説明

架橋性樹脂組成物およびその樹脂成形体

金属との密着性や耐熱性に優れた成型材料となる架橋性樹脂組成物を提供する。 ビニル基を分子内に2以上有する化合物存在下、シクロオレフィンモノマーをメタセシス重合して得られたシクロオレフィン樹脂(A)と、ラジカル発生剤(B)とを含有する架橋性樹脂組成物。この架橋性樹脂組成物を加熱することにより架橋させて架橋樹脂成形体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は架橋性樹脂組成物およびその成形体に関し、さらに詳しくは、耐熱性に優れたシクロオレフィン樹脂からなる架橋樹脂成形体や架橋樹脂成形体を与えることのできる流動性に優れた架橋性樹脂組成物およびその成形体に関する。
【背景技術】
シクロオレフィンモノマーを含む重合性単量体を、メタセシス重合触媒存在下で重合させて得られるシクロオレフィン樹脂は、電気特性、機械的特性、耐衝撃特性、耐候性などに優れるため、幅広い分野の成形体について実用化が進められている。
シクロオレフィン樹脂は、その優れた電気特性から、プリント配線板などの電気絶縁材料として好適に用いられている。近年、プリント配線板は多層化され、より高密度化されている。このようなプリント配線板の配線層を、はんだなどを利用して形成する場合、電気絶縁材料にははんだ耐熱性が求められる。配線層を形成するためのはんだは、環境安全性の観点から鉛を含まない材料が望まれている。鉛フリーはんだでは、鉛より融点の高い金属が使用されるため、電気絶縁層に対する耐熱性の要求が更に高まっている。
例えば、国際公開WO98/05715号公報には、熱可塑性ノルボルネン系樹脂、有機過酸化物、及び架橋助剤を含有する架橋性樹脂組成物を、必要に応じて適当な溶媒に溶解し、樹脂成形体であるフィルムやプリプレグに成形し、金属箔などの基材に積層した後、加熱加圧成形して架橋・熱融着させてなる耐熱性に優れた架橋樹脂成形体が記載されている。
また、特開2000−72859号公報には、メタセシス重合触媒存在下に、シクロオレフィンモノマーを重合させるに際して、分子量調節を目的として、スチレン誘導体のような、分子中にビニル基を1つ有する化合物を配合することが提案されている。
【発明の開示】
本発明者は、国際公開WO98/05715号公報に記載されたような樹脂と過酸化物と架橋助剤とを含む架橋性樹脂組成物に、フィラーを入れて、樹脂成形体であるプリプレグを製造したが、フィラー量の多いプリプレグでは、積層されたプリプレグ間の密着性が低下することが判った。そして、これが、プリプレグに含浸された前記樹脂組成物の加熱時の流動性が不十分であることに起因することを確認した。もちろん樹脂の分子量を低下させれば流動性は改良できるが、その場合に、プリプレグのような成形体の耐熱性が低下する。即ち、架橋性樹脂組成物の流動性と成形体の耐熱性とを両立させることが困難な状況にあった。
かかる知見に基づき本発明者は、耐熱性に優れた樹脂成形体や架橋樹脂成形体(以下、まとめて「成形体」ということがある)を与えることのできる、優れた流動性を有する架橋性樹脂組成物を得るべく鋭意検討した結果、連鎖移動剤としてビニル基を分子内に2以上有する化合物を用いることにより架橋性樹脂組成物の流動性と成形体の耐熱性との両立を達成できることを見いだし、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
かくして本発明によれば、ビニル基を分子内に2以上有する化合物の存在下に、シクロオレフィンモノマーをメタセシス開環重合して得られるシクロオレフィン樹脂(A)と、ラジカル発生剤(B)とを含有する架橋性樹脂組成物が提供される。また、本発明によれば、当該架橋性樹脂組成物からなる樹脂成形体が提供される。さらに、本発明によれば、当該樹脂成形体を加熱し、架橋してなる架橋樹脂成形体が提供される。
本発明により、耐熱性に優れたシクロオレフィン系の架橋樹脂成形体を与えることのできる流動性に優れた架橋性樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の架橋性樹脂組成物は、シクロオレフィン樹脂(A)とラジカル発生剤(B)とを含有する。
本発明で用いるシクロオレフィン樹脂(A)は、シクロオレフィンモノマーとメタセシス重合触媒とビニル基を2以上有する化合物とを含有する重合性組成物を開環重合して得られるものである。特に重合性組成物にラジカル発生剤(B)を含んだものを用いて塊状開環重合すれば、本発明の架橋性樹脂組成物が、樹脂の製造と同時に得られ、生産性に優れるばかりでなく、良好な物性を示すので好ましい。
シクロオレフィン樹脂(A)の製造に用いるシクロオレフィンモノマーは、分子内に脂環式構造を有するオレフィンである。脂環式構造としては、単環、多環、縮合多環、橋架け環及びこれらの組合せ多環などが挙げられる。脂環式構造を構成する炭素数に格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個である。
シクロオレフィンモノマーとしては、単環シクロオレフィンモノマーや、ノルボルネン系モノマー(ジシクロペンタジエン類、テトラシクロドデセン類、ノルボルネン類)などが挙げられる。これらは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基などの炭化水素基や、極性基によって置換されていてもよい。また、ノルボルネン環の二重結合以外に、二重結合を有していてもよい。
単環シクロオレフィンモノマーとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5−シクロオクタジエンなどが挙げられる。
ノルボルネン系モノマーの具体例としては、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエンなどのジシクロペンタジエン類;
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−フェニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸無水物などのテトラシクロドデセン類;
2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、アクリル酸5−ノルボルネン−2−イル、メタクリル酸5−ノルボルネン−2−イル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物などのノルボルネン類;
7−オキサ−2−ノルボルネン、5−エチリデン−7−オキサ−2−ノルボルネンなどのオキサノルボルネン類;
テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンともいう)、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカ−4,10−ジエン、ペンタシクロ[9.2.1.14,7.02,10.03,8]ペンタデカ−5,12−ジエンなどの四環以上の環状オレフィン類;などが挙げられる。
極性基を有しない炭化水素系のシクロオレフィンモノマーを使用することにより、低誘電正接が得られる。
上記シクロオレフィンモノマーのうち、9−ビニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、5−ビニル−2−ノルボルネン、メタクリル酸5−ノルボルネン−2−イル、アクリル酸5−ノルボルネン−2−イル等のビニル基、メタクリロイル基、アクリロイル基を有するノルボルネン系モノマーを、全シクロオレフィンモノマーに対して0.1重量%以上使用することにより、ラジカル架橋反応性が向上し、本発明の架橋樹脂成形体の耐熱性が向上する。特に、本発明の架橋樹脂成形体を高周波数の信号を取り扱う電気絶縁材料に使用する場合は、9−ビニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、5−ビニル−2−ノルボルネン等のビニル基を有するノルボルネン系モノマーをブレンドすると、低誘電正接が得られるので、好ましい。
これらのシクロオレフィンモノマーは1種を単独で、又は2種以上を組合せて用いることができる。
本発明で使用されるビニル基を分子内に2以上有する化合物は、連鎖移動剤として機能するものである。
具体例としては、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、3,3−ジメチル−1,4−ペンタジエン、3,5−ジメチル−1,6−ヘプタジエン、3,5−ジメトキシ−1,6−ヘプタジエン、1,2−ジビニルシクロヘキサン、1,3−ジビニルシクロヘキサン、1,4−ジビニルシクロヘキサン、1,2−ジビニルベンゼン、1,3−ジビニルベンゼン、1,4−ジビニルベンゼン、ジビニルシクロペンタン、ジアリルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルアントラセン、ジビニルフェナントレン、トリビニルベンゼン、ポリブタジエン(1,2−付加が10%以上のもの)等の炭化水素化合物;
ジアリルエーテル、1,5−ヘキサジエン−3−オン、マレイン酸ジアリル、蓚酸ジアリル、マロン酸ジアリル、コハク酸ジアリル、グルタル酸ジアリル、アジピン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、フマル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、ジビニルエーテル、アリルビニルエーテル、マレイン酸ジビニル、蓚酸ジビニル、マロン酸ジビニル、こはく酸ジビニル、グルタル酸ジビニル、アジピン酸ジビニル、フタル酸ジビニル、フマル酸ジビニル、テレフタル酸ジビニル、シアヌル酸トリビニル、イソシアヌル酸トリビニル等のヘテロ原子を有する化合物が挙げられる。
上記ビニル基を分子内に2以上有する化合物のうち、酸素、窒素、硫黄等のヘテロ原子を持たない炭化水素化合物を使用した場合は、本発明の架橋樹脂成形体は比誘電率、誘電正接等の電気特性値が低くなり、高周波数の信号を扱う際の電気絶縁材料として好ましい。
ビニル基を分子内に2以上有する化合物の存在下で、シクロオレフィンモノマーのメタセシス重合反応を行うことにより、ポリマーの両末端にビニル基が導入されると考えられる。導入されたビニル基はラジカル反応性が大きいので、ラジカル架橋反応が促進されるものと考えられる。
ビニル基を分子内に2以上有する化合物の量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。少なすぎると、シクロオレフィン樹脂(A)が過度に高分子量となり、得られる架橋性樹脂組成物の溶融時の流動性が低下する傾向になる。多すぎると、架橋樹脂成形体の耐熱性や機械的物性が低下傾向になる。
上述したビニル基を分子内に2以上有する化合物以外に、他の連鎖移動剤を併用することができる。他の連鎖移動剤としては、ビニル基を分子内に1つだけ有する化合物が挙げられる。具体例としては、例えば、1−ヘキセン、2−ヘキセンなどの脂肪族オレフィン類;スチレン、アリルベンゼンなどの芳香族オレフィン類;ビニルシクロヘキサンなどの脂環式オレフィン類;エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;が挙げられる。ビニル基を分子内に1つだけ有する化合物の量は、ビニル基を分子内に2以上有する化合物に対して通常50モル%以下、好ましくは40モル%以下、より好ましくは30モル%以下、特に好ましくは10モル%以下である。
本発明で使用されるメタセシス重合触媒は、シクロオレフィンモノマーを、メタセシス開環重合させるものであれば特に限定されない。
用いるメタセシス重合触媒としては、遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、周期表(長周期型、以下同じ)5族、6族及び8族の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、5族の原子としては例えばタンタルが挙げられ、6族の原子としては、例えばモリブデンやタングステンが挙げられ、8族の原子としては、例えばルテニウムやオスミウムが挙げられる。
これらの中でも、8族のルテニウムやオスミウムの錯体をメタセシス重合触媒として用いることが好ましく、ルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。ルテニウムカルベン錯体は、触媒活性に優れるため重合性組成物の開環重合反応率を高くでき生産性に優れる。また、得られる樹脂成形体に臭気(未反応の環状オレフィンに由来する)が少ない。さらに、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも生産が可能である。
ルテニウムカルベン錯体は、下記の式(1)又は(2)で表される錯体化合物である。

式(1)及び(2)において、R、Rは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよいC〜C20の炭化水素基を表す。X、Xは、それぞれ独立して任意のアニオン性配位子を示す。L、Lはそれぞれ独立して、ヘテロ原子含有カルベン化合物又は中性電子供与性化合物を表す。また、R、R、X、X、L及びLは、任意の組合せで互いに結合して多座キレート化配位子を形成してもよい。
ヘテロ原子とは、周期律表第15族及び第16族の原子を意味し、具体的には、N、O、P、S、As、Se原子などを挙げることができる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、N、O、P、S原子などが好ましく、N原子が特に好ましい。
ヘテロ原子含有カルベン化合物は、カルベン炭素の両側にヘテロ原子が隣接して結合していることが好ましく、さらにカルベン炭素原子とその両側のヘテロ原子とを含むヘテロ環が構成されているものがより好ましい。また、カルベン炭素に隣接するヘテロ原子には嵩高い置換基を有していることが好ましい。
ヘテロ原子含有カルベン化合物の例としては、下記の式(3)又は式(4)で示される化合物が挙げられる。

(式中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよいC〜C20の炭化水素基を表す。また、R〜Rは任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。)
前記式(1)及び式(2)において、アニオン性配位子X、Xは、中心金属から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子であり、例えば、F、Cl、Br、Iなどのハロゲン原子、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボキシル基などを挙げることができる。これらの中でもハロゲン原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
また、中性の電子供与性化合物は、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子であればいかなるものでもよい。その具体例としては、カルボニル、アミン類、ピリジン類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、チオエーテル類、芳香族化合物、オレフィン類、イソシアニド類、チオシアネート類などが挙げられる。これらの中でも、ホスフィン類、エーテル類及びピリジン類が好ましく、トリアルキルホスフィンがより好ましい。
前記式(1)で表される錯体化合物としては、例えば、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどのL、Lがそれぞれヘテロ原子含有カルベン化合物、中性の電子供与性化合物であるルテニウム錯体化合物;
ベンジリデンビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)ビス(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどのL、Lとも中性電子供与性化合物であるルテニウム化合物;
ベンジリデンビス(1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデンビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)ルテニウムジクロリドなどのL、Lともヘテロ原子含有カルベン化合物であるルテニウム錯体化合物;などが挙げられる。
前記式(3)及び(4)で表される化合物の具体例としては、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
また、前記式(3)及び(4)で示される化合物のほかに、1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、1,3,4−トリフェニル−4,5−ジヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデンなどのヘテロ原子含有カルベン錯体化合物も用い得る。
これらのルテニウム錯体化合物は、例えば、Org.Lett.,1999年,第1巻,953頁、Tetrahedron.Lett.,1999年,第40巻,2247頁などに記載された方法によって製造することができる。
メタセシス重合触媒の量は、触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマーのモル比で、通常1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
メタセシス重合触媒は必要に応じて、少量の不活性溶剤に溶解又は懸濁して使用することができる。かかる溶媒としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、ミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では、工業的に汎用な芳香族炭化水素や脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素の使用が好ましい。また、メタセシス重合触媒としての活性を低下させないものであれば、液状の老化防止剤、液状の可塑剤、液状のエラストマーなど、成形物の性能に寄与する機能性液状化合物を溶剤として用いてもよい。
メタセシス重合触媒の重合活性を制御したり、重合反応率を向上させたりする目的で、重合活性剤(共触媒)や重合遅延剤を重合性組成物に配合することができる。重合活性剤としては、アルミニウム、スカンジウム、スズ、チタン、ジルコニウムの(部分)アルキル化物、(部分)ハロゲン化物、(部分)アルコキシ化物及び(部分)アリールオキシ化物などを例示することができる。
重合活性剤の具体例としては、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。
重合遅延剤としては、例えば、1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン、(シス,シス)−2,6−オクタジエン、(シス,トランス)−2,6−オクタジエン、(トランス,トランス)−2,6−オクタジエンなどの鎖状ジエン化合物;(トランス)−1,3,5−ヘキサトリエン、(シス)−1,3,5−ヘキサトリエン、(トランス)−2,5−ジメチル−1,3,5−ヘキサトリエン、(シス)−2,5−ジメチル−1,3,5−ヘキサトリエンなどの鎖状トリエン化合物;トリフェニルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィンなどのホスフィン類;アニリンなどのルイス塩基;などが挙げられる。
さらに、環内にジエン構造やトリエン構造を有するシクロオレフィンモノマーを重合遅延剤として用いることができる。このようなシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、1,5−シクロオクタジエン、1,5−ジメチル−1,5−シクロオクタジエン、1,3,5−シクロヘプタトリエン、(シス,トランス,トランス)−1,5,9−シクロドデカトリエンなどの単環シクロオレフィンなどが挙げられる。環内にジエン構造やトリエン構造を有するシクロオレフィンは、重合遅延剤であると同時にシクロオレフィンモノマーでもあるため、環内にジエン構造やトリエン構造を有するシクロオレフィンモノマーの一部として用いつつ重合遅延剤として機能させることもできる。
重合活性剤や重合遅延剤の量は、使用する化合物や目的に応じて任意に設定されるが、(メタセシス重合触媒中の遷移金属原子:重合活性剤又は重合遅延剤)のモル比で、通常1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
本発明におけるシクロオレフィン樹脂(A)は、このメタセシス重合触媒を用い、上述したビニル基を分子内に2以上有する化合物の存在下、シクロオレフィンモノマーを開環重合することによって得ることができる。重合反応は溶媒中で行う溶液重合であっても、塊状(バルク)開環重合であってもよいが、重合と同時に成形体が得られ、生産性に優れる上、残留溶剤の量が低減できることから塊状開環重合が好ましい。
以下に、塊状開環重合により得られるシクロオレフィン樹脂(A)とそれを含む架橋性樹脂組成物を得る方法を説明する。溶液重合によりシクロオレフィン樹脂(A)を製造し、これとラジカル発生剤とを含有する架橋性樹脂組成物を得る方法は後に説明する。
シクロオレフィンモノマー、ビニル基を分子内に2以上有する化合物及びメタセシス重合触媒からなる組成物に、ラジカル発生剤(B)を配合すれば、重合性組成物を得ることができる。そして、この重合性組成物を塊状開環重合することによって直接的に架橋性樹脂組成物を得ることができる。該重合性組成物又は架橋性樹脂組成物には、後述する添加剤を配合することもできる。
本発明で使用されるラジカル発生剤(B)は、シクロオレフィン樹脂の末端ビニル基等の炭素−炭素二重結合と架橋反応して橋掛け構造を生じせしめるものである。
ラジカル発生剤(B)の例としては、有機過酸化物やジアゾ化合物などが挙げられる。有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,3−ジ(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナートなどのケトンペルオキシド類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキサシド;などが挙げられる。中でも、塊状重合においては、メタセシス重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシドが好ましい。
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、4,4’−ジアジドカルコン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)−4−メチルシクロヘキサノン、4,4’−ジアジドジフェニルスルホン、4,4’−ジアジドジフェニルメタン、2,2’−ジアジドスチルベンなどが挙げられる。
ラジカル発生剤の量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。ラジカル発生剤の量が少ないと架橋が不十分となり、高い架橋密度の架橋樹脂成形体が得られなくなるおそれがある。量が多すぎる場合には、架橋効果が飽和する一方で、所望の物性を有する架橋樹脂成形体が得られなくなるおそれがある。
重合性組成物に、更に、ラジカル架橋遅延剤を配合すると、架橋性樹脂組成物の流動性及び保存安定性を向上させることができるので好ましい。
ラジカル架橋遅延剤としては、例えば、3−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、ビス−1,2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノキシ)エタンなどのヒドロキシアニソール類;2,6−ジメトキシ−4−メチルフェノール、2,4−ジメトキシ−6−t−ブチルフェノール等のジアルコキシフェノール類;カテコール、4−t−ブチルカテコール、3,5−ジ−t−ブチルカテコールなどのカテコール類;ベンゾキノン、ナフトキノン、メチルベンゾキノンなどのベンゾキノン類;などが挙げられる。これらの中でも、ヒドロキシアニソール類、カテコール類、ベンゾキノン類が好ましく、ヒドロキシアニソール類が特に好ましい。
ラジカル架橋遅延剤の量は、ラジカル発生剤1モルに対して、通常0.001〜1モル、好ましくは0.01〜1モルである。
このような重合性組成物を用いて架橋性樹脂組成物からなる樹脂成形体を得ることができる。樹脂成形体を得る方法としては、次の方法が挙げられる。
(a)重合性組成物をフィルムなどの支持体上に塗布し、所定温度に加熱して開環重合する方法。
(b)重合性組成物をシート状などの繊維強化材に含浸させた後、所定温度に加熱して開環重合する方法。
(c)重合性組成物を成形型の空間部に注入し、次いで所定温度に加熱して開環重合する方法。
(a)の方法によれば、樹脂フィルムが得られる。ここで用いる支持体としては、金属箔又は樹脂基材の使用が好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ナイロンなどの樹脂からなる樹脂基材;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、金、銀などの金属材料からなる金属箔;が挙げられる。また、樹脂基材として、ガラス繊維強化四フッ化エチレン樹脂(PTFE樹脂)フィルムのようなガラス繊維強化された樹脂薄膜を用いることもできる。
これら金属箔又は樹脂基材の厚さは、作業性などの観点から、通常1〜150μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは3〜75μmである。
重合性組成物の支持体表面への塗布方法は特に制限されず、例えば、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法などの公知の塗布方法が挙げられる。
重合性組成物を所定温度に加熱する方法としては特に制約されず、加熱プレート上に支持体を載せて加熱する方法、プレス機を用いて加圧しながら加熱(熱プレス)する方法、加熱したローラーで押圧する方法、加熱炉を用いる方法などが挙げられる。
以上のようにして得られる樹脂フィルムの厚みは、通常15mm以下、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下である。
支持体として、金属箔を用いると樹脂付金属箔が得られる。
(b)の方法によれば、例えば、繊維強化樹脂フィルムを得ることができる。これはいわゆるプリプレグとして用いることができる。
ここで用いる繊維強化材は、有機及び/又は無機のシート状の繊維であり、例えば、ガラス繊維(ガラス布、ガラス不織布など)、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、アミド繊維、金属繊維、セラミック繊維などの公知のものが挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を組合せて用いることができる。シート状の繊維強化材としては、マット、クロス、不織布などが挙げられる。
重合性組成物を繊維強化材に含浸させるには、例えば、重合性組成物の所定量を、クロス又はマット繊維強化材上に注ぎ、必要に応じてその上に保護フィルムを重ね、上側からローラーなどで押圧する(しごく)ことにより行うことができる。重合性組成物を繊維強化材に含浸させて得られた含浸物を所定温度に加熱することにより、塊状開環重合させて繊維強化樹脂フィルムが得られる。
含浸物の加熱方法は特に限定されず、前記(a)の方法と同様の方法が採用でき、また含浸物を支持体上に設置して加熱してもよい。予め型内に繊維強化材をセットしておき、重合性組成物を含浸させてから次に記述する(c)の方法に従い塊状開環重合してもよい。
(b)の方法によれば、重合性組成物の状態で繊維強化材に含浸させることができるため、繊維強化材への含浸が、樹脂溶液を含浸させる場合に比較して速やかにでき、しかも樹脂濃度の高い繊維強化樹脂フィルムが得られる。また、本発明の重合性組成物は溶剤を用いなくても良いため、従来のように、樹脂ワニスを含浸させた後、溶剤を除去する工程が不要であって、生産性に優れ、残存溶媒による問題も生じない。さらに、本発明では、重合はメタセシス反応、架橋はラジカル反応で、反応機構が異なるので、異なった温度条件で反応が進行するようにコントロールでき、得られる繊維強化樹脂フィルムも保存安定性に優れる。
(c)の方法によれば、様々な形状の樹脂成形体を得ることができる。得られる樹脂成形体の形状は特に制限されない。例えば、フィルム状、円柱状、角柱状などいかなる形状のものであってもよい。
ここで用いる成形型としては、従来公知の成形型、例えば、割型構造すなわちコア型とキャビティー型を有する成形型を用いることができ、それらの空間部(キャビティー)に反応液を注入して塊状重合させる。コア型とキャビティー型は、目的とする成形品の形状にあった空間部を形成するように作製される。また、成形型の形状、材質、大きさなどは特に制限されない。また、ガラス板や金属板などの板状成形型と所定の厚みのスペーサーとを用意し、スペーサーを2枚の板状成形型で挟んで形成される空間内に重合性組成物を注入することにより、フィルム状の樹脂成形体を得ることができる。
重合性組成物を成形型のキャビティー内に充填する際の充填圧力(射出圧)は、通常0.01〜10MPa、好ましくは0.02〜5MPaである。充填圧力が低すぎると、キャビティー内周面に形成された転写面の転写が良好に行われない傾向にあり、充填圧が高すぎると、成形型の剛性を高くしなければならず経済的ではない。型締圧力は通常0.01〜10MPaの範囲内である。
上記(a)、(b)及び(c)のいずれの方法においても、重合させるための加熱温度((c)の方法においては金型温度)は、通常30〜250℃、好ましくは50〜200℃である。重合時間は適宜選択すればよいが、通常、10秒〜20分、好ましくは10秒〜5分である。
重合性組成物を所定温度に加熱することにより重合反応が開始する。この重合反応は発熱反応であり、一旦反応が開始すると、組成物の温度が急激に上昇し、短時間(例えば、10秒から5分程度)でピーク温度に到達する。
重合反応時のピーク温度があまりに高くなると、重合反応のみならず、架橋反応も進行して、架橋性樹脂成形体が得られないおそれがある。したがって、重合反応のみを完全に進行させ、架橋反応が進行しないようにするためには、重合反応のピーク温度を通常230℃未満、好ましくは200℃未満に制御する。
重合反応ピーク温度は、ラジカル発生剤の種類に応じて異なるが、重合時のピーク温度をラジカル発生剤の1分間半減期温度以下とするのが好ましい。ここで、1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。例えば、ジ−t−ブチルペルオキシドでは186℃、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシンでは194℃である。
また、重合反応熱による過熱を防止するために、重合性組成物に前述の重合遅延剤を添加することにより、ゆっくりと反応させることもできる。
次に溶液重合によりシクロオレフィン樹脂(A)を得、次いで架橋性樹脂組成物を得る方法について説明する。
溶液重合では、シクロオレフィンモノマーを溶媒中でメタセシス重合させる。シクロオレフィンモノマーの濃度は、1〜50重量%が好ましく、2〜45重量%がより好ましく、5〜40重量%が特に好ましい。シクロオレフィンモノマーの濃度が過度に低いと生産性が悪くなり、過度に高いと重合後の粘度が高すぎて、後処理が難しくなる。溶液重合の反応温度は特に制限はないが、一般には、−30℃〜200℃、好ましくは、0℃〜180℃である。重合反応時間は、概して1分間から100時間であるが、特に制限はない。
溶液重合に用いる溶媒は、生成する重合体を溶解し、かつ重合を阻害しない溶媒であれば特に限定されない。溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素系炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの含ハロゲン系炭化水素を使用することができる。これらの溶媒の中でも、芳香族、脂肪族、および脂環族炭化水素、ならびにエーテル類が好ましく、重合反応時に不活性であること、重合体の溶解性に優れることなどの観点から、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素を使用するのが最も好ましい。
溶液重合によって得られるシクロオレフィン樹脂(A)は水素添加せずに使用することが望ましい。水素添加する場合は、水素添加率を低く抑え、ラジカル架橋反応性の大きい末端ビニル基が消失しないようにする。したがって、水素添加率は50%以下に抑えることが望ましい。
溶液重合反応後、重合溶液をシクロオレフィン樹脂(A)の貧溶媒と接触させポリマーを凝固させ、これを乾燥すれば目的の樹脂が得られる。貧溶媒は、シクロオレフィン樹脂の種類に応じて適宜選択されるが、通常は、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が用いられる。
得られたシクロオレフィン樹脂(A)と、前述したラジカル発生剤(B)と、必要に応じて後述する添加剤を、溶剤に溶解してワニスを得る。
ここでワニスを調製するのに用いる溶剤は、シクロオレフィン樹脂(A)が溶解する溶剤であれば特に限定されない。該ワニスの溶剤を乾燥・除去することにより、本発明の架橋性樹脂組成物を得る。該架橋性樹脂組成物は、他の材料(たとえば強化材や金属箔等)と複合化させて、樹脂成形体を得ることができる。たとえば、ワニスをガラスクロス等の強化材に含浸させてからワニスの溶剤を乾燥・除去した場合は、プリプレグが得られ、ワニスを金属箔に塗布してからワニスの溶剤を乾燥・除去した場合は、樹脂付金属箔が得られる。
上述したような方法により得られるシクロオレフィン樹脂(A)の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常1,000〜1,000,000、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜250,000の範囲である。重量平均分子量(Mw)が小さすぎると、架橋樹脂成形体の耐熱性、機械的物性が悪くなり、大きすぎると、架橋性樹脂組成物を加熱した際の流動性が悪化する。
シクロオレフィン樹脂(A)のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択できるが、通常50℃〜250℃、好ましくは100℃〜200℃である。
重合性組成物又は架橋性樹脂組成物に配合できる各種の添加剤としては、強化材、改質剤、酸化防止剤、充填剤、着色剤、光安定剤、難燃剤などが例示される。
強化材としては、例えば、ガラス繊維、紙基材などが挙げられる。改質剤としては、例えば、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)及びこれらの水素化物などのエラストマーなどが挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、アミン系などの各種のプラスチック・ゴム用酸化防止剤などが挙げられる。
充填材としては、例えば、ガラス粉末、カーボンブラック、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、雲母、アルミナ、二酸化チタン、ジルコニア、ムライト、コージライト、マグネシア、クレー、硫酸バリウム等の無機充填材、木粉、ポリエチレン粉等の有機充填材を使用できる。また、黒鉛粉、木炭粉、竹炭粉、金属粉等を使用すると導電性や電磁波遮蔽性を向上させることができる。チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、ジルコン酸鉛等の粉末を使用すると比誘電率を増大させることができる。Mn−Mg−Zn系、Ni−Zn系、Mn−Zn系等のフェライト、カルボニル鉄、鉄−珪素系合金、鉄−アルミニウム−珪素系合金、鉄−ニッケル系合金等の強磁性金属粉等を使用すると強磁性を付与することができる。また、充填材は、シランカップリング剤等で表面処理したものを用いることもできる。
着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。また、顔料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、黄鉛、酸化鉄黄色、二酸化チタン、酸化亜鉛、四酸化三鉛、鉛丹、酸化クロム、紺青、チタンブラックなどが挙げられる。光安定剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オギザニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤などが挙げられる。
難燃剤としては、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物系難燃剤などが挙げられる。
これらの添加剤の量は、用途に応じた量であれば良いが、シクロオレフィンモノマー又はシクロオレフィン樹脂100重量部に対して、それぞれ通常0.001〜1000重量部である。
上述してきた本発明の架橋性樹脂組成物や成形体は、加熱し、架橋させることができる。架橋性樹脂組成物からなる樹脂成形体を用いて架橋樹脂成形体を得るには、成形体を構成する架橋性樹脂組成物が架橋する条件で加熱すればよく、架橋性樹脂組成物を塊状重合で調製した場合は、塊状重合反応時のピーク温度以上の温度であるのが好ましく、ピーク温度より20℃以上高いのが好ましい。架橋させるときの加熱温度は、具体的には通常150〜250℃、好ましくは180〜220℃である。また、加熱・架橋する時間は特に制約されないが、通常数分間から数時間である。
架橋性樹脂組成物がフィルム状の成形物である場合には、該成形物を必要に応じて積層し、熱プレスする方法が好ましい。熱プレスするときの圧力は、通常0.5〜20MPa、好ましくは3〜10MPaである。熱プレスする方法は、例えば、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて行なうことができ、生産性に優れる。
架橋性樹脂組成物を加熱する際に、他の材料と重ね合わせることにより、他の材料と架橋樹脂とが複合した架橋樹脂成形体を得ることもできる。用いる他の材料としては、銅箔、アルミ箔、ニッケル箔、クロム箔、金箔、銀箔などの金属箔;プリント配線板の製造用基板等の基板;導電性ポリマーフィルム、他の樹脂フィルムなどのフィルム類;などが挙げられる。なお、樹脂成形体を前記(a)の方法で製造した場合には、支持体を他の材料としてそのまま用いてもよい。
また、前記他の材料として基板を用いた場合は、多層プリント配線板を製造するのにも好適である。ここで用いる基板としては、通常のプリント配線板の製造に用いられる基板であれば特に制限されず、公知のものを使用できる。例えば、外層材(片面銅張積層板など)、内層材(両面プリント配線板など)を、前記プリプレグを介して重ね合わせ、加圧加熱することで、多層プリント配線板を製造することができる。また、内層材(両面プリント配線板など)に前記樹脂付金属箔を重ね合わせ、加圧加熱することで、ビルドアップ多層プリント配線板を製造することができる。
【実施例】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
30mlのガラス瓶に、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン 7.5g、2−ノルボルネン 2.5gを入れ、ジビニルベンゼン(純度55%、2つのビニル基の位置がm位のものとp位のものとの混合物、東京化成社製、不純物としてエチルビニルベンゼン、ジエチルベンゼンを含む)0.12g、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン(1分間半減期温度175℃)0.11g、0.05モル/リットルのベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド/トルエン溶液(0.25モル/リットルのトリフェニルホスフィンを含む)を0.04ml加えて撹拌し、重合性組成物を調製した。これを、0.55mm厚平板成形用の金型(1mm厚の鉄板2枚で0.55mmのロの字型スペーサーを挟んだもの)に注入し、金型ごと145℃の熱プレスに挟んで、3分間加熱して重合させ、架橋性樹脂組成物からなる樹脂成形体を得た。該樹脂成形体の一部をテトラヒドロフランに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で単分散ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を測定した結果を、表1に示す。また、上記テトラヒドロフラン溶液の、ガスクロマトグラフィー(GC)測定により、架橋性樹脂組成物に対する残存モノマー量を測定した結果も、表1に示す。
該架橋性樹脂組成物からなる樹脂成形体を2枚重ねて積層用金型(1mm厚の鉄板2枚で1mmのロの字型スペーサーを挟んだもの)に入れ、金型ごと200℃の熱プレスに挟んで、15分間加熱することにより架橋樹脂成形体を得た。この架橋樹脂成形体を構成する樹脂の示差走査熱量計(DSC)によるガラス転移点(Tig)測定結果を表1に示す。また、該架橋樹脂成形体を直径10mmの円盤状に切り取り、23℃でトルエンに24時間浸漬した後、真空乾燥機により60℃で4時間乾燥した際の、初期重量に対する割合(残存率とする)を測定した結果も表1に示す。さらに、該架橋樹脂成形体を260℃のはんだ浴に20秒間浮かべた際の変形の有無についても、表1に示す。
[実施例2]
ジビニルベンゼン0.12gのかわりに、イソシアヌル酸トリアリル0.20gを使用して実施例1と同様にして成形体を得、評価した。結果を表1に示す。
(比較例1)
ジビニルベンゼン0.12gのかわりに、スチレン0.12gを使用して実施例1と同様にして成形体を得、評価した。結果を表1に示す。

[実施例3]
30mlのガラス瓶に、3,5−ジ−t−ブチルヒドロキシアニソールを42mg、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンを11.3g、2−ノルボルネンを3.7g、5−ビニル−2−ノルボルネンを0.45g、1,5−ヘキサジエンを0.30g、ジ−t−ブチルペルオキシド(1分間半減期温度186℃)を0.17g入れ、0.05モル/リットルのベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド/トルエン溶液(0.25モル/リットルのトリフェニルホスフィンを含む)を0.06ml加えて撹拌し、重合性組成物を調製した。
ガラス繊維強化PTFE樹脂フィルム(300mm×300mmに切断したもの。厚み0.08mm。商品番号:5310、サンゴバン・ノートン社製)の上にガラスクロス(200mm×200mmに切断したもの、厚み0.174mm。品名:7628/AS891AW、旭シュエーベル社製)2枚を敷き、重合性組成物をガラスクロス上に注ぎ、上からもう1枚の上記のガラス繊維強化PTFE樹脂フィルムをかぶせ、ローラーでしごいて含浸させた。
これをガラス繊維強化PTFE樹脂フィルムごと、145℃に加熱したホットプレートに1分間貼り付けて、該フィルム中に含浸されたモノマーを重合させた。その後、両面のガラス繊維強化PTFE樹脂フィルムを剥がして樹脂成形体であるプリプレグを得た。
このプリプレグの樹脂部分をテトラヒドロフランに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を測定したところ、25,600であった。
蒸留水60gに酢酸を一滴加え、さらにスチリルトリメトキシシラン(商品名:KEM−1403、信越化学社製)を0.18g加えて1時間撹拌して加水分解・溶解させた。このシランカップリング剤溶液を脱脂綿に含ませ、電解銅箔(粗面GTS処理品、厚み0.018mm、古河サーキットフォイル社製)の粗面に塗布し、窒素雰囲気下、130℃で1時間乾燥した。
上記プリプレグ(87mm×87mmに切断したもの)を3枚、内側の寸法が90mm×90mmのロの字型型枠(厚み1mm)に入れ、上記電解銅箔(プリプレグと接触する面を粗面とする)と0.05mm厚PTFEフィルムで挟み、プレス圧4.1MPaで200℃、15分間熱プレスした。その後、プレス圧をかけたまま冷却し、100℃以下になってからサンプルを取り出し、架橋樹脂成形体である片面銅張積層板を得た。この片面銅張積層板の、層間密着性を目視により確認した。具体的には、銅箔面の反対側から片面銅張積層板を観察し、層間が、接着せずに白化している部分の面積の全体に対する比率(以後、白化率という。)を求めたところ、0%であった。
この片面銅張積層板の樹脂部分について示差走査熱量計によるガラス転移点温度(Tig)の測定(JIS測定法 C6481)を行ったところ、107℃であった。また、はんだ耐熱試験(JIS測定法 C6481、260℃、20秒)を行ったところ、膨れ、はがれは見られなかった。
(比較例2)
1,5−ヘキサジエン0.30gのかわりに、1−ヘキセン0.30gを使用して実施例3と同様にしてプリプレグを得、評価した。
プリプレグのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、26,400であった。また、片面銅張積層板の樹脂部分のTigは、110℃であった。白化率は0%であった。はんだ耐熱試験においては、膨れが発生した。
(比較例3)
1,5−ヘキサジエン0.30gのかわりに、1−ヘキセン0.15gを使用して実施例3と同様にしてプリプレグを得、評価した。
プリプレグのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、53,000であった。また、片面銅張積層板の樹脂部分のTigは、111℃であった。白化率は42%であった。白化していない部分のはんだ耐熱試験においては、膨れ、はがれは見られなかった。
これらの結果から、実施例1及び2の樹脂成形体を構成する架橋性樹脂のMwが、比較例のMwよりも小さいにもかかわらず、これを加熱して得られる架橋樹脂成形体中の架橋樹脂の残存率およびはんだ耐熱性については、実施例1及び2の方が向上していることがわかる。
また、実施例3では、1,5−ヘキサジエンを連鎖移動剤として使用することにより層間密着性とはんだ耐熱性が両立する。一方、比較例2では、連鎖移動剤を1−ヘキセンに変更することにより、架橋が不十分ではんだ耐熱性が悪化した。比較例3では、1−ヘキセンを減量して架橋性樹脂の分子量を上げることにより、はんだ耐熱性を改善したが、今度は層間密着性が悪化した。すなわち、連鎖移動剤として1−ヘキセンを使用した場合は、はんだ耐熱性と層間密着性が両立しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル基を分子内に2以上有する化合物の存在下に、シクロオレフィンモノマーをメタセシス開環重合して得られるシクロオレフィン樹脂(A)と、ラジカル発生剤(B)とを含有する架橋性樹脂組成物。
【請求項2】
シクロオレフィンモノマー、ラジカル発生剤(B)、ビニル基を分子内に2以上有する化合物、及びメタセシス重合触媒からなる重合性組成物を塊状開環重合して得られたものである請求の範囲第1項記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項3】
請求の範囲第1項記載の架橋性樹脂組成物からなる樹脂成形体。
【請求項4】
シクロオレフィンモノマー、ラジカル発生剤(B)、ビニル基を分子内に2以上有する化合物、及びメタセシス重合触媒からなる重合性組成物を支持体上に塗布し、次いで開環重合して、請求の範囲第3項記載の樹脂成形体を製造する樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
シクロオレフィンモノマー、ラジカル発生剤(B)、ビニル基を分子内に2以上有する化合物、及びメタセシス重合触媒からなる重合性組成物を繊維状強化材に含浸させ、次いで開環重合して、請求の範囲第3項記載の樹脂成形体を製造する樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
シクロオレフィンモノマー、ラジカル発生剤(B)、ビニル基を分子内に2以上有する化合物、及びメタセシス重合触媒からなる重合性組成物を成形型の空間部に注入し、次いで開環重合して、請求の範囲第3項記載の樹脂成形体を製造する樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
請求の範囲第3項記載の樹脂成形体を加熱し、架橋してなる架橋樹脂成形体。

【国際公開番号】WO2005/017033
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【発行日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513214(P2005−513214)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011939
【国際出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】