説明

有機半導体層の形成方法、有機半導体構造物及び有機半導体装置

【課題】 電荷移動度と配向性のよい均一な薄膜を塗布形成により容易に作製できる有機半導体層の形成方法を提供する。
【解決手段】 有機半導体材料と溶媒とを混ぜることによりサーモトロピック混合液晶相を発現することになる混合物を用いて、混合液晶状態の塗布膜を形成する工程と、その塗布膜を混合液晶状態を呈しない温度まで冷却させ、もしくは冷却させながら溶媒を除いて、前記有機半導体材料のスメクチック液晶相又は結晶相からなる有機半導体層を形成する工程とを有する。上記塗布膜については、混合物を加温して塗布することにより形成されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷移動度と配向性のよい均一な薄膜を容易に作製できる有機半導体層の形成方法、有機半導体構造物及び有機半導体装置に関し、更に詳しくは、有機半導体材料と溶媒とからなる混合液晶状態を経由して形成する有機半導体層の形成方法、有機半導体構造物及び有機半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体層を有した有機半導体構造物についての研究が注目され、各種のデバイスへの応用が期待されている。そうした応用として、大面積のフレキシブルディスプレイ装置等に利用可能な薄膜トランジスタ(有機TFTともいう。)、発光素子、太陽電池等が研究対象となっている。
【0003】
有機半導体構造物が実用レベルで利用されるためには、有機半導体層が広い使用温度範囲において安定した電荷移動度を示すことが必要であると共に、広い面積で均一な薄膜を容易に作製できることが必要である。特に、従来のような蒸着等による成膜ではなく、塗布形成による成膜が可能になれば、広い面積に均一な有機半導体層を容易に作製することができるようになる。また、有機半導体層を単に塗布形成できるだけでは十分ではなく、常温を含む広い使用温度範囲(−40〜+90℃程度)で安定した電荷移動度を示すことも重要である。
【0004】
なお、本発明に関連する先行技術文献として、例えば非特許文献1には、n−キシレン溶媒中に半導体オリゴマーである5,5-bis(4-hexylphenyl)-2,2'-bithiophene(6PTTP6で略記する。)を混ぜた混合物から有機半導体層を形成する研究が報告されている。この方法は、6PTTP6とn−キシレンとを混合してリオトロピック液晶状態とし、溶媒を揮発させながら液晶分子を配向させる濃度誘起型の混合液晶を用いて有機半導体層を形成する方法である。
【非特許文献1】H.K.Katz, T.Sigrist, et al., J.Phys.Chem., B 2004, 108, p.8567-8571.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記要請に基づいてなされたものであって、その目的は、電荷移動度と配向性のよい均一な薄膜を塗布形成により容易に作製できる有機半導体層の形成方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そうした方法で形成された有機半導体層を有する有機半導体構造物及び有機半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の有機半導体層の形成方法は、有機半導体材料と溶媒とを混ぜることによりサーモトロピック混合液晶相を発現することになる混合物を用いて、混合液晶状態の塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を混合液晶状態を呈しない温度まで冷却させ、もしくは冷却させながら溶媒を除いて、前記有機半導体材料のスメクチック液晶相又は結晶相からなる有機半導体層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、有機半導体材料を溶媒と混ぜてサーモトロピック混合液晶相を発現することになる混合物で混合液晶状態の塗布膜を形成するので、その後の冷却により、よく配向した有機半導体材料のスメクチック液晶相又は結晶相を均一且つ容易に形成することができる。その結果、形成された有機半導体層は、良好な電荷移動度を示すことができる。こうした方法により、従来、塗布による有機半導体層の形成が困難な低分子化合物や高分子化合物についても、混合液晶状態の塗布膜を形成することによって配向性よく形成することができるので、常温を含む広い使用温度範囲(−40〜+90℃程度。以下同じ。)で安定した電荷移動度を示す有機半導体層を容易に形成することができる。
【0008】
本発明の有機半導体層の形成方法は、前記塗布膜が、前記混合物を加温して塗布することにより形成されることを特徴とする。この発明によれば、混合物を加温した後に塗布するので、混合液晶状態の均一な塗布膜を容易に形成することができる。
【0009】
本発明の有機半導体層の形成方法は、前記溶媒が、キシレン、トルエン、メシチレン、テトラリン、モノクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等の芳香族系溶媒から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。キシレン、トルエン、メシチレン、テトラリン、モノクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等の芳香族系溶媒は、有機半導体材料が有するπ共役系の骨格と相互作用することによって混合液晶相を形成していると考えられる。
【0010】
上記目的を達成するための本発明の有機半導体構造物は、上記本発明の方法により形成された有機半導体層を有する有機半導体構造物であって、前記有機半導体層は、少なくとも常温領域でスメクチック液晶相又は結晶相を有することを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、有機半導体層が、有機半導体材料と溶媒とからなる混合液晶状態を経由して形成されるので、形成された有機半導体層は、有機半導体材料の配向性がよく、良好な電荷移動度を示すことができる。その結果、常温を含む広い使用温度範囲で均一で配向性のよい相(スメクチック液晶相又は結晶相)を持つ有機半導体層を有するので、本発明の有機半導体構造物は、有機トランジスタ、有機EL素子、有機電子デバイス又は有機太陽電池の有機半導体構造物として使用可能である。
【0012】
上記目的を達成するための本発明の有機半導体装置は、少なくとも基板、ゲート電極、ゲート絶縁層、有機半導体層、ドレイン電極、及びソース電極を有する有機半導体装置であって、前記有機半導体層が、上記本発明の方法で形成されていることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、有機半導体材料の配向性がよく、良好な電荷移動度を示すことができる有機半導体層を有するので、有機トランジスタ、有機EL素子、有機電子デバイス又は有機太陽電池の有機半導体装置として使用可能である。
【0014】
また、本発明は、上述した本発明の有機半導体構造物を、有機トランジスタ、有機EL素子、有機電子デバイス又は有機太陽電池として使用する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有機半導体層の形成方法によれば、よく配向した有機半導体材料のスメクチック液晶相又は結晶相を均一且つ容易に形成することができるので、良好な電荷移動度を示す有機半導体層を容易に形成することができる。こうした方法により、従来、塗布による有機半導体層の形成が困難な低分子化合物や高分子化合物の有機半導体材料についても、混合液晶状態の塗布膜を形成することにより、それらの化合物の相(スメクチック液晶相又は結晶相)を配向性よく形成することができるので、常温を含む広い使用温度範囲で安定した電荷移動度を示す有機半導体層を容易に形成することができる。
【0016】
本発明の有機半導体構造物及び有機半導体装置によれば、常温を含む広い使用温度範囲で均一で配向性のよい相(スメクチック液晶相又は結晶相)を持つ有機半導体層を有するので、有機トランジスタ、有機EL素子、有機電子デバイス又は有機太陽電池の有機半導体構造物及び有機半導体装置として使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の有機半導体層の形成方法、有機半導体構造物及び有機半導体装置について説明する。
【0018】
(有機半導体層の形成方法)
本発明の有機半導体層の形成方法は、有機半導体材料と溶媒とを混ぜることによりサーモトロピック混合液晶相を発現することになる混合物を用いて、混合液晶状態の塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を混合液晶状態を呈しない温度まで冷却させ、もしくは冷却させながら溶媒を除いて、前記有機半導体材料のスメクチック液晶相又は結晶相からなる有機半導体層を形成する工程と、を有している。以下、各工程について説明する。
【0019】
(塗布膜形成工程)
塗布膜の形成工程は、有機半導体材料と溶媒とを混ぜることによりサーモトロピック混合液晶相を発現することになる混合物を用いて、混合液晶状態の塗布膜を形成する工程である。「混合液晶」とは、一般的には、(i)液晶状態を示す物質と、液晶状態を示さない物質とを混合して液晶相が発現するもの、(ii)液晶状態を示さない物質同士を混合して液晶相が発現するもの、又は、(iii)液晶状態を示す物質同士を混合して、液晶相を発現するもので定義される。また、「混合液晶状態」とは、混合液晶相を発現している状態をいう。本発明においては、有機半導体材料が液晶状態を呈するか否かは問わないが、好ましくは液晶状態を呈する化合物である。そして、サーモトロピック混合液晶とは、相転移温度を有する混合液晶であり、例えば有機半導体材料が液晶性を示すものであっても、その有機半導体材料が示す液晶相とは異なる液晶相を有した液晶である。例えば後述の実施例で示したように、有機半導体材料単体で示すスメクチック相とは異なるスメクチック相を混合液晶状態では発現する。
【0020】
混合物は、加温することによりサーモトロピック混合液晶相を発現する、有機半導体材料と溶媒とで構成されるものである。こうしたものであれば、有機半導体材料の種類や溶媒の種類は特に限定されない。有機半導体材料としては、液晶性を有する有機半導体材料であっても、液晶性を有さない有機半導体材料であってもよい。また、1種のみの有機半導体材料を用いてもよいし、2種以上混合した有機半導体材料を用いてもよい。また、従来の有機半導体層形成技術では、電荷移動度が低いとされてきた低分子又は高分子化合物や、蒸着でしか成膜できていなかった化合物や、塗布形成が困難とされていた化合物を、本発明を適用すれば、有機半導体材料として利用できる可能性がある。具体的な有機半導体材料は、後述の実施例で例示しているが、本発明の要旨の範囲内であれば、それらの実施例に記載のものに限定されない。
【0021】
溶媒は、キシレン、トルエン、メシチレン、テトラリン、モノクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等の芳香族系溶媒から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。これら芳香族系溶媒は、例えば有機半導体材料が有するπ共役系の骨格と相互作用することによって混合液晶相を形成していると考えられる。
【0022】
なお、混合物は、通常、加温することによってサーモトロピック混合液晶相を発現するものであるが、有機半導体材料の種類等によっては、加温しなくても既にサーモトロピック混合液晶相を発現しているものもある。
【0023】
混合液晶状態の塗布膜を形成する方法としては、(i)混合物を加温して混合液晶状態にした後に基板上に塗布して塗布膜を形成する方法と、(ii)混合物を加温された基板上に塗布し、基板の熱によって混合液晶状態の塗布膜に変化させる方法と、(iii)混合物を基板上に塗布した後、基板を加熱して混合物の塗布膜を混合液晶状態の塗布膜に変化させる方法と、を挙げることができる。
【0024】
塗布膜は、混合物を加温して、ネマチック相又はスメクチック相からなる混合液晶状態にて形成されることが好ましい。なお、混合液晶状態は、有機半導体材料と溶媒とが混合されることによる不純物効果により相転移温度が降下するので、有機半導体材料単独の場合よりも低い温度で塗布膜を形成することができる。その結果、塗布膜を、基板上の塗布領域に満遍なく形成できる。また、塗布方法は特に限定されず、従来公知の塗布法や印刷法を採用できる。
【0025】
塗布膜を形成する基板としては、有機半導体層が形成される素子の用途(例えば、有機トランジスタ、有機EL素子、有機電子デバイス又は有機太陽電池等)に応じ、各種の膜が必要に応じて成膜されてなるプラスチック基板やガラス基板等を挙げることができる。
【0026】
(有機半導体層形成工程)
有機半導体層形成工程は、塗布膜を混合液晶状態を呈しない温度まで冷却させ、もしくは冷却させながら溶媒を除いて、有機半導体材料のスメクチック液晶相又は結晶相からなる有機半導体層を形成する工程である。この工程では、混合液晶状態の塗布膜を冷却させて溶媒を除去し、もしくは混合液晶状態の塗布膜を冷却させながら溶媒を除去するので、溶媒除去後の膜は、よく配向した有機半導体材料のスメクチック液晶相又は結晶相が均一に形成された有機半導体層となる。
【0027】
混合液晶状態を呈しない温度までの冷却は、通常、自然放冷等で行われる。この冷却時においては、塗布膜中の溶媒が相から排出もしくは押し出される態様等によって除去される。溶媒が除去された後の膜は有機半導体材料で構成されているが、加温された混合液晶状態から順次相転移しながら冷却されるので、有機半導体材料は、常温領域でスメクチック液晶相又は結晶相を呈する際、より規則的に配向し易くなる。その結果、均一で配向性のよい相(スメクチック液晶相又は結晶相)を容易に形成することができるので、形成された有機半導体層は、良好な電荷移動度を示すことができる。
【0028】
有機半導体層がスメクチック液晶相となるか結晶相となるかは、混合液晶の相転移温度によって決定されるが、常温領域でより安定した特性を得ようとする場合には、より規則的な配向を実現して、常温領域で相転移が生じない結晶相であることが望ましい。
【0029】
(有機半導体構造物)
本発明の有機半導体構造物は、上記の方法で形成された有機半導体層を有するものであり、その有機半導体層は、少なくとも常温領域でスメクチック液晶相又は結晶相を有している。なお、本発明において、常温領域とは、有機TFT等の半導体素子の使用温度範囲として一般的な、−40℃〜90℃の範囲を言う。
【0030】
有機半導体層を基板上に形成する場合においては、配向処理された基板上に混合液晶状態の塗布膜を形成し、その後に上記のように冷却して有機半導体材料のスメクチック液晶相又は結晶相からなる有機半導体層を形成することが好ましく、その結果、有機半導体材料の配向性をより向上させることができる。配向処理された基板としては、ポリイミド系材料からなる液晶配向層が形成された基板や、微少な凹凸を表面に有した硬化性樹脂からなる液晶配向層が形成された基板を挙げることができる。
【0031】
本発明の有機半導体構造物は、第一の態様として、基板、液晶配向層、有機半導体層を順次積層したものを挙げることができ、第二の態様として、基板、有機半導体層、液晶配向層を順次積層したものを挙げることができ、第三の態様として、基板、液晶配向層、有機半導体層、液晶配向層を順次積層したものを挙げることができる。本発明においては、有機半導体層を、液晶配向層と接するように構成することによって、有機半導体層に高い配向性を付与することができる。
【0032】
以上説明したように、本発明の有機半導体構造物は、有機半導体層が、有機半導体材料と溶媒とからなる混合液晶状態を経由して形成されるので、形成された有機半導体層は、有機半導体材料の配向性がよく、良好な電荷移動度を示すことができる。その結果、常温を含む広い使用温度範囲で均一で配向性のよい相(スメクチック液晶相又は結晶相)を持つ有機半導体層を有するので、本発明の有機半導体構造物は、有機トランジスタ、有機EL素子、有機電子デバイス又は有機太陽電池の有機半導体構造物として使用可能である。
【0033】
(有機半導体装置)
本発明の有機半導体装置101は、例えば図1に示すように、少なくとも基板11、ゲート電極12、ゲート絶縁層13、有機半導体層14、ドレイン電極15及びソ−ス電極16で構成される。この有機半導体装置101は、有機半導体層14が、上述した本発明の有機半導体層の形成方法で形成されている。
【0034】
構成の一例としては、基板11上に、ゲート電極12、ゲート絶縁層13、配向した有機半導体層14、ドレイン電極15とソ−ス電極16、保護膜17の順に構成される逆スタガー構造(図示しない)、又は、基板11上に、ゲート電極12、ゲート絶縁層13、ドレイン電極15とソース電極16、有機半導体層14、保護膜(図示しない。)の順に構成されるコプラナー構造(図1を参照)、を挙げることができる。こうした構成からなる有機半導体装置101は、ゲート電極12に印加される電圧の極性に応じて、蓄積状態又は空乏状態の何れかで動作する。以下、有機半導体装置の構成部材について詳細に説明する。
【0035】
(基板)
基板11は、絶縁性の材料であれば広い範囲の材料から選択することができる。例えば、ガラス、アルミナ焼結体などの無機材料、ポリイミド膜、ポリエステル膜、ポリエチレン膜、ポリフェニレンスルフィド膜、ポリパラキシレン膜等の各種の絶縁性材料を挙げることができる。特に、高分子化合物からなるフィルム状又はシート状の基板を用いると、軽量でフレシキブルな有機半導体装置を作製することができるので、極めて有用である。なお、本発明で適用される基板11の厚さは、25μm〜1.5mm程度である。
【0036】
(ゲート電極)
ゲート電極12は、ポリアニリン、ポリチオフェン等の有機材料からなる電極又は導電性インキを塗布して形成した電極であることが好ましい。これらの電極は、有機材料や導電性インキを塗布して形成できるので、電極形成プロセスが極めて簡便となるという利点がある。塗布法の具体的な手法としては、スピンコート法、キャスト法、引き上げ法、転写法、インクジェット法等が挙げられる。
【0037】
なお、電極として金属膜を形成する場合には、既存の真空成膜法を用いることができ、具体的には、マスク成膜法又はフォトリソグラフ法を用いることができる。この場合には、金、白金、クロム、パラジウム、アルミニウム、インジウム、モリブデン、ニッケル等の金属、これら金属を用いた合金、ポリシリコン、アモリファスシリコン、錫酸化物、酸化インジウム、インジウム・錫酸化物(ITO)等の無機材料を、電極形成用の材料として挙げることができる。また、これらの材料を2種以上併用してもよい。
【0038】
ゲート電極の膜厚は、その材質の導電率によるが、50〜1000nm程度であることが好ましい。ゲート電極の厚さの下限は、電極材料の導電率及び下地基板との密着強度によって異なる。ゲート電極の厚さの上限は、後述のゲート絶縁層及びソース・ドレイン電極対を設けた際に、下地基板とゲート電極の段差部分におけるゲート絶縁層による絶縁被覆が十分で、かつその上に形成する電極パターンに断線を生ぜしめないことが必要である。特に、可とう性がある基板を使用した場合には、応力のバランスを考慮する必要がある。
【0039】
(ゲート絶縁層)
ゲート絶縁層13は、上記のゲート電極12と同じように、有機材料を塗布して形成したものであることが好ましく、使用される有機材料としては、ポリクロロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリオキシメチレン、ポリビニルクロライド、ポリフッ化ビニリデン、シアノエチルプルラン、ポリメチルメタクリレート、ポリサルフォン、ポリカーボネート、ポリイミド等を挙げることができる。塗布法の具体的な手法としては、スピンコート法、キャスト法、引き上げ法、転写法、インクジェット法等が挙げられる。なお、CVD法等の既存パターンプロセスを用いて形成してもよく、その場合には、SiO、SiN、A1等の無機材料が好ましく使用される。また、これらの材料を2種以上併用してもよい。
【0040】
有機半導体装置の電荷移動度は電界強度に依存するので、ゲート絶縁層の膜厚は、50〜300nm程度であることが好ましい。このときの絶縁耐圧は、2MV/cm以上であることが望ましい。
【0041】
(ドレイン電極及びソース電極)
ドレイン電極15及びソース電極16は、仕事関数の大きい金属で形成されることが好ましい。その理由としては、通常の有機半導体材料は、電荷を輸送するキャリアがホールであることから、有機半導体層14とオーミック接触していることが必要となるからである。ここでいう仕事関数とは、固体中の電子を外部に取り出すのに必要な電位差であり、真空準位とフェルミ準位とのエネルギー差として定義される。好ましい仕事関数としては、4.6〜5.2eV程度であり、具体的には、金、白金、透明導電膜(インジウム・スズ酸化物、インジウム・亜鉛酸化物等)等が挙げられる。透明導電膜は、スパッタリング法、電子ビーム(EB)蒸着法で形成することができる。なお、本発明で適用されるドレイン電極15及びソース電極16の厚さは、50nm程度である。
【0042】
(有機半導体層)
有機半導体層14は、上述した本発明の方法で形成された層である。形成された有機半導体層14は、少なくとも常温を含む温度範囲において整列性のよいスメクチック液晶相又は結晶相を呈するので、均一な大面積の有機半導体装置を構成できるという特徴的な効果がある。
【0043】
なお、有機半導体層を形成する被形成面がゲート絶縁層又は基板である場合には、そのゲート絶縁層又は基板をラビング処理することにより、配向処理膜と、ゲート絶縁層又は基板とを一体のものとすることができる。
【0044】
(層間絶縁層)
有機半導体装置101には、層間絶縁層を設けることが望ましい。層間絶縁層は、ゲート絶縁層13上にドレイン電極15及びソース電極16を形成する際に、ゲート電極12の表面の汚染を防ぐことを目的として形成される。したがって、層間絶縁層は、ドレイン電極15及びソース電極16を形成する前にゲート絶縁層13の上に形成される。そして、ソース電極15及びドレイン電極16が形成された後においては、チャネル領域上方に位置する部分を完全に除去又は一部を除去するように加工される。除去される層間絶縁層領域は、ゲート電極12のサイズと同等であることが望ましい。
【0045】
材料としては、SiO、SiN、Al等の無機材料や、ポリクロロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリオキシメチレン、ポリビニルクロライド、ポリフッ化ビニリデン、シアノエチルプルラン、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリイミド等の有機材料が挙げられる。
【0046】
(有機半導体装置の他の態様)
本発明の有機半導体装置においては、その構成として、(i)基板/ゲート電極/ゲート絶縁層(液晶配向層を兼ねる。)/ソース・ドレイン電極/有機半導体層(/保護層)、(ii)基板/ゲート電極/ゲート絶縁層/ソース・ドレイン電極/液晶配向層/有機半導体層(/保護層)、(iii)基板/ゲート電極/ゲート絶縁層(液晶配向層を兼ねる)/有機半導体層/ソース・ドレイン電極/(保護層)、(iv)基板/ゲート電極/ゲート絶縁層(液晶配向層を兼ねる)/有機半導体層/ソース・ドレイン電極がパタニングされた基板(保護層を兼ねる)、(v)基板/ソース・ドレイン電極/有機半導体層/ゲート絶縁層(液晶配向層を兼ねる)/ゲート電極/基板(保護層を兼ねる)、(vi)基板(配向層を兼ねる)/ソース・ドレイン電極/有機半導体層/ゲート絶縁層/ゲート電極/基板(保護層を兼ねる)、又は、(vii)基板/ゲート電極/ゲート絶縁層/ソース・ドレイン電極/有機半導体層/基板(配向層を兼ねる)、とすることもできる。
【0047】
こうした有機半導体装置においては、本発明の方法で得られた有機半導体層を用いることによって、塗布方式で容易に形成することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
【0049】
(実施例1)
下記化学式の5,5’’’-dioctyl-2,2’:5’,2’’:5’’,2’’’-Quaterthiophene(8-QT-8で表される。)と、芳香族系溶媒であるキシレンとを、8-QT-8の含有割合が0.5wt%となるように混ぜた混合物を準備した。一方、シリコン酸化絶縁膜の厚さが3000Å(300nm)のシリコンウエハー上に、ソース・ドレイン電極(電極材:金、密着層:クロム)を蒸着し、続いてPhenyltrichlorosilaneで表面処理を行った。このウエハーを約90℃まで加熱し、これに約90℃まで加温した混合物をスピンコーティング(2000rpm×10sec)で塗布して混合液晶状態の塗布膜を形成し、その後、室温(25℃)まで冷却することで、キシレンを除去し、結晶相からなる有機半導体層を形成した。こうして、有機半導体層が形成されたFET素子を作製した。FET素子の特性評価は、KEITHLEY製237 HIGH VOLTAGE SOURCE MEASURE UNITで行った結果、正孔の電荷移動度は、5.0×10−2cm/Vsであり、ON/OFF比は10程度であった。なお、図2は、有機半導体層が形成されたFET素子の正孔移動度の測定結果を示すグラフである。
【0050】
【化1】

【0051】
(実施例2)
下記化学式の5,5’’’’-Didecyl-2,2’:5’,2’’:5’’,2’’’:5’’’,2’’’’-Quinquetthiophene (10-5T-10で表される。)と、芳香環系溶媒であるメシチレンとを、10-5T-10の含有割合が0.5wt%となるように混ぜた混合物を準備した。一方、シリコン酸化絶縁膜の厚さが3000Å(300nm)のシリコンウエハー上に、ソース・ドレイン電極(電極材:金、密着層:クロム)を蒸着し、続いてPhenyltrichlorosilaneで表面処理を行った。このウエハーを約90℃まで加熱し、これに約90℃まで加温した混合物をスピンコーティング(2000rpm×10sec)で塗布して混合液晶状態の塗布膜を形成し、その後、室温(25℃)まで冷却することで、メシチレンを除去し、結晶相からなる有機半導体層を形成した。こうして、有機半導体層が形成されたFET素子を作製した。FET素子の特性評価は、KEITHLEY製237 HIGH VOLTAGE SOURCE MEASURE UNITで行った結果、正孔の電荷移動度は、3.0×10−2cm/Vsであり、ON/OFF比は10程度であった。なお、図3は、有機半導体層が形成されたFET素子の正孔移動度の測定結果を示すグラフである。
【0052】
【化2】

【0053】
(実施例3)
5,5’’’-dioctyl-2,2’:5’,2’’:5’’,2’’’-Quaterthiophene(8-QT-8で表される。)と、芳香環系溶媒であるキシレンとを、8-QT-8:キシレンが重量%で1:3及び1:1となるように混ぜた混合物を準備した。この2種類の混合物について、加熱ステージ(メトラー・ドレド社製、 FP82HT、FP80HT)を用いた偏光顕微鏡(オリンパス株式会社製、BH2-UMA)によるテクスチャー観察を行った。
【0054】
図4は、8-QT-8とキシレンの含有比の異なる混合液晶を注入したガラスセルを使って、偏光顕微鏡によるテクスチャー観察した結果である。図4(A)は、8-QT-8:キシレン=1:3(重量%)の混合液晶の各温度でのテクスチャーであり、図4(B)は、8-QT-8:キシレン=1:1(重量%)の混合液晶の各温度でのテクスチャーである。なお、図5は、キシレンを含まない8-QT-8のみのテクスチャーを比較として示した。これらのテクスチャーから、混合液晶のテクスチャーには、8-QT-8のみでは見られないテクスチャーが観察された。このテクスチャーは、混合Sm相と思われる。
【0055】
また、8-QT-8:キシレン=1:3(重量%)の混合液晶の相転移温度は、結晶相/69℃/混合Sm相/105℃/等方相であり、8-QT-8:キシレン=1:1(重量%)の混合液晶の相転移温度は、結晶相/69℃/混合Sm相/140℃/等方相であった。また、8-QT-8の相転移温度は、結晶相/80.6℃/SmG相/175.6℃/等方相であった。混合液晶は、キシレンが含まれることによる不純物効果により、相転移温度の降下が認められた。なお、各相間の温度は、その温度の左右の相間の転移温度を示しており、例えば、「結晶相/69℃/混合Sm相」とあるのは、結晶相と混合Sm相との間の相転移温度が69℃であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の有機半導体装置の一例を示す断面図である。
【図2】有機半導体層が形成されたFET素子の正孔移動度の測定結果を示すグラフである。
【図3】有機半導体層が形成されたFET素子の正孔移動度の測定結果を示すグラフである。
【図4】8-QT-8とキシレンの含有比の異なる混合液晶を注入したガラスセルを使って、偏光顕微鏡と加熱ステージによるテクスチャー観察した結果である。
【図5】キシレンを含まない8-QT-8のみのテクスチャーである。
【符号の説明】
【0057】
101 有機半導体装置
11 基板
12 ゲート電極
13 ゲート絶縁層
14 高分子有機半導体層
15 ドレイン電極
16 ソ−ス電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体材料と溶媒とを混ぜることによりサーモトロピック混合液晶相を発現することになる混合物を用いて、混合液晶状態の塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を混合液晶状態を呈しない温度まで冷却させ、もしくは冷却させながら溶媒を除いて、前記有機半導体材料のスメクチック液晶相又は結晶相からなる有機半導体層を形成する工程と、を有することを特徴とする有機半導体層の形成方法。
【請求項2】
前記塗布膜が、前記混合物を加温して塗布することにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体層の形成方法。
【請求項3】
前記溶媒が、キシレン、トルエン、メシチレン、テトラリン、モノクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等の芳香族系溶媒から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機半導体層の形成方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により形成された有機半導体層を有する有機半導体構造物であって、前記有機半導体層は、少なくとも常温領域でスメクチック液晶相又は結晶相を有することを特徴とする有機半導体構造物。
【請求項5】
少なくとも基板、ゲート電極、ゲート絶縁層、有機半導体層、ドレイン電極、及びソース電極を有する有機半導体装置であって、前記有機半導体層が、請求項1〜3のいずれかに記載の方法で形成されていることを特徴とする有機半導体装置。
【請求項6】
請求項4に記載の有機半導体構造物の、有機トランジスタ、有機EL素子、有機電子デバイス又は有機太陽電池としての使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−339473(P2006−339473A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163551(P2005−163551)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】