説明

板材接合方法と接合構造

【課題】橋梁等の鋼構造物に用いられる鋼板・コンクリート合成床版の底面鋼板などの板材を、架設現場で添接板を介して摩擦接合する際に、接合強度を損なわずに施工性を向上させる接合方法と、この接合方法による接合構造を提供することである。
【解決手段】接合すべき複数の鋼板5の接合部5aに設けたボルト孔6に、両側のねじ部2、2a間にボルト孔6を通過しない大きさの節部4aを設けた接合用ボルト1aをそれぞれ挿通し、鋼板5に下面側から固定した後、接合部5a、5aが近接して対向した状態で、接合用ボルト1aの上方から接合部5aを覆うように添接板10を配置し、ナット8aで締め付けて摩擦接合する際に、接合用ボルト1aの節部4aが通過できる大きさのボルト孔9aを設けた、節部4aの高さHaよりも大きな厚みtfのフィラープレート9を接合部5aにそれぞれ載置した後に添接板10を配置して鋼板5を摩擦接合するようにしたのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、橋梁等の鋼構造物に用いられる鋼板・コンクリート合成床版の底面の鋼板などの板材を連結して摩擦接合する方法およびこの接合方法を用いた接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁等の鋼構造物に用いられる鋼板・コンクリート合成床版は、底面の鋼板をコンクリート床板の断面の一部としたコンクリート床板であり、この鋼板は構造部材として使用されるだけでなく、コンクリート打設時の型枠にも兼用される。従って、コンクリート打設後の型枠を取り外す作業を省略でき、床板の下に脱型のための足場と支保工が不要となって、施工時のコストメリットが大きい
前記合成床版では、通常、図3(d)に示すように、複数の鋼板21、21aがボルト22、22、ナット23、23およびワッシャ24、24等の締結部品により、添接板25を介して連結して摩擦接合され、合成床版の底面の鋼板が形成される。この接合の手順は以下の通りである。
【0003】
まず、図3(a)に示すように、接合すべき一方の鋼板21の上に、添接板25の片側半分を、鋼板21および添接板25のそれぞれに設けたボルト孔26および27が一致するように重ね、鋼板21の下側からボルト22を挿通して、添接板25の上側からワッシャ24およびナット23を嵌める。そして、鋼板21の上側から、このナット23を締め込んで、一方の鋼板21に添接板25を固定する。次に、図3(b)に示すように、接合すべき他方の鋼板21aを、添接板25を固定した一方の鋼板21に近接させ、鋼板21および添接板25のそれぞれに設けたボルト孔26aおよび27aが一致するように添接板25の他方側の半分と重ね、図3(c)に示すように、鋼板21aの下面側からボルト22を挿通する。そして、図3(d)に示したように、ボルト22にワッシャ24およびナット23を嵌め、鋼板21aの上面側からこのナット23を締め込んで締結し、この鋼板21aに添接板25を固定する。このようにして、添接板25がそれぞれの鋼板21、21aに固定される結果として、この鋼板21、21aが添接板25を介して、ボルト22およびナット23により摩擦接合される。
【0004】
しかし、このように、ボルト22を用いて鋼板どうしを接合する場合、鋼板21、21aの下面側からボルト22をそれぞれ挿通し、このボルト22が落下しないように保持してワッシャ24およびナット23を嵌めて締め込む必要があるため、鋼板21、21aの上面側からだけでは、その接合作業を行なうことができない。このため、架設現場で鋼板21、21aの下面側にも足場を設けて、そこからボルト22を挿通し、鋼板21、21aの上面側から締結するとういう施工手順を踏まざるを得ず、型枠の取り外し作業を省略できることによる床板下側の足場が不要という合成床版の前述のコストメリットの一つを相殺することになる。
【0005】
このような問題点を解消するために、本発明者は、両側にねじ部を有し、このねじ部間に、接合すべき鋼板などの板材のボルト孔を通過しない大きさを有する膨出した節部を設けて形成した、落下防止機能を有する接合用ボルト(図4(a)〜(c)参照)を用い、添接板を介してナットで締め込む鋼板上面側からの締結作業で板材を摩擦接合する方法を開示している(特許文献1参照)。この接合方法によれば、施工コストが大幅に低減し、作業環境が改善され、安全性が向上するなどの利点がある。
【特許文献1】特開2004−176909号公報([0040]〜[0049]) 図5(a)〜(c)は、このような接合方法の一例として、図4(a)に示した節付き両ねじタイプの接合用ボルト1を用いて、合成床版の鋼板5、5を接合する方法を示したものである。図5(a)は、それぞれの鋼板5、5にボルト1、1を上方から挿通し、その節部4、4が鋼板5、5に設けたボルト孔6、6に嵌って当たり、鋼板5、5の下面側に突出したボルト1、1の一方のねじ部2、2にワッシャ7、7を介して嵌めたナット8、8を締め込み、予めボルト1、1を鋼板5、5に固定し、鋼板5、5の接合部5a、5aを近接して対向させた状態を示している。
【0006】
図5(b)および(c)は、ボルト1、1の節部4、4が通過できる大きさのボルト孔10a、10を設けた添接板10をボルト1、1の上方から挿入し(図5(b))、接合部5a、5aを覆うように鋼板5、5上に配置した後、固定したそれぞれのボルト1、1の他方のねじ部2a、2aにワッシャ7a、7aを介してナット8a、8aを嵌めて鋼板5、5の上面側から締め込み、添接板10とそれぞれの鋼板5、5とを固定した状態(図5(c))を示したものである。
【0007】
図5(a)に示したように、前記ボルト1の節部4の直径Dは、落下防止のため、鋼板5に設けたボルト孔6の直径dよりも大きく形成され、また、このボルト孔6の直径dは、ボルト軸部3の直径dよりも大きく形成されているので、これらの直径D、d、dの大小関係は、D>d>dとなる。そして、節部4の直径Dは、ボルト孔6の直径dよりも少なくとも1mm程度大きくしていれば十分である。また、節部4の高さHは、図5(b)および図5(c)に示した添接板10の板厚tcよりも小さくしておく必要がある。なお、前記節部4を、その外周面がテーパ状ではなく、ボルト孔を通過しない大きさで、円筒状に形成し、鋼板に接する方の端部に面取りCを施した節部4aとすることもできる(図4(b)参照)。また、図4(a)および(b)に示した、両側のねじ部間に節部を設けた接合用ボルトの代わりに、ボルト1の軸部3に、節部に相当する引っ掛けリング12をねじ結合により装着する、丸いボルト頭のトルシア形高力ボルトなどの接合用ボルトを用いることもできる(図4(c)参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記接合用ボルト1のねじ部が、例えば、M22の場合(ボルト軸径=φ22mm)、図5(b)に示した添接板10を接合すべき鋼板5、5に重ねたて配置した状態での前記各直径D、d、dの寸法(図5(a)を参照)を示すと図6のようになる。道路橋指示方書・同解説II鋼橋編(社団法人 日本道路協会編(平成14年3月)、第424頁―第425頁)によれば、ボルトを用いた摩擦/引張接合では、主として接合強度の観点から、所要の摩擦接触面積を確保するため、M22のボルトの場合のボルト孔径は24.5mm(但し、許容差+0.5mm)と規定されている。図6(a)に示したように、接合用ボルト1aに形成された節部4a(この場合は円筒形状)の直径Dは、前記ボルト孔6に対して1mm程度大きくする必要があるため、25.5mmは必要となる。また、添接板10のボルト孔10aの直径dcは、節部4aへの通過性を確保するため、その直径Dよりも少なくとも1mm大きくする必要がある。従って、添接板のボルト孔10aの直径dcとしては、26.5mmは必要である。
【0009】
しかし、添接板10のボルト孔直径dcとボルト1aの節部4aの直径Dとの差、即ち、遊び間隔が1mm程度では、橋梁の架設現場での施工性がわるく、また、ボルト節部1や添接板の製作精度の観点からも厳しくなる。
【0010】
そこで、この発明の課題は、橋梁等の鋼構造物に用いられる鋼板・コンクリート合成床版の底面鋼板などの板材を、架設現場でボルトを用い、添接板を介して接合する場合に、接合強度を低下させずに施工性を向上させる接合方法と、この接合方法を用いた接合構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するために、この発明では以下の構成を採用したのである。
【0012】
即ち、請求項1に係る板材の接合方法は、接合すべき複数の板材の接合部に設けたボルト孔に、両側にねじ部を有し、このねじ部間に前記ボルト孔を通過しない大きさを有する膨出した節部を設けた接合用ボルトをそれぞれ挿通して前記板材にその下面側から固定した後、前記板材の接合部がそれぞれ近接するように対向した状態で、この接合用ボルトの上方から前記接合部を覆うように添接板を配置し、前記接合用ボルトに、その上方側からナットをはめ込んで板材と添接板とを固定する、添接板を介した板材の接合方法であって、前記接合用ボルトの節部が通過できる大きさのボルト孔が設けられ、前記節部の高さよりも大きな厚みのフィラープレートを予め接合用ボルトの上方から前記接合部にそれぞれ載置した後に、前記添接板を配置するようにしたことを特徴とする。
【0013】
このように、厚みが、接合用ボルトの節部の高さよりも大きいフィラープレートを、板材のそれぞれの接合部に載置しているため、添接板がボルト節部と接触せずに、フィラープレートを介して板材と添接板とを固定し、摩擦接合することができる。従って、添接板に設けるボルト孔は、ボルト節部よりも大きくする必要はなく、前記道路橋指示方書・同解説に規定されたボルト孔の径に適合させることができるため、ボルト軸部とボルト孔との間隔も適正に保たれる。それにより、橋梁の架設等の工事現場での施工性が向上し、かつ、ボルト孔を必要以上に大きくせずに済むため、締め付け部材との所要の接触面積も確保でき、接合強度の低下を防止することができる。なお、上記ナットは、内面にねじが形成された締め付け部材を意味し、必ずしも六角ナットに限定するものではない(以下同様である)。
【0014】
請求項2に係る板材の接合方法は、接合すべき複数の板材の接合部に設けたボルト孔に、その下面側から接合用ボルトを挿通し、その軸部にねじ結合により、前記ボルト孔を通過しない大きさの引っ掛けリングを装着して前記接合ボルトを板材に固定した後、前記板材を、その接合部がそれぞれ近接するように対向させ、この接合用ボルトの上方から前記接合部を覆うように添接板を配置し、前記接合用ボルトに、その上方側からナットをはめ込んで板材と添接板とを固定する、添接板を介した板材の接合方法であって、前記接合用ボルトの引っ掛けリングが通過できる大きさのボルト孔を設けた、前記引っ掛けリングの高さよりも大きな厚みのフィラープレートを予め接合用ボルトの上方から前記接合部にそれぞれ載置した後に、前記添接板を配置するようにしたことを特徴とする。
【0015】
このようにしても、厚みが、接合用ボルトに装着した引っ掛けリングの高さよりも大きいフィラープレートを、板材のそれぞれの接合部に載置しているため、添接板がボルト節部と接触せずに、フィラープレートを介在させて板材と添接板とを、その上面側のみからの締結作業で固定し、摩擦接合することができる。しかも、接合用ボルトを板材のボルト孔に挿通した後に引っ掛けリングを板材の上方側から装着し、落下を防止できるため、前記ボルトを板材の下面側から挿通することができるため、人目に触れる板材の下面側にボルト頭が位置し、下面側に、飛び出したように見えるナットをはめ込む必要がないため、外観が向上する利点がある。
【0016】
請求項3に係る板材の接合方法は、接合すべき複数の板材のそれぞれの接合部が近接して対向し、前記板材のボルト孔に、両側にねじ部を有し、このねじ部間に前記ボルト孔を通過しない大きさを有する膨出した節部を設けた接合用ボルトがそれぞれ挿通され、この接合用ボルトの上方から前記接合部を覆うように、添接板がそのボルト孔に前記接合用ボルトを通過させて配置され、前記接合用ボルト両側のねじ部にナットがそれぞれはめ込まれて板材と添接板とが固定された、添接板を介した板材の接合構造であって、前記板材と添接板との間に、前記接合用ボルトの節部が通過できる大きさのボルト孔を設けた、前記節部の高さよりも大きな厚みのフィラープレートを介在させ、かつ前記添接板のボルト孔が前記フィラープレートのボルト孔よりも小さいことを特徴とする。
【0017】
このような接合構造にすると、添接板に設けるボルト孔の大きさが、ボルト節部の大きさに影響されないため、前記ボルト孔を、接合用ボルトの軸径に対して前述の規定通りに形成することができ、接合強度を損なわずに施工性を向上させることができる。
【0018】
請求項4に係る板材の接合構造は、接合すべき複数の板材のそれぞれの接合部が近接して対向し、前記板材のボルト孔に、接合用ボルトが挿通され、軸部にねじ結合により、前記ボルト孔を通過しない大きさの引っ掛けリングを装着して前記接合用ボルトが板材に固定され、この接合用ボルトの上方から前記接合部を覆うように、添接板がそのボルト孔に前記接合用ボルトを通過させて配置され、前記接合用ボルトのねじ部にはめ込まれたナットにより板材と添接板とが固定された、添接板を介した板材の接合構造であって、前記板材と添接板との間に、前記接合用ボルトに装着した引っ掛けリングが通過できる大きさのボルト孔を設けた、前記引っ掛けリングの高さよりも大きな厚みのフィラープレートを介在させ、かつ前記添接板のボルト孔が前記フィラープレートのボルト孔よりも小さいことを特徴とする。
【0019】
このように、引っ掛けリングを装着した接合ボルトを用いた接合構造とした場合でも、フィラープレートの厚みが引っ掛けリングの高さよりも高いため、添接板に設けるボルト孔の大きさが、引っ掛けリングの大きさに影響されずに済む。それにより、前記ボルト孔を、接合用ボルトの軸径に対して前述の規定通りに形成することができ、接合強度を損なわずに、施工性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明では、板材を、添接板を介して節部または引っ掛けリング等の落下防止用突出部を備えた接合用ボルトにより摩擦接合するに際して、板材と添接板との間に、前記突出部が通過できる大きさのボルト孔を設け、厚みが前記突出部の高さよりも大きいフィラープレートを介在させるようにしたので、添接板がボルト節部と接触せず、添接板に設けるボルト孔の大きさが、前記突出ボルト節部の大きさに影響されずに済む。それによって、添接板のボルト孔を、接合用ボルトの軸径に対して、前述の規定通りに形成することができ、添接板のボルト孔とボルト軸部との間に所要の間隔を、また、添接板と締め込み部材との間に所要の接触面積をそれぞれ確保できるため、接合強度が損なわれず、即ち接合部の安全性が保たれる状態で、橋梁の架設等の工事現場での施工性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、この発明の実施形態を添付の図1および図2に基づいて説明する。
【0022】
図1(a)〜(d)は、図4(b)に示した円筒形状の節付き両ねじタイプのボルト1aを用いて、合成床版等の鋼板を接合する手順を示したものである。図1(a)に示したように、接合すべき鋼板5、5にボルト1a、1aを上方から挿通すると、その節部4a、4aが鋼板5、5に設けたボルト孔6、6に嵌って当たり、落下が防止された状態となる。次に、図1(b)に示したように、鋼板5、5の下面側に突出したボルト1a、1aの一方のねじ部2、2にワッシャ7、7を介して嵌めたナット8、8を締め込み、予めボルト1a、1aを鋼板5、5に固定する。そして、ボルト1a、1aの節部4aが通過できる大きさのボルト孔が設けられ、節部4aの高さHよりも大きい厚みtfのフィラープレート9、9が、接合用ボルト1a、1aの上方から接合部5a、5aにそれぞれ載置された後、鋼板5、5の接合部5a、5aを近接して対向した状態にする。なお、フィラープレート9、9を接合部5a、5aに載置するまでは、鋼板5、5を必ずしも近接して対向させなくてもよい。
【0023】
図1(c)に示したように、ボルト1aの軸部3と所要の間隔を有する大きさのボルト孔10a、10aを設けた添接板10をボルト1a、1aの上方から挿入し、接合部5a、5aを覆うように鋼板5、5上に配置する。そして、図1(d)に示したように、ボルト1a、1aの上側のねじ部2a、2aにワッシャ7a、7aを介してナット8a、8aを嵌めて鋼板5、5の上面側から締め込み、フィラープレート9、9を介してそれぞれの鋼板5、5と添接板10とを固定して、鋼板5、5が添接板10を介して接合される。
【0024】
図1(a)に示したように、接合用ボルト1aの節部4aの直径Dは、落下防止のため、鋼板5に設けたボルト孔6の直径dよりも大きく形成され、このボルト孔6の直径dは、ボルト軸部3の直径dよりも大きく形成されており、また、図1(b)に示したように、フィラープレート9のボルト孔9aの直径dfは、節部4aの直径Dよりも大きいため、これらの直径D、df、d、dの大小関係は、df>D>d>dとなる。そして、前述のように、節部4aの直径Dは、鋼板5のボルト孔6の直径dよりも少なくとも1mm程度大きくしていれば充分である。なお、前記節部4、4aの代わりに、図4(c)に示した引っ掛けリング12を装着して落下防止機能をもたせることも可能である。
【0025】
いま、前記接合用ボルト1aの両側のねじ部2、2aがM22であるとすると、図中に寸法を記入したように、鋼板5のボルト孔の直径dは、前記の道路橋指示方書・同解説に規定されたM22のボルト孔径により、d=24.5mmに形成される。従って、節部4aの直径Dは、少なくとも25.5mmに形成すればよく、フィラープレート9のボルト孔9aの直径dfは、節部4aへの通過性を確保するため、その直径Dよりも少なくとも1mm大きくする必要があるため、少なくとも26.5mmに形成すればよい。フィラープレート9は、鋼板5の接合部5aに個々にはめ込んで載置されるため、そのボルト孔と節部4aとの間隔が1mmであっても、施工性が損なわれることはない。フィラープレート9の厚みtfは節部4aの高さHよりも大きいため、添接板10は節部4aと接触せず、従って、そのボルト孔10aの直径dcは節部4aの直径Dには左右されずに、道路橋指示方書・同解説に規定された、M22に対するボルト孔径dc=24.5mmに形成することができる。このように添接板10のボルト孔10aの孔径dcを形成すれば、この孔直径dcは鋼板5のボルト孔6の孔径dと等しくなる。
【0026】
上述のように、鋼板5と添接板10との間にフィラープレート9を介在させることにより、添接板10のボルト孔10aの直径dcを、図5に示した従来の場合の直径よりも小さくしても、ボルト1aの軸部3(M22のねじ部)とは2.5mmの間隔を確保できるため、橋梁等の架設現場での施工性が向上する。しかも、添接板10のボルト孔径dcは、前記規定に基づいた大きさであるため、ワッシャ7aおよびナット8aにより、所要の締め付け面積、即ち摩擦面積が確保され、接合強度が損なわれずに済む。また、添接板10のボルト孔加工精度の点でも有利である。なお、前記フィラープレート9は、添接板10の材質と同じ材質のものを使用することができ、添接板10の材質は、通常、接合すべき鋼板5と同材質のものが用いられる。
【0027】
図2(a)〜(d)は、図4(c)に示した、引っ掛けリング12を備えた丸いボルト頭13を有するトルシア形高力ボルトを板材接合用ボルト1bとして用いて、合成床版等の鋼板5、5を接合する手順を示したものである。なお、ピンテール部の図示は省略している。図2(a)に示したように、それぞれの鋼板5、5に設けたボルト孔6、6に、前記ボルト1b、1bを下方から挿通し、その上方から前記ボルト1bの軸部3にねじ結合により嵌め込んだ引っ掛けリング12をボルト孔6、6の周りに当て、落下防止のため、予めボルト1b、1bを鋼板5、5に固定する。次に、図2(b)に示したように、ボルト1b、1bの節部に相当する直径Daの引っ掛けリング12が通過できる大きさのボルト孔9aが設けられ、引っ掛けリング12の高さHaよりも大きい厚みtfのフィラープレート9、9を、接合用ボルト1b、1bの上方から接合部5a、5aにそれぞれ載置した後、鋼板5、5の接合部5a、5aを近接して対向した状態にする。なお、フィラープレート9、9を接合部5a、5aに載置するまでは、鋼板5、5を必ずしも近接して対向させなくてもよい。
【0028】
さらに、図2(c)に示したように、ボルト1bの軸部3と所要の間隔を有する大きさのボルト孔10a、10aを設けた添接板10をボルト1b、1bの上方から挿入し、接合部5a、5aを覆うように鋼板5、5上に配置する。そして、図2(d)に示したように、ボルト1b、1bのねじ部2a、2aにワッシャ7a、7aを介してナット8a、8aを嵌めて鋼板5、5の上面側から締め込み、フィラープレート9、9を介してそれぞれの鋼板5、5と添接板10とを固定して、鋼板5、5が接合される。
【0029】
このように、接合用ボルトとして、節部の代わりに引っ掛けリング12を装着した接合ボルト1bを用いた場合でも、鋼板5と添接板10との間にフィラープレート9を介在させることにより、添接板10のボルト孔10aが引っ掛けリング12の大きさに左右されず、前記の道路橋指示方書・同解説に規定されたボルト孔径に形成できるため、前述のように、ボルト1bの軸部3に、例えばM22のねじが形成されている場合、軸部3との間に2.5mmの間隔が確保されて、接合強度を損なわずに施工性を向上させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
この発明は、交通荷重を支える橋梁等の鋼構造物として使用される、耐荷力に富み、優れた耐久性を有する鋼板・コンクリート合成床版等の接合に利用することができ、架設工事の施工性向上等による合理化や省力化に大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a)〜(d)この発明の実施形態の鋼板の接合工程を示す説明図である。
【図2】(a)〜(d)他の実施形態の鋼板の接合工程を示す説明図である。
【図3】(a)〜(d)従来技術の一般的な鋼板の接合工程を示す説明図である。
【図4】(a)〜(c)板材接合用ボルトの正面図である。
【図5】(a)〜(c)図4(a)の板材接合用ボルトを用いた従来技術の鋼板の接合方法を示す説明図である。
【図6】(a)〜(d)図4(b)の板材接合用ボルトを用いた従来技術の鋼板の接合方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1、1a、1b・・・板材接合用ボルト
2、2a・・・ねじ部
3・・・軸部
4、4a・・・節部
5・・・鋼板
5a・・・接合部
6・・・ボルト孔
7、7a・・・ワッシャ
8、8a・・・ナット
9・・・フィラープレート
10・・・添接板
9a、10a・・・ボルト孔
12・・・引っ掛けリング
13・・・ボルト頭
D・・・節部外径
Da・・・引っ掛けリング外径
H・・・節部高さ
Ha・・・引っ掛けリング高さ






【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合すべき複数の板材の接合部に設けたボルト孔に、両側にねじ部を有し、このねじ部間に前記ボルト孔を通過しない大きさを有する膨出した節部を設けた接合用ボルトをそれぞれ挿通して前記板材にその下面側から固定した後、前記板材の接合部がそれぞれ近接するように対向した状態で、この接合用ボルトの上方から前記接合部を覆うように添接板を配置し、前記接合用ボルトに、その上方側からナットをはめ込んで板材と添接板とを固定する、添接板を介した板材の接合方法であって、前記接合用ボルトの節部が通過できる大きさのボルト孔が設けられ、前記節部の高さよりも大きな厚みのフィラープレートを予め接合用ボルトの上方から前記接合部にそれぞれ載置した後に、前記添接板を配置するようにしたことを特徴とする板材の接合方法。
【請求項2】
接合すべき複数の板材の接合部に設けたボルト孔に、その下面側から接合用ボルトを挿通し、その軸部にねじ結合により、前記ボルト孔を通過しない大きさの引っ掛けリングを装着して前記接合ボルトを板材に固定した後、前記板材を、その接合部がそれぞれ近接するように対向させ、この接合用ボルトの上方から前記接合部を覆うように添接板を配置し、前記接合用ボルトに、その上方側からナットをはめ込んで板材と添接板とを固定する、添接板を介した板材の接合方法であって、前記接合用ボルトの引っ掛けリングが通過できる大きさのボルト孔を設けた、前記引っ掛けリングの高さよりも大きな厚みのフィラープレートを予め接合用ボルトの上方から前記接合部にそれぞれ載置した後に、前記添接板を配置するようにしたことを特徴とする板材の接合方法。
【請求項3】
接合すべき複数の板材のそれぞれの接合部が近接して対向し、前記板材のボルト孔に、両側にねじ部を有し、このねじ部間に前記ボルト孔を通過しない大きさを有する膨出した節部を設けた接合用ボルトがそれぞれ挿通され、この接合用ボルトの上方から前記接合部を覆うように、添接板がそのボルト孔に前記接合用ボルトを通過させて配置され、前記接合用ボルト両側のねじ部にナットがそれぞれはめ込まれて板材と添接板とが固定された、添接板を介した板材の接合構造であって、前記板材と添接板との間に、前記接合用ボルトの節部が通過できる大きさのボルト孔を設けた、前記節部の高さよりも大きな厚みのフィラープレートを介在させ、かつ前記添接板のボルト孔が前記フィラープレートのボルト孔よりも小さいことを特徴とする板材の接合構造。
【請求項4】
接合すべき複数の板材のそれぞれの接合部が近接して対向し、前記板材のボルト孔に、接合用ボルトが挿通され、軸部にねじ結合により、前記ボルト孔を通過しない大きさの引っ掛けリングを装着して前記接合用ボルトが板材に固定され、この接合用ボルトの上方から前記接合部を覆うように、添接板がそのボルト孔に前記接合用ボルトを通過させて配置され、前記接合用ボルトのねじ部にはめ込まれたナットにより板材と添接板とが固定された、添接板を介した板材の接合構造であって、前記板材と添接板との間に、前記接合用ボルトに装着した引っ掛けリングが通過できる大きさのボルト孔を設けた、この引っ掛けリングの高さよりも大きな厚みのフィラープレートを介在させ、かつ前記添接板のボルト孔が前記フィラープレートのボルト孔よりも小さいことを特徴とする板材の接合構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−138392(P2006−138392A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−328166(P2004−328166)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(594027085)神鋼ボルト株式会社 (3)
【出願人】(390003241)株式会社宮地鐵工所 (8)
【Fターム(参考)】