説明

曲げモーメントセンサとそれを用いた操作ハンドル

【課題】曲げモーメントセンサとそれを用いた操作ハンドルにおいて、簡単な構成により、従来のトルクセンサと同等の強度や感度に対する信頼性を有して曲げモーメントを直接検出可能とし、簡単な構造の操作ハンドルを実現する。
【解決手段】曲げモーメントセンサ1は、被計測体1aに発生する曲げモーメントの向きを検出可能なように互いの位置をずらして被計測体1aの表面に固着される2つの磁歪体2と、磁歪体2の各々を個別に励磁すると共に磁歪の変化を検出する2つのコイル3と、各コイル3が発生する磁界に対する磁路を形成するヨーク4と、を備え、磁歪体2には、被計測体1aに加えられる曲げモーメントによって伸縮する方向に複数の互いに平行なスリット21が形成されている。これらの各部品は、不図示の保護部材によって、被計測体1aの表面に固定被覆され、コイル3からの信号は各コイルの電流端子3a,3bを介して出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁歪体による曲げモーメントセンサとそのセンサを用いた操作ハンドルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸体に固着されて軸体と共に変形する磁歪体の変形を磁気的に検出することによって軸体のねじれを検出し、その軸体にねじれを発生させているトルクを検出するトルクセンサが知られている(例えば、特許文献1,2,3参照)。このようなトルクセンサは、トルクを生成するもととなる、軸体の軸に直交する面内の力、を検出することができる。つまり、トルクセンサは、軸体に加わる曲げモーメントを間接的に検出することができる。そこで、このトルクセンサは、パワーアシスト付運搬車において、操作者が運搬車を前後移動や旋回移動させるため操作する操作ハンドルに適用されている。例えば、図13に示す操作ハンドル9は、水平配置された操作棒91と、操作棒91から下に延びる上下軸92と、上下軸92を支持する水平軸93と、水平軸93の左右両端を運搬車の車体壁94に固定する固定部95と、上下軸92に取り付けられたトルクセンサ92aと、水平軸93に取り付けられたトルクセンサ93aと、を備えている。操作棒91、上下軸92、水平軸93は、互いに一体化されている。操作者が、運搬車の移動を操作するため、車体壁94に対して前後方向aと旋回方向Rとなる操作力を操作棒91に加えると、前後方向aの力がトルクセンサ93aによって検出され、旋回方向Rの力がトルクセンサ92aによって検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−159257号公報
【特許文献2】特開平07−113698号公報
【特許文献3】特開平07−113702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した図13に示されるようなトルクセンサを用いた従来の操作ハンドルにおいては、上下軸92に発生する前後方向の曲げモーメントを直接検出するのではなく、上下軸92に対して90度回転した配置の水平軸93に発生するトルクをトルクセンサ93aによって検出することにより、間接的に前後方向の力(押し引き方向の力)を検出している。また、トルクセンサを用いるものでは、曲げモーメントの存在面に直交する軸におけるトルクを検出するように、トルクセンサを押し引き方向から90度回転して配置する必要があり、構造が複雑になってしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解消するものであって、簡単な構成により、従来のトルクセンサと同等の強度や感度に対する信頼性を有して曲げモーメントを直接検出できる曲げモーメントセンサおよび構造を簡単にすることができる操作ハンドルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、請求項1の発明は、被計測体と共に伸縮する磁歪体に発生する磁歪の変化を検出することにより被計測体に加えられた曲げモーメントを検出する曲げモーメントセンサにおいて、被計測体に発生する曲げモーメントの向きを検出可能なように互いの位置をずらして被計測体の表面に固着される複数の磁歪体と、前記磁歪体の各々を個別に励磁すると共に磁歪の変化を検出する複数のコイルと、を備え、前記磁歪体は、被計測体に加えられる曲げモーメントによって伸縮する方向に複数の互いに平行なスリットが形成されているものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の曲げモーメントセンサにおいて、前記磁歪体は、軸状の被計測体に巻きつけて固着される磁歪膜により構成され、前記磁歪膜は、被計測体に固着された状態で該被計測体の軸方向および周方向においてそれぞれ2分割されて4つの領域とされ、前記領域のうち互いに隣り合わない一対の領域にはそれぞれ前記軸方向に前記複数のスリットが形成され、他の一対の領域にはそれぞれ前記周方向に複数のスリットが形成されているものである。
【0008】
請求項3の発明は、パワーアシストされて移動する運搬車に備えられ、前記運搬車を前進・後退させるパワーアシスト力を制御する信号を発生させるため操作者によって押し引きされる操作ハンドルであって、操作者が押し引き操作する操作部と、前記押し引きの方向に直交する垂直部を有し、前記操作部を前記垂直部を介して前記運搬車に固定するハンドル固定軸と、を備え、前記垂直部に、請求項1または請求項2に記載の曲げモーメントセンサを備えているものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項3に記載の操作ハンドルにおいて、互いに異なる方向の曲げモーメントを検出するように前記曲げモーメントセンサを複数備えたものである。
【0010】
請求項5の発明は、請求項3または請求項4に記載の操作ハンドルにおいて、操作者が前記操作部に力を加えたことにより前記ハンドル固定軸に発生するねじれを検出すると共に前記運搬車を左右に旋回させるパワーアシスト力を制御する信号を発生させるトルクセンサを備えているものである。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5に記載の操作ハンドルにおいて、前記トルクセンサを複数備え、前記各トルクセンサのトルク検出軸を互いに平行にずらしているものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、従来の磁歪材料を用いるトルクセンサと同様の構成において、磁歪材料のスリットパターンを変更するだけで、強度信頼性と出力感度に優れた曲げモーメントセンサが得られる。特に、曲げモーメントを、力学的にトルクに変換することなく、また、変換部材を用いることなく、曲げモーメントの発生場所で直接に検出することができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、磁歪体の取り扱いが容易となる。
【0014】
請求項3の発明によれば、曲げモーメントを力学的にトルクに変換することなく、また、そのような変換部材を用いることなく、曲げモーメントの発生場所で直接検出できるので、簡単な構造で、従って小型の構成で、押し引き力を検出できる操作ハンドルが得られる。
【0015】
請求項4の発明によれば、複数方向の曲げモーメントを検出できるので、例えば、1本の垂直なハンドル固定軸を操作部とする簡単な構成の操作ハンドルによって、操作者から操作ハンドルに加えられる前後方向と左右方向の操作力を検出できる。
【0016】
請求項5の発明によれば、操作ハンドルに加えられる前後方向と旋回方向の操作者による操作力を、簡単な構成で容易に検出できる。
【0017】
請求項6の発明によれば、操作ハンドルに加えられる前後方向の力と、左右方向の力と、旋回方向に加えられる力のモーメントとを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態に係る曲げモーメントセンサの断面透視斜視図、(b)は同センサに用いられる磁歪体の斜視図。
【図2】(a)は同センサの変形例を示す断面透視斜視図、(b)はさらに他の例を示す断面透視斜視図。
【図3】(a)は第2の実施形態に係る曲げモーメントセンサの一部断面図、(b)は同センサに用いられる磁歪体の斜視図、(c)は(b)の磁歪体の展開平面図。
【図4】第3の実施形態に係る操作ハンドルを備えた運搬車の斜視図。
【図5】同操作ハンドルの一部を示す斜視図。
【図6】第4の実施形態に係る操作ハンドルの一部を示す斜視図。
【図7】同操作ハンドルの変形例を示す斜視図。
【図8】第5の実施形態に係る操作ハンドルの一部を示す斜視図。
【図9】同操作ハンドルの実施例を示す側面図。
【図10】図9の操作ハンドルの斜視図。
【図11】同操作ハンドルの変形例を示す斜視図。
【図12】(a)は第6の実施形態に係る操作ハンドルの一部を示す斜視図、(b)同操作ハンドルの側面図。
【図13】従来の操作ハンドルの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る曲げモーメントセンサとそれを用いた操作ハンドルについて、図面を参照して説明する。図中に記載したxyz直交座標系が説明のため適宜参照される。また、z方向を、仮に、上下方向として説明する。
(第1の実施形態)
図1、図2は第1の実施形態を示す。図1(a)に示すように、曲げモーメントセンサ1は、被計測体1aに発生する曲げモーメントの向きを検出可能なように互いの位置をずらして被計測体1aの表面に固着される2つの磁歪体2と、磁歪体2の各々を個別に励磁すると共に磁歪の変化を検出する2つのコイル3と、各コイル3が発生する磁界に対する磁路を形成するヨーク4と、を備え、磁歪体2には、被計測体1aに加えられる曲げモーメントによって磁歪体2が伸縮する方向、図中のz方向に複数の互いに平行なスリット21が形成されている。これらの各部品は、不図示の保護部材によって、被計測体1aの表面に固定被覆され、コイル3からの信号は各コイルの電流端子3a,3bを介して出力される。
【0020】
被計測体1aは、少なくとも、その曲げモーメントの計測位置において、z方向に長い丸棒であり、y方向の外力によって曲げられる際の曲げモーメントを検出することが想定されている。被計測体1aの上部が、下部に対してy方向の正向きの力で曲げられると、その曲げられた部分の表面は、y方向の正側で縮み、負側で伸びる。曲げモーメントセンサ1は、被計測体1aのこれらの伸縮を検出するように、被計測体1aのy方向の正負の表面領域にそれぞれ磁歪体2を固着して備える。すなわち、2つの磁歪体2は、一方が伸びを検出するとき、他方が縮みを検出するように、互いに曲げ方向の反対側の領域A,Bに、それぞれ被計測体1a表面の半周分ずつを覆うように配置されている。コイル3は、一度に伸び、または、縮みの一方のみを検出するように、2つの磁歪体2のそれぞれに対応して個別に配置されている。
【0021】
磁歪体2は、図1(b)に示すように、膜状の磁歪材料から成る磁歪膜にスリット21を形成したものである。スリット21を形成することにより、スリット21間に存在する磁歪体が長手形状となり、その形状異方性によって磁歪体に磁気異方性を付与することができ、伸縮に対する感度が向上される。スリット21の形成には、例えば、半導体やリードフレームなどの加工における各種のエッチング技術などの加工技術や、一般的な金属加工技術を用いることができる。膜状の磁歪体2として、例えば、超急冷片ロール法により作製したアモルファス磁歪合金薄帯を用いることができる。アモルファス磁歪合金は、例えば、Fe−Cr−Si−B系、Fe−Nb−Si−B系、Fe−V−Si−B系、Fe−Co−Si−B系、Fe−W−Si−B系、Fe−Ni−Cr−Si−B系、Fe−Ni−Nb−B系、Fe−Ni−Mo−B系などを用いることができる。
【0022】
次に、曲げモーメントセンサ1の動作を説明する。曲げモーメントセンサ1は、被計測体1aに加えられた曲げモーメントによって表面に発生する歪を、その歪みと共に歪む磁歪体2の透磁率の変化を介して、コイル3の自己インダクタンスの変化として検出し、その変化の大きさから曲げモーメントの大きさを検出する。従って、各コイル3の電流端子3a,3bには、不図示の電流電源およびインダクタンスの変化を検出する回路が接続される。これらの電源や検出回路は、磁歪体を用いたトルクセンサにおけるものと同様のものを用いることができる。例えば、コイル3からの信号はブリッジ回路によって処理することができる。
【0023】
次に、曲げモーメントセンサ1の変形例を説明する。図2(a)に示すように、被計測体1aが板状の場合に、曲げモーメントセンサ1は、被計測体1aが板厚方向であるy方向に曲げられる際の板の両面の伸縮を検出するように、z方向の位置をずらして板の両面に固着された2つの四辺形の磁歪体2と、各磁歪体2に対応して設けられているコイル3(簡略表示されている)と、ヨーク4とを備えて構成される。四辺形の磁歪体2には、その伸縮方向(z方向)にスリット21が形成されている。また、スリット21を形成した磁歪体2に代えて、図2(b)に示すように、z方向に長い形状の磁歪体片をx方向(伸縮方向に直行する方向)に複数配列して固着してもよい。
【0024】
第1の実施形態によれば、従来の磁歪体(磁歪材料)を用いるトルクセンサと同様の構成においてスリットパターンを、トルクセンサにおける回転軸に対する45度方向のスリットパターンから、伸縮方向のスリットパターンに変更するだけで、製造方法や部品は従来のトルクセンサと同じものを活用して曲げモーメントセンサが得られる。本発明によれば、簡単な構成により、従来のトルクセンサと同等またはそれ以上の強度信頼性や出力感度のもとで、曲げモーメントを直接検出できる。なお、曲げモーメントを直接検出できるとは、曲げモーメントを力学的にトルクに変換してトルクセンサによって検出することなく、また、そのような変換部材を用いることなく、曲げモーメントの発生場所で曲げモーメントを検出できる、ということである。
【0025】
(第2の実施形態)
図3(a)(b)(c)は第2の実施形態を示す。本実施形態は、第1の実施形態において、棒状の被計測体1aに対して個別に備えられた磁歪体2を、一体化するものである。すなわち、磁歪体2は、軸状の被計測体1aに巻きつけて固着される磁歪膜により構成され、磁歪膜は、被計測体1aに固着された状態で被計測体1aの軸方向および周方向においてそれぞれ2分割されて4つの領域A,A0,B,B0とされ、これらの領域のうち互いに隣り合わない一対の領域A,Bにはそれぞれ軸方向に複数のスリット21が形成され、他の一対の領域A0,B0にはそれぞれ周方向に複数のスリット22が形成されている。この磁歪体2は、被計測体1aに巻きつけたとき1周する長さとされており、領域Aと領域A0、および領域Bと領域B0とは、それぞれ互いに被計測体1aの中心軸を挟んで対向する配置となる。スリット21は、磁歪体2に磁気異方性を付与するためのものであり、スリット22は、磁気異方性を打ち消したり、磁歪効果を減滅させたりするためのものである。第2の実施形態によれば、磁歪体2の取り扱いが容易となる。
【0026】
(第3の実施形態)
図4、図5は第3の実施形態を示す。本実施形態は、図4に示すように、パワーアシストされて移動する運搬車10に備えられ、運搬車10を前進・後退させるパワーアシスト力を制御する信号を発生させるため操作者によって押し引きされる操作ハンドル5であって、操作者が押し引き操作する左右方向に配置した棒状の操作部51と、運搬車10の前進・後退する方向(前後方向a)に直交する垂直部を有し、操作部51を垂直部を介して運搬車10の固定部50に固定するハンドル固定軸52と、を備え、ハンドル固定軸52における垂直部に、第1または第2の実施形態における曲げモーメントセンサ1を備えるものである。なお、図4では、垂直部が上下方向と想定されているが、垂直部は上下方向とは限らず、左右方向の垂直部に備えた曲げモーメントセンサ1であっても、同様に前後方向aの曲げモーメントを検出することができる。前後方向の曲げモーメントを検出することにより、操作者が操作部51を押し引き操作する操作力の方向と大きさとを計測することができ、その計測結果に基づいて、パワーアシスト力を制御する信号を発生させることができる。運搬車10は、例えば、病院における配膳車であり、操作者は看護師である。看護師が操作ハンドル5を引けば、運搬車10が看護師に向けて移動し、押せば、看護師から離れる方向に移動する。
【0027】
操作ハンドル5は、図5に示すように、棒状のハンドル固定軸52に、その中心軸に関して方向aにおける前後に磁歪体2を配置した曲げモーメントセンサ1を備えている。操作部51は、ハンドル固定軸52と兼用することもでき、この場合、操作ハンドル5は上下方向の1本の操縦桿となる。なお、図5中の磁歪体2等は模式的に図示したものであり、本図以降の図においても同様である。第3の実施形態によれば、曲げモーメントを力学的にトルクに変換することなく、また、そのような変換部材を用いることなく、曲げモーメントの発生場所で直接検出できるので、簡単な構造で、従って小型の構成で、押し引き力を検出してパワーアシスト力を制御する信号を発生させるための操作ハンドルが得られる。
【0028】
(第4の実施形態)
図6は第4の実施形態を示す。本実施形態は、第3の実施形態の操作ハンドル5において、さらに、前後方向aに垂直な水平方向、すなわち左右方向bにおける曲げモーメントを検出するように、曲げモーメントセンサ1をハンドル固定軸52における垂直部に追加したものである。第4の実施形態によれば、操作ハンドルに加えられる前後方向と左右方向の操作力を検出でき、操作ハンドル5の操作によって、運搬車を前後左右に操作することができる。より一般的には、曲げモーメントセンサ1を複数備えて、3次元空間の任意の方向の曲げモーメントを検出するようにでき、これにより、操作部51に加えられる種々の方向の操作力とその方向とを検知して、運搬車10を操作することができる。
【0029】
図7は第4の実施形態の変形例を示す。本変形例では、ハンドル固定軸52が上下方向の垂直部から前後方向に曲げられた水平部53、すなわち、左右方向に直交する水平部53を介して固定部50に固定されており、左右方向bにおける曲げモーメントを検出する曲げモーメントセンサ1が、水平部53に追加されたものである。この構成によっても、前後方向aと左右方向bとにおける操作力を検出することができる。
【0030】
(第5の実施形態)
図8、図9、図10は第5の実施形態を示す。本実施形態は、図8に示すように、第3の実施形態の操作ハンドル5において、操作者が左右方向に配置した棒状の操作部51に力を加えたことにより、上下方向のハンドル固定軸52に発生するねじれを検出すると共に運搬車10を左右に旋回させるパワーアシスト力を制御する信号を発生させるトルクセンサ6を備えているものである。トルクセンサ6は、曲げモーメントセンサ1と同軸となるように、ハンドル固定軸52に取り付けられている。左右方向に配置した棒状の操作部51の中央にハンドル固定軸52が固定されているので、例えば、操作者が操作部51の右端を引けば、引かれた方向の曲げモーメントがハンドル固定軸52に発生すると共に、右回りのトルクがハンドル固定軸52に発生する。このような曲げモーメントとトルクとをそれぞれ、曲げモーメントセンサ1とトルクセンサ6とで検出することにより、運搬車を前後方向aと旋回方向Rとに移動させるためのパワーアシスト力を制御する信号を発生させることができる。このような操作ハンドル5の実施例は、図9、図10に示すように、水平の操作部51と、上下のハンドル固定軸52とからなる簡単で、コンパクトな構成となっている。第5の実施形態によれば、操作ハンドル5に加えられる前後方向と旋回方向の操作者による操作力を、簡単な構成で容易に検出できる。
【0031】
図11は第5の実施形態の変形例を示す。本変形例では、ハンドル固定軸52の上下の垂直部にトルクセンサ6を備えて旋回用の操作力を検出し、ハンドル固定軸52の前後方向の水平部53に曲げモーメントセンサ1を備えて上下方向の曲げモーメントの検出によって前後方向の操作力を検出する。本変形例では、ハンドル固定軸52を90度曲げて、操作ハンドル5を固定部50に固定しており、曲げモーメントの向きが変換されたものとなっている。曲げモーメントセンサ1とトルクセンサ6の組み合わせは、ハンドル固定軸52の形状と組み合わせて種々可能であり、実際の運搬車への応用に適した構成を選択することができる。
【0032】
(第6の実施形態)
図12は第6の実施形態を示す。本実施形態は、図12(a)に示すように、曲げモーメントセンサ1に加え、2つのトルクセンサ6を備える操作ハンドル5であり、2つのトルクセンサ6のトルク検出軸が互いに平行とされているものである。図12(b)に示すように、水平左右方向の棒状の操作部51の中心を原点として、操作部51に向かって手前方向にx軸、右方向にy軸、上方向にz軸を設定した直交座標系において、3つのセンサは、xz平面にあって上下方向の軸回りに設けられている。ハンドル固定軸52は、xz平面にあって、一端が操作部51の中央に固定され、他端が下方の固定部50に固定されている。ハンドル固定軸52は、その両端の間に、それぞれz軸から距離L1,L2の位置にある互いに平行な上下方向の軸を有し、各軸にトルクセンサ6が設けられており、それぞれがトルクT1,T2を出力する。曲げモーメントセンサ1は、ハンドル固定軸52の上下方向の軸上における、操作部51から下向きの距離Dの位置に設けられて、前後方向の曲げモーメントMsを検出して出力する。
【0033】
上述の各センサ配置のもとで、操作部51に、x軸方向の力Fxと、y軸方向の力Fyと、z軸回りに回転する力のモーメントMとが加えられたとする。すると、操作部51への入力(力と力のモーメント、総称して操作力と呼ぶ)Fx,Fy,Mと、センサの出力T1,T2,Msとの間に、以下の関係が成り立つ。
T1=M+Fy・L1、
T2=M+Fy・L2、
Ms=Fx・D。
上述の式から、操作力Fx,Fy,Mが以下のように求められる。
Fx=Ms/D、
Fy=(T1−T2)/(L1−L2)、
M=T1−(T1−T2)・L1/(L1−L2)。
【0034】
第6の実施形態によれば、操作ハンドル5に加えられる前後方向の力Fxと、左右方向の力Fyと、旋回方向に加えられる力のモーメントMと、を検出することができる。すなわち、2つのトルクセンサ出力値の差分から左右方向の力を演算で求め、どちらかのトルクセンサ出力値と、前記で求めた左右方向の力とから、演算によって、操作ハンドル5に加えられた力のモーメント(回転力と称する)を算出することができる。このような、操作ハンドル5による操作力Fx,Fy,Mの情報は、運搬車10の移動制御、特に、運搬車10が、全方向移動可能な駆動輪と制御装置を有する運搬車の移動制御に、有効に適用されて、応答性の良い移動制御ができるという効果が発揮される。なお、全方向移動可能な運搬車は、前後左右の平行移動が自在に行えることに加え、その場回転が自在に行える運搬車である。
【0035】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、上述した各実施形態の構成を互いに組み合わせた構成とすることができる。ヨーク4は、各コイル3毎に個別に設けてもよく、ヨーク4を備えない構成としてもよい。操作ハンドル5の形状は、上述したものに限らず、任意のものとすることができる。また、操作ハンドル5を適用する運搬車は、パワーアシストされて移動する運搬車であれば、その形状や大小関係にかかわらず適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 曲げモーメントセンサ
1a 被計測体
10 運搬車
2 磁歪体(磁歪膜、磁歪材料)
21 スリット
22 スリット
3 コイル
5 操作ハンドル
51 操作部
52 ハンドル固定軸
6 トルクセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測体と共に伸縮する磁歪体に発生する磁歪の変化を検出することにより被計測体に加えられた曲げモーメントを検出する曲げモーメントセンサにおいて、
被計測体に発生する曲げモーメントの向きを検出可能なように互いの位置をずらして被計測体の表面に固着される複数の磁歪体と、
前記磁歪体の各々を個別に励磁すると共に磁歪の変化を検出する複数のコイルと、を備え、
前記磁歪体は、被計測体に加えられる曲げモーメントによって伸縮する方向に複数の互いに平行なスリットが形成されていることを特徴とする曲げモーメントセンサ。
【請求項2】
前記磁歪体は、軸状の被計測体に巻きつけて固着される磁歪膜により構成され、
前記磁歪膜は、被計測体に固着された状態で該被計測体の軸方向および周方向においてそれぞれ2分割されて4つの領域とされ、前記領域のうち互いに隣り合わない一対の領域にはそれぞれ前記軸方向に前記複数のスリットが形成され、他の一対の領域にはそれぞれ前記周方向に複数のスリットが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の曲げモーメントセンサ。
【請求項3】
パワーアシストされて移動する運搬車に備えられ、前記運搬車を前進・後退させるパワーアシスト力を制御する信号を発生させるため操作者によって押し引きされる操作ハンドルであって、
操作者が押し引き操作する操作部と、
前記押し引きの方向に直交する垂直部を有し、前記操作部を前記垂直部を介して前記運搬車に固定するハンドル固定軸と、を備え、
前記垂直部に、請求項1または請求項2に記載の曲げモーメントセンサを備えていることを特徴とする操作ハンドル。
【請求項4】
互いに異なる方向の曲げモーメントを検出するように前記曲げモーメントセンサを複数備えたことを特徴とする請求項3に記載の操作ハンドル。
【請求項5】
操作者が前記操作部に力を加えたことにより前記ハンドル固定軸に発生するねじれを検出すると共に前記運搬車を左右に旋回させるパワーアシスト力を制御する信号を発生させるトルクセンサを備えていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の操作ハンドル。
【請求項6】
前記トルクセンサを複数備え、前記各トルクセンサのトルク検出軸を互いに平行にずらしていることを特徴とする請求項5に記載の操作ハンドル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−133257(P2011−133257A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290791(P2009−290791)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】