説明

有機電極を用いた有機薄膜トランジスタとその製造方法

【課題】少なくとも2種類以上の同じ有機化合物を用いてp型、n型両方の有機薄膜トランジスタを作り分けることができ、かつ、有機電極も同時に作製可能となるプロセスアビリティーの高い有機半導体素子およびそれを使った電気回路を提供することにある。さらに、有機電導体、有機超電導体、有機磁性体、有機熱電素子、有機エレクトロクロミック素子、有機エレクトロルミネセンス素子等への応用が可能であること。
【解決手段】少なくとも2種類以上の有機化合物からなる有機電極と、少なくとも1種類以上の有機電極構成成分から選ばれた有機化合物を主成分とする有機半導体活性層から構成された有機半導体素子膜を有する有機薄膜トランジスタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電導体、有機超電導体、有機磁性体、有機熱電素子、有機エレクトロクロミック、有機エレクトロルミネセンス等の有機エレクトロニクスデバイスへの応用が期待されている有機電極を用いた有機薄膜トランジスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクスデバイスは、フレキシビリティー性、可搬性に優れ、今後、その利用価値はますます高くなることが期待されている。そのため、有機半導体、有機LED、有機太陽電池といった有機エレクトロニクスの中心となるデバイスの研究開発が盛んに行われているが、有機物は本来絶縁物であり、これらのデバイスにおいても多くの電極部分は金属が用いられており、フレキシビリティー性、可搬性といった有機化合物の特徴を活かすにはこれら有機エレクトロニクスに利用可能な有機電極の登場が待たれている。
【0003】
有機電極の可能性を示す例として、電子供与分子と電子受容分子からなる電荷移動錯体が知られている。この電荷移動錯体が金属的伝導を示すことは1973年にテトラチアフルバレン(TTF)−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)を用いて知られるようになり、その後BDTTF、TSFや、つぎに示されるF1TCNQ、F2TCNQ、F4TCNQ(非特許文献1 のAppl. Phys. Lette., 88, 073504, (2006)、及び非特許文献2のAdv. Matterials, 2007, 19, 3248参照)など新たな材料開発も進んでいる。また、この電荷移動錯体は他にも多くの応用が期待されており、有機超電導体、有機磁性体、有機エレクトロクロミック素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、有機熱電素子等が挙げられる。
【0004】
【化1】

【0005】
これまでに知られている電荷移動錯体を有機電極として用いた例としてはP型有機半導体特性を有するBDTTF-TCNQ混晶上にTTF-TCNQを共蒸着法により電極形状に配した例(非特許文献1)、ペンタセンの蒸着膜上にTTF-TCNQをインクジェット法により成膜する方法(非特許文献3のChem. Matter, 19, 6382, (2007))が知られている。
【0006】
しかしながら、TTF-TCNQを共蒸着法により電極形状に配した例では有機半導体活性層にBDTTF-TCNQ混晶を用いており、その特殊性から未だ実用化には至って折らず、さらにインクジェット法ではインク化される電子供与性化合物および電子受容性化合物はインク溶剤に可溶、かつ、有機半導体活性層に用いられる有機材料はインク溶剤に耐性を有している必要があり、最適な材料の組み合わせは未だ見つかっておらず、実用化への大きな障壁となっている。さらにインクジェット法はマイクロメートルオーダーの位置精度が必要となり設備の大型化は避けられない。そのため新規な有機半導体素子構成を含めた新たな取り組みが求められている。
【0007】
さらに、有機半導体素子は単独では電流を制御する機能を有しているだけであり、さまざまなアプリケーションに活用するにはp型有機半導体、n型有機半導体を一つのアプリケーション基板に作製し電気回路としての機能が求められており、有機半導体を用いたアプリケーションの実用化へ向けた大きな課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、背景技術の状況を踏まえ、少なくとも2種類以上の同じ有機化合物を用いてp型、n型両方の有機薄膜トランジスタを作り分けることができ、かつ、有機電極も同時に作製可能となるプロセスアビリティーの高い有機半導体素子およびそれを使った電気回路を提供することにある。さらに、有機電導体、有機超電導体、有機磁性体、有機熱電素子、有機エレクトロクロミック素子、有機エレクトロルミネセンス素子等への応用が可能である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、2種類以上の有機化合物を用いて有機電極としての機能を持たせ、同時に有機電極を構成する有機化合物から選ばれた少なくとも1種類の有機化合物を有機半導体活性層の主成分として利用することにより、上記目的を達成するための有機半導体素子を構成できることを見出した。(ただし、主成分とは半数より多い、すなわち分子数で51%以上の構成比率を持つことを意味する。)
【0010】
特に有機電極を構成する有機化合物が1種類の電子供与性有機化合物および1種類の電子受容性化合物を少なくとも有していれば電荷移動錯体を形成するため望ましい組み合わせである。さらに特に望ましい電子供与性化合物としては強い電子供与性を有する次の一般式(I)で表せるテトラチアフルバレン誘導体があげられる。また特に望ましい電子受容性化合物としては強い電子受容性を有するフラーレンが挙げられる。
【0011】
【化2】

【0012】
(式(I)中、Xは炭素原子または硫黄原子または窒素原子から選択される原子であり同一でも異なっていても良い。Xに炭素原子及び窒素原子が選択される場合においてR〜R16は水素原子、ハロゲン原子、置換および無置換のアルキル基またはアルコシキ基またはチオアルコキシ基から選択される基であり同一でも異なっていても良い。)
【0013】
また同時に電子供与性化合物と電子受容性化合物の組み合わせであれば電子供与性化合物を電極形状に配するか電子受容性化合物を電極形状に配するかの違いのみでn型有機半導体とp型有機半導体を作り分けることができ、容易にインバータ回路をはじめとする有機半導体素子を用いた電機回路作製においても有効な有機薄膜トランジスタ及びその製造方法を発明するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(4)の薄膜トランジスタ(TFT)、及びその製造方法からなる。
(1)「少なくとも2種類以上の有機化合物からなる有機電極と、少なくとも1種類以上の有機電極構成成分から選ばれた有機化合物を主成分とする有機半導体活性層から構成された有機半導体素子膜を有する有機薄膜トランジスタ。」
(2)「前記有機電極を構成している有機化合物が少なくとも1種類の電子供与性化合物と1種類の電子受容性化合物により主成分が構成されており、かつ、そのどちらかが有機半導体活性層を主成分とする有機半導体素子膜を有することを特徴とする前記(1)項に記載の有機薄膜トランジスタ。」
(3)「前記電子供与性化合物が一般式(I)で示されるものであることを特徴とする前記(1)項又は(2)項に記載の有機薄膜トランジスタ。」
有機半導体素子;
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、Xは炭素原子または硫黄原子または窒素原子から選択される原子であり同一でも異なっていても良い。Xに炭素原子及び窒素原子が選択される場合においてR〜R16は水素原子、ハロゲン原子、置換および無置換のアルキル基またはアルコシキ基またはチオアルコキシ基から選択される基であり同一でも異なっていても良い。)
(4)「電子受容性化合物がフラーレンであることを特徴とする前記(1)項乃至(3)項のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ。」
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、少なくとも2種類以上の同じ有機化合物を用いてp型、n型両方の有機薄膜トランジスタを作り分けることができ、かつ、有機電極も同時に作製可能となるプロセスアビリティーの高い有機半導体素子およびそれを使った電気回路が提供され、さらに、前記の有機導電性積層膜は、有機電導体、有機超電導体、有機磁性体、有機熱電素子、有機エレクトロクロミック素子、有機エレクトロルミネセンス素子等への応用が可能であるという極めて優れた効果が発揮される。
すなわち、端的にいうと、本発明によれば、わずか2種類の有機材料によりp型、n型の両有機薄膜トランジスタと有機電極が作製可能となるプロセスアビリティーの高い有機半導体素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の有機薄膜トランジスタの概略図である。
【図2】本発明で使用した有機半導体特性評価時におけるソース電極、ドレイン電極のプロービング位置の概略の上面図である。
【図3】第一の有機化合物層としてテトラチアフルバレン誘導体を成膜した上に電極形状に第二の有機化合物層としてフラーレンを積層させ作製した有機薄膜トランジスタのプロービング位置(1)における電流―電圧(I−V)特性図である。
【図4】第一の有機化合物層としてテトラチアフルバレン誘導体を成膜した上に電極形状に第二の有機化合物層としてフラーレンを積層させ作製した有機薄膜トランジスタのプロービング位置(2)における電流−電圧(I−V)特性図である。
【図5】電極形状に配置されたテトラチアフルバレン誘導体層(第一の有機化合物層)上にフラーレン(第二の有機化合物層)を成膜し、作製された有機薄膜トランジスタのプロービング位置(1)における電流−電圧(I−V)特性図である。
【図6】2種類に有機化合物を用いて、p型およびn型有機半導体活性層および有機電極を同時に作製する具体的作製方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の特徴の一つは、2種類の有機化合物を電極部位だけ積層させ有機電極としての機能を持たせ、同時に有機半導体活性層部位には一方の有機化合物だけを配することにより有機半導体活性層として利用した有機薄膜トランジスタ等の素子を提供することにある。特に2種類の有機化合物がそれぞれ電子供与性化合物と電子受容性化合物であればそれぞれが重なった界面で効率良く電化移動錯体を形成することが期待でき好ましい。さらに、前記一般式(I)で表されるテトラチアフルバレン誘導体がその強い電子ドナー性のため用いる電子供与性化合物として望ましい。
【0020】
TTF(テトラチアフルバレン)・TCNQ(テトラシアノキノジメタン)電荷移動錯体で知られるように、テトラチアフルバレン構造は、ヘテロ環部位のπ電子が7πであり、1個の電子を放出してヒュッケル則満たす6πになり易く、テトラチアフルバレン構造は強い電子供与性を示す。この電子供与性により、ラジカルカチオンになり易く、さらにそのラジカルカチオンの状態で安定であるため、電子受容性化合物を積層する事により容易に電荷移動錯体を形成する。しかしながら、従来のテトラチアフルバレン誘導体はこの強い電子供与性によりイオン化ポテンシャルが低く過ぎ、酸素に対する耐久性に乏しい。前記一般式(I)に記載の材料は従来のテトラチアフルバレン誘導体と比較して、分子の共役系を拡張した分子構造になっている。共役系を拡張することにより、テトラチアフルバレンの電子供与性を若干弱める可能性が示唆されるが、その影響は少なく、むしろ劣化の要因となる酸素に対して従来のテトラチアフルバレン誘導体と比較して安定性が上がる大きなメリットを有していることが期待できる。
【0021】
さらに、前記一般式(I)で表されるテトラチアフルバレン誘導体は真空蒸着法で平滑な成膜性を有しており共蒸着法等を用いずとも、テトラチアフルバレン誘導体層と電子受容性化合物層を積層させるだけで電荷移動錯体を効率よく生成することができる。さらに一般式(I)で表されるテトラチアフルバレン誘導体は分子の共役系を拡張されており、電荷移動のパスの面積が広くなり良好なホール輸送が期待される。
【0022】
また、フラーレンを代表とする電子受容性材料は安定なラジカルアニオン状態になり易く、上記のように電子供与性化合物と合わせて電荷移動錯体の形成が期待でき、同時に良好な電子輸送性が期待できる。
【0023】
これら電子供与性化合物が有する良好なホール輸送性と電子受容性化合物が有する電子輸送性はそのままp型、および、n型有機半導体の有機半導体活性層として用いることが可能となる。すなわち、わずか2種類の有機材料を用いるだけで、ソース電極、ドレイン電極、有機半導体活性層を構成することが可能となる。
【0024】
[トランジスタ構造」
図1の(A)〜(D)は本発明に係わる有機薄膜トランジスタの概略構造である。本発明に係わる有機薄膜トランジスタでは第一の有機化合物からなる層(1)と第二の有機化合物からなる層(2)の接触界面が空間的に分離されている。その片側がソース電極、もう片側がドレイン電極となる。また、接触界面が分離されている空間(ソース電極とドレイン電極の間)が有機半導体活性層となる。
【0025】
さらに少なくとも有機半導体活性層の一面はゲート電極(3)と接しているか、あるいは、ゲート絶縁膜(4)を介して接している。また、ゲート電極(3)、ゲート絶縁膜(4)は有機半導体活性層だけでなく、電子供与性化合物層あるいは電子受容性化合物層が広がっている面内であれば有機半導体活性層の存在する面内に収まっている必要はない。
有機薄膜トランジスタはゲート電極(4)への電圧の印加により、ソース電極とドレイン電極の間の有機半導体活性層内を流れる電流がコントロールされる。
【0026】
本発明の有機薄膜トランジスタは、支持体上に設けることができ、例えば、ガラス、シリコン、プラスチック等の一般に用いられる基板を利用できる。また、導電性基板を用いることにより、ゲート電極と兼ねること、さらにはゲート電極と導電性基板とを積層した構造にすることもできるが、本発明の有機薄膜トランジスタが応用されるデバイスのフレキシビリティー、軽量化、安価、耐衝撃性等の特性が所望される場合、プラスチックシートを支持体とすることが好ましい。
【0027】
プラスチックシートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等からなるフィルム等が挙げられる。
【0028】
[電子供与性化合物層および電子受容性化合物層]
本発明に係わる2種類の有機化合物はそれぞれ電子供与性と電子受容性を有した組み合わせが望ましい。電子供与性化合物層および電子受容性化合物層は、蒸着法によって薄膜を形成することができる。
電子供与性化合物層あるいは電子受容性化合物層は真空中にて加熱することにより蒸気とし、それを所望の領域に堆積させ、薄膜を形成する。または、例えばジクロロメタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、トルエン、ジクロロベンゼン及びキシレン等の溶剤に溶解して、スピンコート法、インクジェット法などの溶液プロセスを用いてもよい。
【0029】
本発明の第一の有機化合物層および第二の有機化合物層において、それぞれの膜厚としては、特に制限はないが、均一な薄膜(即ち、有機半導体層のキャリア輸送特性に悪影響を及ぼすギャップやホールがない)が形成されるような厚みに選択される。 一般に1μm以下、特に5〜200nmが好ましい。
【0030】
[テトラチアフルバレン誘導体]
本発明で特に有効なテトラチアフルバレン誘導体の具体例を以下に示す。
前記一般式(I)中の、R〜R16としては、以下のものを挙げることができる。
水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基またはアルコシキ基もしくはチオアルコキシ基から選択される基であり同一でも異なっていても良い。
置換もしくは無置換のアルキル基としては、炭素数が1以上の直鎖、分岐又は環状のアルキル基であり、これらのアルキル基は更にハロゲン原子(たとえばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子)、シアノ基、フェニル基又は直鎖乃至分岐のアルキル基で置換されたフェニル基を含有してもよい。
【0031】
具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデカン基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、3,7−ジメチルオクチル基、2−エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロオクチル基、トリフルオロドデシル基、トリフルオロオクタデシル基、2−シアノエチル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、4−メチルベンジル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0032】
また、置換もしくは無置換のアルコキシ基またはチオアルコキシ基である場合は、上記アルキル基の結合位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してアルコキシ基あるいはチオアルコキシ基としたものが具体例として挙げられる。
さらに、詳細な本発明の誘導体を以下に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
このようなテトラチアフルバレン誘導体としては、一種類、または複数種の混合物として、従来公知のものを用いることができ、また、公知の合成法により合成することができ、かつまた、我々が既に提案(特許文献1の特願2009−073990号明細書、特許文献2の特願2010−000319号明細書、特許文献3の特願2010−026729号明細書参照)した合成法により合成したものを用いることができる(重複を避けるため、特許文献1〜3記載の技術の詳細は、ここでは記載を省略している)。
すなわち、一例を挙げれば、原料の1,3−ジチオール−2−オン化合物のカップリング反応(非特許文献4 のJ.Org,Chem.,2000,65, 5794-5805参照)により製造することができる。そしてこの場合の原料の1,3−ジチオール−2−オン化合物は、例えば非特許文献5のJ. Org. Chem. 1994, 59, 6519-6527, 非特許文献6のChem. Commun. 1998, 361-362, 非特許文献7 のChem. Commun. 1998, 2197-2198, 非特許文献8 のTetrahedron Letters 2000, 41, 2091-2095記載の反応、ジェノフイルと所望構造に対応するジエンとの間で公知のDiels-Alder反応(触媒としてルイス酸使用)により得たキノン化合物を、これのカルボニル基を金属水素化合物でヒドロキシ化合物に還元し、このヒドロキシ化合物の分子内脱水により1,3−ジチオール−2−チオン化合物となし、この化合物から化1,3−ジチオール−2−オン化合物に変換(この変換反応は、上記J.Org,Chem.,2000,65, 5794-5805参照)すること等の方法により入手することができる。
【0035】
[絶縁膜]
本発明の有機薄膜トランジスタにおいて用いられる絶縁膜には、種々の絶縁膜材料を用いることができる。例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコウム酸化チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウム等の無機系絶縁材料が挙げられる。
【0036】
また、例えば、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、無置換またはハロゲン原子置換ポリパラキシリレン、ポリアクリロニトリル、シアノエチルプルラン等の高分子化合物を用いることができる。
さらに、上記絶縁材料を2種以上合わせて用いても良い。特に材料は限定されないが、中でも誘電率が高く、導電率が低いものが好ましい。
【0037】
上記材料を用いた絶縁膜層の作製方法としては、例えば、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、蒸着法のドライプロセスや、スプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法、キャスト法、ブレードコート法、バーコート法等の塗布によるウェットプロセスが挙げられる。
【0038】
[HMDS等 ゲート絶縁膜表面処理]
本発明の有機薄膜トランジスタにおいて、絶縁膜と電子供与性化合物層、あるいは、電子受容性化合物層との接着性の向上、ゲート電圧の低減、リーク電流低減等の目的で、これら層間に有機薄膜を設けても良い。有機薄膜は有機半導体活性層に対し、化学的影響を与えなければ、特に限定されないが、例えば、有機分子膜や高分子薄膜が利用できる。
有機分子膜としては、オクタデシルトリクロロシラン、オクチルトリクロロシラン、ヘキサメチレンジシラザン(HMDS)等を具体的な例としたカップリング剤が挙げられる。また、高分子薄膜としては、上述の高分子絶縁膜材料を利用することができ、これらが絶縁膜の一種として機能していても良い。また、この有機薄膜をラビング等により、異方性処理を施していても良い。
【0039】
[ゲート電極]
本発明の有機薄膜トランジスタに用いられるゲート電極としては、導電性材料であれば特に限定されず、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン、鉛、タンタル、インジウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの合金やインジウム・錫酸化物等の導電性金属酸化物、あるいはドーピング等で導電率を向上させた無機及び有機半導体、例えば、シリコン単結晶、ポリシリコン、アモルファスシリコン、ゲルマニウム、グラファイト、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチエニレンビニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体等が挙げられる。また電子供与性化合物と電子受容性化合物からなる有機電極を用いても、もちろんよい。
【0040】
電極の形成方法としては、上記材料を原料として蒸着やスパッタリング等の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅等の金属箔上に熱転写、インクジェット等によるレジストを用いてエッチングする方法がある。また導電性ポリマーの溶液あるいは分散液、導電性微粒子分散液を直接インクジェットによりパターニングしても良いし、塗工膜からリソグラフィーやレーザーアブレーション等により形成しても良い。さらに導電性ポリマーや導電性微粒子を含むインク、導電性ペースト等を凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等の印刷法でパターニングする方法も用いることができる。
【0041】
[引き出し電極、保護層]
また、本発明の有機薄膜トランジスタは、必要に応じて各電極からの引出し電極を設けることができる。
本発明の有機トランジスタは、水分、大気及びガスからの保護、またはデバイスの集積の都合上の保護等のため必要に応じて保護層を設けることもできる。
【0042】
[応用デバイス]
本発明によれば2種類の有機化合物を用いてp型有機半導体、n型有機半導体、それぞれの有機半導体活性層と有機電極を作製することができ、種々の回路として利用することができる。
また有機薄膜トランジスタとしては、液晶、有機EL、電気泳動等の表示画像素子を駆動するための素子として利用でき、これらの集積化により、いわゆる「電子ペーパー」と呼ばれるディスプレイを製造することが可能である。また、ICタグ等のデバイスとして、本発明の有機薄膜トランジスタを集積化したICを利用することが可能である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的かつ詳細に説明するが、これら実施例は、本発明を説明するためのものであって、制限するためのものではない。以下の記載中、「部」は別段の断りないかぎり、「重量部」を表わす。
【実施例1】
【0044】
ビス(アントラ[2,3-d])テトラチアフルバレン:(1)を用いて、以下の手順で、トップコンタクト型構造と呼ばれる図1-(C)構造の有機薄膜トランジスタ素子を作製した。
膜厚300 nmの熱酸化膜を有するN型のシリコン基板を濃硫酸に24時間浸漬させ洗浄した。洗浄済みのシリコン基板をシランカップリング剤(オクチルトリクロロシラン)のトルエン溶液 (1 mM)に浸漬させ、5分間超音波処理を行い、シリコン酸化膜表面に単分子膜を形成させた。
【0045】
上記で作製した基板に対して、基板全面にビス(アントラ[2,3-d])テトラチアフルバレン:(1)を真空蒸着(背圧 〜10-4 Pa, 蒸着レート0.1 Å/s、膜厚:25 nm)により成膜し第一の有機化合物層を形成した。続けて、電極形状を有したメタルマスクを用いてフラーレンを真空蒸着(背圧 〜10-4 Pa, 蒸着レート0.1 Å/s、膜厚:40 nm)により成膜し第二の有機化合物層を形成し、トップコンタクト型有機薄膜トランジスタ素子を作製した。この時メタルマスクを用いて配したフラーレンによる電極形状はチャネル長50 μm, チャネル幅 2 mmであった。
【0046】
こうして得られたFET(電界効果型トランジスタ)素子の電気特性をAgilent社製 半導体パラメーターアナライザーB1500を用いて評価した結果、p型のトランジスタ素子としての特性を示した。この時、ソース電極、ドレイン電極へのプロービングは図2に示されたプロービング位置(1)でおこなった。有機薄膜トランジスタの電流―電圧(I―V)特性を図3に示す。この飽和領域から、電界効果移動度を求めた。
なお、有機薄膜トランジスタの電界効果移動度の算出には、以下の式を用いた。
【0047】
【数1】


(ただし、Cinはゲート絶縁膜の単位面積あたりのキャパシタンス、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、Vgはゲート電圧、Idsはソースドレイン電流、μは移動度、Vthはチャネルが形成し始めるゲートの閾値電圧である。)
作製した有機薄膜トランジスタの電界効果移動度は、0.0062cm/Vsであった。
【実施例2】
【0048】
実施例1で作製した有機薄膜トランジスタ素子においてソース電極、ドレイン電極へのプロービングを図2プロービング位置(2)でおこなった以外実施例1同様に電気特性評価を行った結果、p型のトランジスタ素子としての特性を示した。有機薄膜トランジスタの電流―電圧(I−V)特性を図4に示す。
この時有機薄膜トランジスタの電界効果移動度は、0.005cm/Vsであった
【実施例3】
【0049】
ビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:(1)を用いて、以下の手順で、ボトムコンタクト型構造と呼ばれる図1-(B)構造の有機半導体素子を作製した。
実施例1同様の基板処理を施したN型シリコン基板に対して、極形状を有したメタルマスクを用いて電極形状様にビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:(1)を真空蒸着(背圧 〜10-4 Pa, 蒸着レート0.1 Å/s、膜厚:25 nm)により第一の有機化合物層を形成した。続けて、フラーレンを真空蒸着(背圧 〜10-4 Pa, 蒸着レート0.1 Å/s、膜厚:40 nm)により基板全面に第二の有機化合物層を形成しボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタ素子を作製した。この時メタルマスクを用いて配したビス(アントラ[2,3-d])テトラチアフルバレン:(1)による電極形状はチャネル長50 μm, チャネル幅 2 mmであった。
【0050】
実施例1同様に電気特性評価を行った結果、n型のトランジスタ素子としての特性を示した。有機薄膜トランジスタの電流−電圧(I−V)特性を図5に示す。
この時有機薄膜トランジスタの電界効果移動度は、0.003cm/Vsであった。
【0051】
これらの結果、実施例1において、ビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン/フラーレン積層界面において電化移動錯体が形成され、有機電極としての機能する。さらに、周りのビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレンの優れたp型有機半導体としての性質がそのまま有機半導体活性層として利用されていることが示された。さらに実施例2では1cmプロービング位置を離しているにもかかわらず実施例1とほぼ変わらない電界効果移動度が得られており、ビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン/フラーレン積層界面における電化移動錯体が有機電極として優れていることが明らかである。
さらに実施例3においてはビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレンを電極形状に配し、続けて基板全面にフラーレンを成膜することによりビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレンが配された電極形状部位だけが有機電極として機能しており、周りのフラーレンの優れたn型有機半導体としての性質がそのまま有機薄膜トランジスタの有機半導体活性層として利用されていることが示された。
【実施例4】
【0052】
p型有機半導体およびn型有機半導体を作りわけ、さらに同時に有機電極を作製する愚具体的手法を図6を用いて説明する。
実施例1同様に基板洗浄および前処理を行った(ステップ1)。次にn型有機半導体を形成する位置には電極形状に、p型有機半導体を作製する部分については少なくとも電極部分と有機半導体活性層部分びビス(アントラ[2,3−d])テトラチアフルバレン:(1)を実施例1同様の方法を用いて成膜した(ステップ2)。次にn型有機半導体素子を作製する部分には少なくとも有機電極と有機半導体活性層部分を覆うように、p型半導体素子を作製する部分については電極形状にフラーレンを実施例3同様の手法を用いて成膜した。それぞれの素子について実施例1同様に電気特性評価を行った結果、n型有機半導体素子部分は図5、p型有機半導体素子部分は図3とほぼ同じ有機薄膜トランジスタの電流−電圧(I−V)特性を示した。
【0053】
すなわち本発明を用いればわずか2種類の有機材料を、それぞれ一度ずつ成膜するだけでp型、n型両方の有機薄膜トランジスタを作製可能であり、さらに有機電極も同時に形成できることからフレキシビリティーにも優れた有機薄膜トランジスタが容易に得られる。
【符号の説明】
【0054】
1 第一の有機化合物層
2 第二の有機化合物層
3 ゲート電極
4 ゲート絶縁膜
【先行技術文献】
【特許文献】
【0055】
【特許文献1】特願2009−073990号明細書
【特許文献2】特願2010−000319号明細書
【特許文献3】特願2010−026729号明細書
【非特許文献】
【0056】
【非特許文献1】Apply.Phys.Lett., 88, 073504, (2006)
【非特許文献2】Adv. Matterials, 2007, 19, 3248
【非特許文献3】Adv. Matter., 19, 3248, (2007)
【非特許文献4】Chem. Matter, 19, 6382, (2007)
【非特許文献5】J.Org,Chem.,2000,65, 5794-5805
【非特許文献6】J. Org. Chem. 1994, 59, 6519-6527,
【非特許文献7】Chem. Commun. 1998, 361-362,
【非特許文献8】Chem. Commun. 1998, 2197-2198,
【非特許文献9】Tetrahedron Letters 2000, 41, 2091-2095

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種類以上の有機化合物からなる有機電極と、少なくとも1種類以上の有機電極構成成分から選ばれた有機化合物を主成分とする有機半導体活性層から構成された有機半導体素子膜を有する有機薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記有機電極を構成している有機化合物が少なくとも1種類の電子供与性化合物と1種類の電子受容性化合物により主成分が構成されており、かつ、そのどちらかが有機半導体活性層を主成分とする有機半導体素子膜を有することを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記電子供与性化合物が一般式(I)で示されるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機薄膜トランジスタ。
【化1】

(式中、Xは炭素原子または硫黄原子または窒素原子から選択される原子であり同一でも異なっていても良い。Xに炭素原子及び窒素原子が選択される場合においてR〜R16は水素原子、ハロゲン原子、置換および無置換のアルキル基またはアルコシキ基またはチオアルコキシ基から選択される基であり同一でも異なっていても良い。)
【請求項4】
電子受容性化合物がフラーレンであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の有機薄膜トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−181716(P2011−181716A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44938(P2010−44938)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】