説明

板状ヒータ、加熱装置、画像形成装置

【課題】絶縁基板の長手方向の温度差を抑えて低抵抗から高抵抗まで幅広いレンジで長手方向により均一な発熱を得ることができる板状ヒータを実現する。
【解決手段】長尺板状絶縁基板11に、短手方向が長さで、長手方向が幅の幅広の発熱抵抗体16を形成し、発熱抵抗体16の両端部に端部導体14,15を介して電力供給用の電極12,13を形成する。端部導体14,15、発熱抵抗体16上にオーバーコート層を形成する。発熱抵抗体16の一端と幅に相当する端部導体14の導体長をLc、導体幅をWcとしたときに、端部導体14の導体長をLc、導体幅をWcとしたときに、発熱抵抗体16の抵抗値Rは、0.085(Lc/Wc)よりも大きくなるようにした。これにより、絶縁基板11の長手方向の温度差を抑えて低抵抗から高抵抗まで幅広いレンジで長手方向の発熱の均一性向上を図ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、情報機器、家電製品や製造設備などの小型機器類に装着されて用いられる薄型の板状ヒータおよびこの板状ヒータを実装したプリンタ、複写機、ファクシミリやリライタブルカードリーダライタなどの加熱装置ならびにこの加熱装置を用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のセラミック等の絶縁基板を用いた板状ヒータは、絶縁基板上の長手方向に正の温度係数を有する発熱抵抗体を形成し、この発熱抵抗体の短手方向の両端に電力供給用の電極を接続させることで、絶縁基板長手方向における温度分布の均一化が図られている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平7−94260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した特許文献1の技術は、発熱抵抗体の長手方向両端部に形成した端部導体は導体幅Wcに対して導体長Lcが長いため、端部導体の抵抗値が高くなりやすい。そのため、発熱抵抗体の同一端部側から給電を行う場合、導電経路が短い給電用電極側に電流が流れやすく、発熱量が大きくなりやすい。
【0004】
特に、導体幅が狭かったり、発熱抵抗体の抵抗値が低いと発熱抵抗体全体に均一に電流が流れにくく、発熱抵抗体を均一に発熱させることができないため、温度分布が傾いたり中央部の温度が低くなったりし、ヒータの長手方向で均一な温度分布が得られず定着ムラなどの定着不良を起こす、という問題があった。
【0005】
この発明の目的は、低抵抗から高抵抗まで幅広いレンジで絶縁基板の長手方向の温度差を抑えた発熱を得ることができる板状ヒータ、この板状ヒータを用いた加熱装置および画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するために、この発明の板状ヒータは、耐熱・絶縁性材料で形成される長尺平板状の絶縁基板と、前記絶縁基板面上の長手方向両側に沿ってそれぞれ形成された第1および第2の端部導体と、前記第1および第2の端部導体一端にそれぞれ形成し、前記第1および第2の端部導体に電力を供給させる第1および第2の電極と、前記第1および第2の端部導体間の形成するとともに電気的に接続され、前記絶縁基板の長手方向に幅広く形成した発熱抵抗体と、前記発熱抵抗体および前記第1および第2の端部導体を覆い、これを保護するオーバーコート層と、を具備し、前記発熱抵抗体の両端部と接続された前記第1の端部導体(または前記第2の端部導体)の導体長をLc、前記第1の端部導体(または前記第1の端部導体)の導体幅をWcとしたときに、前記発熱抵抗体の抵抗値Rは、0.085(Lc/Wc)<Rの関係を満足したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、発熱抵抗体の抵抗値Rが0.085(Lc/Wc)よりも大きい値に設定することで、低抵抗から高抵抗まで幅広いレンジで絶縁基板の長手方向の温度差を抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0009】
図1、図2は、この発明のヒータの第1の実施形態について説明するためのもので、図1は上面図、図2は図1のA−A’断面図である。
【0010】
図1において、11は厚み0.5mm〜1.0mm程度の耐熱、電気絶縁性材料で、高い熱伝導性を有する例えばアルミナ(Al)、窒化アルミニウム(AlN)等の高剛性のセラミック等の平板短冊状の絶縁基板である。
【0011】
図1において、11は厚み0.5mm〜1.0mm程度の耐熱、電気絶縁性材料で、高い熱伝導性を有する例えばアルミナ(Al)、窒化アルミニウム(AlN)等の高剛性のセラミック等の平板短冊状の絶縁基板である。12,13はそれぞれ銀系等を主体とする良導電体膜からなる給電用の電極である。
【0012】
14,15は、電極12,13にそれぞれ一端を接続して非接触状態で絶縁基板11の長手方向の両側に並行し、銀(Ag)の含有率が例えば90wt%以上の材料で形成された端部導体である。電極12および端部導体14と電極13および端部導体15は、導電ペーストを絶縁基板11上に塗り、これを焼成することにより一体形成して絶縁基板11に固着する。電極12と一体形成された反対側の端部導体14と電極13と一体形成された反対側の端部導体15は、それぞれ解放状態となっている。すなわち、電極12,13は、端部導体14,15のそれぞれ同方向の一端に一体的に形成されている。
【0013】
16は、端部導体14,15との間の絶縁基板11の長手方向に沿って平行に形成された比較的抵抗値の高い酸化ルテニウム(RuO)等の抵抗体ペーストをスクリーン印刷した後、高温で焼成して所定の抵抗値を有する膜厚が10μm程度の幅広の発熱抵抗体である。
【0014】
17は、端部導体14,15および発熱抵抗体16を覆うように形成され、ガラス層厚が20μm〜100μm程度で熱伝導率が例えば2W/m・K以上のアルミナ等熱伝導性の優れた無機酸化物フィラーを25〜35wt%加えることで、摺動性を向上させたガラス等のオーバーコート層である。オーバーコート層17は、端部導体14,15および発熱抵抗体16を機械的、化学的、電気的に保護する。
【0015】
ここで、発熱抵抗体16の両端部に沿って形成されたの端部導体14の導体長Lcと、端部導体14の導体幅Wcとしたとき、発熱抵抗体16の抵抗値Rは、
0.085(Lc/Wc)<R … (1)

を満たすようにする。
【0016】
なお、式(1)では端部導体14の導体長Lcと導体幅Wcの条件について説明しているが、他方の端部導体15の導体長と導体幅については、同条件にする必要はない。逆に言えば、端部導体15の導体長と導体幅を式(1)の条件に設定した場合、端部導体14は、式(1)の条件でも、この条件になくても構わない。要は、端部導体14,15の何れか一方が式(1)を満足する関係にあればよい。
【0017】
式(1)から分かるように、発熱抵抗体16の抵抗値Rに対して端部導体14の抵抗値が大きいと、導電経路が短い給電用側に電流が流れやすく、導電経路の長い端部には電流が流れにくくなる。そのため、絶縁基板11の長手方向で発熱量が変わるため、温度差が生じやすくなる。
【0018】
ここで、端部導体14の導体長Lcを220mm、端部導体14の導体幅Wcを1.1mmとした場合の発熱抵抗体16の抵抗値Rに対する温度差は、図3に示すようになる。抵抗値が小さくなると温度差が生じやすいため、低抵抗の板状ヒータを作製することが難しい。
【0019】
そこで、端部導体14の抵抗値Rcを低くし、温度差を小さくする必要がある。端部導体14の抵抗値Rcは、端部導体14の厚みを厚くすることで小さくできるが、発熱抵抗体16とのコンタクト部分において発泡を起こしたり、耐電圧特性の低下などの弊害があったりするため、厚くしないことが望ましい。そのため、端部導体14の導体長Lc、導体幅Wc、シート抵抗値Sc(単位面積あたりの抵抗値)としたとき、端部導体14の抵抗値Rcは、
Rc=Sc(Lc/Wc) … (2)
により決定する。
【0020】
端部導体14の導体長Lcは、加熱装置の大きさで決まるため、変更することは難しい。また、一般的なAg系導体のシート抵抗値Scも3mΩ/□であり、さらに小さくすくことは難しい。そのため、端部導体14の導体幅Wcにより導体の抵抗値を変えることが一般的である。
【0021】
ここで、端部導体14の導体長Lcを220mm、ヒータ抵抗値を20Ωした場合の端部導体14の導体幅Wcに対する長手方向の温度差は、図4に示すようになる。端部導体14の導体幅Wcが狭くなると温度差が大きくなることがわかる。ヒータ抵抗値とは、電極12、端部導体14、発熱抵抗体16、端部導体15、電極13のそれぞれの抵抗の合計である。厳密には、電極12および端部導体14と電極13および端部導体15間の導体の抵抗値も含まれる。
【0022】
実験結果より、端部導体14の抵抗値Rcおよび発熱抵抗体16の抵抗値Rと長手方向の温度差ΔTは、次の近似式の関係となる。
(Rc2+Rc×R)/(0.5×R2+Rc×R)≒ΔT … (3)
この近似式より、温度差ΔTを7%以下にするためには、端部導体14のシート抵抗値Scが3mΩ/□のとき、式(4)を満たす必要がある。
0.085(Lc/Wc)<R … (4)
このように、発熱抵抗体の抵抗値Rを、0.085(Lc/Wc)で求めらる値よりも大きく設定することで、低抵抗から高抵抗まで幅広いレンジでヒータ長方向の温度差ΔTを7%以下を実現することができ、長手方向の発熱の均一性向上を図ることが可能となる。
【0023】
図5は、この発明の板状ヒータをトナー定着用として用いた場合の、この発明の加熱装置に関する一実施形態について説明するための断面図である。
【0024】
図5において、201は、支持体202の底部に板状ヒータ100を固着させ、板状ヒータ100に交流電圧を供給させ、加熱した板状ヒータ100の摺動層であるオーバーコート層17に圧接加熱されながら移動するポリイミド樹脂等の耐熱性のシートをロール状にして循環自在に巻装された円筒の定着フィルムである。203はその表面に耐熱性弾性材料であるたとえばシリコーンゴム層204が嵌合してある加圧ローラであり、加圧ローラ203の回転軸205と対向して板状ヒータ100が、定着フィルム201と並置して図示しない基台内に取り付けられている。加圧ローラ203は、図示しない手段に基づいて定着フィルム201と相互に圧接させてニップ部を形成するとともに、作動時には矢印方向に回転させる。
【0025】
このとき、オーバーコート層17に配置された定着フィルム201面とシリコーンゴム層204との間で、トナー像To1がまず定着フィルム201を介して板状ヒータ100により加熱溶融され、少なくともその表面部は融点を大きく上回り完全に軟化して溶融する。この後、加圧ローラ203の用紙排出側では複写用紙Pが板状ヒータ100から離れ、トナー像To2は自然放熱して再び冷却固化し、定着フィルム201も複写用紙Pから離反される。
【0026】
この実施形態では、板状ヒータ100の長手方向の温度分布の均一性を向上させたことにより、定着性の向上を図ることができる。
【0027】
次に、図6を参照して、この発明の加熱装置200を搭載した複写機を例とした、この発明の画像形成装置について説明する。図中、加熱装置200の部分は、上記した説明と同じであり、同一部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0028】
図6において、301は複写機300の筐体、302は筐体301の上面に設けられたガラス等の透明部材からなる原稿載置台で、矢印Y方向に往復動作させて原稿P1を走査する。
【0029】
筐体301内の上方向には光照射用のランプと反射鏡とからなる照明装置302が設けられており、この照明装置302により照射された原稿P1からの反射光源が短焦点小径結像素子アレイ303によって感光ドラム304上スリット露光される。なお、この感光ドラム304は矢印方向に回転する。
【0030】
また、305は帯電器で、例えば酸化亜鉛感光層あるいは有機半導体感光層が被覆された感光ドラム304上に一様に帯電を行う。この帯電器305により帯電された感光ドラム304には、結像素子アレイ303によって画像露光が行われた静電画像が形成される。この静電画像は、現像器306による加熱で軟化溶融する樹脂等からなるトナーを用いて顕像化される。
【0031】
カセット307内に収納されている複写用紙Pは、給送ローラ308と感光ドラム304上の画像と同期するタイミングをとって上下方向で圧接して回転される対の搬送ローラ309によって、感光ドラム304上に送り込まれる。そして、転写放電器310によって感光ドラム304上に形成されているトナー像は複写用紙P上に転写される。
【0032】
その後、感光ドラム304上から離れた用紙Pは、搬送ガイド311によって加熱装置200に導かれて加熱定着処理された後に、トレイ312内に排出される。なお、トナー像が転写された後、感光ドラム304上の残留トナーはクリーナ313を用いて除去される。
【0033】
加熱装置200は、複写用紙Pの移動方向と直交する方向に、この複写機300が複写できる最大判用紙の幅(長さ)に合わせた有効長、すなわち最大判用紙の幅(長さ)より長い発熱抵抗体を備えた板状ヒータ100が、加圧ローラ203の外周に取り付けられたシリコーンゴム層204に加圧された状態で設けられている。
【0034】
そして、板状ヒータ100と加圧ローラ203との間を送られる用紙P上の未定着トナー像T1は、発熱抵抗体12の熱を受け溶融して複写用紙P面上に文字、英数字、記号、図面等の複写像を現出させる。
【0035】
この実施形態では、板状ヒータ摺動性と熱伝導性の優れた板状ヒータ100による加熱装置を用いたことにより、定着性に優れた画像形成装置を実現することができる。
【0036】
板状ヒータの用途としては、複写機等の画像形成装置の定着用に用いたが、これに限らず、家庭用の電気製品、業務用や実験用の精密機器や化学反応用の機器等に装着して加熱や保温の熱源としても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の板状ヒータに関する一実施形態について説明するための構成図。
【図2】図1のA−A’断面図。
【図3】発熱抵抗体の抵抗値に対する温度差について説明するための説明図。
【図4】端部導体の導体幅に対する長手方向の温度差について説明するための説明図。
【図5】この発明の加熱装置に関する一実施形態について説明するための説明図。
【図6】この発明の画像形成装置に関する一実施形態について説明するための説明図。
【符号の説明】
【0038】
11 絶縁基板
12,13 電極
14,15 端部導体
16 発熱抵抗体
17 オーバーコート層
100 平板ヒータ
200 加熱装置
300 複写機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱・絶縁性材料で形成される長尺平板状の絶縁基板と、
前記絶縁基板面上の長手方向両側に沿ってそれぞれ形成された第1および第2の端部導体と、
前記第1および第2の端部導体一端にそれぞれ形成し、前記第1および第2の端部導体に電力を供給させる第1および第2の電極と、
前記第1および第2の端部導体間の形成するとともに電気的に接続され、前記絶縁基板の長手方向に幅広く形成した発熱抵抗体と、
前記発熱抵抗体および前記第1および第2の端部導体を覆い、これを保護するオーバーコート層と、を具備し、
前記発熱抵抗体の両端部と接続された前記第1の端部導体(または前記第2の端部導体)の導体長をLc、前記第1の端部導体(または前記第1の端部導体)の導体幅をWcとしたときに、前記発熱抵抗体の抵抗値Rは、0.085(Lc/Wc)<Rの関係を満足したことを特徴とする板状ヒータ。
【請求項2】
加熱ローラと、
前記加熱ローラに対向配置された発熱抵抗体が圧接された請求項1の何れかに記載の板状ヒータと、
前記板状ヒータと前記加圧ローラとの間を移動可能に設けられた定着フィルムとを具備したことを特徴とする加熱装置。
【請求項3】
媒体に形成された静電潜像にトナーを付着させてこのトナーを用紙に転写して所定の画像を形成する形成手段と、
画像が形成された用紙を加圧ローラにより定着フィルムを介して前記ヒータに圧接しながら通過させることによって、トナーを定着するようにした請求項2記載の加熱装置とを具備したことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−210552(P2008−210552A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43898(P2007−43898)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】