説明

樹脂フィルムおよびそれを用いた多層基板とその製造方法

【課題】耐熱性や機械的強度と貼り合わせ時の接着性を両立させることができ、多層基板を容易で安価に製造することのできる樹脂フィルムおよびそれを用いた多層基板とその製造方法を提供する。
【解決手段】加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層基板用の樹脂フィルムであって、前記樹脂フィルムが、ポリアリールケトン樹脂と、該ポリアリールケトン樹脂と完全相溶系をなすポリエーテルイミド樹脂とからなり、前記ポリアリールケトン樹脂の含有濃度が、10重量%より大きく、35重量%未満であり、前記ポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、65重量%より大きく、90重量%未満である樹脂フィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層基板用の樹脂フィルム、およびそれを用いた多層基板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層基板用の樹脂フィルム、およびそれを用いた多層基板とその製造方法が、例えば、特許第3355142号明細書(特許文献1)、特開2003−86948号公報(特許文献2)および特開2008−141008号公報(特許文献3)に開示されている。
【0003】
図6は、上記特許文献2と同様の代表的な多層基板の製造方法を説明する図で、図6(a)〜(f)は、多層基板90の製造工程別の断面図である。
【0004】
図6(a)〜(f)に示す多層基板90の製造方法では、最初に、図6(a)に示すように、加熱プレスによって、熱可塑性樹脂1からなる樹脂フィルム20の片面に、金属(銅)箔2を貼り合わせる。次に、図6(b)に示すように、エッチングによって、銅箔2を所定の導体パターンPに加工する。次に、図6(c)に示すように、樹脂フィルム20の所定の位置に、レーザ加工で導体パターンPを底とする有底孔Hを開ける。次に、図6(d)に示すように、有底孔Hに導電ペースト4を充填する。これによって、片面に導体パターンPが形成され、有底孔Hに導電ペースト4が充填された、熱可塑性樹脂1からなる樹脂フィルム20が準備できる。
【0005】
次に、図6(e)に示すように、上記と同様にして準備した樹脂フィルム20a〜20fを、図のように途中で反転させて積層する。最後に、上記積層体を熱プレス板により、融点直下の温度で加熱加圧して、樹脂フィルム20a〜20fの形状を保持したまま隣接する、樹脂フィルム20a〜20f同士を相互に貼り合わせる。これにより、図6(f)に示すように、隣接する熱可塑性樹脂1からなる樹脂フィルム20a〜20fが相互に貼り合わされ一体化すると共に、有底孔H内に充填された導電ペースト4が焼結して接続導体4aとなり、各層の導体パターンP同士が電気的に接続される。
【0006】
以上の工程によって、図6(f)に示す多層基板90が製造される。
【0007】
上記多層基板90の製造方法によれば、加熱加圧により、積層した複数枚の樹脂フィルム20a〜20fが一括して接着され、また同時に導電ペースト4が焼結して接続導体4aとなり配線回路が形成されるため、各層を一層ずつ形成して多層化する多層基板の製造方法に較べて、多層化工程が短くて済む。
【特許文献1】特許第3355142号明細書
【特許文献2】特開2003−86948号公報
【特許文献3】特開2008−141008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層基板用の樹脂フィルム20の代表的な組成は、特許文献1に開示された、ポリアリールケトン樹脂65〜35重量%と非晶性ポリエーテルイミド樹脂35〜65重量%とからなる樹脂フィルムの組成である。該樹脂フィルムを用いて製造する多層基板は、はんだ耐熱性、可とう性、耐薬品性、機械的強度、電気的特性等に優れている。
【0009】
一方、上記組成の樹脂フィルムは、耐熱性や機械的強度に優れる反面、多層基板を製造する際に加熱加圧による貼り合わせ時の接着性が劣る欠点を有している。上記接着性は、高温での強度が下がり、樹脂フィルムが柔らかくなるほど向上する。このため、一般的に上記接着性と耐熱性や機械的強度とは相反する特性で、両立が困難である。
【0010】
例えば、上記ポリアリールケトン樹脂65〜35重量%と非晶性ポリエーテルイミド樹脂35〜65重量%とからなる樹脂フィルムの場合には、好適な貼り合わせ温度が320〜350℃と狭い。接着性を上げるためにさらに高温で貼り合わせると、貼り合わせ後の導体パターンの位置精度が劣化してしまう。また、上記樹脂フィルムにおいて非晶性ポリエーテルイミド樹脂の代わりに結晶性ポリエーテルイミド樹脂を用いると、接着性がさらに悪化してしまう。
【0011】
そこで本発明は、加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層基板用の樹脂フィルム、およびそれを用いた多層基板とその製造方法であって、耐熱性や機械的強度と貼り合わせ時の接着性を両立させることができ、多層基板を容易で安価に製造することのできる樹脂フィルムおよびそれを用いた多層基板とその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明は、加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層基板用の樹脂フィルムであって、前記樹脂フィルムが、ポリアリールケトン樹脂と、該ポリアリールケトン樹脂と完全相溶系をなすポリエーテルイミド樹脂とからなり、前記ポリアリールケトン樹脂の含有濃度が、10重量%より大きく、35重量%未満であり、前記ポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、65重量%より大きく、90重量%未満であることを特徴としている。
【0013】
上記多層基板用の樹脂フィルムの構成要素であるポリアリールケトン樹脂とポリエーテルイミド樹脂は、成分ポリマーが均一に混じり合う、完全相溶系をなすものである。
【0014】
加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層基板用の樹脂フィルムは、耐熱性や機械的強度と共に、多層基板を製造する際の貼り合わせ時の接着性を要する。耐熱性や機械的強度と加熱加圧による貼り合わせ時の接着性とは、一般的に、相反する特性である。この相反する特性を一種類の樹脂成分で満たすことは困難であると考えられ、必要な特性を持つ2種類以上の樹脂成分を混合する必要が有る。また、樹脂の混合物(ポリマーブレンド)は、相溶系と非相溶系に分類されるが、さらに、相溶系には、成分ポリマーが均一に混じり合った完全相溶系(もしくは均一系)と、各成分ポリマー相が均一に混じり合わない混合物(不均一系)がある。
【0015】
そこで、「耐熱性や機械的強度と貼り合わせ時の接着性といった相反する特性を両立させるためには、非相溶系や不均一系に較べて、完全相溶系が有利である。」との考えの下に、上記ポリアリールケトン樹脂とポリエーテルイミド樹脂の組み合わせについて、広い組成に亘り、耐熱性や機械的強度と貼り合わせ時の接着性を評価した。その結果、上記組成の樹脂フィルムにおいては、ポリアリールケトン樹脂の含有濃度が10重量%以下の樹脂フィルムに較べて、耐熱性や機械的強度が著しく改善すると共に、ポリアリールケトン樹脂の含有濃度が35重量%以上の樹脂フィルムに較べて貼り合わせ時の接着性を著しく改善することができた。尚、上記組成の樹脂フィルムにおいては、構成成分であるポリエーテルイミド樹脂が結晶性および非晶性のいずれであっても、同程度の耐熱性や機械的強度と貼り合わせ時の接着性を得ることが可能である。
【0016】
以上のようにして、上記樹脂フィルムは、加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層基板用の樹脂フィルムであって、耐熱性や機械的強度と貼り合わせ時の接着性を両立させることができ、後述するように多層基板を容易で安価に製造することのできる樹脂フィルムとなっている。
【0017】
上記樹脂フィルムにおいては、特に請求項2に記載のように、前記ポリアリールケトン樹脂の含有濃度が、15重量%以上で、30重量%以下であり、前記ポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、70重量%以上で、85重量%以下であることが好ましい。当該組成範囲においては、耐熱性や機械的強度と貼り合わせ時の接着性をより安定的に両立させることができる。
【0018】
上記樹脂フィルムにおける前記ポリアリールケトン樹脂は、請求項3に記載のように、入手が容易なポリエーテルエーテルケトン樹脂が好適である。
【0019】
請求項4に記載のように、前記樹脂フィルムの厚さは、5μm以上で、500μmより小さいことが好ましい。厚さが5μm以上の樹脂フィルムは、製造が容易であり、厚さが500μmより小さい樹脂フィルムは、含有している水分の放出が容易で、多層基板の製造時に膨れ等の不具合発生が起き難い。
【0020】
また、上記組成の樹脂フィルムは前述したように結晶性および非晶性のいずれであっても同程度の特性が得られることから、請求項5に記載のように、熱処理して製造する内部にガラス繊維織布が埋め込まれた樹脂フィルムであってもよい。
【0021】
請求項6〜10に記載の発明は、上記樹脂フィルムを用いた多層基板に関する発明である。
【0022】
加熱加圧により複数枚の上記樹脂フィルムを相互に貼り合わせて製造する多層基板は、上記樹脂フィルムにおいて説明したように、耐熱性や機械的強度を確保することができると共に、樹脂フィルムの貼り合わせ時の接着性が良好である。このため、樹脂フィルムの接着境界面での剥がれが起き難く、導体パターンの埋め込み性が良好な多層基板とすることができる。また、次の製造方法において説明するように、樹脂フィルムの貼り合わせを、従来に較べてより低くて広い250℃以上、320℃以下の温度範囲で行うことができるため、貼り合わせ後の導体パターンの位置精度が良好な多層基板とすることができる。尚、請求項6〜10に記載の多層基板の効果に関する詳細は、上記樹脂フィルムにおいて説明したとおりであり、その説明は省略する。
【0023】
また、請求項11〜13に記載の発明は、上記樹脂フィルムを用いた多層基板の製造方法に関する発明である。
【0024】
請求項11に記載の発明は、加熱加圧により複数枚の樹脂フィルムを相互に貼り合わせて製造する多層基板の製造方法であって、前記樹脂フィルムが、ポリアリールケトン樹脂と、該ポリアリールケトン樹脂と完全相溶系をなすポリエーテルイミド樹脂とからなり、前記ポリアリールケトン樹脂の含有濃度が、10重量%より大きく、35重量%未満であり、前記ポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、65重量%より大きく、90重量%未満であり、前記加熱加圧による複数枚の樹脂フィルムの貼り合わせを、250℃以上、320℃以下の温度で、一括して行うことを特徴としている。
【0025】
上記多層基板の製造方法は、耐熱性や機械的強度および樹脂フィルムの接着性が良好な上記多層基板を、従来に較べてより低くて広い温度範囲で貼り合わせて製造する方法であり、該多層基板を容易で安価に製造できる製造方法となっている。尚、請求項11〜13に記載の多層基板の製造方法に関するその他の効果については、上記樹脂フィルムにおいて説明したとおりであり、その説明は省略する。
【0026】
以上のようにして、上記樹脂フィルムおよびそれを用いた多層基板とその製造方法は、
加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層基板用の樹脂フィルム、およびそれを用いた多層基板とその製造方法であって、耐熱性や機械的強度と貼り合わせ時の接着性を両立させることができ、多層基板を容易で安価に製造することのできる樹脂フィルムおよびそれを用いた多層基板とその製造方法となっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図に基づいて説明する。
【0028】
本発明は、加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層基板用の樹脂フィルム、およびそれを用いた、図6と同様の工程で製造する多層基板とその製造方法に関する。
【0029】
本発明の樹脂フィルムは、多層基板用の樹脂フィルムで、ポリアリールケトン樹脂と、該ポリアリールケトン樹脂と完全相溶系をなすポリエーテルイミド樹脂とからなる樹脂フィルムである。また、該樹脂フィルムにおいて、ポリアリールケトン樹脂の含有濃度は、10重量%より大きく、35重量%未満とし、ポリエーテルイミド樹脂の含有濃度は、65重量%より大きく、90重量%未満とする。
【0030】
上記樹脂フィルムの構成要素であるポリアリールケトン樹脂とポリエーテルイミド樹脂は、成分ポリマーが均一に混じり合う、完全相溶系をなすものである。
【0031】
上記樹脂フィルムにおけるポリアリールケトン樹脂としては、入手が容易なポリエーテルエーテルケトン樹脂が好適である。また、ポリエーテルイミド樹脂としては、例えばウルテム(商品名)を利用することができる。
【0032】
図1(a),(b)に、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂と、該PEEK樹脂と完全相溶系をなすポリエーテルイミド(PEI)樹脂の分子構造を示す。
【0033】
図1(a)のPEEK樹脂は、分子鎖に大きな側鎖を有さず、融液を冷却すると部分的に結晶化し、結晶性高分子となる。図1(b)のPEI樹脂は、分子鎖に枝分かれが多く、融液を冷却しても無定形状態を保ち易く、一般的には非晶性高分子となる。尚、一部のPEI樹脂においては、融液を冷却すると部分的に結晶化し、結晶性高分子となるものもある。
【0034】
加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層基板用の樹脂フィルムは、耐熱性や機械的強度と共に、多層基板を製造する際の貼り合わせ時の接着性を要する。耐熱性や機械的強度と加熱加圧による貼り合わせ時の接着性とは、一般的に、相反する特性である。この相反する特性を一種類の樹脂成分で満たすことは困難であると考えられ、必要な特性を持つ2種類以上の樹脂成分を混合する必要が有る。また、樹脂の混合物(ポリマーブレンド)は、相溶系と非相溶系に分類されるが、さらに、相溶系には、成分ポリマーが均一に混じり合った完全相溶系(もしくは均一系)と、各成分ポリマー相が均一に混じり合わない混合物(不均一系)がある。
【0035】
そこで、「耐熱性や機械的強度と貼り合わせ時の接着性といった相反する特性を両立させるためには、非相溶系や不均一系に較べて、完全相溶系が有利である。」との考えの下に、ポリアリールケトン樹脂とポリエーテルイミド樹脂の組み合わせについて、広い組成に亘り、耐熱性や機械的強度と貼り合わせ時の接着性を評価した。
【0036】
図2は、上記評価結果の一例で、PEI樹脂に対するPEEK樹脂の含有濃度を変えて、耐熱性および接着性の関係を各温度の弾性率で調べた結果である。図2の評価においては、耐熱性の評価パラメータとして半田リフロー温度に等しい270℃での弾性率を採用し、接着性の評価パラメータとして多層基板製造時のプレス接着温度に等しい310℃での弾性率を採用している。また、加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層基板用の樹脂フィルムとして用いる場合、一般的に、耐熱性については上記評価パラメータで10Pa以上の弾性率が必要であり、接着性については上記評価パラメータで10Pa以下の弾性率が必要である。
【0037】
図2の評価結果からわかるように、完全相溶系をなすPEI樹脂とPEEK樹脂の組み合わせにおいては、PEEK樹脂の含有濃度が10重量%より大きくなると耐熱性が著しく改善し、PEEK樹脂の含有濃度が40重量%より小さくなると接着性が著しく改善することが判明した。また、図2の評価結果より、上記評価パラメータの基準を満たし耐熱性と接着性を両立できる範囲は、PEEK樹脂の含有濃度が、12重量%以上で、37重量%以下の範囲である。
【0038】
PEI樹脂とPEEK樹脂の混合物は、多層基板用の樹脂フィルムとして従来から使用されている。しかしながら、従来用いられてきたPEI樹脂とPEEK樹脂の混合物は、特許文献2にもあるように、PEEK樹脂の含有濃度が35重量%以上のもので、耐熱性は高いものの接着性が劣る領域にあるものである。これに対して、図2の評価結果は、完全相溶系をなすPEI樹脂とPEEK樹脂の組み合わせにおいては、従来用いられてこなかったPEEK樹脂の含有濃度が35重量%より小さい領域に、耐熱性と接着性を両立でき良好な範囲があることを示している。
【0039】
本発明の樹脂フィルムは、先に示したように、加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層基板用の樹脂フィルムとして、完全相溶系をなすポリエーテルイミド樹脂とポリアリールケトン樹脂の組み合わせにおいて、ポリアリールケトン樹脂の含有濃度を、10重量%より大きく、35重量%未満とし、ポリエーテルイミド樹脂の含有濃度を、65重量%より大きく、90重量%未満とする。図2の評価結果で例示したように、上記組成の樹脂フィルムにおいては、ポリアリールケトン樹脂の含有濃度が10重量%以下の樹脂フィルムに較べて、耐熱性や機械的強度が著しく改善すると共に、ポリアリールケトン樹脂の含有濃度が35重量%以上の樹脂フィルムに較べて貼り合わせ時の接着性を著しく改善することができる。尚、上記組成の樹脂フィルムにおいては、構成成分であるポリエーテルイミド樹脂が結晶性および非晶性のいずれであっても、同程度の耐熱性や機械的強度と貼り合わせ時の接着性を得ることが可能である。
【0040】
以上のようにして、上記樹脂フィルムは、加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層基板用の樹脂フィルムであって、耐熱性や機械的強度と貼り合わせ時の接着性を両立させることができ、後述するように多層基板を容易で安価に製造することのできる樹脂フィルムとなっている。
【0041】
上記樹脂フィルムにおいては、図2の評価結果からもわかるように、特に、ポリアリールケトン樹脂の含有濃度が、15重量%以上で、30重量%以下であり、ポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、70重量%以上で、85重量%以下であることが好ましい。当該組成範囲においては、耐熱性や機械的強度と貼り合わせ時の接着性をより安定的に両立させることができる。
【0042】
図3は、上記組成の樹脂フィルムに適した応用例を示す図で、図3(a)は、樹脂フィルム30の模式的な断面図であり、図3(b)は、樹脂フィルム30の製造方法を模式的に示した図である。
【0043】
図3(a)に示す樹脂フィルム30は、樹脂フィルム10の内部にガラス繊維織布5が埋め込まれ、金属箔2が貼り合わされたものである。樹脂フィルム10の部分を、上記した組成のポリエーテルイミド樹脂とポリアリールケトン樹脂で構成する。図3(a)の樹脂フィルム30は、図3(b)に示すように、ガラス繊維織布5を間に挟んで上記組成の2枚の樹脂フィルム10a,10bと金属箔2を積層し、熱プレス板で加熱加圧して製造する。
【0044】
上記組成の樹脂フィルム10は、前述したように結晶性および非晶性のいずれであっても同程度の特性が得られることから、熱処理して製造する内部にガラス繊維織布が埋め込まれた樹脂フィルム10であって十分な接着性を有し、多層基板の製造に用いることができる。
【0045】
次に、上記組成の樹脂フィルムを用いた多層基板とその製造方法について説明する。
【0046】
上記組成の樹脂フィルムを用いた多層基板の製造には、図6と同様の工程を用いる。すなわち、複数枚の樹脂フィルムを積層し、加熱加圧により複数枚の樹脂フィルムを一括して貼り合わせる。
【0047】
加熱加圧により複数枚の上記樹脂フィルムを相互に貼り合わせて製造する多層基板は、上記樹脂フィルムにおいて説明したように、耐熱性や機械的強度を確保することができると共に、樹脂フィルムの貼り合わせ時の接着性が良好である。このため、樹脂フィルムの接着境界面での剥がれが起き難く、導体パターンの埋め込み性が良好な多層基板とすることができる。
【0048】
また、図2で説明したように、上記組成の樹脂フィルムは、従来組成の樹脂フィルムに較べてより優れた接着性を有している。このため、加熱加圧による該樹脂フィルムの貼り合わせ温度も、従来に従来組成の樹脂フィルムに較べてより低くて広い250℃以上、320℃以下の温度範囲で行うことができる。このため、貼り合わせ後の導体パターンの位置精度が良好な多層基板とすることが可能である。
【0049】
また、上記多層基板の製造方法は、耐熱性や機械的強度および樹脂フィルムの接着性が良好な多層基板を、従来に較べてより低くて広い温度範囲で貼り合わせて製造する方法であり、該多層基板を容易で安価に製造できる製造方法ともなっている。
【0050】
図4は、図2で試験したPEEK樹脂の含有濃度が異なる各樹脂フィルムについて、図6と同様の工程で複数枚の樹脂フィルムを相互に貼り合わせて多層基板を製造し、半田リフロー時の耐熱性と樹脂フィルムの接着性に起因する導体パターンの埋め込み性とを調べた結果である。貼り合わせた樹脂フィルムの厚さは、いずれの組成の樹脂フィルムも、50μmである。半田リフロー時の耐熱性は、膨れの有無で評価し、導体パターンの埋め込み性は、隙間の有無で評価している。
【0051】
図4に示す多層基板の評価結果においても、図2に示した樹脂フィルムの評価結果と同様に、PEEK樹脂の含有濃度が15重量%以上で30重量%以下の組成の樹脂フィルムを貼り合わせた多層基板で、半田リフロー時の耐熱性と導体パターンの埋め込み性に優れる多層基板が安定して得られた。
【0052】
図5は、PEEK樹脂の含有濃度が30重量%で、厚さが異なる各樹脂フィルムについて、図6と同様の工程で複数枚の樹脂フィルムを相互に貼り合わせて多層基板を製造し、半田リフロー時の耐熱性を調べた結果である。
【0053】
図5に示すように、厚さ500μmの樹脂フィルムを貼り合わせた多層基板においては、膨れが発生した。これは、厚い樹脂フィルムにおいては、含有している水分の放出が困難で、これが原因して多層基板の製造時に膨れ等の不具合発生が起きたと考えられる。厚さが500μmより小さい樹脂フィルムを貼り合わせた多層基板においては、膨れ等の不具合発生は見られなかった。PEEK樹脂の含有濃度が35重量%より小さい樹脂フィルムは、従来用いられてきたPEEK樹脂の含有濃度が35重量%以上の樹脂フィルムに較べて薄い厚さのフィルム製造が容易であり、5μm厚さの樹脂フィルムも容易に製造することができる。この5μm厚さの樹脂フィルムを貼り合わせた多層基板においても、膨れ等の不具合発生は見られなかった。
【0054】
以上のようにして、上記樹脂フィルムおよびそれを用いた多層基板とその製造方法は、加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層基板用の樹脂フィルム、およびそれを用いた多層基板とその製造方法であって、耐熱性や機械的強度と貼り合わせ時の接着性を両立させることができ、多層基板を容易で安価に製造することのできる樹脂フィルムおよびそれを用いた多層基板とその製造方法となっている。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】(a),(b)は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂と、該PEEK樹脂と完全相溶系をなすポリエーテルイミド(PEI)樹脂の分子構造を示す図である。
【図2】PEI樹脂に対するPEEK樹脂の含有濃度を変えて、耐熱性および接着性の関係を各温度の弾性率で調べた結果である。
【図3】(a)は、樹脂フィルム30の模式的な断面図であり、(b)は、樹脂フィルム30の製造方法を模式的に示した図である。
【図4】PEEK樹脂の含有濃度が異なる各樹脂フィルムについて、複数枚の樹脂フィルムを相互に貼り合わせて多層基板を製造し、半田リフロー時の耐熱性と樹脂フィルムの接着性に起因する導体パターンの埋め込み性とを調べた結果である。
【図5】PEEK樹脂の含有濃度が30重量%で、厚さが異なる各樹脂フィルムについて、複数枚の樹脂フィルムを相互に貼り合わせて多層基板を製造し、半田リフロー時の耐熱性を調べた結果である。
【図6】代表的な多層基板の製造方法を説明する図で、(a)〜(f)は、多層基板90の製造工程別の断面図である。
【符号の説明】
【0056】
90 多層基板
10,10a,10b,20,20a〜20f,30 樹脂フィルム
1 熱可塑性樹脂
2 金属(銅)箔
P 導体パターン
H 有底孔
4 導電ペースト
4a 接続導体
5 ガラス繊維織布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱加圧により相互に貼り合わせて製造する多層基板用の樹脂フィルムであって、
前記樹脂フィルムが、ポリアリールケトン樹脂と、該ポリアリールケトン樹脂と完全相溶系をなすポリエーテルイミド樹脂とからなり、
前記ポリアリールケトン樹脂の含有濃度が、10重量%より大きく、35重量%未満であり、
前記ポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、65重量%より大きく、90重量%未満であることを特徴とする樹脂フィルム。
【請求項2】
前記ポリアリールケトン樹脂の含有濃度が、15重量%以上で、30重量%以下であり、
前記ポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、70重量%以上で、85重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
前記ポリアリールケトン樹脂が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
前記樹脂フィルムの厚さが、5μm以上で、500μmより小さいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに一項に記載の記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
前記樹脂フィルムの内部に、ガラス繊維織布が埋め込まれてなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに一項に記載の記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
加熱加圧により複数枚の樹脂フィルムを相互に貼り合わせて製造する多層基板であって、
前記樹脂フィルムが、ポリアリールケトン樹脂と、該ポリアリールケトン樹脂と完全相溶系をなすポリエーテルイミド樹脂とからなり、
前記ポリアリールケトン樹脂の含有濃度が、10重量%より大きく、35重量%未満であり、
前記ポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、65重量%より大きく、90重量%未満であることを特徴とする多層基板。
【請求項7】
前記ポリアリールケトン樹脂の含有濃度が、15重量%以上で、30重量%以下であり、
前記ポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、70重量%以上で、85重量%以下であることを特徴とする請求項6記載の多層基板。
【請求項8】
前記ポリアリールケトン樹脂が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂であることを特徴とする請求項6または7に記載の多層基板。
【請求項9】
前記樹脂フィルムの厚さが、5μm以上で、500μmより小さいことを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに一項に記載の記載の多層基板。
【請求項10】
前記樹脂フィルムの内部に、ガラス繊維織布が埋め込まれてなることを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに一項に記載の記載の多層基板。
【請求項11】
加熱加圧により複数枚の樹脂フィルムを相互に貼り合わせて製造する多層基板の製造方法であって、
前記樹脂フィルムが、ポリアリールケトン樹脂と、該ポリアリールケトン樹脂と完全相溶系をなすポリエーテルイミド樹脂とからなり、
前記ポリアリールケトン樹脂の含有濃度が、10重量%より大きく、35重量%未満であり、
前記ポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、65重量%より大きく、90重量%未満であり、
前記加熱加圧による複数枚の樹脂フィルムの貼り合わせを、250℃以上、320℃以下の温度で、一括して行うことを特徴とする多層基板の製造方法。
【請求項12】
前記ポリアリールケトン樹脂の含有濃度が、15重量%以上で、30重量%以下であり、
前記ポリエーテルイミド樹脂の含有濃度が、70重量%以上で、85重量%以下であることを特徴とする請求項11記載の多層基板の製造方法。
【請求項13】
前記ポリアリールケトン樹脂が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂であることを特徴とする請求項11または12に記載の多層基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−121043(P2010−121043A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296075(P2008−296075)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】