説明

樹脂モールド金型

【課題】従来使用している樹脂にくらべて金型との密着性が高い樹脂を使用した場合でも、エアベント溝に樹脂が付着して残留することを抑え、エアベント機能が損なわれることを防止し、金型のクリーニングを容易にする。
【解決手段】一端がキャビティ20aに接続し、他端が大気に連通するエアベント溝21を備える樹脂モールド金型20において、前記エアベント溝21に、キャビティ20aに接続する一端側から大気に連通する他端側へ向けて徐々に細く絞られた形状に形成され、エアベント溝に進入した樹脂に樹脂モールド時の樹脂圧による圧縮圧力を作用させるテーパ溝部21aが設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂モールド金型に関し、より詳細には樹脂モールド金型に設けるエアベントの構成を特徴とする樹脂モールド金型に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂封止型の半導体装置の製造に用いられる樹脂モールド金型では、被成形品をクランプしてキャビティに樹脂を充填する際に、キャビティに残留するエアをキャビティ外に排出するエアベントを設けることが常法としてなされている(たとえば、特許文献1、2参照)。図7は、基板5に半導体チップ6を搭載した被成形品7を、上型10と下型12とでクランプした状態を示したもので、下型12にエアベント溝13が形成された状態を示す。図のように、エアベント溝13はキャビティ12aと金型外(大気)とを連通するように設けられる。
【0003】
樹脂モールド時には、所定の樹脂圧によりキャビティ12aに樹脂を充填するから、その際にエアベント溝13から樹脂が漏出しないようにする必要があり、従来は、樹脂モールド金型を製作する際に、金型のクランプ面を15〜35μm程度の深さに研削してエアベント溝13を形成している。
【特許文献1】特開平7−130780号公報
【特許文献2】特開平6−254909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エアベント溝13はエアを排出して樹脂が漏出しないように形成するのであるが、キャビティ12aに樹脂を充填する際には大きな樹脂圧が作用するし、被成形品の厚さのばらつき等により、実際にはエアベント溝13にわずかに樹脂が侵入し、エアベント溝13内で樹脂が硬化して残留する。このため、樹脂モールド工程では、型開きして成形品を金型から搬出した後、金型の樹脂成形面をクリーニングして、キャビティ面やエアベント溝に付着している樹脂を除去している。
このような樹脂モールド金型の樹脂成形面やエアベント溝に付着する樹脂をクリーニングする作業は、使用する樹脂の種類や、樹脂モールド金型の材質、表面処理によっては、金型に樹脂が付着して、かなり厄介な問題となることがある。
【0005】
ところで、最近の樹脂モールド装置では、環境に悪影響を与えないように、いわゆるグリーン樹脂が使用されるようになってきた。このグリーン樹脂は、環境対策として、樹脂に加える難燃剤にハロゲン物質を使用しないようにしたものである。現在使用されているグリーン樹脂は、有機リン系難燃剤を使用したもの、水酸化化合物系の難燃剤を使用したもの、難燃剤を使用しないものの3種類に大別される。グリーン樹脂はハロゲン物質を使用しない他に、グリーン化を達成するために樹脂に添加するフィラー量を従来よりも多くし、樹脂量を少なくしている。
【0006】
一般に、樹脂に成形圧力を加えずに硬化させると、樹脂パッケージが軽石状の結合力が弱い状態で硬化するので、型開き時の離型力によって樹脂パッケージ自体が破砕分解してしまう。このとき、樹脂が触れていた金型面の全面に樹脂がポーラス状に付着し、これらの樹脂は金型面に固着するため、除去することがきわめて困難である。エアベント溝においても、樹脂に圧縮圧力が作用しないため、まったく同様の作用が生じる。従来は、樹脂の密着力がグリーン樹脂ほど強くなかったことと、一定の樹脂の結合力を保つことができる量の樹脂が混入されていたことから、エアベント溝内で硬化した樹脂は成形品とともに取り除かれるのに対して、グリーン樹脂は従来にくらべて樹脂成分が少なく、硬化した樹脂の結合力が弱いためにエアベント溝に付着して残留しやすくなるという傾向が強くあらわれる。
【0007】
また、グリーン樹脂では、熱硬化性樹脂を構成する樹脂成分の混合が不完全で、成分が偏在しているために、樹脂モールド後も、未硬化状態の樹脂が点在し、これが金型に付着し、加熱されて酸化し、樹脂による型汚れを生じさせるアンカーになる。このため、樹脂モールド金型の樹脂成形面に樹脂が付着することによる汚れが従来の5倍程度も速く進行し、これにともなってクリーニング作業も煩雑になり生産性を低減させるという問題が生じる。
【0008】
本発明は、これらの課題を解決すべくなされたものであり、いわゆるグリーン樹脂のような、従来使用している樹脂にくらべて金型に密着しやすい樹脂を使用した場合であっても、エアベント溝に樹脂が付着して残留することを抑えることができ、エアベント溝に樹脂が残留することによってエアベント機能が損なわれるといった問題や、金型をクリーニングする作業が煩雑になるという問題を解消し、信頼性の高い樹脂モールドを可能にする樹脂モールド金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため次の構成を備える。
すなわち、一端がキャビティに接続し、他端が大気に連通するエアベント溝を備える樹脂モールド金型において、前記エアベント溝に、キャビティに接続する一端側から大気に連通する他端側へ向けて徐々に細く絞られた形状に形成され、エアベント溝に進入した樹脂に樹脂モールド時の樹脂圧による圧縮圧力を作用させるテーパ溝部が設けられていることを特徴とする。
なお、テーパ溝部は、エアベント溝の深さ方向にテーパ状に形成する場合と、エアベント溝の平面形状をテーパ状とする場合とを含む概念である。
【0010】
また、前記テーパ溝部の他端に接続して、該テーパ溝部に進入したフィラーと前記封止用の樹脂に含まれている樹脂成分の通過を抑制するエア抜き部が設けられていることにより、エアベント溝から樹脂が漏出することを防止し、確実なエアベントが可能になる。
また、前記エアベント溝の一端側の断面形状が、封止用の樹脂に含まれているフィラーの平均径の70〜80%を超える大きさのフィラー成分の進入を阻止する形状に形成されていることにより、封止用の樹脂に含まれているフィラーのうち大径側のフィラーがエアベント溝に進入することが阻止され、キャビティに充填される樹脂の樹脂圧の低下を防ぐことができる。
【0011】
また、一端がキャビティに接続し、他端が大気に連通するエアベント溝を備える樹脂モールド金型において、前記エアベント溝に、前記キャビティに接続する一端側から大気に連通する他端側へ向けて平坦溝部が形成され、該平坦溝部の他端に接続して、前記平坦溝部に進入したフィラーと前記封止用の樹脂に含まれている樹脂成分の通過を抑制するエア抜き部が設けられていることにより、平坦溝部に進入したフィラーを含む樹脂にキャビティに樹脂を充填する際の樹脂圧が作用し、平坦溝部内で樹脂が圧縮圧力を受け、平坦溝部内で樹脂が緻密に硬化する。
前記平坦溝部の一端側の断面形状が、封止用の樹脂に含まれているフィラーの平均径の70〜80%を超える大きさのフィラー成分の進入を阻止する形状に形成した場合には、封止用の樹脂に含まれているフィラーのうち大径側のフィラーがエアベント溝に進入することが阻止され、キャビティに充填される樹脂の樹脂圧の低下を防ぐことができる。
【0012】
また、一端がキャビティに接続し、他端が大気に連通するエアベント溝を備える樹脂モールド金型において、前記エアベント溝の底面に、前記封止用の樹脂に含まれているフィラーおよび樹脂成分のエアベント溝内での移動を妨げる凹凸を設けたことにより、エアベント溝に進入した樹脂にキャビティに充填される樹脂の圧力が作用し、エアベント溝内で緻密に樹脂を硬化させることができる。なお、エアベント溝の底面に形成する凹凸とは、凹凸状の突起、凸条、凹条、粗面等をいうものとする。
また、前記凹凸が、前記エアベント溝を機械加工する際に形成される加工痕によって設けられていることにより、樹脂の移動やフィラーの移動を効果的に妨げることができ、エアベント溝内での樹脂の圧縮度を向上させる方法として有効となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る樹脂モールド金型によれば、エアベント溝にテーパ溝部を設けたことにより、エアベント溝に進入した樹脂に、キャビティに樹脂を充填する際の樹脂圧が作用し、エアベント溝内の樹脂に圧縮圧力が作用し、エアベント溝内で緻密に樹脂が硬化される。これによって、型開きした際に成形品と一体にエアベント溝内で硬化した樹脂が容易に離型され、グリーン樹脂を使用した場合であっても、エアベント溝内に樹脂が付着することを防止し、樹脂モールド金型のクリーニングを容易にし、エアベント溝によるエアベント作用を確実に維持することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
本発明に係る樹脂モールド金型は、金型のクランプ面に設けるエアベント溝の構成を特徴とする。図1は、被成形品7を上型20と下型22とでクランプした状態で、上型20のクランプ面に設けられたエアベント溝21の構成を拡大して示している。
なお、図1に示す樹脂モールド金型は、基板5の片面に半導体チップ6を搭載した被成形品7について、半導体チップ6の搭載領域ごとにキャビティ20aが形成されたものである。
【0015】
前述したように、エアベント溝21はキャビティ20aと金型の外部の大気とを連通する形態に形成される。本実施形態の樹脂モールド金型では、図1に示すように、エアベント溝21を長手方向に切断した切断面から見た場合に、エアベント溝21はキャビティ20aに接続する一端側で溝の深さが深く、大気に連通する他端側に向けて徐々に溝の深さが浅くなる断面形状がテーパ状に形成されたテーパ溝部21aと、テーパ溝部21aの他端から金型外に連通するように設けられたエア抜き部21bとからなる。
【0016】
テーパ溝部21aは、キャビティ20aに接続する一端側については、従来のエアベント溝よりも深くし、エア抜き部21bは、フィラーおよび樹脂成分の通過を抑制してエアのみを通過させる深さとする。エア抜き部21bは、テーパ溝部21aに進入したフィラーおよび樹脂成分が外部に漏出しないように防止する作用を有する。エア抜き部21bにはわずかに樹脂が進入し得るが、エア抜き部21bの長さLを適当に設定することによって、グリーン樹脂を使用した場合でも、樹脂が漏出しないようにすることができる。エア抜き部21bの溝の深さは、従来のエアベント溝と同程度(15〜35μm)としても良いが、テーパ溝部21aを形成した場合は、キャビティ側の流入抵抗が小さくなって全体のエアベント抵抗が減少するから、従来よりも浅くする(10〜20μm)のがよい。
なお、使用する樹脂によっては、テーパ溝部21aにエア抜き部21bを接続せず、テーパ溝部21aのみからエアベント溝21を構成することも可能である。
【0017】
図2に、上型20の平面図を示す。上型20には被成形品7における樹脂モールド領域に合わせてキャビティ20aが形成されている、キャビティ20aの一つのコーナー部には、キャビティ20aに樹脂を注入するための金型ゲート23が設けられ、キャビティ20aの残りの3つのコーナー部に各々エアベント溝21が設けられる。エアベント溝21はテーパ溝部21aとエア抜き部21bとからなり、図示例のテーパ溝部21aは、キャビティ20aに接続する一端側がやや幅広で他端側が幅狭に形成されている。テーパ溝部21aは深さ方向にテーパ状に形成する他、図2に示すように平面形状で他端側が細幅になるテーパ状とすることもできる。
【0018】
前述したように、いわゆるグリーン樹脂では、従来の樹脂にくらべて樹脂に添加するフィラーの充填率を高めている。フィラーの充填率を高めるためにはフィラー径を小さくすることが有利であり、グリーン樹脂では従来のフィラーにくらべて微細なフィラーが混入されている。すなわち、従来の封止用の樹脂ではフィラー平均粒径25〜30μm、最小粒径3〜5μm程度であるのに対して、グリーン樹脂の場合には平均粒径20μm、最小粒径0.3〜0.5μm程度である。
また、封止用の樹脂では、キャビティに樹脂を注入した際に被成形品のボンディングワイヤとフィラーが干渉してワイヤ流れといった問題が生じないように、添加するフィラーの粒径を100μm以下あるいは70μm以下にするといったように、樹脂によって粒径に上限を設けている。グリーン樹脂の場合は、フィラーの粒径の上限が50μm程度である。
【0019】
本実施形態においては、テーパ溝部21aの一端側の断面形状を、封止用の樹脂に含まれているフィラーの平均径の70〜80%を超える大きさのフィラー成分についてはテーパ溝部21aへの進入を阻止する形状に形成することを特徴とする。封止用の樹脂に添加されているフィラーの平均径は使用する樹脂によって異なるから、エアベント溝(テーパ溝部21a)を設計する場合は、使用樹脂のフィラーの粒径(粒径分布)をもとに設計すればよい。
【0020】
本実施形態において、エアベント溝21に形成したテーパ溝部21aは、エアベント溝21に進入したフィラーと樹脂成分に対して、キャビティ20aに充填される樹脂の樹脂成形圧力が圧縮力として作用する圧縮部となる。テーパ溝部21aの一端側では封止用の樹脂に添加されているフィラーのうち、粒径が大きなフィラーについては進入が阻止されるが、これらのフィラーよりも小径のフィラーと樹脂成分はテーパ溝部21aに進入する。テーパ溝部21aには、はじめに樹脂成分が進入し、遅れてフィラーが進入する。テーパ溝部21aは奥側(他端側)が狭く形成されているから、テーパ溝部21aに進入したフィラーは奥側から互いに組み合うようになりながら圧縮されてロックされ、樹脂成分とともに充填され、テーパ溝部21a内で樹脂が緻密化して硬化する。
【0021】
グリーン樹脂はフィラー成分が多く、樹脂成分が少ないために樹脂の結合力が従来の樹脂と比較して弱いという性質があるが、本実施形態のように、テーパ溝部21aに進入したフィラーおよび樹脂成分に対して圧縮圧力を作用させるようにすれば、グリーン樹脂であっても、エアベント溝21内で樹脂を緻密化して硬化させることができ、成形品とともにエアベント溝21内で硬化した樹脂を離型させることができる。これによって、エアベント溝21内で樹脂が付着して残ることを防止することができ、エアベント作用を確実に維持することができ、樹脂モールド金型を容易にクリーニングすることができる。
なお、エアベント溝21のエア抜き部21bに進入した樹脂については、エア抜き部21bに付着して残留することになるが、エア抜き部21bはエアベント溝21の一部に限られるから、樹脂モールド金型のクリーニングは容易である。
【0022】
なお、図2では、キャビティ20aのコーナー部に一つずつエアベント溝21を設けたが、エアベント溝21を設ける位置はキャビティ20aのコーナー部に限定されるものではなく、キャビティ20aの辺上にエアベント溝21を接続する配置とすることも可能である。また、キャビティ20aのコーナー部のいくつかを選択してエアベント溝21を設けてもよい。
【0023】
また、図1に示すように、エアベント溝21の一端部に、曲率半径R=0.05mm程度の曲面状の面取り部21fを設けることにより、キャビティ20a内の残留エアが溝21に流れ込みやすくなり、また、エアベント溝21に充填された樹脂に樹脂圧力が作用しやすくなって、エアベント溝21に充填された樹脂をより緻密に硬化させ、樹脂モールド金型のクリーニングが容易になる。
【0024】
(第2の実施の形態)
図3に樹脂モールド金型の第2の実施の形態を示す。本実施の形態の樹脂モールド金型は、エアベント溝21を平坦溝部21cとエア抜き部21dとによって形成したことを特徴とする。エア抜き部21dは平坦溝部21cのエアの排出側に接続される。平坦溝部21cは、第1の実施の形態におけるテーパ溝部21aと同様に、キャビティ20aに充填される樹脂の樹脂圧が作用する圧縮部として形成される。テーパ溝部21aは断面形状がテーパ状に形成されるのに対して、平坦溝部21cは、一端側から他端側へかけて溝の深さが一定に形成される。これにより、平坦溝部21cとエア抜き部21dの境界部分は段差となる。
【0025】
平坦溝部21cはテーパ溝部21aと同様に、封止用の樹脂に含まれているフィラーの平均径の70〜80%を超える大きさのフィラー成分については平坦溝部21cへの進入を阻止する断面形状に形成する。これによって、平坦溝部21cには封止用の樹脂に含まれているフィラーのうち小径側のフィラーと封止用の樹脂の樹脂成分が進入する。
エア抜き部21dの作用は、第1の実施の形態におけるエア抜き部21bの作用と同様であり、封止用の樹脂の樹脂成分と平坦溝部21cに進入したフィラーの進入を阻止するように形成する。
【0026】
図4に、平坦溝部21cとエア抜き部21dの平面図を示す。図4(a)は、平坦溝部21cの幅(平面視)をエア抜き部21dの幅よりも広く設定した実施形態を示す。図4(b)は、平坦溝部21cとエア抜き部21dを同幅(平面視)とした実施形態を示す。
図4に示すいずれのエアベント溝21の場合も、平坦溝部21cの一端側では封止用の樹脂に含まれている大径のフィラーの進入が阻止されることにより、キャビティ20aの樹脂充填圧力が低下することが防止でき、被成形品を確実に樹脂モールドすることができる。
【0027】
また、平坦溝部21cでは、平坦溝部21cに進入した樹脂成分と小径のフィラーにキャビティからの樹脂成形圧力が作用することによって、フィラーが相互にロックし、緻密に硬化することによって、樹脂モールド後に型開きして成形品を離型する際に、エアベント溝21内で硬化した樹脂が成形品とともに離型される。また、エア抜き部21dにより樹脂および小径のフィラーが漏出することが防止され、樹脂モールド金型に樹脂が付着して残留することを防止することができる。
【0028】
本実施形態においても、エアベント溝21のキャビティ20aに接続する端部に、曲率半径R=0.05mm程度の曲面状の面取り部21fを設けることにより、エアベント溝21へのキャビティ20a内のエアの流れ込みを容易にすることができ、エアベント溝21に充填された樹脂に圧縮圧力を作用させやすくすることができ、エアベント溝21内で硬化する樹脂の緻密度をさらに上げることができる。
【0029】
(第3の実施の形態)
図5に樹脂モールド金型の第3の実施の形態を示す。本実施の形態の樹脂モールド金型は、エアベント溝21を機械加工によって形成する際に、エンドミル等の加工装置による加工痕21eをエアベント溝21の溝底面に積極的に残すように加工することを特徴とする。
加工装置によるエンドミルの加工痕21eをエアベント溝21の底面に残すように加工する理由は、エアベント溝21に樹脂が進入しようとする際に樹脂の進入を妨げ、エアベント溝21内における樹脂あるいはフィラーの流動抵抗を高めることによって、エアベント溝21に進入した樹脂およびフィラーに樹脂圧による圧縮圧力が効果的に作用するようにするためである。
【0030】
図6は、上型20に設けたエアベント溝21の平面図を示す。本実施形態では、エアベント溝21の底面に設ける加工痕21eを半円弧形とし、各々の加工痕21eの開き側をキャビティ20a側に向けるとともに、エアベント溝21内に幾重にも形成し、樹脂成分やフィラーがエアベント溝21のエアの排出方向に移動することを妨げるようにしている。エンドミル加工によれば円弧状の加工痕が何重にも生じるから、これらの加工痕が残るようにすることは容易である。
【0031】
エアベント溝21の底面に設ける加工痕21eは、エアの排出方向に樹脂およびフィラーが移動することを妨げる抵抗として作用するものであり、半円弧状の加工痕21eを設けるかわりに、適宜形状の凹マーク(加工痕)や凸マーク(加工痕)が残るようにしてもよい。また、凹マークや凸マークが混在していてもよい。
また、エアベント溝21を加工する機械加工の際に生じる加工痕を利用する他に、エアベント溝21の底面に凸部や凹部、凸条や凹条を積極的に形成する加工を施すことも可能である。また、エアベント溝21の底面にブラスト加工等を施して粗面に形成することも可能である。エアベント溝21を粗面に加工する場合には、エアベント溝21の底面の粗度がRa=0.05以上程度にするのがよい。
【0032】
また、本実施形態においても、エアベント溝21のキャビティ20aに接続する一端部に、曲率半径R=0.05mm程度の曲面状の面取り部を設けることにより、キャビティ20a内の残留エアの流れ込みを容易にすることができる。
【0033】
従来のエアベントは研削加工されていたので、加工の筋目は樹脂の流れ出し方向に揃っており、樹脂の流動抵抗としてもフィラーの流動抵抗としても作用せず、とくにフィラーの流動抵抗を下げてしまっていたのに対して、本実施形態においては、エアベント溝21の底面に加工痕21eを積極的に残すことによって、エアベント溝21に進入した樹脂およびフィラーに樹脂成形圧力による圧縮圧力を効果的に作用させることができ、これによってエアベント溝21に進入した樹脂およびフィラーを緻密化に有効に作用させることができる。
【0034】
図5、6は、樹脂モールド金型に設けたエアベント溝21の底面に凹凸を設けた例であるが、前述した第1の実施の形態のテーパ溝部21a、第2の実施の形態の平坦溝部21cの底面に本実施形態と同様に凹凸を設けることによって、テーパ溝部21a、平坦溝部21c内における樹脂およびフィラーの流動抵抗を高め、内圧を高めることによって、樹脂およびフィラーをさらに緻密に硬化させることができる。もちろん、エア抜き部21b、21dについても同様に凹凸を設けることによって樹脂およびフィラーの漏出をさらに効果的に防止することができる。
【0035】
なお、エアベント溝21の底面に加工痕21eによる凹凸を設けたり、テーパ溝部21a、平坦溝部21cを設けたりすることによって、エアベント溝21内の樹脂に圧縮作用を作用させ、エアベント溝21内で緻密に樹脂を硬化させ、金型からの剥離性を良好にする一方、エアベント溝21内で硬化した樹脂とエアベント溝21の金型表面との密着度を低下させ、エアベント溝21内で硬化した樹脂を剥離しやすくすることは型汚れをなくし、エアベント機能を確保する上で重要である。エアベント溝21内で緻密に樹脂を硬化させたとしても、金型表面と硬化樹脂との密着性が高いと、硬化樹脂が容易に剥離しないからである。
【0036】
前述したように、機械加工によってエアベント溝21を形成して加工痕を残した場合には、加工痕の部位が鋭利な凹凸となり、凹凸の表面にさらに微細な凹凸が形成される。したがって、樹脂モールド時にエアベント溝21に進入した樹脂は、毛細管現象により微細な凹凸部分に進入し、凹凸部分に強固に接着してエアベント溝21の表面に残留し、型汚れを生長させるアンカーとして作用する。
このような型汚れを生長させる凹凸を解消する方法としては、機械加工によって生じたエアベント溝内の粗い加工痕や微細な傷をレーザビームを用いて溶融し、その表面張力により鏡面的な平坦面に均すようにすることが有効である。
なお、レーザビームを用いて金型表面を鏡面状に加工する方法は、エアベント溝以外にキャビティの内壁面についても適用可能であり、これによって金型汚れをなくし、離型時の側面摩擦をほとんどゼロにすることが可能になる。
【0037】
エアベント溝21の底面をレーザビームにより溶融する際に、レーザの出力、レーザビーム径、焦点合わせ位置、レーザビームの移動速度、照射時間、レーザビームの移動経路の順番、連続移動、間欠移動等を調節することによって、平坦化面、連続的な波打ち面、一方方向の波打ち面、x−y方向の波打ち面、カルデラ面、はすの葉面等の多様な面形状とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】エアベント溝を備えた樹脂モールド金型の第1の実施の形態の構成を示す断面図である。
【図2】エアベント溝を備えた樹脂モールド金型の平面図である。
【図3】エアベント溝を備えた樹脂モールド金型の第2の実施の形態の構成を示す断面図である。
【図4】エアベント溝の平面図である。
【図5】エアベント溝を備えた樹脂モールド金型の第3の実施の形態の構成を示す断面図である。
【図6】エアベント溝の平面図である。
【図7】エアベント溝を備えた樹脂モールド金型の従来の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0039】
13 エアベント溝
20 上型
20a キャビティ
21 エアベント溝
21a テーパ溝部
21b、21d エア抜き部
21c 平坦溝部
21e 加工痕
21f 面取り部
22 下型
23 金型ゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端がキャビティに接続し、他端が大気に連通するエアベント溝を備える樹脂モールド金型において、
前記エアベント溝に、キャビティに接続する一端側から大気に連通する他端側へ向けて徐々に細く絞られた形状に形成され、エアベント溝に進入した樹脂に樹脂モールド時の樹脂圧による圧縮圧力を作用させるテーパ溝部が設けられていることを特徴とする樹脂モールド金型。
【請求項2】
前記テーパ溝部の他端に接続して、該テーパ溝部に進入したフィラーと前記封止用の樹脂に含まれている樹脂成分の通過を抑制するエア抜き部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の樹脂モールド金型。
【請求項3】
前記エアベント溝の一端側の断面形状が、封止用の樹脂に含まれているフィラーの平均径の70〜80%を超える大きさのフィラー成分の進入を阻止する形状に形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂モールド金型。
【請求項4】
一端がキャビティに接続し、他端が大気に連通するエアベント溝を備える樹脂モールド金型において、
前記エアベント溝に、前記キャビティに接続する一端側から大気に連通する他端側へ向けて平坦溝部が形成され、
該平坦溝部の他端に接続して、前記平坦溝部に進入したフィラーと前記封止用の樹脂に含まれている樹脂成分の通過を抑制するエア抜き部が設けられていることを特徴とする樹脂モールド金型。
【請求項5】
前記平坦溝部の一端側の断面形状が、封止用の樹脂に含まれているフィラーの平均径の70〜80%を超える大きさのフィラー成分の進入を阻止する形状に形成されていることを特徴とする請求項4記載の樹脂モールド金型。
【請求項6】
一端がキャビティに接続し、他端が大気に連通するエアベント溝を備える樹脂モールド金型において、
前記エアベント溝の底面に、前記封止用の樹脂に含まれているフィラーおよび樹脂成分のエアベント溝内での移動を妨げる凹凸を設けたことを特徴とする樹脂モールド金型。
【請求項7】
前記エアベント溝の底面に、前記封止用の樹脂に含まれているフィラーおよび樹脂成分のエアベント溝内での移動を妨げる凹凸を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の樹脂モールド金型。
【請求項8】
前記凹凸が、前記エアベント溝を機械加工する際に形成される加工痕によって設けられていることを特徴とする請求項6または7記載の樹脂モールド金型。
【請求項9】
前記エアベント溝のキャビティに接続する一端部に、曲面状の面取り部が設けられていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載の樹脂モールド金型。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−68448(P2008−68448A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247021(P2006−247021)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000144821)アピックヤマダ株式会社 (194)
【Fターム(参考)】