説明

新規な環状シロキサン化合物及びその製造方法

【解決手段】下記一般式(1)で示されることを特徴とする環状シロキサン化合物。


(式中、Xは脂肪族不飽和結合を含有した有機基であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基である。)
【効果】本発明の新規な環状シロキサン化合物は、シリコーンオイルやシリコーンゴムの原料として用いられることにより、それらに更なる特性向上や新規な物性付与をもたらす改質剤として有用である。又は、重合性のモノマー原料として用いられることにより、各種ポリマーの性能の向上をもたらしたり、新規な物性のポリマーが得られる等として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンオイルやシリコーンゴムに新規な物性を付与するための改質剤として、又は重合性モノマーとして使用されることにより各種樹脂や重合組成物に新規な物性を付与するための改質剤として有用な1分子構造中に脂肪族不飽和結合含有有機基とフッ素原子含有アルキル基の両方を保有した新規な環状シロキサン化合物及びそれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族不飽和結合含有有機基を保有した環状シロキサン化合物は、従来いくつかの化合物が知られている。
【0003】
例えば、特開平1−281135号公報(特許文献1)では、変性シリコーンの原料として、以下の化合物が記載されている。
【化1】

【0004】
特開平7−149902号公報(特許文献2)には、電子線硬化型シリコーン系重合体組成物の原料として、以下の化合物が記載されている。
【化2】

【0005】
また、特開2001−114835号公報(特許文献3)には、化学増幅ポジ型レジストの原料として、以下の化合物が記載されている。
【化3】

【0006】
更に、特開平4−217690号公報(特許文献4)には、シランカップリング剤、樹脂改質剤もしくは表面改質剤として、以下の化合物が記載されている。
【化4】

【0007】
特開昭63−14787号公報(特許文献5)には、アクリルポリマー(ゴム)の原料として、以下の化合物が記載されている。
【化5】

【0008】
一方、O.MukhbanianiらのIzvestiya Akademii Nauk Gruzii, Seriya Khimicheskaya (2001), 27(1−2), p.53−57(非特許文献1)には、以下の化合物が記載されている。
【化6】

【0009】
また、フッ素原子含有アルキル基を保有した環状シロキサン化合物も、従来いくつかの化合物が知られている。例えば、特開2000−169485号公報(特許文献6)、特開昭54−90120号公報(特許文献7)及びシリコーンハンドブック(伊藤邦雄編、日刊工業新聞社)のp.560〜563(非特許文献2)等に、フッ素含有シリコーンオイルやフッ素含有シリコーンゴムの原料等として利用される以下の化合物が記載されている。
【化7】

特に、上記式(3)の1,3,5−トリス(3’,3’,3’−トリフルオロプロピル)−1,3,5−ヘキサメチルシクロトリシロキサンが前記用途に有用である。
【0010】
上記の環状シロキサン類は、様々な分野で各種用途に多様な手段によって用いられる。例えば、種々の官能基を保有する環状シロキサン類を単独もしくは他の種類の環状もしくは鎖状のシロキサン化合物と共に酸あるいはアルカリといった平衡化反応触媒の存在下にて反応せしめることにより、高分子量のシリコーンオイルやシリコーンゴムを製造する方法が知られており、官能基の特性によって高分子量体の各種性能の向上がもたらされる。また、環状シロキサン類が不飽和結合含有有機基を保有する場合においては、その不飽和基を単独もしくは他の不飽和結合含有有機化合物と共に、種々の手段にて重合させることにより高分子量体を得る方法も知られており、それらの高分子量体は主鎖に環状のシロキサン構造が化学的に強固に結合しており、環状シロキサン構造の特性によって高分子量体の各種性能の向上がもたらされる。
【0011】
しかしながら、これまで1分子構造の中に、不飽和結合含有有機基とフッ素原子含有アルキル基の両方を保有した環状シロキサン化合物については知られておらず、高分子量体の各種性能を更に向上させることや、新規な性能を更に付与させることを妨げていた。
【0012】
【特許文献1】特開平1−281135号公報
【特許文献2】特開平7−149902号公報
【特許文献3】特開2001−114835号公報
【特許文献4】特開平4−217690号公報
【特許文献5】特開昭63−14787号公報
【特許文献6】特開2000−169485号公報
【特許文献7】特開昭54−90120号公報
【非特許文献1】O.Mukhbanianiら Izvestiya Akademii Nauk Gruzii, Seriya Khimicheskaya (2001), 27(1−2), p.53−57
【非特許文献2】シリコーンハンドブック(伊藤邦雄編、日刊工業新聞社)p.560〜563
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、1分子の構造の中に、脂肪族不飽和結合含有有機基とフッ素原子含有アルキル基の両方を保有した新規な環状シロキサン化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、脂肪族不飽和結合含有有機基を有するジクロロシランとフッ素原子含有アルキル基を持った環状シロキサン化合物を触媒の存在下において反応せしめて、合成中間体の両末端クロル基含有シラン化合物を合成し、次いでその化合物を加水分解することにより、1分子構造中に脂肪族不飽和結合含有有機基とフッ素原子含有アルキル基の両方を保有した新規な環状シロキサン化合物が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0015】
即ち、本発明は、下記の新規な環状シロキサン化合物及びその製造方法を提供する。
[I]
下記一般式(1)で示されることを特徴とする環状シロキサン化合物。
【化8】


(式中、Xは脂肪族不飽和結合を含有した有機基であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基である。)
[II]
Xが、
【化9】


(式中、R1、R2、R3は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基であり、同一であっても異なっていてもよく、Q1は2価の有機基であり、Zは3価の有機基であり、nは0又は1である。)
である[I]記載の環状シロキサン化合物。
[III]
1が、直鎖状、分岐鎖状又は環状の炭素数1〜8のアルキレン基、又は分枝を有することがあるアルキレン基であって主鎖もしくは側鎖の一方又は双方のメチレン単位が−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−C64−、−OC64−、−C64O−、−S−からなる群より選ばれる置換基の一つ又は複数により置換され、アルキレン基の主鎖が炭素数1〜8である[II]記載の環状シロキサン化合物。
[IV]
Zが、R1、R2の結合する不飽和結合を構成単位として環状構造を形成する炭素数1〜21の3価の炭化水素基、又は該環状構造を形成する部分のメチレン単位が−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−C64−、−OC64−、−C64O−、−S−からなる群より選ばれる置換基の一つ又は複数により置換されている炭素数2〜21の3価の炭化水素基である[II]又は[III]記載の環状シロキサン化合物。
[V]
Xが、
【化10】


であり、R1、R2、R3は独立に水素原子もしくはメチル基であり、式(1)中のRがメチル基である[I]記載の環状シロキサン化合物。
[VI]
Xが、
【化11】


であり、R1、R2、R3は独立に水素原子もしくはメチル基であり、Q1が−C64−又は
【化12】


であり、mが1〜3であり、式(1)中のRがメチル基である[I]記載の環状シロキサン化合物。
[VII]
Xが、
【化13】


であり、R1、R2は独立に水素原子もしくはメチル基であり、Z−(Q1n−が
【化14】


(式中、Q2は−(CH2r−又はこの−(CH2r−のメチレン単位が−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−C64−、−OC64−、−C64O−、−S−からなる群より選ばれる置換基の一つ又は複数により置換された基、Q3は炭素数1〜8の1価炭化水素基であり、p及びqは0又は1、rは1〜8の整数である。)
であり、式(1)中のRがメチル基である[I]記載の環状シロキサン化合物。
[VIII]
下記一般式(2)で示される脂肪族不飽和結合含有有機基を有するジクロロシラン化合物と下記式(3)で示されるフッ素原子含有環状シロキサン化合物とを、触媒の存在下において反応せしめ、次いでその反応混合物を水と反応させることを特徴とする下記一般式(1)の環状シロキサン化合物の製造方法。
【化15】


(式中、Xは脂肪族不飽和結合を含有した有機基であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基である。)
【化16】


(式中、X及びRは上記の通り。)
[IX]
触媒が、非プロトン性極性溶剤、4級アンモニウム塩、及び4級ホスホニウム塩からなる群の中から選ばれる化合物である[VIII]記載の環状シロキサン化合物の製造方法。
[X]
触媒が、ジメトキシエタン、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、及びアセトニトリルからなる群の非プロトン性極性溶剤の中から選ばれる化合物である[IX]記載の環状シロキサン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、1分子構造中に脂肪族不飽和結合含有有機基とフッ素原子含有アルキル基の両方を保有した新規な環状シロキサン化合物及びその製造方法が提供される。
本発明の新規な環状シロキサン化合物は、シリコーンオイルやシリコーンゴムの原料として用いられることにより、それらに更なる特性向上や新規な物性付与をもたらす改質剤として有用である。又は、重合性のモノマー原料として用いられることにより、各種ポリマーの性能の向上をもたらしたり、新規な物性のポリマーが得られる等として有用である。また、本発明の製造方法は、上記の化合物を、工業的に安価に入手可能な原料により、簡便な工程かつ穏やかな条件下での操作により、高収率・高純度に得ることができる方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の新規環状シロキサン化合物は、下記一般式(1)
【化17】


(式中、Xは脂肪族不飽和結合を含有した有機基であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基である。)
で示されるもので、この式(1)の環状シロキサン化合物は、下記一般式(2)
【化18】


(式中、Xは脂肪族不飽和結合を含有した有機基であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基である。)
で示される脂肪族不飽和結合含有有機基を有するジクロロシラン化合物及び下記式(3)
【化19】


で示されるフッ素原子含有アルキル基を持った環状シロキサン化合物とを、触媒の存在下において反応せしめ、次いでその反応生成物を更に水と反応させることにより製造することができる。
【0018】
この製造方法につき更に詳述すると、本発明の製造方法においては、2段階の反応経路を経ることにより、目的物である一般式(1)の新規な環状シロキサン化合物が形成される。1段階目は一般式(2)の脂肪族不飽和結合含有有機基を有するジクロロシラン化合物と式(3)のフッ素原子含有アルキル基を保有した環状シロキサン化合物とを触媒の存在下にて反応せしめて、環状構造を開くことにより、下記一般式(4)
【化20】


(式中、X、Rは上述と同じである。)
で示される合成中間体である両末端クロル基含有シラン化合物を製造する工程であり、以下の反応式(1)で表され、以下の記述において「開環反応」と称する工程である。
【0019】
【化21】


(式中、X、Rは上述と同じである。)
【0020】
2段階目は、上記の一般式(4)の両末端クロル基含有シラン化合物を、更に水と反応せしめることにより分子構造を閉環し、本発明の目的物質である一般式(1)の新規な環状シロキサン化合物を製造する工程であり、「加水分解反応」と称し、以下の反応式(2)で表される。
【0021】
【化22】


(式中、X、Rは上述と同じである。)
【0022】
なお、ここで、Xは好ましくは、
【化23】


(式中、R1、R2、R3は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基であり、同一であっても異なっていてもよく、Q1は2価の有機基であり、Zは3価の有機基であり、nは0又は1である。)
である。
【0023】
この場合、Q1の2価の有機基としては、具体的には(i)直鎖状、分岐鎖状又は環状の炭素数1〜8のアルキレン基、又は(ii)分枝を有することがあるアルキレン基(即ち、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基)であって主鎖又は分岐鎖状アルキレン基の場合は主鎖もしくは側鎖の一方又は双方のメチレン単位が−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−C64−、−OC64−、−C64O−、−S−からなる群より選ばれる置換基の一つ又は複数により置換され、主鎖が炭素数1〜8のアルキレン基が挙げられる。なお、分岐鎖状アルキレン基の場合、側鎖は直鎖、分岐鎖又は環状でもよく、かかる点から炭素数1〜20、特に1〜10のものであることが好ましい。
【0024】
また、Zは、R1、R2の結合する脂肪族不飽和結合を構成単位として環状構造を形成する炭素数1〜21の3価の炭化水素基、又は該環状構造を形成する部分のメチレン単位が−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−C64−、−OC64−、−C64O−、−S−からなる群より選ばれる置換基の一つ又は複数により置換されている炭素数2〜21の3価の炭化水素基が好ましい。
【0025】
この場合、炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。炭素数1〜8のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、イソブチレン基、イソペンチレン基、エチルヘキシレン基、シクロペンチレン基又はシクロヘキシレン基等が挙げられる。
【0026】
また、
【化24】

で示される炭化水素基に含まれるR1、R2の結合する脂肪族不飽和結合を構造単位とする環状構造の部分を具体的に示すと
【化25】



などが挙げられるが、本発明は上記例示により制限を受けるものではない。
【0027】
環状シロキサン化合物としてより好ましくは、Xが
【化26】


であり、R1、R2、R3が独立に水素原子もしくはメチル基であり、式(1)中のRがメチル基であるもの、又は、Xが
【化27】


であり、R1、R2、R3が独立に水素原子もしくはメチル基であり、Q1が−C64−又は
【化28】


であり、mが1〜3であり、Rがメチル基であるもの、又は、Xが
【化29】


であり、R1、R2が独立に水素原子もしくはメチル基であり、Z−(Q1n−が
【化30】


(式中、Q2は−(CH2r−又はこの−(CH2r−のメチレン単位が−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−C64−、−OC64−、−C64O−、−S−からなる群より選ばれる置換基の一つ又は複数により置換された基、Q3は炭素数1〜8、好ましくは1〜3のアルキル基等の1価炭化水素基であり、p及びqは0又は1、rは1〜8、好ましくは1〜3の整数である。)
であり、Rがメチル基のものが挙げられる。
上記Xの具体例を示すと以下の通りであるが、本発明は以下の例示により制限されるものではない。
【0028】
【化31】

【0029】
本発明において、原料として使用する脂肪族不飽和結合含有有機基を有するジクロロシラン化合物は、下記一般式(2)で示されるものである。
【0030】
【化32】


(式中、X及びRは上述と同じである。)
【0031】
一般式(2)の脂肪族不飽和結合含有有機基を有するジクロロシラン化合物は一般的に公知の化合物であり、工業的規模で大量に入手可能である。なお、一般式(2)の化合物は非常に広範囲の製造方法が知られており、一つの方法には制限されないが、例えば、下記一般式(5)
【化33】


(式中、Rは上述と同じである。)
のケイ素原子結合水素原子含有ジクロロシラン化合物に、もう一方の原料である脂肪族不飽和結合含有有機基及びアリル基又はビニル基を有する化合物とを白金、ロジウム、イリジウム、パラジウム等の遷移金属を含有するヒドロシリル化触媒の存在下でヒドロシリル化反応させることにより合成することができる。
【0032】
このような脂肪族不飽和結合含有有機基及びアリル基又はビニル基を有する化合物としては、下記のものが例として挙げられる。
【0033】
【化34】

【0034】
また、アセチレン化合物とケイ素原子結合水素原子含有ジクロロシラン化合物とを白金触媒存在下でヒドロシリル化反応させることにより、ビニル基含有ケイ素化合物を合成することができる。その他にも、脂肪族不飽和結合含有有機基を有するジクロロシラン化合物を合成するためには、脂肪族不飽和結合含有有機基を有するグリニャール試薬とクロロシラン化合物とのグリニャール反応、ハロアルキル基含有シラン化合物と脂肪族不飽和結合含有有機基を有するアルカリ金属塩との脱塩反応、脂肪族不飽和結合含有有機基を有するクロロシラン化合物と共役ジエン化合物とのディールス・アルダー付加反応等の種々の方法の応用が一般的に知られている。
なお、Rは工業的な規模で安価かつ大量に入手するには、特にメチル基が好ましい。
【0035】
一般式(2)の化合物は、具体的には以下のものが例として挙げられるが、本発明はこの例示により制限されるものではない。
【0036】
【化35】

【0037】
もう一方の原料である式(3)のフッ素原子含有アルキル基を保有した環状シロキサン化合物は、1,3,5−トリス(3’,3’,3’−トリフルオロプロピル)−1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサンである。
【0038】
【化36】

【0039】
この化合物も工業的規模で大量に入手可能及び安価な原料である。例えば、Y.Furukawa,M.Kotera, Journal of Polymer Science:Part A: Polymer Chemistry,Vol.40,3120−3128(2002)のp.3121に記載されているように、メチルジクロロシランとトリフルオロプロペンを白金触媒の存在下で一般的には密閉された圧力容器中でヒドロシリル化反応させることにより、3,3,3−トリフルオロプロピルメチルジクロロシランを合成し、次いで、それを加水分解して、2価の3,3,3−トリフルオロプロピルメチルシロキサン単位よりなる環状もしくは鎖状構造のシロキサン混合物を合成し、次いでそれらの混合物をアルカリ触媒存在下の減圧還流条件に置くことにより、シロキサン結合の平衡化を起こさしめ、次いでもっとも低沸点で還流してくる上記式(3)の化合物を系外に抜き出す方法(一般的にクラッキング反応として知られる方法)(特開2000−169485号公報の2頁[0002]〜[0004]、特開昭54−90120号公報の154頁等に記載)が公知であり、上記式(3)の化合物を、大量かつ高純度に得ることができる。
【0040】
1段階目の開環反応について、更に詳しく条件を記載する。
以下の反応式(1)で表される1段階目の「開環反応」は、一般式(2)の脂肪族不飽和結合含有有機基を有するジクロロシラン化合物と式(3)のフッ素原子含有アルキル基を保有した環状シロキサン化合物を触媒の存在下にて反応せしめることにより、一般式(4)の合成中間体の両末端クロル基含有シラン化合物が形成される工程である。
【0041】
【化37】


(式中、X、Rは上述と同じである。)
【0042】
この一段階目の開環反応における一般式(2)の化合物と式(3)の化合物のモル比は特に制限がなく、任意ではあるが、好ましくは0.8〜1.2の範囲がよい。モル比が1.2を超え又は0.8未満では、いずれも過剰であるもう一方の原料が未反応で多く残存することになり、経済的に不利となる場合や目的物の精製に支障が出るような不純物を発生させる場合がある。
【0043】
また、開環反応の触媒は、ジメトキシエタン、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶剤、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムクロリド、トリフェニルメチルホスホニウムブロミド等の4級ホスホニウム塩等が例として挙げられる。
【0044】
上記の触媒の添加量は、一般式(2)で示される化合物に対して0.001〜200質量%、特に0.1〜50質量%の範囲で添加することが好ましい。0.001質量%未満では触媒効果が乏しい場合があり、200質量%を超えると経済的に不利な場合がある。なお、添加量が多い場合の条件は、反応溶媒として使用されることを想定しているものである。
【0045】
開環反応の反応温度は、特に制限はないが、好ましくは0〜150℃、より好ましくは3〜100℃の範囲がよい。反応温度が150℃より高いと経済的に不利な場合があり、また収率の低下を招くような副生物が発生する場合もある。一方、反応温度が0℃より低いと反応速度が必要以上に遅くなる場合がある。
【0046】
開環反応においては、反応原料の混合方法及び混合順序には特に制限はない。一般式(2)の化合物、式(3)の化合物及び触媒を一括に混合してもよいし、一般式(2)の化合物及び式(3)の化合物の混合物に触媒を滴下してもよいし、一般式(2)の化合物もしくは式(3)の化合物と触媒の混合物に式(3)の化合物もしくは一般式(2)の化合物を滴下してもよいし、一般式(2)の化合物もしくは式(3)の化合物に式(3)の化合物もしくは一般式(2)の化合物と触媒の混合物を滴下してもよいし、触媒もしくは触媒と溶媒の混合物に一般式(2)の化合物及び式(3)の化合物をそれぞれ個別にもしくは混合して滴下してもよい。
【0047】
開環反応では、反応溶媒は本質的に必須の物質ではないが、反応系の均一性を向上させたり、反応系の容積を増加させて撹拌性を向上させたり等の必要に応じて使用しても構わない。溶媒として好ましくは、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、デカリン等の芳香族系炭化水素、ヘキサン、イソオクタン、オクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、パラフィン等の脂肪族系炭化水素、ジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルやジプロピルエーテル等のエーテル類、ヘキサメチルジシロキサンやジメチルシリコーンオイル等のシロキサン類、又は前記したような非プロトン性極性溶剤等の種々の溶媒を単独もしくは複数の組み合わせで用いることができる。但し、原料の一方である一般式(2)のクロロシランと反応する可能性のある種類、例えばアルコール類、アミン類等は好ましくない。
【0048】
開環反応の反応圧力は、常圧もしくは加圧のいずれの条件でも実施でき、特に制限はないが、一般的には、大気圧条件で十分である。
【0049】
開環反応の反応系の雰囲気は、特に制限はないものの、引火性化合物を取り扱うために、防災上の観点からは、一般的には不活性ガスの雰囲気下が望ましく、不活性ガスの具体例としては窒素もしくはアルゴン等が挙げられる。
【0050】
開環反応の反応時間は、0.1〜100時間、好ましくは1〜50時間で十分である。0.1時間より短いと反応が不完全となる場合や短時間で急激に反応させることにより反応熱で系内の温度が急上昇して危険な場合があり、100時間より長いと経済的に不利になる場合がある。
【0051】
2段階目の加水分解反応について、更に詳しく条件を記載する。
以下の反応式(2)で表される2段階目の「加水分解反応」は、上記の反応式(1)によって表される「開環反応」の生成物である一般式(4)の両末端クロル基含有シラン化合物を更に水と反応せしめることにより、両末端のクロル基同士を加水分解縮合させて、分子内で環状構造を閉じさせ、本発明の目的物質である一般式(1)の新規な環状シロキサン化合物を製造する工程である。
【0052】
【化38】


(式中、X、Rは上述と同じである。)
【0053】
加水分解工程における水と一般式(4)の両末端クロル基含有シラン化合物のモル比は特に制限がなく、任意ではあるが、好ましくは1〜1,000、より好ましくは2〜100の範囲がよい。モル比が1未満では、化学量論的に水が不足の条件となり、未反応のシラン化合物が残存してしまう。また、1,000を超えると経済的に不利となる場合がある。
【0054】
加水分解工程の反応温度は、特に制限はないが、好ましくは0〜100℃、より好ましくは3〜50℃の範囲がよい。反応温度が100℃より高いと水が沸騰して突沸等の現象を起こす場合や不純物が発生する場合があり、一方、反応温度が0℃より低いと水が固化して撹拌性に支障を来す場合や反応速度が必要以上に遅くなる場合がある。
【0055】
加水分解工程においては、反応原料の混合方法には特に制限はない。一般式(4)の両末端クロル基含有シラン化合物を含む1段階目の「開環反応」の反応混合物に水を滴下してもよいし、水にその反応混合物を滴下してもよい。
【0056】
加水分解工程においては、有機溶媒を必要に応じて使用しても構わない。なお、有機溶媒は反応前に添加する場合もしくは反応後に添加する場合のどちらでも構わない。好ましくは、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、デカリン等の芳香族系炭化水素、ヘキサン、イソオクタン、オクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、パラフィン等の脂肪族系炭化水素、ジブチルエーテルやジプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、ヘキサメチルジシロキサンやジメチルシリコーンオイル等のシロキサン類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類又は前記したような非プロトン性極性溶剤等の種々の溶媒を単独もしくは複数の組み合わせで用いることができる。
【0057】
また、加水分解工程後に公知の手段により水で有機層を洗浄してもかまわない。また、水洗後の残留水分については、Na2SO4,CaCl2等の市販の乾燥剤により蒸留前に脱水してもよく、特に脱水することなくして、蒸留時に溶剤と共に留去してもよい。
【0058】
反応圧力は、常圧もしくは加圧のいずれの条件でも実施でき、特に制限はないが、一般的には、大気圧条件で十分である。
【0059】
反応系の雰囲気は、特に制限はないものの、引火性化合物を取り扱うために、防災上の観点からは、一般的には不活性ガスの雰囲気下が望ましく、不活性ガスの具体例としては窒素もしくはアルゴン等が挙げられる。
【0060】
反応時間は、0.1〜100時間、好ましくは1〜50時間で十分である。0.1時間より短いと反応が不完全となる場合があり、100時間より長いと経済的に不利になる場合がある。
【0061】
上記した製造方法により、目的物質である下記一般式(1)の環状シロキサン化合物が得られる。
【化39】


(式中、Xは脂肪族不飽和結合を含有した有機基、好ましくは
【化40】


(R1、R2、R3、Q1、Z、nは上記の通り。)
であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基である。)
【0062】
本発明の製造方法により得られる一般式(1)の1分子構造中に脂肪族不飽和結合含有有機基とフッ素原子含有アルキル基の両方を保有した新規な環状シロキサン化合物としては、具体的には以下のものが挙げられるが、本発明はこれら例示に限定されるものではない。
【0063】
【化41】

【0064】
【化42】

【0065】
本発明における新規な環状シロキサン化合物は、それよりも低沸点の溶剤類があれば、まず溶剤類を所定の蒸留条件にて系外に留去させた後、好ましくは13kPa以下、より好ましくは7kPa以下の減圧条件で、一般的な蒸留操作を行うことによって、高純度に生成することができる。
【0066】
なお、開環反応及び加水分解反応、更に水洗及び蒸留のすべての工程において、脂肪族不飽和結合含有有機基の自己重合反応による反応混合物の増粘やゲル化等の現象により、目的物の収量が損なわれることを防止するために、公知の重合禁止剤を添加しても構わない。重合禁止剤として具体的には、ハイドロキノンやハイドロキノンモノメチルエーテルといったフェノール性化合物、4−メチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレイト、2,2−チオ−ジエチレン−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)モノアクリレート等のヒンダードフェノール系化合物、塩化第一銅、塩化第二銅、酸化第一銅、酸化第二銅、硫酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸銅等の銅化合物、フェノチアジン等のイオウ原子含有化合物、オクチル化ジフェニルアミン、p−フェニレンジアミン等の窒素原子含有化合物や亜リン酸トリフェニル等のリン原子含有化合物、桐油、脱水ヒマシ油、共役リノール油等の脂肪族共役不飽和結合含有化合物等が一般的な例として挙げられる。
【0067】
これら重合禁止剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用でき、また、その添加量は特に制限されないが、反応混合液中に含まれる一般式(1)で示される化合物に対して0.01〜10質量%、特に0.1〜1質量%の範囲で添加することが好ましい。0.01質量%未満では安定効果が乏しい場合があり、10質量%を超えると経済的に不利な場合がある。
【0068】
本発明の環状シロキサン化合物の製造方法によって得られる1分子構造中に脂肪族不飽和結合含有有機基とフッ素原子含有アルキル基の両方を保有した新規な環状シロキサン化合物は、シリコーン樹脂やシリコーンオイルに新規な物性を付与する改質剤、又は重合性モノマーとして使用されることにより、各種ポリマーの改質剤等として産業上有用である。本化合物を例えば酸もしくはアルカリ触媒の存在下で単独もしくは他の環状もしくは直鎖状のポリシロキサン類と共に平衡化反応を行うことにより、脂肪族不飽和結合含有有機基とフッ素含有アルキル基を共に有するシロキサンユニットがブロック的に構造中に導入されたシリコーンオイルやシリコーンゴムが得られ、各種特性の向上をもたらす。また、本化合物単独もしくは他の不飽和結合含有有機基を保有する化合物と組み合わせで、公知の重合方法により得られた重合物は、フッ素含有アルキル基を有する環状シロキサン構造がペンダント状に重合物主鎖に配置されるものとなり、フッ素原子とシロキサンのそれぞれが保有する特性、例えば撥水性、撥油性、耐候性、耐溶剤性、耐薬品性、潤滑性、風合い等の性質の更なる向上もしくは新規な付与を重合物にもたらすものである。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]1−ビニル−3,5,7−トリス(3’,3’,3’−トリフルオロプロピル)−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの合成
還流冷却管、撹拌機及び温度計を備えて窒素置換を十分に行った四つ口フラスコ中に、1,3,5−トリス(3’,3’,3’−トリフルオロプロピル)−1,3,5−ヘキサメチルシクロトリシロキサン140.6g(0.3モル)を40〜50℃に加温して固体状態のものを溶解してから仕込んだ。次いで、ビニルメチルジクロロシラン42.3g(0.3モル)を仕込んだ。更に、放冷状態で撹拌しながら、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)0.3g(0.0015モル)を滴下した後、50℃前後に温調して2時間熟成したところ、ガスクロマトグラフィーによる内部組成の分析により、開環反応は完結していることが確認され、合成中間体の両末端クロル基含有シラン化合物の生成量は約91GC%であった。
【0071】
次いで、還流冷却管、撹拌機及び温度計を備えて窒素置換を十分に行った別の四つ口フラスコ中に、水162gを仕込み、氷で冷やして撹拌しながら10℃以下で上記の開環反応液を1時間で滴下した。滴下終了後、30分間熟成したところ、加水分解反応が完結していることを確認した。次いで、イソオクタン180gを反応器に投入した後、公知の手段により水洗した。水洗後の上層の有機層を減圧条件で濃縮してイソオクタンを除去してから、減圧条件の蒸留操作により、沸点が101〜105℃(0.1〜0.2kPa)の液状の留分114gを捕集した。捕集した留分の純度は99%(数種類の構造異性体の混合物)であり、その質量より、収率はビニルメチルジクロロシランに対して68%であった。
【0072】
得られた上記留分の赤外線吸収(IR)スペクトル、ガスマススペクトル及び核磁気共鳴スペクトル(プロトン)の測定を行ったところ、測定結果は以下に示す通りである。
これら結果から、得られた上記留分は1−ビニル−3,5,7−トリス(3’,3’,3’−トリフルオロプロピル)−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンであると同定された。
・赤外線吸収(IR)スペクトル
図1に示す。
・ガスマススペクトル
分子量:554
77:CF2=CH2−CH2+
555:(M+H)+(イソブタン系CI)
・核磁気共鳴スペクトル(プロトン、溶媒CDCl3
【化43】


(注)a〜eは各プロトンを示す。
・NMRスペクトル:ppm(δ)(in CDCl3
a:0.16〜0.17,d,9H
b:0.20,s,3H
c:0.74〜0.84,m,6H
d:1.96〜2.16,m,6H
e:5.74〜6.10,m,3H
【0073】
[実施例2]1−(3’−メタクリロキシプロピル)−3,5,7−トリス(3”,3”,3”−トリフルオロプロピル)−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの合成
還流冷却管、撹拌機及び温度計を備えて窒素置換を十分に行った四つ口フラスコ中に、1,3,5−トリス(3’,3’,3’−トリフルオロプロピル)−1,3,5−ヘキサメチルシクロトリシロキサン117.1g(0.25モル)及び3−メタクリロキシプロピルメチルジクロロシラン60.3g(0.25モル)を仕込んだ。次いで、放冷状態で撹拌しながら、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)0.2g(0.0013モル)を滴下した後、50℃前後に温調して3時間熟成したところ、ガスクロマトグラフィーによる内部組成の分析により、開環反応は完結していることが確認され、合成中間体の両末端クロル基含有シラン化合物の生成量は約84GC%であった。
【0074】
次いで、還流冷却管、撹拌機及び温度計を備えて窒素置換を十分に行った別の四つ口フラスコ中に、水136gを仕込み、氷で冷やして撹拌しながら10℃以下で、上記の開環反応液を4時間で滴下した。滴下終了後、1時間熟成したところ、加水分解反応が完結していることを確認した。次いで、イソオクタン184gを反応器に投入した後、公知の手段により水洗した。水洗後の上層の有機層に重合禁止剤としてジメチルジチオカルバミン酸銅0.48gと1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン0.48gを添加後、減圧条件で濃縮してイソオクタンを除去してから、減圧条件の蒸留操作により、沸点が148〜163℃(0.1〜0.2kPa)の液状の留分106gを捕集した。捕集した留分の純度は99%(数種類の構造異性体の混合物)であり、その質量より、収率は3−メタクリロキシプロピルメチルジクロロシランに対して64%であった。
【0075】
得られた上記留分の赤外線吸収(IR)スペクトル、ガスマススペクトル及び核磁気共鳴スペクトル(プロトン)の測定を行ったところ、測定結果は以下に示す通りである。
これらの結果から、得られた上記留分は1−(3’−メタクリロキシプロピル)−3,5,7−トリス(3”,3”,3”−トリフルオロプロピル)−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンであると同定された。
・赤外線吸収(IR)スペクトル
図2に示す。
・ガスマススペクトル
分子量:654
639:(M−CH3+
69:CO−C(CH3)=CH2+
77:CF2=CH2−CH2+
41:CH2=CH−CH2+
・核磁気共鳴スペクトル(プロトン、溶媒CDCl3
【化44】


(注)a〜jは各プロトンを示す。
・NMRスペクトル:ppm(δ)(in CDCl3)
a:0.14,s,3H
b:0.16,s,9H
c:0.56〜0.65,qui,2H
d:0.73〜0.83,qui,6H
e:1.65〜1.77,m,2H
f:1.94,s,3H
g:1.96〜2.15,m,6H
h:4.06〜4.15,t,2H
i:5.55,m,1H
j:6.10,m,1H
【0076】
[実施例3]1−ノルボルネニル−3,5,7−トリス(3’,3’,3’−トリフルオロプロピル)−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの合成
還流冷却管、撹拌機及び温度計を備えて窒素置換を十分に行った四つ口フラスコ中に、1,3,5−トリス(3’,3’,3’−トリフルオロプロピル)−1,3,5−ヘキサメチルシクロトリシロキサン117.1g(0.25モル)及びノルボルネニルメチルジクロロシラン51.8g(0.25モル)を仕込んだ。次いで、放冷状態で撹拌しながら、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)0.2g(0.0013モル)を滴下した後、50℃前後に温調して3時間熟成したところ、ガスクロマトグラフィーによる内部組成の分析により、開環反応は完結していることが確認され、合成中間体の両末端クロル基含有シラン化合物の生成量は約85GC%であった。
【0077】
次いで、還流冷却管、撹拌機及び温度計を備えて窒素置換を十分に行った別の四つ口フラスコ中に、水136gを仕込み、氷で冷やして撹拌しながら10℃以下で、上記の開環反応液を1時間で滴下した。滴下終了後、1時間熟成したところ、加水分解反応が完結していることを確認した。次いで、イソオクタン180gを反応器に投入した後、公知の手段により水洗した。水洗後の上層の有機層を減圧条件で濃縮してイソオクタンを除去してから、減圧条件の蒸留操作により、沸点が123〜132℃(約0.2kPa)の液状の留分98gを捕集した。捕集した留分の純度は98%(数種類の構造異性体の混合物)であり、その質量より、収率はノルボルネニルメチルジクロロシランに対して63%であった。
【0078】
得られた上記留分の赤外線吸収(IR)スペクトル、ガスマススペクトル及び核磁気共鳴スペクトル(プロトン)の測定を行ったところ、測定結果は以下に示す通りである。
これらの結果から、得られた上記留分は1−ノルボルネニル−3,5,7−トリス(3’,3’,3’−トリフルオロプロピル)−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンであると同定された。
・赤外線吸収(IR)スペクトル
図3に示す。
・ガスマススペクトル
分子量:620
620:M+
66:C65
・核磁気共鳴スペクトル(プロトン、溶媒CDCl3
図4に示す。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施例1で得られた化合物の赤外線吸収(IR)スペクトルのチャートである。
【図2】実施例2で得られた化合物の赤外線吸収(IR)スペクトルのチャートである。
【図3】実施例3で得られた化合物の赤外線吸収(IR)スペクトルのチャートである。
【図4】実施例3で得られた化合物の核磁気共鳴スペクトル(プロトン、溶媒CDCl3)のチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とする環状シロキサン化合物。
【化1】


(式中、Xは脂肪族不飽和結合を含有した有機基であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基である。)
【請求項2】
Xが、
【化2】


(式中、R1、R2、R3は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基であり、同一であっても異なっていてもよく、Q1は2価の有機基であり、Zは3価の有機基であり、nは0又は1である。)
である請求項1記載の環状シロキサン化合物。
【請求項3】
1が、直鎖状、分岐鎖状又は環状の炭素数1〜8のアルキレン基、又は分枝を有することがあるアルキレン基であって主鎖もしくは側鎖の一方又は双方のメチレン単位が−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−C64−、−OC64−、−C64O−、−S−からなる群より選ばれる置換基の一つ又は複数により置換され、アルキレン基の主鎖が炭素数1〜8である請求項2記載の環状シロキサン化合物。
【請求項4】
Zが、R1、R2の結合する不飽和結合を構成単位として環状構造を形成する炭素数1〜21の3価の炭化水素基、又は該環状構造を形成する部分のメチレン単位が−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−C64−、−OC64−、−C64O−、−S−からなる群より選ばれる置換基の一つ又は複数により置換されている炭素数2〜21の3価の炭化水素基である請求項2又は3記載の環状シロキサン化合物。
【請求項5】
Xが、
【化3】


であり、R1、R2、R3は独立に水素原子もしくはメチル基であり、式(1)中のRがメチル基である請求項1記載の環状シロキサン化合物。
【請求項6】
Xが、
【化4】


であり、R1、R2、R3は独立に水素原子もしくはメチル基であり、Q1が−C64−又は
【化5】


であり、mが1〜3であり、式(1)中のRがメチル基である請求項1記載の環状シロキサン化合物。
【請求項7】
Xが、
【化6】


であり、R1、R2は独立に水素原子もしくはメチル基であり、Z−(Q1n−が
【化7】


(式中、Q2は−(CH2r−又はこの−(CH2r−のメチレン単位が−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−C64−、−OC64−、−C64O−、−S−からなる群より選ばれる置換基の一つ又は複数により置換された基、Q3は炭素数1〜8の1価炭化水素基であり、p及びqは0又は1、rは1〜8の整数である。)
であり、式(1)中のRがメチル基である請求項1記載の環状シロキサン化合物。
【請求項8】
下記一般式(2)で示される脂肪族不飽和結合含有有機基を有するジクロロシラン化合物と下記式(3)で示されるフッ素原子含有環状シロキサン化合物とを、触媒の存在下において反応せしめ、次いでその反応混合物を水と反応させることを特徴とする下記一般式(1)の環状シロキサン化合物の製造方法。
【化8】


(式中、Xは脂肪族不飽和結合を含有した有機基であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基である。)
【化9】


(式中、X及びRは上記の通り。)
【請求項9】
触媒が、非プロトン性極性溶剤、4級アンモニウム塩、及び4級ホスホニウム塩からなる群の中から選ばれる化合物である請求項8記載の環状シロキサン化合物の製造方法。
【請求項10】
触媒が、ジメトキシエタン、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、及びアセトニトリルからなる群の非プロトン性極性溶剤の中から選ばれる化合物である請求項9記載の環状シロキサン化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−23021(P2007−23021A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137418(P2006−137418)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】