説明

放射線検出装置及び放射線分析装置

【課題】 放射線検出器に到達する検出用放射線の量を従来の構成のものよりも増やすことができうる放射線検出装置及びそれを用いた放射線分析装置を提供する
【解決手段】 放射線を検出する放射線検出器1と、検出する放射線が入射する放射線導波系に放射線を透過させる透過機能を有する光学部材11、12と、放射線が入射してくる側に放射線導波系上最も近接した部位に、放射線が入射してくる側から入射される放射線を集光する集光機能を備えているキャピラリ7を設けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を放射線検出器で検出する放射線検出装置、並びにこれを実装した放射線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高感度な放射線検出として、TES(超伝導遷移端温度検出器、Transition Edge Sensor)やSTJ(超伝導トンネル接合素子:Superconducting Tunnel Junction)などのX線検出器・放射線検出器を用いたX線検出装置・放射線検出装置やそれを用いて、電子線やX線を試料に照射した際に発生する蛍光X線や特性X線などの放射線を検出して分析するX線分析装置・放射線分析装置などが期待されている。TESやSTJなどの検出器はエネルギー分解能が高いために、従来の検出器では不可能であった軽元素のK線と重元素のL線との分離が可能であり、低エネルギー帯域で元素分析することが可能である。
【0003】
以上のような放射線検出装置では、放射線検出器の性能を発揮するためにその周囲を所定の環境(温度や圧力など)に保つ必要があったり、測定対象物などの試料を特定の状態(測定のために必要な状態)に保つために放射線検出器の周囲とは異なる環境(温度や圧力など)に設定したりする必要がある。
【0004】
超伝導トンネル結合を用いた放射線検出装置では、放射線検出器となるSTJ素子の性能を十分に保つために、STJ素子を1K以下の温度に冷却して使用する必要がある。また、放射線検出器となるX線やガンマー線測定用の半導体放射線検出器では、半導体放射線検出器を100K程度にまで冷却して使用していることが知られている。
【0005】
STJを用いた放射線検出器が、内側輻射熱遮蔽壁や外側輻射熱遮蔽壁(障壁)に囲まれるようにし、これらの遮蔽壁で形成される内側輻射熱遮蔽壁を液体ヘリウムを用いて冷却されるようにし、外側輻射熱遮蔽壁を液体窒素を用いて冷却されるようにしている。放射線検出器と試料との間における放射線が通過する経路と遮蔽壁との重畳部分は窓部が設けられ、ベリリウムによる窓や輻射熱遮蔽膜が配置されている。(例えば、特許文献1参照)
放射線検出装置として超伝導遷移端温度検出器(TES)を用いたX線分析装置の概略構成図を図2に示す。TESを用いた放射線検出器1は、冷却ヘッド2の先端部に固定され、常温で真空環境に保たれた試料室17へ挿入される。電子線を射出する線源14となる電子鏡筒も同様に試料室17へ挿入される。そして、鏡筒から出射された電子線Aの照射によって試料Sから発生する特性X線Bは、超伝導X線検出器20で検出される。ここで、超伝導X線検出器20は、特性X線の検出効率を向上させるために試料Sへ接近させて設置させる必要がある。
【0006】
試料S付近には試料を設置する試料台50、試料Sから発生する二次電子を検出するための二次電子検出器15などが設置される。
【0007】
放射線検出装置20は、放射線検出器となるTESでは100mK程度まで冷却するため、真空断熱構造を設けた外層41内に希釈冷凍機などを用いた冷凍機40を備え、冷凍機に接続されて冷却される冷却ヘッド2が、外層41に繋がって真空断熱構造に施工されたスナウト外層3の中へ備え、冷却ヘッド先端へ放射線検出器1を固定する構造である。
【0008】
スナウト外層3を試料室17のポートから挿入することで、試料Sと超伝導X線検出器を近接して設置する構造とした。そして、冷却ヘッド2の先端部に放射線検出器1となる超伝導X線検出器となるTESからの出力を検出し増幅させるための低温初段増幅器を固定され、その上に超伝導X線検出器を重ねて装着する構成である。
【0009】
放射線検出器として超伝導遷移端温度検出器(TES)を用いたX線検出装置の放射線検出器を備えた先端部分の概略構成図を図3に示す。
【0010】
主に先端部分は、外部からの断熱ために真空に保持するようにしたスナウト外層3、スナウト外層3の内側に、輻射熱を遮断するための2層からなる内側輻射熱遮蔽壁5や外側輻射熱遮蔽壁4を備え、冷凍機40で冷却された冷却ヘッド2の先端部分に固定されたセンサホルダ8を介して放射線検出器1を装着する構成である。
【0011】
スナウト外層3や内側輻射熱遮蔽壁5や外側輻射熱遮蔽壁4には厚みがあり、適当な間隔が必要であることから、たとえばスナウト外層の直径をφ30mm程度としても、冷却ヘッドの直径はφ10mm程度の小径となる。
【0012】
放射線検出器1となるTESを用いた超伝導X線検出器からの出力信号を増幅など処理するために、超伝導量子干渉計(SQUID)を用いた低温初段増幅器6は、冷却ヘッド2の先端付近の側面へネジ止めにて装着されている。
【0013】
また、放射線検出装置の外部からX線などの放射線が放射線検出器に入射させるための経路を備えるために、スナウト外層3や内側輻射熱遮蔽壁5や外側輻射熱遮蔽壁4に窓部が設けられ、窓部にX線透過させる光学部材を設ける必要があった。(例えば、特許文献2を参照。)
【特許文献1】特開平7−253472号公報
【特許文献2】特開平17−214792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記従来の放射線検出装置やそれを用いた放射線分析装置には、以下の課題が残されている。
【0015】
つまり、X線透過させる光学部材を設けるのは、放射線検出器を低温に保持しなければならないために、放射線検出装置の外部からの輻射熱の侵入を抑え、さらに放射線検出装置外部と放射線検出装置内側にあたる放射線検出器側とで圧力が異なる環境では、この圧力差を維持する必要性があるためである。
【0016】
しかし、この光学部材を設けたために、光学部材を設けない場合に比べて放射線検出器に入射する放射線の内、特に低エネルギー帯域の強度が小さくなるという問題があった。さらに、放射線検出装置の外側と圧力差を維持するためにスナウト外層の窓部に設ける光学部材の膜厚が厚くなり、放射線を多く吸収し、さらに放射線検出器に入射できる放射線の強度が少なくなってしまう。
【0017】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、放射線検出装置外部と放射線検出装置内側と圧力差を維持しながら、放射線検出装置外部から放射線検出器に入射する放射線強度を高めることができる放射線検出装置を提供することを課題とする。
【0018】
また、このような放射線検出装置が実装された放射線分析装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
【0020】
本発明にかかる放射線検出装置は、試料に照射された放射線によって試料で生成され射出した放射線を放射線検出器で検出する、試料が配置され放射線が入射してくる系と放射線検出器が配置されている系とが異なる状態に保つための障壁が設けられている。そして、試料から放射線検出器に至る放射線導波系と障壁との重畳部位の内、放射線導波系上、最も試料に近い部位若しくは当該部位近傍に(2−1)乃至(2−3)の機能を具備する部材(集光部材)で構成されている。すなわち、この部位(障壁に設けられた貫通孔(窓部、X線透過窓))が実質的に下記(2−1)乃至(2−3)の機能を具備するように構成されている。
(2−1)透過機能:放射線検出器が検出に用いる放射線を透過する機能。
(2−2)集光機能:試料側から入射されるこの放射線を集光する機能。
(2−3)遮蔽機能:上記部位が存する障壁が有する機能と好ましくは同等若しくはそれ以上、少なくとも同質の機能。
【0021】
本明細書においては、「放射線」とは、運動エネルギーを持って流れる物質粒子(イオン、電子、中性子、陽子、中間子などの粒子線)や、例えばγ線やX線、可視光線、赤外線等の電磁波などを指す。
【0022】
「試料が配置され放射線が入射してくる系」や「放射線検出器が配置されている系」という文言における「系」とは、試料などが配置されている周囲の状態や環境、雰囲気のことをいう。測定条件として試料が配置される状態を規制しなければならない場合と、放射線検出器が配置される状態を規制しなければならない場合と、両者を規制しなければならない場合とがある。
【0023】
規制される「状態」とは、例えば、温度や真空度、磁場条件等があり、適宜設定される。上記二つの系は、一又は複数の障壁によって隔たれている。例えば、放射線検出器を一又は複数の障壁によって囲み、障壁によって形成された各系(空間)を、放射線検出器が動作可能にしたり良好に動作できるようにしたりするために、それぞれ最適な状態にすることもある。より具体的に超伝導X線検出装置を例に取ると、放射線検出器である超伝導X線検出器を100mK程度の温度(実質的に動作可能な温度)にするために、最も外界に存する系から内側の系の順に、順次温度を下げて内側の系ほど温度が低くなるように設定することがある。
【0024】
なお、本明細書では適宜「系の状態」等の表記をするが、例えば障壁を冷却したり、障壁内に液体窒素や液体ヘリウムなどを循環させたりして、その結果として「系の状態」を制御することも上記概念は当然に含む。つまり、「系」そのものを一次的に制御する概念も、他の部材等を利用して二次的に制御する(規制する)概念もいずれをも含む。
【0025】
「放射線導波系」とは、試料から出射された放射線、特に検出用放射線が放射線検出器に至る通路のことであり、検出用放射線として光を採用する場合には一般に光路という。放射線導波系は、試料から放射線検出器を最短距離で結ぶこともあるが、これに限られない。
【0026】
放射線導波系における障壁と重なり合う部分では、少なくとも放射線検出器が検出に用いる検出用放射線を、放射線導波系上、試料側から放射線検出器側へ透過するように、障壁に「窓部」が設けられる。「窓部」は、設計によっては何も設けない部位とすることもできるが、一般には、少なくとも検出用放射線を透過する透過機能と、この窓部が存する障壁の試料側の系と放射線検出器側の系とを遮蔽する遮蔽機能とを備えた光学部材が実質的に配置される。また、上記検出装置においては、放射線導波系上、最も試料に近い窓部がさらに集光機能を備えている。なお、前記したように、集光部材や光学部材は、それぞれが配置される窓部において各々の機能が実現されるものであればよく、これらの部材が窓部に勘合等されている必要はない。
【0027】
「集光」機能とは、入射した放射線を出射側で集める(焦点を結ぶ)機能である。上記検出装置においては、集光部材は少なくとも検出用放射線を集光している。なお、本明細書における「集光」とは、光を集めるという意味に限定されないことは当然である。
【0028】
上記検出装置は、以上のように構成されるため、以下の作用を奏する。
(3−1)上記検出装置と同等の立体角を有する従来の検出装置と比べて、放射線検出器に到達する検出用放射線の量が多い。
【0029】
従来の検出装置で上記検出装置と同等の立体角を得るためには、放射線導波系上、最も試料側の窓部のさらに試料側に、集光機能並びに透過機能を有する部材を配置しなければならない。したがって、従来の検出装置では、上記検出装置と比較してこの部材分、放射線が吸収される/減衰される要素が増えてしまう。したがって、上記検出装置は、同等の立体角を有する(集光性能を有する)従来の検出装置に比べて、特に吸収/減衰されやすい低エネルギー領域において放射線検出器に入射させる検出用放射線を強くすることが可能となる。
(3−2)光学部材(本欄では光学部材には集光部材を含む)の数が等しい従来の検出装置と比べて、放射線検出器に到達する放射線の量を多くしやすい。
【0030】
この比較における従来の検出装置は、上記検出装置が備える光学部材の数と同じ数の光学部材を備えている。すなわち、上記検出装置は、この従来の検出装置と比較すると、放射線導波系上最も試料側の光学部材が上記集光部材に置換されて構成されている。そのため、放射線導波系上最も試料側の光学部材は、従来の検出装置よりも上記検出装置の方が、入射する検出用放射線の量が多くできる。集光部材が集光機能を備えているためである。したがって、放射線検出器に到達する検出用放射線の内、特に吸収/減衰されやすい低エネルギー領域の放射線の強さを従来のものよりも強くしやすい。
【0031】
特に、最も試料側の光学部材に、遮蔽する機能(上記(2−3)記載の遮蔽機能の一態様)するために耐圧性・密閉性を持たせた場合、これらの部材の透過機能は、一般に特に低エネルギー領域の放射線に対して極めて悪化する。例えば、試料側が大気圧である時に、最も試料側の光学部材の内側が10-6Pa程度の真空度を維持するための光学部材を用いた場合、この光学部材、ひいては検出装置の特に低エネルギー帯域の検出用放射線に対する透過性能が極めて悪化してしまい、超伝導X線検出器へ検出・分析に十分な量の特性X線(検出用放射線)の量が到達させることが極めて困難になることを本発明者らは見いだした。そのため、検出効率が悪くなったり、元素分析に極めて多くの時間を要してしまったり、統計誤差が大きくきれいなエネルギースペクトルが得られなかったりするという問題を生じる可能性が生じた。これに対して上記検出装置は、真空度の耐圧性を有した遮蔽する機能を備えてはいるが、集光機能も備えた部材が最も試料側に配置されているために、従来の検出装置よりも放射線検出器側へ通過する検出用放射線の量を多くすることが可能となる。そのため、上記したような問題を回避することも可能となる。
【0032】
このように、上記検出装置は、従来の検出装置と比べて、放射線検出器に入射させる検出用放射線の量を多くすることが可能となる。また、放射線検出装置が配置されている系及び/又は試料が配置されている系に求められる環境によっては従来の検出装置では検出が実質的に困難であったものが、上記検出装置ではその検出を実現できうることを本願発明者らは見いだした。
(3−3)放射線検出器へ入射される検出用放射線が同等の従来の検出装置と比べて、検出対象の自由度が増す。
【0033】
放射線検出器へ入射される検出用放射線の量が上記検出装置と同等な従来の検出装置は、上記検出装置と比較して、窓部ひいては障壁に持たせることができる遮蔽機能が限定されたり、窓部の一又は複数に光学部材を配置しない構成とせざるを得ない。上記(3−2)に記載した例のように、光学部材は、遮蔽機能を、放射線検出器が実質的に動作するようにするために、及び/又は試料の雰囲気を所定の測定条件にするための性能を発揮するように設定すると、透過機能の性能を犠牲にせざるを得ない場合がほとんどだからである。
【0034】
例えば、上記検出装置と同等の放射線入射量(放射線検出器に到達する放射線の量)の超伝導X線検出装置を従来の検出装置として構成すると、試料が配置されている系の環境条件は限定されてしまう。この従来の検出装置は、上記検出装置と同等の透過性能を得るために、一又は複数の、現実的には最も試料側の光学部材を廃する必要があるからである。この構成では、試料が配置される系と放射線検出器側の真空度が同様となるため、試料が配置される系の真空度がを大気圧に近くすると、放射線検出器側の真空度も大気圧に近くなり、それにより冷凍機などへの真空断熱層としての効果が低下して放射線検出器が充分冷却されず実質的に動作しなくなってしまう。または、放射線検出器側の真空断熱層の排気により試料が配置される系の圧力が低くなるので、例えば生体試料や絶縁物の分析が実質的に不可能となってしまう。
【0035】
上記検出装置は、集光部材を少なくとも一次元方向に相対移動させる機構を備えているとよい。すなわち、この機構は、集光部材を移動させることで、放射線導波系の導波路を調整する機構(調整機構)である。調整機構を設けることで、放射線導波系として最適な経路を選択・作製することが可能となる。相対移動とは、検出装置における集光部材の相対的な位置を変化させることをいい、一般には、試料と放射線検出器とを結ぶ直線における、最も試料側に存する窓部と交差する点を基準としたり、この直線を基準としてこの直線に対して略垂直方向(二次元方向)に移動できるようにしたりする。
【0036】
調整機構を設ける場合には、集光部材への放射線の入射方向を直線で近似した場合に、この直線に対して垂直な平面方向、すなわち二次元方向に集光部材を移動できるようにすると極めてよい。集光部材から出射される検出用放射線の進行方向を制御することが可能となるからである。すなわち、放射線検出器への検出用放射線の入射量を調整することが可能となるからである。ただし、この直線方向にも調整できるようにしたり、さらに、他の方向へ集光部材を回転等させられるようにして調整できるようにしたりすれば、放射線検出器に到達する放射線の量を極めて多くすることが可能となるため望ましい。
【0037】
検出装置に調整機構を設け、かつ、試料が配置されている系とこの系よりも一つ放射線検出器側に存在されている系とが真空度が異なるように状態を制御する場合には、さらに封止部材を設けることが好ましい。封止部材は、集光部材の移動にあわせて形状を変化させられる部材であって、例えばベローズやゴムなどの形状可変で十分な封止性能を備えたものが採用される。封止部材は、集光部材の、調整機構によって可動される部位を封止するように配置・接続される。
【0038】
上記したような検出装置は、超伝導X線検出装置などの超伝導放射線検出装置として特に最適である。
【0039】
超伝導放射線検出装置とは、放射線検出器(特に放射線を実質的に検出する部位)が超伝導素子を用いて構成されている検出装置のことを言う。すなわち、上記検出装置において、放射線検出器が超伝導放射線検出器であり、超伝導放射線検出器が配置された系は、これが作動できる環境(温度)が設定された装置のことを言う。当然、この系の環境を作り出すために、公知の種々の技術を用い、また、他の系の環境も適宜設定される。例えば、一又は複数の障壁に適当な冷媒を循環させる態様も含まれる。
【0040】
超伝導放射線検出装置は、放射線検出器を極めて低温の下に配置する必要がある。この温度条件を達成した系を得るために、この検出装置は、複数の障壁が設けられる必要がある。そのため、前記同様の理由により、従来の検出装置の構成を採用すると、放射線検出器へ十分な量の検出用放射線を到達させることが極めて困難であるということを本願発明者らは見いだした。一方、上記検出装置の構成を採用すれば、放射線検出器へ検出に十分な量の検出用放射線を到達させることが容易となることを本願発明者らは見いだした。
【0041】
本発明にかかる分析装置は、試料に照射された放射線に起因して試料で生成された放射線、又は試料で反射した放射線、若しくはこれら双方の放射線(検出用放射線)を放射線検出器で検出して、試料の状態を分析する装置であって、以下の構成を備えている。
・放射線照射部材:試料に放射線を照射する部材。
・試料ホルダ:試料を所定位置に保持する部材。
・上記した検出装置。
【0042】
上記分析装置の作用は次の通りである。
(4−1)放射線照射部材から放射線が出射される。
(4−2)この放射線が試料に入射される。
(4−3)上記放射線が試料で反射する。及び/又は、上記放射線に起因して試料から他の放射線(二次放射線)が出射する。つまり検出用放射線を含む放射線が試料から出射される。
(4−4)少なくとも検出用放射線が上記検出装置に入射する。
(4−5)検出装置が、入射した放射線を検出し、検出結果を出力する。
【0043】
上記分析装置は、上記検出装置を備えているため、この検出装置について前記した作用が得られる。すなわち、従来の分析装置よりも良好な検出結果(分析結果)や、従来の検出装置では実質的に得ることのできなかった検出結果が得られる。
【発明の効果】
【0044】
本発明に係る放射線検出装置および放射線分析装置によれば、放射線検出装置外部と放射線検出装置内側と圧力差を維持しながら、放射線検出装置外部から放射線検出器に入射する放射線強度を高めることができる。これにより、微小なX線などの放射線を高精度に測定できるようになり、試料に電子線やX線を照射して、試料から射出される特性X線や蛍光X線などの放射線をこの放射線検出装置を用いることで高精度に試料の分析が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態に係る放射線検出装置並びに放射線分析装置について、超伝導X線検出装置並びに超伝導X線分析装置に適用した実施例を用いてより詳細に説明する。
【実施例】
【0046】
図1は、本発明の一実施例に係る放射線検出装置の構成を模式的に示した断面図である。
【0047】
この放射線検出器は、図1に示した放射線分析装置における放射線検出装置の破線で示す領域の構成を模式的に示した断面図である。
【0048】
本発明にかかるこの実施例での放射線分析装置と従来の放射線分析装置とは基本的構成は同一であり、図1に示す破線で示す領域の構成において異なるものとなっているものであり、図2または3に記載した構成要素と同一部分については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0049】
放射線検出器として超伝導遷移端温度検出器(TES)を用いたX線検出装置の放射線検出器を備えた先端部分の概略構成図を図1に示す。
【0050】
主に先端部分は、外部からの断熱ために真空に保持するようにしたスナウト外層3、スナウト外層3の内側に、輻射熱を遮断するための2層からなる内側輻射熱遮蔽壁5や外側輻射熱遮蔽壁4を備え、冷凍機40で冷却された冷却ヘッド2の先端部分に固定されたセンサホルダ8を介して放射線検出器1を装着する構成である。
【0051】
放射線検出器1となる超伝導遷移端温度検出器(TES)を用いた超伝導X線検出器からの出力信号を増幅など処理するために、超伝導量子干渉計(SQUID)を複数用いたSQUIDアンプとなる低温初段増幅器6は、冷却ヘッド2の先端付近の側面へネジ止めにて装着されている。
【0052】
また、放射線検出装置の外部からX線などの放射線が放射線検出器に入射させるための経路を備えるために、スナウト外層3や内側輻射熱遮蔽壁5や外側輻射熱遮蔽壁4に窓部が設けられている。
【0053】
本実施例においては、スナウト外層3には、断熱として真空断熱構造を有し、真空ポンプ(図示せず)を用いて真空状態(例えば10−6Pa程度)にすることで、外部からの熱を放射線検出装置内部への断熱をするようにしている。
【0054】
また、外側輻射熱遮蔽壁4や内側輻射熱遮蔽壁5には、液体を注入できる構造を有しており、外側輻射熱遮蔽壁4には液体窒素、内側輻射熱遮蔽壁5には液体ヘリウムを注入することで冷却されるようにした。これによって、放射線検出器1となる超伝導遷移端温度検出器(TES)を用いた超伝導X線検出器は、100mK程度に冷却され、TESを駆動するために超伝導遷移端に保持できるようになる。
【0055】
センサーホルダ8は、熱伝導特性の良い高純度無酸素銅を用いたが、このような特性を有する他の材料、例えばサファイアなどを用いて製作してもよい。
【0056】
内側輻射熱遮蔽壁5や外側輻射熱遮蔽壁4には、試料から出射されたX線が放射線検出器1へ入射されるように、それぞれ5mm径のX線透過窓(窓部)を設けられている。これらのX線透過窓(窓部)には、それぞれの遮蔽壁の断熱機能と好ましくは同等程度の断熱機能を有し、かつ、試料Sから出射されたX線の内、少なくとも放射線検出器1が検出に用いる成分(X線)を透過させる透過機能を有する光学部材11、12を配置した。本実施形態では、アルミマイラーを用いた。
【0057】
光学部材11、12は、本実施例のように窓部に位置するように設けてもよいが、少なくとも上記二つの機能を実現できるのであればこの構成・配置に限定されるものではない。言い換えれば、窓部を介してX線が通過し、かつ、窓部を介して高温側の系から低温側の系への輻射熱の侵入が実質的におきないような構成とすればよく、従来の構成を適宜採用することができる。
【0058】
スナウト外層3に、X線の導波路と重畳する領域に5mm径の貫通孔であるX線透過窓を設けた。X線透過窓の試料S側には、キャピラリ7とキャピラリ保持部21を主たる構成要素とする集光部材を設けた。キャピラリ保持部21は、一端をスナウト外層3と密着し固定されている。キャピラリ保持部21は、キャピラリ7がX線透過窓よりも試料S側であって、キャピラリ7とX線透過窓の軸線が略一致するようにキャピラリ7を保持するように構成した。X線透過窓はキャピラリ7及びキャピラリ保持部21によって試料S側の系と遮蔽された構造となっている。
【0059】
キャピラリ保持部21は、スナウト外層3を構成する材料と同等の材料を用い、真空断熱構造を形成した。これによって、スナウト外層3と同等の断熱機能を備えた。
【0060】
キャピラリ7は、前記したようにX線透過窓とほぼ同軸上に配置される。本実施例では10mm径のフレキシブルチューブを用いた。本実施例では、キャピラリ7は、X線を全反射する構造のガラス管を、放射線検出器1の一点若しくは一部の領域に焦点を結ぶように複数束ねたX線集光レンズを採用した。このような構成・配置を採用しているため、キャピラリは、X線に対する集光機能及び透過機能を備えた。
【0061】
キャピラリ7は、以上のように細いガラス管を束ねているため、気体の通過に対するコンダクタンスを非常に小さくできた。本実施例では、放射線検出器1側と試料S側との間に102Pa以上の圧力差を保持することができた。つまり、圧力遮蔽機能も実現した。
【0062】
このように、集光部材は、X線透過窓に光学部材を設けることなく熱及び圧力の遮蔽機能と特定X線の透過機能とを実現し、さらに、特定X線の集光機能を実現した。つまり、放射線検出装置の放射線検出器1やその周囲に存在する系の真空度や冷却度を従来とほぼ変わることなく維持する密閉構造を実現し、冷凍装置40による放射線検出器1の真空冷却を可能とした。その結果、放射線検出器1に入射するX線の量を従来よりも極めて多くすることを可能とした。
【0063】
本実施例においては、集光部材の圧力遮蔽機能をより高めるためにシールを行った。このシールは、ベローズ22及びOリング24、25を主たる構成要素とした。Oリング25はキャピラリ7を覆い、Oリング24はキャピラリ保持部21の内側・内壁(好ましくはキャピラリ保持部とスナウト外層3の接合部近傍)を覆うように設けられている。ベローズ22は、Oリング24、25間のキャピラリ保持部21内壁に這わせてある。
【0064】
本実施例においては、さらに、集光部材(より具体的には、集光部材中、集光機能及び透過機能を担う部材としてのキャピラリ7)の光軸を調整するための調整機構を設けた。調整機構は、キャピラリ保持部21におけるキャピラリ7と接する部分(実際に保持する部分)を担うように構成し、キャピラリ保持部21外部側からキャピラリ7表面に至る、互いの軸線が略一致しない二つの調整ねじからなる光軸調整部材23で構成した。調整ねじで調整することで、キャピラリ7の位置・光軸を、特定X線の導波路を直線に近似した場合における直線の略垂直方向にキャピラリ7を移動させることが可能となり、キャピラリ7に入射されるX線の量を調整できるようにした。
【0065】
放射線検出装置の放射線検出器1が配置されたスノウト部分は、図2に示すように試料室17に挿入される構造とした。このように構成することで、放射線検出器1と試料SとのX線の距離を短くした。この構造を採用したために、キャピラリ7の先端と試料Sとの距離がより遠い場合と比べて、放射線検出器1にとっての立体角を大きくすることが可能となった。また、試料Sから放射線検出器1に至るまでのX線の減衰をより小さくすることが可能となった。
【0066】
放射線検出器1は、超伝導遷移端温度検出器(TES)を用い、センサーホルダ8上にワニスなどの接着剤で装着した。センサーホルダ8は、無酸素銅を材料としたものを用いたが、本実施例のように放射線検出器の温度条件を制御する場合には、この材料の他にもやサファイアなどの熱伝導率の高い材料を用い、公知の手法によって適宜作成することができる。
【0067】
低温初段増幅器6を、冷却ヘッド2に固定した増幅器ホルダ31上に接着剤で装着した。増幅器ホルダ31は、冷却ヘッド2の先端付近の側面へネジ止めにて装着した。低温初段増幅器6は、250個の超伝導量子干渉素子(SQUID)を直列接続させたSQUIDアレーを用いた。
【0068】
放射線検出器1と低温初段増幅器6は、アルミニウム(Al)のワイヤーボンディング10で接続した。放射線検出器1の駆動用の配線は、放射線検出装置20の外装41に取り付けた図示しないコネクタに導線を介して電気的に接続した。
【0069】
低温初段増幅器6と常温側の制御装置(図示せず)は、配線9によって接続した。低温初段増幅器6を駆動するための電極は、配線9にて放射線検出装置20の外装41に取り付けた図示しないコネクタと電気的に接続した。
【0070】
本実施例においては、配線9は、導電率の高い銅線を用いて行ったが、冷却ヘッドよりも常温部側の少なくとも一部分を超伝導線であるニオブチタン線や、マンガニン線、ステンレス線などを用いると、室温からの熱侵入を防ぐことができて検出性能を高くすることができ好ましい。
【0071】
上記しない配線や回路等については公知の超伝導X線検出装置に採用される構成と同様の構成を適宜採用した。
<作用>
本実施例に係る超伝導X線分析装置及び超伝導X線検出装置は、以下のように作用し、試料の元素分析を実現する。
(5−1)放射線検出装置20について、外層41やスナウト内を真空排気し、外側輻射熱遮蔽壁4には液体窒素、内側輻射熱遮蔽壁5には液体ヘリウムを注入して冷却する。
(5−2)試料室17内と電子線を射出する線源14となる電子鏡筒を真空排気する。
(5−3)電子鏡筒から、試料台16に固定された試料Sに、電子線を捜査しながら照射する。試料Sから射出される二次電子を二次電子検出器によって画像観察し、試料Sの観察すべき領域を特定しる。
(5−4)試料S上の測定領域に電子線を照射しながら、試料Sから射出する特性X線が
放射線検出装置20のキャピラリ7や光学部材11、12を通過して放射線検出器1に入射する。
(5−5)放射線検出器1に入射した特性X線は、放射線検出器1で電気信号に変換された後に、この信号は増幅器(図示せず)で増幅され、波形整形器(図示せず)などを介し、波高分析器でエネルギー分析される。これにより、試料Sの元素分析を行うことができる。
<変形例>
上記実施例に係る超伝導X線検出装置・超伝導X線分析装置は、本発明者らが実施した結果、従来の超伝導X線検出装置・超伝導X線分析装置よりも優れた検出性能を得た装置であるが、本発明に係る検出装置・分析装置は、前記した通り、その趣旨・精神の元に適宜変形して構成することができる。例えば以下のような変形をしてもそれぞれに優れた性能を発揮しうる。また、各変形例を、それらが互いに矛盾しない範囲内で組み合わせて用いれば、極めて良好な性能を発揮しうる。
・光学部材11、12の一つ又は複数に、さらに集光機能を持たせてもよい。このように構成すると、光学部材を透過する検出用放射線の量をより多くすることが可能となり、検出装置・分析装置の検出精度等を高めたり、検出に要する時間を短くしたりすることが可能となる。
・調整機構を、公知の部材移動機構(相対位置微調整機構)を採用して構成し、上記実施例によるものとは異なる方向に移動できるようにしてもよい。このような移動が可能となると、集光部材に入射する検出用放射線の量をより自由度高く調整することが可能となる。その結果、光学部材を透過する検出用放射線の量をより多くするといった調整がより自由度が増し、例えば、検出装置・分析装置の検出精度等を高めたり、検出に要する時間を短くしたりするといったことが可能となる。
・上記実施例に係る超伝導X線分析装置は、線源として走査型電子顕微鏡(SEM)としての電子鏡筒を用いたが、これに限定されるものではない。例えば、線源としてX線源を用いてX線を試料に照射し、試料から射出される蛍光X線を分析することでも良い。すなわち、線源は、測定に必要な放射線を試料へ照射できるものであればよい。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】放射線分析装置の概略構成を説明するための構成図である。
【図2】本実施例における放射線検出装置の放射線検出器並びにキャピラリーなどの構成や配置を説明するための拡大図である。
【図3】従来の放射線検出装置の放射線検出器並びに光学部材などの構成や配置を説明するための拡大図である。
【符号の説明】
【0073】
1 放射線検出器
2 冷却ヘッド
3 スナウト外層
4 外側輻射熱遮蔽壁
5 内側輻射熱遮蔽壁
6 低温初段増幅器
7 キャピラリ
8 センサーホルダ
9 配線
10 配線
11、12 光学部材
13、 光学部材
14 線源
15 二次電子検出器
16 試料台
17 試料室

20 放射線検出装置
21 キャピラリ保持部
22 ベローズ
23 光軸調整部材
24、25 Oリング
30 走査型電子顕微鏡
40 冷却器
41 外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を検出する放射線検出器と、
放射線を前記放射線検出器に導く放射線導波系と、
前記放射線導波系の放射線が入射してくる側の系と、前記放射線検出器が配置されている系とを区切る一又は複数の障壁と、を有し、
前記障壁は、
前記放射線導波系と重畳する部位が、少なくとも前記放射線検出器が検出する放射線を透過する透過機能と、障壁の内外の系を仕切る遮蔽機能とを備えた光学部材が配置され、
前記放射線導波系と重畳する部位の内、放射線が入射してくる側に放射線導波系上最も近接した部位では、光学部材を、さらに、放射線が入射してくる側から入射される放射線を集光する集光機能を備えている集光部材として構成した放射線検出装置。
【請求項2】
前記集光部材を、少なくとも一次元方向に相対移動して、前記放射線導波系を調整するための調整機構を備えた、請求項1記載の放射線検出装置。
【請求項3】
前記集光部材が、前記放射線を反射させるガラス細管を束ねた構造である請求項1記載の放射線検出装置。
【請求項4】
請求項2に記載の放射線検出装置であって、
放射線が入射してくる側の系と、該系を基準にして前記放射線検出器側に隣接している系とは、少なくとも真空度が異なるように制御されており、
前記集光部材の相対移動に追随して形状を変化させて両系間の封止を行う封止部材がさらに設けられた放射線検出装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の放射線検出装置であって、
前記放射線検出器は超伝導放射線検出器であり、
前記放射線検出器が配置されている系は、当該放射線検出器が作動できる温度にされた系である放射線検出装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の放射線検出装置を備え、
試料に放射線または荷電粒子を照射する照射部材と、
試料を保持する試料ホルダと、を備えた、試料に照射された放射線または荷電粒子によって試料で生成した放射線及び/又は反射した放射線を放射線検出器で検出する放射線検出装置を用いた放射線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−39500(P2008−39500A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−211681(P2006−211681)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】