説明

樹脂、並びに、これを用いた光学材料、フィルムおよび画像表示装置

【課題】効率的な溶融製膜を行う際に適度なガラス転移温度を有し、低い線熱膨張係数を有するポリエステル樹脂、およびそれを用いた光学部品、フィルムを提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される構造を含む繰り返し単位を有するポリエステル樹脂である。下記一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子または置換基を表し、nは0〜4の整数を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融製膜し易く、透明性に優れたポリエステル樹脂に関する。また、該ポリエステル樹脂を用いたフィルム、特にガラス転移温度が低くて線熱膨張係数が小さいフィルム、および該フィルムを用いてなる光学材料、画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無機ガラス材料は、透明性および耐熱性に優れ、かつ光学異方性も小さいことから、透明材料として広く使用されている。しかし、無機ガラスは、成型しにくいことや、比重が大きく、かつ脆いため、成型されたガラス製品は重く、破損しやすい等の欠点を有している。このような欠点から、近年は、無機ガラス材料に代替する樹脂材料の開発が盛んに行われている。
【0003】
こうした無機ガラス材料の代替を目的とした樹脂材料として、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート等が知られている。これらの樹脂材料は、軽量で力学特性に優れ、かつ加工性にも優れているため、最近では、例えばレンズやフィルムなどの様々な用途に使用されている。
【0004】
近年、ディスプレイ基板をガラスから樹脂へ代替することが検討されており、特に、ITO(酸化インジウムスズ)をのせることができるような樹脂基板等が求められている。樹脂にすることで、軽量化、耐衝撃性、薄型化できるなど様々な利点が得られるためである。このような樹脂基板がガラスに代替するためには、ある程度の耐熱性が必要となる。また、樹脂を加熱しながらディスプレイ基板を製造する場合、特に加熱しながらITOをのせる場合には、フィルム化した際に低い線熱膨張係数を有するようにすることが作業効率の観点から求められている。
【0005】
上記特性を付与するために、ビフェノールとジカルボン酸のポリアリレート構造を有する樹脂を用いた低線熱膨張係数のフィルムの検討がされている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−254663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、上記すべての要求特性を満足する樹脂を得ることを課題として研究を行った。しかしながら、特許文献1に記載の樹脂は、製造コストの観点から満足いくものではなかった。
一般に樹脂材料をフィルム用途に使用する場合、製造コストの観点から、溶融製膜で製造し易いことが求められる。ここで、樹脂耐熱性を向上させ過ぎると溶融製膜に高温化が必要となってしまう。また、溶融製膜可能な範囲であっても加熱に要する製造コストを抑える必要がある。そのため、現実的な温度での溶融製膜が可能な上、加熱に要する製造コストも低い、適度なガラス転移温度を有する樹脂が強く求められている。すなわち、特許文献1に記載の樹脂は耐熱性と、該樹脂を用いたフィルムの低線熱膨張係数化とをある程度達成していたものの、溶融製膜を行う際に適度なガラス転移温度を有し、フィルム化した際に低い線熱膨張係数を有する樹脂の開発が望まれていた。また、これまでポリマーの線熱膨張係数を下げるために主としてビフェノール類が用いられてきたが、ビフェニル基の両側にメチレン基を有するものは柔軟性が向上し、線熱膨張係数が上昇すると予想され、あまり使用されてこなかった。
【0008】
本発明は上記すべての特性を満足する樹脂を得ることを課題としたものである。すなわち、本発明は、効率的な溶融製膜を行う際に適度なガラス転移温度を有し、低い線熱膨張係数を有するポリエステル樹脂、それを用いた光学材料及びフィルムを提供することを目的とする。また、本発明のさらなる目的は、前記本発明のポリエステル樹脂により形成されたフィルムを用いてなる画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下の構成によって上記課題が達成されることを見出した。
[1] 下記一般式(1)で表される構造を含む繰り返し単位を有するポリエステル樹脂。
【0010】
【化1】

【0011】
(一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子または置換基を表し、nは0〜4の整数を表す。)
[2] 一般式(1)中、Rが水素原子であり、且つ、Rがアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子及び水素原子からなる群から選ばれる [1]に記載のポリエステル樹脂。
[3] ガラス転移温度(Tg)が150℃以上である [1]または[2]に記載のポリエステル樹脂。
[4] ガラス転移温度(Tg)が250℃以下である [1]〜[3]のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂。
[5] テトラヒドロフランに1.0質量%以上の濃度で可溶である [1]〜[4]のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂。
[6] 塩化メチレンに1.0質量%以上の濃度で可溶である [1]〜[5]のいずれかに1項に記載のポリエステル樹脂。
【0012】
[7] [1]〜[6]のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂を用いてなる光学材料。
[8] [1]〜[6]のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂を用いてなるフィルム。
[9] 線熱膨張係数が20ppm/K以下である [8]に記載のフィルム。
[10] ガスバリア層を設けてなる [8]または[9]に記載のフィルム。
[11] 透明導電層を設けてなる [8]〜[10]のいずれか1項に記載のフィルム。
[12] [8]〜[11]のいずれか1項に記載のフィルムを用いてなる画像表示装置。
【0013】
本発明のポリエステル樹脂は、上記構成としたため、効率的な溶融製膜を行う際に適度なガラス転移温度を有し、低い線熱膨張係数を有する。また、本発明のポリエステル樹脂はディスプレイ基板を製造する場合、特に樹脂を加熱しながらITOをのせる場合において十分な耐熱性を有する。さらに、本発明のポリエステル樹脂の好ましい態様によれば、成形時の透明性も優れており、光学部品、フィルムおよび画像表示装置に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、効率的な溶融製膜を行う際に適度なガラス転移温度を有し、低い線熱膨張係数を有するポリエステル樹脂、およびそれを用いた光学部品、フィルム、並びに、該フィルムを用いた画像表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、本発明のポリエステル樹脂、フィルムおよび画像表示装置について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
[ポリエステル樹脂]
本発明のポリエステル樹脂(以下、本発明の樹脂とも言う)は、下記一般式(1)で表される構造を含む繰り返し単位を有すること特徴とする。
【0017】
【化2】

【0018】
前記一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。なお、複数存在するR及びRは、同じでもよく、互いに異なっていてもよい。
前記一般式(1)中、R及びRとしては、水素原子、アルキル基(炭素数1〜10が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基など)、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、アリール基(炭素数6〜20が好ましく、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基など)、アルコキシ基(炭素数1〜10が好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基など)、アシル基(炭素数2〜10が好ましく、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基など)、アシルアミノ基(炭素数1〜10が好ましく、例えば、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基など)、ニトロ基、シアノ基などが挙げられる。より好ましくは水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基であり、さらに好ましくは、水素原子、tert-ブチル基、塩素原子、メトキシ基であり、特に好ましくは、水素原子である。
なかでも、Rが水素原子であり、且つ、Rがアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子または水素原子である態様が好ましい。
nは、0〜4の整数を表し、0〜2であることが好ましく、0〜1であることがより好ましい。
【0019】
本発明のポリエステル樹脂においては、主鎖にエステル結合が含有される。また、本発明の樹脂中には、エステル結合以外に、エーテル結合、カーボネート結合、スルホン結合、ケトン結合、イミド結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合を単種もしくは複数種含有していてもよい。
本発明における一般式(1)で表される構造を含む繰り返し単位は、前記一般式(1)で表される構造を含むものであれば特に制限はなく、例えば、この構造の片末端或いは両末端に、さらに、上記の結合やアルキレン基、アリーレン基などの2価の基が結合して構成されてもよい。
本発明の樹脂は、一般にモノマーとしてビフェノール誘導体、ジカルボン酸および/またはその誘導体を用いて合成することができる。また、好ましくは、ビスフェノール誘導体、脂肪族グリコール誘導体、ジカルボン酸誘導体などを用いて共重合体として合成してもよい。
脂肪族グリコール誘導体としては、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどを挙げることができる。ジカルボン酸誘導体としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムジカルボン酸などを挙げることができる。
【0020】
置換基を有するビフェノール誘導体の一般的合成法として、Macromolecules誌、1996, 29, 3727-3735頁、繊維化学雑誌、第84巻、第2号(1963)143-145頁に記載の方法を挙げることができる。
ジカルボン酸誘導体は、ジアルキルナフタレンに置換基を導入し、アルキル基を酸化する方法に類似の方法で合成することができる。ジアルキルナフタレンに置換基を導入する一般的方法としては、Journal of Organic Chemistry誌、2003年、68(22)、8373-8378頁;Hetreroatom Chemistry誌, 2001年、12(4)、287-292頁;Journal of the Chemical Society, Perkin Transactions 1 : Organic and Bio-Organic Chemistry、1981年、(3)746-750頁;Journal of the Chemical Society [Section] D:Chemical Communications,(24)、1487頁、1969年に記載の方法を挙げることができる。
【0021】
ナフタレンに置換したアルキル基を酸化する一般的方法としては、Journal of organic Chemistry, 50(22), 4211-4218頁、1985年に記載の方法を挙げることができる。
上記モノマーを用いたポリアリレートの一般的合成法として、新高分子実験学3 高分子の合成・反応(2)、共立出版(87項〜95項)に記載の方法を挙げることができる。
また、合成時に各モノマー成分を添加する順番については特に制限はなく、全てのモノマー成分を同時に添加しても、ビフェノールとビスフェノールのみを先に重合させた後でジカルボン酸誘導体を重合させてもよい。
【0022】
以下に本発明のポリエステル樹脂の具体例〔例示化合物P−1〜例示化合物P−6〕を、該樹脂に含まれる繰り返し単位と該繰り返し単位の含有量により示すが、本発明で用いることができるポリエステル樹脂はこれらに限定されるものではない。なお、下記例示化合物P−1〜P−6中、カッコ右下の数字はポリエステル樹脂中の各構造の質量%を表し、これら樹脂の重量平均分子量はいずれも、10,000〜5,000,000の範囲にある。
【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

【0025】
【化5】

【0026】
本発明の樹脂の重量平均分子量は10,000〜5,000,000が好ましく、15,000〜1,000,000がより好ましく、20,000〜500,000が特に好ましい。
【0027】
本発明の樹脂のガラス転移温度(Tg)は、150℃〜250℃であることが好ましく、160℃〜240℃であることが好ましく、170℃〜230℃であることが特に好ましい。ガラス転移温度(Tg)が150℃以下であると透明導電層を設置する際に抵抗値が大きくなるなど、性能が低下するおそれがあるため好ましくない。ガラス転移温度(Tg)が250℃以上の場合、溶融製膜が難しくなり、透明性が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0028】
本発明の樹脂は有機溶剤に可溶であることが好ましい。溶解濃度は1.0質量%〜75質量%であることがさらに好ましく、2.0質量%〜70質量%であることが特に好ましい。特にテトラヒドロフラン(THF)および/または塩化メチレンに1.0質量%以上の濃度で可溶であることが好ましく、上記溶剤に3.0質量%以上の濃度で可溶であることがより好ましく、5.0質量%以上の濃度で可溶であることがさらに好ましい。有機溶剤に可溶であることで、耐熱性が高い樹脂でも、着色、分解などの加熱による問題を回避できるという利点がある。
【0029】
本発明の樹脂に使用しうる溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ベンゼン、シクロへキセン、トルエン、キシレン、1,2−ジクロロエタン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、クロロベンゼン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、メタノール、エタノール、シクロヘキサノン、アニソール等が挙げられるが、本発明で用いることができる溶媒はこれらに限定されるものではない。
【0030】
本発明の樹脂は、例えば、光学材料や、後述の本発明のフィルム等に有用である。光学材料としては、例えば偏向板保護フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、電磁波シールドフィルムなどの光学フィルム、ピックアップレンズ、マイクロレンズアレイ、導光板、光ファイバー、光導波路等を好ましく例示することができる。
【0031】
[フィルム]
(フィルムの製造方法)
本発明の樹脂はフィルムとして好ましく用いることができる。本発明のフィルムを製造する方法としては、溶液流延法、押出成形法(溶融成型法)を用いることが好ましく、押出成形法を用いることがより好ましい。
溶液流延法における流延および乾燥方法については、米国特許第2336310号明細書、米国特許第2367603号明細書、米国特許第2492078号明細書、米国特許第2492977号明細書、米国特許第2492978号明細書、米国特許第2607704号明細書、米国特許第2739069号明細書、米国特許第2739070号明細書、英国特許第630731号明細書、英国特許第736892号明細書、特公昭45−4554号公報、特公昭49−5614公報、特開昭60−176834号公報、特開昭60−203430号公報、特開昭62−115035号公報に記載がある。
【0032】
押出成形法については、この分野における公知の方法を採用することができ、特に制限はない。
【0033】
前記押出成形法を用いて本発明のフィルムを製造する製造装置については、この分野における公知の製造装置を採用することができる。但し、本発明で用いることができる製造装置はこれらに限定されるものではない。
【0034】
前記押出成形法に適用する本発明の樹脂の態様には特に制限はないが、製膜前に本発明の樹脂等を含む樹脂組成物を一度ペレット状に成形することが好ましい。ペレット状に成型する場合は、まず、前記樹脂組成物を混練機によって溶融混練し、ヌードル状で取り出したあとカットし、ペレット状の樹脂組成物を調製することが好ましい。
前記樹脂組成物には、上述の本発明の樹脂の他、着色防止剤などの安定化剤、その他の本発明の趣旨に反しない添加剤が含まれてもよい。
前記溶融混練の温度は、250℃〜350℃であることが好ましく、260℃〜350℃であることがより好ましく、270℃〜340℃であることが特に好ましい。
【0035】
次に、前記ペレット状の樹脂組成物を溶融押し出し機に導入し、溶融押し出し機の出口に設置してあるダイに樹脂組成物を供給し、ダイから樹脂組成物を溶融押し出しし、これをキャストロール上に押し出し剥ぎ取ることでフィルムを作製することが好ましい。
前記溶融押し出し機としては、特に制限はなく公知の溶融押し出し機を使用でき、例えば、溶融押し出し機を使用することができる。その中でも、二軸押し出し機であることが好ましい。前記ダイの形状は、特に制限なく公知のダイを用いることができ、Tダイ、ハンガーコートダイなどを用いることができ、ハンガーコートダイを用いることが好ましい。
また、前記溶融押し出し機内における樹脂組成物の温度は、250℃〜350℃であることが好ましく、260℃〜350℃であることがより好ましく、270℃〜340℃であることが特に好ましい。
また、溶融混練の時間は特に制限はない。
【0036】
前記キャストロールとしては、特に制限はなく公知のキャストロールを使用できる。また、キャストロールの温度は特に制限はない。
【0037】
本発明のフィルムは成膜後、さらに延伸することもできる。延伸法としては、公知の方法が使用でき、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、特開4−284211号、特開平11−48271号各公報などに記載されている、ロール一軸延伸法、テンター一軸延伸法、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、インフレーション法、圧延法により延伸することができる。以下に、テンターを用いる延伸法を例に説明する。
【0038】
フィルムの延伸は、常温または加熱条件下で実施される。フィルムの延伸は、一軸延伸でもよく二軸延伸でもよいが、二軸延伸が好ましい。
フィルムは、乾燥中の処理で延伸することができ、特に溶媒が残存する場合は有効である。例えば、フィルムの搬送ローラーの速度を調節して、フィルムの剥ぎ取り速度よりもフィルムの巻き取り速度の方を速くするとフィルムは延伸される。フィルムの巾をテンターで保持しながら搬送して、テンターの巾を徐々に広げることによってもフィルムを延伸することができる。また、フィルムの乾燥後に、延伸機を用いて延伸すること(好ましくはロング延伸機を用いる一軸延伸)も可能である。
フィルムの延伸倍率(元の長さに対する延伸による増加分の比率)は、0.5〜300%であることが好ましく、さらには1〜200%の延伸が好ましく、特には1〜100%の延伸が好ましい。
【0039】
延伸速度は5%/分〜1000%/分であることが好ましく、さらに10%/分〜500%/分であることが好ましい。延伸はヒートロールあるいは/および放射熱源(IRヒーター等)、温風により行うことが好ましい。また、温度の均一性を高めるために恒温槽を設けてもよい。
【0040】
延伸温度は本発明の樹脂のガラス転移温度(Tgと表記する)を基準としたとき、(Tg−100℃)〜(Tg+25℃)であることが好ましく、(Tg−80℃)〜(Tg+20℃)がさらに好ましく、(Tg−70℃)〜(Tg+15℃)の範囲であることが特に好ましい。
【0041】
本発明のフィルムは、延伸後にさらに熱処理を施してもよい。熱処理温度は樹脂のガラス転移温度(Tg)を基準にして、(Tg−100℃)〜(Tg+25℃)が好ましく、(Tg−80℃)〜(Tg+20℃)がさらに好ましく、(Tg−70℃)〜(Tg+15℃)が特に好ましい。熱処理をすることで、延伸による収縮応力が緩和され、製膜されたフィルムの加熱時における収縮を低減することができる。
【0042】
(フィルム物性)
また、本発明のフィルムは、熱機械分析で測定した長さの変化が、ガラス転移温度(Tg)以上の温度において極大点を示すことが好ましい。ここで、熱機械分析とは、JIS規格であるJIS K7197に記載されている分析方法を意味する。また、熱機械分析で測定した長さの変化が極大点を示すとは、長さが収縮した後、膨張し、さらに収縮した場合の挙動を意味する。
【0043】
本発明のフィルムは100μm膜換算の膜厚における400nmの光線透過率が50%以上であることが好ましい。前記光線透過率が前記範囲にあると、フィルムと密着させたものが透けて見えるという利点がある。前記光線透過率は、70〜100%であることがより好ましく、75〜100%であることが好ましく、80〜100%であることが特に好ましい。
【0044】
また、本発明のフィルムは、面内のどの部分においても線熱膨張係数(CTE)が40ppm/K以下であることが好ましく、30ppm/K以下であることが好ましく、20ppm/K以下であることが特に好ましい。CTEが40ppm/K以下である場合、フィルム上に無機薄膜を積層した場合、加熱時に膨張率の差によるクラックの発生、フィルムのそりを抑制できるという利点がある。
【0045】
本発明において線熱膨張係数とは、25℃〜(Tg−30)℃までの温度範囲における線熱膨張係数の値を指す。
【0046】
本発明のフィルムの線熱膨張係数は、前記の値であることが好ましく、昇温過程、降温過程両方で前記の値であることが好ましい。また、昇温過程のCTEと降温過程のCTEの差が20ppm/K以下であることが好ましく、10ppm/K以下であることがさらに好ましく、5ppm/K以下であることが特に好ましい。昇温過程のCTEと降温過程のCTEの差が20ppm/K以下であることで、昇降温の熱処理前後での変化量が小さくなる利点がある。
【0047】
(機能層)
本発明のフィルムの表面には、用途に応じて他の層を形成してもよい。また他の部品との密着性を高める目的で、フィルム表面上にケン化、コロナ処理、火炎処理、グロー放電処理等の表面処理を行ってもよい。さらに、フィルム表面に密着向上を目的とするアンカー層を設けてもよい。
【0048】
−ガスバリア層−
本発明のフィルムは、ガス透過性を抑制するために、少なくとも片面にガスバリア層を積層することもできる。
好ましいガスバリア層としては、例えば、珪素、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、ジルコニウム、チタン、イットリウムおよびタンタルからなる群から選ばれる1種または2種以上の金属を主成分とする金属酸化物、珪素、アルミニウム、ホウ素の金属窒化物またはこれらの混合物で形成された膜を挙げることができる。この中でも、ガスバリア性、透明性、表面平滑性、屈曲性、膜応力、コスト等の点から珪素原子数に対する酸素原子数の割合が1.5〜2.0の珪素酸化物を主成分とする金属酸化物で形成された膜が良好である。
これら無機化合物からなるガスバリア層は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法、Cat−CVD法等に気相中より材料を堆積させて膜形成する気相堆積法により作製できる。中でも、特に優れたガスバリア性が得られるスパッタリング法およびCat−CVD法が好ましい。またガスバリア層を設けている間に50〜250℃に昇温してもよい。
【0049】
前記ガスバリア層の厚みは、10〜300nmであることが好ましく、30〜200nmであることがさらに好ましい。
【0050】
前記ガスバリア層は、後述する透明導電層と同じ側、反対側のいずれに設けてもよい。
ガスバリア層を設けてなる本発明のフィルムのガスバリア性能は、40℃、相対湿度90%で測定した水蒸気透過度が0〜5g/m・dayであることが好ましく、0〜3g/m・dayであることがより好ましく、0〜2g/m・dayであることがさらに好ましい。また、40℃、相対湿度90%で測定した酸素透過度は、0〜1ml/m・day・atm(0〜1×10ml/m・day・Pa)であることが好ましく、0〜0.7ml/m・day・atm(0〜0.7×10ml/m・day・Pa)であることがより好ましく、0〜0.5ml/m・day・atm(0〜0.5×10ml/m・day・Pa)であることがさらに好ましい。ガスバリア性能が前記範囲内であれば、例えば有機EL表示装置や液晶表示装置に用いた場合、水蒸気および酸素によるEL素子の劣化を実質的になくすことができるため好ましい。
【0051】
ガスバリア性能を向上させる目的で、ガスバリア層を隣接して欠陥補償層を形成することが好ましい。欠陥補償層としては、例えば、(1)米国特許第6171663号明細書、特開2003−94572号公報記載のようにゾルゲル法を用いて作製した無機酸化物層、(2)米国特許第6413645号明細書に記載の有機物層を用いることができる。これらの欠陥補償層は、真空下で蒸着後、紫外線または電子線で硬化させる方法、または塗布した後、加熱、電子線、紫外線等で硬化させることにより作製することができる。欠陥補償層を塗布方式で作製する場合には、従来の種々の塗布方法、例えば、スプレーコート、スピンコート、バーコート等の方法を用いることができる。
【0052】
本発明のフィルムには、耐薬品性付与を目的として無機バリア層、有機バリア層、有機−無機ハイブリッドバリア層などを設けてもよい。
【0053】
−透明導電層−
本発明のフィルムの少なくとも片面側には、透明導電層を積層してもよい。透明導電層としては、公知の金属膜、金属酸化物膜等を適用できる。中でも、透明性、導電性、機械的特性に優れた金属酸化物膜を透明導電層とすることが好ましい。金属酸化物膜は、例えば、不純物としてスズ、テルル、カドミウム、モリブテン、タングステン、フッ素、亜鉛、ゲルマニウム等を添加した酸化インジウム、酸化カドミウムまたは酸化スズの金属酸化物膜;不純物としてアルミニウムを添加した酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物膜が挙げられる。中でも酸化スズから主としてなり、酸化亜鉛を2〜15質量%含有した酸化インジウムの薄膜が、透明性、導電性が優れており、好ましく用いられる。
【0054】
これら透明導電層の成膜方法は、目的の薄膜を形成できる方法であれば、いかなる方法でもよい。例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法、Cat−CVD法等の気相中より材料を堆積させて膜形成する気相堆積法などが適しており、特許第3400324号公報、特開2002−322561号公報、特開2002−361774号公報記載の方法で成膜することができる。中でも、特に優れた導電性・透明性が得られるという観点から、スパッタリング法が好ましい。
【0055】
スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、またはプラズマCVD法の好ましい真空度は0.133mPa〜6.65Pa、好ましくは0.665mPa〜1.33Paである。透明導電層を形成する前に、プラズマ処理(逆スパッタ)、またはコロナ処理のように基材フィルムに表面処理を加えることが好ましい。また透明導電層を設けている間に50〜200℃に昇温してもよい。
【0056】
このようにして得られた透明導電層の膜厚は、20〜500nmであることが好ましく、50〜300nmであることがさらに好ましい。
【0057】
透明導電層の25℃、相対湿度60%で測定した表面電気抵抗は、0.1〜200Ω/□であることが好ましく、0.1〜100Ω/□であることがより好ましく。0.5〜60Ω/□であることがさらに好ましい。また、透明導電層の光透過性は、80%以上であることが好ましく、83%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。
【0058】
[画像表示装置]
以上説明した本発明のフィルムは、画像表示装置に用いることができる。即ち、画像表示装置における基板や樹脂層の素材として前記本発明のポリエステル樹脂フィルムを用いることができる。
ここで、本発明のポリエステル樹脂が用いられる画像表示装置の種類は特に限定されず、従来知られているものを挙げることができる。
また、本発明のフィルムを基板として用いて表示品質に優れたフラットパネルディスプレイを作製することができる。前記フラットパネルディスプレイとしては液晶表示装置、プラズマディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)、無機エレクトロルミネッセンス、蛍光表示管、発光ダイオード、電界放出型などが挙げられ、これら以外にも従来ガラス基板が用いられてきたディスプレイ方式のガラス基板に代わる基板として本発明の樹脂を用いてなる前記本発明のフィルム用いることができる。
さらに、本発明のフィルムは、フラットパネルディスプレイ以外にも太陽電池、タッチパネルなどの用途にも応用が可能である。タッチパネルは、例えば、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載のものに応用することができる。
【0059】
また、本発明のフィルムを基板として、薄膜トランジスタTFTを作製することができる。TFTは、特開平11−102867号公報、特表平10−512104号公報、特開2001−68681号公報に開示されている公知の方法で作製することができる。さらに、これらの基板はカラー表示のためのカラーフィルターを有していてもよい。カラーフィルターは、いかなる方法を用いて作製してもよいが、フォトリソグラフィー手法を用いて作製することが好ましい。
【0060】
本発明の樹脂により作製されるTFTはアモルファスシリコンTFTでもよく、多結晶シリコンTFTでもよい。アモルファスシリコンの多結晶化にはレーザー照射によるアニール法が好ましく用いられる。
【0061】
TFTの半導体層のシリコンを製膜する方法として、スパッタリング法、プラズマCVD法、ICP−CVD法、Cat−CVD法などが挙げられるが、スパッタリング法が好ましい。スパッタリング法で作製することでシリコン薄膜中の水素濃度を低減することができ、多結晶化のためのレーザー照射によるシリコン層の剥がれを防ぐことができる。
【0062】
本発明のフィルム上にTFT作製に必要な真性シリコン薄膜、不純物シリコン薄膜、窒化ケイ素薄膜、酸化ケイ素薄膜などはプラズマCVDで製膜できるが、その際の基板温度は250℃以下であることが好ましい。
画素電極にはITO、IZOをスパッタ法にて作製することができる。抵抗率を下げるための熱処理温度は250℃以下であることが好ましい。
【0063】
本発明で作製するTFTの構造はチャネルエッチング型、エッチングストッパ型、トップゲート型、ボトムゲート型などいずれの構造であってもよい。
【0064】
本発明のフィルムを基板として液晶表示装置用途などで使用する場合、光学的均一性を達成するために、フィルムを構成する樹脂組成物は非晶性ポリマーであることが好ましい。さらに、レタデーション(Re)、およびその波長分散を制御する目的で、固有複屈折の符号が異なる樹脂を組み合わせたり、波長分散の大きい(あるいは小さい)樹脂を組み合わせたりすることができる。
【0065】
本発明のフィルムは、レターデーション(Re)を制御し、ガス透過性や力学特性を改善する観点からは、異種樹脂組成物を組み合わせて積層等することが好ましい。異種樹脂組成物の好ましい組み合わせは特に制限はなく、公知のいずれの樹脂組成物も使用可能である。
【0066】
反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、および偏光膜の構成を一般に有している。このうち本発明のフィルムは、透明電極および/または上基板として用いることができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に形成することが好ましい。
【0067】
透過型液晶表示装置は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板、および偏光膜の構成を一般に有している。このうち本発明のフィルムは上透明電極および/または上基板として用いることができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。
【0068】
液晶層(液晶セル)の種類は特に限定されないが、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti-ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensated Bend)、STN(Super Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。また、前記表示モードを配向分割した表示モードも提案されている。本発明のフィルムは、表示モードの液晶表示装置に用いることも有効である。また、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置に用いても有効である。
【0069】
液晶セルおよび液晶表示装置については、特開平2−176625号公報、特公平7−69536号公報、MVA(SID97,Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845)、SID99, Digest of tech. Papers(予稿集)30(1999)206)、特開平11−258605号公報、SURVAIVAL(月刊ディスプレイ、第6巻、第3号(1999)14)、PVA(Asia Display 98,Proc.of the−18th−Inter. Display res. Conf.(予稿集)(1998)383)、Para−A(LCD/PDP International 99)、DDVA(SID98, Digest of tech. Papers(予稿集)29(1998)838)、EOC(SID98, Digest of tech. Papers(予稿集)29(1998)319)、PSHA(SID98, Digest of tech. Papers(予稿集)29(1998)1081)、RFFMH(Asia Display 98, Proc. of the−18th−Inter. Displayres. Conf. (予稿集)(1998)375)、HMD(SID98, Digest of tech. Papers (予稿集)29(1998)702)、特開平10−123478号公報、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報、および国際公開第00/65384号パンフレット等に記載されている。
【0070】
本発明のフィルムは、有機EL表示用途に好適に使用できる。有機EL表示装置の具体的な層構成としては、陽極/発光層/透明陰極、陽極/発光層/電子輸送層/透明陰極、陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/透明陰極、陽極/正孔輸送層/発光層/透明陰極、陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/透明陰極、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/透明陰極等が挙げられ、これらの層の製膜に本発明の樹脂を用いてもよい。
【0071】
本発明のフィルムが使用できる有機EL表示装置は、前記陽極と前記陰極との間に直流(必要に応じて交流成分を含んでもよい)電圧(通常2〜40V)、または直流電流を印加することにより、発光を得ることができる。これら発光素子の駆動については、例えば、特開平2−148687号、同6−301355号、同5−29080号、同7−134558号、同8−234685号、同8−241047号等の各公報、米国特許5828429号、同6023308号の各明細書、日本特許第2784615号公報等に記載の方法を利用することができる。
【0072】
有機EL表示装置のフルカラー表示方式としては、カラーフィルター方式、3色独立発光方式、色変換方式などいずれの方式を用いてもよい。
液晶表示措置、有機EL表示装置の駆動方式としてはパッシブマトリックス、アクティブマトリックスのいずれでもよい。
【0073】
本発明のフィルムは、光学フィルム、位相差フィルム、偏光板保護フィルム、透明導電フィルム、表示装置用基板、フレキシブルディスプレイ用基板、フラットパネルディスプレイ用基板、太陽電池用基板、タッチパネル用基板、フレキシブル回路用基板、光ディスク保護フィルムなどに用いることができる。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
(合成例:例示化合物P−1の合成)
【0075】
攪拌装置を備えた300mlの三つ口フラスコに、下記化合物A10.75g、ハイドロサルファイトナトリウム60mg、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライド300mg、塩化メチレン60ml、および蒸留水75mlを添加し、窒素気流下攪拌し溶解した。該溶液中に、テレフタル酸クロライド2.28g、イソフタル酸クロライド1.14g、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド1.03gを塩化メチレン60mlに溶解した溶液を添加した。
【0076】
【化6】

【0077】
さらに2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液21mlおよび水9mlの混合液を20〜23℃で1時間掛けて滴下した。滴下終了後3時間攪拌した後、反応液を3リットルの三つ口フラスコに移し、酢酸0.5mlおよび酢酸エチル300mlをゆっくり添加した。得られたポリマー粉体を濾取したのち、酢酸エチル300L、水300L、メタノール300Lで順次洗浄し乾燥することにより前記本発明の樹脂の具体例として挙げた例示化合物P−1を12g得た。
【0078】
GPC(THF溶媒;ポリスチレン換算(東ソー(株)製、HLC−8120GPC)による測定の結果、重量平均分子量は100,000であった。また得られたポリマーを塩化メチレンに溶解し、ガラス板上に流延後、乾燥して得られた厚さ100μmのフィルムについてTMA8310(理学電気株式会社製、Thermo Plusシリーズ)を用いてガラス転移温度を測定したところ180℃であった。
【0079】
−例示化合物P−2−
例示化合物P−1と同様にして前記例示化合物P−2を合成した。
【0080】
−例示化合物P−3−
例示化合物P−1と同様にして前記例示化合物P−3を合成した。
【0081】
(合成例:比較ポリマーP−C1の合成)
比較ポリマーP−C1として、下記構造の比較例ポリマーP−C1を特開2007−254663号公報の実施例の段落番号0111に記載の方法にて合成した。得られた比較ポリマーP−C1の重量平均分子量は150,000であり、ガラス転移温度は、270℃であった。
【0082】
−比較ポリマーP−C2−
例示化合物P−1と同様にして下記構造の比較ポリマーP−C2を合成した。
【0083】
−比較ポリマーP−C3−
例示化合物P−1と同様にして下記構造の比較ポリマーP−C3を合成した。
【0084】
【化7】

【0085】
【化8】

【0086】
[フィルムの作製]
[実施例1]
(フィルムの作製、延伸および熱処理)
350℃に設定した少量混練機(Haake社製、商品名MiniLab)を用いて例示化合物P−1を10分間混練し、ヌードル状で取り出したあとニッパでカットし、ペレット状の樹脂組成物を得た。
上記で作製したペレット状の樹脂組成物を280℃(入口温度)から330℃(出口温度)に調整した2軸溶融押し出し機を用いて、ハンガーダイから溶融押し出しし、これを120℃に設定したキャストロール上に押し出し剥ぎ取ることでフィルムを作製した。
フィルムを120mm×120mmの大きさに切りだして、同時2軸延伸機により、延伸した。第1段目の延伸条件はチャック間距離100mm(縦、横ともに)、樹脂温度170℃、延伸速度100mm/分、延伸距離30mm(縦、横共に)とした。延伸後、2軸延伸機に保持したまま、170℃に加熱し、応力がほぼ一定になるまで熱処理した。その後、フィルム温度を100℃以下に冷却し、2軸延伸機から取り出した。延伸したフィルムを内側120mm角の金枠にセットし、160℃の窒素雰囲気下にて、24時間熱処理を行い、実施例1の延伸フィルムを得た。
【0087】
[実施例2、3]
例示化合物P−1に代えて、例示化合物P−2〜P−3をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様の操作にて実施例2及び実施例3の二軸延伸フィルムを作製した。
【0088】
[比較例1,2]
比較例1、2では、実施例1と同様の操作にて比較ポリマーP−C1及びP−C2の二軸延伸フィルムを作製しようと試みたが、フィルムが脆く、延伸できなかったため、フィルムを作製することができなかった。
【0089】
[比較例3]
比較例3では、実施例1と同様の操作にて比較ポリマーP−C3の二軸延伸フィルムを作製した。
【0090】
<ガラス転移温度(Tg)>
示差走査熱量計(DSC6200、セイコー(株)製)を用いて、窒素中、昇温温度10℃/分の条件で各フィルム試料のTgを測定した。
【0091】
<線熱膨張係数>
フィルムサンプル(19mm×5mm)を作製し、TMA(理学電機(株)製)、TMA8310)を用いて測定した。測定速度は、3℃/分とした。測定は3サンプルを行い、その平均値を用いた。測定は25℃から300℃の温度範囲で行い、線熱膨張係数は昇温時の25℃〜200℃の範囲で計算した。但し、ガラス転移温度が200度以下のサンプルについては、25℃〜150℃の温度範囲で算出した。
【0092】
<透明性の評価>
上記で得られたフィルムを目視観察し、以下の判定を行い透明性の評価とした。
○:良好な透明性を有する
×:白濁が顕著で不均質である。
波長400nmにおける光線透過率を分光光度計(島津製作所(株)製、分光光度計UV−3100PC)を用いてフィルム基板の光線透過率を測定した後、膜圧100μmの値に換算した。その結果、いずれの実施例のフィルムも光線透過率は50%以上であった。
【0093】
得られた結果を、下記表1にそれぞれ記載した。
【0094】
【表1】

【0095】
表1に示すように、実施例1〜3のフィルムはTgが低く、線熱膨張係数も小さい値を示すことがわかった。一方、比較例1、2のフィルムは脆く、延伸できなかった。また、比較例3のフィルムの透明性はよいものの、線熱膨張係数は大きかった。
【0096】
[実施例101〜103、比較例101]
1.ガスバリア層の形成
実施例1〜3、比較例3のフィルムの両面にDCマグネトロンスパッタリング法により、Si02をターゲットとし500Paの真空下で、Ar雰囲気下、出力5kWでスパッタリングし、ガスバリア層付きの実施例101〜103、比較例101のフィルムをそれぞれ得た。得られたガスバリア層の膜厚は60nmであった。40℃、相対湿度90%における水蒸気透過度は0.1g/m2・day以下であった。
【0097】
[実施例201〜203、比較例201]
2.透明導電層の形成
ガスバリア層を設置した実施例101〜103、比較例101のフィルムを100℃に加熱しながら、ITO(In2395質量%、Sn025質量%)をターゲットとしDCマグネトロンスパッタリング法により、0.665Paの真空下で、Ar雰囲気下、出力5kWで140nmの厚みのITO膜からなる透明導電層を片面に設け、実施例201〜203、比較例201のフィルムをそれぞれ得た。実施例201〜203および比較例201のフィルムの40℃、相対湿度90%における水蒸気透過度はいずれも0.1g/m2・day以下であり、40℃、相対湿度90%における酸素透過度はいずれも0.1ml/m2・day・atm以下であった。また25℃、相対湿度60%におけるITOの表面電気抵抗はいずれも30Ω/□であった。
【0098】
<加熱試験によるガスバリア性および表面電気抵抗変化の評価>
前記で作製した実施例101〜103、比較例101のフィルムのガスバリアフィルムと透明導電層付の実施例201〜203、比較例201のフィルムの加熱処理前後でのガスバリア性と表面電気抵抗の変化を測定した。
加熱処理条件は、窒素下、室温から160℃に昇温後、2時間160℃で保持したのち、室温に冷却した。
【0099】
本発明実施例101〜103および実施例201〜203のフィルムは加熱処理前後でガスバリア性、表面電気抵抗ともに変化が見られなかったが、比較例101、201のフィルムは両物性ともに悪化していた。これは、本発明のフィルムは線熱膨張係数が小さいことから、比較例にくらべ無機層との膨張差が小さく、熱処理による影響を受け難かったためである。
【0100】
[実施例301〜303、比較例301]
<有機EL素子の作製および評価>
本発明の透明導電層付の実施例201〜203と比較例201のフィルムをそれぞれ用いて、有機EL素子試料を作製した。
前記で透明導電層を形成した実施例201〜203、比較例201のフィルムの透明電極層より、アルミニウムのリード線を結線し、積層構造体を形成した。透明電極の表面に、ポリエチレンジオキシチオフェン・ポリスチレンスルホン酸の水性分散液(BAYER社製、Baytron P:固形分1.3質量%)をスピンコートした後、150℃で2時間真空乾燥し、厚さ100nmのホール輸送性有機薄膜層を形成した。これを基板Xとした。
一方、厚さ188μmのポリエーテルスルホン(住友ベークライト(株)製スミライトFS−1300)からなる仮支持体の片面上に、下記組成を有する発光性有機薄膜層用塗布液を、スピンコーターを用いて塗布し、室温で乾燥することにより、厚さ13nmの発光性有機薄膜層を仮支持体上に形成した。これを転写材料Yとした。
【0101】
(組成)
・ポリビニルカルバゾール(Mw=63000、アルドリッチ社製):40質量部
・トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム錯体(オルトメタル化錯体):1質量部
・ジクロロエタン:3200質量部
【0102】
基板Xの有機薄膜層の上面に転写材料Yの発光性有機薄膜層側を重ね、一対の熱ローラーを用い160℃、0.3MPa、0.05m/minで加熱・加圧し、仮支持体を引き剥がすことにより、基板Xの上面に発光性有機薄膜層を形成した。これを基板XYとした。
【0103】
また、25mm角に裁断した厚さ50μmのポリイミドフィルム(UPILEX−50S、宇部興産製)片面上に、パターニングした蒸着用のマスク(発光面積が5mm×5mmとなるマスク)を設置し、約0.1mPaの減圧雰囲気中でAlを蒸着し、膜厚0.3μmの電極を形成した。Al23ターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタリングにより、Al23をAl層と同パターンで蒸着し、膜厚3nmとした。Al電極よりアルミニウムのリード線を結線し、積層構造体を形成した。得られた積層構造体の上に下記組成を有する電子輸送性有機薄膜層用塗布液を、スピンコーター塗布機を用いて塗布し、80℃で2時間真空乾燥することにより、厚さ15nmの電子輸送性有機薄膜層を形成した。これを基板Zとした。
【0104】
(組成)
・ポリビニルブチラール2000L(Mw=2000、電気化学工業社製):10質量部
・1−ブタノール:3500質量部
・下記構造を有する電子輸送性化合物:20質量部
【0105】
【化9】

【0106】
基板XYと基板Zとを用い、電極同士が発光性有機薄膜層を挟んで対面するように重ね合せ、一対の熱ローラーを用い160℃、0.3MPa、0.05m/分で加熱・加圧し、貼り合せ、有機EL素子試料を得た。
【0107】
得られた有機EL素子試料をソースメジャーユニット2400型(東洋テクニカ(株)製)を用いて、直流電圧を有機EL素子に印加した。本発明の実施例201〜203のフィルムを用いて作製した試料は、発光することを確認した。一方、比較例201のフィルムを用いて作製した試料は一瞬発光したもののすぐに発光しなくなった。
本発明の実施例201〜203のフィルムの線熱膨張係数は小さく、試料作製過程での加熱により、無機層にクラックが入らなかったが、比較例201のフィルムは線熱膨張係数が大きいため加熱により無機層にクラックが入ったため発光しなくなったものである。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の樹脂は効率的な溶融製膜を行う際に適度なガラス転移温度を有し、低い線熱膨張係数を有する。またこの樹脂を用いたフィルムは小さい線熱膨張係数を示すことから、ガスバリアフィルム、透明導電フィルム、画像表示装置用基板として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を含む繰り返し単位を有するポリエステル樹脂。
【化1】

(一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子または置換基を表し、nは0〜4の整数を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)中、Rが水素原子であり、且つ、Rがアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子及び水素原子からなる群から選ばれる請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
ガラス転移温度(Tg)が150℃以上である請求項1または2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
ガラス転移温度(Tg)が250℃以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
テトラヒドロフランに1.0質量%以上の濃度で可溶である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
塩化メチレンに1.0質量%以上の濃度で可溶である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂を用いてなる光学材料。
【請求項8】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂で用いてなるフィルム。
【請求項9】
線熱膨張係数が20ppm/K以下である請求項8に記載のフィルム。
【請求項10】
ガスバリア層を設けてなる請求項8または請求項9に記載のフィルム。
【請求項11】
透明導電層を設けてなる請求項8〜請求項10のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項12】
請求項8〜請求項11のいずれか1項に記載のフィルムを用いてなる画像表示装置。

【公開番号】特開2011−74291(P2011−74291A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228828(P2009−228828)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】