説明

放射線画像検出器

【課題】TFT方式の放射線画像検出器において、暗電流抑制と残像抑制とを両立させる。
【解決手段】放射線画像検出器は、放射線の照射を受けて電荷を発生する電荷発生層20と、電荷発生層20において発生した電荷を収集する収集電極8、および収集電極8によって収集された電荷を読み出すためのスイッチ素子3を有する画素部11が2次元状に多数配列された検出層10とが積層された構造を有する。収集電極8の周縁部に、収集電極8の中央部の電界強度に対する収集電極8の端部の電界強度の比を小さくする電界比低減部品として保護膜18を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の照射を受けて電荷を発生する電荷発生層と、スイッチ素子を有する多数の画素部が2次元状に配列された検出層とが積層された放射線画像検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、医療分野などにおいて、被写体を透過した放射線の照射を受けて電荷を発生し、その電荷を蓄積することにより被写体に関する放射線画像を記録する放射線画像検出器が各種提案、実用化されている。
【0003】
放射線画像検出器の方式としては、放射線を直接電荷に変換し電荷を蓄積する直接変換方式と、放射線を一度CsI:Tl、GOS(Gd2S:Tb)などのシンチレータで光に変換し、その光を光導電層で電荷に変換し蓄積する間接変換方式がある。また、読取り方式としては、光の照射により電荷を発生する半導体材料を利用した光読取方式と、放射線の照射により発生した電荷を収集電極に蓄積し、その蓄積した電荷を薄膜トランジスタ(thin film transistor:TFT)などの電気的スイッチを1画素ずつON・OFFすることにより読み取るTFT方式に大別される。
【0004】
上記のような放射線画像検出器では、光電変換層にかかる電界がある閾値を超えると、急激に電極からの電荷注入(暗電流)が増加し、結晶化が起こり、点欠陥が発生することが知られている。そこで、特許文献1には、光読取方式の放射線画像検出器において、暗電流を防止するために電極端部を絶縁膜からなる保護膜で覆うことが提案されている。また、特許文献2には、TFT方式の放射線画像検出器において、収集電極からの暗電流を防止するために収集電極全面を有機膜からなる保護膜で覆うことが提案されている。
【特許文献1】特開2005−183670号公報
【特許文献2】特開2006−156555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
放射線画像検出器においては、暗電流だけでなく、以前の画像パターンが残る残像も大きな問題である。特に、TFT方式の放射線画像検出器では、収集電極に直接電荷を蓄積するため、残像の問題解決が重要である。これに対して、光読取方式の放射線画像検出器では、電極とは別に蓄電部を備え、この蓄電部に電荷を蓄積するようにしているため、電極そのものの残像問題はTFT方式とは異なると言える。また、TFT方式の放射線画像検出器では一般に、収集電極間にデータ線やゲート線等の配線があるのに対し、光読取方式の放射線画像検出器では、電極間に配線がない。配線の有無や配線と収集電極との距離は、形成すべき保護膜の構成に影響する。以上のことから、光読取方式の保護膜の構成をTFT方式にそのまま適用しても、暗電流および残像の両方を効果的に防止することは難しいと考えられる。
【0006】
特許文献2では、残像特性を改善するために保護膜に導電性を付与することを提案しているが、保護膜が収集電極全体を覆っているため、残像特性の劣化は避けがたく、暗電流防止と残像防止とを両立することは難しいと考えられる。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、暗電流抑制と残像抑制との両立が可能なTFT方式の放射線画像検出器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の放射線画像検出器は、放射線の照射を受けて電荷を発生する電荷発生層と、該電荷発生層において発生した電荷を収集する収集電極、および該収集電極によって収集された前記電荷を読み出すためのスイッチ素子を有する画素部が2次元状に多数配列された検出層とが積層された放射線画像検出器において、前記収集電極の周縁部のみに、前記収集電極の中央部の電界強度に対する前記収集電極の端部の電界強度の比を小さくする電界比低減部品が設けられていることを特徴とする。
【0009】
なお、本明細書において、上記の「収集電極の中央部の電界強度に対する前記収集電極の端部の電界強度の比」を「電界比」と呼ぶことにする。
【0010】
ここで、「放射線」の具体例としては例えばX線が挙げられる。
【0011】
前記電界比低減部品は、前記収集電極の周縁部の全周にわたって設けられていることが好ましい。
【0012】
前記電界比低減部品が、絶縁材料からなるように構成してもよく、または、半導体材料からなるように構成してもよい。
【発明の効果】
【0013】
一般に、電極の端部は、中央部よりも電界が集中しやすく、電界強度が強い。そのため、暗電流は電極の端部から発生することが多い。本発明の放射線画像検出器によれば、収集電極の周縁部のみに、電界比を小さくする電界比低減部品が設けられているため、収集電極の端部に電界が集中するのを低減させることができ、暗電流を抑制できる。また、本発明の放射線画像検出器では、電界比低減部品を収集電極の周縁部のみに設けているため、電界比低減部品が覆っている面積を、特許文献2に記載されているような従来のものよりも小さくすることができ、残像を抑制することができる。すなわち、本発明の放射線画像検出器によれば、暗電流抑制と残像抑制との両立が可能になる。
【0014】
電界比低減部品が、絶縁材料からなる場合は、暗電流抑制効果を高くすることができる。
【0015】
電界比低減部品が半導体材料からなる場合は、残像抑制効果を高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の放射線画像検出器の実施形態について詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態にかかる放射線画像検出器100の概略構成図であり、図2は図1に示す放射線画像検出器100の画素部のレイアウトである。
【0017】
本実施形態の放射線画像検出器100は、TFT方式のものであり、図1に示すように、上部電極層21と、放射線の照射を受けて電荷を発生する電荷発生層20と、電荷発生層20において発生した電荷を収集する収集電極8、および該収集電極8によって収集された前記電荷を読み出すためのスイッチ素子3を有する画素部11が2次元上に多数配列された検出層10とが順次積層された構造を有する。
【0018】
上部電極層21は、Auなどの低抵抗の導電材料で構成されている。そして、上部電極層21には、バイアス電圧を印加するための高圧電源22が接続されている。
【0019】
電荷発生層20は、電磁波導電性を有するものであり、放射線の照射により内部に電荷を発生するものである。電荷発生層20としては、たとえば、セレンを主成分とする膜厚100〜1000μmの非晶質a−Se膜を用いることができる。
【0020】
検出層10は、アクティブマトリクス基板からなり、収集電極8と、収集電極8によって収集された電荷を蓄積する蓄積容量4と、蓄積容量4に蓄積された電荷を読み出すためのスイッチ素子3とを有するアレイ状に配置された画素部11を備えている。
【0021】
収集電極8は、たとえばAl、Au、Cr、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)等の材料を用いて構成でき、その厚みは0.05μm〜1μmの範囲が好ましい。
【0022】
収集電極8には、その周縁部のみに全周にわたって保護膜18が設けられている。保護膜18が収集電極8を覆っているカバー幅Wは均一である。図2においては、収集電極8の外形を太い点線で示し、保護膜18を太い実線で囲まれた斜線部で示している。なお、図1および図2は概念図であり、図面内の各部の寸法は必ずしも実際の物と同じではない。保護膜18を設けることにより、収集電極8の中央部の電界強度(Ec)に対する収集電極8の端部の電界強度(Ee)の比(電界比=Ee/Ec)を小さくすることができ、暗電流を低減し、点欠陥を減少できる。なお、本例では、隣接する保護膜18は分離した構成となっているが、隣り合う収集電極8間にわたって連続する構成にしてもよい。
【0023】
保護膜18の材料としては、絶縁材料や半導体材料を用いることができる。絶縁材料としては、アクリル樹脂、PVA(polyvinylalcohol)膜、PVP(polyvinyl pyrrolidone)膜、PAA(Polyacrylic Acid)膜を用いることが好ましく、半導体材料としては、カーボン添加アクリル樹脂を用いることが好ましい。その他の保護膜18の材料としては、低誘電率のものとしては多孔質ポリアレルエーテル、中誘電率のものとしてはSiO、ポリイミド、ノボラック樹脂、高誘電率のものとしてはTa、ZrO、Alを用いることができる。保護膜18の厚みは、たとえば0.05μm〜5μmの範囲が好ましい。保護膜18の比誘電率が大きい方が電界比を小さくできるが、電極間の静電容量が増加してしまうため、保護膜18の比誘電率は2〜20の範囲が好ましい。保護膜18の耐電圧は、電荷発生層20の耐電圧よりも大きいことが好ましい。なお、保護膜18の詳細な効果については後述する。
【0024】
また、検出層10は、スイッチ素子3をON/OFFするための多数の走査線1と、蓄積容量4に蓄積された電荷を読み出すための多数のデータ線5とを備えている。
【0025】
スイッチ素子3としては、一般的には、アモルファスシリコンを活性層に用いたa−SiTFTが用いられる。そして、スイッチ素子3のゲート電極2には、スイッチ素子3をON/OFFするための走査線1が接続されており、ソース電極6には、蓄積容量4に蓄積された電荷を読み出すためのデータ線5が接続され、ドレイン電極7には、蓄積容量4を構成する一方の電極である蓄積容量電極9が接続されている。データ線5の終端には、アンプ23が接続されている。そして、蓄積容量4の他方の電極は蓄積容量配線12に接続されている。なお、図の煩雑化を避けるため、図1では同一部位の符号の一部を省略している。
【0026】
次に、放射線画像検出器100の動作の一例について説明する。図1の上方よりX線等の放射線画像を担持した記録用の放射線が照射され、該放射線は上部電極層21を透過し、電荷発生層20に照射される。この照射により電荷発生層20は内部に電荷を発生する。その発生した電荷のうち正孔は上部電極層21と収集電極8間のバイアスにより収集電極8に集められ、収集電極8に電気的に接続された蓄積容量4に蓄積される。電荷発生層20は照射された放射線量に応じた量の電荷を発生するため、放射線が担持した画像情報に応じた電荷が各画素部11の蓄積容量4に蓄積される。その後、走査線1を介してスイッチ素子3をON状態にする信号を順次加え、データ線5を介して各蓄積容量4に蓄積された電荷を取り出す。さらにアンプ23で各画素の電荷量を検出することにより画像情報を読み取ることができる。
【0027】
以下、保護膜18の効果について詳細に説明する。図3に、放射線画像検出器100において、保護膜無しのもの(図3の表の最上段のデータ)と、厚み0.5μmの保護膜有りのもの(図3の表の2段目以降のデータ)の各特性のシミュレーション結果を示す。保護膜有りのものについては、保護膜の幅と比誘電率を変化させた場合の結果も示している。図3において、右端の「品質性能」は、各特性の結果から総合的に判断した性能である。図3中の記号はそれぞれ、◎:製品として優れた性能を有する、○:製品として十分なレベルの性能を有する、△:製品として十分ではないが許容範囲の性能を有する、×:製品として許容されない、の意味である。
【0028】
図3に示すように、保護膜無しのものは、電界比は3.8と大きく、残像特性は良いが、点欠陥特性が悪く、総合的な品質性能は×となっている。これに対して、幅0.5μm、比誘電率2の保護膜を設けたものは、電界比は2.3となり、ノイズや残像特性は保護膜無しのものと同様に良好である上に、点欠陥特性が改善され、総合的な品質性能は○となっている。
【0029】
図3において、保護膜が同じ比誘電率で異なる幅のものを比較すると、幅が大きい方が、電界比が小さくなり、残像特性は低下するが、点欠陥特性が改善されることがわかる。また、保護膜の幅は同じ2μmで比誘電率が2と10のものを比較すると、比誘電率が大きい方が、電界比が小さくなり、残像特性はやや低下するが、点欠陥特性が改善されることがわかる。
【0030】
一般に、TFT方式の放射線画像検出器では、図4に示すように収集電極8の間には、その下層の絶縁層14に配置されたデータ線やゲート線等の配線13が存在するのに対し、光読取方式の放射線画像検出器では、電極間に配線が存在しない。電界比低減部品として保護膜を設けるときには、このような配線の有無に注意することが必要である。
【0031】
図5は、配線が有る場合、無い場合について、電界比を電界シミュレーションにより求めた結果である。図5では、電極間距離、電極と配線間の距離(図4に示すd)、保護膜比誘電率、保護膜のカバー幅W、保護膜の厚み(図4に示すt)、絶縁層の厚み、配線の有無の条件が異なる各場合について示している。図6は、図5の数値データに基づく傾向をまとめた結果である。配線の有るものの方が、配線の無いものよりも電界比は小さく、また、電極と配線間の距離が小さい方が電界比が小さくなっている。保護膜を設ける際には、このような傾向を考慮して、暗電流抑制と残像抑制の両立化を図ることが好ましい。
【0032】
以上述べた本実施形態の放射線画像検出器によれば、収集電極の周縁部に、電界比を小さくする保護膜を設けているため、暗電流抑制と残像抑制の両立化を図ることができる上に、以下の効果が期待できる。まず、収集電極端部の電界強度が小さくなり、暗電流が低減するので、S/Nを向上できるとともに、電荷発生層の結晶化を抑制できる。そして、収集電極からの電荷注入が起こりにくくなるため、記録時の電圧を増加することが可能となり、その結果、信号アップを図ることができるのでS/Nが向上し、良好な画質が得られる。また、保護膜を設ける範囲を周縁部にしているため、残像特性も良好に維持できる。誘電率の小さな保護膜を付与した場合には、静電容量が小さくなりノイズ特性を改善できる。
【0033】
なお、本発明の放射線画像検出器は上記実施形態に限定されない。たとえば、本発明の放射線画像検出器における層構成は上記実施形態のような層構成に限らず、その他の層を加えたりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の放射線画像検出器の一実施形態の概略構成図
【図2】図1に示す放射線画像検出器の画素部のレイアウト
【図3】保護膜の有無、構成の違いによる各特性を示す図
【図4】図1に示す放射線画像検出器の概略的な要部構成図
【図5】配線の有無、保護膜の有無等の違いによる電界比を示す図
【図6】図5の結果をまとめた図
【符号の説明】
【0035】
1 走査線
2 ゲート電極
3 スイッチ素子
4 蓄積容量
5 データ線
6 ソース電極
7 ドレイン電極
8 収集電極
9 蓄積容量電極
10 検出層
11 画素部
12 蓄積容量配線
13 配線
18 保護膜
20 電荷発生層
21 上部電極層
22 高圧電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の照射を受けて電荷を発生する電荷発生層と、
該電荷発生層において発生した電荷を収集する収集電極、および該収集電極によって収集された前記電荷を読み出すためのスイッチ素子を有する画素部が2次元状に多数配列された検出層とが積層された放射線画像検出器において、
前記収集電極の周縁部のみに、前記収集電極の中央部の電界強度に対する前記収集電極の端部の電界強度の比を小さくする電界比低減部品が設けられていることを特徴とする放射線画像検出器。
【請求項2】
前記電界比低減部品が、絶縁材料からなることを特徴とする請求項1記載の放射線画像検出器。
【請求項3】
前記電界比低減部品が、半導体材料からなることを特徴とする請求項1記載の放射線画像検出器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−91829(P2008−91829A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273941(P2006−273941)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】