説明

有機溶剤系導電性高分子分散液の製造方法およびその応用

【課題】 導電性高分子の水系分散液から有機溶剤系分散液への変換を容易にし、有機溶剤系導電性高分子分散液を容易に製造する。
【解決手段】
(1)チオフェンまたはその誘導体をドーパントとなる高分子スルホン酸の存在下で水中または水と水混和性溶剤との混合物からなる水性液中で酸化重合して導電性高分子を合成することにより導電性高分子の水系分散液を得る工程と、
(2)上記導電性高分子の水系分散液に非水系アミンを投入して導電性高分子を凝集させる工程と、
(3)上記導電性高分子の凝集物を水中または水性液中から取り出す工程と、
(4)上記導電性高分子の凝集物を有機溶剤に分散させる工程と
を経由して、水分含有量が10質量%以下の有機溶剤系導電性高分子分散液を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤系導電性高分子分散液およびその応用、すなわち、上記有機溶剤系導電性高分子分散液を乾燥して得られる導電性高分子、上記有機溶剤系導電性高分子分散液とバインダ用樹脂とを混合して得られる有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液、上記有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を乾燥して得られる導電性高分子含有樹脂組成物、上記有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を乾燥して得られる導電性高分子含有樹脂組成物フィルムからなる帯電防止フィルム、上記有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を乾燥して得られる導電性高分子含有樹脂組成物フィルムを導電層として基材シートの一方の面または両面に有する帯電防止シート、上記有機溶剤系導電性高分子分散液を乾燥して得られる導電性高分子を固体電解質とする固体電解コンデンサ、上記有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を乾燥して得られる導電性高分子含有樹脂組成物を固体電解質とする固体電解コンデンサ、上記有機溶剤系導電性高分子分散液を用いて固体電解質を構成する固体電解コンデンサの製造方法、上記有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を用いて固体電解質を構成する固体電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は、その高い導電性により、例えば、帯電防止フィルムや固体電解コンデンサの固体電解質として用いられている。
【0003】
そして、この用途における導電性高分子としては、例えば、チオフェンまたはその誘導体などの重合性モノマーを酸化重合することによって合成したものが用いられている。
【0004】
上記チオフェンまたはその誘導体などの重合性モノマーの酸化重合、特に化学酸化重合を行う際のドーパントとしては、主として有機スルホン酸が用いられ、その中でも、芳香族スルホン酸が適しているといわれており、酸化剤としては遷移金属が用いられ、その中でも、第二鉄が適しているといわれていて、通常、芳香族スルホン酸の第二鉄塩がチオフェンまたはその誘導体などの重合性モノマーの化学酸化重合にあたっての酸化剤兼ドーパント剤として用いられてきた。
【0005】
そして、その芳香族スルホン酸の第二鉄塩の中でも、トルエンスルホン酸第二鉄塩やメトキシベンゼンスルホン酸第二鉄塩などが特に有用であるとされていて、それらを用いた導電性高分子の合成は、それらの酸化剤兼ドーパントをチオフェンまたはその誘導体などの重合性モノマーと混合することにより行うことができ、簡単で、工業化に向いていると報告されている(特許文献1、特許文献2)。
【0006】
しかしながら、トルエンスルホン酸第二鉄塩を酸化剤兼ドーパントとして用いて得られた導電性高分子は、初期抵抗値や耐熱性において、充分に満足できる特性を有さず、また、メトキシベンゼンスルホン酸第二鉄塩を酸化剤兼ドーパントとして用いて得られた導電性高分子は、トルエンスルホン酸第二鉄塩を用いた導電性高分子に比べれば、初期抵抗値が低く、耐熱性も優れているが、それでも、充分に満足できる特性は得られなかった。
【0007】
そこで、本発明者らは、ドーパントとなる有機スルホン酸として、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂などの高分子スルホン酸を用い、導電性が高く、かつ耐熱性が優れた導電性高分子を開発し、それについて既に特許出願をしてきた(PCT/JP2009/57241、PCT/JP2009/57242)。
【0008】
しかしながら、前記の芳香族スルホン酸をドーパントとする場合も、高分子スルホン酸をドーパントとする場合も、重合性モノマーの酸化重合は水中または水と水混和性溶剤との混合物からなる水性液中などの水系で行われるため、導電性高分子は水中または水性液中に分散した状態で得られることになる。
【0009】
そこで、上記のようにして得られた導電性高分子により帯電防止フィルムを形成しようとして、上記導電性高分子の水系分散液にバインダ用樹脂を混合すると、バインダ用樹脂が凝集してしまい、導電性高分子とバインダ用樹脂との充分な混合が短時間内に行えないという問題があった、
【0010】
また、得られた導電性高分子は、固体電解コンデンサの固体電解質として用いるなど、電子デバイスの有機導電性部材の構成にあたって使用されることが多いが、そのような電子デバイス系用途では、水が電子デバイスの金属製部材を腐食させ、電流漏れを生じさせて電力ロスを引き起こす原因になるため、水系分散液では、その取り扱いに細心の注意を払わなければならないという問題があった。
【0011】
そこで、得られた導電性高分子の水系分散液を有機溶剤系分散液へ変える試みがなされている(特許文献3〜5)。
【0012】
しかしながら、これら特許文献3〜5に記載の方法は、濃縮や溶剤置換などを経て導電性高分子の分散液を水系から有機溶剤系に変換していくものであるため、作業効率が充分とは言えず、そのため、コスト高を招くという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−160647号公報
【特許文献2】特開2004−265927号公報
【特許文献3】特許第4038696号公報
【特許文献4】特許第4225785号公報
【特許文献5】特開第4208720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記のような事情に鑑み、導電性高分子の水系分散液から有機溶剤系分散液へ容易に変換し、有機溶剤系導電性高分子分散液を容易に製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、導電性高分子の水系分散液に非水系アミンを添加するときは、導電性高分子が凝集することを見出し、それに基づいて本発明を完成するにいたった。
【0016】
すなわち、本発明は、
(1)チオフェンまたはその誘導体をドーパントとなる高分子スルホン酸の存在下で水中または水と水混和性溶剤との混合物からなる水性液中で酸化重合して導電性高分子を合成することにより導電性高分子の水系分散液を得る工程と、
(2)上記導電性高分子の水系分散液に非水系アミンを投入して導電性高分子を凝集させる工程と、
(3)上記導電性高分子の凝集物を水中または水性液中から取り出す工程と、
(4)上記導電性高分子の凝集物を有機溶剤に分散させる工程と
を経由して製造することを特徴とする、水分含有量が10質量%以下の有機溶剤系導電性高分子分散液の製造方法に関する。
【0017】
また、本発明は、上記有機溶剤系導電性高分子分散液を乾燥して得られる導電性高分子、上記有機溶剤系導電性高分子分散液とバインダ用樹脂とを混合して得られる有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液、上記有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を乾燥して得られる導電性高分子含有樹脂組成物、上記有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を乾燥して得られる導電性高分子含有樹脂組成物フィルムからなる帯電防止フィルム、上記有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を乾燥して得られる導電性高分子含有樹脂組成物フィルムを導電層として基材シートの一方の面または両面に有する帯電防止シート、上記有機溶剤系導電性高分子分散液を乾燥して得られる導電性高分子を固体電解質とする固体電解コンデンサ、上記有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を乾燥して得られる導電性高分子含有樹脂組成物を固体電解質とする固体電解コンデンサ、上記有機溶剤系導電性高分子分散液を用いて固体電解質を構成する固体電解コンデンサの製造方法、上記有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を用いて固体電解質を構成する固体電解コンデンサの製造方法に関する。
【0018】
そして、上記非水系アミンとしては、下記の一般式(1)で表されるアミンが好適に用いられる。
−NH (1)
(式中、Rは、炭素数が6〜30のアルキル基であり、上記アルキル基は、直鎖状のものであってもよく、分岐鎖状のものであってもよい。また、上記アルキル基は、エーテル結合、エステル結合または二重結合を含んでいてもよく、その水素原子が任意に他の原子で置換されていてもよい)
【0019】
また、上記高分子スルホン酸としては、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂が好ましく、上記フェノールスルホン酸ノボラック樹脂としては、次の一般式(2)で表される繰り返し単位を有するものが好ましい。
【化1】

【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、有機溶剤系導電性高分子分散液を容易に製造することができる。すなわち、本発明によれば、導電性高分子の水系分散液への非水系アミンの添加により、水系分散液中の導電性高分子を容易に凝集させることができる。これは、非水系アミンが、導電性高分子のドーパントとして機能する高分子スルホン酸に対し、部分的に結合することにより、導電性高分子が非水性になり、水中または水性液中で導電性高分子の凝集が容易に生じるようになることによるものと考えられる。そして、その凝集物の水中または水性液中からの取り出しも濾過などにより容易に行うことができ、また、凝集物の有機溶剤への分散も非水系アミンの存在により容易に行うことができる。従って、本発明によれば、導電性高分子の水系分散液から有機溶剤系分散液へ容易に変換することができ、それによって、有機溶剤系導電性高分子分散液を容易に製造することができる。
【0021】
また、上記有機溶剤系導電性高分子分散液を乾燥して得られる導電性高分子は、導電性が高く、かつ耐熱性が優れている。これは、導電性高分子の合成にあたってドーパントとして用いた高級スルホン酸が、導電性高分子の合成時、優れた分散剤としても機能し、重合性モノマーとしてのチオフェンまたはその誘導体や必要に応じて添加される触媒などを水中または水性液中を均一に分散させ、かつ合成されるポリマー中にドーパントとして取り込まれ、導電性高分子を高い導電性を有するものにさせるとともに、優れた分散剤として機能することが、耐熱性の優れたものにする要因になっているものと考えられる。
【0022】
また、本発明により得られた有機溶剤系導電性高分子分散液は、非水系のバインダ用樹脂と混合する際に、バインダ用樹脂を凝集させることがないので、導電性高分子とバインダ用樹脂とを短時間で充分に混合することができ、導電性高分子とバインダ用樹脂とが充分に混合した有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を容易に得ることができる。
【0023】
さらに、本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液や有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液は、有機溶剤系なので、固体電解コンデンサの固体電解質層の形成などの電子デバイスの有機導電性部材の構成にあたって、電子デバイスに水による不都合を生じさせることがない。つまり、水系導電性高分子分散液のように、水が電子デバイスの金属製部材を腐食させて漏れ電流を生じさせ、電子デバイスの駆動にあたって電力ロスを生じさせることがない。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明においては、導電性高分子の水系分散液に非水系アミンを添加することにより、導電性高分子を凝集させて水と分離できるようにさせたことに最大の特徴を有するので、まず、これに関する事項から説明する。
【0025】
前記のように、導電性高分子の水系分散液に添加するアミンとしては、一般式(1)で表されるアミンが好ましく、この一般式(1)で表されるアミンの具体例としては、例えば、ヘキシルアミン、へプチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、N−メチルヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−n−ヘキシルアミン、ジ−n−オクチルアミン、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、オレイルアミンなどが挙げられるが、それらの中でも、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミンが好ましく、特に3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンが好ましい。つまり、非水系の1級アミン、2級アミンであれば、導電性高分子の凝集を起こさせることができるが、1級アミンの方が、凝集力が強く、特にアルキル基中に水になじみやすいエーテル結合などの置換基を有するアミンの方の凝集力が強いことから、上記のように、1級アミンのヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミンが好ましいアミンとして挙げられ、さらに、アルキル基中にエーテル結合を有する3−(2−エチルヘキシル)プロピルアミンが特に好ましいアミンとして挙げられる。そして、非水系アミンのアルキル基が長くなりすぎると、常温下ではアミンが固化する傾向があり、そのため、導電性高分子を凝集させる工程でのアミンの取扱い性が低下するおそれがあるので、炭素数が20以下のアミンが好ましく、特に炭素数が14以下のアミンが好ましい。
【0026】
上記非水系アミンの添加により凝集を起こさせる導電性高分子の水系分散液中における導電性高分子の濃度は、特に限定されることはないが、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、また、25質量%以上が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0027】
水系分散液中における導電性高分子を凝集させるための非水系アミンの添加速度は、特に限定させることはないが、分散液を撹拌しながら、ゆっくり添加した方がアミンが均一に拡散されるので好ましい。非水系アミンの添加時の温度は、0〜100℃の範囲で行うことができ、特に5℃以上が好ましく、50℃以下が好ましい。
【0028】
非水系アミンの添加量としては、導電性高分子の水系分散液のpHが3以上になれば、導電性高分子が凝集を起こすようになるので、それに適した量を添加すればよく、非水系アミンの添加が多くなってpHが上昇しても導電性高分子の凝集そのものには問題ないが、pHが11より高くなる導電性高分子に脱ドープが生じるおそれがあるので、pHが11以下の範囲で添加するのが好ましい。
【0029】
導電性高分子の凝集物の水中または水性液中からの取り出しは、例えば、100μmの口径を有するメッシュ(篩)により濾過することによって凝集物を水中または水性液中から分離することにより、簡単に実施することができる。この導電性高分子の凝集物の水中または水性液中からの分離は、残存する水分が少ないほど、好ましいが、完全に水と分離することは要しない。凝集物中に若干の水分が残っている方が次の有機溶剤への分散を早くする面もあり、最終的に得られる有機溶剤系導電性高分子分散液が使用される用途に応じて水分を少なくしておけばよい。
【0030】
つまり、最終的に得られる有機溶剤系導電性高分子分散液が水分を嫌う用途に使用される場合、導電性高分子の凝集物を遠心分離やフィルタープレスなどで凝集物に圧力をかけて水分を減少させつつ水中または水性液中から取り出せばよく、さらに水分の減少が必要な場合は、それに応じて乾燥して水分を少なくすればよい。
【0031】
水中または水性液中から取り出した導電性高分子の凝集物を、有機溶剤に添加し、SG(サイドグラインダー)や超音波ホモジナイザーなどの分散機で分散させることによって、有機溶剤系導電性高分子分散液が得られる。
【0032】
上記有機溶剤系分散液の調製にあたって使用する有機溶剤としては、例えば、n−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、エチレングリコール、ジメチルシルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、メチルエチルケトン、酢酸エチルなどが挙げられるが、それらの中でも、n−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドが好ましく、n−メチルピロリドンが特に好ましい。
【0033】
上記有機溶剤系導電性高分子分散液は、例えば、帯電防止フィルムや帯電防止シートの導電層の作製にあたって、バインダ用樹脂と混合し、有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液とされるが、その際には、幾分かの水分を含んでいても、バインダ用樹脂の凝集を招かないので、水分含有量が10質量%以下であればよい。
【0034】
この有機溶剤系導電性高分子分散液における導電性高分子の濃度は、特に限定されることはないが、均一な分散液を得るという観点からは、導電性高分子の濃度は5質量%以下が好ましく、特に3質量%以下が好ましい。また、導電性高分子の濃度があまりにも低すぎると、この有機溶剤系導電性高分子分散液を用いる場合の作業効率が悪くなるので、0.2質量%以上が好ましく、特に0.5質量%以上が好ましい。
【0035】
有機溶剤系導電性高分子分散液における導電性高分子の濃度が上記の程度であれば、肉眼では、有機溶剤系導電性高分子分散液はほとんど透明に見え、導電性高分子の一部は有機溶剤に溶け、溶解状態で有機溶剤中に分散しているものと考えられる。
【0036】
前記のように、導電性高分子の凝集物は、水中または水性液中(この水や水性液とは、チオフェンまたはその誘導体の酸化重合が行われた系の水や水性液をいう。つまり、チオフェンまたはその誘導体の酸化重合は水中または水性液中で行われている)から濾過により取り出した凝集物は、乾燥固形分が65〜75質量%程度で、35%程度近くまでの水分を含んでいるが、最終的に得られる有機溶剤系導電性高分子分散液における導電性高分子の濃度が5質量%程度までが好ましく、そのような有機溶剤系導電性高分子分散液を得るには、導電性高分子の凝集物がその程度の水分を含んでいても、有機溶剤系導電性高分子分散液の水分含有量を10質量%以下にすることができ、その有機溶剤系導電性高分子分散液の用途によっては、導電性高分子の凝集物中の残存水分量を厳しく押えなくてもよいので、コスト高を招くことなく、有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を得ることができる。
【0037】
ただし、電子デバイスへの応用にあたっては、水分は少ない方が望ましく、水分含有量が少ない有機溶剤系導電性高分子分散液にすることによって、固体電解コンデンサの固体電解質の作製にあたって好適に使用することができるし、さらには、リチウムイオン電池の導電性向上剤、有機ELのホール輸送層、デバイスの電極、非水系の導電性高分子塗料の導電剤などとしての使用が期待できる。
【0038】
上記有機溶剤系導電性高分子分散液のベースとなる導電性高分子の水系分散液は、重合性モノマーであるチオフェンまたはその誘導体をドーパントとなる高分子スルホン酸の存在下で水中または水性液中で酸化重合することによって得られるが、そのチオフェンまたはその誘導体におけるチオフェンの誘導体としては、例えば、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3−アルキルチオフェン、3−アルコキシチオフェン、3−アルキル−4−アルコキシチオフェン、3,4−アルキルチオフェン、3,4−アルコキシチオフェンなどが挙げられ、そのアルキル基やアルコキシ基の炭素数は1〜16が適しているが、特に3,4−エチレンジオキシチオフェンが好ましい。
【0039】
ドーパントとなる高分子スルホン酸としては、ポリスチレンスルホン酸スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂が好適に用いられる。
【0040】
上記ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂などの高分子スルホン酸は、導電性高分子のドーパントとなるものであるが、前記のように、これらは、導電性高分子の合成時、優れた分散剤としても機能し、酸化剤や重合性モノマーとしてのチオフェンまたはその誘導体などを水中または水性液中に均一に分散させ、かつ合成されるポリマー中にドーパントとして取り込まれ、得られる導電性高分子を帯電防止フィルムや固体電解コンデンサの固体電解質として用いるのに適した高い導電性を有するものにさせるとともに、上記ドーパントが、優れた分散剤として機能することが、得られる導電性高分子を固体電解コンデンサの固体電解質として用いるのに適した優れた耐熱性を有させるようにし、また、帯電防止フィルムとして用いるのに適した高い透明性を有させるようにするものと考えられる。
【0041】
上記ポリスチレンスルホン酸としては、その重量平均分子量が10,000〜1,000,000のものが好ましい。
【0042】
すなわち、上記ポリスチレンスルホン酸の重量平均分子量が10,000より小さい場合は、得られる導電性高分子の導電性が低くなり、また、透明性も悪くなるおそれがある。また、上記ポリスチレンスルホン酸の重量平均分子量が1,000,000より大きい場合は、導電性高分子の分散液の粘度が高くなり、固体電解コンデンサの作製にあたって使用しにくくなる。そして、上記ポリスチレンスルホン酸としては、その重量平均分子量が上記範囲内で、20,000以上のものが好ましく、40,000以上のものがより好ましく、また、800,000以下のものが好ましく、300,000以下のものがより好ましい。
【0043】
また、上記スルホン化ポリエステルは、スルホイソフタル酸エステルやスルホテレフタル酸エステルなどのジカルボキシベンゼンスルホン酸ジエステルとアルキレングリコールとを酸化アンチモンや酸化亜鉛などの触媒の存在下で縮重合させたものであり、このスルホン化ポリエステルとしては、その重量平均分子量が5,000〜300,000のものが好ましい。
【0044】
すなわち、スルホン化ポリエステルの重量平均分子量が5,000より小さい場合は、得られる導電性高分子の導電性が低くなり、透明性も悪くなるおそれがある。また、スルホン化ポリエステルの重量平均分子量が300,000より大きい場合は、導電性高分子の分散液の粘度が高くなり、固体電解コンデンサなどの作製にあたって使用しにくくなる。そして、この水溶性ポリエステルとしては、その重量平均分子量が上記範囲内で、10,000以上のものが好ましく、20,000以上のものがより好ましく、また、100,000以下のものが好ましく、80,000以下のものがより好ましい。
【0045】
また、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂としては、その重量平均分子量が5,000〜500,000のものが好ましい。
【0046】
すなわち、上記フェノールスルホン酸ノボラック樹脂の重量平均分子量が5,000より小さい場合は、得られる導電性高分子の導電性が低くなり、また、透明性も悪くなるおそれがある。また、上記フェノールスルホン酸ノボラック樹脂の重量平均分子量が500,000より大きい場合は、導電性高分子の分散液の粘度が高くなり、固体電解コンデンサの作製にあたって使用しにくくなる。そして、このフェノールスルホン酸ノボラック樹脂としては、その重量平均分子量が上記範囲内で、5,000以上のものが好ましく、10,000以上のものがより好ましく、また、400,000以下のものが好ましく、80,000以下のものがより好ましい。
【0047】
ドーパントとなるポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂のいずれも、水や水と水混和性溶剤との混合物からなる水性液に対して溶解性を有していることから、酸化重合は水中または水性液中で行うことができる。
【0048】
上記水性液を構成する水混和性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、アセトニトリルなどが挙げられ、これらの水混和性溶剤の水との混合割合としては、水性液全体中の50質量%以下が好ましい。
【0049】
導電性高分子を合成するにあたっての酸化重合は、化学酸化重合、電解酸化重合のいずれも採用することができる。
【0050】
化学酸化重合を行うにあたっての酸化剤としては、例えば、過硫酸塩が用いられるが、その過硫酸塩としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸カルシウム、過硫酸バリウムなどが用いられる。
【0051】
化学酸化重合において、ドーパント、重合性モノマー、酸化剤の使用量は、特に限定されることはないが、例えば、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を用い、重合性モノマーとして3,4−エチレンジオキシチオフェンを用い、酸化剤として過硫酸アンモニウムを用いた場合、それらの使用比率としては、質量比で、ドーパント:重合性モノマー:酸化剤=1:0.1〜10:0.1〜10が好ましく、特に、ドーパント:重合性モノマー:酸化剤=1:0.2〜4:0.2〜4が好ましい。そして、このような使用比率は、ドーパント、重合性モノマー、酸化剤に関して、他のものを用いた場合でも、ほぼ同様である。化学酸化重合時の温度としては、5〜95℃が好ましく、10〜30℃がより好ましく、また、重合時間としては、1時間〜72時間が好ましく、8時間〜24時間がより好ましい。
【0052】
電解酸化重合は、定電流でも定電圧でも行い得るが、例えば、定電流で電解酸化重合を行う場合、電流値としては0.05mA/cm〜10mA/cmが好ましく、0.2mA/cm〜4mA/cmがより好ましく、定電圧で電解酸化重合を行う場合は、電圧としては0.5V〜10Vが好ましく、1.5V〜5Vがより好ましい。電解酸化重合時の温度としては、5〜95℃が好ましく、特に10〜30℃が好ましい。また、重合時間としては、1時間〜72時間が好ましく、8時間〜24時間がより好ましい。なお、電解酸化重合にあたっては、触媒として硫酸第一鉄または硫酸第二鉄を添加してもよい。
【0053】
上記のようにして得られる導電性高分子は、重合直後、水中または水性液中に分散した状態で得られ、酸化剤としての過硫酸塩や触媒として用いた硫酸鉄塩やその分解物などを含んでいる。そこで、その不純物を含んでいる導電性高分子の水分散液を超音波ホモジナイザーや遊星ボールミルなどの分散機にかけて不純物を分散させた後、カチオン交換樹脂で金属成分を除去する。このときの導電性高分子の粒径としては、100μm以下が好ましく、特に10μm以下が好ましい。その後、エタノール沈殿法、限外濾過法、陰イオン交換樹脂などにより、酸化剤や触媒の分解により生成した硫酸などをできるかぎり除去するのが好ましい。
【0054】
本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液を乾燥して得られる導電性高分子は、固体電解コンデンサの固体電解質として用いることができ、タンタル固体電解コンデンサ、ニオブ固体電解コンデンサ、アルミニウム固体電解コンデンサなどの固体電解コンデンサの固体電解質として好適に用いられ、ESRが小さく、かつ高温条件下における信頼性が高い固体電解コンデンサを提供することができる。
【0055】
上記のように、本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液を乾燥して得られる導電性高分子を固体電解コンデンサの固体電解質として用いる際は、有機溶剤系導電性高分子分散液を乾燥して導電性高分子としたものをそのまま使用することもできるが、導電性高分子が有機溶剤中に分散した有機溶剤系導電性高分子分散液の状態で使用し、その後、乾燥して得られる導電性高分子を固体電解質として使用に供する方が適している。そして、その際、導電性高分子とコンデンサ素子との密着性を高めるために、導電性高分子の分散液にバインダ用樹脂を添加しておくことが好ましい。
【0056】
そのようなバインダ樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリロニトリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ノボラック樹脂、シランカップリング剤などが挙げられ、特にポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂などが好ましい。また、スルホン化ポリアリル、スルホン化ポリビニル、スルホン化ポリスチレンのように、スルホン基が付加されていると、導電性高分子の導電性を向上させることができるので、より好ましい。
【0057】
上記のようなバインダ用樹脂は、いずれも疎水性であり、導電性高分子の分散液が水系であると、添加時にバインダ用樹脂が凝集して、導電性高分子とバインダ用樹脂との均一な混合物を得るには、混合に長時間を要することになるが、本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液によれば、添加したバインダ用樹脂が凝集を起こすことがないので、導電性高分子とバインダ用樹脂との均一な混合が容易に達成でき、導電性高分子とバインダ用樹脂が均一に混合した有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物の分散液が容易に得られる。
【0058】
そして、これら本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液や有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を用いて固体電解コンデンサの固体電解質を構成することによって固体電解コンデンサを作製する例を説明する。ただし、本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液を用いる場合も、有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を用いる場合も同様に行い得るので、有機溶剤系導電性高分子分散液を代表させて説明する。
【0059】
まず、タンタル固体電解コンデンサ、ニオブ固体電解コンデンサ、積層型アルミニウム固体電解コンデンサなどを作製する場合、タンタル、ニオブ、アルミニウムなどの弁金属の多孔体からなる陽極と、それら弁金属の酸化皮膜からなる誘電体層とを有するコンデンサ素子を、本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液に浸漬し、取り出した後、乾燥し、この分散液への浸漬と乾燥する工程を繰り返すことによって、導電性高分子からなる固体電解質層を形成した後、カーボンペースト、銀ペーストを付け、乾燥した後、陽極端子や陰極端子を取り付け、樹脂で外装することによって、タンタル固体電解コンデンサ、ニオブ固体電解コンデンサ、積層型アルミニウム固体電解コンデンサなどを作製することができる。
【0060】
また、例えば、ポリスチレンスルホン酸を分散剤兼ドーパントとして用い、重合性モノマー、酸化剤を含む液に、前記のコンデンサ素子を浸漬し、取り出した後、重合を行い、水に浸漬し、取り出し、洗浄した後、乾燥することで導電性高分子を合成した後、それら全体を本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液に浸漬し、取り出して乾燥する操作を繰り返して固体電解質層を形成してもよい。
【0061】
そして、上記のようにしてコンデンサ素子上に導電性高分子からなる固体電解質層を形成した後、上記と同様にカーボンペーストや銀ペーストのコーティングなどを経て、タンタル固体電解コンデンサ、ニオブ固体電解コンデンサ、積層型アルミニウム固体電解コンデンサなどを作製することもできる。
【0062】
また、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製する場合は、アルミニウム箔の表面をエッチング処理した後、化成処理を行って誘電体層を形成した陽極にリード端子を取り付け、また、アルミニウム箔からなる陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回して作製したコンデンサ素子を本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液に浸漬し、取り出し、乾燥した後、アルミニウム箔のエッチングにより形成された細孔に入っていない導電性高分子を取り除くため、有機溶剤に浸漬し、取り出した後、乾燥し、これらの操作を繰り返したのち、外装材で外装して、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製することができる。
【0063】
なお、上記例示では、コンデンサ素子を本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液に浸漬する方法によって固体電解コンデンサを作製する場合を説明したが、コンデンサ素子を有機溶剤系導電性高分子分散液に浸漬することに代えて、本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液をコンデンサ素子を塗布する方法によっても固体電解コンデンサを作製することができる。
【0064】
上記のように本発明の有機溶剤系導電性高分子分散液を用いて固体電解コンデンサを作製する場合、分散液が有機溶剤系なので、水系の分散液に比べて、乾燥が容易であり、また、水系分散液を用いた場合のような残存水分による固体電解コンデンサの不都合が生じない。
【0065】
帯電防止フィルムや帯電防止シートの作製にあたっては、有機溶剤系導電性高分子分散液よりも、有機溶剤系導電性高分子分散液にバインダ用樹脂を混入させた有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を用いる方が好ましく、例えば、基材シートに本発明の有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を塗布するか、基材シートを有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液に浸漬し、引き上げた後、乾燥して、フィルムを形成し、そのフィルムを基材シートから剥離して、それを帯電防止フィルムとして用いればよいし、また、基材シートの一方の面または両面に形成したフィルムを基材シートから剥がさずに、それを導電層とし、基材シートを支持材として帯電防止シートとすればよい。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に例示のもののみに限定されることはない。なお、以下の実施例などにおいて濃度や使用量を示す際の%は特にその基準を付記しないかぎり、質量基準による%である。
【0067】
実施例1
ポリスチレンスルホン酸(テイカ社製、重量平均分子量100,000)の4%水溶液600gを内容積1Lのステンレス鋼製容器に入れ、硫酸第一鉄・7水和物0.3gを添加し、その中に3,4−エチレンジオキシチオフェン4mLをゆっくり滴下した。その容器に横3cm×縦20cmのステンレス鋼製のメッシュ(口径:2mm)を、液中に下端から上方に縦5cmの部分までが浸かるところで、攪拌棒を挟むような形で2本向かい合うような形でセットした。上記ステンレス鋼製メッシュの一方に陽極、他方に陰極をつけ、1mA/cmの定電流で、攪拌しながら18時間かけて、3,4−エチレンジオキシチオフェンの電解酸化重合を行った。上記電解酸化重合後、水で6倍に希釈した後、超音波ホモジナイザー(日本精機社製、US−T300)で30分間分散処理を行った。その後、オルガノ社製のカチオン交換樹脂アンバーライト120B(商品名)を100g添加し、1時間攪拌機で攪拌した。次いで、東洋濾紙社製の濾紙No.131で濾過し、このカチオン交換樹脂による処理と濾過を3回繰り返して、液中の鉄イオンなどのカチオン成分をすべて除去した。その液を限外濾過装置〔ザルトリウス社製Vivaflow200(商品名)、分子量分画5万〕で濃縮処理を行った。105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、3.0%であった。
【0068】
上記のようにして得られた導電性高分子の水系分散液を攪拌機で攪拌しながら、その中に非水系アミンとして3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンを徐々に添加していくと、pH3程度から徐々に導電性高分子の凝集が始まり、pH4を超えたところで、凝集が完了し、透明な液と凝集物とが分離した液になった。この液を口径が100μmのステンレス鋼製メッシュに通すことで、凝集物を分離した。105℃の条件下で、この凝集物の乾燥固形分濃度を測定したところ68%であった。
【0069】
この凝集物5gを250gのn−メチルピロリドンに投入し、超音波ホモジナイザー(日本精機社製、US−T300)で20分間分散処理した後、東洋濾紙社製の濾紙No.131で濾過し、導電性高分子の有機溶剤系分散液を得た。この分散液の150℃の乾燥条件で測定したときの乾燥固形分濃度は、1.4%であった。また、カールフィッシャーにより水分を測定したところ、0.6%であった。この有機溶剤系導電性高分子分散液を5℃の条件下、1ヵ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0070】
実施例2
実施例1におけるポリスチレンスルホン酸に代えて、スルホン化ポリエステル〔互応化学工業社製プラスコートZ−561(商品名)、重量平均分子量27,000〕を用い、その5%水溶液600gに対する硫酸第一鉄・7水和物の添加量を実施例1の0.3gから0.05gに変更した以外は、限外濾過操作のところまで実施例1と同様の操作を行って、導電性高分子の水分散液を得た。105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、3.0%であった。
【0071】
上記のようにして得られた導電性高分子の水系分散液を攪拌機で攪拌しながら、その中に3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンを徐々に添加していくと、pH3.0程度から徐々に導電性高分子の凝集が始まり、pH4を超えたところで、凝集が完了し、透明な液と凝集物とが分離した液になった。この液を口径が100μmのステンレス鋼製メッシュに通すことで、凝集物を分離した。105℃の条件で、この凝集物の乾燥固形分濃度を測定したところ71%であった。
【0072】
この凝集物5gを200gのn−メチルピロリドンに投入し、超音波ホモジナイザー(日本精機社製、US−T300)で20分間分散処理した後、東洋濾紙社製の濾紙No.131で濾過し、導電性高分子の有機溶剤系分散液を得た。この分散液の150℃の乾燥条件で測定したときの乾燥固形分濃度は、1.8%であった。また、カールフィッシャーにより水分を測定したところ、0.8%であった。この有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、1ヵ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0073】
実施例3
ポリスチレンスルホン酸に代えて、一般式(2)で表される繰り返し単位を有するフェノールスルホン酸ノボラック樹脂〔小西化学工業社製lotEW00130(商品名)、重量平均分子量60,000、Rは水素である〕を用いた以外は、限外濾過操作のところまで実施例1と同様の操作を行って、導電性高分子の水分散液を得た。105℃の条件で測定した乾燥固形分濃度は、3.0%であった。
【0074】
この導電性高分子の水系分散液を攪拌機で攪拌しながら、その中に3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンを徐々に添加していくと、pH2.5程度から徐々に導電性高分子の凝集が始まり、pH3を超えたところで、凝集が完了し、透明な液と凝集物とが分離した液になった。この液を口径が100μmのステンレス鋼製メッシュに通すことで、凝集物を分離した。105℃の条件下で、この凝集物の乾燥固形分濃度を測定したところ70%であった。
【0075】
この凝集物5gを350gのn−メチルピロリドンに投入し、超音波ホモジナイザー(日本精機社製、US−T300)で20分間分散処理した後、東洋濾紙社製の濾紙No.131で濾過し、導電性高分子の有機溶剤系分散液を得た。この分散液の150℃の乾燥条件で測定したときの乾燥固形分濃度は、1.0%であった。また、カールフィッシャーにより水分を測定したところ、0.4%であった。この有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、1ヵ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0076】
実施例4
3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンに代えて、ヘキシルアミンを用いた以外は、実施例1と同じ操作を行い、凝集物をフィルタープレスにより取り出した。105℃の条件で、この凝集物の乾燥固形分濃度を測定したところ90%であった。
【0077】
この凝集物5gを250gのn−メチルピロリドンに投入し、超音波ホモジナイザー(日本精機社製、US−T300)で20分間分散処理した後、東洋濾紙社製の濾紙No.131で濾過し、導電性高分子の有機溶剤系分散液を得た。この分散液の150℃の乾燥条件で測定したときの乾燥固形分濃度は、1.4%であった。また、カールフィッシャーにより水分を測定したところ、0.2%であった。この有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、1ヵ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0078】
実施例5
3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンに代えて、オクチルアミンを用いた以外は、実施例1と同じ操作を行い、凝集物をフィルタープレスにより取り出した。105℃の条件で、この凝集物の乾燥固形分濃度を測定したところ90%であった。
【0079】
この凝集物5gを250gのn−メチルピロリドンに投入し、超音波ホモジナイザー(日本精機社製、US−T300)で20分間分散処理した後、東洋濾紙社製の濾紙No.131で濾過し、導電性高分子の有機溶剤系分散液を得た。この凝集物の150℃の乾燥条件で測定したときの乾燥固形分濃度は、1.4%であった。また、カールフィッシャーにより水分を測定したところ、0.2%であった。この有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、1ヵ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0080】
実施例6
3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンに代えて、ラウリルアミンを用いた以外は、実施例1と同じ操作を行い、凝集物をフィルタープレスにより取り出した。105℃の条件で、この凝集物の乾燥固形分濃度を測定したところ90%であった。
【0081】
この凝集物5gを250gのn−メチルピロリドンに投入し、超音波ホモジナイザー(日本精機社製、US−T300)で20分間分散処理した後、東洋濾紙社製の濾紙No.131で濾過し、導電性高分子の有機溶剤系分散液を得た。この分散液の150℃の乾燥条件で測定したときの乾燥固形分濃度は、1.4%であった。また、カールフィッシャーにより水分を測定したところ、0.2%であった。この有機溶剤系導電性高分子分散液は、5℃の条件下、1ヵ月放置しても、凝集が観察されず、安定していた。
【0082】
比較例1
3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンに代えて、ブチルアミンを徐々に添加していくところまで実施例1と同様の操作を行った。しかし、pH14になるまでブチルアミンを徐々に添加しても、導電性高分子は凝集しなかった。
【0083】
比較例2
3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンに代えて、2−メチルイミダゾールを徐々に添加していくところまで実施例1と同様の操作を行った。しかし、2−メチルイミダゾールの添加によるpH上昇限度のpH9になるまで2−メチルイミダゾールを徐々に添加しても、導電性高分子は凝集しなかった。
【0084】
比較例3
濃度3%の導電性高分子の水系分散液を得るところまでは、実施例1と同様の操作を行った。この導電性高分子の水系分散液50gにn−メチルピロリドンを100g添加し、真空度20hPaの条件下、40℃の水浴中で蒸留を行い濃縮を行った。
【0085】
しかし、水分が約35g程度流出した時点で、凝集が起こり、導電性高分子が析出してしまい、水分含有量が10%以下の導電性高分子の有機溶剤系分散液を調製することができなかった。
【0086】
比較例4
濃度3%の導電性高分子の水系分散液を得るところまでは、実施例1と同様の操作を行った。この導電性高分子の水系分散液50gにエチレングリコールを200g添加し、真空度20hPaの条件下、40℃の水浴中で蒸留を行い濃縮を行った。
【0087】
水分が約30g程度流出した時点で、濃縮を止め、カールフィッシャーにより水分含量を測定したところ9%で、固形分含有量が0.7%あった。しかし、この有機溶剤系分散液は、5℃の条件下、1日放置したところ、導電性高分子が凝集し、安定性に欠け、実用性を有しなかった。
【0088】
〔帯電防止フィルムとしての評価〕
実施例7
実施例1で調製した有機溶剤系導電製高分子分散液15gに対し、バインダ用樹脂としてアクリディックA801(商品名、DIC社製のアクリル樹脂)20g、メチルエチルケトン30gおよびイソプロピルアルコール20gを添加し攪拌混合したところ、添加したバインダ用樹脂が凝集することなく有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液が得られた。そして、その有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を基材シートとしての10cm×20cmのポリエチレンシートの上に400μL滴下し、No.12のバーコーターで均一にした後、150℃で2分間乾燥して、導電性高分子含有樹脂組成物のフィルムからなる帯電防止フィルムを作製した。
【0089】
実施例8
実施例2で調製した有機溶剤系導電製高分子分散液10gに対し、バインダ用樹脂としてアクリディックA801(前出)20g、メチルエチルケトン35gおよびイソプロピルアルコール20gを添加し攪拌混合したところ、凝集が生じることなく有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液が得られた。そして、その有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を基材シートとしての10cm×20cmのポリエチレンシートの上に400μL滴下し、No.12のバーコーターで均一にした後、150℃で2分間乾燥して、導電性高分子含有樹脂組成物のフィルムからなる帯電防止フィルムを作製した。
【0090】
実施例9
実施例3で調製した有機溶剤系導電製高分子分散液15gに対し、バインダ用樹脂としてアクリディックA801(前出)20g、メチルエチルケトン30gおよびイソプロピルアルコール20gを添加し攪拌混合したところ、凝集が生じることなく有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液が得られた。そして、その有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を基材シートしての10cm×20cmのポリエチレンシートの上に400μL滴下し、No.12のバーコーターで均一にした後、150℃で2分間乾燥して、導電性高分子含有樹脂組成物のフィルムからなる帯電防止フィルムを作製した。
【0091】
比較例5
30%の導電性高分子の水系分散液を得るところまでは実施例1と同様の操作をし、それによって得られた導電製高分子の水系分散液25gに対し、バインダ用樹脂としてアクリディックA801(前出)20g、メチルエチルケトン30gおよびイソプロピルアルコール30gを添加し攪拌混合したところ、混合直後にバインダ用樹脂のアクリディックA801の凝集が生じ、均一な有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を得ることができず、その結果、フィルム形成ができなかった。
【0092】
得られた実施例7〜9の帯電防止フィルムの表面抵抗を室温(約25℃)下でJIS K 7194に準じて4探針方式の電導度測定器〔三菱化学社製MCP−T600(商品名)〕により測定するとともに、波長400nm〜700nmの可視光透過率をUV−VIS−NIR RECORDING SPECTROPHOTOMETER〔島津社製UV3100(商品名)〕により測定した。その結果を使用した有機溶剤系導電性高分子分散液の種類とともに表1に示す。なお、測定は、各試料とも、5点ずつについて行い、表1に示す数値はその5点の平均値を求め、小数点以下を四捨五入して示したものである。
【0093】
【表1】

【0094】
[巻回型アルミニウム固体電解コンデンサでの評価]
実施例10
アルミニウム箔の表面をエッチング処理した後、化成処理を行って誘電体層を形成した陽極にリード端子を取り付け、また、アルミニウム箔からなる陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を作製した。
【0095】
このコンデンサ素子を実施例1で得た有機溶剤系導電性高分子分散液を浸漬し、120秒後に取り出し、180℃で30分間乾燥した。この操作を4回繰り返した後、200℃で30分間放置して、導電性高分子からなる固体電解質層を形成した。その後、アルミニウムの外装ケースに入れ、封止して、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0096】
実施例11
実施例1で得た有機溶剤系導電性高分子分散液に代えて、実施例5で得た有機溶剤系導電性高分子分散液を用いた以外は、実施例10と同様の操作を行って巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0097】
比較例6
3%の導電性高分子の水系分散液を得るところまでは、実施例1と同様の操作を行い、それによって得られた導電性高分子の水系分散液を、実施例1で得た有機溶剤系導電性高分子分散液に代えて用いた以外は、実施例10と同様の操作を行って、巻回型アルミニウム固体電解コンデンサを作製した。
【0098】
上記のように作製した実施例10、11および比較例6の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサについて、そのESR(等価直列抵抗)、静電容量および漏れ電流を測定した。その結果を表2に示す。なお、ESR、静電容量および漏れ電流の測定方法は以下に示す通りである。ESRの測定にはHEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用い、25℃、100kHzでESRを測定し、静電容量の測定にはHEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用い、25℃、120Hzで静電容量を測定した。漏れ電流の測定は、25℃、25Vの定格電圧を60秒間印加したあと、デジタルオシロスコープにて漏れ電流を測定した。それらの測定は、各試料とも、10個ずつについて行い、表2に示すESR値、静電容量値および漏れ電流値は、それら10個の平均値を求め、小数点以下を四捨五入して示したものである。
【0099】
【表2】

【0100】
表2に示すように、実施例10および実施例11の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサは、比較例6の巻回型アルミ固体電解コンデンサに比べて、漏れ電流が2桁低かった。これは、比較例6の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサでは、その作製にあたって導電性高分子の水系分散液を用いているため、誘電体層を構成する酸化皮膜の表面が水で腐食したためであると考えられる。
【0101】
上記のように、実施例10および実施例11の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサは、比較例6の巻回型アルミニウム固体電解コンデンサに比べて、漏れ電流が低く、コンデンサとして電力ロスが少ないものであることを示しているとともに、ESRが小さく、かつ静電容量が大きく、導電性高分子を有機溶剤系分散液にしたことによる特性低下は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)チオフェンまたはその誘導体をドーパントとなる高分子スルホン酸の存在下で水中または水と水混和性溶剤との混合物からなる水性液中で酸化重合して導電性高分子を合成することにより導電性高分子の水系分散液を得る工程と、
(2)上記導電性高分子の水系分散液に非水系アミンを投入して導電性高分子を凝集させる工程と、
(3)上記導電性高分子の凝集物を水中または水性液中から取り出す工程と、
(4)上記導電性高分子の凝集物を有機溶剤に分散させる工程と
を経由して製造することを特徴とする、水分含有量が10質量%以下の有機溶剤系導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項2】
非水系アミンが、下記の一般式(1)で表されるアミンである請求項1記載の有機溶剤系導電性高分子分散液の製造方法。
−NH (1)
(式中、Rは、炭素数が6〜30のアルキル基であり、上記アルキル基は、直鎖状のものであってもよく、分岐鎖状のものであってもよい。また、上記アルキル基は、その分子鎖中にエーテル結合、エステル結合または二重結合を含んでいてもよく、その水素原子が他の原子で置換されていてもよい)
【請求項3】
高分子スルホン酸が、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステルおよびフェノールスルホン酸ノボラック樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の有機溶剤系導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の有機溶剤系導電性高分子分散液を乾燥して得られたことを特徴とする導電性高分子。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の有機溶剤系導電性高分子分散液とバインダ用樹脂とを混合して得られたことを特徴とする有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液。
【請求項6】
請求項5記載の有機溶剤系導電性高分子含有樹脂分散液を乾燥して得られたことを特徴とする導電性高分子含有樹脂組成物。
【請求項7】
請求項5記載の有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を乾燥することにより得られた導電性高分子含有樹脂組成物フィルムからなることを特徴とする帯電防止フィルム。
【請求項8】
請求項5記載の有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を乾燥することにより得られた導電性高分子含有樹脂組成物フィルムを導電層として基材シートの一方の面または両面に有することを特徴とする帯電防止シート。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の有機溶剤系導電性高分子分散液を乾燥して得られた導電性高分子を固体電解質とすることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項10】
請求項5記載の有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液を乾燥して得られた導電性高分子含有樹脂組成物を固体電解質とすることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項11】
タンタル、ニオブ、アルミニウムなどの弁金属の多孔体からなる陽極と、弁金属の酸化皮膜からなる誘電体層と、固体電解質を有する固体電解コンデンサの製造にあたり、請求項1〜3のいずれかに記載の有機溶剤系導電性高分子分散液にコンデンサ素子を浸漬するか、または請求項1〜3のいずれかに記載の有機溶剤系導電性高分子分散液をコンデンサ素子に塗布し、乾燥して得られる導電性高分子を固体電解質としてすることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項12】
タンタル、ニオブ、アルミニウムなどの弁金属の多孔体からなる陽極と、弁金属の酸化皮膜からなる誘電体層と、固体電解質を有する固体電解コンデンサの製造にあたり、請求項5記載の有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液にコンデンサ素子を浸漬するか、または請求項5記載の有機溶剤系導電性高分子含有樹脂組成物分散液をコンデンサ素子に塗布し、乾燥して得られる導電性高分子含有樹脂組成物を固体電解質としてすることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。


【公開番号】特開2011−57814(P2011−57814A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207897(P2009−207897)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】