここで、初期位相α,βは、互いに異なる値であり、両者の差が1/2の整数数とならない限り、如何なる値を選択しても良い。初期位相α,βとしては、α=β±1/4を満たすことが好ましく、本実施形態では、例えば、α=0、β=1/4とする。さらに、初期位相α,βを、0,1/M,2/M,・・・,(M−1)/Mから選択することも好ましい。
【0091】
減算処理部32は、画素ごとに、ψα2(x,y)−ψα1(x,y)と、ψβ2(x,y)−ψβ1(x,y)とを算出し、両者のうち絶対値の小さい方を選択することにより補正済位相微分像Ψ(x,y)を算出する。例えば、|ψα2(x,y)−ψα1(x,y)|>|ψβ2(x,y)−ψβ1(x,y)|の場合には、ψβ2(x,y)−ψβ1(x,y)の計算値を選択する。
【0092】
モアレ縞が生じ、式(14),(15)中のarg[ ]内の値が徐々に変化する場合には、算出される位相ズレ量ψαj(x,y)、ψβj(x,y)が±π/2を跨ぐ部分で、不連続となり、図14(a),(b)で示したようなプロファイルを示す。そして、プレ撮影と本撮影との間での第1及び第2の吸収型格子21,22の位置変動が生じた場合には、ψα2(x,y)からψα1(x,y)を減算した差分画像、及びψβ2(x,y)からψβ1(x,y)を減算した差分画像に、図14(c)で示したようなアーチファクトが生じる。
【0093】
しかし、ψα2(x,y)からψα1(x,y)を減算した差分画像と、差分画像ψβ2(x,y)からψβ1(x,y)を減算した差分画像とでは、アーチファクトの発生位置は、初期位相α,βの差異に応じた分だけx方向に異なり、互いに一致しない。このため、減算処理部32により得られる補正済位相微分像Ψ(x,y)は、アーチファクトが除去されたものとなる。
【0094】
上記アーチファクトは、x方向に、プレ撮影と本撮影との間での第1及び第2の吸収型格子21,22の位置変動に応じた幅を有するため、初期位相α,βの差異が小さい場合には、両差分画像のアーチファクトに重なりが生じ、補正済位相微分像Ψ(x,y)にアーチファクトが残存する可能性がある。これを考慮して、本実施形態では、初期位相α,βの差異を1/4(α=β±1/4)としている。このため、本実施形態では、位相微分像のモアレ縞の位置がx方向に半周期分ずれ、これに応じて、両差分画像でのアーチファクトの発生位置が半周期周期分ずれるため、補正済位相微分像Ψ(x,y)におけるアーチファクトの発生リスクが最も低い。
【0095】
なお、本実施形態では、位相微分像を、位相ズレψの2次元分布としているが、位相シフト分布Φ(x,y)の微分値と比例関係を有するものであれば、屈折角φ等、いかなる物理量の2次元分布を位相微分像としてもよい。
【0096】
次に、以上のように構成されたX線撮影システム10の作用を説明する。図6のフローチャートに示すように、コンソール17からプレ撮影の開始指示がなされると(ステップS10;YES)、X線撮影システム10の各部が連携動作し、第2の吸収型格子22を移動させながら、各走査位置でX線源11によるX線の曝射及びFPD20による検出動作が行われ、複数の画像データが生成される(ステップS11)。例えば、走査ステップ数M=5の場合には、k=0,1,・・・,4の各走査位置で曝射・検出動作が行われ、図7に示すように、各走査位置kごとに画像データが得られる。各画像データには、前述のモアレ縞が生じている。このモアレ縞の位置は、走査位置kの変化に応じてx方向に移動し、走査位置kが格子ピッチpに相当する1周期分変化すると元の位置に戻る。
【0097】
これらの画像データは、メモリ13に記憶され、位相微分像生成部30により上記式(14)、(15)を用いて、第1の位相微分像ψα1(x,y),ψβ1(x,y)が生成され(ステップS12)、オフセットデータ記憶部31にオフセットデータとして記憶される(ステップS13)。図8に示すように、第1の位相微分像ψα1(x,y),ψβ1(x,y)には、上記画像データのモアレ縞の1/2倍の周期を有するモアレ縞が生じる。上記のように、初期位相α,βの差異を1/4としているため、第1の位相微分像ψα1(x,y),ψβ1(x,y)でのx方向に関するモアレ縞の位置はほぼ半周期分ずれている。なお、同図のモアレ縞は、色が黒い部分ほど値がπ/2に近く、色が白い部分ほど値が−π/2に近い。
【0098】
プレ撮影は、以上で動作が終了し、第2の吸収型格子22は、走査開始位置に戻される(ステップS14)。そして、プレ撮影が終了した旨が、モニタへのメッセージ表示等により操作者に向けて報知される(ステップS15)。
【0099】
このプレ撮影は、本撮影の前に毎回行う必要はなく、X線撮影システム10の立ち上げ時等に適宜行われる。一度プレ撮影を行った後、再度プレ撮影が行われた場合には、オフセットデータ記憶部31に記憶された既存のオフセットデータは、新たに得られたオフセットデータに上書きされる。
【0100】
次に、被検体HをX線源11と第1の吸収型格子21との間に配置した状態で本撮影が行われる。図9のフローチャートに示すように、コンソール17から本撮影の開始指示がなされると(ステップS20;YES)、プレ撮影と同様に、第2の吸収型格子22を移動させながら、各走査位置でX線源11によるX線の曝射及びFPD20による検出動作が行われ、複数の画像データが生成される(ステップS21)。
【0101】
これらの画像データは、メモリ13に記憶され、位相微分像生成部30により上記式(14)、(15)を用いて、第2の位相微分像ψα2(x,y),ψβ2(x,y)が生成され(ステップS22)、減算処理部32に入力される。この第2の位相微分像ψα2(x,y),ψβ2(x,y)にも、第1の位相微分像ψα1(x,y),ψβ1(x,y)と同様にモアレ縞が生じ、x方向に関するモアレ縞の位置はほぼ半周期分ずれている。
【0102】
位相微分像生成部30から第2の位相微分像ψα2(x,y),ψβ2(x,y)が減算処理部32に入力されるとともに、オフセットデータ記憶部31から第1の位相微分像ψα1(x,y),ψβ1(x,y)が読み出され、減算処理部32に入力される。そして、減算処理部32により、補正済位相微分像Ψ(x,y)が生成される(ステップS23)。図10(a),(b)に例示するように、ψα2(x,y)からψα1(x,y)を減算した差分画像と、ψβ2(x,y)からψβ1(x,y)を減算した差分画像とでは、アーチファクトの発生位置にずれが生じるため、減算処理部32の上記減算処理により、アーチファクトが除去された補正済位相微分像Ψ(x,y)が生成される。
【0103】
減算処理部32により生成された補正済位相微分像Ψ(x,y)は、位相コントラスト画像生成部33に入力され、x方向への積分処理がなされることにより、位相コントラスト画像が生成される(ステップS24)。この位相コントラスト画像は、画像記録部15に記録された後、コンソール17に出力され、モニタに表示される(ステップS25)。以上で、本撮影動作は終了する。なお、位相コントラスト画像に代えて、画像記録部15に補正済位相微分像Ψ(x,y)を記録することや、モニタに補正済位相微分像Ψ(x,y)を表示することも可能である。
【0104】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態として、減算処理部32の減算処理の変形例を示す。本実施形態では、図11に示すように、ψα2(x,y)からψα1(x,y)を減算した差分画像と、ψβ2(x,y)からψβ1(x,y)を減算した差分画像とのうち、一方の差分画像を選択して、急激な変化を示している部分(アーチファクト)を特定し、この部分のデータを、他方の差分画像の対応する部分のデータで置換する。そして、アーチファクトが他方の差分画像のデータで置換された差分画像を、補正済位相微分像Ψ(x,y)とする。本実施形態のその他の構成及び作用については、上記第1実施形態と同一であるため、説明を省略する。
【0105】
(第3実施形態)
上記第1実施形態では、X線源11からFPD20までの距離を長くした場合に、X線焦点11aの焦点サイズ(一般的に0.1mm〜1mm程度)によるG1像のボケが影響し、位相コントラスト画像の画質の低下をもたらす恐れがある。そこで、本発明の第3実施形態として、図12に示すように、X線源11の射出側にマルチスリット(線源格子)60を配置する。第3実施形態のX線撮影システムは、マルチスリット60を備えること以外は、上記第1実施形態と同一構成である。
【0106】
マルチスリット60は、第1及び第2の吸収型格子21,22と同様な構成の吸収型格子であり、y方向に延伸した複数のX線遮蔽部61が、x方向に周期的に配列されたものである。このマルチスリット60は、X線源11からのX線を部分的に遮蔽してx方向に関する実効的な焦点サイズを縮小するとともに、x方向に多数の点光源(分散光源)を形成することにより、G1像のボケを抑制する。なお、x方向に隣接するX線遮蔽部61の間には、同様に、X線低吸収部(図示せず)が設けられている。
【0107】
本実施形態では、プレ撮影と本撮影との間でマルチスリット60を含む格子位置に何らかの変動があった場合においても、その変動によるアーチファクトの発生が防止される。
【0108】
(第4実施形態)
上記第1〜第3実施形態では、第1及び第2の吸収型格子21,22を、X線低吸収部21b,22bを通過したX線を線形的に投影するように構成しているが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、第1の吸収型格子21でX線を回折することにより、いわゆるタルボ干渉効果が生じる構成(特許第4445397号公報等に記載の構成)とすることも可能である。本発明の第4実施形態として、第1の吸収型格子21を回折格子とし、第1及び第2の吸収型格子21,22の間の距離Lをタルボ干渉距離に設定して、タルボ干渉計を構成する。本実施形態では、タルボ干渉効果により生じる第1の格子21の縞画像(自己像)が、第2の吸収型格子22に射影される。
【0109】
また、本実施形態では、第1の吸収型格子21を、位相型格子(位相型回折格子)としても良い。この場合には、X線高吸収部21aとX線低吸収部21bとの間で、X線に“π”または“π/2”の位相差が生じるように、厚みや材料を設定すれば良い。
【0110】
なお、上記第1〜第4実施形態では、被検体HをX線源11と第1の吸収型格子21との間に配置しているが、被検体Hを第1の吸収型格子21と第2の吸収型格子22との間に配置しても良い。この場合にも同様に位相コントラスト画像の生成が可能である。
【0111】
(第5実施形態)
また、上記第1〜第4実施形態では、第2の吸収型格子22がFPD20とは独立して設けられているが、特開平2009−133823号公報に開示された構成のX線画像検出器を用いることにより、第2の吸収型格子22を排することができる。本発明の第5実施形態として、第2の吸収型格子22を排して、下記の構成のX線画像検出器を用いる。
【0112】
本実施形態のX線画像検出器は、X線を電荷に変換する変換層と、変換層において変換された電荷を収集する電荷収集電極とを備えた直接変換型のX線画像検出器において、各画素の電荷収集電極が、一定の周期で配列された線状電極を互いに電気的に接続してなる複数の線状電極群を、互いに位相が異なるように配置することにより構成されている。本実施形態では、電荷収集電極が特許請求の範囲に記載の強度変調手段を構成している。
【0113】
図13において、本実施形態のFPD70には、画素71がx方向及びy方向に沿って一定のピッチで2次元配列されており、各画素71には、X線を電荷に変換する変換層によって変換された電荷を収集するための電荷収集電極72が形成されている。電荷収集電極72は、第1〜第6の線状電極群72a〜72fから構成されており、各線状電極群の線状電極の配列周期の位相がπ/3ずつずれている。具体的には、第1の線状電極群72aの位相を0とすると、第2の線状電極群72bの位相はπ/3、第3の線状電極群72cの位相は2π/3、第4の線状電極群72dの位相はπ、第5の線状電極群72eの位相は4π/3、第6の線状電極群72fの位相は5π/3である。
【0114】
さらに、各画素71には、電荷収集電極72により収集された電荷を読み出すためのスイッチ群73が設けられている。スイッチ群73は、第1〜第6の線状電極群72a〜72fのそれぞれに設けられたTFTスイッチからなる。第1〜第6の線状電極群72a〜72fにより収集された電荷を、スイッチ群73を制御してそれぞれ個別に読み出すことによって、一度の撮影により、互いに位相の異なる6種類の縞画像が取得される。この6種類の縞画像に基づいて位相コントラスト画像が生成される。その他の構成については、上記第1実施形態と同一であるので、説明は省略する。
【0115】
本実施形態では、撮影部12から第2の吸収型格子22が不要となるため、コスト削減とともに、さらなる薄型化が可能となる。また、本実施形態では、一度の撮影により、異なる位相で強度変調が行われた複数の縞画像を取得することが可能であるため、縞走査のための物理的な走査が不要となり、上記走査機構23を排することができる。なお、上記構成の電荷収集電極72に代えて、特開平2009−133823号公報に記載のその他の構成の電荷収集電極を用いることも可能である。
【0116】
さらに、第2の吸収型格子22を排することを可能とする別の実施形態として、X線画像検出器により得られた縞画像(G1像)を、信号処理によって位相を変えながら周期的にサンプリングすることで、該縞画像に強度変調を与えるといった構成を用いても良い。
【0117】
以上説明した各実施形態は、医療診断用の放射線撮影システムに限定されず、工業用等のその他の放射線撮影システムに適用することが可能である。また、放射線として、X線以外に、ガンマ線等を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0118】
10 X線撮影システム
20 フラットパネル検出器(FPD)
21 第1の吸収型格子(第1の格子)
21a X線遮蔽部(X線高吸収部)
21b X線低吸収部
22 第2の吸収型格子(第2の格子)
22a X線遮蔽部(X線高吸収部)
22b X線低吸収部
70 FPD
71 画素
72 電荷収集電極
72a〜72f 第1〜第6の線状電極群
73 スイッチ群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を放射する放射線源と、
前記放射線を通過させて縞画像を生成する第1の格子と、
前記縞画像の周期パターンに対して位相が異なるM個(ここで、Mは正の整数)の相対位置(k=0,1,・・・M−1)で前記縞画像に強度変調を与える強度変調手段と、
前記強度変調手段により前記各相対位置(k=0,1,・・・M−1)で強度変調された縞画像を検出する放射線画像検出器と、
前記放射線画像検出器で取得された複数の縞画像に基づき、数式(A)及び(B)を用いて、被検体を配置しない場合の第1の位相微分像ψα1(x,y)及びψβ1(x,y)と、被検体を配置した場合の第2の位相微分像ψα2(x,y)及びψβ2(x,y)とを算出し、ψα1(x,y)とψα2(x,y)との差分値と、ψβ1(x,y)とψβ2(x,y)との差分値とを用いて、補正済位相微分像を算出する位相微分像生成手段と、
を備えることを特徴とする放射線撮影システム。
【数1】

【数2】

ここで、x,yは、前記放射線画像検出器を構成する各画素の位置を表し、I(x,y)は、前記各画素の画素データであり前記縞画像を構成し、α,βは、互いに異なる値である。
【請求項2】
前記位相微分像生成手段は、画素ごとに、ψα2(x,y)−ψα1(x,y)とψβ2(x,y)−ψβ1(x,y)とを算出し、両者のうち絶対値の小さい方を選択することにより、上記補正済位相微分像を生成することを特徴とする請求項1に記載の放射線撮影システム。
【請求項3】
ψα2(x,y)からψα1(x,y)を減算した差分画像と、ψβ2(x,y)からψβ1(x,y)を減算した差分画像とに基づき、一方の差分画像を選択し、急激な変化を示している部分のデータを、他方の差分画像のデータで置換したものを上記補正済位相微分像とすることを特徴とする請求項1に記載の放射線撮影システム。
【請求項4】
α=β±1/4であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項に記載の放射線撮影システム。
【請求項5】
α,βは、0,1/M,2/M,・・・,(M−1)/Mのうちいずれかの値を取ることを特徴とする請求項1から3いずれか1項に記載の放射線撮影システム。
【請求項6】
前記補正済位相微分像を前記第1の格子の周期方向に沿って積分処理することにより、位相コントラスト画像を生成する位相コントラスト画像生成手段を備えることを特徴とする請求項1から5いずれか1項に記載の放射線撮影システム。
【請求項7】
前記第1の位相微分像ψα1(x,y)及びψβ1(x,y)を記憶する記憶手段を備えることを特徴とする請求項1から6いずれか1項に記載の放射線撮影システム。
【請求項8】
前記強度変調手段は、前記縞画像と同一方向の周期パターンを有する第2の格子と、前記第1及び第2の格子のいずれか一方を所定のピッチで移動させる走査手段とからなることを特徴とする請求項1から7いずれか1項に記載の放射線撮影システム。
【請求項9】
前記第1及び第2の格子は、吸収型格子であり、前記第1の格子は、前記放射線源からの放射線を縞画像として前記第2の格子に投影することを特徴とする請求項8に記載の放射線撮影システム。
【請求項10】
前記第1の格子は位相型格子であり、前記第1の格子は、タルボ干渉効果により、前記放射線源からの放射線を縞画像として前記第2の格子に射影することを特徴とする請求項8に記載の放射線撮影システム。
【請求項11】
前記放射線源の射出側に線源格子を備えることを特徴とする請求項1から10いずれか1項に記載の放射線撮影システム。
【請求項12】
放射線を放射する放射線源と、
前記放射線を通過させて縞画像を生成する第1の格子と、
前記縞画像の周期パターンに対して位相が異なるM個(ここで、Mは正の整数)の相対位置(k=0,1,・・・M−1)で前記縞画像に強度変調を与える強度変調手段と、
前記強度変調手段により前記各相対位置(k=0,1,・・・M−1)で強度変調された縞画像を検出する放射線画像検出器と、
を備えた放射線撮影システムに用いられる画像処理方法であって、
前記放射線画像検出器で取得された複数の縞画像に基づき、数式(A)及び(B)を用いて、被検体を配置しない場合の第1の位相微分像ψα1(x,y)及びψβ1(x,y)と、被検体を配置した場合の第2の位相微分像ψα2(x,y)及びψβ2(x,y)とを算出し、ψα1(x,y)とψα2(x,y)との差分値と、ψβ1(x,y)とψβ2(x,y)との差分値とを用いて、補正済位相微分像を算出することを特徴とする画像処理方法。
【数1】

【数2】

ここで、x,yは、前記放射線画像検出器を構成する各画素の位置を表し、I(x,y)は、前記各画素の画素データであり前記縞画像を構成し、α,βは、互いに異なる値である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−40238(P2012−40238A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185192(P2010−185192)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】